![]() ファンタジー官能小説『セクスカリバー』 Shyrock 作 |
<メンバーの現在の体力>
シャム 勇者 HP 540/540 MP 0/0
イヴ 神官 HP 470/470 MP 470/470
アリサ 猫耳 HP 480/480 MP 0/0
キュー ワルキューレ HP520/520 MP260/260
エリカ ウンディーネ女王 HP 400/400 MP 510/510
シシ・フリューゲル 女海賊 HP 520/520 MP 0/0
チルチル 街少女 HP 330/330 MP 0/0
シャルル 漁師・レジスタンス運動指導者 HP 570/570 MP 0/0
ウチャギーナ 魔導師 HP 390/390 MP 480/480
ペペ 魔導師 HP 430/430 MP 520/520
⚔⚔⚔
ここはノールの泉。
水浴を楽しむひとりの美しい少女がいた。
その名をウチャギーナといった。
魔女ネイロの孫娘である。
祖母からは想像もできないほどの優れた器量を持ち、明るくて気立てのやさしい娘であった。
厳寒期以外はこのノールの泉で水浴をすることが彼女の慣わしになっていた。
「ルンルンルン~♪ 私がいない間にお客さまがあったらしいけど、こんな島の奥地まで何をしに来たのだろう? 何でも私と同じ年頃の女の子と女の子が数人いたと言っていたわ。どんな子たちかな? 会ってみたいな~。だって、この島は良い所だけど、同年代の子が近くにいないから退屈なんだもん~」
亜麻色の長い髪を櫛で梳かしながら、ウチャギーナはぽつりとつぶやいた。
彼女の話し相手は動物たち。
ヤギ、ヒツジ、コジカ、ノウサギ、タヌキ、キツネ、そして小鳥。
この島の動物たちはウチャギーナの友達なのだ。
⚔⚔⚔
アリサ「にゃう~ん、ノールの泉はもう直ぐかなああああ?」
キュー「にゅう、広い草原を過ぎて小高い丘を越えたらあるってネイロばあちゃんが言ってたよ~」
イヴ「それにしてもこの辺りは自然がいっぱいでのどかなところだね」
シシ「ほんとだよ。大陸では魔物が出没し、人々を愕かせていると言うのにね」
チルチル「シェイドの砦が閉鎖されてからというもの、この島には平和が戻ったみたいだピョン♫」
エリカ「でもまだまだ倒さなければならない敵がいますからね」
キュー「丘の頂上に着いたわ! ほら、向こうに泉が見える! あれがノールの泉じゃない?」
イヴ「きっとあの泉に違いないわ。泉で誰か水浴びしているみたい。あの子がきっとネイロばあちゃんの孫娘じゃない?」
アリサ「その子は何という名前なのおおおお?」
エリカ「ネイロさんが『ウチャギーナ』だと言ってました」
チルチル「何か私の親戚みたいな名前だピョン♫」
シシ「さかのぼったら親戚だったりして」
チルチル「ほんとに?♫」
シシ「例えばの話だよ」
チルチル「なんだぁ~♫」
足音を忍ばせて近づく人影はイヴたちの背後に迫っていた。
その影は10人にも及ぶ。
ノールの泉までの道が曲がりくねっていたために、不覚にもイヴたちは全く気付かなかった。
間近に敵が迫っているとも知らず、丘の頂上からノールの泉を見下ろすイヴたち。
まだ表情まで捉えることはできないが、泉で一人の少女が水浴しているのがはっきりと分かる。
丘の上に立ちこちらを見つめているイヴたちを見て、ウチャギーナは気が動転してしまった。
島の奥地にあるノールの泉に、アマゾネスの女性たち以外、いまだかつて現れたことなどないのだから無理もないだろう。
しかも現在ウチャギーナとしては水浴中であり無防備な状態なのだから。
衣服の置いてある岸辺に急いで戻るウチャギーナ。
そんなウチャギーナに、イヴは自分たちが敵ではないことを告げた。
イヴ「ウチャギーナちゃ~ん! 慌てなくていいのよ~! 私たちは怪しい者じゃないからね~!」
ウチャギーナに安心させるためイヴが坂を少し下ると大声で呼びかけた。
しかし泉の中を進む自身の水音がイヴの声をかき消してしまって、ウチャギーナの耳には届かない。
岸に上がって着替える暇がないと判断したウチャギーナは、裸のまま魔法態勢をとった。
イヴ「拙いわ! あの子、私たちを敵だと思って呪文の態勢に入ったわ!」
チルチル「ひやぁ~! 逃げなくちゃ~!」
アリサ「にゃお~! 大変だああああ!」
キュー「にゅう! ウチャギーナちゃん~! 私たち敵じゃないよ~!」
シシ「か、風の魔法ってそんなにやばいの!?」
⚔⚔⚔
一方、イヴたちの背後まで接近していた黒い人影は今にも彼女たちに襲い掛かろうとしていた。
黒い人影の正体は、ペペロンチーネ伯爵とその手下たちであった。
彼は大富豪だが、狡猾でしかも有名な好色家と言われている。特に地位の高い女性を好むと言われており血眼になってユマ姫を探しているとの噂である。
ペペロンチーネ伯爵「今、またとない良いチャンスが訪れたぞ!」
手下A「どうして今なんですか?」
ペペロンチーネ伯爵「分からんのか? やつらは坂を下った。今、我々は坂の上にいる。上と下が戦ったらどちらが勝つ? 上にいる方が勝つと過去の歴史が教えてくれているではないか」
手下A「なるほど! さすが伯爵ですな~」
ペペロンチーネ伯爵「ふぁっふぁっふぁ~! いやいや、それほどでも無いがなあ。おまえたち、やつらを一人残らず片付けてしまえ~!」
手下たち「お~~~!!」
ペペロンチーネ伯爵軍団は掛け声とともに、一気に坂を駆け下りた。
ペペロンチーネ軍団「おおお~~~~~~っ!!」
シシ「後ろから変なのが現れたわ!? 山賊か?」
エリカ「いいえ、あれはペペロンチーネ伯爵です~!」
キュー「どうしてこんな忙しい時に、パスタみたいな名前のやつが現れるの!?」
チルチル「大変だよ! 下からは風の魔法で狙われ、上からは剣の雨が降ってきたでピョン!」
キュー「にゅう! 私たちはサンドイッチにされたの!?」
イヴ「前門のトラ、後門のオオカミってことね!」
アリサ「や~ん! 2か所責めされるのは嫌だよ! 1人で十分なんだからああああ」
イヴ「アリサちゃん、違うって! この忙しい時に変な勘違いをしないでよ~~!」
ウチャギーナは胸の前で両手をクロスさせ瞑想している。呪文の準備に入った。
ウチャギーナ「アイオリアの神よ~、風の神よ~、我に大気の力を与え給え~! 風魔法ハリケーノス~~~!!」
呪文が唱えられると、どこからともなく風が吹き始めた。
風はやがてつむじ風となり、イヴたちのいる斜面へと向かっていった。
イヴ「きゃあ~! 大変だわ~! あのつむじ風に巻き込まれたら大変よ~! 隠れる場所がないし、みんなとにかく地面に伏せて!!」
アリサ「にゃごぅ~! 地面に伏せたら助かるのおおおお!?」
イヴ「分からないよ! 後ろに変な男たちが待ち構えているので戻れないし~!」
シシ「拙いっ、逃げ場を失ったわ!」
キュー「にゅう、ゴーレムを呼び出せば壁ができるんだけど、召喚魔法を唱える暇がないよ!」
エリカ「前からはつむじ風が襲ってくるし、後ろには男たちが剣を構えているし、困りましたわ!」
チルチル「とにかく地面に伏せるでピョン!」
イヴたちは前方から来るつむじ風をかわすことができないため、無我夢中で斜面に這いつくばった。
まもなくつむじ風に巻き込まれて空中に舞い上がってしまうかもしれない。
イヴたちはこれと言った手立てもないため、地面に這いつくばったまま、ひたすらに風が通り過ぎることを祈った。
ペペロンチーネ伯爵「な、なんだ? あのつむじ風は!?」
手下B「水浴をしているあの小娘が魔法を唱えたようです!」
手下C「うわ~! つむじ風がこっちに向かってくるぞ~!」
ペペロンチーネ伯爵「慌てるでない。つむじ風はあの女どもを狙って放たれたものだ。まもなくあの女どもは空中に舞い上がってしまうぞ。ふぁっふぁっふぁ~! これであの女どもを倒す手間が省けたと言うもの。これで心置きなくユマ姫の囚われている塔に向かえるぞ」
手下D「いいえ、やつらにはまだ男が3人残っております。確かシャムという小僧とほかに2人が」
ペペロンチーネ伯爵「男どもはあとからゆっくりと料理すればよい。まずは女どもを片付けるのじゃ。ふぁっふぁっふぁっ~!」
手下A「それにしても伯爵のユマ姫への想いは凄いですなあ」
ペペロンチーネ伯爵「ユマ姫は私の生涯で最も惚れた女だ。絶対手に入れてみせるぞ」
手下B「だけど1回振られたじゃないですか」
ペペロンチーネ伯爵「バカもの! 1回振られたくらいでこの私が諦めると思うか! 力づくでも私のものにしてくれるわ!」
手下C[ところでユマ姫を捕らえてどんなことをするおつもりですか?」
ペペロンチーネ伯爵「ぶひょ~、よくぞ聞いてくれた。捕らえた後、裸にひん剥いて口に出して言えぬほどいやらしいことをいっぱいするんだもんね~!」
手下B「いやらしいことってどんなことですか?」
ペペロンチーネ伯爵「ふぁっふぁっふぁ~! ベロベロやチュパチュパはもちろんのこと、グチュグチュやズンズン、その他猥褻百貨店のごとく~! あぁ、想像しただけで興奮してきた~! いや~ん」
手下A「きしょぉ……」
手下B「おえっ……」
手下C「ゲボッ……」
ペペロンチーネ伯爵「何か言ったか?」
手下A「いいえ、何にも」
つむじ風から逃げることもできずダメージを覚悟していたイヴたちであったが、予想を裏切りつむじ風はイヴたちの頭上をあっさりと通り抜けていった。
イヴ「えっ、逸れたの?」
チルチル「どうしてピョン……?♫」
アリサ「もしかして助かったのおおおお?」
エリカ「あれ? 通り過ぎましたね」
イヴたちの頭上を通過したつむじ風は、イヴたちを攻撃するために坂を下り始めたばかりのペペロンチーネ軍団を急襲した。
ペペロンチーネ伯爵「ま、まさかっ!?」
手下A「うわっ! つむじ風がこっちに向かってきたぞ~!」
手下B「伯爵の方に向かってる! 伯爵早く逃げてください!」
ペペロンチーネ伯爵「無理だ! 逃げる暇がない!」
ペペロンチーネはイヴたちに倣って斜面に屈みこんだ。
ところがつむじ風はそんなペペロンチーネに向かって容赦なく襲いかかる。
ペペロンチーネ伯爵「うわ~~~~~っ!!」
手下たち「伯爵っ~~~!」
つむじ風の直撃を食らったペペロンチーネが渦の中に巻き込まれてしまった。
ペペロンチーネ伯爵「うわ~~~~~~っ!! 助けてくれ~~~~~!!」
手下たち「大変だ! 伯爵っ!」
数メートル舞い上げられたペペロンチーネは空中で数度旋回し、つむじ風の勢いが弱まるとまもなく地面に落下した。
イヴたちはすさまじい風魔法ハリケーノスをただ呆然と見守っていた。
ペペロンチーネは運よく草木の生い茂った箇所に落下したためになんとか一命を取りとめたのだった。
手下たち「伯爵! だいじょうぶですか!?」
ペペロンチーネ伯爵「ううっ、大丈夫だ。それにしても何と言う魔力の強い娘だ。私をこんな目に遭わしおって」
イヴたちは起き上がるとすぐに戦闘態勢をとった。
イヴ「ウチャギーナちゃんは最初から私たちではなく男たちを狙ってたのね。それにしても恐るべきパワーだわ」
キュー「にゅう、見ず知らずの私たちにも警戒していたと思うんだけど、どうして後ろにいる男たちを狙ったんだろうね?」
エリカ「ネイロさんから私たちのことを聞いていたのかもしれませんね」
シシ「私は人相だと思うよ。美人で善人顔の私たちと、不細工で悪人顔のやつらを見比べたら一目瞭然じゃないの」
アリサ「そうだね、見ればすぐに分かるよねええええ」
チルチル「そういうのを自画自賛っていうんだね?♫」
シシ「グサッ……」
魔法の効果を見届けたウチャギーナは、急いで岸辺まで駆け寄り衣服を身にまとった。
ペペロンチーネ伯爵「いててて……く、くそ……邪魔が入ったか。あの娘はいったい何者だ?」
手下B「だいじょうぶですか?」
手下A「娘の正体はよく分かりません。それにしてもいい身体をしてますな~」
ペペロンチーネ伯爵「バカモノ! そんなことを言ってる場合ではないわ」
手下C「うううっ……足が痛い……」
魔法のダメージはペペロンチーネだけだと思われたが、手下の1人も足を骨折したようで起き上がれそうもない。
ペペロンチーネは傷ついた手下を横目で見ながら、自分はほかの手下たちとともにその場から遁走しようとしていた。
手下C「ううっ……は、伯爵……俺を見捨てて逃げるんですか……ううう……」
傷を負った手下は、自分を置き去りにして逃げようとするペペロンチーネたちを恨めしそうに見つめた。
ペペロンチーネ伯爵「うるさい! 足手まといはいらぬわ! 逃げたいなら自力で着いてこい!」
手下C「なんと薄情な……」
ペペロンチーネはそんな捨て台詞を傷ついた手下に浴びせ、ついにその場から遁走してしまった。
手下C「ううう……くそ……うう、痛い……」
1人残されうずくまっている手下の元に、イヴが駆け寄った。
残された手下は殺されるものと思い怯えている。
手下C「ううう……許してくれ……俺はあのペペロンチーネに雇われて、ヤツのいいなりになってただけなんだ。別にあんたたちに恨みなんかねえ。だから命だけは、命だけは……」
イヴ「勘違いしないで。あなたの命を取ろうなんて思ってないわ」
手下C「では、何を……?」
イヴ「こうよ、白魔法ヒール!」
周囲に白い霧が立ちこめ唖然とする手下。
手下C「あれ? 足の痛みが薄らいできた…… もしかしたら俺を助けてくれるのか?」
イヴ「今回だけよ。またペペロンチーネ伯爵の下で悪事を働いたらその時は容赦しないからね」
手下C「わ、分かったよ! もう伯爵の元で働かないことを約束するよ!」
イヴ「それならいいわ。ここから早く消えて」
手下C「ありがとうございます! この恩は一生忘れません!」
手下が去ると、まもなく衣服を着終えたウチャギーナがイヴたちのところにやってきた。
ウチャギーナ「初めまして、私はウチャギーナよ。あなたたちが来ることは祖母から聞いていたわ」
イヴ「イヴです。私たちが来るとおばあ様から聞いていたの? どうして分かったのかしら」
ウチャギーナ「だって祖母は千里眼だもの」
イヴ「おばあ様は凄いのね。凄いといえば、あなたの風の魔法も凄かったわ。お礼言うのが遅くなったけど悪漢から助けてくれてありがとう」
ウチャギーナ「いいえ、まだまだ未熟者です。でも私の魔法が役に立って良かったわ」
エリカ「エリカです。風の魔法はどこで修行されたのですか? とても驚きました」
ウチャギーナ「祖母から教えてもらいました」
キュー「にゅう、ネイロばあちゃんの魔法ってきっと凄いんだろうな~」
アリサ「初めまして! 私はアリサだよおおおお」
ウチャギーナ「ネコミミの子? かわいいね」
チルチル「ウチャギーナちゃんも可愛いね~。私はチルチルだピョン♫」
ウチャギーナ「ピョン? うふ、まるで私の親戚みたいだね。もしかしたら血がつながってたりして」
会話が弾む中、シシが先程遁走したペペロンチーネたちのことを気にしている。
エリカ「ペペロンチーネを追いかけなくていいの? また襲ってくるかもしれないので、先手を打ってこちらから攻めたらどうかしら? 今ならまだ追いつくよ」
イヴ「シャムたちと別行動はやめておこうよ。ペペロンチーネなんかより、今はもっと大事な目標があるしね」
ウチャギーナ「そうそう、聞こうと思ってたんだけど、私にどんな用事があってここに来たの?」
アリサ「ピンポ~ン~! それそれ!」
イヴ「ぜひあなたの力を貸して欲しいの」
ウチャギーナ「私の力? 誰を倒すの?」
イヴ「戦うのではなく、とある洞窟の祭壇で風の魔法を唱えて欲しいんだ」
ウチャギーノ「とある洞窟? もしかして迷いの洞窟のこと?」
アリサ「当ったりいいいい!」
イヴ「よく知ってるね」
ウチャギーノ「だってあの洞窟は私の幼い頃の遊び場だもの」
チルチル「遊び場なのピョン?♫」
キュー「じゃあ、迷いの洞窟から簡単に出られるの?」
ウチャギーノ「簡単だよ。イヴさんが言ってる祭壇の前で『マ~ヨイ、マ~ヨイ、マ~ヨイ』と3回唱えたらいいだけだよ」
呪文の滑稽さにシシが思わずずっこけてしまった。
シシ「迷いの洞窟だから『迷い、迷い、迷い』なの?」
チルチル「『まあ、良い、まあ、良い、まあ、良い』と聞こえるでピョン♫」
エリカ「『マ~ヨイ』と『まあ、良い』は確かに似ていますね」
キュー「例えば私が唱えてもいいの?」
ウチャギーノ「たぶんダメだと思う。祭壇に向かって風を起こさなければならないの」
アリサ「それじゃウチワで扇いでもいいのおおおお?」
ウチャギーノ「それじゃ効果がないわ。魔法の風を起こさないといけないの。祭壇のキマイラに風が当たると裏側の岩に隠れている扉が開く仕掛けになってるの」
アリサ「ええええ~!? 祭壇の裏側の岩に扉が隠れてるの!? それはびっくりいいいい!」
イヴ「驚いたわ! いくら探しても見つからないはずだわ」
キュー「早くシャムたちに伝えないと」
イヴたちはウチャギーナとともにシャムたちの待つネイロの洞窟へと戻っていった。
イヴ「ネイロおばあちゃん、ただいま~! ウチャギーナちゃんといっしょに帰ってきたよ~!」
ネイロ「おお、会えたか? それはよかった」
ウチャギーナ「おばあちゃん、ただいま~!」
ウチャギーナの姿を見て突然驚嘆の声をあげるシャム。
シャム「おおっ!」
ウチャギーナ「?」
シャム「おおお~~~っ!」
ウチャギーナ「……?」
シャム「おおお~~~~~~っ!」
ウチャギーナ「んっ……??」
ネイロ「シャムよ、どうしたのじゃ? もしかして2人は顔見知りだったのか?」
シャム「いや知らん」
ネイロ「おっとっと!」
ネイロはひっくり返りそうになった。
ネイロ「なんじゃ、顔見知りかと思ったわい」
シャム「いや~、あまりに可愛かったもので、つい」
ウチャギーナ「まあ……」
ウチャギーナの頬は、シャムたちが持参したリンゴのように紅く染まった。
ウチャギーナは僻地で育ったこともあって、生まれてこの方若い男性に出会ったことがなかったのだ。
そのためネイロは年頃になったウチャギーナの見聞を広めるため、機会があれば一度島外へ旅に出したいと考えていた。
ネイロ「ウチャギーナ、よく聞くのじゃ」
ウチャギーナ「はい、おばあ様」
ネイロ「なぬ? いつも『おばあちゃん』とか『ばっちゃん』とか、機嫌の悪いときは『こら~! くそばばあ~!』とか言ってるくせに、今日はやけに上品ぶっておるではないか? はっはあ~、さては、ここに年頃の男たちがおるからじゃなあ?」
ウチャギーナ「や~だ~、私、決してそんなお下劣なことは言ってないわ~」
ネイロ「ほっほっほ~、嘘をつくでない。まあ、良いわ。そんなことよりも本題に」
ウチャギーナ「はい」
ネイロが話題を切り替えてくれたので、ほっと安堵の胸を撫でおろすウチャギーナ。
ネイロ「ウチャギーナ、よく聞くのじゃ」
ウチャギーナ「おばあちゃん、そのセリフは2度目」
ネイロ「まあ、いいではないか。年をとると、くどくなることもあるのじゃ。軽く流せ、軽く」
ウチャギーナ「はい、軽くね」
ネイロ「どうも話しにくい娘じゃのう。わしの孫じゃと言うに」
ウチャギーナ「それで本題ってなに?」
ネイロ「うん、シャムたちは、大地にはびこりし魔界の悪党どもを倒すために旅をしておる。1つ目の目的はユマと言うムーンサルトの姫君を救うことじゃ。2つ目の目的は邪神メデューサを成敗すること。そして究極の目的は魔界の王ルシファーを倒すことにあるのじゃ。それが救世主に課せられた使命なのじゃ。そこでじゃ、ウチャギーナ、おまえはシャムたちとともに旅に出て世界を救うのじゃ」
ウチャギーナ「私の魔法を役立てる時がついにきたということね。おばあちゃん、私、シャムさんたちといっしょに旅をするわ!」
ネイロ「そうかそうか、さすがわしの孫娘じゃ。物分りが良いのぉ。ほっほっほ~」
ウチャギーナ「最初は何をすれば良いの?」
ネイロ「おまえが幼い頃、よく遊んだあの迷いの洞窟にシャムたちといっしょに行き、祭壇の前で風の呪文を唱えるのじゃ」
ウチャギーナ「出口を開くために使う『マーヨイの呪文』のことね?」
ネイロ「そうじゃ」
ウチャギーナ「直ぐ行く?」
世界を救うためという言葉がウチャギーナの心に火をつけた。
シャム「行く行く行く~~~!」
イヴ「シャムが言うとエロく聞こえるのは気のせいかしら」
エリカ「いいえ、気のせいではありません。私もいやらしく聞こえました」
シャム「褒められると嬉しいな~!」
イヴ「褒めてないし」
エリカ「かなりの勘違いですね」
イヴとエリカは顔を見合わせニコリと微笑んだ。
シャム「じゃあ、出発だ~!」
ネイロ「みんな、ウチャギーナをよろしく頼むぞ」
チルチル「ウチャギーナちゃんと仲良くするから安心してピョン♪」
キュー「ネイロばあちゃん、心配しないで。ウチャギーナちゃんは強い子だから」
ウチャギーナ「おばあちゃん、それじゃ行って来るね!」
ネイロ「気をつけてな……くすん」
ウチャギーナ「泣かないで、おばあちゃん。私、大丈夫だからね」
ネイロ「ふん、わしは泣いてなんかおらんわ。目にゴミが入っただけじゃ」
ウチャギーナ「うふ、相変わらず強がりなんだから」
シャム「目にゴミが入ったのか? ここの掃除が足りないんじゃないの?」
イヴ「シャム、余計なことを言わなくていいのよ、ネイロおばあちゃん、ごめんなさいね」
⚔⚔⚔
かくしてウチャギーナはシャムたちと合流し、迷いの洞窟を目指すことになった。
ウチャギーナがメンバーに加わった!!
シャム「あ~あ、またあの底なし沼を渡らなければいけないのか。うんざりするなあ」
ウチャギーナ「大丈夫。『ショートカットの羽根』を使えば直ぐに沼の向こう側に行けるよ」
シャム「なんだ? その『ショートカットの羽根』って」
ウチャギーナ「一度行ったことのある場所なら行程を短縮できる優れものなの。さっき、おばあちゃんに3本もらって来たので、今日1本使おうよ」
チルチル「へ~、そんな便利なものがあるんだピョン♪」
シャムたちがネイロの洞窟を出て歩き始めると、遥か向こうから、赤いバンダナを頭に巻いた男が急ぎ足でやって来た。
タルージャ「おかしら~! ここにいたのですかい~! みんなで手分けして島中探しましたぜ~!」
タルージャとはシシが海賊の頭領をしていた頃の手下の1人である。
シシ「おお! おまえはタルージャではないか? どうしたの?」
タルージャ「へい、海峡の悪人官僚もいなくなり、俺たちとしても海賊を続ける必要もなくなったので俺たちも海賊を解散したのですが、俺たちがいなくなったことを良いことに、海賊稼業を始めたクソ野郎がおりやして、一般の貨物船や旅客船を頻繁に襲ってやがるんですよ」
シシ「つまり別の海賊が現れたというのね?」
タルージャ「そうなんっす。でね、ぜひお頭の力をお借りしてやつらをやっつけたいのです。何とかお力になってくれませんかね?」
シシ「そんなことを言っても、私はすでに海賊から足を洗った身だよ。いまさらそんなことを言われてもねえ……」
タルージャ「そうですか……無理っすか……。確かにお頭がおっしゃるのはごもっともだ。仕方ねえっす、俺たちで何とかやってみます」
その時、会話を聞いていたシャムがポツリとつぶやいた。
シャム「シシ、行ってやれば?」
シシ「えっ? でも私は海賊から足を洗った身だし、しかも今はシャムたちと魔界の悪党どもを滅ぼすために旅をしているのよ」
シャム「人々を困らせている海賊を退治することも平和のためだ。シシ、行って来いよ。おまえの力は欲しいけど、新たにウチャギーナが仲間に加わったことだし、おいらたちは大丈夫だから」
シシ「本当に行っても構わないの?」
シャム「おいらたちのことは気にしないで、思う存分海で暴れて来てくれ」
シシ「分かったわ。シャムがその言葉で気持ちが固まったよ。私、行って来る」
シャム「シシ、おまえの力が必要になったら鳩を飛ばすから、その時はぜひ力を貸してくれ」
シシ「分かった。いつでも声をかけてね。必ず帰って来るから」
シャム「それじゃ、元気でな」
シシ「みんなも元気でね。じゃあね、シャム」
シシは涙を浮かべてシャムに抱きついた。
そして、人目も憚らず、熱い抱擁とキスを交わす。
シャムたちがシシに別れを告げると、シシは手下のタルージャとともに去っていった。
シシがメンバーから外れた!!
⚔⚔⚔
シシと判れた後、シャムたちが底なし沼に向かって一歩踏み出したとき、ウチャギーナが『ショートカットの羽根』の使用を提案した。
ウチャギーナ「この辺でいいかな? 今から『ショートカットの羽根』を使うので、みんな、私の身体にしっかりと掴まってて!」
チルチル「どこに掴まればいいのでピョン?♫」
ウチャギーナ「身体でも服でもいいので掴まって。もしも掴まり損ねたら置き去りになっちゃうよ~」
キュー「にゃふ~、それは困る。じゃあ、私、ウチャギーナちゃんの腰の帯に掴まろうっと!」
エリカ「じゃあ、私は肩に掴まろうかな~」
ペペ「私は男なのでちょっと遠慮して、衣の袖に掴まります」
シャルル「俺はちょっと失礼して腕を握ることにします」
イヴ「持ち物でもいいの? じゃあ私はウチャギーナちゃんの杖を握ってるね」
アリサ「イヴさんは長いモノを握るのが大好きだにゃああああ」
イヴ「その言葉をそのままアリサちゃんに返すわ~」
アリサ「わあ~、言葉が跳ね返ってきた! いててててて!」
イヴ「痛いわけないじゃないの。うふ、まったく冗談の絶えない子なんだから」
アリサ「イヴさんが杖の上のほうなので、私は杖の下のほうを握ろうかなああああ」
イヴ「やっぱりあなたも長いモノが好きじゃないの」
チルチル「私は少し屈んでウチャギーナちゃんの足首に掴まるでピョン♫ あれ? シャム、そんなところに掴まってもいいの?」
ふと見ると、シャムはウチャギーナの乳房をしっかりと握っているではないか。
ウチャギーナ「きゃあ~~~~~~! エッチ~~~~~~!」
シャム「何だよ。チルチルに言われるまで気づかなかったくせに。意外と鈍感なんだなあ」
ウチャギーナ「オッパイを掴んだうえに、鈍感だなんて失礼しちゃうわ~! 私、これでも敏感なほうなのよ。他に気を取られてて気づかなかっただけ!」
シャム「うへ~、こっぴどく叱られたなあ。じゃあ、オッパイをやめて太腿を握ろうかな?」
シャムはそうつぶやくと、ウチャギーナの下半身に視線を注いだ。
ウチャギーナ「いいえ、さらなる危険を感じるのでこのままでいいわ。一瞬なので我慢するわ」
シャム「一瞬なの? 急がずゆっくり行こうよ~。この感触気に入ったから」
イヴ「シャム、何をバカなことを言ってるの」
アリサ「ふ~! バリバリ引っ掻くぞおおおお」
シャム「ああ、こわ……じゃあ、そろそろ行こうか?」
ウチャギーナ「みんな準備はいいかな? 今から『ショートカットの羽根』を投げるよ~!」
キュー「にゅう、初体験だわ。楽しみ~」
『ショートカットの羽根』がウチャギーナの手から放れ、宙を舞った。
瞬く間に、周囲が真っ白な霧に覆われ何も見えなくなってしまった。
まるで雲にでも乗ったような感覚に陥る。
シャム「ありゃ? 足が地面から離れてる感じ!」
キュー「にゃっ! 一体どうなっているの?」
ウチャギーナ「心配しないで! すぐに迷いの洞窟の入口に到着するから」
チルチル「何だか旅気分だピョン~♫」
エリカ「チルチルさんはこのような異空間越えは平気なのですか?」
チルチル「私、遊園地が大好きなのでピョン♫」
シャルル「遊園地? 今の時代にそんなものがあったかな……?」
周囲が見えないため感じないが、おそらくすごい速さで時空を飛んでいるのだろう。
ウチャギーナ「あのぅ、オッパイを握り過ぎなんですけど……」
アリサ「もう、シャムったらエッチいいいい! 早くウチャギーナちゃんのオッパイを放しなさいよおおおお!」
シャム「えっ? 放せと言われても、今放すとどうなるんだ~?」
ウチャギーナ「そうね。時空の狭間に落ちてしまって二度とこの世界には戻れないと思うわ」
シャム「げげっ! そんなのやだよ~! 絶対に放すものか!」
乳房を握る手にひときわ力がこもる。
これ以上強く握られては堪ったものではない。
ウチャギーナ「いたたた~! ちょっと強すぎるよ~! もっと優しく!」
シャム「この混乱時にそんな注文をつけられてもな~!」
イヴ「もう、シャムったら、私の耳元でブツブツとうるさいんだから! もっと静かに乗車してよ~」
シャム「乗車って……コレ乗り物か?」
イヴ「みたいなものじゃないのかな? あははは……」
ガヤガヤと騒いでいるうちに、大地を踏みしめる感覚がよみがえった。
どうやら無事に時空を駆け抜けたようだ。
ウチャギーナ「さあ、着いたわ!」
ウチャギーナの掛け声とともに、彼女に掴まっていた手が一斉に解かれた。
だがウチャギーナから離れずしつこくしがみついている者がいた。
言うに及ばずそれはシャムであった。
図々しくも目を閉じてタヌキ寝入りをしている。
ウチャギーナ「シャムさん? もう目的地に着いたんですけど……」
乳房を掴んだままで、なかなか外そうとしないため、ウチャギーナは困惑している。
ウチャギーナ「シャムさん……むむむ……シャム~~~! オッパイから手を放せ~~~!」
それでも執拗に狸寝入りをしているシャム。
シャム「ん……? ん? ん? ムニャムニャムニャ……な、何か用か……?」
イヴ「下手な芝居をするな~! こんなわずかな間に眠れるはずないじゃないの」
シャムの耳をギュッとつねるイヴ。
シャム「いて~っ! やめろ~!」
イヴ「シャム、着いたよ~」
イヴは微笑みを浮かべながらシャムの耳元でささやいた。
だけど目は笑っていない。
シャム「もう着いたの?」
シャムたちの周囲に立ち込めていた霧はいつの間にか消え、ふと見るとそこは迷いの洞窟の正面に立っていた。
1度目の洞窟探索では苦労のすえ脱出はできたが、出口の謎を完璧に解いたわけではない。
しかし2度目の今回は風の魔導師ウチャギーナという強力な援軍が得られたので、なんとか脱出に成功し山頂を目指したい。
アマゾネスの村で食料と松明を、ネイロの洞窟で水を補給してきたので、万全の態勢で臨むことができる。
今回の隊列は、迷いの洞窟を熟知しているウチャギーナを先頭に、シャム、アリサ、イヴ、ペペ、チルチル、エリカ、キュー、シャルルの順で進入することになった。
シャム「2度目だけどやっぱりこの洞窟は嫌いだな~」
アリサ「シャムがそんなこと言ってどうするの。今度はウチャギーナちゃんがいるから大丈夫だよおおおお」
エリカ「念のため一応赤い粉を付けておきましょうか?」
ウチャギーナ「みんな心配しなくていいよ~! この洞窟は私が幼い頃、よく遊んでいた場所なの。だから庭のようなものなの~」
キュー「にゅう、じゃあ大船に乗ったつもりでウチャギーナちゃんに着いて行こう」
ペペ「脱出の瞬間が楽しみになってきましたね」
先頭はウチャギーナだが、ここはチームキャプテンのシャムが号令をかける。
シャム「よし! では穴に突入~!」
アリサ「シャムが言うとエロく聞こえるのはどうしてかなああああ」
イヴ「連想するほうがエロいと思うんだけど」
アリサ「イヴさんは全然想像しなかったああああ?」
イヴ「少しはしたけど……」
チルチル「な~んだ。同じでピョン♫」
うしろから聞こえてくる明るい声に、ついウチャギーナの表情がほころんだ。
ウチャギーナ「なかなか愉快な女の子たちね」
エリカ「たまに愉快を通り越して過激になるときもあるんですよ」
キュー「戦いに明け暮れる毎日、エッチな会話は適度な清涼剤かもね」
迷いの洞窟の出口を探索しているにもかかわらず、一行にはどこか和らいだ雰囲気が漂っていた。
そうは言っても洞窟特有の湿ってひんやりとした空気は、快適なものとは言えなかった。
一度通った通路だが、どの辺りを通過しているのか分からなくなってくる。
今はただ道案内役のウチャギーナの後を遅れないように着いて行くだけだ。
一行は時折談笑を交わしながらも周囲への注意を怠ることはなかった。
シャム「ウチャギーナはこの洞窟で遊んでいた頃、よく迷子にならなかったなあ」
ウチャギーナ「いつも同じ場所で遊んでたら、自然に隅々まで覚えてしまったよ」
シャム「どんな遊びをしてたんだ?」
ウチャギーナ「そうね、よく鬼ごっこをしたわ」
シャム「その頃の友達は今どうしてるの?」
ウチャギーナ「みんなこの島から出て行ったよ。今何をしてるのか知らない」
シャム「この島は自然がいっぱいだし、人が暮らすにはすごく良い環境だと思うんだけど、どうして出て行ったの?」
ウチャギーナ「食べていくためよ。この島には仕事がないもの。それと賑やかな街への憧れかな?」
シャム「ウチャギーナも街に行ってみたいか?」
ウチャギーナ「よく分からないの。だって私、この島から一度も出たことがないから」
シャム「それならおいらたちと旅に出て、街が良いか島が良いかを決めればいいんじゃないか?」
ウチャギーナ「まあ、嬉しい! あちこち行きたい!」
イヴ「でも旅は遊びじゃないのよ。厳しい戦いが待ってると思うけどウチャギーナちゃん、だいじょうぶ?」
ウチャギーナ「任せておいて!」
アリサ「ウチャギーナちゃんすごく頼もしいねええええ」
一行が語らないながら進んでいると、まもなく祭壇がある場所に到着した。
それにしても信じられないくらい短時間で到着してしまった。
実際には大した距離ではなかったのかもしれないが、試行錯誤を繰り返していると恐ろしく時間がかかることがあるものだ。
『迷いの洞窟』に限らず、洞窟にはそういった特質があるのかもしれない。
ウチャギーナは祭壇の前に立った。
ウチャギーナ「ここに来るのは何年ぶりかしら。昔とちっとも変わっていない」
エリカ「その場所で風の呪文を唱えるのですね?」
ウチャギーナ「そうよ。じゃあ始めるね」
シャムたちは息を潜めてウチャギーナを見守っているが、当事者であるウチャギーナはまったく緊張している様子がない。
ウチャギーナは杖を頭上に翳して呪文を唱え始めた。
ウチャギーナ「風の神よ~! ラビテューヌスの神よ~! 我に力を与え給え~! 迷いの心は風と共に去りぬ~! マ~ヨイ~! マ~ヨイ~! マ~ヨイ~!」
シャム「ん? 『風と共に去りぬ』とか、どこかで聞いたことあるような……」
チルチル「チルチルもどこかで聞いたことあるでピョン♪」
キュー「にゅう、シャム、チルチルちゃん、2人とも静かに」
ウチャギーナが呪文を唱えると、いずこともなく小ぶりだが漆黒のつむじ風が巻き起こり、祭壇に向かって吹きつけた。
しかし祭壇や洞窟内の各所に特にこれといった変化は見られない。
シャムたちは無言で経過を見守っている。
まもなくどこかで「カタン」という小さな音がした。
シャム「……?」
シャルル「……?」
アリサ「……!?」
それは明らかに鍵が開く音であったが、その音はあまりにも微弱で耳を澄ましていてもはっきりと聴きとれる者はいなかった。
唯一聴覚の鋭い猫耳のアリサを除いては。
ウチャギーナ「終わったわ」
ウチャギーナはポツリと告げた。
シャム「終わったと言われても、何が起きたのかさっぱり分からないぞ」
キュー「祭壇も神体も元のままだし、一体どこに変化が起きたの?」
ウチャギーナ「ある扉の鍵が開いたの」
シャム「ある扉って……扉なんてどこにもないぞ?」
シャムたちはキョロキョロと周囲を見回している。
アリサ「でも私にははっきりと聞こえたよ。カチャリと鍵が開く音だったけど、どこかは分からないよおおおお」
ペペ「本当ですか? 僕には何も聞こえませんでした」
ウチャギーナ「すごい! アリサちゃんってすごく耳がいいのね~! 実はね、シャムさんたちが言うように、私たち人間には聞こえないほどの小さな音なの。アリサちゃんは本当にすごいね~!」
シャム「感心ばかりしてないで早く扉のある場所を教えてくれよ~」
ウチャギーナ「うふ、せっかちね~。こっちだよ!」
ウチャギーナはシャムたちに杖で合図を送ると、突然速足で歩きだした。
慌ててウチャギーノの後を追う仲間たち。
先頭から離れることは、明かりから遠ざかることを意味するので、みんな必死だ。
こんな洞窟で置いて行かれたら大変なことになる。
歩けど歩けど狭い通路が続くばかり。
一体どこに扉があると言うのか。
それから5分ほど歩いただろうか、少し広い場所に到着した。
初めて来た場所のようだ。
いや、もしかしたら先に来たときに通過した場所かもしれない。
ウチャギーナ「ここに扉があるの」
ウチャギーナは岩壁の前に立ち指を差した。
どう考えても扉があるようには思えない。
イヴ「え? 私にはただの壁しか見えないんだけど……」
チルチル「どこに扉があるのでピョン?♫」
ウチャギーナ「壁の向こうにあるの」
エリカ「えっ、それってどういうことですか?」
ウチャギーナ「さっき、私が呪文を唱えた場所を覚えてる?」
シャルル「祭壇と神体があったところだよな?」
ウチャギーナ「そう、この壁はさっき呪文を唱えた場所からずっと延長線上にあるの」
ウチャギーナは壁を指し示す。
キュー「にゅう、つまり魔法の効果がここまで及んだってこと?」
ペペ「でもこの壁、びくともしていないように思うのですが」
ウチャギーナ「ちょっと触れてみて?」
次の瞬間、シャムがウチャギーナの胸に触れた。
ウチャギーナ「違うよ~! 胸ではなくてこの壁だよ~! 壁を触れてみて~~~!」
シャム「わっ! 耳元でそんなに叫ばなくてもおいらにはちゃんと聞こえてるから~」
ウチャギーナ「もしかしてシャムさんってオッパイフェチ?」
イヴ「う~ん、別にオッパイフェチというほど、オッパイに執着心のある男でもないんだけどねぇ」
アリサ「女の子の身体は隅々まで、ぜ~んぶ、ぜ~んぶ、好きだもんねええええ」
キュー「にゅう、それって全身フェチっていうの?」
エリカ「全身の場合はフェチとは言わないと思いますけど」
チルチル「そう言えば、この前、野宿したとき、シャムは私のお尻を……」
シャム「えっ? 尻取りをした話か? 今はそんなことより壁だよ~、早く扉を見つけなくては!」
とっさにチルチルの口を塞ぐシャム。
チルチル「んっ、んぐんぐ……」
シャム「それじゃ、おいらが壁に触れるぞ~!」
チルチル「ぷふ~、苦しかったぁ……シャム、酷いでピョン♫」
シャムは壁に接近した。
固唾を飲んでじっと見守る仲間たち。
シャムが触れるやいなや壁が一部崩れた。
シャム「おおお~~~っ!」
一部崩れると連鎖反応を起こしたかのように、不気味な音を立てながら次々に崩れていく。
シャルル「なんと~~~っ!」
さすがに魔法を唱えた当人のウチャギーナは平然としているが、ほかの者はその顕著な光景に開いた口が塞がらない様子である。
そして壁が崩れ去った後に現れたのは、頑丈そうな鉄の扉であった。
かなり古い物なのか錆びてはいるが扉としての効果は全く失われていないようだ。
ウチャギーナ「シャムさん、開けて」
シャム「鍵は?」
ウチャギーナ「開いているよ。さっきの魔法で鍵を開けたから」
シャム「なんと!」
仲間たちが見守るなか、シャムは一歩進み出て、扉の取っ手を握った。
きしむ音とともに重い扉がわずかに開いた。
次の刹那、一筋の光が洞窟内に差し込んだ。
キュー「きゃあ~! 眩しい!」
ウチャギーナ「みんな、まともに光を見ないで! 目を細めて!」
ついに扉が全開し洞窟内を煌々と照らした。
イヴ「ウチャギーナちゃん、教えて。魔法の威力で壁が崩れたのは分かるわ。でもどうして鍵を開けられたの? 私にとってそれは謎なの」
ウチャギーナ「それは簡単よ。魔法を唱えた場所を思い出してみて?」
イヴ「確かキマイラが祀ってある祭壇の前だったよね」
ウチャギーナ「そう、実はあの場所がポイントなの」
イヴ「つまり壁を壊すことよりも、祭壇のどこかが目的で魔法を唱えたというわけね?」
ウチャギーナ「そのとおりよ! 祭壇にあった神体のキマイラ像に魔法の風を当てることが目的だったの」
イヴ「ん?でも神体のキマイラは特に何も変化なかったと思うんだけど……」
ウチャギーノ「いいえ、あったわ」
イヴ「えっ? どこに!?」
ウチャギーナ「キマイラ像の足の裏よ」
イヴ「なんとっ!? それは気づかなかったわ!」
ウチャギーナ「昔、この仕掛けを考案した人が、きっと簡単に見破られないように工夫したんだと思う」
古代人の仕掛けに興味をいだいたイヴが突然祭壇に戻りたいと言った。
イヴ「面白そう! 私、戻って見てくる! チルチルちゃん、あなたもいっしょに来て!」
チルチル「え~~~っ? 外に出られたのにまた戻るの? でもイヴさんの頼みなら付き合うでピョン♫」
ウチャギーナ「ちょっとちょっとあなたたち! ペルセ山頂で目的を果たしてから帰りに寄ればいいじゃないの」
イヴ「ウチャギーナちゃんごめん、すぐに戻るから!」
ウチャギーナはホテルのドアマンのように扉を支えていたが、瞬く間にイヴはチルチルを伴い再び洞窟の中に戻って行った。
ウチャギーナ「あらら、入って行っちゃったあ」
アリサ「ウチャギーナちゃん、イヴさんとチルチルちゃん、どうして中に戻ったのおおおお?」
いきさつを説明するウチャギーナ。
アリサ「へ~、そうなんだ、私もいっしょに行けばよかったなああああ」
キュー「アリサちゃん、ウチャギーナちゃん、シャムたちがこの先で休憩しているから行こうよ。イヴさんたち、すぐに帰ってくると思うよ」
ウチャギーナ「うん、喉が渇いたし私もシャムさんの所に行くわ」
キューに誘われシャムたちの所に行こうとしたウチャギーナは、次の瞬間扉から手を放してしまった。
ウチャギーナ「あっ、いけない! この扉、中からは風の魔法を使わないと開かなかったわ!」
キュー「それは大変!」
ウチャギーナ「でも大丈夫。外からだと、ほら、魔法を使わなくてもこうして開くの」
アリサ「それなら安心だね。私が扉番をしているから、みんな休んできてええええ!」
キュー「にゅう、アリサちゃん1人に任せるのも悪いから、3人で待ってようよ」
3人がガールズトークに花を咲かせていると、まもなくイヴとチルチルが洞窟から帰ってきた。
イヴ「ただいま~!」
チルチル「ただいまでピョン♫ 洞窟にウチャギーナちゃんがいないとやっぱり不安だったよ~」
キューがふと見るとチルチルの手には何やら小さな指輪が光っている。
キュー「にゅう、その指輪、どうしたの?」
チルチル「洞窟で拾ったでピョン♫」
キュー「ちょっと見せて」
指輪を念入りに調べるキュー。
光に当てると遊色に輝きまるで虹のようだ。
キュー「う~ん、これってオパールだね。おそらく昔この洞窟を訪れた冒険者が落としていったのではないかな」
チルチル「オパールってなに?」
キュー「宝石の一種だよ」
チルチル「宝石? わ~い、やったでピョン♫ シャムに渡さないと」
イヴ「チルチルちゃんがもらっておけばいいんじゃない?」
チルチル「いいえ、イヴさんといっしょに見つけたので、ここは魔法を使うイヴさんが着けるべきかと♫」
アリサ「2人とも譲り合うなら私がもらおうかなああああ?」
キュー「それじゃまるで漁夫の利というか、アリサちゃんだから猫耳の利か?」
オパールの指輪は果たして誰の指に煌めくのだろうか。
ウチャギーナ「じゃあ、こうしようよ。オパールは10月の誕生石なので、10月生まれの人がもらうということでいかが?」
キュー「それはいい案だね。ちなみに私は12月の山羊座だよ」
アリサ「にゃう~ん、私は4月の牡牛座ああああ」
イヴ「2月生まれで水瓶座」
ウチャギーナ「私は11月の射手座。チルチルちゃんは?」
チルチル「え~と、え~と、10月生まれの天秤座でピョン♫」
ウチャギーナ「まあ、10月生まれなんだ! ちなみにエリカさんなお誕生月は?」
イヴ「確か11月で射手座だったと思うわ」
ウチャギーナ「じゃあチルチルちゃんがゲット~~~!」
チルチル「わ~い! 嬉しいな~♫ ん? でもシャムも同じ10月なんだけど」
イヴ「そういえばシャムは10月生まれだったね。でも彼は指輪に興味がないのでチルチルちゃんが着ければいいと思うよ」
キュー「じゃあチルチルちゃんに決定~~~! おめでとう~~~!」
アリサ「チルチルちゃん、おめでとうううう!」
チルチル「ありがとう~! じゃあ早速填めてみるでピョン!♫」
チルチルはオパールの指輪を填めた!
チルチルの知力が『5』アップした!
イヴ「よくお似合いよ。チルチルちゃん」
キュー「にゅう、やったね~」
ウチャギーナ「填め心地はいかが?」
チルチル「とってもいい填め心地でピョン♪」
アリサ「填め心地? すごく刺激的な言葉だにゃあ。しばらくシャムに填めてもらってないので、また填められたいなああああ」
ウチャギーナ「えっ……? アリサちゃんとシャムってそういう関係だったの?」
アリサ「そういう関係? 私だけじゃないよ~。ここにいる女の子はみんな、そうなのおおおお」
ウチャギーナ「えええ~~~~~~!! 驚いたっ!! あなたたちってそんなに、ふしだらで、みだらで、じだらくで、だらしがなくて、身持ちが悪くて、はしたなくて、淫蕩で、破廉恥で、エロくて、スケベーな関係だったの!?」
ウチャギーナはシャムと仲間の女性たちが、日々自由奔放に性を謳歌している者たちであるかのような思い込みをしてしまった。
性経験のないウチャギーナではあったが、親しいアマゾネスから男女の交わりについて知識を得ていたので、性に関して頭では理解していた。
アリサ「違うよ、そんなんじゃないよ! 私たちは、ふしだらで、みだらで、じだらくで、だらしがなくて、身持ちが悪くて、はしたなくて、淫蕩で、破廉恥で、エロくて、スケベーな関係なんかじゃないよおおおお!」
イヴ「『チンヒール』のことをウチャギーナちゃんにまだ言ってなかったね。私からちゃんと説明するわ」
イヴは『チンヒール』と『セックス』の違いをウチャギーナに説き聞かせた。
一見2つは酷似しているが、決して快楽を追い求めるものではなく、治療を目的とした救命の行為であることを説き、戦に明け暮れる彼らにとって大きな支えになっていることを簡潔に述べた。
とはいっても男女の性行為が未経験のウチャギーナにとっては衝撃的でありかつ驚愕の真実であった。
ウチャギーナ「ごめんなさいね。私、とんでもない誤解をしていたみたいね。皆さんに謝ります」
イヴ「いいのよ、気にしないで」
ウチャギーナ「治療ということなら、いずれ私もチンヒールのお世話になる可能性があるのね?」
イヴ「仲間の女の子たちには全員その可能性があるわ」
ウチャギーナ「きゃっ! 恥ずかしい~~~!」
キュー「あは」
アリサ「にゃはははは」
ウチャギーナ「1つ教えて?」
キュー「どんなこと?」
ウチャギーナ「ケガの治療で『チンヒール』をするのは分かったけど、赤ちゃんができることはないの?」
イヴ「なかなかいい質問ね。『チンヒール』と『セックス』の違いはそこにあると言っても過言じゃないの。『セックス』は赤ちゃんを作るために行うのに対して、『チンヒール』にはアスクレピオス神の力が宿っているので何回行なっても妊娠することはないの」
ウチャギーナ「まあ、すごいっ!」
アリサ「ケガしないのが一番だけど、ケガをしてもチンヒールがあるから大船に乗った気持ちで戦えるね、ウチャギーナちゃんんんん」
ウチャギーナ「あ~ん、でも恥ずかしいなあ……」
今にもチンヒールを注入されるかのようにはにかむウチャギーナ。
キュー「にゅう、ウチャギーナちゃんって純情なのね」
アリサ「もしかしてウチャギーナちゃんって処女おおおお?」
ウチャギーナ「うっ……そこを突く……?」
イヴ「まあ、アリサちゃんって聞きにくいことをズバッと聞く子なのね。で、処女なの、ウチャギーナちゃん?」
キュー「イヴさんも突いてるじゃないの」
ウチャギーナ「う~ん……処女といえば処女だし、そうじゃないと言えばそうじゃないし」
イヴ「はぁ?」
キュー「それってどういうこと?」
アリサ「どっちにゃん?」
ウチャギーナ「実はね……」
耳目を集める中、ウチャギーナが語り始めようとしたとき、前方からシャムの呼び声が聞こえた。
シャム「お~い! みんな休憩は十分とったか~!? そろそろ頂上に向かって出発するぞ~~~!」
ウチャギーナ「あっ、シャムが呼んでる。話の続きはまたの機会に」
アリサ「ここまで話したら最後までちゃんと話してよおおおお」
イヴ「よりによってこのタイミングとは。間が悪いね。なんか消化不良を起こしそう」
キュー「次回のお楽しみということにしておこうよ」
新しい仲間ウチャギーナの力を借りて、ようやく迷いの洞窟を脱出することのできたシャムたちは、ついにペルセ山登頂の第一歩を踏み出した。
宿願の『鏡の盾』は果たしていずこに眠るのだろうか。
そしてペルセ山頂で待ち受けるものとは……