![]() ファンタジー官能小説『セクスカリバー』 Shyrock 作 |
<メンバーの現在の体力>
シャム 勇者 HP 510/510 MP 0/0
イヴ 神官 HP 450/450 MP 440/440
アリサ 猫耳 HP 450/450 MP 0/0
キュー ワルキューレ HP490/490 MP240/240
エリカ ウンディーネ女王 HP 370/370 MP 480/480
シシ・フリューゲル 女海賊 HP 490/490 MP 0/0
チルチル 街少女 HP 310/310 MP 0/0
シャルル 漁師・レジスタンス運動指導者 HP 540/540 MP 0/0
ペペ 魔導師 HP 400/400 MP 490/490
⚔⚔⚔
犠牲者を出すこともなく無事に底なし沼を通過したシャムたちはさらに第3の関門へと前進する。
この先にはペルセ山頂に至る最後の関門『迷いの洞窟』があるはずだ。
『迷いの洞窟』……とは名前のとおり洞窟内が迷路のようになっているのだろうか。
果たして無事に洞窟から脱出できるのだろうか。
もしも脱出できない場合はサイクロプスの村でもらった『脱出の羽根』が役に立つかもしれない。
だけど『脱出の羽根』は1回使用すると消滅するという。安易に使用することはできない。
シャムたちに緊張が走る。
魔女ネイロが言っていたとおり、ダラダラ坂を登り切ると『迷いの洞窟』の入口らしき場所にたどり着いた。
山の斜面にぽっかりと口を開けた洞穴が現れたのだ。
洞穴の横幅は3メートル程度あるが高さが2メートル程度とかなり低い。
内部もこの高さがつづくようだと剣を振り回すのがきついし、シャルルのような背の高い戦士は頭上に注意が必要だ。
中が真っ暗なので松明2本に明かりを灯した。
先頭と最後尾だけなので十分な明るさとは言えないが、松明の本数に限りがあるのでできるだけ節約しなければならない。
一般的に洞窟内では先頭と最後尾が襲われる可能性が高い。
そのため、勇者や戦士などの体力と守備力が高い者を先頭と最後尾に、逆に魔導師や僧侶などの体力と守備力が低い者を隊列の中程に配置するのが基本的な戦法といえる。
従ってシャムが先頭に、シャルルが最後尾を受け持つことになった。
2番手にはキューがつづき、以下アリサ、イヴ、ペペ、チルチル、エリカ、シシ、シャルルがつづいた。
洞窟地図記録係は方向感覚に優れているシシが担うことになった。ざっくりでも経路を記録しておけば迷った際に役立つことがあるからだ。
松明をかざしながら洞窟を進むと、急に天井が高くなった。5メートルはあるだろうか。
横幅も少し広がり4メートルくらいになった。これなら剣を振り回すことも可能だ。
シャム「ハ、八クシュン!」
キュー「シャム、だいじょうぶ?風邪引いたんじゃない?」
洞窟の中と外とはかなりの温度差があり、ヒンヤリとした冷気がシャムたちを包み込む。
シャム「大丈夫だ。でも、ハ、ハ、ハックション!」
アリサ「ちょっと休憩して私の肌で包んであげようかああああ?」
シャム「アリサの肌は一部毛皮だから温かいものな~。包んでもらおうかな?」
イヴ「何を言ってるのよ。まだ洞窟に入ったばかりじゃないの。がんばって」
シャム「とほほ……それじゃあ温かいエスプレッソを飲ませてくれるカフェはないかな~?」
イヴ「この暗い洞窟にそんな気の利いたものがあるわけないじゃないの」
シャム「それはそうだよなあ」
そんな取るに足りない戯言を交していると、どこからともなく生暖かい風が吹いてきた。
シシ「あれ? 風だわ」
チルチル「う~ん、どこかに穴が開いているのでピョン?♫」
エリカ「進む方向から吹いているみたいですよ」
ペペ「ということは外部に通じる所があるのかもしれませんね」
シャルル「意外と出口は近いかも」
キュー「にゅう、そんなに甘くはないと思うよ。だってここは『迷いの洞窟』っていうくらいだもの」
シャルル「それはそうと、俺たちが入ってきたのはどっちだった?」
洞窟内の道は蛇行しており、方向感覚が狂ったとしても何ら不思議ではない。
それに道が1本だけの洞窟なら問題はないが、何本にも道が分かれている複雑な構造の洞窟に入ると、地上への帰還経路が分からなくなってしまう。
前後左右だけの枝分かれであればなんとか覚えていられるが、上下も加わってくると、かなり難しくなる。
元の入口に戻れなったら大変だ。
そんな不安もあるので、シャムたちは事前にある準備をしていた。
乾燥したホオズキをすり潰して赤い粉を用意しそれをポイントに印しておくのだ。
そうすればたとえ迷っても何とか元の入口まで戻れるだろう。
ただし赤い粉の量にも限度がある。
洞窟があまりにも広過ぎると赤い粉は尽きてしまうだろう。
チルチル「シャム、出口はまだ見えて来ないでピョン♫」
シャム「心配するな、そのうち見つかるさ」
イヴ「シャムはのん気なんだから。もし見つからなかったらどうするのよ」
シャム「はっはっは~、イヴは心配性だなあ」
イヴ「当然心配するわ。だって水や食料だって限りがあるんだし」
ペペ「シャムさんの言うとおり出口はきっと見つかりますよ、希望を持ちましょう」
ペペの言葉にイヴがうなずいた直後、突然アリサが右斜めを指し示し甲高い声をあげた。
アリサ「にゃにゃっ! 向こうを見てえええええ~! 岩の間から明かりが漏れてるうううう!」
キュー「ということはあの辺に出口があるのかな~! みんな、早く行ってみようよ!」
チルチル「わ~い! 出口だピョン♫」
エリカ「チルチルさん、喜ぶのは早いですよ。もし違ったらがっかりしますからね」
シシ「そうだよね。なにしろ『迷いの洞窟』だからね」
チルチル「そんなぁ……」
シャム「まずはあの明かりの元に行こう!」
イヴ「そうね。急ぎましょう!」
アリサ「にゃ~ごおおおお!」
その光はどうやら2メートルほど上の岩の隙間から漏れているようだ。
それは出口なのか。それとも何かが光っているのか……
岩に登って手分けして調べてみたが、残念ながら光源は外部からの陽光ではなさそうだ。
シャム「外からの光じゃないな」
シシ「じゃあ何が光っているの?」
シャム「もっと近づいてみなければ分からない」
アリサ「シャム! 見て見てええええ!」
岩を登りかけのアリサが真下にいるシャムを呼んだ。
シャム「なんだ?」
シャムがアリサの真下に行き股間を覗きこんだ。
アリサ「見るのはそこじゃなくて! 岩の向こう側だよおおおお!」
イヴ「懲りないエロ男……」
アリサ「あそこに何かあるのおおおお!」
シシ「うん、何かあるよ!」
シャムたちは岩をよじ登り光の源を見つけた。
岩の上に小さな祭壇のようなものがあり、前面の机には発光石がまるで供物のように7個並べられている。
シャム「あれは何だろう? 光る石が置いてあるぞ」
エリカ「お供えでしょうか。でも石を供えるって聞いたことがありませんね」
シシ「供物ってふつうは食物か花だよね」
キュー「にゅう、石が光ってたのか。陽光が岩の隙間から入り出口が近いと思ったのでちょっとがっかり」
シャム「いや、もしかしたら何か手掛かりになるかも知れないぞ」
シャムは祭壇のようなものに臆することなく手を伸ばした。
アリサ「祭壇に祭ってあるのは何かなああああ? 頭がライオンで胴体がヤギ、尻尾が竜になっているよおおおお」
イヴ「それはキマイラという怪物だわ」
アリサ「怪物? きゃああああ!」
シャムが祭壇をつぶさに調べている。
神体らしきキマイラの像は長い年月人に触れられていないのだろう。
積もった埃がそれを物語っている。
キマイラの像に触れてみたが何も起こらない。
シャム「出口のスイッチではなさそうだ」
イヴ「残念ながらただの像ね。仕方がないわ、先に進もうよ」
シャム「ちょっと待ってお供えの光る石を1個だけもらっていこう。松明が切れたとき代わりになりそうだ」
シャムは発光石を供物机から1個摘まみあげた。
その時だった、突然下から突き上げるような大きな衝撃がシャムたちを襲った。
シャム「うわ~! 地震だ!」
シャルル「おおっ~~~! 大変だ!」
キュー「きゃぁ~! 洞窟にいるときに最悪だわ!」
激しい横揺れが収まらない。
防具等で頭を保護しつつ時が過ぎるのを待つシャムたち。
イヴ「シャム~~~!! 光る石を元に戻して~~~!!」
シャム「光る石を取ったのが原因というのか!?」
イヴ「分からないよ!! とにかく早く戻してみて~~~!!」
シャムはよろけながらも発光石を元の供物机の位置に戻した。
するとどうだろう。あれだけ激しく揺れていたのに一瞬にして収まってしまったのだ。
シャム「ふう……」
エリカ「この洞窟の中で死ぬかと思いました……」
アリサ「ブルブル……岩が落ちなくて助かったああああ……」
イヴ「やっぱり光る石を盗んだからよ」
シャム「盗んだなんて人聞きの悪い……」
イヴ「供えている石を取ったからきっと怒ったんだわ」
キュー「怒ったのは神様?悪魔?」
イヴ「そんなの知らないよ」
チルチル「足が震えて立ち上がれないでピョン……」
ペペ「洞窟が崩れなくてよかったですよ」
⚔⚔⚔
発光石の災難から何とか逃れたシャムたちは出口を探し足を棒にして歩き回った。
1時間、2時間……と探しつづけたが、一向にそれらしきものが見つからない。
シャムたちの表情から笑顔が消えていた。
チルチル「出口が見つからないでピョン」
イヴ「本当だね、だんだん疲れて来たね。ちょっと休憩しようか」
その時、いつも冷静沈着なエリカが珍しく声を張りあげた。
エリカ「みなさん、気づきませんか!? どうも妙ですわ!」
シャム「どうしたんだ? エリカ」
エリカ「入口からずっと目印に落として来た赤い粉がいつのまにか消えているんです」
シャム「えっ! なんだって!?」
アリサ「誰が消したのおおおお!?」
キュー「何者かが私たちのあとを着けて来ているに違いない」
シシ「まさか、それはないのでは?」
イヴ「でもキューちゃんの言っていることって満更でもないと思うの」
チルチル「じゃあ、誰なのでピョン?」
ペペ「我々の邪魔をするものっていったい誰なのでしょうか……」
シャルル「こうなれば戻ることは期待できないぞ! 前進あるのみ!」
エリカ「みなさん、落ち着きましょう。ここは冷静になる必要があります」
イヴ「エリカさんの言っているとおりだわ。出口とともに入口も探そうよ。もしも出口が見つからなかったら私たちはこの洞窟にずっと閉じ込められたままなのよ」
キュー「にゅう、そんなのやだよ~」
シャム「よし! この際、出口、入口、どっちでもいい、とにかくここから脱出するぞ!」
その後もシャムたちは出入口を探索して洞窟内を歩きつづけた。
いや、さまよったと表現すべきかもしれない。
だが出口も入口もヒントすら見つからない。
時折休息を取ってまた歩きだす。
食料や水はまだ大丈夫だが、一番心配なのは松明だ。
すでに半分は消費している。
いくら何でも真っ暗な中を歩くのは危険極まりない。
たまにコウモリが出現することはあるが、敵が出てこないのがまだ幸いといえる。
それでも一向に進展がないことから、シャムたちに次第に焦りの色が見え始めていた。
シャム「やむを得ない。松明を半分にするぞ。松明は先頭だけに減らして後ろはなしだ。みんなできるだけ間隔を縮めて歩くんだ」
最後尾を行くシャルルからすぐに返事が返ってきた。
シャルル「分かった。だけど松明がないと真っ暗だな~」
2番手を行くアリサがキューに声を掛けた。
アリサ「シャルル、ポジション代わってあげようかあああ? 私、暗がりでも平気だからああああ」
シャルル「いいのか、アリサ? それじゃ交代してくれ」
半猫族のアリサの眼は暗い場所でも十分に見ることができる。
アリサは快く、シャルルと隊列を変更した。
そのため隊列は、シャム、キュー、シャルル、イヴ、ペペ、チルチル、エリカ、シシ、アリサの順番となった。
シシ「なかなか見つからないね、出口も入口も」
エリカ「でも必ずあります。がんばって探すしかないです」
シシ「ねえ『脱出の羽根』ってもらったよね。あれを使って迷いの洞窟から早く脱出しようよ」
チルチル「えっ?今使うのでピョン?♫」
キュー「にゅう、私は手探りしてでもギリギリまで出口を探すべきだと思うの。だって、今『脱出の羽根』を使って脱出できたとしても、結局、またここを通らなければならないわけだし。最後の最後までとっておいた方がいいと思うの」
イヴ「たった1回しか使えないアイテムを大切に取り置きしておく……というキューちゃんの意見に私も賛成するわ。ねえ、もう少しがんばろうよ」
ペペ「私も同感です」
シシ「みんながそう言うなら、そうするか」
シシは少々不満そうであったが、大勢の意見に従うことにした。
それから2時間が経過したが、依然出入口が見つからない。
そのとき、天井が高く通路も広くなっている場所に差し掛かったので、休息をとることになった。
空腹を感じ始めた頃でもありちょうど頃合いだろう。
シャム「みんな~、そろそろ食事にしようか~」
チルチル「は~い♫」
アリサ「にゃんにゃん~」
椅子の代わりになりそうな岩を探し、身体を休めるシャムたち。
シャム「ああ、腹が減った~」
シャルル「さっきから腹の虫が鳴りっぱなしだった」
食料の管理はチルチルの役目。
布袋からパンを取り出し、みんなに配る。
水はそれぞれが水筒を持ち、自身で管理をする。
摂水するペースが個々に異なるため、当然水の減り加減も個人差が出てくる。
キュー「あっ……水がもうない……」
水筒を逆さに向けて、情けなそうにつぶやくキュー。
シャム「ん? じゃあおいらのを飲めよ」
キュー「ありがとう。でもシャムにとっても大切な水じゃないの……」
シャム「大丈夫。気にしないで飲めよ」
キュー「じゃあ、遠慮なくいただくね」
(ゴクリ……)
キューは水筒に口をつけたが、一口飲むと直ぐに返した。
実はシャムの水筒も残りわずかだったのだ。
緊張と疲労のせいで喉の渇きを抑えられず無意識のうちに飲んでいたのだろう。
それはシャムだけではなく、ほかの仲間たちも同様であった。
シャム「いいから、もっと飲め」
キュー「にゅう、ありがとう。でもシャムの水筒もほとんど残っていないから」
シャム「ええ~? もうそんなに減っていたとは……?」
エリカも眉をひそめている。
エリカ「私の水筒ももう底が見えてきました。近くに泉でもあればいいのですが」
イヴ「洞窟だからどこかに涌き水があるんじゃないかしら」
ペペ「仮に食料が尽きても水さえあればしばらくは持ちますからね」
シシ「そんな心細いことを……」
シャム「ん~、でも出口を探すために歩かなければならない。歩くとどうしても喉が乾くからなあ」
出口が見つからない。
松明が乏しくなってきた。
さらに最も大切な命の水までが尽きていた。
シャムたちに襲ってきた三重苦。
はたしてこの難局を無事乗り切ることができるのだろうか。
もしかしたらこの迷路のような洞窟で旅が終わってしまうのだろうか。
最終手段として、いまだ未使用の『脱出の羽根』を使うべきときが到来したのだろうか。
シャムたちはこのくらい洞窟でどのくらい歩いただろうか。
入口があればきっと出口もあるはずだ。
それともこの洞窟は異次元のゆがみに生じた空間であり、入ると二度と出ることのできないブラックホールのような世界なのか。
シシ「喉がからからだわ。まいったねえ……」
シャルル「これはきついなあ」
チルチル「あぁ……水が飲みたいでピョン……」
アリサ「私、もうダメだああああ」
イヴが最終手段を提案した。
イヴ「シャム、そろそろ最後の切り札『脱出の羽』を使ってみる?」
シャム「いや、もう少しがんばるんだ」
イヴ「でもみんなかなり疲れてるわ。体力のない者は死んじゃうかも」
シャム「じゃあ、ヒールを掛けてやれよ」
イヴ「ヒールをかけても喉の渇きは癒えないわ。一時的に体力は回復するけど」
シャム「おいらだってチンヒールをかける元気がないもん」
イヴ「誰もそんなこと聞いていないんだけど」
シャム「とにかくもう少しがんばろう」
イヴ「うん、分かった……」
そんな悲壮な会話を交しながらとぼとぼと歩いていると、突然アリサが黄色い声をあげた。
アリサ「みんな! 静かにしてええええ!」
チルチル「え? どうしたでピョン?♫」
アリサ「ほら、耳を澄ましてみてええええ」
ペペ「……?」
アリサの呼びかけに一同は沈黙し、そっと耳を澄ました。
どこからともなく、せせらぎのような音がかすかに聞こえるではないか。
、シャム「おおっ! 水の音が聞こえるぞ! この近くにきっと水源があるぞ!」
キュー「やった~~~!」
エリカ「ええ? 本当ですか!?」
イヴ「早く行ってみようよ~!」
静まり返った洞窟内に響く水音。
音のする方向にアリサが走りだした。
アリサ「向こうだよ! 急いでええええ~~~!」
メンバーで最も聴覚の優れたアリサが言うのだから間違いないだろう。
仲間たちも色めき立ちアリサの後を追いかける。
暗くて足元が不安だが、今はそんなことを言ってられない。
シャムたちは転がるように駆けていく。
少し狭くなった岩肌の間を通り抜けると、少し広くなった場所にたどり着いた。
アリサ「みんなっ! あそこを見て! 水が流れているよおおおお~!」
アリサが指し示す方法には、幅が50センチメートルに満たないほどの細流があった。
シャム「おおっ、水だ! アリサ、でかしたぞ~!」
アリサ「にゃんにゃん~! やったああああ!」
イヴ「さすがアリサちゃん!」
チルチル「やったね! これで水には困らないでピョン♫」
エリカ「これで生き返りそうです!」
ペペ「まさに天の恵みですね。神に感謝を」
おそらく山に降り注いだ雨が、地表から地中に浸透し地下水となったのだろう。
見た目には透明感もあり美しい水といえる。
ところが何人かが飲もうとしたとき、突然イヴがそれを制した。
イヴ「飲むのを待って!」
シャム「どうしたんだ?」
イヴ「安全かどうか分からないわ」
キュー「こんなきれいな涌水なのに?」
イヴ「見た目では分からないよ」
シャム「どうやって安全を確かめるんだ?」
イヴ「そうね、ここはシシさんの腕を借りようかな?」
シシ「私の腕なんかでよければいくらでも貸すけど。で、どうするの?」
イヴ「シシさんは投げ縄の隠し技を持っていたよね」
シシ「うん、海賊してたからね。投げ縄には自信があるよ」
チルチル「どうして海賊が投げ縄を使うのでピョン?♫」
シシ「戦いに敗れた敵の船が逃げようとしたとき、逃がさないために敵船の帆先に縄を投げつけ引っ掛けて、こちらにたぐり寄せるためなの。ああ、懐かしいな~」
シャルル「想い出に浸ってる場合じゃないぞ、ははははは」
シシ「あら、そうだったわね」
エリカ「それでシシさんの投げ縄の腕前をどのように使うのですか? イヴさん」
イヴ「上を見て」
イヴは天井を指さした。
暗いのではっきりとは見えないが、何か蠢いているのが分かった。
目を凝らしてみると蠢いているものはコウモリの群れであることが分かった。
キュー「きゃっ! コウモリだ!」
チルチル「ひゃぁ~、気持ち悪いでピョン!」
シシ「分かったわ。あのコウモリを捕まえて、毒見をさせようというのね?」
イヴ「そのとおりよ」
シシ「でもうまく捕まえられるかなあ……」
シシは自信なげにつぶやく。
シャム「シシ、失敗してもいいからやってみて」
シシ「うん、それじゃやってみる」
シシは布袋から縄を取りだした。
シャム「シシは用意がいいな~」
シシ「海賊時代はもっと長い縄を使っていたの。これはかなり短めだけど天井までは十分届くはずだわ」
シャルル「投げ縄ってどんな風になるんだ?」
シシ「輪の部分に物にかけて縄を引くと、輪が締まる仕組みになってるの」
シャルル「なるほど」
一方でシャムとアリサがよこしまな談義を始めた。
シャム「あの縄を使って女の子を縛ってみるのも楽しそうだなあ」
アリサ「シャムはSなのおおおお?」
シュム「少なくともMではない」
アリサ「私はどちらかというとMかなああああ?」
投げ縄の準備を整えたシシが咳払いをした。
シシ「縄の準備ができたので今からコウモリに投げてみるね。みんなちょっと静かにしててね、特にシャムとアリサちゃんはね」
シャム「はい……」
アリサ「にゃんにゃん……」
シシが投げ縄を構える。
シシ「みんな、私の後ろに下がってて」
シャムたちは固唾を飲んで見守った。
シシ「やっ!」
天井めがけて縄を投げるシシ。
投げ縄が暗い天井目掛けて放たれた。
天井で甲高い獣の鳴き声がと羽ばたく音がとどろき渡る。
その直後、多くのコウモリが飛び散った。
シャム「えっ……?」
キュー「失敗したの……?」
まもなく捕獲されたコウモリが羽をばたつかせながらポタリと落下してきた。
シャム「おおっ! やった~!」
イヴ「うまくいったね!」
チルチル「わ~いわ~い!♫」
エリカ「さすがですね!」
シシ「何とか捕らえられたわ、早速水を飲ませてみよう!」
捕えたコウモリを早速細流に連れて行くシシ。
縄から解かずにそのままコウモリを水に浸けてみた。
苦しそうにもがいている。
殺すと拙いので数秒浸けたら水から引き上げる。
それを3回繰り返す。
そうすればコウモリは否が応でも水を飲むだろう。
シシはコウモリの状態を確認している。
水を飲んだようだが、全く変化は現れない。
シシ「だいじょうぶ、水は飲めるよ!」
シシはそうささやくとコウモリを縄から解放してやった。
コウモリの解放を合図に、シャムたちがいっせいに細流の水をすくった。
手を杓にしてゴクゴクと水を飲む者、水筒に入れて飲む者。
山に降った雨や雪が長い時間をかけて土を通り、土や落ち葉、枯れ木などで濾過されて、生まれた水。
自然の湧き水はさまざまな栄養分や無機質が含まれており、生気がよみがえってくる。
シャム「おお、美味いな~!」
イヴ「生き返った気がするわ」
キュー「元気がもりもり! 再び歩く力が湧いてきた~!」
チルチル「がんばって出口を探すでピョン♫ ……あれ?」
キュー「どうしたの?」
チルチル「細流に葉っぱが浮かんでるでピョン……?」
キュー「そりゃ葉っぱの1枚や2枚くらい浮かんでいて当然じゃないの。ん……? 当然か……?」
チルチル「当然じゃないよ。だってここは洞窟の中なんだもの。樹木なんてないでピョン♫」
キュー「だよね~! 葉っぱんてあるはずがないよね~」
チルチル「でしょう? ってことは……」
キュー「ってことは、この細流は外に通じてるってことになるじゃないの! わ~い! みんな、チルチルちゃんがすごい発見をしたよ~!」
シャム「え? 何を見つけたんだ?」
キュー「にゅう、チルチルちゃんが大発見をしたのよ~!」
シャム「世界ふしぎ発見?」
キュー「それはクイズじゃ~!」
シャム「あ、そうか」
キュー「細流に葉っぱが流れてきたのよ~! 葉っぱが流れきたと言うことはこの細流の上流に辿っていけば、外に通じてるということじゃないの~!」
シャム「おおっ、そのとおりだ! これは大発見だ! チルチル、よく見つけたな~~~!!」
エリカ「でも出口とは限りませんよ。人が通れるほどの幅があればいいのですが」
ペペ「喜ぶのは少し早いということですね」
シャムたちの視線は一斉に細流の上流の方に注がれた。
細流の奥は暗くてよく見えないが、人がぎりぎり通れる程度の穴が開いているのが分かる。
シャム「よし、この細流を進んでみよう」
イヴ「チルチルちゃん、この先が出口なら大手柄ね~!」
チルチル「まだ分からないけどピョン♫」
シシ「何とか出られたらいいね」
アリサ「どの辺に出るのかなああああ?」
エリカ「まだ出られると決まったわけではないですよ」
キュー「にゅう、きっと出られるって! 希望を持とうよ!」
シャルル「そうだとも、希望を持とう!」
わずかな勾配を上へ上へと進んでいくシャムたち。
暗いうえに、天井が低く屈まないといけない場所がある。しかも足首は水流に浸かった状態なので常に濡れている。
しかもこの不安な状態がいつまで続くのか誰も分からない……これは一種の恐怖である。
それでもシャムたちは進んだ。希望の明かりが見えるまでひたすらに。
天井の岩肌から落ちる水滴だけならまだしも、靴に入った水が重く感じられ彼らを苦しめる。
そればかりか時折現れる奇妙な虫たちが気味悪く気持ちが折れそうになる。
アリサ「うげ~、足元に変な虫がいっぱいいるおおおお」
キュー「私、虫は苦手なんだよねえ……」
シャム「虫なんて無視無視~」
シャムのダジャレにキューは思い切りずっこけた。
シャルル「虫を殺すなんて無神経!」
ペペ「虫けら同然! むっ失敬な!」
チルチル「虫は人を噛むし~♫」
イヴ「寒いダジャレの連発やめてよ~」
エリカ「まあ、いいじゃないですか。この苦境を乗り越えるため少しでも雰囲気を和ませようと、みんなつぶやいているのですよ。そうでしょう? シャムさん」
シャム「ああ……まあ、そんなとこかな?」
イヴ「う~ん、ほかの人は理解できるけど、シャムにそんな繊細な心配りがあるとは考えにくく……」
シャム「ここは肯定するところだろう。プンプン」
話題が再び出口の一件に戻った。
シシ「ところで、本当に出られるのかしら? かなり歩いたんだけどなあ」
アリサ「う~ん、どうなんだろう……でもがんばるしかないもん」
チルチル「きっと出られるでピョン♫」
キュー「にゃっ、私もそう思うの」
シャム「そうさ、『意志あるところに道は開ける』っていうだろう?」
イヴ「さっきつまらないダジャレを言った男とは思えないほど良いことを言うわね~」
エリカ「周りが石だらけなので『意志』と掛けたのですね。さすがシャムさんですね」
シャム「わ、分かってくれた!?」
イヴ「どうでもいいけど、そのことわざどこかで聞いたような……」
和やかな雰囲気づくりは、もしかしたら幸運を呼びこむのかもしれない。
ペペ「あっ! 正面に明かりが見えました!」
エリカ「え? 本当ですか?」
キュー「おおおっ! 光だ~!」
アリサ「にゃんにゃん~、やったああああ!」
シシ「でも、人が出られる大きさかどうか……」
シャムたちの進む先に一筋の光明が見えた。
その明かりは不安に喘ぐ彼らに希望を与えた。
疲れが吹き飛ぶほどの歓び。
今しがたまでとはうってかわって、軽やかな足取りになっていく。
一歩進むたびに希望の明かりが大きくなっていく。
ついに出口が見えた。
シャムたちは小躍りする気持ちを隠しきれず歓喜の声をあげた。
シャム「やった~! ついに出口が見つかったぞ!」
イヴ「ついに見つけたね! 浮かぶ葉っぱに気づいたチルチルちゃんのお手柄だよ~!」
チルチル「お手柄はアリサちゃんが真っ先に水の音に気づいてくれたからだピョン~♫」
アリサ「いいえ、やっぱりチルチルちゃんだよ、それとシシさんの投げ縄技のおかげだよおおおお!」
シシ「私なんかじゃないよ、みんなのがんばりの結果だよ~! みんな、ありがとう!」
エリカ「ああ……功績を誇ることなくお互いに譲り合う清らかな心……すばらしき仲間たちに囲まれて私は幸せですわ……」
ペペ「シャルルさんの目が真っ赤じゃないですか? もしかしたら感動して泣いているのですか?」
シャルル「まさか、光が眩しくて目が痛いだけだ……」
シャルルが照れ隠しにつぶやいた言葉だったが、それはまんざら嘘ではなかった。
シャム「うっ……眩しい」
先頭を進むシャムが眩しさに耐えられず顔を背けた。
長時間暗い洞窟から急に外に出ると瞳孔の調整が追いつかず見るものが白っぽく見えるだけでなく、痛みを感じるのだ。
それでも待望の出口にたどりついた歓びは言葉では表しきれないものがあった。
シャムたちは目を覆いながら次々に洞窟を脱出する。
脱出したものの、あまりにも眩しすぎて一同の足は止まってしまった。
まともに歩けそうもない。
せっかく表に出たのに何という有り様だろうか。
エリカ「少し目を休めていると回復すると思います」
シャムたちはその場で休息をとることになった。
キューが水筒を傾けながらつぶやく。
キュー「洞窟から出られたのは良かったけど、ここはどの辺りになるんだろう?」
シシ「一休みしたら調べてみようよ」
シャムたちが休んでいると、そこにアマゾネスのモニカがひょっこりと現れた。
モニカは仲間の女性を伴っており、2人とも背中に薬草の入ったかごを背負っている。
モニカ「まあ、こんな場所で会うとは驚きだわ~! この前は助けてくれてありがとう、本当に助かったよ! ところでこんな場所で何をしているの?」
エリカ「あら、モニカさん、偶然ですわ! 洞窟から何とか脱出できたので休息をとってから山頂を目指そうと思っているんです」
モニカ「でもここは出口じゃないよ。正しい出口から脱出しないと山頂にはたどり着けないよ」
エリカ「ええっ、何ですって……!?」
イヴ「まさか……!」
モニカの口から放たれた言葉に、シャムたちは愕然と肩を落とした。
苦難のすえようやく脱出を果たしたのに、そこが山頂へとつづく『正しい出口』ではなかったとは何という不覚だろうか。
では『正しい出口』とはいったいどこにあるのか。
シャム「モニカは正しい出口を知っているのか?」
モニカ「残念だけど知らないわ。だって私たちの部族ではペルセ山頂に行くことが禁じられているので、洞窟に入ることも滅多にないの」
シャルル「じゃあ、どうしてこんな僻地まで来ることができたんだ?」
モニカ「この辺りは薬草が密生しているので時々採集に来るの。洞窟を通らなくても別のルートでここまで来れるのよ」
シシ「別のルートがあるんだ!?」
キュー「じゃあ、底なし沼や迷いの洞窟を通らなくても……と一瞬思ったけど、この場所から山頂には行けないのね?」
モニカ「そう、この先は断崖絶壁になっているので山頂には行けないの。ここで行き止まりなの」
シャム「そうか……」
がっくりとうなだれるシャム。
アリサ「出た場所は正解じゃなかったけど洞窟から出られたわけだし、モニカさんと会えたのだってツキがある証拠だよおおおお」
シャム「アリサの言うとおりだな。ここで落ち込んでるわけにはいかないからな」
モニカ「そうそう、元気を出してね。私の知ってることなら何でも教えるから聞いて」
シャム「じゃあ聞くけど、洞窟内に祭壇らしきものとキマイラの像みたいなものがあって、そこに光る石が供えてあるんだけど、あれって何か知ってる?」
モニカ「祭壇? キマイラの像? う~ん……昔、村の長老に聞いたことがあるの。何でもその祭壇の前で『風の呪文』を唱えると何かすごいことが起こるらしいの」
チルチル「『風の呪文』って『風の魔法』ということ♫?」
ペペ「『風の魔法』も黒魔法の1つです。黒魔法は『火、水、氷、風、土、雷』の6つから構成されています」
チルチル「へ~、そうなのピョン♫ ペペは物知りだね~♫」
キュー「それで風の魔法を唱えたらどんなことが起こるの?」
モニカ「残念だけどそれは知らないの」
アリサ「ちなみにモニカさんって『風の魔法』は使えるのおおおお?」
モニカ「私たちアマゾネスは全員が戦士系なので、魔法を使える者は1人もいないの。皆さんの中で使える人がいるんじゃないの?」
モニカの言葉に反応したシャムたちはキョロキョロと見回した。
だが『風の魔法』を使える者は1人のいない。
エリカ「私は水の魔法と白魔法なら使えるけど、風の魔法は無理ねえ……」
イヴ「私は神官なので白魔法しか使えないの」
ペペ「私は氷の魔法が専門です」
シャム「キューも確か魔力があったような?」
キュー「にゅう、私の場合は召喚魔法だけ」
チルチル「あ~ん、私も魔法を覚えたいでピョン♫」
アリサ「こんなことを言ってても始まらないから、もう一度、ネイロおばあちゃんの所に行ってみようよ~、もしかしたら何かヒントをくれるかも知れないしいいいい」
シャム「もしかしたらあのばあさん、風の魔法の達人だったりして」
イヴ「そんなに上手くいくかどうか分からないけど、行ってみる価値はありそうね」
シャルル「そうと決まったなら途中果物屋に寄ってリンゴを買って行こう。ネイロばあさんから色々聞き出すにはそれが一番だからな」
シャム「よし、直ぐにネイロばあさんのところに戻って、祭壇と風の魔法のことを確かめるぞ~! 途中アマゾネスの村に寄ってリンゴを買う。5分休憩したら出発するぞ!」
シシ「また迷いの洞窟や底なし沼を通るの?」
モニカ「それなら私が来た道をいっしょに戻ろうよ、遠回りだけど時間的には早いと思うよ」
シシ「それは嬉しいね」
チルチル「よかったでピョン♫ 帰りも洞窟や沼を通らなければならないと思うとちょっと辛かったもん」
モニカ「チルチルちゃんって正直な子ね、本音を言えるって大事なことだと思うよ」
一同がモニカを囲んで談笑していると、モニカが何かを思い出したようだ。
モニカ「あ、そうそう、大事なことを1つ言い忘れてたよ!」
エリカ「どんなことですか?」
モニカ「数時間前にね、洞窟の入口から変な奴らが出て行ったの。赤いマントの男を先頭に、人相の悪い男たちが10人ほどいたと思う。やつら凄く慌てていた様子だったわ」
シャム「えっ、何だって? もしかしたら赤い粉を消したのはその男たちかもしれないぞ」
イヴ「そういえば以前モエモエちゃんがカフェの入り口で『ユマ姫の尋ね人ポスター』を見たって言ってたね。チルチルちゃんはその時モエモエちゃんと同じグループだったよね。当時のことを何か憶えている?」
チルチル「うん、憶えているよ。確か、尋ね人が『ムーンサルト国のユマ姫』で、依頼人がペペロンチーネ伯爵と書いてあったわ。かなり高い懸賞金がかけられてたのでモエモエちゃんとジュリアーノさんが驚いてたのが印象的でピョン♫」
シャム「ユマ姫を探している男がいるって言ってたけど、洞窟の入り口に現れたの男がもしかしたらそいつか?」
イヴ「残念だけどその2つが結びつく確証はまだないわ」
エリカがモニカに尋ねた。
エリカ「モニカさん、あなたが洞窟の入り口で見た赤いマントの男って、もしかしたら、ずんぐりむっくり体型で、モノクル(片眼鏡)を付けてて、髪をセンター分けにしてて、それにチョーエロそうな男ではなかったですか?」
モニカ「よくは憶えてないけど、そんな感じだったと思う。あと、まるで貴族のような身なりだったのが印象的」
エリカ「それであれば、おそらくペペロンチーネ伯爵だと思います」
アリサ「ペペロンチーネって確かユマ姫を狙っていたやつだったね? ユマ姫はここにいないのにどうして現れたんだろう?」
エリカ「それは分からないけど、彼のことだからきっと何か魂胆があると思います。ずる賢いことで有名な男なので注意しなくてはなりませんよ」
アリサ「聞いているだけで虫唾が走る! そいつが現れたら、私が『ふ~っ、ガリガリガリ~!』って引っ掻いてやるうううう!」
モニカ「うふう、なかなか勇ましい子がいるのね。みんなのためにがんばってね、小猫ちゃん」
アリサ「は~い! あ、でももう小猫じゃないもんんんん」
モニカ「みんな、出発の準備はできた? じゃあ、私に着いてきて」
モニカの案内で山道を下る。元来た経路とは全く異なる道だ。
アマゾネスの村に立ち寄り少し休憩したらネイロの洞窟へと向かう。ネイロが好きなリンゴをたずさえて。
⚔⚔⚔
ネイロ「むしゃむしゃ、おお、これはうまいリンゴじゃ~」
シャムたちが買ってきたリンゴを美味しそうに齧りつくネイロ。
食べることに夢中で、なかなかシャムたちの話を聞こうとしない。
ネイロ「おまえたちはリンゴの皮を剥いて食べる派か、剥かないで食べる派か、どっちじゃ? わしは皮を剥かずに食べるのが好きなのじゃ」
シャム「そんなことより早くおいらたちの相談を聞いてくれよ」
ネイロ「ふぉっふぉっふぉ~、そう焦るな。それにしてもよく無事で戻って来たもんじゃ。誉めてやるぞ」
シャム「よくもそんなのんきなことを。迷いの洞窟で死んでいたかも知れないのに」
ネイロ「誉められた時はもっと素直に喜ぶもんじゃ」
シャム「それより洞窟の中に祭ってある祭壇のことを教えてくれよ~」
ネイロ「気ぜわしいやつじゃのう」
ネイロがリンゴを食べ終えたのを見計らってイヴが切り出した。
イヴ「迷いの洞窟にある祭壇の前で風の呪文を唱えると、何か変化が起こると聞いたの。それって本当なの?」
ネイロ「本当じゃよ」
エリカ「ところでネイロさんは魔法の達人とお聞きしておりますが、どんな魔法をお使いですか?」
ネイロ「風の魔法じゃよ」
シャムがポンと手を叩いて喜んだ。
シャム「おおっ、これで決まりだな。ネイロばあさん、おいらたちといっしょに迷いの洞窟まで来てくれよ」
ネイロ「無理じゃ。数年若ければいっしょに行ってやったのじゃが、わしももうこの歳じゃ。めっきり足が弱ってのう」
シャム「そこを曲げて、ひとつ何とか」
ネイロ「いくら頼まれても無理なものは無理じゃ」
イヴ「シャム、あんまり無理を言っちゃダメだよ」
キュー「にゅう、ネイロばあちゃんにあの沼や洞窟は酷だよ。そもそもネイロばあちゃんは自力で道を切り開けって言ってたわけだし」
シャム「そうだなあ、仕方ないか。ねえ、ネイロばあさん、なんか方法はないの?」
ネイロ「ほかにか? う~ん、そうじゃなあ……あっ、そうじゃ、孫娘がおったのを忘れとった!」
シャルル「孫を忘れるとは……」
シャム「で、孫娘は可愛いのか?」
ネイロはひとつ咳払いをした。
ネイロ「そりゃあ、わしの孫娘なんじゃから、わしに似て可愛いに決まっとるじゃろうが」
シャム「……」
シャムはしげしげと魔女ネイロの顔を覗き込んだ。
頭巾の奥からぎょろりとした大きな目がシャムを見つめている。
どこからどう見ても、ネイロを見て孫娘が美人だとは連想できない。
シャム「きっと可愛くないと思うよ~」
イヴ「シャム、ネイロおばあさんに失礼じゃないの!」
エリカ「今確認すべきことは、お孫さんの器量のことではなくて、風の魔法を使えるかどうかではありませんか?」
ネイロ「良い質問じゃ。はっきり言ってまだ魔導師の駆け出しじゃ。あまり期待し過ぎるのは困る。じゃが簡単な風の魔法なら使えるので、少しは役に立つじゃろうて」
チルチル「ねえ、ネイロばあちゃん~。その子の歳はいくつなのピョン?♫」
ネイロ「え~といくつになったっけ? 最近物忘れが酷くなったからのう……え~と、そうそう、確か17才じゃったわ」
アリサ「じゃあ私たちと歳が近いねええええ」
シャム「で、孫はどこにいるの?」
ネイロ「たしかノールの泉に水浴に行くとか言うとったなあ」
シャム「す、水浴!?」
水浴と聞くと俄然目の色を変え興味を示すシャム。
シャム「おいらは孫を探しに行って来るから、みんなはここで待っててくれ~!」
イヴ「どうしてシャム1人で行こうとするのよ~! 行くならみんなで探しに行こうよ~!」
シャム「来なくていいから!」
ネイロ「シャムや?」
シャム「は、はい! ネイロおばあさま!」
シシ「さっきまでネイロばあさんにぞんざいだったくせに 急に丁寧になって。分かりやすい男」
ネイロ「ノールの泉がどこにあるか知っておるのか?」
シャム「知らん」
一同がその場でずっこけてしまった。
ネイロ「しょうがないやつじゃのう。ノールの泉はここから北へ1キロほど行った所にある。ただし今頃は素っ裸になって水を浴びておるはずじゃから、シャムとそこにいる男たちの3人はここに残ってわしに茶でも入れろ。呼びに行くのは女だけでよい」
シャム「がっくり」
シャルル「はあ……」
ペペ「はい、お茶を入れましょう」
従順な態度のペペ以外の男性は不満そうであった。
チルチル「うん、それが一番いい方法だピョン♫」
エリカ「そうですね。お孫さんを探すだけなので、わざわざシャムさんたちの手を煩わすことはないですからね。男性陣はお留守番頼みますね」
キュー「ネイロおばあちゃんとトランプでもして待ってて」
シャム「トランプをするのもいいけど、やっぱりおいらも行きたいな~」
アリサ「男の人はお留守番なのおおおお」
シャルル「ネイロばあちゃん、トランプはどんなの知ってるんだ? 『ババ抜き』でもするか?」
ネイロ「ん? 今何と言ったのじゃ?」
シャルル「『ババ抜き』と言ったが……。まずかったか? ババってネイロばあちゃんのことではないぞ。ゲームの名前だからな」
ネイロ「そうか。そんな名前のゲームがあるのか」
ペペ「ネイロおばあさん?」
ネイロ「なんじゃ?」
ペペ「『ババ抜き』のババはおばあさんのことではないのですよ」
ネイロ「ほう、ではなんじゃ?」
ペペ「ババ抜きのババというのは『オールドメイド』のことなんです。つまり古いメイドさんのことなんです。ババ抜きはジョーカー1枚を入れてゲームしますが、本来はクイーン4枚のうちの1枚を抜いたゲームがオールドメイドでした。200年ほど前にジョーカーが生まれてからそれをババにするようになったのです」
シャム「へ~、ババって古いメイドのことだったのか。ペペは物知りだな~」
ネイロ「小難しい説明はいらんぞ。早くカードを配れ」
シャルル「親決めだ。大きな数字を引いた者がハウスな」
⚔⚔⚔
ネイロとシャムたちがゲームを始めた頃、女性組はネイロの孫娘と会うためにノールの泉へと向かっていた。
ノールの泉は、ネイロの洞窟から北へ1キロ行ったところにある。
メタセコイヤの並木道がつづき、まもなく広い草原が視界に入ってきた。
ペルセ島は小さな島だが、長い時間の中で育まれてきた多様な自然環境が揃っている。
イヴ「女性だけでこうして出掛けるのは初めてだね」
シシ「そうだね。たまには男抜きもいいものだね。あはははは~」
⚔⚔⚔
ふたたびネイロの洞窟では……
シャム「ハ、ハ、ハクション~~~~~!」
ネイロ「大きなくしゃみくをしおって、びっくりするではないか」
シャム「くすん、風邪を引いたのかな?」
ネイロ「違うな。誰かがおまえの噂をしておるのじゃ」
シャム「えへん、おいらの噂か~? 『シャムはイケメン』とか、『シャムはめちゃ強い』とか、そんなところかな?」
ネイロ「ふん、まったくもってめでたいヤツじゃ」
シャム「違うのか?」
ネイロ「クシャミが1回なら、誰かに悪口を言われとるんじゃよ」
シャム「誰かがおいらの悪口を言っているのか? では2回なら?」
ネイロ「2回なら誰かに笑われてるんじゃよ」
シャム「じゃあ3回なら?」
ネイロ「誰かに惚れられているんじゃよ」
シャム「それがいいな~! じゃああと2回するぞ~!」
ネイロ「無理にしてもダメじゃ」
シャム「4回なら?」
ネイロ「風邪を引いとるんじゃ。すぐに寝ろ」
シャルル「それって迷信じゃないのか?」
ペペ「国によっても言い伝えは違うみたいですね。くしゃみの話はさておいて、はい、1抜けで私の勝ちです」
ネイロ「くそっ、ペペめ。おまえはおとなしそうな顔をしているくせにゲームは強いのう。また薬草を持って行かれたわい」
⚔⚔⚔
和やかな雰囲気の中、ノームに向かう女性組の表情は明るい。
そんな彼女たちの背後に忍び寄る複数の人影があった。
人影はじわりじわりと迫りくる。