ファンタジー官能小説『セクスカリバー』

Shyrock 作



<第37章「決戦ピエトラ城」目次>

第37章「決戦ピエトラ城」 第1話
第37章「決戦ピエトラ城」 第2話
第37章「決戦ピエトラ城」 第3話
第37章「決戦ピエトラ城」 第4話
第37章「決戦ピエトラ城」 第5話
第37章「決戦ピエトラ城」 第6話
第37章「決戦ピエトラ城」 第7話
第37章「決戦ピエトラ城」 第8話
第37章「決戦ピエトラ城」 第9話
第37章「決戦ピエトラ城」 第10話
第37章「決戦ピエトラ城」 第11話
第37章「決戦ピエトラ城」 第12話
第37章「決戦ピエトラ城」 第13話

『セクスカリバー世界地図』
『ピエトラ・ブルの地図』




<登場人物の現在の体力・魔力>

~シャム隊~

シャム 勇者 HP 1060/1060 MP 0/0
イヴ 神官 HP 830/830 MP 900/900
アリサ 猫耳 HP 860/860 MP 0/0
キュー ワルキューレ HP970/970 M530/530
エリカ ウンディーネ女王 HP 720/720 MP 990/990
マリア 聖女 HP 710/710 MP 1020/1020
チルチル 街少女 HP 670/670 MP 0/0
ウチャギーナ 魔導師 HP 750/750 MP 960/960
リョマ 竜騎士 HP 1180/1180 MP 0/0
シャルル 漁師・レジスタンス運動指導者 HP 1140/1140 MP 0/0
ユマ 姫剣士 960/960 MP 0/0
エンポリオ アーチャー HP 860/860 MP 0/0

~ピエトラ城内味方~

アリス ネコマータ HP 800/800 MP 700/800
クロエ キャットバット HP 500/500 MP 800/900
キャットバット(9人) HP 450/450 MP 750/800

~メグメグ隊~

メグメグ 武術家 HP 1000/1000 MP 0/0
マルツィオ 剣士 HP 900/900 MP 0/0
ジェーロ 神官 HP 700/700 MP 500/500
ブルネッタ 狩人 HP 750/750 MP 0/0

~自警団(村居残り組)~

アウジリオ 村長 HP 500/500 MP 300/300
ルッソ 村人 HP 600/600 MP 0/0
アリーチェ 街人 300/300 MP 0/0



⚔⚔⚔



第37章「決戦ピエトラ城」 第1話

 神殿の掛け時計の針が12時52分を指している。
 アリスがアリサと約束したノックの刻限まであとわずか。

アリス「みんな、急いで! もうすぐ自警団と合流するよ!」

 アリスたちが祭壇まで間近に迫ったその時、横の扉が開き堰を切ったようにデルピュネたちがなだれ込んできた。 
デルピュネ「アリスたちが向かう祭壇周辺に秘密があるに違いないわ! アリスたちを急いで捕らえなさい! もし抵抗すれば殺しても構わないから!」

 不意を衝かれる形となったアリスたちに焦燥感が高まる。

アリス「まずい! 地下道に通じる扉までもう一歩だというのに。このままだと全滅するので全員で結界を張って防ぐのよ!」

 非力なキャットバットだが、魔物が彼女たちを倒すのは容易ではなかった。
 なぜならばキャットバットにはほぼすべての攻撃を防ぐ防御魔法『キャットバリア』があるからだ。
 防御魔法『キャットバリア』とは空間に結界を張りめぐらせ敵の攻撃や魔法を跳ね返すことができる特殊魔法である。
 ただし結界は網の目状であるため、ときおり隙間から敵の攻撃が擦り抜けてきて不幸にもダメージを負うことがあるが、格上の敵や大勢の敵を迎えたときには大変重宝する結界といえるだろう。
 唱えるキャットバットの人数が多ければ多いほど結界は強固なものとなるが、唱えてから2分間が経過するとその効果は半減しまもなく消滅してしまう。
 そんな無双ともいえる特殊魔法だが、キャットバットがMPをすべて消費してしまった場合、それが命運の尽きるときかもしれない。

 9人のキャットバットたちが一斉に『キャットバリア』を唱える。

キャットバットたち「プロテゴ トタラム~、われらを守り給え~ニャンニャン」

 結界が張り巡らされたが、まったく見えないため切り込んで来た蛇兵たちが跳ね返されひっくり返る。

蛇兵「うわ~! 何だこれは! 見えない壁のようなものがあるぞ!」

 蛇兵に続いてアンデッドたちも襲いかかってきたが、結界に阻まれて慌てふためくばかりだ。

グール「ウガガ……ッ?」
ゾンビ「ググッ……?」
リザードマンキャプテン「何をしておる! 切り込め~~~!」
蛇兵「何やら壁のようなものがあって前に進めないのです」
リザードマンキャプテン「馬鹿は休み休みにしろ! もしや怖気づいたか? 相手は非力なネココウモリ族ではないか! 俺の剣技を見ていろ~!」

 リザードマンキャプテンは意気がりながらキャットバット目掛けて剣を突いたが、あえなく結界に阻止され転倒してしまった。
 その無様な姿があまりにも滑稽で周囲から失笑が漏れた。

リザードマンキャプテン「笑うな! ちょっと転んだだけだ!」

 結界の向こうでアリスも大笑いしている。

アリス「また同士討ちしてもらおうかニャ? コンファンドサーカムロータ~!」
 
 アリスが混乱魔法『バトル』を唱える。

 次の瞬間、蛇兵が剣を掲げグールとゾンビに襲いかかる。
 ゾンビの首が飛び床に転がる。
 蛇兵がグールを倒すのは容易ではない。反撃を喰らい噛みつかれてしまう蛇兵。

蛇兵「ぐわ~~~っ!」

 魔物側にバッタバッタと死体の山ができる。

リザードマンキャプテン「愚か者! 同士討ちをするな~!」

 デルピュネがりザードマンキャプテンに忠告する。

デルピュネ「キャプテン、少し冷静になった方がいいわ。アリスやキャットバットたちは優れた魔法を持っているけど魔力は無限ではないわ。使えば当然減るし、すぐになくなってしまう。だからどんどんと使用させればいいのよ。魔法を使えなくなったネコちゃんたちなんてひねり潰すのは簡単だわ。アリスたちが結界を張っている間にこちらで地下道の入口を見つけだし私の火炎魔法で自警団を殲滅してしまうのよ。逃げ場がないからひとたまりもないわ。うふふふ」
リザードマンキャプテン「頭に血が上っていました。結界に気が付かないとはお恥ずかしい次第で。俺たちが地下道の入口を見つけなくても探すふりをするだけでネコたちは飛び出てくるかもしれないですね」
デルピュネ「そのとおり。蛇兵に命じて地下道の入口を探すのよ。結界から飛び出たところを捕獲する、もしくは倒す……」

 早速、数人の蛇兵が祭壇の周辺を探し始めた。

アリス「まずいわ! 蛇兵が祭壇の周りを探し始めてるわ。一目見ただけでは分からない仕掛けが施してあると言っても不安だわ」
クロエ「あれは私たちをおびき寄せるための罠よ。罠に乗ってはいけないわ。私たちが変に動くと地下道の入口をやつらに教えるようなものよ」
アリス「でももし先に敵に見つけられたら大変なことになるわ」
クロエ「アリスは相変わらず心配性ね。大丈夫よ、そうやすやすとは見つからないわ。でも念のため雷魔法『キャットサンダー』を祭壇だけではなく、デルピュネたちのいる方にも落として目を眩ますのはどうかしら?」
アリス「それはいい作戦だと思うわ。じゃあ、お願いね。私は引き続き『バトル』で敵を混乱させるから」
クロエ「みんな聞いて! 5人は引き続き『キャットバリア』を継続させて! 残りの5人は雷魔法『キャットサンダー』でボスがいるところと祭壇周辺にいる敵両方を狙って!」



第37章「決戦ピエトラ城」 第2話

 アリスたちは狭いエリアの中で身を寄せ合って敵と対峙している。
 彼女たちの姿は敵の視界に入っているが、見えない結界が彼女たちを守ってくれている。

 アリスが2度目の混乱魔法『バトル』を唱えると再び魔物たちが同士討ちを始めた。

リザードキャプテン「ばかもの! 味方を攻撃してどうする!」
デルピュネ「言っても無駄よ、下級魔物に混乱魔法『バトル』をかわすすべはないわ。でももうすぐネコたちのMPは尽きるはず。MPが尽きる時ネコたちの命も尽きるのよ」

 混乱魔法『バトル』は下級魔物には効果的だが上級魔物を混乱させることができない。
 それでも敵の戦力を少しでも削いでいることは間違いがなかった。

『バトル』で敵が混乱している最中、4人のキャットバットが『キャットサンダー』の魔法を唱えた。
 稲光が走り視界が一瞬真っ白になった。
 次の瞬間、雷に打たれた魔物たちがバッタバッタと倒れていく。
 その中に落雷が直撃し苦しみ悶えるリザードマンキャプテンの姿があった。

デルピュネ「キャプテン、しっかりしなさい! あなたの体力ならキャットバットが放つ落雷ごときで死ぬはずがないわ。この魔丸(まがん)を飲んで!」

 魔丸は落雷したときの治療薬で魔界にしかない。落雷時に落命していなければ体力を90%回復できる。
 ただし魔物専用であり人間やアンデッドには効果がない。

 デルピュネから与えられた魔丸をごくりと飲んだリザードマンキャプテンは驚くべき回復を見せた。

アリス「せっかくキャプテンに雷が命中したのに、まさかあんな便利な薬があったとは驚いたわ。ねえ、クロエ、あの魔丸とやらを私たちが飲んだらどうなるの?」
クロエ「魔丸は人間や私たちネコ族には毒だよ。たぶんHPが『残1』になってしまう。つまり瀕死状態ということ」
アリス「ぞぉ~っ……」

 その時だった。敵が放った矢が結界の隙間を通り抜けキャットバットDに当たった。

キャットバットD「キャッ!」
キャットバットC「矢が刺さってる! 結界が薄くなったので隙間から通り抜けたんだわ! しっかりして!」

 キャットバットCが矢を抜こうとしたがクロエがそれを制した。
 
クロエ「今抜くと血が止まらなくなるよ、私がヒールで応急措置をするから横になって」

 治療に取り掛かるクロエを見てアリスがつぶやく。
 
アリス「結界があるうちはどうにか持ち堪えているけど、もうすぐ私たちのMPが尽きてしまう。約束の時間が迫って来たので、私が結界から飛び出して地下道の扉に向かうから、半数は私を援護してくれる!?」
クロエ「うん、分かった! でも気を付けてね! 4人は引き続き『キャットバリア』を唱えて、残りの4人はアリスを援護してあげて! アリスを攻撃する敵に雷を落として!」
 
 キャットバットたちは大きくうなずいた。

⚔⚔⚔

 今か今かと約束の刻限を待ちわびるシャムたち。
 アリサが砂時計の目盛を指で数える。

アリサ「12時55分。ああ……時間が過ぎるのが今日ほど遅く感じたことがないわ……早く1時になってほしい……

ウチャギーナ「アリサちゃん、イライラしても過ぎる時間は同じよ。逸る気持ちを抑えて」

 扉が開くやいなや先陣を切って突入する4人、シャム、メグメグ、リョマ、シャルルは無言で扉の方向を睨んでいる。

メグメグ「無念の涙を飲んだ亡き国王のためにも蛇魔神ナーガは必ず倒す」
シャルル「ナーガやデルピュネがどれだけ強いか知らないが必ず首をもらうぜ!」
リョマ「竜騎士の名に恥じぬよう戦うだけ」
シャム「アリスってどんな子かな~? アリサに似て可愛いのかな? それとももっと美人かな?」
イヴ「こんな重大な局面に差し掛かってもあなたの思考は女の子のことだけ? リーダーなんだからもっとどっしり構えてよ~」
エリカ「気にすることはないですよ、イヴさん。シャムさんはあれぐらいでちょうど良いのですから」

⚔⚔⚔

 12時56分、結界から抜け出したアリスは祭壇まで一目散に駆けていく。
 祭壇の周辺には数人の蛇兵が地下道への扉を捜索している。
 突然姿を現したアリスに驚きを隠しきれない。

蛇兵「この裏切りネコめ! 地下道に通じる入口はどこにあるのだ!」

 捕縛しようとアリスに襲いかかる。
 迫った蛇兵の目前でパチンと両手を打ち相手をひるませる。
 蛇兵は音と同時に目を閉じ動作を止めてしまう。
 その間隙を突いて数歩先に進む。
 
アリス「あっかんべ~! アハハ、『ねこだまし』に引っかかった~!」

 遅れをとった蛇兵がアリスを追いかけるが足の速さで敵わない。

蛇兵「このネコ娘め! 変な技を使いやがって!」

 またもや別の蛇兵がアリスに刃を向けてきた。
 アリスは伸び上がるようにジャンプすると、ストンと地面に着地した。

蛇兵「うううっ……」
アリス「私を捕まえるのは簡単じゃないよ」

 顔面を血だらけにした蛇兵が立ち尽くしている。
 アリスの鋭い爪で一閃されもはや戦意を喪失したようだ。
 それほどに蛇兵の傷は深かった。
 まもなく蛇兵は床に崩れるように倒れた。



第37章「決戦ピエトラ城」 第3話

 意を決して結界から飛び出したアリスに敵が襲いかかる。

クロエ「まずいわ! アリスが狙われている! 『キャットサンダー』でアリスを援護するのよ!」

 キャットバットたちが呪文を唱えると再び稲妻が走った。
 幾人かの蛇兵とアンデッドが落雷に打たれバッタバッタと倒れていく。
 しかし敵はよどみなく押し寄せる。
 倒しても倒しても次から次へと攻撃を仕掛けてくる。
 やっとの思いで祭壇間近までやって来たアリスだが、敵の攻撃をかわすのに忙しくてなかなか入口にたどり着けない。
 刻一刻と時が過ぎていく。

 アリスは見上げた。
 時計の針は12時58分を指している。
 もう時間がない。

 敵を振り払いながらようやく祭壇までたどり着いたアリスは視線を床に向けた。

デルピュネ「やっぱり祭壇の床に何か仕掛けがあるのね?」
リザードマンキャプテン「祭壇の回りをあれほど探したのに見つからなかったのはどうして? もしかしたらネコ族にしか見えない入口があるのかも知れないですね」
デルピュネ「まさか……」

 アリスの青い瞳が次第に黄金色に変化していく。
 まもなく瞳が爛々と輝き床を照らすと床にスクエア型の入口が現れた。

デルピュネ「まさかあのような仕掛けがあったとは! リザードマンキャプテン、すぐにアリスの行動を止めて!」
リザードマンキャプテン「了解!」

 リザードマンキャプテンは剣を掲げ一目散にアリスに向かっていく。

クロエ「アリスが危ない! キャプテンに雷を放つのよ!」

 クロエたちが『キャットサンダー』が放った時には、すでにリザードキャプテンはアリスの背後に飛び込んでいた。
 剣がアリスの簡素な防備を突き抜け、背中から脇腹にかけて貫いた。

アリス「うぐっ……」

 アリスは目を見開きぐらりと身を傾かせながらも、スクエア型の入口まで這いつくばって進み3回ノックを果たした。
 リザードマンキャプテンが背後から再び剣を翳した時、アリスは渾身の力をふり絞り風魔法『キャットブレス』を唱えた。
 だが傷を負っているため魔法のパワーが乏しく、相手に決定的なダメージを与えることができない。

⚔⚔⚔

 トン、トン、トン……待機しているシャムたちの耳に合図の音が届いた。

アリサ「アリスだわ! ノックがあったよおおおお!!」
シャム「みんな、行くぞ!!」
メグメグ「ピエトラの平和のために戦うよ!」
シャルル「よ~し、久しぶりに大暴れするぞ~!」
リョマ「ナーガたち魔物を必ず倒す!」

⚔⚔⚔

クロエ「アリス、しっかりして!……ここからだとヒール魔法がアリスに届かないわ! アリスのところに行くから援護して!」
キャットバット「ダメ! 出て行ったら必ず死ぬわ! 行かないで!」

 傷ついたアリスの元に向かおうとするクロエを、力づくで引き止める数人のキャットバットたち。

クロエ「アリス~~~~~~!!」

 キャットバットたちはアリスに迫る敵に『キャットサンダー』を落としアリスを援護する。
 ただリザードマンキャプテンはアリスに接近しているため容易に狙うことができない。

 風魔法『キャットブレス』を浴びせられ傷を負ったリザードマンキャプテンの動きが鈍い。

リザードマンキャプテン「ぐふふ……もう一撃与えればおまえはもう耐えられまい。アリスよ、死ねぇ!」
アリス「そう簡単に……私を殺せると思っているの……? 甘いわね……」

 死力を尽くして繰り出すアリスの爪攻撃が顔面をとらえる。

リザードマンキャプテン「おのれぇ……こうなればおまえを地獄への道連れにしてやる……」

 苦悶に顔を歪めるリザードマンキャプテンが剣の矛先を再びアリスに向けた。

 その時だった。
 アリサが走り寄るやいなや、ハガネの爪がきらりと一閃し、リザードマンキャプテンの喉元を掻き切った。
 リザードマンキャプテンは声の限りに絶叫し絶命した。

アリサ「アリス~~~~~しっかりしてええええ!!」

 アリスを介抱するアリサに容赦なく襲いかかる蛇兵。
 シャムが袈裟に切り倒す。

 リョマ、シャルル、メグメグが大勢の敵と対峙する。
 3人の後方にはキュー、ユマ、イヴが控えている。

 マリアは傷を負ったアリスのもとに駆けつけ、懸命にヒールを唱えるがなかなかHPが回復しない。
 相当傷が深いのかもしれない。

アリサ「アリス! 死んじゃだめだよ! しっかりしてええええ!」
アリス「アリサ……わたし約束を果たせたよね……」
アリサ「アリスのおかげで私たちは地下道でここに来れたのよ! アリスがんばってくれてありがとうううう」
アリス「よ、よかった……ねえアリサ、水をくれる?」

 アリサが水筒の水を飲ませると、アリスは咳き込みながらもおいしそうに飲んだ。

アリス「美味しい……水ってこんなに美味しかったのね……」
アリサ「今はしゃべらなくていいよ、怪我はヒール魔法で治してあげるから」
アリス「でも……敵を倒さないといけないから……」
マリア「アリスさん、敵は自警団の皆さんやシャムさんたちが倒すから心配しないでくださいね。あなたは身体を休めることに専念すればいいのですよ」
アリス「向こうに仲間のクロエやキャットバットたちがいるの……彼女たちは小柄で非力……あのままじゃ死んじゃう……お願い、助けてあげて……」
アリサ「心配しないで、必ず助けるからああああ」



第37章「決戦ピエトラ城」 第4話

 シャルルをゾンビたちが取り囲む。
 シャルルの力をもってすれば恐るるに足りないゾンビたちだが、油断して噛まれると自身もゾンビ化してしまうから注意を怠ってはならない。
 襲い来るゾンビを次々に倒すシャルルの背後に1体のゾンビが忍び寄っていた。
 シャルルはまだ気付いていない。

ゾンビ「がうっ……」

 いち早く気付いたのはエリカであった。
 シャルルが振りむいた時、すでにエリカのヒール魔法がゾンビを捉える。
 ゾンビは淡い光に包まれ光の粒となっていった。
 ゾンビを倒すには、剣で首を刎ねるか、ヒール魔法で昇華させるか、そのいずれかなのだ。

シャルル「ふう……やばかった……エリカ、すまないな」
エリカ「うふ、どういたしまして」

 チルチルがあらかじめ用意したハバネロの粉を蛇兵たちに向かってまき散らす。 
 空気中にハバネロの粉が舞い、咳き込みうろたえる蛇兵たち。 
 そこを透かさずユマのサーベルが襲いかかる。
 まともに抵抗することもできぬまま蛇兵たちは呆気なく倒れていく。

 結界に守られていたキャットバットたちも魔力の消耗とともに次第にその効果が薄れていた。

キャットバットA「MPが底を尽いてきたので、結界ももう終わりだわ」
クロエ「アリスが命がけで扉までたどり着いてくれたし、私たちのお役目ももうおしまい。でもあなたたちを死なすわけにはいかないわ。アリスがいるところまで行けば安全よ! みんな、一目散に走って! いいね!」

 クロエとキャットバットたちは弱化した結界を抜け出し、アリスがいる場所まで駆け出した。
 だがそれは、結界に手を焼いていた敵に対して無防備を晒すことになってしまい、1人のキャットバットは蛇兵の急襲に呆気なく討たれてしまった。
 
 ここぞとばかりに襲いかかってくるゾンビの群れ。
 雑魚のゾンビであっても小柄なキャットバットたちにとっては脅威であり真っ向勝負は避けたい。
 爪攻撃で反撃を試みたが痛覚の乏しいゾンビたちにはさほど効果がない。
 ゾンビに噛まれたら無残な結末が待っているだけ。

クロエ「飛んで逃げるのよ! 彼らは魔法が使えないから!」

 クロエは翼を広げ空間に舞い上がった。
 クロエに倣って飛び立つキャットバットたち。キャットバットはクロエを含めすでに6人しか残っていなかった。
 蛇兵たちが見上げ悔しそうに地面を叩く。

 翼を羽ばたかせアリスのいる場所へと飛行するクロエたちに思わぬ危難が襲いかかった。
 アンデッドの中に魔法を使える死の魔導師がおり、彼が放ったシャーベットアローが最後尾を飛んでいたキャットバットDを射落としたのだ。キャットバットDは即死だった。
 死の魔導師は生前はピエトラ城の魔導師であったが、死んでもなおも魔道への未練を断つことができずグールとして蘇ったのだ。

クロエ「みんな、気を付けて! 魔法を使える敵がいるわ! もうすぐアリスのところよ!」

 死の魔導師が再び魔法を唱えようとしたとき、1本の矢が死の魔導師の頭部を貫いた。
 矢を放ったのはエンポリオであった。

クロエ「どなたか知らないけどありがとうございます!」

 エンポリオが笑みを浮かべてクロエたちに手を振った。

 ようやくクロエたちは傷ついたアリスの元にたどり着くことができた。

クロエ「アリス! しっかりして! 皆さん、ありがとうございます!」
アリサ「クロエちゃん、キャットバットのみんな、よく耐えたねえ、おつかれさまああああ!」
マリア「さっきから繰り返しヒール魔法をかけているんだけどHPがなかなか増えないのです……でもきっと元気にしてあげますからね」
アリス「マリアさん……ありがとう……クロエ……キャットバットのみんな……よくがんばったね……」
クロエ「うん……でも何人か仲間を失ってしまって残ったのはこれだけ。私の力不足のせいだわ……アリス、みんな、ごめんね……」
アリス「そんなことないよ……クロエはすごくがんばったわ……」
アリス「私に構わず……戦って……」
クロエ「そんなことできないよ」
キャットバットE「アリス、がんばって!」
マリア「あまりお話しするのはアリスさんによくないので……ごめんなさいね、クロエさん、キャットバットのみなさん」

 その時、キューがやってきて呪文を唱えた。
 すると2体のゴーレムが現れた。

アリサ「キューちゃん、すごい! いつの間にゴーレムを2体も召喚できるようになったのおおおお!?」
キュー「エヘン、結構やるでしょう? 魔法のレベルが上がったのでつい最近2体出せるようになったの。2体のゴーレムよ! ここにいるアリスちゃんとクロエちゃんと、え~とそれからキャットバットの4人の女の子を護ってあげて!」

 すると2体のゴーレムは彼女たちの前後ろをがっちりと陣取った。

キュー「ゴーレム君、おそらく10分ぐらいはここにいると思うわ。でも時間が過ぎると消えてしまうからね。アリサちゃん、私はここで彼女たちを守るので、あなたはシャムたちを助けてあげて!」
アリサ「うん、分かった! 敵をやっつけて必ず戻って来るから、みんな、アリスを頼むねええええ!」

 そう告げるとアリサは戦火に飛び込んでいった。



第37章「決戦ピエトラ城」 第5話

 シャムと数人の猛者たちが敵部隊を打ち破りデルピュネを取り囲んでいた。

シャム「デルピュネ、覚悟しろ! おまえの息の根を止めてやるからな!」
メグメグ「よくもこのピエトラブルをめちゃめちゃにしてくれたわね! 償いを受ける時が来たわ!」
リョマ「教会では惜しくも逃げられてしまったが今日は逃がさないぞ!」
マルツィオ「父王と多くの兵の口惜しさを晴らしてみせる! 覚悟しろ!」
チルチル「あなたの大好きなハバネロを撒いてあげるでピョン♫」

 チルチルがデルピュネの前にをすり潰したハバネロを撒き始めた。
 刺激臭が辺り一面に漂う。

 ところがデルピュネや蛇兵たちは嫌がる様子も見せず平然としている。

チルチル「どうして……?」
デルピュネ「その手はもう食わないわ。前回ハバネロでひどい目に遭わされたのでちゃんと対策してきたのよ」
メグメグ「いったい何を……!?」
デルピュネ「そんなこと言うはずないでしょう? さあ、みんなまとめて死になさい!」
イヴ「きっとパセリを使ったんだわ!」
デルピュネ「小賢しい神官ね! 手始めにあなたからあの世に送ってあげるわ!」

 デルピュネの尻尾が舞い直撃を受けたイヴが軽々と吹き飛ばされてしまった。

イヴ「キャッ!」

 苦悶の表情を浮かべ床に伏せるイヴ。
 すかさずエリカがヒール魔法を唱え回復を図る。
 ゆっくりと傷が癒えていく。

シャム「イヴ、だいじょうぶか!? この野郎~~~!」
デルピュネ「あのねえ、私は野郎じゃなくてこう見えても一応レディーなの。口の悪いあなたにお仕置きをしてあげるわ」

 うなりをあげ尻尾がシャムの背中に強烈な一撃を与える。

シャム「あぐっ!」
ジェーロ「シャムさん、だいじょうぶですか!?」

 呼吸ができないほど苦しむシャムに、神官ジェーロがヒール魔法をかける。
 デルピュネの尻尾はまるで強靭な鞭のようだ。
 防具を着けていても相当なダメージを受けてしまう。
 とにかく尻尾の動きが素早いので攻撃をかわすのに困難を極める。
 さらに厄介なことにデルピュネがシャムたちに攻撃を加えるたびに彼女の身体が大きく成長していく。

デルピュネ「尻尾鞭のお味はいかが? あなたたちを痛めつければ痛めつけるほど、私は大きくそして強くなれるの。さあ、もっといらっしゃい」

 その時一本の矢がデルピュネの腕を掠った。
 矢を放ったのはブルネッタであった。

ブルネッタ「しまった、外したか」
デルピュネ「うふふ、惜しかったわね。でもたとえ命中してても矢1本なら蚊に刺された程度なの。何なら試しにもっと矢を射ってきて」
ブルネッタ「うっ……何という強靭な魔物なの」

 ブルネッタが呆然としていると蛇兵が襲ってきた。
 何とか短剣で敵を振り払い難を逃れたが、雑魚がまだ多くいるためなかなかデルピュネだけに集中できない。
 とりわけいくらでも湧いてくるアンデッドたちの兵力数が掴めない。
 デルピュネに対して、ユマ、メグメグ、リョマ、シャムが四方から取り囲む。
 デルピュネ以外の魔物はシャルルとマルツィオが一手に引き受ける。
 彼らの背後を魔法部隊と弓矢隊が掩護する。

 折も折とて、あわただしくアリサが駆け込んできた。

アリサ「シャム~、アリスを助けてあげて! 今マリアさんが懸命に治療しているんだけどなかなか回復しないの! お願いだからチンヒールをかけてあげてええええ!」
シャム「アリサ、今ボスキャラと戦闘中だってこと分かって言ってるのか?」
アリサ「分かってるよ! みんなには悪いけど少しだけシャムを貸してほしいの! アリスを救ったらすぐにここに戻すからああああ!」
シャム「戻すからって、おいら物じゃないんだぞ」
メグメグ「シャムさん、早く行ってあげて! 仲間の命を救うことが優先ですよ! デルピュネなど私たちだけで十分倒せるから!」
デルピュネ「なんと失礼な女ね! あなたって人は~! 死んで~!」

 尻尾がバシンと地面を叩いたが、その直前にメグメグは跳び上がりあっさりと攻撃をかわした。

シャム「じゃあ、みんな、頼むな~! すぐに戻ってくるからな~!」
リョマ「ここは私たちに任せて早く行ってください!」
ユマ「かならずアリスさんの命を救ってあげて~!」

 シャムはアリサとともに傷ついたアリスのもとへと駆けて行った。

⚔⚔⚔

 シャムとアリサが到着してみると、アリスはマリアとクロエたちから懸命の看病を受けていた。
 しかし出血が多く蒼白な顔面が怪我の深刻さを物語っていた。
 アリスとマリアたちの周囲には彼女たちを守るためキューとゴーレムが陣取っていた。

シャム「アリスの治療はおいらに任せろ。皆は味方の応援に回ってくれ!」
マリア「そんなことを言ったって、チンヒール中に背後から敵に襲われたらいくらシャムさんでも防ぐのは難しいと思います。私たちは残りますわ」
シャム「いいや、大丈夫だ。雑魚敵ならチンヒールしながらでも倒せるから」
アリサ「自信過剰だよ。ここは素直にならないとおおおお」
シャム「つべこべ言っている暇はないぞ。早くアリスを治療しないと」
アリサ「じゃあこうしようよ。マリアさん、クロエちゃん、キャットバットの皆はデルピュネと戦っているところに応援に行って。キューちゃんと私がシャムの援護をするからああああ」
キュー「それは良い案だと思うわ。壁の役目としてゴーレムはここに残しておいた方がいいからね。ゴーレム2体の隙間はアリサちゃんと私が埋めると言うことで」
マリア、クロエ「それじゃよろしくお願いします。皆さんの幸運を祈っています」
アリサ「気を付けてねええええ」

 アリサは去っていくマリアたちに別れを告げ、ふと振り向くと早くもアリスの衣服はシャムの手ですべて脱がされていた。
 アリスの傷痕が生々しい。

シャム「さあ、治療を始めるぞ。アリサ、おいらの肉柱をしゃぶってくれ!」

 取り急ぎ勃起させるにはフェラチオが一番早道だ。
 チンヒール対象のアリスが瀕死の重傷を負っているので頼めないし、キューは防御に忙しいので、ここはアリサに任せるしかないだろう。



第37章「決戦ピエトラ城」 第6話

 キューと2体のゴーレムがトライアングルの陣形を組み、時折襲い来る敵を力でねじ伏せる。
 その内側では、瀕死の重傷を負ったアリスへの治療が今や始まろうとしていた。

 ジュポッ……

 アリサはシャムの肉柱の根元をつかむと、ためらう様子も見せずに亀頭をパクリと口に含んだ。

アリサ「ちゃぷんんんんちゅるちゅちゅずずずぅっ……くちゅちゅくちゅくんんんんっ……」
シャム「おぉ、いいぞ、アリサ……その調子だ」

 すると肉柱はまたたく間に天を衝くほどに怒張してしまった。

シャム「アリサ、アリスに入れるまでしゃぶっててくれ」
アリサ「うんじゅぱじゅぱじゅぱ……」

 アリサは咥えたまま返事をしたためうまく言葉にならない。

 早々と怒張は果たしたが、まだアリスが濡れていないため潤滑油を生成しなければならない。
 前戯に時間をかけてたっぷりと濡らすのが理想的だが、今はそんな悠長なことは言ってられない。
 とにかく早くチンヒールをかけて彼女を救わなければならない。
 シャムは急いで大陰唇を揉み始めると間髪入れずクリトリスに吸い付いた。
 重傷を負っているせいかさすがにアリスの反応は鈍い。
 それでもシャムの巧みな口淫にピクリと反応を示すアリス。

アリサ「アリスのクリトリスはピンク色をしているんだねええええ」
キュー「変わっているね。アリサちゃんや私はキラキラ光っているのにね」
アリサ「変わっているのは私たちだと思うよおおおお」

 キューは会話に集中するわけにはいかない。時折、攻めてくる敵を追い払わなくてはならないから。

 花芯を吸われ舐め回されているうちに、すっかりと濡れていた。

シャム「さてと、それじゃチンヒールをお見舞いするぞ~」

 周囲が戦闘中というあわただしい最中ではあるが、シャムは肉柱をアリスの花芯にあてがった。
 隆々とそそり立つそれがゆっくりとアリスの体内に挿入されていく。

アリス「あ……っ……」

 花芯を押し広げて侵入してくる肉柱。
 肉襞が最高に気持ちいい……とシャムは思った。

シャム(これは! アリサも上質なヒダマンの持ち主だが、アリスも決して負けていないぞ!)

 すぐに我慢の限界が来そうな危険なキツマンだ。

アリサ「シャム、気持ちいい? アリスちゃんの挿し心地はどうなのおおおお?」
シャム「いいに決まってるだろ~」

 その時、突然、周囲を護衛していたゴーレム2体が消えてしまった。
 滞在時間が経過して帰ってしまったようだ。

キュー「ゴーレムが消えちゃったよ! 次に召喚できるまで少し時間がかかるので、アリサちゃん、シャムとアリスちゃんを私たちで守るのよ!」
アリサ「任せて! アリサがんばるうううう!」

 キューとアリサが押し寄せてくる敵をなぎ倒した。
 チンヒール真っ最中のシャムが腰をふりながら剣を握り上げる。
 
シャム「おいらだって戦うから心配するな!」
キュー「チンヒールしながらなんて無茶だよ。私たちに任せておいて!」
アリサ「そうだよ! シャムはチンヒールに専念してええええ!」
シャム「ごちゃごちゃ言っている間に敵が増えて来たぞ! 雑魚め、ぶった切ってやる!」

 結合中のシャムを狙って前後から蛇兵が襲いかかってきたが、前方の敵はシャムが、後方の敵はアリサが打ち倒した。

キュー「敵が私たちを狙ってどんどん増えて来たわ! みんな気を付けて!」

 いくら倒しても減ることのない敵にシャムたちが辟易していたころ、突然シャムたちの周囲に結界が張られた。

シャム「え……? なんだ、これは……!? うわっ! クロエとキャットバットがいるぞ!」
アリサ「クロエちゃん、それにキャットバットのみんな、帰ってきてくれたんだああああ!」
クロエ「そうなんです。メグメグさんからこっちを応援してあげてと言われたので戻ってきたのです!」
キュー「召喚したゴーレムが消えちゃったので正直少し不安だったの。クロエさんたち、助かったわ、ありがとう!」
アリサ「へ~、これが結界なんだ。初めて見る! 結界があったらありがたいねええええ!」
シャム「クロエ、キャットバットのみんな、もうすぐチンヒールが終わるからな~」

 シャムがアリスに施しているチンヒールを初めて見るクロエとキャットバットたちは、顔を真っ赤にして視線を逸らしている。

クロエ「これが噂に聞くチンヒールですか? 恥ずかしくてとても正視できませんわ……」
キャットバット「同じく……」
アリサ「でもこれはセックスじゃなくてチンヒールなのよおおおお」
クロエ「呼び方は違うけどしていることは同じだと思うんだけど」
アリサ「クロエちゃん、よく知ってるね、もしかしたら経験がああああ」
クロエ「ないよ。耳学問よ、あくまで耳学問……」

 アリサたちが会話していると、シャムの息遣いが荒くなり腰の動きが激しくなった。

シャム「うお~~~! 行くぞ~~~~~!」

 シャムが放出した。
 まもなく顔面蒼白だったアリスの頬にほのかな赤みが差し、血色もよくなってきた。



第37章「決戦ピエトラ城」 第7話

 アリサやクロエの声に鼓膜を刺激され、アリスの意識が戻ったようだ。
 ゆっくり瞼を開けると一筋の光とともに視界が開ける。
 真っ先に目に入ったのは真上に覆いかぶさっているシャムの顔であった。

アリス「……!? あなたは誰?」
アリサ「アリス、元気になってよかった! この人がシャムだよ、手紙で話したシャムだよおおおお」
アリス「あれ……? 私……生きているの……?」

 すぐには今置かれている状況を、すぐに理解できないのだろう。
 チンヒール効果で死地から脱出したばかりか 傷痕もいつの間にかきれいに消えている。

アリサ「そうだよアリス、あなたは助かったのよおおおお」
アリス「確か背後から刺されて次第に意識が薄れていって……その後は覚えてないの……」
クロエ「ヒール魔法でもなかなか回復しなかったので、シャムさんがチンヒールを打ってくれたのよ」
アリス「チンヒールって、もしかしたら女子の間で噂のあのチンヒールを? 私に? うそっ!」
シャム「どんな噂なんだ?」

 クロエから経緯を聞いたアリスはたちまち頬を紅潮させた。

クロエ「そうよ、噂のチンヒールで元気になったし、傷も跡形もなく消えたわ! よかったね~アリス!」
シャム「どんな噂だっつうの?」
アリス「チンヒールってことは、処女の私にあんなことやこんなことをしたのね? あ~ん!」
 
 アリスはしくしく泣きだした。

シャム「心配するな。チンヒールはしたがセックスはしてないぞ。だからおまえはまだ処女だ」
アリス「そうなの?」
アリサ「シャム、いつまでも裸のアリスちゃんに乗ったままも何だから早く下りてあげてええええ」

 シャムがアリスから離れると、早速アリサとクロエがアリスに衣服を着せてやった。

アリス「シャムさん」
シャム「なんだ? エロいことをされたとか、文句か?」
アリス「違うの。私を助けてくれてありがとうございました」
シャム「いや、礼はいらんぞ。おいらも下半身がスッキリしたし」
アリサ「シャム、それを言うううう!?」
クロエ「シャムさん、一言余計ですよ」
シャム「おお、こわ……」

 キューが壁となって多くの敵を撃破してくれたので、迫りくる敵はかなり減少していた。

シャム「キュー、おつかれ~!」
キュー「うん、敵はかなり減ったみたい」
シャム「それじゃ残りの敵を倒しに行くぞ!」

 シャムたちはイヴたちのいる主戦場へと向かった。
 途中、グールやゾンビが襲ってきたがあっさりと退ける。

アリス「敵のボスは誰なの? ナーガ? デルピュネ?、リザードマン?」
クロエ「デルピュネがいたわ。ナーガは見なかった」
アリス「デルピュネか……ねえ、アリサ、仲間に火の魔法を使う人っている?」
アリサ「火の魔法? 以前モエモエという子が火の魔法を使えたけど今はいないかなああああ」
キュー「エリカさんが使うわ。彼女は元々水の魔法が専門だけど、今は火の魔法も習得しているの。それが何か?」
アリス「デルピュネは強い魔物だけど実は彼女は火に弱いの。倒し方はエリカさんに話すわ」
シャム「デルピュネの弱点を知っているのか? それは楽しみだな~。今教えてくれよ」
アリス「ダメ~。エリカさんの所に行ってから話すから」
シャム「早く聞きたいな~」

⚔⚔⚔

 シャムたちが主戦場に到着すると身長5メートルほどに巨大化したデルピュネが思うがままに暴れまわっていた。
 尻尾で敵に打撃を与えるたびに身体が巨大化するため、いつしか容易に飛び込めなくなっていた。
 武器の叉護杖(さごじょう)が大きな身体とはアンバランスで実に珍奇に見える。
 シャルルが後方から切りかかったが尻尾が鞭のようにしなり簡単に吹き飛ばされてしまった。

シャルル「うわ~~~っ!」

 打撃を受けてうずくまるシャルルにイヴがヒールを唱える。
 
 到着したシャムがチルチルに戦況を尋ねたところ、切りかかっても反撃され同様の繰り返しだと言う。
 このままだとMPばかりを消費し全滅してしまう危険性すらあるだろう。

 ユマとメグメグが呼吸を合わせ左右から同時に攻撃を仕掛けた。
 尻尾が旋回する。

 バシンッ! バシン!

 2人が尻尾に打たれ床に伏せる。

ユマ「うぐっ……デルピュネめ、さっきより強くなっている……」
メグメグ「私のハイキックが効かないなんて……うぐっ……」

 マリアとエリカがヒールを唱える。

アリス「エリカさん、ちょっと大事なお話があるのですが……」
エリカ「なんでしょうか?」
アリス「実は……」



第37章「決戦ピエトラ城」 第8話

 尻尾攻撃を受け床にうずくまるユマとメグメグに代わって、今度はシャルルとリョマがデルピュネに戦いを挑んだ。

デルピュネ「いくらかかってきても私を倒せないわ! 諦めることね!」

 尻尾がまるで鞭のようにしなり巨体の2人が吹き飛ばされる。

リョマ「ううう……恐るべき尻尾の力……」
シャルル「くっ……くそ……」
デルピュネ「いくらヒールで治療しても無駄だわ。いずれMPが尽きて全滅するだけ。たっぷりと可愛がって地獄に送ってあげるわ」

 アリスは会話にクロエも呼び寄せ、突拍子もないことをささやいた。
 
アリス「クロエ、コショウを持っている?」
クロエ「どうしたの、戦いの真っ最中に? ブラックペッパーならいつも常備しているけど、それが何か?」

 調理人でありコショウマニアのクロエが常にブラックペッパーを手放したことがないことを、アリスは知っている。
 3人は何やら密かに会話を始めた。

エリカ「ふむふむ、それは面白いですね。ぜひやってみましょう」
クロエ「それじゃキャットバットの皆にも知らせてくるね」

イヴ「アンデッドは私がヒールで倒すからキューちゃんはゴーレムを召喚させて!」
キュー「分かったわ!」

 キューがデルピュネの目前でゴーレム2体を召喚した。

デルピュネ「ほう、召喚魔法とはやるじゃないの。でもゴーレムで私を倒せるかしら?」
キュー「やってみないと分からないわ。ゴーレム、この蛇女をひねり潰して!」

 巨大化したデルピュネだが体格的にはゴーレムが勝っている。
 しかも2対1だ。
 ゴーレムが繰り出すパンチをまともに受け一瞬顔を歪ませたがすぐに反撃に転じるデルピュネ。
 尻尾で足を払われ転倒する始末。
 もう1体のゴーレムが殴りかかるが軽く避けられあっさりと足をすくわれる。

デルピュネ「ワルキューレよ、さあ、かかっておいで」
キュー「なんと……いとも簡単にゴーレムを倒すとは……」

 ゴーレムが倒されたころ、デルピュネの周囲には飛行部隊が現れていた。
 クロエと4人のキャットバットである。
 クロエの号令のもと飛行部隊は一斉に雷魔法『キャットサンダー』をデルピュネに向かって放った。
 まともに雷攻撃を浴びたデルピュネだがさしたる損傷はないようだ。

デルピュネ「残念ね。痛くも痒くもなかったわ」

 デルピュネが余裕の表情を浮かべたとき、真上を飛行中のクロエが叫んだ。

クロエ「じゃあ、これはどうかな?」

 クロエは小さな容器を逆さまにして、ミルを持ち、容器を右にねじるように回転させた。
 すると黒い粉が飛び散りデルピュネの頭上を襲った。
 たちまち鼻を激しく刺激されたデルピュネはくしゃみが止まらなくなった。
 大きく口を開けて「ハクション!」

デルピュネ「ハ、ハクション! いったい何を撒いたの!?」
クロエ「別に毒じゃないわ。ただのブラックペッパーだから安心して」
デルピュネ「やめて! すぐに撒くのをやめて! ハ、ハクション!」

 くしゃみの間も飛行部隊がデルピュネの気を引くため周囲を飛び回る。
 デルピュネは飛行部隊を叩き落そうと尻尾を振るうが、くしゃみのせいでうまく当たらない。

 その間隙を縫ってエリカが至近距離で火の魔法『ファイア・ボール』の呪文を唱える。

エリカ「セガコキヤ、ツヤイルワ! ファイアボール!」

 赤々と燃え盛る火の玉がデルピュネの目掛けて飛んでいく。
 惜しくも火の玉は外れてしまった。
 エリカは臆することなく『ファイア・ボール』を再度放つ。
 依然デルピュネのくしゃみは止まらず時折口を開ける。
 次の刹那、火の玉が見事に口内に飛び込んでいった。

デルピュネ「ぐわぁああああああ~~~~~~!!」

 身体をくねらせ尻尾をばたつかせて苦しみ悶えるデルピュネ。

デルピュネ「よくも……私を……うぐぐぐ……うがぁああああああ~~~~~~!!」

クロエ「やった~!」
アリス「エリカさん、お見事です!」
シャム「いったいどういうことだ?」
アリス「実は口の中がデルピュネの最大の弱点だったの。さきほど火の魔法を使えるエリカさんにこっそりと使えたの」
シャム「つまり、ブラックペッパーでくしゃみを誘発して、口を開けた瞬間を狙ったという訳だな?」
クロエ「そうなんです」
アリサ「城に潜入していたからデルピュネの弱点が分かったのね? アリス、やったねええええ!」
アリス「味方と思わせて油断させておいて彼女のことを調べたの」
エリカ「地道なアリスさんたちの努力のおかげですね。あっ、デルピュネが動かなくなりましたよ」
アリス「死んじゃったみたい。あれ? 死体が消えていく!」
エリカ「はい、魔物は死ぬと消滅していくのです」
アリサ「あれ? 後に何か残って光っているうううう!」

 シャムたちは『天女のティアラ』をゲットした!
 女性たちが順番に冠ったが何も起きなかった。

イヴ「変ね? 皆が冠ってみても何も起きないわ。これはチル女神かムッヒ聖者に聞くしかないね。とりあえず魔法の鞄に入れておくね」

 ズルズルズル……
 シャムたちの背後から何かが床を引きずるような不気味な音が聞こえた。
 振り返ってみると7つの頭がある大蛇が徐々に迫ってくるのが確認された。



第37章「決戦ピエトラ城」 第9話

シャム「なんだ、あれは!?」
アリサ「あわわわ……あの特大サイズの蛇がナーガなのおおおお!?」
アリス「そう、彼女がナーガ。変身後の姿を見るのは初めてだけど、あれほどの迫力とは……」

 その巨躯は怪物といってもふさわしく、地上に生息する大蛇アナコンダなど比ではなかった。
 もはや蛇というより竜というべき規格だ。

シャム「あれが邪魔神ナーガか。けっ、とんでもない怪物だよ」
ユマ「あれがナーガなのね。信じられないほど大きい」
メグメグ「あの怪物を倒さなければピエトラに平和は訪れないわ」
マルツィオ「ヤツがどれだけ強くても絶対に倒してみせる」
シャルル「神話の怪物が目前に現れるとはな。腕が鳴るぜ」

 早くも剣を抜き臨戦態勢に入るシャルル。
 シャムは柄を握りしめ意識を集中させる。
 相手はデルピュネなど比較にならないほどの強敵。倒せる保証などどこにもない。
 相手がいったいどれほどのものであれ、退却することは許されない。
 必ず倒してピエトラ・ブルに平和を取り戻さなければならないのだ。

シャム「行くぞ!」
ウチャギーナ「ナーガ、私の風の魔法を味わってみる? アイオリアの神よ~、風の神よ~、我に大気の力を与え給え~!」

 ウチャギーナは風魔法ウィンドカッターの呪文を唱えた。
 空気中に真空の刃が発生しナーガを急襲する。
 効果はいかが?
 ナーガはすまし顔でつぶやく。

ナーガ「今、少しくすぐったかったが?」

 風魔法の直撃を受けても動じないナーガに、ウチャギーナは唖然としている。
 シャムの合図とともに、一同が臨戦態勢に入った。

 ナーガの最も至近距離にいるメグメグは今すぐにでも攻撃を行ないそうだ。
 全身にパワーに満ち、五感が冴え渡る感覚。

ナーガ「部下をたくさん葬ってくれたようだね。きっちりお返しをさせてもらうから覚悟して」
マルツィオ「ナーガ! 父王を殺害したおまえこそ罪の償いをしてもらうぞ」
ナーガ「これはこれは、マルツィオ王子様。村でのんびりと休まれている方が身のためですよ」
マルツィオ「なんだと! この私が必ず倒すから!」
ナーガ「そんな大口を叩いて、あとで吠え面をかいても知りませんよ。さて、あなたたちを可愛い動物に変えてあげようかな」

 突如、ナーガが口から紫煙を吹き出した。
 辺りが紫色に煙っていく。

 しばらく様子をうかがっていたが何の変化も起こらない。

ナーガ「どうして? あなたたち、どうしてウサギに変わらないの?」
シャム「生憎だったな。おいらたちはこれを持ってるんだ」

 シャムはラピスラズリの欠片をナーガに見せつけた。

シャム「おいらたち全員これを持っているから煙は無駄ってこと」
ナーガ「紫煙を知っていたのか……しかし、アリスやクロエはラピスラズリを持っていないはずだが」
シャム「そのとおり。ラピスラズリを持っていないアリスやクロエたちはず~と後方に下がらせているから心配なし」
ナーガ「くそ、そこまで私のことを調べて来るとは……」
メグメグ「残念だったね。あんたを倒すための準備は用意周到なの」
ナーガ「おほほほ、ウサギ化を阻止したぐらい威張らないでね。ここからが本番だから」

 ナーガの7つ首がうねうねとうごめく。
 7つの首のうち2つだけが、その巨体からは想像できないほどの速さで動き出す。
 2つの首が狙ったのは前方にいるメグメグであった。

シャム「メグメグあぶない、逃げろ!」
メグメグ「だいじょうぶ! 速さでは負けないわ!」

 持ち前の俊敏さと跳躍力で軽々と飛び退く。

メグメグ「大きな図体の割に速いね、ナーガ!」

 メグメグの額には早々と汗が滲んでいる。
 敵の首が1つであれば容易に躱せるのだが、厄介なことに首が7つある。
 つまり7方向から襲ってくる危険性があるということだ。
 常に7つ首が襲ってくることを想定しつつ攻撃しなければならないことがかなり厳しい。
 攻撃の失敗は死に直結するのだ。

 少し離れた場所からエンポリオとブルネッタがナーガ目掛けて矢を放つ。
 2人が放った矢は一切の乱れなくナーガの胴体に見事命中する。
 矢は刺さったが然したる反応がない。
 ナーガは不死身なのだろうか。
 否、この世に不死身など存在しない。
 何らかの弱点があるはずだ。

 メグメグに2撃目が襲ってきた。
 今度は2つの頭による挟み撃ちだ。
 2つの頭を躱し落ちる直前にジャブキックを与えた。
 余裕がなくジャブを放つのが精いっぱいだった。
 息を切らすメグメグ。

 キューが召喚したゴーレム2体がナーガに突進する。
 巨体のゴーレムさえもナーガの前では小柄に見える。
 2つの首がゴーレムを迎え撃つ。
 首の1つがゴーレムを跳ね返したが、もう1つの首がゴーレムの腕に噛みつき片腕を捥ぎとってしまった。
 片手でパンチを繰り出し反撃するがあまり効果はなかった。

ユマ「キューさん、ゴーレムが可哀そうで見てられないから魔界に戻してあげて」
キュー「だいじょうぶ。敵が強すぎて手に負えないと思ったら勝手に消えてしまうから。それと次に召喚したとき、修復した姿で戻っているから」

シャム「みんな、単独で攻めるのはやめろ! 単独で倒せる相手じゃない!」
メグメグ「じゃあどうするの?」
シャルル「シャム、ナーガに弱点はないのか?」
シャム「分からん」

 リーダーが敵の弱点は分からないとつぶやく。
 仲間たちの士気にも影響しかねない危なっかしい一言だ。
 どんよりとした重い空気が流れた。



第37章「決戦ピエトラ城」 第10話

シャム「クロエ? 頼みがあるんだけど」
クロエ「はい、何でしょうか?」
シャム「結界は作れるか?」
クロエ「キャットバットの人数が減ったので頑丈なものは無理ですが、作ることはできますよ」
シャム「じゃあ頼む」

 シャムに何か策があるようだ。
 クロエは残り少なくなったキャットバットたちとともに『キャットバリア』の呪文を唱えた。

クロエとキャットバット「プロテゴ トタラム~、われらを守り給え~ニャンニャン」

 結界が完成したが、その存在はネコ族以外には目視できない。
 しかし襲ってきたアンデッドを瞬く間に跳ね返してしまったので、一行は結界の存在を認識する。

シャム「みんな集まってくれ」

 シャムは仲間を集めると急遽打合せを始めた。
 攻撃の手を止め密談に耽るシャムたちに気位の高いナーガは無視されたと思いこみ苛立ちを覚える。

ナーガ「どうして攻撃して来ないの?」

 ナーガには7つの首がある。一番左の頭が“1つ目の蛇頭”、中央の頭が“真ん中の蛇頭”、そして一番右の頭が“7つめの蛇頭”ということにしよう。
 癇癪を起こしたナーガの“1つ目の蛇頭”が牙を剥き攻撃を仕掛けてきた。

チルチル「きゃぁ~~~! ナーガが噛みついてきたでピョン!」

 つづいて二撃目が襲う。
 結界に守られているため怪我人はなかったが、鋭い牙の連続攻撃で結界が耐え切れずヒビが入ってしまった。
 もしまともに牙を喰らっていたら、ひとたまりもなかっただろう。

アリス「きゃっ、結界にヒビが入ったわ!」
クロエ「5人で作った結界なので少し弱めなの。ナーガのパワーは半端ないからね」
シャム「よし! 結界を出て反撃を開始するぞ! 狙いはナーガの7つの蛇頭!」

 シャムたちは結界から飛び出すとナーガの周囲を取り巻いた。
 攻撃の1番手はシャムだ。
 床を蹴り上げると、“1つ目の蛇頭”を目掛けて剣を構える。
“1つ目の蛇頭”がシャムをうまく躱したが、その向こうには“2つ目の蛇頭”があった。
 剣が“2つ目の蛇頭”に迫る。
 鋼のような鱗に刃を振り下ろす。

シャム「とりゃあ~~~~~!!」

 刀身が蛇の首に触れる。
 鱗を貫き、内側にある肉に食い込み、蛇の身体を構成する骨を一気に断つ。
 1と思わせて油断させ実は2を攻める。実に巧妙な技だ。
 落下のスピードも加わり、7つある頭のうち一つを見事に斬り落とした。
 飛散する蛇の血液。
 胴体から離れた頭部は即座に動かなくなり、全ての機能を失った。

ナーガ「私に傷を付けるとは……なかなかやるじゃないの……」

 攻撃は途切れることなくつづく。

リョマ「今度は私がお相手いたそう」
キュー「ワルキューレの力をみせてあげるわ!」
メグメグ「私のすべてをかけておまえを倒す!」
ユマ「ナーガ、もうおしまいね。覚悟して!」
マルツィオ「父王の仇、亡き人々の仇、今こそ晴らす!」
シャルル「おまえはもう終わりだ! ナーガよ!」

ナーガ「6人がかりで私の首を切り落とそうというのね? そんなにうまくいくかしら?」

 6人の戦士が同時に攻撃し一気にナーガの蛇頭を断つ……そんな淡い希望を抱いたが……

「……!?」

 次の刹那、シャムたちは我が目を疑った。
 視線の先にあったのは先程シャムが切断したナーガの“2つ目の蛇頭”。
 すでに活動は停止し蛇頭は少しづつどす黒く変色していき、終いには灰になってしまった。
 その灰は風に吹かれて跡形もなく霧散していった。

シャム「ん……?」

 つづいて今度はナーガの胴体に変化が起こる。
 断面から恐ろしい速度で、新たに骨格とそれを覆う筋肉が形成されていく。
 目のまえで起きている状況が何であるか、理解に時間は要さない。

リョマ「なんと! 首を切り落としても再生するというのか!?」
イヴ「信じられないわ……」
シャルル「首をぶった切られて、すぐに元に戻る生き物なんて見たことも聞いたこともないぞ!」

ナーガ「驚いた? これが私の真の姿よ」

 復元したナーガの姿を見て呆然とするシャムたち。

メグメグ「シャムさん! 上見て!」

 メグメグの一声がシャムを救う。
 再生した“2つ目の蛇頭”が復讐の意を込めてシャムを襲ったが、際どいところで飛び退いた。

シャム「メグメグ、ありがとう~、お礼にチンヒール1回分な」
メグメグ「何を悠長なことを言ってるのですか!」

 蛇頭が再生する姿を目の当たりにした一行はナーガへの攻撃をためらった。
 危険を冒してまで飛び込んで蛇頭を切り落としたとしても、すぐに復元されては苦労の甲斐がない。
 仮にそれを繰り返すことができたとしても体力は著しく消耗するし、運が悪ければナーガの餌食になるかもしれない。
 とりわけあの鋭い牙で貫かれたら致命傷になりかねないだろう。

 闇雲に突き進むのではなく、知恵を絞りナーガを倒す手段を見つけねなければ、討伐するのは不可能だろう。
 シャムたちが思考を巡らせている最中も、間断なくナーガと残党の蛇兵たちが猛攻をかけてくる。
 直接攻撃に参加していない仲間も知恵を絞っている。

マリア「ナーガは傷口の再生はしますが、不死身ではありません。蛇魔神といえども必ず弱点があります。敵の攻撃を躱しながら必ずその弱点を見つけましょう。私も精いっぱいバックアップしますので、皆さんは絶対に死なないでください」



第37章「決戦ピエトラ城」 第11話

シャム「ナーガの7つの蛇頭を7人が同時に攻撃してみるのはどうかな?」
リョマ「やってみる価値がありそうですね」

 微笑を浮かべるリョマに向かって1の蛇頭が襲いかかってきた。

リョマ「なんのっ!」
 
 すぐにリョマは反応を示す。
 神殿の広い空間を疾駆し、襲い来る蛇頭を躱すと、勢いをそのままにその巨体に飛び乗り、携えた剣をナーガの表皮に突き立てて駆け抜けた。
 裂傷を与えた箇所から、噴水のように血が溢れ出る。

 時を同じくして、2の蛇頭にはメグメグが、3の蛇頭にはシャルルが、そして4の蛇頭にはアリサとアリスが掛け声とともに挑む。
 さらに、5の蛇頭にはキューが、6の蛇頭にはユマが、そして7の蛇頭にはシャムが鋭い切っ先をナーガに向けた。

マルツィオ「蛇兵の残党は私たちが引き受けます!」

 マルツィオ、ウチャギーナ、チルチル、エンポリオ、ジェーロ、ブルネッタが残りの蛇兵たちを次々と打ち破る。

イヴ「アンデッドは私たち任せて!」
エリカ「彼らはヒールで元の世界に送り届けます!」
シャム「おお、頼んだぞ~!」

 シャムたち7人によるナーガ同時攻撃が功を奏するかと期待されたが……

シャム「ダメだ、傷を与えてもすぐに修復されていく!」

 シャムたちの猛攻を浴びてもナーガは怯むような素振りすら見えない。
 シャムが渾身の一撃で首を叩き切ったときより、再生にかかる時間が圧倒的に速かった。
 裂傷を与えても意味がない。
 かといって首を斬り落としてもまもなく再生されてしまう。 
 いったいどうすればよいのか……

 ナーガの攻撃は止まることなく、シャムたちに息つく暇を与えない。
 まさに防戦一方だが、体力がつづく限り彼らも止まることはない。

シャム(こうして戦っている間に弱点を見つけないと……)

 再生する能力を備えたこの蛇魔神をどのようにして倒せばよいのか。
 シャムたちに必要な情報はその一点に帰結する。

 ナーガは7つの蛇頭を器用に使い、シャムたちを狙い続けているが、未だに捕らえることはできていない。
 多少のかすり傷は負ったがマリアやイヴの治癒に救われている。

 シャムは縦横無尽に駆け、剣で迎撃しながらナーガの弱点を探る。

シャム(急所はどこだ……!?)

 圧倒的なスピードで4の蛇頭と渡り合うアリサとアリス。
 互いに目を向けることはなく、ひたすら弱点探しに集中力を注ぐ。
 それは互いを信じているからこそできることだった。

 襲い来る蛇頭の一瞬の隙をも見逃さず、メグメグは拳を振るい2の蛇頭に裂傷を与えていく。
 それはまるで舞うような動きで、蛇頭と胴体の間をすり抜ける。
 持ち前の優れた身体能力を発揮し、攻撃を避ける際の動きはナーガを軽く凌駕する速度を誇る。

 キューは敵の攻撃を躱すだけではなく、時に迎撃を行うが、それもあくまで最小限にとどめる。
 無理に攻撃に転じて深手を負えばかえって仲間の足を引っ張ることになるからだ。
 いわゆる一撃離脱戦法(ヒットアンドアウェー)が彼女の戦い方だ。

 3の蛇頭を攻め立てるシャルルは敵の眼に刃を突き立て、大きく振り回される形で離脱する。
 眼球からは大量の血が噴き出す。
 再生するとはいえ流石に効いたのか、3の蛇頭の攻撃が一時的に鈍った。

シャルル「あぶね~、ちょっと欲張り過ぎたかな?」

 シャルルは過度な攻撃に出た己を戒める。
 深手を負わせたつもりだが、それでも数秒すれば修復される。そう理解した上での攻撃だった。

シャルル「……?」

 シャルルが次の攻撃に備えたとき、彼の眼前で異変が起きた。
 明らかな変化をうかがわせる戦況が、シャルルが今攻撃した蛇頭に見受けられたのだ。

シャルル「この頭……傷が消えてない?」

 眼球はナーガ自身の血に塗れ、最早敵を見る器官としての機能を失っている。
 だが、それだけではない。
 シャルルの奮戦によって付けられたであろう裂傷が、7つあるうち左から3つ目の蛇頭にいくつも残っていた。
 決して深い傷ではなく、他の頭であれば即座に修復される程度の傷だが、それでもナーガを討つ希望としては十分だった。

 シャルルが伝えるまでもなく、シャルルが退いた蛇頭を見て理解する仲間たち。
 7つの蛇頭に対してひたすら攻撃を加え裂傷を与えたのは、このため。

シャム「左から3つ目の頭が司令塔だとすれば、さしずめ他の6つの頭は『タコの足』のようなもの。だから、いくら損傷を受けても再生する。てことは、おいらたちがやることはただ1つ」

 再生することを承知のうえで、すべての蛇頭に傷を付けた。
 全ての蛇頭に再生機能が備わっているのであれば、それこそ不死の怪物といえるだろう。
 しかし蛇魔神といえども死は存在するはず。
 これは、ある種シャムたちにとっての『賭け』であった。
 己の信念を貫き、この蛇魔神が不死でないことを信じて、再生しない蛇頭を炙り出したのだ。

シャム「おいらたちの勝ちが見えてきたぞ」



第37章「決戦ピエトラ城」 第12話

 ここに来て、シャムは眼光鋭くナーガを見つめた。
 ナーガの弱点を炙り出すまでは前座に過ぎなかったのだ。

 ついに正解が見つかった。
 『ナーガの3の蛇頭を潰す』
 言葉で言うのは簡単だが……

シャルル「ただ……あの頭だけ傷が浅い気がするんだ。渾身込めて斬ったつもりだが」
ユマ「怪力無双のシャルルさんが切ってもダメージが少ないとは……」
シャルル「問題はそこだ。刃が通らないことはないが、他の蛇頭に比べて格段に硬いんだ。時間をかけて裂傷を与え続ければいいのだが、ナーガに反撃の機会を与えてしまい下手をすればやられるリスクも増える。だから一気に決着をつけなければならないと思うんだ」
シャム「誰が斬る?」
シャルル「リョマか? ユマか? いや、やっぱりシャムだろう?」
シャム「いや、おいらよりも適任者がいる。ナーガを首を斬るのは……」

 シャムの唇から紡がれた意外な人物は……

シャム「マルツィオ王子だ」
マルツィオ「ちょっと待ってください! シャムさんやシャルルさんよりどうして私が適任者なのですか? 父王や一族の仇をとりたいのはもちろんですが、皆さんより剣技の未熟な私にその役目が務まるのでしょうか」
シャム「未熟なものか。マルツィオは剣技に優れてる。だけどマルツィオだと言ったのには他に理由がある。それはピエトラ家祖先のご加護だ」
マルツィオ「祖先のご加護ですって!? 私にどんなご加護があると言うのですか?」
イヴ「先程デルピュネを倒したとき得た『天女のティアラ』を覚えてる?」
マルツィオ「覚えてますよ。女性の皆さんがかぶっても何も起きなかったじゃないですか?」
イヴ「確かに何も起こらなかったわ。でもそれは当然だったの。『天女のティアラ』の内側をよく見ると刻印があったの」

刻印【当家が災禍に見舞われし時 天女のティアラを祭壇に捧げ 王家の剣を掲げよ さすれば神舞い降りん】

マルツィオ「何と! でもどうしてデルピュネが『天女のティアラ』を持っていたのでしょうか?」
イヴ「魔物たちがピエトラを占領した後、宝物を物色しているうちに見つけたんだと思う。デルピュネがこっそりと盗んだんじゃないかしら」

 マルツィオたちの会話のさなかもナーガの攻撃は執拗に続いていた。
 リョマやシャルルを中心に防衛のための戦闘に専念していたが、彼らの疲れを考慮して時折魔法隊や弓矢隊が攻撃を加えた。

『天女のティアラ』を手に祭壇に駆けあがるマルツィオ。
 もしも彼に蛇頭が迫ったらすぐに反撃をすべくシャムが並走する。

 祭壇のたどり着いたマルツィオは呼吸を整え静かに『天女のティアラ』を置いた。
 王家の剣を天に掲げ祈りを捧げる。

 まもなく天から降り注ぐ一条の光が窓を通り抜け、王家の剣に降り注いだ。
 やがてマルツィオの王家の剣は滑らかに光り輝く刀身に変身した。

マルツィオ「おおっ! これが神のご加護を受けた剣なのか!? ナーガよ! この剣で貴様の真の蛇頭を刎ねてやるから待っていろ!」
ナーガ「いくら剣が立派になっても腕が伴わなければ意味がないわ。あなたに私が倒せるかしら?」
マルツィオ「ほざけ! 吠え面をかくのはおまえの方だ!」

 司令塔である3の蛇頭に立ち向かうマルツィオに、6つの蛇頭が襲いかかる。
 
ナーガ「返り討ちにしてあげるわ! 覚悟をおし!」

 マルツィオの身体を囲むように6人の戦士が6つの蛇頭に向けて堰を切ったように襲いかかった。

シャム「ナーガよ! マルツィオには手を出させないぞ!」
メグメグ「私の廻し蹴りを受けてみて!」
キュー「再生したって何度でも刎ねてあげるわ! 偽の蛇頭を!」
リョマ「竜騎士の名誉にかけてもおまえを倒す!」
シャルル「ついに年貢の納め時が来たようだな~!」
ユマ「大きな蛇さん、もうおしまいよ~!」

 リョマは見事蛇頭を切断したが、他の5人はナーガに深手を負わせたものの切断するには至らなかった。

 マルツィオが高く跳ぶ。
 神力を注ぎ込まれた王家の剣が光を帯び、黄色い火花を散らしている。
 3の蛇頭の紅い眼と、鮮やかな黄色い閃光の対比。
 体躯では蛇頭が圧倒的に優位だが、王家の剣から発される光は恐ろしい速度で増幅し、比例して発せられる火花も激しさを増していく。
 神が手繰るいかずち……かつて、神そのものであった事象がマルツィオという人の手にあるのだ。

 ナーガの真の蛇頭は、目前。
 ほんの数秒後には、マルツィオの運命は確定している。
 この瞬間こそが、勝利と敗北とを分かつ分岐点だ。
 だが恐れるものなどない。自身の腕を信じるだけだ。
 切り込む直前、シャムがマルツィオにささやいた言の葉。

(自分を信じろ)

 敗北という可能性の一切をかなぐり捨て、ナーガを討ち取ることだけに集中する。
 少しでも恐怖を抱き、ためらうならば、討伐は叶わない。

 天の怒りが、傲慢な蛇魔神を粉砕する。
 
マルツィオ「父王とピエトラの人々の憤怒をその身に受けよ~~~!!」」

 万物を貫く光の剣をナーガ目掛けて突進させる。
 狙うは一点、マルツィオよりも大きなナーガの蛇頭。的としては十分過ぎるほどに巨大だ。
 神殿内に迸る、一筋の閃光。



第37章「決戦ピエトラ城」 第13話

 放たれたいかづちは、ナーガの頭を一直線に貫通する。
 瞬きの間に過ぎゆくような刹那、神の力の片鱗が振るわれる。

ナーガ「うがあああああ~~~!!」

 勝敗は喫した。

 最後に立っていたのは、人間だった。

マルツィオ「はぁはぁはぁ……っはぁ……」

 溢れる汗とともに肩で息をし、両手両膝を床に着けるマルツィオ。
 心血を注いで一撃を見舞ったために体力はギリギリの状態であった。

 いかづちの下に敗北したナーガはすでに瀕死状態であった。
 
ナーガ「ううっ……見事だったわ……勇者たちの……コンビネーション……」
シャム「ふん、褒めたって誰も助けてやらねえからな」
ナーガ「命乞いはしないわ……というか私はまもなく尽きる……その前にこれをあげたくて……」
シャム「どうせ呪われたアイテムとかだろう? そんなのいらん」
ナーガ「うふ……心配しなくていいわ……きっとあなたたちの役に立つはずだから」
メグメグ「役に立つ物?」
ナーガ「短剣よ……鋭い刃物か鋭い爪があればセルペンテを倒せるはず……」
シャム「セルペンテはおまえの味方じゃないのか?」
ナーガ「冗談じゃないわ……あんな男なんて味方なものですか……メドゥサオールは南の大陸を征服したあと……北を征服した私をセルぺンテを使って私を暗殺するつもりなの……その前にセルぺンテを始末するつもりだったけどこのざまだわ……セルペンテを倒すことがメドゥサオールの野望を砕く第一歩となるはず……」
シャム「ナーガ、死の間際になってどうしておいらたちに味方をするのだ?」
ナーガ「今やっと気づいたのよ……天界は神様が……魔界はルシファー様が……そして地上界は人間が治めるのが理想だと……でも気付いたのが少し遅かったようね……うふふ……」
シャム「ナーガ、おまえの願いは必ず叶えてやる」
ナーガ「あなたたちならきっとできると期待しているわ……そうそう、セルペンテは弱点が少なくほぼ不死身だから心して掛かってね……彼の鋼の肉体は大抵の剣を跳ね返してしまう……でも彼の緊張が緩んだ時に鋭利な刃物で喉を掻き切れば……」
シャム「セルペンテの緊張が緩んだ時? おい、それはどんな時だ!」

 返事がない。
 ナーガはすでに息が絶えていた。

シャム「逝ったか」
メグメグ「マルツィオ王子、城の奪還おめでとうございます!」
マルツィオ「みんなありがとう……」

 ナーガとの戦闘で力を使い果たしたマルツィオが床に崩れ落ちた。

ジェーロ「王子様、だいじょうぶですか!?」

 駆け寄ったのは、マルツィオを支えてきた神官のジェーロだった。

マルツィオ「心配するな。少し疲れただけだ」
ジェーロ「無理をしないでください……激しい戦闘で身体が悲鳴を上げています。しばらくは安静にしていてください」
マルツィオ「だいじょうぶだ」
ブルネッタ「王子様、ここはジェーロ様のお言葉に従ってください。お願いします」
マルツィオ「分かったよ」
ジェーロ「王子様はブルネッタには従順ですね。妬けてきます」
ブルネッタ「ジェーロ様ったら……」

シャムたちは『アサシンの短剣』をゲットした! シャムたちは『アサシンの短剣』を魔法の鞄に保管した!
シャムたちは『神獣の爪』をゲットした! アリサが『神獣の爪』を装備した! アリサの攻撃力が20アップした!
シャムたちは『疾風の道着』をゲットした! メグメグが『疾風の道着』を装備した! メグメグの素早さと魔法耐性が10アップした!
シャムたちは『ベアクラッシュ秘伝書』をゲットした! シャムが『秘技ベアクラッシュ』を習得した!

イヴ「ねえシャム、さっきナーガが死ぬ直前に『セルペンテの緊張が緩んだ時』って言ってよね。以前、聖者ムッヒ様がよく似たことを言ってたんだけど覚えていない?」
シャム「聖者ムッヒ様はよく覚えているけど、会話までは覚えてないな」
イヴ「セルペンテは女性と性交中、高ぶってくるとペニスが蛇に変化するとか。その時、彼の戦闘能力が大幅に低下するので、その瞬間を狙って彼の喉に短剣を突きつける……と言ってたの」

(聖者ムッヒとの会話の場面を参考に掲載しておきます) 第4章「クリッツの輝き」 第6話

シャム「へえ、すごい記憶力だな~。で、イヴがセルペンテの相手をするのか?」
イヴ「誰が行くかは決まってないわ。みんな行きたくないはずだから抽選で決めるしかないかも」
シャム「確かイヴが興味あるようなことを言ってたと思うけどな~」
イヴ「な~んだ。しっかりと覚えているじゃないの」

⚔⚔⚔

マルツィオ「皆さんのがんばりのお陰でピエトラ城が奪還できました! 本当にありがとうございました!」
シャム「よかったな~。亡き王に代わってマルツィオが新しい国王になるんだろう? がんばれよ」
マルツィオ「まだ何も決まっていないけどおそらくそうなると思います」

メグメグ「あのぉ、シャムさん、皆さん、私を仲間に加えてくれませんか?」
シャム「そりゃ歓迎だけど、村の再建があるんじゃないのか?」
メグメグ「村の再建も大切なことだけど、できることなら世界の平和を取り戻すために皆さんといっしょに旅をしたいのです」
シャム「厳しい旅が続くけどいいんだな?」
メグメグ「自分を律するためにも厳しい旅、大いに歓迎です!」
シャム「分かった! じゃあメグメグは今日からおいらたちの仲間だ!」
メグメグ「ありがとうございます! シャムさん、皆さん!」

 メグメグが仲間に加わった!!

 また、アリスとクロエたちキャットバットはピエトラ城に残り城の再建にいそしむことになった。



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キャットバット・クロエ


ネコミミ・アリサ


ネコマータ・アリス











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