ファンタジー官能小説『セクスカリバー』 Shyrock 作 |
<登場人物の現在の体力・魔力>
~シャム隊~
シャム 勇者 HP 1020/1020 MP 0/0
イヴ 神官 HP 800/800 MP 860/860
アリサ 猫耳 HP 830/830 MP 0/0
キュー ワルキューレ HP920/920 M510/510
エリカ ウンディーネ女王 HP 690/690 MP 950/950
マリア 聖女 HP 680/680 MP 980/980
チルチル 街少女 HP 640/640 MP 0/0
ウチャギーナ 魔導師 HP 720/720 MP 920/920
リョマ 竜騎士 HP 1130/1130 MP 0/0
~ピエトラ村(自警団)~
メグメグ 武術家 自警団団長
ルッソ 村人 自警団副団長
マルツィオ 剣士 ピエトラ公国王子
ジェーロ 神官 マルツィオ配下
アウジリオ 村長
ブルネッタ 狩人 村長の娘
アリーチェ 街人
~ロマンチーノ城に向かった仲間たち~
シャルル 漁師・レジスタンス運動指導者 HP 1090/090 MP 0/0
ユマ 姫剣士 960/960 MP 0/0
エンポリオ アーチャー HP 820/820 MP 0/0
⚔⚔⚔
ジェーロ「通常城を攻める場合は、攻撃する側は守備側の3倍以上の兵力が必要だと言われています。ところがシャム様は城兵400人に対してわずか37人で攻めるという驚くべき提案をされています。でもそれは無謀ではないでしょうか。私は賛同しかねます」
アウジリオ「確かに村人たちを訓練しても所詮はにわか仕込みの兵士に過ぎないかもしれません。だけど村人たちは自分たちの手で自分たちの村を守りたいのです。彼らの心情を分かってもらえないでしょうか」
だけどシャムはジェーロとアウジリオの意見を一蹴した。
シャム「心情だけで勝てると思ってるの!? 村長さん、神官さん、はっきり言うよ。桑の代わりに慣れない剣を握り数日付け焼刃の訓練をしただけの村人が魔物たちに勝てると思ってるの? 魔物たちは殺しの専門家だよ。運よくゾンビを1人ぐらいは倒せるかもしれないけど、次々襲ってくる敵に耐えられるの? 戦いに行った村人のほとんどが屍になって帰ってくるのではないのか? それでいいの? 1人でも死者を減らすためここは力のある者だけに絞り込んで攻めるべきだと思うが、どうかな?」
メグメグ「私もシャムさんの意見に賛成です! たとえ勇敢に戦っても死んでしまったらおしまいです。村の男たちが死んだら残された奥さんや子供たちはどうなるの? むざむざと討ち死にしてはなりません! 幸いマルツィオ王子が隠し通路を教えてくれました。隠し通路を利用すればむしろ少数精鋭の方が戦いやすいはずです。1人の犠牲者も出さず敵に勝つ! これが私の願いです!」
リョマ「竜騎士のリョマと申します。攻め手が少人数なので真正面から城を攻めるのは厳しいと思います。ここは奇襲戦法を用いるべきです。メグメグ団長が言うように抜け道を利用するのが得策だと思います。ただし抜け道を魔物たちに見つかっている場合も考慮しておかなければなりません」
リョマの発言が終わると、マルツィオが前方を見据えて一同に陳謝した。
マルツィオ「ピエトラ城を魔物に乗っ取られ不甲斐ない気持ちでいっぱいです。亡父王に代わって陳謝いたします」
王子に謝られては誰一人返す言葉もなく、会議場はにわかに静まり返った。
しかしマルツィオの態度からピエトラ城奪回の意欲が垣間見えた。
マルツィオ「魔物退治に向けて様々なご意見があって当然だと思います。相手が魔物なので激戦は覚悟しなければなりません。私はシャムさんが言ったように部隊を少数精鋭に絞りこむ方策に賛成です。また団長やリョマさんが言う隠し通路作戦を支持します。それら作戦実行のあかつきには必ず勝利の女神が微笑むと信じています」
ジェーロ「王子様のお考えがよく分かりました。勇者殿のご意見に異を唱えた自身を恥ずかしく思います。さきほどの私の発言は撤回します」
ジェーロ「王子のお考えがよく分かりました。さきほど異を唱えた自身を恥ずかしく思い思います。さきほどの私の意見は撤回します」
アウジリオ「村人をおもんばかるシャム様と団長の深慮に心打たれました。具体策は皆様にお任せします」
村長の一言で多数決を採るまでもなく方針は決定した。
(1)抜け道を利用し城内部に攻め入る
(2)攻撃兵は自警団、ピエトラ城兵士、シャム隊から選出するものとし、基本的に村人は除く
シャム「それと皆に伝えておきたいんだけど。おいらたちにはロマンチーノ城に行ってる仲間が3人いるんだけど、もうすぐこっちに戻って来るんだ。早ければ明日ぐらい着くかな? 彼ら3人が到着してから城攻めをしようと思うんだけど、どうかな?」
メグメグ「シャムさんの仲間ならきっとすごい人たちなんでしょうね? 戦闘に加わってくれたら戦力アップするので喜んで待ちますわ」
アウジリオ「どんな人たちなんだろう? 楽しみしかないな」
イヴ「名前は、シャルル、ユマ、エンポリオです。期待に応えると思いますわ~」
メグメグ「職種を教えてくれますか? え~と、メモしなければ!」
メグメグは几帳面な女性であり常に備忘録を持ち歩き閃いたことや大切なことを記録している。
イヴ「シャルルは戦士で剣を武器にしすごい怪力の持ち主です。ユマはムーンサルト城のお姫様で剣士です。すごい美女で……」
メグメグ「そういう情報は要らないから」
イヴ「あぁ、ごめんなさい。エンポリオはエルフ族で弓の名人なんです」
メグメグ「ありがとう、イヴさん。じゃあシャムさん、後から来る3人も考慮に入れて、攻撃隊員、陣形、隊列を打合せしましょうか?」
シャム{え? 2人だけで? (シメシメ……)」
イヴ「メグメグさん、シャムと2人だけというのは避けた方が良いかと」
メグメグ「もちろん他の人も入ってもらうわ。イヴさんも入ってくれる?」
城攻めに関する会議と名付けられ、引き続き打合せが始まった。
顔ぶれは9名で、
シャム隊から、シャム、イヴ、アリサ、リョマ。
自警団から、メグメグ、ルッソ、ブルネッタ。
ピエトラ城から、マルツィオ、ジェーロ。
⚔⚔⚔
その頃、ポリュラスを出発したシャルルたち3人はピエトラ・ブルに向かって夜道を進んでいた。
シャルルたちはイヴが放った伝書鳩の手紙を受け取っていた。
手紙にはシャムたちの現在地と近況が記されている。
シャムたちは現在ピエトラ村にいて、ピエトラ城を占拠した魔物との戦いに向けて準備を進めているという。そしてシャルルたちが到着したら魔物攻めを行なうのでよろしく、と締め括られていた。
シャルル「ふん、何が『よろしく』だ。ロマンチーノ城にバリキンソン一味を護送した帰りなんだから、少しは休ませてやろうとか労う気持ちはないのか。まったく人使いが粗いんだから、シャムたちは」
ユマ「とか何とか言ってるけど、本当は早く骨のある敵と戦いたくてうずうずしてるんでしょう? 旅の途中に出くわしたのは雑魚魔物ばかりだったから」
シャルル「ユマ、おまえいつから俺の気持ちが読めるようになったんだ?」
ユマ「だってシャルルさんって嘘を付けない人だからすぐに分かるもの」
エンポリオ「ユマってお姫様なのにしっかりとした目が持っているね」
ユマ「姫じゃなくても誰でも分かるよ。シャルルさんほど分かりやすい人はいないもの」
鬱蒼とした森の中を進むシャルルは周囲を見渡しながらつぶやいた。
シャルル「それにしてもこんなに遠回りしなければいけないのか?」
ユマ「だってピエトラ城は魔物に占領されているらしいから、迂回した方がよいとイヴさんが手紙に書いていたもの」
シャルル「そりゃそうだけど、こんな夜中に真っ暗な森を歩くのってあんまり気分のいいものじゃないからなあ」
ユマ「シャルルさん、もしかしたら怖いの?」
シャルル「冗談を言ってもらったら困るな。魔物の10匹や20匹出たって全然平気だぞ」
その時だった。
「うわぁっ!」
森の奥から叫び声が聞こえてきた。
シャルルたちが声のする方に向かってみると、荷馬車の男がごろつき風の男たち5,6人に取り囲まれていた。
男たちは不潔な無精髭を伸ばし、安っぽい皮鎧を身に着け、刀で武装している。風体から明らかに盗賊だ。
荷馬車の男「頼みます、金を払うから見逃してください。この先の村に品物を届ける約束をしてるんです」
盗賊「この先の村ってピエトラ村のことか? 何を届けるんだ?」
荷馬車の男「剣です。私は武器屋で剣を届ける約束をしているんだ」
盗賊「ほほう、剣か? じゃあ俺たちが代わりにもらっといてやるぜ。おとなしく荷馬車ごと品物をここに置いていきやがれ。そうすれば命だけは助けてやるぜ」
荷馬車の男「そんなあ……荷馬車も品物も置いて行ったら明日から食べていけません」
盗賊「そんなことは知るか。殺されたくなければ俺たちに従うんだな」
荷馬車の男「分かりました……従います。従うので命だけは助けてください」
盗賊「おとなしく渡したら殺さないよ。安心しな」
シャルル「荷馬車も品物も渡すな」
荷馬車の男「……?」
盗賊「だれだ!?」
シャルルたちが男たちの前に現れた。
エンポリオが手に持っていたランプを掲げた。その刹那、周囲に光が広がる。
シャルル「どいつもこいつもきたねえ顔をしやがって!」
盗賊「何だと! 俺たちを誰だと思ってやがる!?」
シャルル「知るか! どうせ人の物を盗んで食ってる糞みたいな野郎たちだろう!?」
盗賊「この野郎! おい、みんな、こいつらをやっちまえ!」
盗賊はシャルルたちに一斉に切りかかってきた。
(カキンッ!)
剣が合わさったのはほんの一瞬だった。
次の瞬間、盗賊の1人はうめき声をあげ地面に伏してしまった。
盗賊「そこの姉さん、可哀そうだけどあの世に行ってもらうよ!」
ユマ「あの世に行くのはどちらかしら?」
ユマは盗賊の剣をあっさりとかわし、瞬く間に盗賊の腹部を突き刺した。
うめき声もあげず絶命する盗賊。
3人目の盗賊を倒したのはエンポリオであった。
接近戦の場合は弓よりも短剣が効果的。短剣が盗賊の喉を貫く。
3人の盗賊が一撃で倒されたことで、恐れをなした残りの盗賊たちが慌てて逃走していった。
アントーニオ「危ないところを助けていただき感謝いたします。皆様のお陰様で命拾いいたしました」
シャルル「こんな暗くて危ない森を一人旅だなんて、ちょっと無茶だよ」
アントーニオ「ピエトラ村に住む弟にどうしても武器を届けてやりたくて、無茶を承知で村に向かっていました。最近魔物の出現で村を守るためどうしても欲しいというので。でも私が死んでいたらそれも叶いませんからね」
ユマ「村に武器屋はないのですか?」
アントーニオ「村にはありません。隣の街にはあるのですが、魔物のせいで街もすっかり廃れてしまってるみたいで……」
エンポリオ「実は俺たちも村に向かってたので、よかったらいっしょに行きますか?」
アントーニオ「それは心強いです。よろしくお願いします。あっ、そうだ、お礼に武器を差し上げます。皆様はすでに良い剣をお持ちのようですが、もし必要なければ売ってください」
シャルルは『ミスリルの剣』をゲットした! シャルルは『ミスリルの剣』を装備した!
エンポリオは『ミスリルの短剣』をゲットした! エンポリオは『ミスリルの短剣』を装備した!
アントーニオ「お嬢様はすごく珍しい剣をお持ちですね。残念ながらその剣を超える剣を持ち合わせておりませんので、お嬢様には亡き妻の形見でもあるこの指輪を差し上げます」
ユマ「そんな大切な物をいただくわけにはいきません」
アントーニオ「私が持っていても何の役にも立ちません。ここでお会いしたのも何かのご縁です。ぜひもらってやってください、お願いします」
ユマ「分かりました。ではありがたく頂戴します!」
ユマは『命の指輪』をゲットした! ユマは『命の指輪』を装備した! ユマのHPが50アップした!
偶然武器屋アントーニオを救うことになったシャルルたちは、ピエトラ村までの道中を同行することになった。
アントーニオ「皆さんといっしょだと心強いし楽しいですね、本当にありがたいです」
エンポリオ「これを『旅は道連れ 世は情け』と言うのかな?」
ユマ「「連れのいる旅が心強く感じられるように、世の中を渡るときは助け合うことが大切だよ、という意味らしいね」
エンポリオ「さすが聡明なユマ姫、よく知ってるね」
ユマ「姫はやめてよ。ユマでいいよ」
シャルル「俺の故郷では『楽しい道連れは馬車と同じ』という諺があるんだ」
ユマ「そういえばよく似た諺で『良い道連れは一番の近道』というのもあるわ」
アントーニオ「いずれの諺も、一人旅より連れのある旅の方が良いみたいですね。それはそうとようやくピエトラ市街地が見えてきましたね。でも明りがほとんど灯らず暗いですね」
ユマ「少しだけお茶したかったのに残念ね」
シャルル「いや、少しだけ休んで行こう」
エンポリオ「店が全部閉まってるかもしれないよ」
シャルル「その時はその時だ。どこかの軒先を借りて休んで行こう」
シャルルはいつも楽観的だ。
楽観的な人間は常に行動的であるため周りを明るい気持ちにしてくれる。
シャルルの読みは当たった。街は戦禍にまみれすっかり荒れ果てていたがひっそりと営業を再開している酒場があった。
自警団やシャムたちが教会の魔物を駆逐した噂を聞き、暗々のうちに店の看板を掲げ直したのだろう。
店は意外にも大勢の客で賑わっていた。
空いている席に座ると中年の女店員がやってきた。
女店員「何になさいますか?」
シャルル「ウィスキー」
ユマ「もうすぐ皆と会うのでお酒は控えた方がいいと思うよ」
シャルル「そうだな……ヤギのミルクをくれるかな」
ユマ「私は紅茶にします」
エンポリオ「俺はコーヒー」
アントーニオ「私もヤギのミルクをください」
女店員「うけたまわりました。皆さんは旅の方ですか?」
ユマ「そうだですが?」
女店員「この街によく来られましたね。実はこの街は少し前まで魔物に荒らされていたのですが、やっと落ち着いたところなんですよ」
シャルル「魔物はどこに行ったんだ?」
女店員「何でも勇者とかいうめっぽう強い人と村の自警団が魔物を退治してくれました。勇者と自警団さまさまですね」
シャムたちの活躍を女店員から聞き、シャルルたち3人はさりげなく目配せをした。
シャルル「なるほど、魔物がいなくなって良かったな」
女店員「ありがとうございます。ところで今夜皆さんはどこにお泊りですか? この街には宿屋が2軒あるのですが建物が無事なのか心配です……」
ユマ「私たちはこのあと村にまいります」
女店員「えっ、こんな夜遅くにですか?」
ユマ「はい、今夜中に到着したいのです」
女店員「何かわけがあるようですね。立ち入ったことを聞いてすみません」
シャルルたちが女店員と会話中、隣のテーブルでは2人の酔いどれがガヤガヤと騒いでいる。
女店員が注文を取り去っていったのをみてシャルルたちに話しかけてきた。
酔いどれA「ういっ……あんたたち聞いたか? 勇者とやらが魔物を追い払ってくれたのはありがたいんだけどさ……やつらに城を乗っ取られているので、いつこの街に攻め込んでくるか分からないよ……」
酔った男B「ボスのナーガという蛇魔神は恐ろしく強いという噂だから気を付けろよ。といっても、あんたたち市民は戦わないから心配ないと思うけど。とにかく早めに逃げることだ」
酔いどれA「ナーガが吐く紫色の煙を喰らうとウサギにされてしまうんだって。恐ろしや恐ろしや~」
エンポリオ「ウサギにされるって? 冗談は休み休みにしてくれよ」
酔いどれB「冗談じゃないぞ」
ユマ「ウサギ化を防ぐ手立てはないの?」
シャルル「酔っ払いの話を真に受けてどうするんだ。大ボラを吹いているのに決まってるだろう」
ユマ「真偽のほどは定かではないけど、一応聞いておいてもいいんじゃないの」
酔いどれA「何だったかなあ……ある宝石を持ってるとウサギにならないと聞いたことがあるけど、どんな宝石だったかなあ?」
ユマ「思い出してよ。一杯奢ってあげるから」
酔いどれA「奢ってくれるの? じゃあ、必死に思い出してみる。う~ん……」
酔いどれ男は腕を組んで唸り出した。
だけどなかなか思い出せないようだ。
酔いどれA「ダメだ……思い出せない……」
ユマ「それじゃね、思い出したらピエトラ村にいるシャムという男性まで連絡してくれる? 褒美に何かあげるから」
酔いどれA「おねえさん、名前は何というの? 俺はヤコスだ」
ユマ「ヤコスさんね、私はユマ。よろしくね」
ヤコス「今日は思い出せなかったから今日の奢りはなしだよな?」
ユマ「いいえ、色々話を聞かせてくれたから、今の一杯は私の奢りよ」
ヤコス「ありがとう、おねえさん、じゃなくてユマさん、ごちそうさま~」
ここはピエトラ城の台所。
魔物たちの料理番を受け持つキャットバットたちが料理長アリスの指示の下あわただしく行き交っている。
魔物の食事はゲテモノが大半であるうえに、種族によって嗜好が異なるため準備が大変なのだ。
と、そこまでは表の顔。
密かにアリスは従妹のアリサと通じ、アリサたちの城突撃に呼応して城内で反乱を起こす準備を整えていた。
とりわけ反乱を起こす直前、魔物たちに提供する料理に睡眠薬を盛る作戦はうまく行けば大きく有利に傾くだろう。
ただし睡眠薬作戦は魔物のみであって、食事をとらないアンデッドには睡眠薬を使うすべがなかった。
もしアリサたちの突入が予定よりも遅延した場合、反乱を企てたアリスやキャットバットたちは魔物たちの猛攻に遭いたちまち危機に瀕してしまうだろう。
これは大きな賭けであった。
クロエ(キャットバット隊長)「従妹のアリサさんから突入日時の連絡はあったの?」
アリス「まだなの。でもアリサは必ず連絡をくれるから心配ないよ」
クロエ「ところで睡眠薬を使えないアンデッドは例外として、それ以外の連中にどれだけ効果があるのかしら」
アリス「この前、蛇兵の食事に少しだけ入れてみたらぐっすり眠っていたわ」
クロエ「あはははは~、それなら楽しみね~」
アリス「リザードマンと蛇兵への効果は間違いないと思うんだけど、問題は体力のあるナーガとデルピュネよ。効けばいいんだけど……」
わずかだがクロエに不安がよぎった。
クロエはキャットバットたちを束ねるリーダーだ。現在はアリスと同様に料理を担当している。身長1メートルぐらいの猫系種族で非力だが、背中に羽根があり飛行が可能で動きが俊敏であるうえに攻撃魔法も使える。
それなりの戦力を有しているが、もしアリサたちが突入するまでに魔物の食事に睡眠薬を盛ったことが早々とばれてしまった場合、窮地に陥ることになるだろう。
アリスとクロエは種族こそ違うが、魔物から迫害を受け奴隷として連行されてきた境遇は似通っており、いつしか強い連帯感が生まれていた。
同じ料理担当になったのも何かの縁といえるだろう。
2人は魔物たちに隙があれば反乱を起こそうとその機会をうかがっていた。
今回たまたま降って湧いたような好機が訪れた。
従妹のアリサを一員とした勇者隊と自警団の連合軍が密かに城突入を企てているという。
この機会を逃せば魔物の奴隷として一生を送らなければならないだろう。
少々危険性があってもこの機に乗じない手はない。2人の決意は固かった。
⚔⚔⚔
その日の深夜、シャルルたちは無事ピエトラ村に到着しシャムたちと再会を果たした。
夜も遅かったので自警団からはメグメグとブルネッタだけが彼らを迎えるに留まった。
ユマ「こんな遅くにごめんなさい」
ユマたちはメグメグとブルネッタに挨拶をした。
メグメグ「長旅お疲れ様でした。皆さんのことはシャムさんから聞いています。私どもにお力添えいただけるそうでとても嬉しく思います。夜も更けましたので今夜はゆっくりとお休みください」
シャルル「ありがとう! 到着したらすぐに戦いだと書いてあったので覚悟をしていたんだけど、今夜は休めそうだね、いやあ、本音をいうとベッドが恋しかったよ」
ブルネッタ「あは、正直な方ですね。お風呂とベッドの用意ができていますので、いつでもどうぞ」
ユマ「シャム、久しぶりにお父様にお会いしたけど、お元気そうだったわ。いっぱいご馳走になっちゃった」
エンポリオ「改めてシャムが王子様だってこと再認識したよ」
メグメグ「えっ!? シャムさんって王子様なの!?」
シャム「エンポリオ、そのことはべらべらしゃべるなって言ってるだろう?」
エンポリオ「すまない」
シャム「ばれてしまったので白状するけど、おいらはロマンチーノの王子だよ。でも旅をしている間は1人の旅人だし、1人の戦士だから」
メグメグ「はい、分かりました。王子様、じゃなくてシャムさん」
ブルネッタ「ところで、そちらの方は?」
会話中ずっと無言だったアントーニオにブルネッタの視線が注がれた。
アントーニオ「私は武器屋のアントーニオと申します。この村に住む弟に武器を届けたくてポリュラスを立ったのですが、途中の森でで盗賊に襲われてしまい、偶然窮地をシャルルさんたちに助けていただきました。弟にはのちほど会うつもりです。それから、僅かですが剣をお持ちしておりますので、村でお使いいただけたら幸いです」
メグメグ「それはとても助かります! 街の武器屋も閉めてしまっているので困っていたところです。代金は明日お支払いします」
アントーニオ「いいえ、代金は要りません。弟がいつもお世話になっておりますでせめてものお礼です」
メグメグ「そうですか、ではお言葉に甘えさせていただきます。実を言うととても助かります……」
ブルネッタ「この村の周辺に魔物が出没してからというもの、まともに農作物を耕すことができないし、外から品物も入ってこなくなって経済的にかなり逼迫しているんです。この状態が続けばかなり厳しくなります」
エリカ「そんな事情もあって魔物殲滅が急がれるわけですね」
メグメグ「はい、そのとおりです。シャムさんたちがこの村に来てくれたことで、ようやく戦力が整いました」
アリサ「だけど、敵が300人でこちらは40人とまだまだ厳しいよ。アリスの協力が絶対に必要だよおおおお」
イヴ「アリスさんとの連携が大切だね。明日作戦を練ろうね」
⚔⚔⚔
久しぶりにシャムに会えたことがユマにとってはよほど嬉しかったのだろう。
薄めで上品な形の唇から眠るのも惜しんでよどみなく言葉がつむがれる。
ユマ「ロマンチーノ城の女官や召使いの女の子たちから『シャム王子様の恋人は今誰ですか?』って聞かれたわ。城に居た頃どれだけ女の子たちと遊んでいたのよ」
シャム「大して遊んでないぞ。たまに大浴場でじゃれ合ったり、ちょっとエロい王様ゲームをやったりしたぐらいかな。で、ユマは彼女たちにどう答えたんだ?」
ユマ「今、王子様は魔物退治に夢中よ、と無難に答えておいたわ。実際にはかなりエロいけど」
シャム「ユマ、今夜旅の疲れを癒すため久しぶりにチンヒールかけてやろうか?」
ユマ「何を言ってるのよ。魔物と戦う直前だというのに」
シャム「直前だから余計にしたいんだよな」
ユマ「どうして? 私たち何か別れみたいな……」
シャム「人間って明日どうなるか分からないんだから。なあユマ、東洋の『朝には紅顔あって夕べには白骨となれる身なれ』って言葉を知ってるか?」
ユマ「知らないわ。どんな意味?」
シャム「朝には元気な顔をしていても、夕方には死んで白骨となってしまうかもしれないのが人の身だよということ」
ユマ「何故か胸に響くなあ」
シャム「人は儚いものだからな。ムーンサルト城だって……」
ユマ「ううう……」
シャム「ごめん。悲しいことを思い出させて悪かった」
涙ぐむユマを抱き寄せるシャム。
チンヒールムードかと思われたが、それをかき消すように……
ユマ「あっ、シャムに大切な伝言があったのを思い出した!」
シャム「何でこのタイミングで……全くもう」
ユマは蛇魔神ナーガが吐きだす紫色の煙を喰らうとウサギにされてしまう、という酒場で酔っ払いが語っていたとりとめもない話をシャムに聞かせた。
シャム「面白そうな話だな~、もっと聞かせてくれ」
ユマ「でも酔った人の話なんて話半分で聞かないと」
シャム「それならなんでおいらに話をするんだ?」
ユマ「とにかく話のつづきを聞いて」
シャム「うん、ウサギにされてしまうというところまでは分かった」
ユマ「ウサギにされない方法があると言うのよ。何でもとある宝石を持っているとウサギ化を防げるんだって」
シャム「どんな宝石だ?」
ユマ「それが思い出せないらしいのよ」
シャム「なんだそりゃ、一番肝心なところなのに」
ユマ「宝石の種類を思い出したら、シャムに連絡が入ることになってるの」
シャム「へ~、男の名前は?」
ユマ「男の名前はヤコス。思い出したら来ると言ってたわ」
シャム「でもいつ来るか分からないんだろう? 城攻撃がもうすぐなのに」
ユマ「シャムはいつ攻撃を仕掛けるつもりなの? もちろん自警団の人たちの考えも聞かなければならないけど」
シャム「大きな声では言えないけど」
シャムはユマの耳元でささやいた。
シャム「明日準備をして、あさっての1時頃に突入しようと思ってるんだ。アリサの従姉が城内で待機してくいるのであまり先に延ばせないんだ。ばれたら従姉が危険だからな。詳しくことは明日の会議で話すから」
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シャルル「エリカ、寂しい思いをさせてすまなかったな」
エリカ「長旅おつかれさま。早く会いたかったわ」
シャルル「俺も会いたかったよ」
エリカ「ロマンチーノ城にはきれいな官女や侍女がいっぱいいたんでしょう? 浮気はしなかった?」
シャルル「う、う、浮気なんかするか」
エリカ「怪しいわね。声が上擦ってるわ。シャルルならきっと持てるし」
シャルル「俺はエリカ一筋だ。見損なうな」
エリカ「まあ、嬉しいわ。その言葉を信じるわ」
シャルル「エリカ、愛してる」
シャルルはエリカを押し倒し唇を奪った。
2人で身を寄せ合うには少し小さいサイズのベッドであったが、気にも留めず2人は愛し合った。
⚔⚔⚔
ピエトラ公国を滅亡に追い込み新しい城主となった蛇魔神ナーガは、先王が使用していた玉座を除去しギャッベ絨毯に直に鎮座していた。
ナーガは人間のような上半身と蛇のような下半身を持つ。上半身の長い髪、美しい顔立ちはまるで人間の女性のようであるが、実は男性器と女性器の両性を併せ持ち男女どちらとも交尾が可能であるが、彼女は主として女性との交尾を好んだ。
腕は4本あり多関節であるため蛇のようにクネクネと動かすことができる。上半身の体色は青灰色で下半身の蛇の部分は茶色だ。
ナーガは蛇と人間の長所を持ち合わせており多彩な能力を保持している。例えば、彼女の蛇の部分はしなやかで迅速な動きを可能にし獲物を捕らえることができる。さらに彼女は独自の言語を有しているが人間の言葉も理解している。
強靭な肉体を誇り攻撃力にも優れ毒攻撃も可能だ。また数種の攻撃魔法を使えるうえに自己治癒能力も持っており、実に厄介な敵といえるだろう。
ちなみにナーガの食性は、肉食の捕食者であり主に人間や地上の動物を捕食する。強靭な肉体と蛇のような素早い動きを生かして獲物を捕らえてしまう。また性の嗜好は、同種のナーガの他にネコミミ族やネコマータ族などの半猫系に向けられることがある。そのため人身御供としてやってきたアリスは格好の獲物として魔手が伸びた。アリスの抵抗空しくいつしかナーガの性奴隷となり果てていた。
今夜もまたナーガの欲望はアリスに向けられた。
ナーガ「満月の夜は私たち魔物の力が最も増す時。1週間後の満月の夜にピエトラ村を攻撃する。自警団を1人残らず倒してしまえばこの国に反対勢力は消え失せる。無力な民衆は私たちの奴隷となって日夜働く。あはははは~、ピエトラの地に理想の国が作れそうね! アリスも魔物たちによく協力してくれているからもっと昇格させてあげるからね」
アリス「閣下、ありがとうございます」
アリスはナーガのことを閣下と呼んでいる。もちろんナーガからの指示によるものだ。
あくまで従順を装うアリス。今は特に間違ってもナーガを怒らせてはならない。
ナーガ「可愛がってあげよう。さあ、そばに来て」
端正な顔立ちのナーガとキスを交わすとまるで女性と交わっているような錯覚に陥るアリス。
いや、厳密にいうとナーガは男性であり女性でもあるのだ。
ナーガが抱く相手が男性だと自身のヴァギナが濡れ、相手が女性だと自身のペニスが勃起する。実に巧妙にできた肉体といえる。
ナーガの4本の腕が器用にアリスを身体を這い回る。愛撫箇所が増えるとまるで複数の男性と致しているような錯覚に陥る。
アリス「ああ……閣下……すごいです……感じます……そこ、感じます……」
ナーガ「『そこ』と言ってもどこなのか分からないわ。乳首、背中、首筋、太股……具体的に言ってくれないと」
アリス「ち、乳首です……」
ナーガ「そうかい? じゃあ、乳首を吸ってあげるわ」
アリス「あああっ! そんなっ!」
ナーガは先割れした長い舌を乳首にそっと絡ませ丹念に愛撫する。
アリス「あうっ…あん……閣下……っ!」
先割れした長い舌は人間やネコマータの舌とは異なり実に冷ややかだ。
火照った肌快感につい我を忘れ、敵であるナーガの巧妙な攻めに溺れそうになる。
感じている素振りではなく実際に感じてしまうほうが自然体だしナーガの油断を誘うことができるだろう。
まもなく叛乱を起こすことになるわけだから、今はできるだけ波風を立てないことが肝要だ。
ナーガは2本のペニスと1つのヴァギナを持っている。
相手の性別によって器用に使い分けることができる。
今日は女性が相手なので使用するのはペニスだ。
股間に顔を近づけ指でクリトリスと花芯を擦りあげると、アリスは腰をひくつかせる。
先割れした長い舌は蜜が溢れる秘裂をゆるゆると舐め、さらにピンク色に染まったクリトリスを愛撫する。
アリス「んあぁ……っ…あ、ぁあん…、……んっ、ん~っ……」
媚薬効果もあるナーガの唾液と溢れる愛液を絡ませた舌でクリトリスを丹念に舐め回され、蛇の鎌首のようなペニスがそっと秘裂をくすぐり、やがてペニスの先端がやさしく蜜にぬめる奥へ侵入した。
アリス「あっ……! あ、やだっ…ぁあっ……ふうあっ……」
ペニスは隘路をほぐすように少しずつ入っていき、ぐちぐちと水音を鳴らす。
吐息が乱れてアリスの足が引き攣る。
ペニスはずっ、ずっ、とほぐすようにゆっくりと中を突き進み、舌で舐められ、時折微かにクリトリスを掠められる花芽は充血しきって今にも弾けそうなくらいぷっくりしていた。
アリス「ひっ……、ぅあ…か、かっか、あぁん~~~~~っ……」
何度も達してグズグズに蕩ける蜜壺の奥、子宮口をペニスの先が優しくくすぐる。
アリス「んっ……ふ、ぁあ……あ……っ……」
ぐちゅん、ぐちゅん、と蕩ける隘路をペニスを抜き差しされる度、ひくひくと腹の下に熱がこもって震える。
敵に犯されているというのに、唇から零れるのは快楽に浸かる唾液と浅ましい嬌声だけ。
アリス「あっ……は、か、閣下ぁ、あぁんっ…!」
アリスは次第に自身が演じているのか、本気で気をやろうとしているのか分からなくなってくる。
ナーガは不意にアリスの菊門に触れてきた。不快な感触にぴくりと波打つ。
アリス「あ……そこは……」
菊門をこねまわす巧妙な指先。
まもなく柔らかくほぐれた菊門に、満を持して登場のもう1本のペニスが侵入する。
アリス「んんっ……!」
前後の秘孔に2本挿し。どちらもかなり太めだ。
ナーガの身長が人間の1.5倍あるのだから至極当然のことだろう。
普通ならば痛くて堪らないはずだが、催淫効果のあるカウパー液が挿入前に濡らしているのでアリスに痛みはない。
2本のペニスが力強く律動する。
アリス「ふぁあああ……っ!」
前後二穴に太いペニスを咥えこんだ下腹部はパンパンになっている。
アリス「あぁあっ……!」
火花が飛び散るように頭の中が白くなった。
何度目かの絶頂に、脳がクラクラする。
呼吸困難になりそうなくらい酸素が欲しくて堪らない。
アリス「はっ…はっ…はっ…はっ……」
ナーガ「気持ちがいいのかい?」
アリス「は、はい……すごく良いです……」
呼吸が苦しくても嘘を付く。それが懸命だから。
快感は性器と菊門だけではない。
胸の頂にも長い舌が這い回り性感をくすぐってくる。
胸、花芯、菊門の3か所を同時に攻められてはひとたまりもない。
アリス「ふゃ……あぁっ…、あぁあっ……!」
眼も眩むような快感に貫かれ、ビクビクと痙攣しながらまた達したアリスの全身はすっかり敏感になり過ぎて、些細な刺激でも官能の種になる。
ナーガは抽送を止めず、アリスは何度も達した。
まもなく2本のペニスからドクドクと精液が放出された。おびただしい量の精液は膣や直腸に収まりきらず逆流を始めた。
ナーガ「もしおまえが私の子供を身ごもったら4人目の妃にしてあげるわ。ネコマータがナーガの子を身ごもることは滅多にないけどね」
アリス「身に余るお言葉ありがとうございます。そう言っていただけるだけで私は幸せ者です」
ナーガ「そうかそうか、おまえは健気だね。さて、そろそろ寝所で眠るとするか。おまえもゆっくりとお休み」
⚔⚔⚔
ナーガとの目も眩むようなまぐわいを終えたアリスは自室に戻り窓を見た。
今夜は星がなく曇り空のようだ。
アリス「ん……?」
アリスは窓辺に留まっている伝書鳩を見つけた。
月明りでは読めそうもないので、ランプの下に行き手紙を拡げた。
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『あさって午後1時』
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アリサからだ。
万が一敵に見つかった場合を考えて要点のみが記載されている。
短い文章でもアリサたちの意図が十分に理解できる。
昼食に眠り薬を混入する計画なので、午後1時突入というのは多くの敵が眠り始める絶妙の時間帯なのだ。
アリスはすぐにクロエに伝えた。
クロエ「いよいよね、仲間たちには私から連絡しておくわ。ついに決行ね」
アリス「絶対に成功させなくては」
次の日の午前10時頃、赤ら顔の男が仲間の男とともに村を訪れていた。
ブルネッタ「シャムさんにお客さんがお見えですよ」
シャム「誰だろう?」
ブルネッタ「ヤコスと言っていたわ」
シャム「ああ、ユマが言っていた人だな。こちらに通してくれる?」
ブルネッタ「はい、分かりました」
集会所で会議の準備中だったシャムはユマたちにも同席するよう求めた。
⚔⚔⚔
ユマ「まあ、本当に来てくれたのね。ありがとうございます!」
ヤコス「そりゃ、お酒を奢ってもらったんだから約束はきっちりと守らないとね」
ヤコスはユマやシャムたちに会釈をした。
ユマ「シャムにはすでに話したけど、皆にも話しておくわ。敵のボスであるナーガに関する重要なことなの」
一同はユマに注目した。まもなくナーガと一戦を交えることになるので、できる限り情報を集めておかなければならないから。
ユマ「蛇魔神ナーガが吐きだす紫色の煙を吸うとウサギにされてしまうんだって。でもある宝石を持ってればウサギ化が回避できるらしいの。それでね、ヤコスさんにはその宝石が何かを調べてもらったの」
シャム「ヤコスさん、魔物が危険なのにわざわざ村まで来てくれてありがとう。どんな宝石なのか分かりましたか?」
ブルネッタ「その前に先ずは水でも飲んで一息ついてください」
街から休むことなく急ぎ足で来てくれたのだろう。まだヤコスの息遣いが荒い。
ブルネッタが冷たい水が入ったコップを差し出した。相変わらずよく気遣いのできた少女だ。
ヤコス「ありがとう、喉が渇いていたので助かったよ」
ヤコスはゴクゴクと水を飲み干すと、やおらナーガについて語り始めた。
ヤコス「昔、戦士だったじいちゃんが言ってたんだ。ナーガが吐く紫色の煙を浴びると姿がウサギに変わってしまうと。しかし30秒ほどで元に戻るらしいんだけど、その30秒ほどの間に攻撃されてたいていの戦士は命を落としてしまうらしい。ウサギだと当然弱いし逃げるのも難しいからね。
ただし紫色の煙を吹きかけられてもウサギにならない方法が1つだけあるんだ。『ラピスラズリの欠片』を持っていればウサギ化を防げるらしい。実際俺が試したわけじゃないから真偽のほどは分からないけど」
ユマ「ふうん、永久にウサギから戻れないわけではないのね?」
シャム「わずかな時間で元に戻れるけどウサギ化している間に倒されてしまう可能性が高いというわけか……」
ブルネッタ「『ラピスラズリの欠片』だけど欠片じゃないといけないのですか?」
ヤコス「試したわけじゃないので確かなことは言えないんだけど、じいちゃんが『欠片』と言ってたから、たぶんきれいな宝石だと効き目がないような気がするんだ」
アリサ「そういえば数日前に洞窟で『ラピスラズリの欠片』を1個拾ったわ。魔法の鞄に入ってるよおおおお」
イヴ「確かに1個拾ったね。でも1個だけなので全員のウサギ化対策にはならないわ」
ブルネッタ「幸いラピスラズリはこの国の産物なので村にあると思うの。後から父に聞いてみます。欠片でいいのなら、1個を金槌で砕いて皆が持つといいわけだし」
メグメグ「皆の命を守れるなら村長もきっと承諾してくれると思うわ。私からも村長に掛け合ってみます。ヤコスさん、わざわざ伝えに来てくださって感謝します」
ヤコス「いやいや、同じピエトラの国民として当たり前のことをしただけで」
メグメグ「大したおもてなしはできませんが、よかったら食事をしていってください」
ヤコス「ありがとう。でも今から仕事なので気持ちだけもらっとくよ」
ユマがヤコスに笑顔で語りかけた。
ユマ「ねえ、ヤコスさん、忘れていない? 連絡をくださったらご褒美をプレゼントすると言ったわね」
ヤコス「ああ、覚えているよ。だけど、今は魔物のせいで村も大変なんだろう? 遠慮しとくよ」
ユマ「それじゃ私の気が済まないから。じゃあ、私からのお礼のキスを受けてくれる?」
ヤコス「えっ! ユマさんからのキスをもらえるの!? 気絶してしまうかも知れないけど喜んで!」
ユマ「気絶されたら困るのでほっぺにキスするね」
ヤコス「え~っ!? 少し期待していたのに」
ユマは赤ら顔の男の頬に感謝のキスをした。
ヤコス「俺のようなもてない男にとっては夢のようなキスだったよ。ボーとして今日は仕事にならないかもしれないな。じゃあ、皆さん、がんばってくれよ! 勝利を祈っているよ!」
ヤコスは何度も振り返りながら街に帰っていった。
この後、メグメグとブルネッタは村長に『ラピスラズリの欠片』の一件を説明したところ、二つ返事で承諾を得られた。
アウジリオ「心配しなくていい。この村にはラピスラズリはたくさんある。必要なだけ砕いて出兵する者たち全員に持たせてやってくれ」
メグメグ「村長、ありがとうございます。感謝します」
ブルネッタ「お父さん、ありがとう!」
明日の攻撃に備え、今日の午後1時、いよいよ合同作戦会議が始まる。
午前11時、ついにピエトラ城の魔物を撃退すべくシャムたちの進軍が始まろうとしている。
内応者アリスには午後1時に突入すると伝えてある。
一分一秒でも遅れるとアリスたちを危険に晒すことになる。
秘密の地下道を利用すると40分もあれば城の神殿下まで到達できるが、不測の事態も考えておかなければならない。
今回の攻撃隊長にはシャムが選出された。
メグメグや村長アルジリオたちの推薦もあり満場一致で決定した。
さらに攻撃副隊長には地理地形に詳しいメグメグが選ばれた。
攻撃隊メンバーは自警団から、メグメグ、ブルネッタ等10名。ピエトラ城からはマルツィオ、ジェーロ等10名。シャム軍からは、シャム、イヴ、アリサ、キュー、エリカ、マリア、ウチャギーナ、チルチル、リョマの全員と新たにシャルル、ユマ、エンポリオの3名が加わり12名に膨れあがった。街人からは元戦士など有志が8名。総勢40名となった。
なお村長アウジリオと副団長ルッソは守備隊として村に残ることになった。
メグメグ「村長、では行ってきます。村の守りをよろしくお願いします。ルッソ、村を頼んだよ」
ルッソ「しっかりと守りますので心置きなく魔物を倒してきてください」
アウジリオ「期待しておるぞ。村のことは任せておけ。一応これでも昔はいっぱしの剣士だったからな。万が一の場合は、魔物と刺し違える覚悟はできておるわ。それからシャムさん、皆をよろしくお願いします」
シャム「ああ、大丈夫。魔物は残らず退治してきてやるからな」
相変わらずぶっきらぼうな男だ。
村長はそんなシャムに20センチほどの高さの砂時計を渡した。
シャム「ん? 砂時計をくれるのか?」
アウジリオ「この砂時計は1時間時計になっています。つい先ほど午前11時にひっくり返したので、もう1回返して砂が全部落ちると午後1時です」
アリサ「城のアリスと約束した時間ねええええ?」
アウジリオ「そのとおりです。突撃時間は正確でないといけません。ぜひこの砂時計を持って行ってください」
シャム「そういうことならありがたくもらっておくよ。ありがとう、村長」
シャムたちは『砂時計』をゲットした! 砂時計は最も戦闘頻度が低い者が持つことになった。
シャム「ってことは、チルチルがこの砂時計を持っててくれ」
チルチル「うん、いいよ。1時間経って砂が全部落ちたらひっくり返せばいいんだピョン♫」
メグメグ「そうそう、2往復目の砂が全部落ちたら突入だからね」
シャムたちは手を振る村長や村人たちに別れを告げ、ついにピエトラ村を後にした。
⚔⚔⚔
村の南側は多くの樹木が茂る林が広がり、戦闘前とは思えないのどかな光景を醸し出している。
城に通じる通路の入口へはメグメグが先導することになった。
メグメグ「あそこにすごく高い木が見えるでしょう?」
メグメグの指が指し示す先には、一際背の高い樹木がそびえていた。
常緑樹で幹高は優に10メートルは超えているだろうか。
シャム「あの木がカボックか?」
メグメグ「そうなの、この辺りで一番大きな木があのカボックなの。木の根元に隠し扉があるの」
シャム「その隠し扉は城の宮殿まで通じているんだな?」
メグメグ「そう。では早速開けましょう」
メグメグは自警団員にカボックの根元を指さし、生い茂っている雑草を取り除くよう指示を送る。
瞬く間に雑草が除去されると銅製の扉が現れた。
アリサ「きゃっ! こんな場所に地下通路の扉があるとは驚きいいいい!」
マリア「村の人々はここに扉があるのを知っているのですか?」
メグメグ「いいえ、ごく一部の者しか知りません」
シャム「では入るぞ」
メグメグ「はい、行きましょう」
アリサ「アリスの顔を知っている私が先頭に立って松明を持つねええええ」
シャム「いや、ここからは地下通路に詳しいマルツィオに先導してもらおう」
マルツィオ「はい、私に任せて下さい。松明をもらえますか」
アリサは松明をマルツィオに渡した。
チルチル「ちょっと待って。地下通路に入る前にこれを見てピョン♫」
チルチルが皆に見せたのは、彼らの行動(予定含む)を羊皮紙にまとめたものであった。
午前11時00分 村を出発
午前11時30分 カボックの根っこの扉から地下通路に進入
午前11時50分 20分進んだところで5分間休憩
午前11時55分 再出発
午前12時15分 神殿の下に到着。突入の準備を整え待機
午後01時00分 城内に突入開始
チルチル「シャムたちが話していたことをまとめるとこうなるでピョン♫」
時刻はチルチルが砂時計の目盛から推定したものであった。
シャム「よくまとめたな! チルチル!」
イヴ「すごいわ! 早速砂時計を利用したのね! さすがチルチルちゃんね」
メグメグ「うちの参謀として雇いたいぐらいだわ」
チルチル「えへへ♫」
メグメグ「とはいってもそんなわけにもいかないだろうから、この後も時計係よろしくね」
チルチル「は~い♫ でも砂時計がなかったらどうする予定だったのでピョン♫」
アリサ「私たちに時計がないから、突入の午後1時に従姉のアリスが神殿の床を『コンコンと3回』叩くことになってたのおおおお」
チルチル「そうだったのね。でも砂時計があるから早めに突入の準備ができるから安心でピョン♫」
シャム「時計はアリサには腹時計があるじゃないか」
アリサ「腹時計なんかあてにならないよおおおお」
シャム「アリサは食いしん坊だからな」
アリサ「食いしん坊じゃないもんんんん!」
マルツィオ「ははははは~! 楽しいですね。2人の会話を聞いていると緊張がほぐれました! ではそろそろ行きますか?」
先導役のマルツィオが松明を灯し地下通路に入っていった。
つづいてシャム、アリサ、メグメグの順に中に入っていく。
地下通路の幅が広くないので 隊列は一列で進むことになった。
全員が地下通路に入ったところで、しんがりのシャルルが銅製の扉を内側から閉じた。
地下通路に入ったシャムたちはすぐに水路の存在に気付いた。
ゆるやかに流れる水路の水音と、時折響く水の滴る音が地下通路に反響している。
シャム「水路があるのか?」
マルツィオ「さっきカボックの木があったでしょう? あのカボックから少し南に進むときれいな泉があるんです。実は城の水はその泉から引いているんですよ」
シャム「へ~、城は井戸水ではなくて泉の水を使っているんだ、昔から?」
マルツィオ「いいえ、私が生まれる少し前に大工事が行なったと聞いています。それまでは井戸水を使っていたようですがだんだん水が濁り出したので、新たな水源を探したように聞いています」
シャム「それでこの水路を引いた際についでに地下通路を造ったわけか。父王には先見の明があったんだな。今、こうして利用しているんだから」
マルツィオ「その点は私も同感です。ピエトラ公国は東西を大国に囲まれているので父は常に危機感を持っていたのでしょう」
メグメグ「王様の死は本当に口惜しいですね、あれほど民衆に慕われていたのに。亡き王様のためにも城奪回は皆の悲願です。王子様、がんばりましょう! シャムさん、ご協力よろしくお願いします!」
シャム「頼まれなくてもがんばるよ。それがおいらの役目だからな」
メグメグ「素っ気ないけど、カッコいいですね」
エリカ「シャムさんはあまり褒めるとすぐに調子に乗るのでほどほどにしておいた方がいいですよ、メグメグさん」
メグメグ「アハ、はい、そうします」
エリカ「ところでこの水脈は嬉しいですね」
メグメグ「エリカさんが使う水の魔法と関係があるのですか?」
エリカ「近くに水脈があると魔法の威力がまったく違うのです」
メグメグ「私は魔法が使えないのでよく分からないけど、エリカさんが泉や川のそばで戦うとすごく強いということですね?」
エリカ「まあ、そう言うことになりますね」
メグメグ「あとから拝見できそうですね。楽しみにしています」
シャム「味方の魔法をのんびりと眺めていられるほど余裕はないと思うぞ」
メグメグ「アハハ、ごもっともで」
泉からピエトラ城へと流れる地下水路。シャムたちはそんな水路に併設された地下通路を進軍していく。
岐路がなく一本道なので迷いなく進めるし、何よりマルツィオが案内役というのがありがたい。
石造りの地下通路にコウモリは生息していないし洞窟と違って壁も地面も頑丈で歩きやすい。
それに敵が現れないことが何よりもありがたい。
現れたとしてもどうせ雑魚ばかりと相場は決まっているが、決戦に備えて余分な体力消耗は避けたい。
アリサ「マルツィオ王子、松明、代わるよ。盾を持ちにくいでしょおおおお?」
マルツィオ「ああ、アリサさん、お願いします。もうすぐアリスさんに会えますね? アリスさんはアリサさんと似ているのですか?」
アリサ「似てると言えば似てるし、似てないと言えば似てないかなああああ?」
シャム「どっちじゃ~~~! はっきりしろ!」
マルツィオ「アリサさんに似てかわいい人なのですね、きっと」
アリサ「まあ……(ポッ)」
⚔⚔⚔
正午。ピエトラ城の昼食時、いつもと変わらない平穏な光景が広がっている。
大食堂は魔物たちで賑わい、アリスたち料理番は大忙しだ。
この後起きる信じられないような事態を誰が予測しただろうか。
大食堂には横一列のカウンターがあって3種類の定食という区別がされ、食事を求める魔物たちはそれぞれの列にダラダラと並ぶことになり彼らはそれを喰らうのである。
ただし大食堂で食事をとるのはリザードマンと蛇兵等の下級兵に限られており、幹部のナーガとデルピュネは自室で特別ランチを食している。またゾンビ等のアンデッドは人間や動物の生き血を好むため大食堂にやって来ることがなかった。
蛇兵A「先日、街の教会にめっぽう強い連中が現れて捕えていた王子が連れ去らわれたそうだ」
蛇兵B「知ってるよ。失態を演じたデルピュネ様は立場が悪くなったから、近いうち村に総攻撃をかけるらしい」
蛇兵C「し~っ、声が大きいぞ」
蛇兵D「めっぽう強い連中って自警団のやつらか?」
蛇兵A「いや、自警団の他に見慣れないやつらがいたらしい」
蛇兵D「やつら傭兵でも雇ったのかな?」
蛇兵B「いや、旅人風だったとか聞いたが」
蛇兵A「あんな壊れかけた村を応援するとはよほどの物好きだなあ」
蛇兵C「まったくだ。ははははは~」
昼食を終えて談話室に戻った蛇兵たちに突然強烈な睡魔が襲った。
1人、2人、3人と次々に椅子に座ったまま眠り始める。
日頃から昼寝をする蛇兵がいるので、特に不思議な光景ではない。
蛇兵A「あれ? 今日は昼寝をしているやつが多いなあ。俺もちょっと眠くなってきたぞ……休憩時間はまだあるしちょっとだけ眠るとするか」
蛇兵B「腹いっぱい食べたからかな? 俺もやけに眠いな……ムニャムニャ……」
ついに談話室の椅子が埋まってしまうほどに多くの蛇兵が深い眠りに落ちた。
中には高いびきをかいている者さえいる。
12時30分、幹部のナーガとデルピュネは、アリスたちが昼食に仕込んだ薬で蛇兵たちが次々と眠りに落ちていることなど知るよしもなく、王室で優雅に昼食を愉しんでいた。
ナーガは黒檀の椅子に坐って豪華な料理にフォークを伸ばす。
皿が空になっても料理が次から次に運ばれ、まるで丸焼きの鶏が羽ばたいていくようだ。
ナーガ「人間が使う皿は小さくて面倒ね。早く私好みの食器を魔界から取り寄せたいものだわ」
デルピュネ「閣下、そのためには一刻も早くこの国を征服して生活様式をすべて魔界風に変えなければなりませんね。それまではここにあるもので我慢してください」
ナーガ「『閣下』と呼ぶのはピエトラを征服してからにして。今までどおり将軍でいいわ」
デルピュネ「先走ってしまってすみません」
ナーガ「ピエトラを征服してここを拠点に次々と北の大陸を征服していく。南の大陸はメドゥサオール女王が侵略中なので、いずれ合同軍を構成し地上界すべてを制覇する。それがルシファー様の悲願でもあるからね。そのためにも作戦の失敗は許されないの。分かっているわね、デルピュネ」
デルピュネ「はい、十分承知しております。教会で犯した失敗は二度と繰り返しません」
デルピュネの脳裏に先日の苦い記憶が駆け巡った。大嫌いなハバネロの香りを嗅がされ堪らず退散してしまった。
二度と同じ轍は踏まない。デルピュネは心にそう誓った。
ナーガ「おまえを信じているからね。それはそうと教会に現れた自警団の援軍って何者だったの?」
デルピュネ「詳しくは分かりませんが、メグメグたちが『勇者』と呼んでいました」
ナーガ「勇者だって!? 地上界を守るためゼウス神から魔物討伐の命を受けたと噂の少年か?」
デルピュネ「おそらくそうかと」
ナーガ「そういえば勇者を倒すため大魔王ルシファー様が魔界から刺客を放ったと聞いているわ」
デルピュネ「それは誰ですか?」
ナーガ「セルペンテ伯爵よ」
セルペンテ伯爵と聞きデルピュネは目を丸くしている。
デルピュネ「『地獄の剣士』と恐れられているあの男ですか?」
ナーガ「そうよ、剣を握らせたら魔界随一でしかもハンサムで名うてのプレイボーイ。人間の女と交わるたびに強くなっていくという風変わりな剣士よ」
デルピュネ「しかしセルペンテはメドゥサオール女王の配下ではありませんか?」
ナーガ「そのとおりよ。本来はメドゥサオールの配下なんだけどルシファー様は剣の腕を見込んで彼を闇の将軍に抜擢したの」
デルピュネ「なんと! うかうかしていると彼に北の大陸の覇権を握られる惧れもありますね」
ナーガ「だいじょうぶよ。セルペンテは私には逆らえない。以前彼の命を救ったことがあるから私に恩義に感じているはずよ」
デルピュネ「それならよいのですが。ところでセルペンテは今どこにいるのですか?」
ナーガ「ポルケの街郊外に住んでいるわ」
デルピュネ「地上界でも夜ごと美女を漁って巷を徘徊しているのでしょうか」
ナーガ「女癖の悪さと言ったらあの男の右に出る者がいないからね、おそらくかなりの被害が出ているはずだわ」
デルピュネ「彼と交わった女性は必ずと言ってよいほど死に至るわけですから、街では騒ぎになっているかもしれないですね」
ナーガ「それがセルペンテの狙いなのよ、騒ぎを起こして注目を集め勇者を呼び寄せるという」
デルピュネ「なかなか狡猾な男ですね。しかし勇者だってかなり強いのでは?」
ナーガ「セルペンテ伯爵の剣技に敵う人間は現時点ではいないと思うわ。たとえ勇者でもね」
デルピュネ「いずれにしても勇者打倒は我々の手で果たさなければなりませんね」
ナーガ「そのとおり。いくら信用できると言ってもセルペンテ伯爵に先を越されてしまうと、私たちの立場が悪くなるわ」
デルピュネ「地上界を制圧した後、立場的にメドゥサオール女王に頭が上がらなくなってしまいますよね」
ナーガ「そのとおり、さすがだわ、吞み込みが早いわね」
デルピュネ「自警団だけでなく勇者とその仲間すべてを必ず葬り去ってみせます!」
ナーガ「おほほ、頼んだよ」
そんな会話のさなか、挨拶もそこそこにあわただしく1人の蛇兵が飛び込んできた。
デルピュネ「何事ですか。食事中に無礼ではありませんか」
ナーガ「まあ、いいじゃないの。どうしたの? 顔色を変えて」
蛇兵班長「それが変なのです! 兵士たちが食事をとったあと次々に眠ってしまったのです!」
ナーガ「なんだって!? いったい何があったの?」
蛇兵班長「それが原因不明なんです。かなりの兵士が食後談話室などでグーグーといびきをかいてしまって。起こしてみましたがなかなか起きないのです」
ナーガ「眠り作用のある薬草を口にしたに違いないわ。この時間帯で多くの兵士が眠ったということは……」
デルピュネ「食堂ですね! 食事係の誰かが薬草か薬を持ったに違いありません! すぐに食堂へ行って調べます!」
ナーガ「デルピュネ、もしかしたらこれは食事係1人の仕業ではなく組織ぐるみかも知れないわ。きっと何か企んでいるに違いない……。食堂に行くわ! デルピュネ!」
デルピュネ「は、はい!」
ナーガ「班長! あなたはアンデッドたちに戦いの準備をするように伝えて!」
ナーガとデルピュネは食べかけの食事を置いてあわただしく王室を出ていった。
⚔⚔⚔
12時40分、アリスとキャットバットたちは食堂を放置し、神殿へと向かった。
神殿までは急ぎ足で5分もあれば到着する。
仲間の異変に気付いた敵兵が食堂に押し寄せてくることが明らかなので、一刻も早く食堂を立ち去らなければならなかった。
とは言っても神殿に早く着き過ぎると、地下通路からの突入を察知されてしまいアリサたちを窮地に追い込んでしまう。
神殿に向かう時間は早過ぎても遅過ぎても危険を招きかねないのだ。
アリスたちは絶妙の時機に神殿に向かったように思われたが……
最初に蛇兵たちの異変に気付いたのはリザードマンの頭領リザードマンキャプテンであった。
任務の関係で少し遅れて食堂に行ったところ、食事中に居眠りをしている多くの蛇兵たちを見つけ怪訝に思った。
眠っている蛇兵を揺らしてみたがまったく起きる気配がない。
リザードマンキャプテン「妙だな……? 食事中にこれほど熟睡するとは……しかも1人ではなくこれだけ多くの兵が眠ってしまっている……もしやこれは……」
異変はそれだけではなかった。いつも調理や配膳で忙しく動き回っているネコマータとキャットバットの姿がまったく見えなかった。
リザードマンキャプテン「これは明らかにおかしいぞ! きっと食堂係の連中が何か企んでいるのに違いない!」
リザードマンキャプテンは何食わぬ顔で食事をとっている蛇兵班長に異変を伝え、すぐナーガ将軍に報告するよう命じた。
リザードマンキャプテン「私は眠っていない蛇兵とアンデッドどもを引き連れて食堂係の行方を追うから! よいな、頼んだぞ!」
蛇兵班長「はい、すぐに将軍に報告してまいります!」
上官に命じられ、食事もそこそこにリザードキャプテンに従う蛇兵たち。
同僚たちにも応援を求めにわかに色めき立つ食堂内。
アンデッドたちにも声がかかりリザードキャプテンに従うがいかんせん動きが緩慢だ。
リザードマンキャプテン「食堂の連中はどこに行ったのだ!?」
通りかかった兵士を辺り構わず呼び止め目撃確認を行なう。
蛇兵「食堂係っすか? そうそう、食堂係のアリスは俺のタイプっすね」
リザードマンキャプテン「ばかもの! おまえの好みなど聞いてないわ! 食堂係が通ったかどうかを聞いているんだ!」
蛇兵「失礼しました! ついさっき急いで神殿に向かっているのを見かけましたが……?」
リザードマンキャプテン「神殿に向かったのだな? ええい、おまえも着いて来い!」
蛇兵「えっ? 今から持ち場に戻らないといけないのですが」
リザードマンキャプテン「つべこべ言わずいっしょに来い!」
蛇兵「は、はい!」
⚔⚔⚔
リザードマンキャプテンたちの少し前方を、神殿に向かって足早に進むアリスたちの姿があった。
廊下で何組かの蛇兵たちとすれ違ったが、アリスたちが馴染みの食堂係ということもあり不審に思う者はいなかった。
ただし昼時に食堂係がこぞってあらぬ方向に向かっていることから、どこに行くのかと首をかしげる者はわずかにいる。
蛇兵「あれ? 皆揃ってどこに行くんだい?」
クロエ「ああ、いつもありがとう! 魚が大量に届いたので皆で取りに行くところなの~!」
蛇兵「そうかいそうかい、それはご苦労さんだね~! また美味しい料理を期待しているよ~!」
クロエ「は~い、また食べに来てね~!」
蛇兵は去って行った。
クロエ「全然怪しんでいないみたい」
アリス「彼らは食堂の常連さんだからね。顔見知りだとつい安心してしまうからね」
クロエ「アリサさんたちはもう到着しているかな?」
アリス「たぶん少し早めに来て時間まで待機していると思うわ」
クロエ「わくわくしてきたわ」
アリス「心臓が高鳴ってきたね。絶対に成功させなくては」
…「ちょっと待った!」
その時、後方からアリスたちを呼び止める声が聞こえた。
声の主はリザードマンキャプテンであった。周囲を10人程度の蛇兵が固め、さらにその背後にはうめき声とともに醜い姿のアンデッドが10体以上現れた。
リザードマンキャプテン「食堂の忙しい時間帯なのに皆さん揃ってどこに行くつもりかな?」
アリス「大量の魚の入荷があったので今から取りに行くの。邪魔をしないでくれる?」
リザードマンキャプテン「いいだろう。しかしそっちの方向には神殿があるだけ。魚が神殿に納入されるなんて聞いたことがないな~」
アリス「皆、難癖を付けて私たちの仕事を邪魔するバカトカゲの話なんて無視すればいいわ」
リザードマンキャプテン「おまえたち、いったい何を企んでいるのだ!?」
アリス「何も企んでないわ! さあ皆、行くよ!」
リザードキャプテン「待てっ!」
蛇兵の1人が剣を振りかざし切り込んできた。
キャットバットの1人がヒラリと飛び上がると蛇兵の顔面を引っ掻いた。
爪をもろに受けた蛇兵がもんどりうって倒れ込む。
リザードマンキャプテン「ネコどもを神殿に行かせるな! 何としても阻止するのだ!」
アリス「あなたたちを相呈している暇なんてないの。皆、行くよ!」
アリスたちの前進を阻もうと、蛇兵とアンデッドが容赦なく雪崩のように襲いかかってきた。
両軍入り乱れての混戦となるのか。数の力では圧倒的に魔物側が勝る。
突如アリスが呪文を唱えた。
アリス「コンファンドサーカムロータ~!」
次の瞬間、グールやゾンビが唸り声をあげて一斉に蛇兵に襲いかかった。
蛇兵「や、やめろ! 俺たちは味方だぞ!」
蛇兵たちはやむを得ず剣を奮い襲い来るアンデッドに応戦する。
蛇兵の実力なら噛みつき攻撃しかしてこないゾンビを倒すことは容易だが、相手がグールとなれば一筋縄にはいかない。グールは蛇兵の攻撃をものともしないで折れた剣や槍で反撃してくる。
蛇兵やアンデッドが入り乱れなかなか同士討ちが収まらない。
アリスが唱えた魔法は敵の同士討ちをうながす混乱魔法『バトル』であった。
敵のレベルによって魔法の効果が異なるが、雑魚敵であれば効果は絶大で最大敵の半数を狂わせることができる。
ただし30秒を経過すると効果が消滅してしまう。
ちなみに『バトル』は味方には効果がない。
兵力的にみて明らかない味方が劣勢の場合に高い効果が期待できる魔法といえるだろう。
リザードマンキャプテン「おい、屍人(しびと)よ! おまえたちの敵はあのネコどもだぞ!」
アンデッドの見境のない攻撃の矛先はリザードキャプテンにも向けられた。
襲いかかるゾンビをやむを得ず倒したリザードキャプテンは、剣をかざしアリスたちを攻めろと鼓舞するが混乱中のアンデッドの無軌道ぶりは変わらない。
魔物たちの混乱に乗じてキャットバットたちが攻撃を始めた。
羽根を広げ宙を舞いながら、得意の雷魔法『キャットサンダー』を頭上から浴びせる。
雷魔法をまともに喰らったグールは黒焦げになって転倒する。
小柄なキャットバットだが飛行できる利点を最大限に生かし魔物たちの頭上から果敢に攻撃を行なう。
リザードマンキャプテン「ええい、怯むな~~~!」
リザードマンキャプテンの剣が低空飛行のキャットバットを捉える。
キャットバットA「きゃぁっ~~~!」
床に落下したキャットバットはすでに絶命していた。
クロエ「うっ……よくも仲間を……」
ようやく混乱魔法の効果から解放された蛇兵やアンデッドたちが飛行するキャットバットに攻撃を仕掛けた。
飛行しているとは言っても建物内なのでさほど高くは飛べない。
少しでも低空になると魔物の牙が襲いかかる。
兵力に勝る魔物たちがじりじりとアリスたちを追い詰めていく。
傷つき体力を消耗していくキャットバットたち。
アリスたちの中で唯一ヒール魔法を唱えることのできるクロエが味方の体力回復に大忙しだ。
アリス「クロエ、ここで戦ってても消耗戦になるだけだわ! 早く地下通路の扉がある所まで急ごうよ!」
アリスとクロエ、そしてキャットバットたちが神殿を目指して疾走する。
背後を魔物たちが追いかける。
蛇兵が放った矢がしんがりを務めるキャットバットの背中を射抜く。
キャットバッB「ぎゃっ!」
クロエ「待ってて、今助けるから!」
アリス「ダメ! 辛いけど戻らないで。今は前を向いて扉まで走るしかないよ、クロエ、堪えて!」
疾走するアリスたちだが仲間が、1人、2人と倒されていく。
アリス「もうすぐだわ、何人残ってる!?」
クロエ「私たちを含めてあと5人よ、皆、倒されてしまったわ!」
12時50分、アリスと残った仲間たちはようやく神殿の大広間に足を踏み入れた。
祭壇の床に地下通路に通じる隠し扉がある。
背後から追手が迫ってきているが絶対に追いつかれてはならない。
リザードマンキャプテン「神殿に何があると言うのだ? やつらの狙いは一体なんだ!?」
蛇兵班長「そういえば外部に通じる通路の入口が城内のどこかにあると……城の兵士を拷問した際白状したことがありました。だけどそれがどこなにかは分かりません」
」
彼らの背後から低く不気味な声が聞こえてきた。
デルピュネ「おほほ、アリスたちを生かしてここまで追い詰めたのは正解だわ。もうすぐ彼女たちの狙いが分かるはずよ」
リザードマンキャプテン「これはこれは、デルピュネ様!」
デルピュネ「面白くなってきたじゃないの、おほほほほ」
⚔⚔⚔
12時50分、神殿の地下に潜むシャムたちはアリスのノックを今や遅しと待ち構えていた。
シャム「今何時だ?」
イヴ「さっきから何回聞いているのよ」
アリス「あと10分で1時だよおおおお」
シャム「早めに突入してもいいんじゃないか?」
メグメグ「時間どおり実行するのが賢明よ。もう少しの辛抱だから」
ブルネッタ「え~と、皆、確認するね。蛇が嫌いなハバネロとウサギ化対策用の『ラピスラズリの欠片』は持ってるね?」
マルツィオ「うん、だいじょうぶ。準備は整っている」
⚔⚔⚔
デルピュネ「ちょっと待って……変だと思わない? アリスたちは逃げるだけならわざわざ地下通路を使うかしら?」
リザードマンキャプテン「逃げるだけなら夜陰にまみれて城の裏門から逃げることもできたはずですね。と言うことは別の目的があると!?」
デルピュネ「大変だわ。地下通路を使って敵が侵入してくるかもしれないわ!」
リザードマンキャプテン「それは一大事です! すぐにアリスたちを捕えましょう!」
デルピュネたちはアリスたちを背後から追わず、神殿の横扉から一気に襲撃する方法を選択した。