ファンタジー官能小説『セクスカリバー』

Shyrock 作



<第19章「謎の底なし沼」目次>

第19章「謎の底なし沼」 第1話
第19章「謎の底なし沼」 第2話
第19章「謎の底なし沼」 第3話
第19章「謎の底なし沼」 第4話
第19章「謎の底なし沼」 第5話
第19章「謎の底なし沼」 第6話
第19章「謎の底なし沼」 第7話
第19章「謎の底なし沼」 第8話
第19章「謎の底なし沼」 第9話
第19章「謎の底なし沼」 第10話
第19章「謎の底なし沼」 第11話




<メンバーの現在の体力>

シャム 勇者 HP 490/490 MP 0/0
イヴ 神官 HP 430/430 MP 420/420
アリサ 猫耳 HP 430/430 MP 0/0
キュー ワルキューレ HP470/470 MP220/220
エリカ ウンディーネ女王 HP 350/350 MP 460/460
シシ・フリューゲル 女海賊 HP 470/470 MP 0/0
チルチル 街少女 HP 290/290 MP 0/0
シャルル 漁師・レジスタンス運動指導者 HP 520/520 MP 0/0
ペペ 魔導師 HP 380/380 MP 470/470

⚔⚔⚔

第19章「謎の底なし沼」 第1話

 サイクロプスの村では1年に一度闘技大会が開催され、村はお祭り騒ぎの賑わいをみせる。
 試合形式は勝ち抜き戦で、10人勝ち抜けば優勝となり、賞金10,000Gと『お楽しみアイテム』を獲得することができる。
 闘技大会には、サイクロプスのほか、人間、エルフ、オークなどの挑戦があったが、地元サイクロプス戦士のデカルトという男が破格の強さで9人を圧倒し、10人勝ち抜きにあと一歩のところまで漕ぎつけた。
 ところがデカルトの強さに恐れをなしたのか10人目の挑戦者が現れず、主催者は困り果てていた。

アナウンス『皆様の中で戦士デカルトに挑戦される方はいませんか? 我こそはと思う方はぜひ受付までお申し出ください!』

 お知らせをしてみても闘技場はシーンと静まり返っている。

役員A「これは困った……10人目の挑戦者がいないぞ……規則では10人勝ち抜かないと優勝にはできない」
役員B「これだけ見物客が大勢いるんだから誰か参加してくれないかな?」
役員C「それは期待できないな。デカルトのあの強さを見せつけらたら誰でも戦意を喪失するよ」
役員A「明日の午前10時までに参加者が現れないと可哀そうだがデカルトの優勝はお預けだな……」
役員B「そんなことをしたらデカルトが怒って来年から出場しなくなるぞ」
役員C「デカルトが出場しないとなると、おそらく見物客が減ると思う……」
役員A「とりあえず明日10時までに10人目の挑戦者が現れることを祈るしかないな」
役員B「私は村内の店舗に宣伝のポスターを貼って回るよ」
役員C「俺も手伝うよ」

 デカルトは島一番強い男との評判で、過去一度も敗北を喫したことがなく3年連続で優勝を果たしている。
 はたして彼の前に10人目の挑戦者は現れるのだろうか。

⚔⚔⚔

 シャムたちがサイクロプスの村に到着した頃には、すっかり陽が落ちてしまっていた。
 メンバーのほとんどが空腹を訴えている。先ずは食堂を見つけて腹ごしらえをしなくてはならない。
 向こうから人がやってきた。人とはいってもこの村では『サイクロプス』だが、ここでは『人』と呼ぶことにしよう。
 通行人に話しかけるときはだいたいイヴがその役目を担っている。メンバー中もっとも渉外担当に向いているからだ。

イヴ「すみません、ちょっとお聞きします」
通行人の男「なんだね?」

 通行人は恐ろしく大男だ。優に250センチメートルはあるだろう。
 ただしサイクロプスは平均で250センチメートルあり、大きければ300センチメートルはある。
 そのため人間が話しかける場合、首を傾げ見上げなければならずかなりきつい。
 メンバー中195センチメートルと大柄なシャルルでさえも小柄に見えてしまうほどなので、164センチメートルのイヴだとなおさら小さく見える。

イヴ「ここから一番近い食堂を教えてくれませんか?」
通行人の男「少し行ったところに『食堂キュクロ』があるよ。石窯で焼いたピッツァが絶品なんだ」

 3分ほど歩くと、ぽつんと佇む建物から黄色い灯りが見えてきた。
 男が言ってた『食堂キュクロ』がすぐに見つかった。

チルチル「さっきからおなかが鳴って困ってるの~、早く食べようよ~♫」
アリサ「にゃ~ん、ピッツァだ~、サラミがいっぱい入ったのがいいなああああ」

 なだれ込むように店内に入るシャムたち。
 幸いにも空席がありすぐに席に着くことができた。
 注文を受けてから生地を伸ばして石窯で焼くため少し時間を要したが、次々に美味なピッツァが運ばれてきた。

キュー「にゅう! すごく大きい~!」
シシ「海賊船のコックが焼いてくれたピッツァの2倍はあるわ~!」
エリカ「シシさん、海賊船の名前は出さない方がいいですよ」

 驚いたのはピッツァの大きさだった。
 直径60センチメートルはあるだろうか。
 テーブルもかなり大きめなのだが、たちまちテーブルがいっぱいになってしまった。

店員「テーブルに乗りきらないのでサイドテーブルをご用意しますね」

 ピッツァばかりか、皿も大きく、ナイフ、フォーク、コップすべてが大きいのだ。
 つまりサイクロプスが食べる物、使用する物、すべてがLLサイズということになる。

チルチル「うわ~、ナイフとフォークが大き過ぎて持てないよ~♫」
イヴ「店員さん、少し小さなサイズの食器をもらえませんか?」
店員「あっ、すみません! 気が付かなくて。すぐにお持ちしますね」

 店員はすぐに人間用サイズのナイフとフォークを持ってきた。
 やはり両方用意をしてあるようだ。
 ピッツァは大きな円盤状の生地に、とろとろのクリーミーなチーズ、サラミ、トマト、キノコなどの具がたっぷり乗ったボリューム満点の実に美味な逸品といえる。

 菜食主義のエリカも目の前にどっさりと出された大盛りのサラダに顔を青ざめている。

エリカ「あぁ、困りました……私、こんなに食べられませんわ……ペペさんは男だから食べられるでしょう? 手伝ってくれますか?」
ペペ「冗談じゃないですよ。自分が注文したピッツァすら食べられるかどうか不安なんです……」

 一方大食漢のシャムとアリサはエリカたちの会話などどこ吹く風でモリモリ食べている。

シャム「う~ん、これはいける! ひさしぶりにこんな美味いピッツァを食べるな~」
アリサ「にゃご~、こんなに美味しいといくらでもおなかに入るねええええ」

 まるで大食い競争でもしているかのようなシャムとアリサを姿にキューは唖然としている。

キュー「にゃっ、私もかなり食べれる方だけど、シャムとアリサちゃんは格が違うわ……」
シシ「あまり食べ過ぎると美容に悪いわよ、アリサちゃん」
アリサ「いいの~、おなかが空いているのおおおお」
イヴ「アリサちゃんはいくら食べても太らないからいいね~」

 店内にいる客のほとんどがサイクロプスである。
 以前、島の玄関口に奴隷砦があったことから人々が島に寄りつかなくなり島の発展を大きく阻害した。
 闘技大会を開催しても参加者や見物客のほとんどが島民であり、外部からの流入は期待できなかった。
 そんな事情からシャムたちの存在が大変珍しく、彼らに好奇な視線を向けヒソヒソ話をするのであった。



第19章「謎の底なし沼」 第2話

サイクロプスA「珍しいじゃないか、人間が来ているよ」
サイクロプスB「こんな島の奥地まで来るとは物好きだねえ」
サイクロプスA「もしかしたら闘技大会の挑戦者かな?」
サイクロプスB「まさか、それはないだろう。たまに人間の参加はあるけど、身体の小さな人間が勝てるほど甘くはないよ」
サイクロプスA「優勝は今年もサイクロプスのデカルトに決まりだよ」

 そんな噂をされているともつゆ知らず、和やかに食卓を囲み談笑をするシャムたち。

シャム「美味かった~、しかし食べ過ぎてぐるじい……」
シシ「シャムったら調子に乗って食べ過ぎだよ。みんなの残り物もアリサちゃんと2人で全部残らず平らげてしまうんだから」
エリカ「昔から言うでしょう? 腹八分目って。食べ過ぎには注意しましょうね」
アリサ「にゃ~ご~……ふぅふぅ、あぁ、苦ちいにゃああああ」
チルチル「アリサちゃん、大丈夫?♫」

 チルチルが心配そうにアリサの背中を摩っている。

イヴ「ごちそうさま~。お勘定をお願いします」
店長「は~い、どうもありがとうございます!」

 たくさん注文したからか一つ目の店長もニコニコ顔だ。

イヴ「すごく美味しかったわ」
店長「お客様にそう言ってもらえるのはコックとして光栄です! ところで、お客様は闘技大会の関係でこの村に来られたのですか?」
イヴ「闘技大会って?」
店長「実は、この村では現在闘技大会が開催されているんですよ」
イヴ「へ~、そうなんだ」
店長「でもね、残念なことに優勝該当者なしになるかもしれないという噂なんですよ」
イヴ「どうして?」
店長「10人連続で勝ち抜けば優勝というルールなんですけどね。ところが9人まで勝ち抜いたデカルトと戦士があまりにも強いため10人目の挑戦者がまったく現れないのです」
イヴ「めっぽう強いのね」
店長「9人が大怪我をして診療所送りになったことで、恐れをなしたのだと思います」
イヴ「それは困ったわね。10人目の挑戦者が現れないと優勝がお預けだなんてあんまりだわ」
店長「ねっ? そう思うでしょう? それでお客さん! ぜひ挑戦してもらえませんか!?」
イヴ「わ、私が!? 冗談言わないでよ!」
店長「何とかお願いしますよ! お見受けしたところあなたは相当腕の立つ女剣士さまのようですし、お願いします!」
イヴ「人間の私が大柄なサイクロプスの戦士と戦うなんて、そんなの無茶だわ。絶対に嫌です!」
店長「優勝したら10,000Gと副賞ももらえるんですよ!」
イヴ「ダメ、ダメ、ダメ~~~! そんなの無理~~~!」

 精算中のイヴがなかなか出てこないので、痺れを切らしたシャムとアリサが様子を見に入った。

シャム「イヴ、もしかしたら店長にナンパされているのか~!?」
イヴ「もう、そんなわけないじゃないの。実は……」

 イヴは食堂の店長から闘技大会出場を懇願されて困っていることをシャムとアリサに打ち明けた。
 明日はペルセ山への登頂が控えていることもあって、当然シャムも辞退するものと踏んでいたイヴだったが、シャムから出たのは意外な言葉であった。

シャム「いいよ、おいらが出る」
イヴ「まさか……シャム、本気なの!?」
シャム「もちろん本気だとも。強い相手と戦えば経験値も稼げるわけだし出場しない理由なんてないじゃん。だって今夜は泊りで明日の午前中は薬草等の買い出しだろう? 試合が11時ならそれまでに買い物を済ませばいいじゃん」
イヴ「軽く考えているみたいだけど、相手はサイクロプスの猛者だし絶対に勝てるという保証はないのよ」
シャム「そんなのやってみなければ分からないじゃん」
イヴ「それはそうだけど大切な登頂前にシャムが大怪我されたら困るもの」
アリサ「その場合はイヴさんがヒールで治療してあげたらいいじゃないのおおおお」
イヴ「アリサちゃんまでそんなことを言って……」
アリサ「シャムが勝つような予感がするうううう」
イヴ「何を根拠にそんなことを言うのやら……」
シャム「そんなに心配するなよ。勝てば賞金と賞品もあるようだし旅も少しは楽になるじゃないか」
イヴ「分かったわ。でも気をつけてよ」

 イヴたちの様子をうかがっていた店長が満面笑みを浮かべて喜んだ。

店長「よくぞ決心してくれました! 今から私がひとっ走りして大会本部に参加申し込みをしてきます! こちらにあなた様のお名前とご職業をこちらにご記入ください」

 シャムの闘技大会参加の知らせを受け店先が沸き立った。

シャルル「俺も参加したかったぞ~! シャム、出場する限り絶対に勝てよ!」
ペペ「相手は優勝候補。今夜作戦を練りましょう!」
シシ「驚いたよ! シャム、がんばってね!」

 ⚔⚔⚔

 今も昔も閉店が早いのが辺境の村の特徴。サイクロプスの村とて例外ではない。
 そんな中、日が暮れても煌々と灯りをともして営業をつづけている道具屋があった。

アリサ「にゃご~、道具屋さんがまだ開いてるよ。今のうちに薬草や法力草を買っておこうよおおおお」
エリカ「それがいいですね。明日は忙しくなりますからね」
チルチル「どんな物が売ってるのかな~?♫」

 アリサたちは道具屋に飛び込んだ。
 シャム、シャルル、ペペの男組は先に宿屋に戻って武器の手入れに余念がない。

エリカ「おじゃまします」
道具屋のオヤジ「いらっしゃい~。ここは道具屋です。どんなご用でしょう?」

 道具屋のオヤジもサイクロプスであった。
 外見はいささか厳ついが、実際には温厚で誠実な種族といえる。

エリカ「薬草20本、法力草20本、キノコ各10本をくださいな」
道具屋のオヤジ「毎度あり~! ところで皆さんは旅のお方ですか?」
シシ「そうよ。明日ペルセ山に登る予定なの」
道具屋のオヤジ「なんと! ペルセ山に登るのですか?」

 道具屋のオヤジは大きな一つ目を一段と大きく見開いた。



第19章「謎の底なし沼」 第3話

シシ「ペルセ山に登ると言っただけでどうしてそんなに驚くの?」
道具屋のオヤジ「そりゃ驚くよ。だってこの島の住民は皆ペルセ山に近付きたがらないんだもの」
チルチル「どうして? もしかしたらお化けが出るとかでピョン……?」
道具屋のオヤジ「お化けや魔物は出ないんだけど……」
シシ「山頂までに関門が3つもあるから皆行きたがらないのではないの?」
道具屋のオヤジ「よく知ってるね~! そうなんだよ。1つ目の関門には私たちサイクロプス族が門番を任されていて交代で見張りをしているんだ。入山者が関門を通るには門番と力比べをして勝たなければならない」
キュー「にゃっ、もし入山者が門番に力比べで負けたらどうなるの?」
道具屋のオヤジ「門番に負けたら来た道を引き返さなければならない。門番のサイクロプスは私たちの中でも選りすぐりの力持ちが選ばれているのでまず負けることがない」
キュー「にゅう、力比べで門番に勝てばいいわけね?」
道具屋のオヤジ「ゴホン、悪いけどあなたたち人間には無理だと思うよ」

 道具屋のオヤジは胸を張って言い放った。
 きゅっと眉を上げ勝気な仕草を見せるキュー。

キュー「どうかしら? やってみないと分からないと思うよ」
道具屋のオヤジ「えらく自信があるみたいだけど、かつて門番に力比べを挑んで勝ったのはヘーラクレースとテーセウスだけだよ」
キュー「それっていつの時代の話なの。誰も見ていないじゃないの」
マリア「まあまあ、キューちゃん、熱くなりすぎですよ。道具屋さん、私たちは門番さんに力比べを挑むつもりはないのですよ」
道具屋のオヤジ「でもペルセ山に行くんだろう……? もしかしたら『ペルセのエンブレム』を持っているのかな?」
チルチル「ピンポ~ン、そのもしか当たりだピョン~♫」
道具屋のオヤジ「これは驚いた! 『ペルセのエンブレム』を持っているとは、あなたたちは只者じゃないね! でもそれ以上詮索するのは野暮だからやめておくよ。では、みなさんの登頂成功を願って、キノコを5本おまけしておくよ!」
キュー「にゅう~、おじさん、ありがとう! すごく話せる人だね~」
道具屋のオヤジ「いやいや、それほどでも! ところで皆さんはキノコの使い方を知ってるの? 何ならおじさんが教えてあげようか?」
キュー「おじさんのエッチ~」
道具屋のオヤジ「わはははは~、男はサイクロプスも人間もみんなエッチだよ、じゃあ、皆さん、気をつけてね!」

 布袋にいっぱいアイテムを詰め込んだキューたちはシャムたちが待つ宿屋へと帰っていった。

⚔⚔⚔

 武器の手入れを終えたシャムたちは、宿屋のロビーでのんびりと寛いでいた。
 隣のテーブルでは美形のカップルが雑談をしている。
 耳が長く尖っているのでおそらくエルフだろう。
 カップルは決して大きな声で語らっているわけではないのだが、静寂の中なので否応なしに彼らの会話が耳に入ってくる。

エルフ女「うちの村のジャコモはよくがんばったけど、サイクロプスのデカルトには敵わなかったわね」
エルフ男「そりゃ今のデカルトはまるで鬼神のようだ」
エルフ女「でも9人勝ち抜いたところで、あまりに強すぎて対戦相手が現れないって聞いたよ」
エルフ男「その後挑戦者が現れたので明日無事に試合が行われるらしい」
エルフ女「それはよかったわ。デカルトは難病のお母さんの治療費を稼ぐために戦士になったと聞くし」
エルフ男「それならなおさら優勝したいだろうね」

シャム「……」
シャルル「……」
ペペ「……」

 聞き耳を立てていたわけではないが、自然に入ってくるカップルの会話。
 シャムたちは戦士デカルトが大会に参加する理由を図らずも知ってしまった。

 シャムたちの沈黙は、キューたちが宿屋に戻ってくるまでつづいた。
 キューたちが帰ってきたころ、すでにカップルの姿はなかった。

⚔⚔⚔

 闘技会最終日が訪れた。
 シャムたちは闘技会場のある村の広場へと向かった。
 途中には露店市場が開催されていたり、骨董品、生鮮食品、装飾品、玩具店から日用品にいたるまで、さまざまな品物が店頭に並び、まるで祭りのような賑わいを見せていた。

チルチル「フランクフルトソーセージ美味しそうだね~♫」
アリサ「食欲を誘うよね~、この匂い。チルチルちゃん、よだれよだれええええ」
イヴ「もう~、ダメだよ~、今からシャムが大会に出るのだから」
シシ「朝食済ましてきたのに。帰りに寄ろうよ」

 しばらく歩くと、シャムたちの目の前に闘技場が見えてきた。
 闘技場といっても10メートル四方の格闘用に縄張りされているだけの広場だ。
 シャムは入り口付近にあった受付に行き、開始1時間前に参加の手続きを済ませた。

受付「大会にようこそ。あなたが食堂キュクロの店長さんから申し込みのあったシャムさんですね。こちらの用紙に名前、種族、年齢、職種を記入してください」
シャム「え~と、シャム・ロマンチーノ……人間……18歳……勇者……これでいいのかな?」
受付「ゆ、勇者……!? もしかしたらあなたは……」
シャム「勇者が拙いなら、戦士にしておこうか?」
受付「いいえ、そのままで構いません……」



第19章「謎の底なし沼」 第4話

イヴ「シャム、勝ったらご褒美に今夜いいことしてあげる」
シャム「それなら勝つしかないな~!」
アリサ「シャムをサンドウィッチにして寝ようかな?」
シシ「じゃあついでに3人まとめとく?」
シャム「何人でも受け付けるぞ~ 締め切りはないからな~」
シャルル「チェッ、妬けるぜ」
エリカ「なにか言いましたか?」
シャルル「いやいや、今日は暑くて日に焼けると言っただけだ」
エリカ「それほど暑くはないと思いますが」
キュー「サイクロプスの弱点はツノだと聞いたことがあるけど、狙ってみる価値はあるかも」
シャム「背の高いやつの頭においらの剣が届くかなあ……まあ届かなければほかの方法を探すとするか」
ペペ「かなり余裕ですけど、何か秘策があるのですか」
シャム「そんなものスライムナイト」
ペペ「ダジャレとか言ってて大丈夫なのでしょうか」

 広場は熱狂に包まれている。
 歓声が飛び交う中、シャムが広場の中央に進み出た。
 つづいて反対側から巨体を揺すってデカルトが現れた。
 やはり地元の戦士というだけあって歓声が一段と高まる。
 シャムを射るように見つめる大きな一つ目。
 デカルトは身長3メートルとシャムとは比にならないほど巨体である。
 間近で見ると大概の人間は恐怖を感じるだろう。

 審判が2人の紹介を始めた。

審判「挑戦者はシャム! 種族人間、年齢18才、HP490、MP0、速度200!」
観衆「人間だってさ。人間がサイクロプスに勝てるわけないよ~」
観衆「ボコボコにやられるのがおちだよ」
観衆「俺はあえて人間を応援するよ」

審判「9人抜き暫定チャンピオンのデカルト! 種族サイクロプス、年齢27才、HP960、MP0、速度50!」

 大きな拍手喝采が巻き起こる。地元デカルト選手への応援が圧倒的に多いようだ。

観衆「力の違いは歴然。断然デカルトが有利だな!」
観衆「君はペルセ島の誇りだ!」
観衆「デカルト! 相手を完膚なきまでに叩きのめせ!」

審判「ただいまから試合のルールを説明します。試合時間は10分です。武器はこちらから提供した物を使用してもらいます。シャム選手は『切れない剣』、デカルト選手は『つぶせない棍棒』です。切れない、つぶせない、とは言っても、攻撃を受けると通常の武器の半分のダメージがあります。原則的には10分戦い審判団が勝負を判定しますが、途中で選手が戦闘不能、もしくは審判が試合の続行不可能と判断した場合、その時点で勝負が決まります。ただし相手を死なせることは絶対に禁止です。もしルールを破った場合は失格処分とします。それから試合中に薬草を使ったり、ヒール魔法をかけたりすることは禁止です」

 試合開始の銅鑼が鳴り響く。

審判「では、始め!」

 最初に広場の中央に出てきたのは大男のデカルト。
 まるで筋肉の要塞のようなすごい肉体を誇示し、一つ目でぎょろりとシャムを睨みつける。
 175センチメートルのシャムとの体格差は歴然としている。

デカルト「悪いことは言わない。やめるなら今のうちだぞ、坊主」
シャム「おいらが坊主かどうか試してみたら? おじさん」
デカルト「誰がおじさんだ。俺はまだ27才だぞ」

 観衆からもヤジが飛ぶ。

観衆「まだ少年じゃないか!」
観衆「デカルト相手じゃかわいそうだが1分持たないな」
観衆「坊や、ママのところに帰れ!」

 デカルトや観衆の挑発するに乗らず、冷静に剣を構えるシャム。

 最初に仕掛けたのはデカルトであった。
 棍棒を振り上げて撃ち込んできたが、シャムは剣で軽く払いのけさっと身をかわした。

デカルト「坊主、なかなかいい動きじゃないか。だが、これは耐えられるかな。それ~~~!」

 一撃目を見事に受けたシャムであったが、すぐさま二撃目が繰り出された。

シャム「なんのっ!」

 つぶせない棍棒とは言ってもその打撃力はすさまじく、受け止めはしたものの思わずガクッと膝を落としてしまった。

(うううっ、恐ろしいパワーだ……)

 防戦気味のシャムを見て、ここぞとばかりに連続攻撃を仕掛けてくるデカルト。

デカルト「これならどうだ!」
シャム「おおっと!」

 立ち上がる余裕もなく転がりながら回避するシャム。
 いくらつぶせない棍棒とはいってもまともに喰らえばダメージは大きい。
 棍棒が地面を叩いた瞬間に立ち上がり、反撃とばかりに剣を突き入れた。

シャム「とりゃあ~~~!」
デカルト「ふん!」

 シャムの剣を棍棒で受け止めるデカルト。
 一進一退の攻防はつづいたが、体力とパワーに勝るデカルトはじりじりとシャムを追い詰めていく。

 シャムがけつまずいて仰向けに倒れ、その上から棍棒でシャムの剣を押しつけるデカルトにシャムが苦悶の表情を浮かべる。

デカルト「ふふふ、もう終わりだな」
シャム「うううっ……」
デカルト「降参しろ。その方が怪我しないで済むぞ」

 デカルトが真下に棍棒を叩きこむ。
 観衆がもう終わりか、と思ったがそこには誰もいなかった。

デカルト「あれ……? どこに消えやがった!?」

 唖然としていると上から声がした。

シャム「ここだよ~ おじさん」

 デカルトが上を向くと、真上には切りかかろうとするシャムの姿があった。

デカルト「何という身の軽さっ!」

 シャムの振り下ろす剣を辛うじて棍棒で受け止めたデカルト。

シャム「おじさん、やるな~」



第19章「謎の底なし沼」 第5話

デカルト「ふん、俺のツノを狙っているのは知っているぞ」

 頭上の攻撃からツノを守るためデカルトは棍棒を上段に構える。

シャム「隙あり~!」

 シャムの指突きが大きな一つ目に放たれた。

デカルト「いて~~~~~っ!」

 目を押さえてうずくまるデカルト。

デカルト「目が……目が見えない……」
シャム「ツノが弱点だと自分から言ってたな」

 苦悶するデカルトのツノにシャムの『切れない剣』が襲う。

デカルト「ぎゃあ~~~~~!!」

 300キロを超える巨体が地響きを立てて倒れた。

観衆「デカルトがやられたぞ!」
観衆「死んだのか!?」

シャム「心配するな。イヴ、すぐにデカルトにヒールをかけてやれ!」
イヴ「分かったわ! 神よ、癒しの力をここに……ヒール!」

 イヴが呪文を唱えると、聖なる霧がデカルトの顔附近を包むように立ちこめた。
 見る見るうちに傷が癒えていく。
 観衆は固唾を呑んで見守る。
 苦悶していたデカルトの表情も和らいでいき、やがて血色のよい元気な姿へと戻っていた。
 周囲から歓声があがった。
 
デカルト「んっ……ツノも目も痛くないぞ……?」
イヴ「目とツノの怪我が軽かったからすぐに回復したわ。やさしく目を突いたシャムに感謝することね」
デカルト「そうだったのか……それにしても人間に負けたのはかなりショックだな……」

 審判がシャムの手を挙げて優勝を宣言する。

審判「優勝はシャム選手に決定しました! シャム選手に優勝賞金10,000Gと副賞を贈呈します! なお、大会ルールでは優勝は10連勝することが条件ですが、本日は最終日であるため9連勝中の暫定チャンピオンに勝利した者を優勝とするという特別ルールを適用しました。シャム選手に皆様盛大な拍手をお送りください!」

 周囲から拍手が送られた。

シャム「皆さん、ありがとう! だけど優勝したのはおいらじゃなくてデカルト選手なんです!」
審判「いったい何を言うのですか?」
観衆「どういう意味だい? 優勝したのはあんただろう?」
デカルト「……?」

 突然切り出したシャムの発言に当惑する審判と観衆。
 さらに……

シャム「おいらはまだまだ修行途中です。戦ってデカルト選手のほうが断然力が勝っていることが分かりました。おいらは負けそうになって思わずデカルト選手の目を突きました。つまりおいらはズルをしたんです。だからおいらに優勝の資格なんてありません。優勝はデカルト選手に与えられるべきです!」

 広場に大きなざわめきが巻き起こった。

観衆「自分の非を認め優勝をデカルトに譲るとは……何と潔い少年だろうか」
観衆「優勝に相応しいのがデカルトだなんて……ううう、泣かせるじゃないか」
観衆「彼はいったい何者だ? 実によくできた人間だ」
デカルト「シャムさんと言ったな……ありがとうよ……恩に着るよ」

 審判団が急遽協議を行ない、改めてその結果を発表した。

審判「優勝に関して、優勝者本人であるシャム選手から異議申し立てがあり、協議を行なった結果、優勝はデカルト選手とすることに決定しました! よって優勝賞金10000Gと副賞をデカルト選手に贈呈します!」

 デカルト選手は拍手と喝采に包まれた。

デカルト「ううう……嬉しいよ、ありがとう……シャムさん、すまないなあ」
シャム「おいらに礼なんて言わないでくれよ、優勝したのはおじさんだから」
デカルト「おじさんって言うなって。老け顔かもしれないけど俺はまだ27なんだから」
シャム「悪い悪い、デカルトさん、優勝おめでとう」
デカルト「ありがとうよ、あんた、もしかしたら俺のおふくろのことを聞いて、優勝を譲ったんじゃないのか?」
シャム「あんたのお母さんのことなんて全然知らないよ、全然知らないけど、お母さんを大切にしろよ~」
デカルト「うん、それは約束するよ。あんた、いい人だな」

観衆「ところで副賞って何だい?」
デカルト「さあ、何だろうな?」
審判「副賞は、牛1頭です」
デカルト「おお、それはありがたいや!」
観衆「よかったな、デカルト!」

 周囲に聞こえない声で、エリカたちがヒソヒソ話をしている。

エリカ「うふ、もし副賞をもらってたら大変なことになっていましたね」
キュー「牛を連れて旅をするって大変そう」
チルチル「でも乳牛なら毎日ミルクに困らないかも♫」

 再び審判が現れ何やら小さな箱を掲げた。

審判「今回デカルト選手とともに大いに大会を盛り上げてくれたシャム選手に特別賞を贈呈することになりました! シャム選手、お受け取りください!」
シャム「えっ!? おいらに賞品をくれるの? 嬉しいな~。何をくれるのかな?」
審判「特別賞は『脱出の羽根』という大変珍しいものなのです」
シャム「なにそれ?」
審判「山奥や洞窟等で迷子になったとき、パーティ全員が集まり『脱出の羽根』を空中に放り投げると、パーティー全員が山や洞窟の入口に戻ることができる代物です。ただし1回使うと消えてなくなるので使うタイミングには注意が必要です」
シャム「へ~、便利な物なんだね。ありがとう、もらっておくよ。ちなみにそれってどこかの道具屋で売ってるの?」
審判「残念ですがペルセ島やロマンティーノ大陸の道具屋では売っていません。詳しいことは分かりませんが、地域によっては売っているとも聞いています」

 シャムたちは『脱出の羽根』1個を手に入れた! 



第19章「謎の底なし沼」 第6話

 サイクロプスの村から立ち去るシャムたちの後方から巨体を揺すってデカルトが追いかけてきた。

デカルト「お~い、シャムさん~!」
シャム「なんだよ? もう1回試合をしたいのか?」
デカルト「違うよ。シャムさんに一言言いたくて。友人から聞いたんだけど、シャムさんたちは魔物のボスを退治する旅をしてるんだってな。もし俺で役に立つことがあったらいつでも呼んでくれ。力だけは誰にも負けないから」
シャム「ははははは~、いつかその馬鹿力を借りるかも知れないよ。そのときは頼んだぞ」
デカルト「がははは、相変わらず口の悪い男だな」
シャム「お母さんの病気が早く治るといいな」
デカルト「ありがとう。皆さんの幸運を祈ってるよ!」

 デカルトとはまたいつかどこかで会えるかもしれない。
 ふとそんな予感がシャムの心をよぎった。

 村で装備を整えたシャムたちが向かう先は第1関門だ。
 第1関門はサイクロプス村から出て30分ほど歩いたところにあるという。
 第1関門を越えても山頂まではかなり時間を要するので日が暮れたら途中で野宿をすることになるだろう。

アリサ「にゃう~ん、坂がだんだんきつくなってきたね。1つめの関門までまだ遠いのかなああああ」
キュー「もうすぐだと思うよ、それにしても敵が出てこないと楽だね」
エリカ「ペルセ山は神の守護があるので魔物が入れないと聞いています」
シシ「でも油断は禁物だよ。地上にいっぱい魔物が蔓延っているんだから、山にいたとしても不思議じゃないと思うわ」
チルチル「シシさん、驚かさないでほしいでピョン♫」
ペペ「いずれにしても気持ちを引締めて進むのが安全だと思います」

イヴ「あっ、門が見えてきた。あそこじゃないかしら?」

 イヴの指差す方向には大きな門扉がある。
 門扉の手前には堀があって向こう側に渡ることができない。
 門扉の上には回廊があるようで番人らしきサイクロプスがこちらを見ている。

イヴ「門番さん、ごくろうさま~」
番人「何のようだ。ここは通れないぞ」
エリカ「これがあれば通してもらえますよね?」

 エリカが『ペルセのエンブレム』を提示すると、サイクロプスがぎろりと見つめた。

エリカ「私たちは怪しいものではありません。山頂に用があってここを通してもらいたいのです」
番人「それは本物のようだな」
エリカ「もちろん本物です。どうぞ手に取って確認してください」
番人「分かった」

 まもなく軋んだ音を立てて門扉が手前に開き、跳ね橋となって堀に架けられた。
 鉄棒を持ったサイクロプスが現れた。

番人「エンブレムを見せてもらおうか」

 エリカが提示したペルセのエンブレムをしげしげと見つめている。

番人「これは間違いなくペルセのエンブレムだな。通っていいぞ」

 あまりにもあっさりと通行許可が下りたので、拍子抜けしたような面持ちでシャムたちが跳ね橋を渡った。

シャム「ほえ? 本当? 本当に通っていいのか?」
イヴ「あまりにも簡単に通してくれると拍子が抜けるよね」
ペペ「とは言ってもむやみにサイクロプスとは戦いたくないですからね」

 シャムたちは思ったよりも簡単に第1関門を通過できたことで余裕の表情を浮かべていた。

シャム「よしこの調子で第2関門も突破だあ~!」
イヴ「でもこの後が大変な気がするよ」
チルチル「どんな所だろう? 底なし沼っていってたけど」
キュー「底なし沼という言葉の響きがなんだか不気味だね」
アリサ「アリサは水がちょっと苦手だよおおおお」
キュー「アリサちゃんは猫耳だものね。それに引き替え、エリカさんは水の聖霊だから底なし沼なんて平気じゃないの?」
エリカ「水が得意な私だけど、底なし沼を泳ぐのは嫌ですわ。きっと濁っていてドロドロだと思いますよ」
シャム「おいらも泳ぎたくないぞ」
イヴ「あら? シャムは泳ぐのが得意じゃないの? ベッドの海をあんなに上手く泳ぐんだもの」
シャム「ふん、ベッドの海と底なし沼をいっしょにするな~」
 
 そこから底なし沼が見えてくるのに、それほど時間はかからなかった。
 疎らな樹林がしばらく続いていたが、突然、おどろおどろしい沼が現れたのだ。
 鬱蒼とした木々がこんもりとドームのように茂っていて、悪鬼が潜む沼であるかのような気配を漂わせている。

シャルル「沼というより、樹海って感じがするな……」

 時折風が吹けば、木々を揺らして風鳴りがする。
 それが深い森に共鳴してまるで唸り声のように聞こえてくる。

 ザザザザザ……ウォォォォォ……

 思わず脅えるチルチル。

シャム「だいじょうぶだ。心配するな」

 そういえば先程よりも、辺りに霞が立ち込め始め、気のせいか空気も淀んでいるように感じられる。

シシ「何だか暗くなって来たね」
キュー「にゅう、何だか不気味な感じ」

 樹々が鬱蒼と繫っていて、あまり陽を通さないので余計に暗く感じられるのだろう。

アリサ「魔物がいないのが救いだよねええええ」
エリカ「でも油断は禁物ですよ。きゃっ~~~!」
アリサ「にゃごっ! なになに!?」

 カサカサと音を立てて足元を小さな野ネズミが横切っていった。

エリカ「なんだ、ネズミでしたか。ホッとしましたよ」
アリサ「ネズミ? 私が捕まえてあげようかああああ?」
エリカ「いりませんよ。私、ネズミは大嫌いですの」



第19章「謎の底なし沼」 第7話

 遠くからは樹海に見えていたが、さらに近づいてみるとどす黒く淀んだ沼であることが分かった。

シシ「これが底なし沼なのね……なんだか気味が悪いわ」

 周囲は樹々が密生しているので前進は困難と思われ、先に進むにはやはりこの沼を越えるしかないだろう。
 チルチルが水の精霊エリカに尋ねてみた。

チルチル「底なし沼って本当に底なしなの?」
エリカ「いいえ、どんな沼にも必ず底があります。底なし沼と呼ばれる沼には沼底に柔らかな泥が沈殿していて、うっかり踏み込むとズブズブと沈んでしまうのです。もがけばもがくほど泥が足にまとわりつき身動きがとれなくなって最後は溺れてしまいます。特に重い荷物を持っているとその危険はさらに増すのです」
シシ「さすがだね、エリカさんの説明は具体的だね。でも聞いているとだんだんやばい気分になってきたよ。海なら何ともないのに沼だとどうしてかな? あははは」
シャルル「深さはどのぐらいあるのだろう?」
イヴ「一度計ってみようか?」
シャム「確かCカップだったな?」
イヴ「もしかして私の胸のサイズのこと? どうして話をそっちに持って行くかな~」
アリサ「イヴさん、Cカップだったのかああああ」
キュー「お風呂で見たとき、もう少しあるように見えたけど」
イヴ「あなたたちまで何よ!」
キュー「おお、コワぁ……」

 イヴはシャムたちをたしなめると、水辺に伸びている蔓をナイフで切りとり拳大の石に括りつける。

イヴ「それじゃこの石を沼に沈めて深さを測るね」
シャルル「投げるのは俺に任せろ」

 シャルルが蔓に結わえた石を水面に投げ入れた。

キュー「深さが見当つかないね」
アリサ「シャルルさん、気をつけてねええええ」

 石とともに蔓も水中に引き込まれていく。
 長さ2メートルの蔓がほとんど水没してしまった。

シャルル「だめだ。蔓が短い」
アリサ「今度は私が切ってくるよおおおお」

 アリサは早速近くの蔓を切り始めた。
 だけどナイフは使わない。
 蔓の端から3メートルぐらいの所に歯を立てる。
 まるで鋭利な刃物で切るようにいとも簡単に分断されてしまった。
 その光景を驚きの表情で見つめるシャムとイヴ。

シャム「ぶるるる……あの歯の鋭さはもはや恐怖でしかないな」
イヴ「うふふ、アリサちゃんに悪さをすると、シャムの大事な場所をブッチンと切られるかも知れないよ~」

 イヴは人差し指と中指で物を切るような仕草をしてみせた。

シャム「おいら、悪さなんかしないもんな~」
イヴ「どうだかね」

 そんな会話を交していると、アリサが数本の蔓を抱えて戻ってきた。

アリサ「にゃご~、色々な長さで切ってきたよ~、これだけあれば足りるかなああああ? シャムとイヴさん、何を話していたのおおおお?」
イヴ「アリサちゃん、ごくろうさま~。今ね、アリサちゃんの歯がすごく鋭いって話していたの」
アリサ「それだけええええ?」
イヴ「アリサちゃんに悪さをすると大事な場所を切られるよって言ってたの」
アリサ「にゃにゃにゃ、にゃんと! 私、そんなことしないもんんんん」
シャム「本当か?」
アリサ「本当だよ、何なら試してみるうううう?」
イヴ「今はしなくていいよ。お話はこのくらいにして、アリサちゃん、石を蔓に括ってくれる?」
アリサ「にゃ~ご~!」

 今度は3メートルの蔓で石を沈めてみたところ、なんとか沼底で止まった。
 これで水面から沼底までの深さが2.5メートルであることが分かった。
 この深さだと歩いて向こう岸まで渡るのは不可能といえるだろう。

シシ「どうして向こう側に渡るかが問題だね」
エリカ「私なら泳いで渡れるけど、他の人は無理ですよね」
シシ「私も泳ぐのは得意だけど、問題は重い鎧を着けているシャムやシャルルたちだね」
シャム「それじゃ鎧を脱いで泳いで渡るとするか」
イヴ「そうもいかないわ。武器や防具、それに食料や薬草を置いていくわけにはいかないもの」
シャム「ふむ」
アリサ「私の場合、鎧を着けてないけど、カナヅチだものねえ、えへへへへ」
チルチル「水中から変な怪物が出てこないとも限らないので、泳いで渡るのはちょっと恐いでピョン」
キュー「魔物はいなくても、怪物がいないという保証はないものね」
シャルル「どちらにしても泳いで渡るのは無理があるぞ」
ペペ「困りましたね」
シシ「どうしたらいいのかしら?」

 妙案が浮かばず頭を抱えるシャムたち。
 山頂に到達するためにはどうしてもこの沼を渡らなければならない。
 色々な意見が飛び出すが、これといった良い方法が出てこない。
 思案に暮れていたシャムたちに焦りの色が見え始めたそのとき、突然チルチルが手を叩いた。

チルチル「あっ、そうだ! ペペは氷の魔法を使えるよね!?」
ペペ「はい、使えますがそれが何か……?」
チルチル「沼を凍らせたらいいのよ~!」
ペペ「なるほど!」
エリカ「すごいです! チルチルさん、さすがですね~!」
ペペ「でも私はまだまだ修行中の身です。私ごときの魔力でこの大きな沼をどれだけ凍らすことができるでしょうか……」
シャム「そんなものやってみなければ分からないよ~。早速やってみよう!」
ペペ「でも……」

 ペペは魔法を使うことに逡巡と戸惑いに囚われている。

イヴ「どうしたの?」
ペペ「うまく行けば良いのですが、もしも失敗すれば氷が割れて大変なことになります……」
キュー「にゃっ、どうして?」
ペペ「確かに魔法である程度の氷を張ることができると思います。でもその氷が分厚いか、それとも薄いかは、目視しただけでは判断できません」
シャム「つまりおいらたちが氷に乗って試すしかないわけか?」
ペペ「はい、そう言うことになります……」
シャム「失敗すれば?」
ペペ「沼に嵌ってしまいおそらく助からないでしょう」

 シャムたちの背中に冷たいものが走った。



第19章「謎の底なし沼」 第8話

 みんなの心に芽生えたかすかな“恐れ”。
 しかしシャムの鼓舞する一言がすぐにみんなを勇気づけた。

シャム「おまえたちはそんなヘタレじゃないだろう!? おいらたちには大きな目的がある! こんな沼ぐらい越えられなくてどうするんだ!!」

 みんなの表情からどす黒い恐怖心や不安が一掃された。

 シャムに秘策があるのだろう。
 何やらアリサに指示をしている。

シャム「ペペ、氷の魔法の準備をしてくれ!」
ペペ「いつでも唱えられます」
シャム「みんな聞いてくれ! 今から向こう岸に渡る手順を説明するぞ!」
シャルル「いい方法が見つかったのか?」
シャム「ペペの魔法で沼を凍らせるが氷の厚さは分からない。安全のため全員で渡らず一人ずつ渡ることにする」
エリカ「それは理に適ってると思います」
シャム「最初においらが渡る!」
イヴ「氷の状態が分からないので一番最初は危険を伴うよ」
シャム「危険だからおいらが最初に行くんだ」
イヴ「シャム……私に行かせて」
キュー「私にお試しをさせて」
シャム「だめだ。みんなを危険に晒すわけにはいかない」
シシ「さすが勇者ね、胸が熱くなるわ」
エリカ「あなたの勇気には感服しました」
チルチル「きっとだいじょうぶだよ、ペペの魔法を信じているでピョン♫」

 アリサが長く切りとった蔓を両手で掲げた。

アリサ「で、ここからがポイントなの。シャムが沼を渡るとき、このなが~い蔓を持って渡るのおおおお」
シャルル「……?」
アリサ「シャムが向こう岸に着いたら、一番丈夫そうな木を見つけて蔓をしっかりと括りつけるのおおおお」
キュー「ふんふん、それで?」
チルチル「あ、分かった~~~! 蔓を持って渡ればみんなが安心というわけピョン♫ わ~い、アリサちゃん、すごい~~~♫」
アリサ「にゃは、いや~、それほどでもおおおお」
シャルル「つまり最初に渡るシャムだけ危険性があるけど、2人目以降は安全というわけだな? 悪いな~シャム」
シャム「だいじょうぶ! おいらはペペの魔法を信頼しているから」
ペペ「はい、しっかりと魔法を唱えます」
シャム「じゃあペペ、始めようか」

 ペペは両手を天に翳し呪文を唱え始めた。

ペペ「神よ! 我らの行く手を阻むこの沼を凍らせ給え~! Θεέ του πάγου, πάγωσε τον βάλτο!」

 ペペが声高らかに呪文を唱えると、突然凍てつくような突風が吹き、目も向けられないような濃い雪の群れがシャムたちを包み込んだ。

シシ「きゃあ~! 冷たい!」
キュー「これはたまらない!」
エリカ「みなさん、離れないでください! できるだけ集まって体温を保つのです!」

 水面に真っ白な霧氷が舞い落ちている。
 ペペの呪文がまだ続いている。
 精神を最大限に高め、魔力の限界まで駆使しているのであろう。

 やがて水面が完全に結氷して陸地のようになってしまった。

ペペ「ううっ……」

 全身全霊で魔法を唱えたせいか、ペペはその場にうずくまってしまった。

シャム「ペペ、大丈夫か!?」
ペペ「シャムさん、ご心配なく……少し疲れただけです……」
イヴ「一度にMPを消費したので堪えたのね。この法力草を食べてみて」

 イヴは布袋から法力草を取り出した。

イヴ「シャム、ペペのことは心配しないで。それより、アリサちゃんが準備してくれたこの蔓を持って向う岸まで渡って」
アリサ「長めにカットしたので足りるはずだよ。しっかりと握っててねええええ」
チルチル「もしも氷が割れて沼に落ちたとしても、この蔓を皆で引っ張るから安心しててピョン♪」
シャム「心配するな~! じゃあ行くぞ~!」
シシ「シャム、がんばって」
エリカ「成功を祈っています、シャムさん」
シャム「シャルル! おいらが死んだら勇者代理を頼んだぞ~!」
シャルル「後は心配するな! 俺がみんなを引っ張っていくからな~!」
イヴ「2人とも縁起でもないことを言わないでよ」
アリサ「にゃ~ご、シャムは不死身だものねええええ」
キュー「シャム、だいじょうぶだよ~」

 凍った水面にそろりと1歩を踏み出したシャム。
 棒で足元を軽くつつきながら歩を進める。
 蔓を握る手に冷たい汗がにじむ。
 だいじょうぶだ。ペペを信じている。仲間たちを信じている。
 4歩、5歩、6歩……
 少々へっぴり腰にはなっているが、できるだけ氷面に負担を掛けないで歩くには摺り足が安全なのだ。
 距離にすれば向こう岸までわずか20メートルの距離なのだが恐ろしく遠く感じられる。
 沼や池に氷が張った場合、一般的に端部の氷が厚く中央は薄いなる。
 そのため安全を考えるなら沼の端部に沿ってぐるりと歩くのが得策だろう。
 ただし中央を真っすぐに進むよりも距離が増すのが欠点だ。
 距離は増すが端部ばかりを進むか、距離の短い中央を進むか、悩むところである。
 シャムは中央を進む経路を選んだ。

 まもなく沼の中心部に差し掛かった。

シャム「お~い、みんな! おいらは沼の真ん中に立っているぞ~!」



第19章「謎の底なし沼」 第9話

 沼の中央で嬉しそうに手を振るシャム。

キュー「にゅ~、氷は大丈夫みたいだね。私も渡ろうかな?」

 キューが一歩踏み出そうとすると、エリカがそれを制した。

エリカ「キューさん、ダメですよ! 1人ずつ渡らないと危ないですよ!」
キュー「にゅ~、そうだったか、ヒヤリ……」

 その後もシャムが慎重な足取りで沼を渡り切りついに向こう岸に到達した。

シャム「お~い、沼を渡ったぞ~~~! 氷はしっかり凍っててびくともしないぞ~!」
シシ「シャムが向こうに着いたって。ペペの魔法ってすごいのね」
ペペ「いいえ、まぐれですよ」

 向こう岸ではシャムが丈夫そうな木に蔓を括りつけている。

シャム「蔓を固定したから1人ずつ渡ろうか~!」
キュー「にゃっ、もう渡ってもいいって!」
シャム「ツルツル滑るから蔦をしっかり掴んで渡るんだぞ~!」
チルチル「ぷっ、ツルツル滑るから蔓をしっかり掴めって♫」
イヴ「寒い……」
エリカ「はい、かなり寒いです」
シシ「だよね」

ペペ「ところでどんな順番で渡るのですか?」
イヴ「ここはくじ引きで決めるのがいいんじゃない?」
アリサ「にゃご~、じゃあ私がくじを作るうううう」
エリカ「アリサちゃんにお願いしましょうか」
アリサ「じゃあ、ちょっと待っててねええええ」

 手先の器用なアリサが棒切れを8本拾ってきて数字を書き込んだ。

アリサ「できたああああ。じゃあ、みんな、くじを引いてねええええ」
キュー「引く順番はどうするの?」
アリサ「年齢の順番で引くのはどうかなああああ?」
シャルル「じゃあ28才の俺から引くぞ」

 シャルルはアリサの差し出すくじから1本を引いた。
 くじには『6』という数字が記入されている。

シャルル「俺は『6』だ。6番目に沼を渡ると言うことだな。よし」
エリカ「次の年長者は、あら、24才の私ですわ。じゃあ引きますね」

 エリカが引いたくじは『4』であった。
 まもなく全員がくじを終え、チルチル、シシ、アリサ、エリカ、イヴ、シャルル、ペペ、キューの順番で渡ることに決まった。
 
 向こう岸ではシャムが退屈そうにしている。

シャム「お~い! さっきから何をもたもたしているんだ! 早く渡らないと氷が解けてしまうぞ~!」
アリサ「今ね、渡る順番を決めてたの~! チルチルちゃんから1人ずつ渡るから、シャム頼むねええええ!」
シャム「よし、分かった!」
チルチル「は~い! チルチルが一番だピョン シャム、今から渡るね~!♫」
シャム「ちゃんと蔓を握って渡るんだぞ~!」

 シャムの声を合図にチルチルが沼渡りが始まった。
 顔が緊張で強張っている。
 氷の上は歩きにくいのだろう、ときおり足を滑らせながらも着実に一歩ずづつ前進している。
 向こう岸ではシャムが木に括りつけた蔓を握って待っている。
 手前の岸辺も蔓を固定しているので心配はないが、残された仲間たちがチルチルに応援の声をかけている。
 チルチルは恐々ながらもなんとか向こう岸にたどり着いた。

チルチル「シャム~!」
シャム「チルチル、よくがんばったな~!」
チルチル「恐かったよぉ♫」

 チルチルは岸に着くやいなやシャムの胸に飛び込んだ。
 無事渡り切ったことで安心したのだろう。そのままシャムの胸で甘えていると、背後からシシの声が飛んできた。

シシ「ちょっとちょっと! この忙しい時に何をしてるのかな~? 後ろがつかえているよ~」
シャム「あっ、いけねえ!」
チルチル「シシさん、ごめん!」

 ばつが悪そうに頭をかくチルチル。
 みんなが注目する中、シシがゆっくりと歩き始めた。
 揺れる船上で鍛えた足腰の強靭さはさすがで、氷上であってもよろけることなく向こう岸まであっという間に渡ってしまった。

アリサ「次は私だよおおおお!」

 アリサはメンバー1番の敏捷性を誇るが、氷上はどうも苦手なようだ。
 というより何事においても水関連が苦手といえる。
 地面とは異なり、かなりびくつきながら氷面を滑るように渡っていった。
 シャムたちがいるところまでたどり着くとすぐにヘナヘナと座り込んでしまった。

シャム「アリサ! 大丈夫か!?」
チルチル「アリサちゃんは氷がダメなんだねえ。かわいそう……」
シシ「アリサちゃん、しっかりして!」
アリサ「にゃ~ご……寿命が縮まったああああ……」

 4番手のエリカは氷ではあっても、さすがに水の聖霊だけあって慌てることなくあっさりと渡り切ってしまった。
 5番手のイヴも乗馬で鍛えた平衡感覚の良さを活かして、危なげなく着実に向こう岸にたどり着いた。
 巨体のシャルルは6番手。重量で氷が割れないだろうか……仲間たちからの心配をよそに意外にも器用に渡り切った。
 そして7番手はペペ。このような場面は苦手なようで、かなり怯えながら時間をかけてようやく到着した。
 そしてついに最終8番手のキューの番が訪れた。

シャム「さあ最後はキューの番だぞ~!」
キュー「やっと私の番が来たね。じゃあ渡るよ~! みんな待っててね~!」

 キューの後方にはもう誰もいない。後方で蔓を支えているのは樹木だけだ。
 氷面に一歩を踏み入れるキュー。
 氷上にはみんなが渡った足跡が残っている。
 キューは考えた。

キュー「にゅ~、同じ所を歩く方が良いのかな? それともまだ誰も踏んでいない所を歩くほうが安全なのかな?」

 みんなが踏みしめた所はすでに圧力がかかっているから、もしかしたら脆くなっているかも知れない。
 それより誰も踏んでいない所を歩く方が安全ではないだろうか。
 そう考えたキューはみんなが歩いた場所を少し避けるようにして歩を進めた。
 だが結果的にはそれが間違いだった。
 足跡のある所を歩いていれば問題はなかったのだが……



第19章「謎の底なし沼」 第10話

 キューは蔓を伝って中央付近まで来ていた。

キュー「ふう、沼の真ん中まで来た。あと半分だ、さあ、がんばろう」
イヴ「キューちゃん~! もう少しだよ、がんばってね~!」
エリカ「蔓さえしっかりと握っていたら心配はいりませんよ」
シシ「もしもの場合は、私たちが引っ張り上げるから心配しないでね!」
チルチル「キューちゃん、あとひと踏ん張りだピョン♫」

キュー「にゅ~、観衆がうるさいんだから、もう~」

 沼の7分目辺りまで進んだ時に異変は起こった。

(ピシッ……)

 足元の氷に突然亀裂が走ったのだ。

キュー「えっ……?」

(ピシ……ピシッ……!)

キュー「そんな……!?」

(パリンッ!)

キュー「きゃあ~~~~~!!」

 氷が割れてキューは沼の中に落ちてしまった。

シャム「こりゃ大変だ! みんな、急いで蔓を引っ張るんだ!」
チルチル「キューちゃん! 蔓を放さないでね~~~!」
アリサ「にゃにゃにゃ、にゃいへんだ! キューちゃん~~~!」
イヴ「キューちゃん、しっかり~~~!」
キュー「うっぷ! うぐっ! うぐぐぐ!!」

 沼に溺れてもがき苦しむキュー。
 泳ぎには自信のあるキューだが、武器や防具が錘になってしまい泳ぐことができない。

シャム「キュー! 剣と盾を捨てるんだ!」
キュー「うっぷ! できないよ! 剣はおじいちゃんの、うっぷ……大事な形見なんだから! ううっぷ!」
エリカ「そんなことを言ってる場合じゃないでしょう! 早く捨てて!」
シシ「チェニックは重くないんだけど、剣と盾は重いから捨てて!」
シャム「キュー! おまえが死ぬとおじいちゃんが悲しむぞ! 早く捨てるんだ!」
キュー「わ、分かった! 捨てるよ!」

 キューは剣と盾を水中に放り投げた。
 これで少しは軽くなるだろう。
 キューは両手で蔓をつかんだ。
 その蔓を精一杯引っ張るシャムたち。

エリカ「キューさん、絶対にあなたを死なせはしません!」

 突如エリカが進み出てキューのそばまで駆け寄ると、氷の割れ目から水中に飛び込んでしまった。

シャルル「エ、エリカ!?」

 水中にもぐってキューの身体を支えるつもりらしい。
 仲間たちの掛け声とともに、キューの身体が沼からゆっくりと這い上がっていく。
 水を飲んでしまったのかぐったりとしている。
 どうにか上半身だけは這い出たが、下半身がまだ水没したままだ。
 
イヴ「氷がもっと割れるかも知れないわ! 早く上に上がって!」

 エリカが押し上げようとしているがうまくいかない。
 みんなの願いも空しく、精魂尽き果てたのか、キューが氷面にうつ伏せのまま動かない。

 間髪いれず、シャムが身に着けていた防具を急いで脱ぎ捨てると、キューがいる氷面まで駆けて行った。
 仲間たちは唖然としている。

シャム「キュー! 待ってろよ~~~!」

 危険を顧みず突っ走るシャム、途中ツルツルと何度も滑りながらキューの元へとたどり着いた。
 エリカがキューを抱えあげようとしてるがなかなか上がらない。
 キューは顔面が蒼白になり意識朦朧としていたが、蔓をしっかりと掴んでいたことが幸いであった。

シャム「キュー、大丈夫か!? しっかりするんだ!」
エリカ「キューさん、がんばって!」
キュー「ううう……シャム、エリカさん……うううっ……」
シャム「今、引き上げてやるから待ってろよ!」

 シャムは命綱の蔓を小脇に挟みこみ氷上からキューを引き上げようとした。
 一歩間違えればシャム自身も底なし沼の奥深くに引き摺り込まれるだろう。
 水中でキューを支えるエリカも、いくら水の精霊とはいっても長時間冷水の中に浸かることは危険を伴う。
 早く水から上がるべきだろう。

シャム「キュー! おいらの腕につかまるんだ!」
キュー「シャ……シャム……」

 キューは突然大きく目を見開きシャムの手をしっかりと握った。

シャム「よし! じゃあ、引き上げるぞ!! お~い、みんな~! 蔓を引っ張ってくれ~~~!!」
チルチル「今、引っ張るでピョン!」
イヴ「キューちゃん、シャム~、がんばって!」
シシ「今は蔓が切れないことを願おう! さあ、引くよ!」
シャルル「そ~れ~!」
ペペ「3人ともしっかり~!」

 足元が安定しないシャムは何度も滑りながら、なんとかキューを引き上げた。
 キューの身体が完全に氷面に浮上した。
 しかし起きることができず顔が真っ白のままだ。
 かなり危険な状態といえるだろう。

シャム「お~い、みんな! 蔓を少し緩めてくれ~!」

 シャムは岸辺にいる仲間たちに蔓を緩めるように伝えた。
 キューの身体に蔓を巻きつけるためだ。
 蔓は緩みキューの身体に括りつけるキュー。

シャム「さあ、もう一度引っ張ってくれ~! それからエリカ、早く水から上がれ!」

 仲間たちはシャムの声を合図に力を振り絞り蔓を引き始めた。

 キューの身体がゆっくりと岸辺に引き寄せられていく。



第19章「謎の底なし沼」 第11話

 氷に圧力を加えると融点が下がるので融けて水になる可能性が高くなる。
 シャムとエリカできるだけ氷に圧力をかけないため這うようにしながら、キューを岸辺へと押していく。
 岸辺の仲間たちも蔓を引っ張り援護する。
 皆の協力もあってようやくキューを救出することができた。
 森の静寂を破って歓声が轟きわたる。

アリサ「やったあああ~! キューちゃんが助かったああああ! シャムとエリカさん、がんばったねええええ!」
イヴ「安心するのはまだ早いわ。意識がまだ回復していないもの」
シシ「ヒール魔法は効かないの?」
イヴ「ヒール魔法は怪我には効果があるんだけど、残念ながら病気や意識障害には効かないの。軽い病気なら薬草で治るんだけど、意識がないので薬草を食べさせるのは無理だからね……ここはシャムのチンヒールに頼るしかないわ」
シシ「でもシャムはキューちゃんの救出直後なので疲労困憊しているのではないかな?」

 シシの心配をシャムはあっさり吹き飛ばした。

シャム「おいらは全然元気だぞ~! さあ始めようか!」
イヴ「一刻を争うの、早くしてあげて!」
シャム「そんなに急かしたって直ぐには勃たないぞ」
イヴ「ごちゃごちゃ言ってないで早く勃起させて!」
シャム「乱暴だなあ」
イヴ「アリサちゃん、すぐにシャムにフェラしてあげて! エリカさんとシシさんはキューちゃんの下着を脱がせてあげて!」
シャルル「俺は何をすれば?」
チルチル「私もお手伝いするでピョン♫」
イヴ「お子ちゃまとシャム以外の男性陣は少し離れてて!」
チルチル「お子ちゃまじゃないもん……」
シャルル「俺にも何か手伝わせてくれよ」
ペペ「僕たちはおとなしく向こうに行きましょう」
イヴ「ちょっと待って! ペペはここに残って手を貸して!」

 エリカたちはキューを仰向けに寝かせて衣服を脱がせた。
 救命に心得のあるペペは人工呼吸を行ない、イヴは心臓マッサージを施した。
 いわばシャム軍団医療チームといったところである。

 アリサの手短なフェラチオで瞬く間に元気がみなぎったシャムは、キューに愛撫を行なうと直ぐにチンヒールに取りかかる。

(ヌプッ……ズブズブッ……クチュクチュ……)

 イヴとペペの救命措置と同時に、額に汗を滲ませながら腰を動かすシャム。
 努力の甲斐あって、かすかだがキューの頬に血色が戻ってきた。

キュー「あぁ……」
シャム「おっ! 気がついたか!?」
キュー「あっ……ああっ……」

シャム「はぁはぁはぁ~、だいぶ意識が回復してきたみたいだな! もう一踏ん張りだ! はぁはぁはぁっ!」

(グッチュグッチュグッチュ! ヌチャンッヌチャンッ!)

 キューが目を覚ました。
 自分が今何をされているのかまだよく分からない様子だ。

キュー「え? 私、今何を? あっ……やん~、すごく気持ちいい~、あ~ん……」
イヴ「もう、キューちゃんったらそんな声を出すとマッサージに専念できないじゃないの。というかもうマッサージいらないか?」
ペペ「もう大丈夫ですね。あとはシャムさんのチンヒールで体力回復を待つだけですね」
イヴ「ところでペペ、こんな凄い場面に立ち会って下半身はだいじょうぶなの?」
ペペ「だいじょうぶじゃないです……」
アリサ「わぁ~! ペペの股間が盛り上がってるうううう!」
ペペ「そんな! 恥ずかしいからあまり見ないでくださいよ」

 ペペはアリサに下半身の異変を指摘されて真っ赤に照れてしまってる。
 あまりの恥ずかしさに木陰に隠れてしまった。

キュー「ああっ、シャム! あぁっ、どうしよう……私、イキそう! ああっ、もうダメッ!」
シャム「おいらも限界だ~! キュー行くぞ~~~! どりゃぁ~~~~~~っ!!」

(ドピュ~ン!)

 おびただしい量の液体がキューの中に注ぎ込まれた。

キュー「や~ん! 熱いものが入って来た~!」

 体位を変えることもなくシャムは短時間で果ててしまった。
 キューはまだ深い余韻に浸かったままだ。もうすぐ元気さを取り戻すことだろう。

キュー「にゅう、シャムとみんな、助けてくれてありがとう。沼に落ちたときはぶっちゃけ死ぬと思ったよ」

 役目を終えたシャムはキューから離れひょいと立ち上がった。
 役目を終えても萎えを知らないイチブツが周囲の者を驚かせた。

アリサ「にゃご~、私もチンヒールをかけてほしくなってきたああああ」
エリカ「それなら今から沼に飛び込んでみますか?」
アリサ「もう~、エリカさんのいじわるうううう」
シシ「順番からするとそろそろ私が怪我をする番かな?」
イヴ「何を言ってるの、不吉な」
シシ「じゃあ、イヴさんはかけてほしくないの?」
イヴ「いや、そりゃまあ~、私だって女の端くれだからね~」
シシ「正直でよろしい」

 かくしてシャムたち一行は危機に遭遇しながらも、第2関門である底なし沼を越えることができた。
 次に越えなければならないのが『迷いの洞窟』と呼ばれる洞窟だ。
 この洞窟を越えることができれば、あとはペルセ山頂を目指すだけだ。
 待望の『鏡の盾』はすぐそこにある。
 もう少しの辛抱だ。
 シャムたちはわずかな休息をとったあと、底なし沼の先にある洞窟へと向かった。

 シャムの体力が上がった!
 イヴの体力と魔力が上がった!
 キューの体力と魔力が上がった!
 エリカの体力と魔力が上がった!
 チルチルの体力が上がった!
 アリサの体力が上がった!
 シシの体力が上がった!
 シャルルの体力が上がった!
 ペペの体力と魔力が上がった!

シャム「『迷いの洞窟』へはこの山道で合っているのかな?」
チルチル「魔女ネイロさんの話だと、底なし沼からは1本道でダラダラ坂を登り切った所にあるって言ってたでピョン♫」
シャム「よし! 迷いの洞窟も一気に乗り切るぞ~!」
イヴ「ん~、そう簡単にいくかどうか。どちらにしてもまずは洞窟の入り口を見つけなくては」



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猫耳・アリサ


氷の魔導師・ペペ











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