仕事帰りに彼と時間を過ごした。
 彼は家まで送ってくれると言ってくれるが、いつも断った。
 終電までは時間がある。
 一緒にいたかったが、結婚するまでのけじめは大切だと知っていた。
 いつも最寄り駅まで送ってもらう。
 電車に20分揺られれば某駅にわたしが一人暮らすマンションがある。

 電車が来るまでには時間があった。
 わたしはいつものようにトイレの洗面台に向かった。
 疲れた顔、だけど満ち足りた女の顔が大きな鏡の中に映る。
 わたしはホテルで慌てて縛った髪をもう一度ほどいた。
 ホテルで彼を待たせるのは好きではない。
 また、気持ちを引き締めるために縛り直す。
 髪を手で束ねると、うっすらとキスマークがうなじに残っているのに気がついた。
 彼の残り香が、うなじの辺りから立ち昇る。
 ため息が出るほど嬉しい。
 しかし、いかにも仕事の帰りと変わらないように、鏡に向かってきゅっと表情を作る。
 頭の奧がぼーっとしているのがよく分かる。
 今日もずいぶん遠くへ運ばれた。
 何回気を失ったのだろう? 
 いつのまにか毛布を掛けてくれていた。
 思い出すと、また気が遠くなった。

 ベルが鳴った。上りの列車が来たようだ。
 下りの列車まではあと10分ある。
 いつも熱いお茶をホームの自販機で買ってしまう。
 ベンチに座るとわたしは缶を開けた。
 そして軽くすすった。
 ほっと大きなため息が出る。
 嬉しいような、そして怖いような感じ。
 何故だろう? 
 幸せすぎると人は不安になるのかもしれない。
 彼と自分は確かに今幸せの中にいる。


 電車が来るというアナウンスが入った。
 わたしはすっと立ち上がった。
 その瞬間、彼の熱い体温の粘液がこぼれ落ちる。
 わたしは一瞬目をつぶった。
 そんな粘液の動きだけでも敏感に感じてしまう。
 そういえば、今日は知っているだけでも3回は彼を受け入れた。
 彼はいったはずなのによくわたしの中で復活する。
 ムクムクと堅さを回復する感じが、ゾクゾクする。
 ホテルを出る前につけたナプキンに彼がどんどん吸収されていく。
 ショーツで吸収できる量ではない。
 彼だけではない。
 わたしのものもかなり混じっているのだからしかたがない。
 必ずといっていいほど、ナプキンをつけることにしている。
 二人の愛の徴が混じりあって、明日の朝までは身体の中から振り続ける。
 女であることはその点では得だ。
 わたしの身体の中で愛の行為の続きができるのだから。
 彼の匂いに、眠るときにまた余韻に浸ってしまうことも彼は知っているのだろうか?
 恥ずかしいけれど、いつか言ってみたい。
 明るいライトを照らしながら、ちょうど電車がホームに滑ってきた。


 終


























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