![]() ファンタジー官能小説『セクスカリバー』 Shyrock 作 |
<メンバーの現在の体力>
シャム 勇者 HP 450/450 MP 0/0
イヴ 神官 HP 370/370 MP 370/370
アリサ 猫耳 HP 390/390 MP 0/0
モエモエ 魔導師 HP 310/310 MP 400/400
エリカ ウンディーネ女王 HP 310/310 MP 420/420
シシ・フリューゲル 女海賊 HP 430/430 MP 0/0
チルチル 街少女 HP 240/240 MP 0/0
シャルル 漁師・レジスタンス運動指導者 HP 480/480 MP 0/0
ジュリアーノ 水夫 HP 490/490 MP 0/0
⚔⚔⚔
シャムは大のコーヒー党である。
野宿をしても宿屋に泊ってもコーヒーは欠かさないが、何より大好きなのは街に立ち寄ったときカフェで仲間と語らいながら飲むコーヒーである。
シャムが無意識にコーヒーを欲する理由は単に嗜好だからかもしれないし、『ひらめき』につながる意外な力が潜んでいるのかもしれない。
シャムはイヴとアリサとともに昨日訪れたカフェに再びやってきた。
入店するやいなや優雅なリュートの音色と爽やかな歌声が聴こえてきた。
今日は吟遊詩人が来ているという。
アリサ「にゃう~ん、きれいな旋律だねええええ」
シャム「昨日は姿を見かけなかったな」
イヴ「すごくおじょうずね。声もいいし」
シャム「まあ、おいらには勝てないだろうが」
イヴ「あら、シャム、歌うまいの? 聴いたことがないんだけど」
吟遊詩人の身なりは質素だが、神秘的で物静かな雰囲気があり、女性とも男性ともとれる中世的な顔立ちをしている。
シャムたちは空席に腰をかけ、注文するのを忘れて歌声に耳を傾けた。
旅立ってから戦いに明け暮れる毎日、ゆっくりと音楽を楽しむことがあっただろうか。
たまにチルチルの笛を聴くことはあるが、野宿の場合だとこちらの居場所を敵に教えるようなものなのでその機会は極めて少なかった。
シャムたちは吟遊詩人の歌を聴いているとやさしさに包まれ浄化されていくような気持になった。
1曲が終わり、次の曲が始まった。
『ここは天界
ヴィローシャナは平和な国
青い空にはフェニックスが飛び交い
花園にはピクシーが笛を吹く
美しきエンジェルたちが歌うは愛の調べ
突然 雷鳴が鳴り響き
蒼き空が漆黒に包まれる
死のバラッドがエデンに流れ
聖なる川がくれない色に染まる
時空の歪みから忍び込んだは魔王か
呪われし者が歩む道
全ての生けるものたちは屍と化していく
天界の守護大天使ミカエル
白き羽根を広げ立ち向かう
カリバーの剣を携えて……
ヴィローシャナの民は祈った
平和が再び訪れんことを
ヴィローシャナの民は祈った
平和が再び訪れんことを』
イヴ「何か近未来を暗示するような歌だわ……ヴィローシャナってどこにあるのかしら? シャム、知ってる?」
アリサ「ミカエルって誰なのおおおお? ねえ、シャム?」
シャム「そんなことおいらに聞くなよ。知ってるわけないじゃないか。それよりおいらは『カリバーの剣』っていうのが気になる」
イヴ「天界ではミカエルが天使の中で一番高位の人なの。『カリバーの剣』って初めて聞くわ、どんな剣かしら?」
アリサ「にゃう、初めて聞く言葉ばかり……。アリサが吟遊詩人さんに聞いてくるうううう」
演奏が終わり一息ついている吟遊詩人の元に、アリサはつかつかと歩み寄った。
アリサ「にゃんにゃん~、最高! じ~んと来たよおおおお。何という歌なのおおおお?」
突然猫耳娘が現われ質問して来たので、吟遊詩人は少し驚いている様子だ。
だがすぐに穏やかな表情を浮かべ静かな口調でアリサの質問に答えた。
吟遊詩人「お気に召したようで光栄です。この歌は『ヴィローシャナの民』と言う曲で、昔からこの地方で歌い継がれている曲なんです。ところであなたは?」
アリサ「アリサだよおおおお」
吟遊詩人「アリサさんですか、すてきなお名前ですね」
アリサ「そう? 嬉しいいいい」
吟遊詩人「私は吟遊詩人のカサブランカといいます。きままに各地をさすらっています。あなたはこの街の方ですか?」
アリサ「違うのおおおお。向こうにいるシャムたちといっしょに旅をしているのおおおお」
カサブランカ「そうですか」
アリサたちの様子をうかがっていたシャムとイヴがやってきた。
イヴ「初めまして。私はこのアリサの友人のイヴです。ちょっとお聞きしてもよろしいですか?」
カサブランカ「初めまして。どうぞ構いませんよ」
イヴ「今の歌は『ヴィローシャナの民』とお聞きしましたが、ヴィローシャナってどこにあるのですか?」
カサブランカ「天界に存在するといわれている街です。もちろん私は行ったことはありませんが」
シャム「おいらはシャムっていうんだけど、ちょっと教えてくれないかな?」
カサブランカ「ええ、どうぞ」
シャム「歌に出てくる『カリバー』ってどんな剣なの?」
カサブランカ「お見受けしたところあなたは剣士のようですね」
シャム「剣士って柄じゃないけど、よく似たものかな?」
カサブランカ「それであればカリバーに興味を持たれるのは当然のことでしょう。カリバーとは正しくは『セクスカリバー』と言う聖剣のことなのです」
シャム「『セクスカリバー』? 聖剣?」
イヴ「何か胸躍る名前だわね」
アリサ「セックスカリなんとか? にゃう~んんん、エッチな感じ? でも刺激的な名前だにゃああああ」
カサブランカ「ははははは~、そうですね、確かに。例え天界の守護大天使ミカエルであっても魔王を倒すのは容易なことではありません。しかし、聖剣『セクスカリバー』を持って戦えば倒すことができるといわれています」
シャム「へえ~、そうなんだ。でもおいらにはそんな腕がないから関係ないや」
カサブランカ「そうなのですか? いずれにしてもこれはあくまで伝説なので、実在するのかどうかは定かではありません」
イヴ「でももしそんな剣を持っていれば無敵だね」
アリサ「にゃう~ん、アリサも今から剣を覚えようかなああああ?」
イヴ「アリサちゃんはスピードとその強烈な爪があるからいいんじゃないの?」
カサブランカ「では私は次の街に行かなければならないので、この辺で失礼します」
シャム「色々と教えてくれてありがとう。少ないけどおいらたちからほんの気持ち」
シャムはカサブランカに100Gを渡した。俗にいう投げ銭である。
カサブランカ「ありがとうございます! またいつかどこかの街でお会いできればいいですね」
イヴ「きっといつかどこかで会えるような気がします」
カサブランカ「ではお元気で」
アリサ「バイバイ~。カサブランカさ~ん、さようならああああ」
カサブランカはシャムたちに一礼をしてカフェを出ていった。
イヴ「礼儀正しい人だね、シャムと大違いだわ」
シャム「ゴホッ! 何だよ~、いちいちおいらを引合いに出すなよ」
シャムは飲みかけていたコーヒーを突然吹き出しそうになった。
アリサ「にゃう~、シャム? セクスカリバーってどこかにあるのかな? 本当にあればいいねええええ」
シャム「そんなの迷信に決まっているじゃないか」
イヴ「迷信とは言い切れないかもよ。私はどこかにあるような気がする」
アリサ「アリサ、セクスカリバーを探しに行きた~いいいい」
シャム「おいおい、おいらたちの目的はユマ姫を助けることと姫をさらった悪い魔物を倒すことだぞ。ほかにもやるべきことがいっぱいあるんだぞ」
イヴ「そうね。先ずはここジャノバでのニセ国王の大掃除が待っている。とはいっても私たちは今回影の軍団みたいなものだけどね」
シャム「その後シャルルのやつうまくいってるかなあ……」
アリサ「シャルルのことだからきっとよい指導者になってるよおおおお」
イヴ「そうね。さあ、影軍団の私たちもがんばらなくては」
『聖剣セクスカリバー』という名前を吟遊詩人から聞いたシャムたち。
現在の段階ではその存在はあくまで伝説に過ぎないのだが、のちにその剣が彼らの運命を左右する重要なアイテムになろうとは、いったい誰が想像しただろうか。
⚔⚔⚔
その頃、ジュリアーノ、モエモエ、チルチルの3人は街頭を中心に諜報活動を行なっていた。
ただし昨日過激な寸劇を行なったために警備兵に追いかけられたこともあり、今日はできるだけ地味に行動するよう心掛けた。
大道芸の衣装が派手なこともあり、3人はできるだけ目立たないようにそれぞれ10メートル間隔で目的地の街角まで歩くことにした。
10メートル間隔であれば、もしも仲間の誰かに異常事態が発生してもすぐに応援に駆けつけることのできる距離といえる。
先頭はモエモエ、二番手にジュリアーノ、そして最後尾にチルチルと続いた。
モエモエがすれ違いざま通りすがりの中年の女性に挨拶をした。
モエモエ「おはようございます!よいお天気ですね♪」
時にはさり気ない挨拶が切っ掛けになって思いがけない情報を得ることもある。
挨拶は諜報活動には欠かせない大切な要素なのだ。
中年の女性「おはよう。よいお天気ね。あら?」
女性はモエモエの顔を見て何やら驚いた様子である。
もしかしたら昨日警備兵に追われた際現場に居合せた女性なのかもしれない。
もしそうだとしたら通報されることも予測されるので早くここから立ち去った方が無難だろう。
モエモエはドキドキしながら女性の次の言葉を待った。
中年の女性「まあ、あなた、ジイドさんところのマルガリータちゃんじゃないの。久しぶりだわね~」
女性は知り合いの女の子と勘違いをしているようだ。
モエモエ「え? 私はマルガリータではないのですが……♪」
中年の女性「うそ! 本当に? まあ、それはそれは、ごめんなさいね~。すごく似ていたもので」
モエモエ「マルガリータという女性と私がそんなに似ているのですか?♪」
中年の女性「瓜二つと言ってもいいぐらいよく似ているわ~」
モエモエ「そんなに似ているのなら一度見てみたいな~♪」
中年の女性「でも確か、今年の春から隣の街に働きに出ているはずだわ」
モエモエ「それじゃ見るのはちょっと無理ですね」
中年の女性「マルガリータちゃんでないことは分かったけど、あなたはこの街の人?」
モエモエ「いいえ、違います。私は旅人です」
中年の女性「旅人さんなの。そうそう、人から聞いた噂話なんだけどさ、明日大変なことが起こるらしいの。この街にいないほうが安全だと思うわ。私も大事な荷物だけ持って今夜中に避難しようと思っているの」
モエモエ「大変なことって?」
中年の女性は周囲をグルリと見回すと声をモエモエの耳元でそっとささやいた。
中年の女性「大きな声じゃ言えないんだけど、何でも、明日、この国で革命が起きるという噂なの」
モエモエにとっては既知の事実であったが、あえて知らない振りをした。
モエモエ「えっ! 革命が起きるんですか!? まあ、怖い。私も早く逃げなくては♪」
中年の女性「そのほうがいいわ。じゃあ、準備があるので帰るわね。あなたもくれぐれも気をつけてね」
モエモエ「はい、気をつけます。おばさんもお元気で♪」
中年の女性「ありがとう、それじゃね」
女性はそう告げるとそそくさとモエモエの前から姿を消していった。
モエモエ(いよいよ明日かあ……)
モエモエは不意に後を振り向いた。
10メートル後方にはジュリアーノがつづいている。
モエモエが振り向いたことに反応して、ジュリアーノは速足でモエモに近づいてきた。
さらにその後方にいるチルチルまでが急ぎ足でモエモエの元にやってきた。
ジュリアーノ「おばさんから何か聞き出せたの?」
モエモエ「うん、革命の噂があるので早くこの街から逃げろと言っていたわ♪」
ジュリアーノ「そうなんだ。かなり広まっているようだね。いよいよか」
モエモエ「でも今回、私たちは直接参加しないから、陰で勝利を祈るしかないわ♪」
ジュリアーノ「でも僕は行かなければならない」
ジュリアーノがポツリとつぶやいた。
モエモエ「え? ジュリアーノも行くの? どうして?♪」
ジュリアーノ「だって僕はここの市民だから」
モエモエ「私も戦いに行くよ♪」
ジュリアーノ「ダメだよ。君には勇者シャムを助けて平和を取り戻すという大切な使命があるのだから」
モエモエ「うん、分かってる。分かっているんだけどね……」
そのときチルチルの呼ぶ声が聞こえた。
チルチル「モエモエちゃ~ん、ジュリア~ノさ~ん!♫」
モエモエ「あ、チルチルちゃん♪」
チルチル「街の人から良い話が聞けた?♫」
モエモエは道行く女性との会話をチルチルに話して聞かせた。
チルチル「革命の噂は街の人たちに広まっているみたいね。いよいよ明日だね、ドキドキするよ~。絶対に革命軍が勝つでピョン♫」
モエモエ「私も革命軍が勝つと信じてるわ♪」
ジュリアーノ「2人がそう言ってくれると力がみなぎってくるよ。2人の励ましをシャルルにも伝えておくね」
モエモエ「で、ジュリアーノはいつ行くの?♪」
ジュリアーノ「うん、シャルルの所に今夜集合することになっている。直前の作戦会議をするらしい」
モエモエ「そうなの。じゃあ、ジュリアーノの壮行パーティーをやろうよ! ねえ、チルチルちゃん?♪」
チルチル「うん、やろうでピョン! でも倉庫じゃなくて美味しいお店がいいなあ~♫」
ジュリアーノとモエモエは思わずずっこけた。
モエモエ「チルチルちゃん、あのね、倉庫ではなくて壮行なの。壮行パーティーというのはね、新しい挑戦をする人を送り出す集いのことなの♪」
チルチル「へ~、そうなんだ。覚えたでピョン♫」
モエモエ「パーティーといっても、私たち3人だけのささやかなパーティーだけど♪」
ジュリアーノ「すごく嬉しいよ!」
モエモエ「じゃあ決まりだね! 今から行くよ~♪」
チルチル「わ~い! ちょうどお腹が空いていたの~♫」
ジュリアーノ「はっはっは~、じゃあ行こうか」
ジュリアーノたちがカフェレストランに向かおうとしたとき、大空から1羽の黒い鳩が舞い降りてきた。
鳩の足には小さなチューブに入れられた手紙が結び付けられている。
鳩は3人の顔を眺めていたが、まもなくチルチルの肩に乗った。
チルチル「えっ……私……?♫」
チルチルが鳩の足から手紙を抜き取ると鳩は再び大空に羽ばたいていった。
モエモエ「チルチルちゃん、手紙が来たの?♪」
チルチル「うん♫」
ジュリアーノ「黒い伝書鳩とは珍しいね。白かグレイが一般的なんだけど」
チルチルは文字を目で追いかけている。
少し顔色が優れないようだ。
モエモエ「チルチルちゃん、何かあったの?」
チルチル「うん……何でもないよ……」
ジュリアーノ「どうしたの? チルチルちゃん。何が書いてあったの?」
チルチル「……叔母から。お母さんの妹でお母さんが死んだあと面倒を見てくれてたの……私を探しているみたい」
モエモエ「じゃあ早く連絡してあげないと」
ジュリアーノ「両親が亡くなってお兄さんも行方知れずだと言ってたから、叔母さんが唯一の肉親なの?」
チルチル「叔母は苛めるから嫌い……」
モエモエ「……」
ジュリアーノ「……」
チルチルの身の上を聞きどんよりとした雰囲気に包まれたが、場の重い空気を一変させたのがモエモエだった。
モエモエ「あっ、色々しゃべっているうちにカフェレストランに着いたよ~。何を食べようかな~♪」
チルチル「私、オムライスが食べたいでピョン♫」
モエモエ「ジュリアーノの勝利を祈って私は『ジャノバ風カツレツ』にしようかな~♪」
ジュリアーノ「はっはっは~、験担ぎもいいね、じゃあ僕はウィンナー料理にしようかな?」
チルチル「ウィンナーがどうして験担ぎになるの?♫」
ジュリアーノ「ウインナー(Wiener)は英語のwinner(勝者)に音が似ているだろう? 語呂合わせで、勝負事に勝ちたいときに食べることで有名なんだ」
モエモエ「そうなんだ! ということはウィンナーとアスパラの炒め物を頼むのかな?♫」
ジュリアーノ「正解」
モエモエ「験担ぎって色々あって楽しいね~♪」
壮行パーティーとはいっても、ジュリアーノをいくさに送り出すというような荘厳な雰囲気はなく、和やかなムードで時間は過ぎていった。
チルチルの希望で食後のデザートも食べてパーティーはお開きとなった。
班の財布を握っているジュリアーノが勘定を済ませている間、モエモエとチルチルは店の玄関に貼ってある数枚の広告ポスターを覗きこんでいた。
モエモエ「う~ん、武器屋の宣伝だね♪」
チルチル「ふ~ん、そろそろ防具を新調しようかな~♫」
中にはいささか誇大とも思える広告も見られる。
『どんな武器からも身を守れるポッポ防具店の品々!』
モエモエ「何か嘘っぽいなあ……♪」
チルチル「もしそんな防具があったら絶対に買うよね♫」
モエモエ「それならどんな防具でも切ることのできる剣もあるんじゃないの?♪」
チルチル「絶対に切れる剣と、絶対に切られない防具があったらどっちが勝つの?」
モエモエ「中国の大昔の故事なんだけどね、武器を売る商人がどんな盾でも突き破る矛と、どんな矛でも防ぐという盾を同時に売っていたんだって。そこに居合わせた老人に『あなたの売る矛であなたの盾を突いたらどうなるのか』と問われて、返事に困ったんだって」
チルチル「ウケル~~~! それってすごく面白い話だね! ジュリアーノは知ってるかな?♫」
モエモエは何気に見たもう1枚のポスターを見た。
モエモエ「んっ!? なに? こっちのポスター……♪」
チルチル「へ~、きれいな人だピョン♪ まるでお姫様みたい~♫」
ポスターには高貴な衣装を身にまとった金髪の女性が描かれており、2人は思わず目を奪われた。
年齢の記載はないが歳は17、8歳といったところだろうか。
ポスターの最上段には太い文字で『尋ね人』と記されている。
モエモエ「うん、きれいな子だね~…… えっ! もしかしたらっ!?♪」
チルチル「モエモエちゃん、どうしたの!?♫」
モエモエ「この子だよ~! シャムが探している子は~♪」
モエモエの驚嘆する声を聞きつけたジュリアーノが急いで飛んできた。
ジュリアーノ「どうしたの!?」
モエモエ「これよ! このポスターに描かれている子がシャムが探しているムーンサルト国のユマ姫だよ!♪」
ジュリアーノ「なんと! この人がシャムさんが探しているユマ姫なのか! それで何と?……ふむふむ」
ポスターにはユマ姫の似顔絵と簡単なプロフィールが描かれている。
『尋ね人
名前 ユマ姫
身分 ムーンサルト城王女
特徴 金髪で青い瞳、臍の下にホクロあり
特技 風の魔法が使える
発見して報告した人には……懸賞金 30万G
発見して本人を連れて来た人には……懸賞金 100万G
依頼人 ペペロンチーネ伯爵
連絡先 〇〇〇市〇〇〇街区〇〇〇』
モエモエ「風の魔法の使い手なんだね♪」
ジュリアーノ「ユマ姫ってかわいい子なんだな~」
モエモエ「私より?♪」
ジュリアーノ「いやいや、モエモエの方がかわいいよ」
チルチル「どっちもかわいいと思うけどなあ♫」
モエモエ「それにしても100万Gってすごいね~♪」
チルチル「100万Gなんて言われてもよく分からないよ。ケーキならいくつ買えるの?♫」
モエモエ「もう、そんなこといわれてもすぐに分からないよ♪」
ジュリアーノ「それにしても依頼人がペペロンチーネ伯爵とはね……」
モエモエ「ジュリアーノはこの依頼人を知っているの?♪」
ジュリアーノ「いや、会ったことはないんだけど、色々と噂を聞いたことがあるので」
チルチル「どんな噂なの?♫」
ジュリアーノ「大富豪らしいんだけど、すごくずる賢くて、それに有名な好色家らしいんだ。ユマ姫を見つけていったい何をしようと企んでいるのだろうか……」
モエモエ「うへ~。それじゃあ誰かがユマ姫を発見しても、その後がかなり危険だね……♪」
チルチル「好色家ってなあに?♫」
ジュリアーノ「それはね、え~と、15才の子に説明するのは難しいよ」
モエモエ「早い話が女好きでエッチな男ってことだよ♪」
チルチル「ってことはジュリアーノといっしょだピョン♫」
ジュリアーノ「なんで僕があんなオヤジといっしょなんだ? 僕は女好きでもエッチでもないよ!」
チルチル「だって昨夜、モエモエちゃんとあんなことやこんなことをしてたもん♫」
ジュリアーノ「ギクッ……」
モエモエ「はにゃ……」
チルチルの放った一言に、モエモエは一瞬肝をつぶし、ジュリアーノは冷や汗を流した。
二人とも言葉を失い立ち尽くしている。
ようやく我に返ったモエモエがチルチルに頼み込んだ。
モエモエ「チルチルちゃん、いいこと? 昨夜のことはシャムたちには内緒にしておいてね」
チルチル「うん、いいよ。黙っててあげる。でも1つだけお願いを聞いてくれるでピョン?♫」
モエモエ「お願いって何かな?♪」
チルチル「チルチル、ウサギのぬいぐるみが欲しいの~♫ 買ってくれる?」
ほっと胸を撫でおろすモエモエとジュリアーノ。
ジュリアーノ「え? ウサギのぬいぐるみが欲しいの?」
モエモエ「お安いご用だわ~。じゃあチルチルちゃん、買いに行こうか~♪」
3人は早速ぬいぐるみを買うためにジャノバの繁華街でおもちゃ屋を探すことにした。
幸いカフェから直ぐの場所におもちゃ屋を見つけることができた。
チルチルはモエモエといっしょにぬいぐるみ選びに夢中になっている。
その間ジュリアーノがおもちゃ屋の主人と世間話をしていると、思わぬ情報が舞い込んできた。
主人の話によると、何でも『ペルセ山山頂に到達するには途中3つの関門があるらしい』とのことであった。
ペルセ山麓にサイクロプスが番人として待受けていることはすでに聞いている。
それ以外に2つの関門があるということになる。
ジュリアーノはもっと詳しく教えて欲しいと頼んでみたが、それ以上は知らないらしくあるじは首を横に振った。
⚔⚔⚔
シャルルが抜けて2人きりとなったエリカとシシは引き続き諜報活動に精を出していた。
ジュリアーノたちと時を同じくして、エリカたちもユマ姫の噂を耳にした。
噂は「ユマ姫がペルセ島のどこかに囚われている」というものであった。
ただし噂の出所が明らかではなくまるで雲を掴むような話であった。
シシ「う~ん、私も海賊の頃、そんな話をちらっと聞いたことがあるよ。でもその頃、大して興味もなかったので気にも留めなかった。その時もっとちゃんと調べておけばよかったね」
エリカ「ユマ姫の幽閉は作り話かも知れませんが、詳しく調べてみる必要がありそうですね。いずれにしてもペルセ島には『鏡の盾』を取りに行きますので」
シシ「たしかに。ペルセ島で『鏡の盾』を見つけて、シャムが探しているユマ姫が見つかれば一石二鳥だね」
途中、2人は果物屋の前を通りかかった。
店頭にはさまざまな種類のリ果実が並んでおり、目を楽しませてくれる。
シシ「エリカさんはどんな果物が好き?」
エリカ「そうですね、私はブドウが好物ですね」
シシ「私はリンゴ。あのしゃりしゃりとした歯ごたえ、それにほのかな酸味とさわやかな甘味のバランスが最高なの」
エリカ「シシさんの説明を聞いていると急にリンゴが食べたくなってきました」
シシ「じゃあ、買う?」
エリカ「はい、買いましょう!」
リンゴを買ったシシはリンゴを齧りながら果物屋の主人にユマ姫に関して探りを入れてみた。
果物屋の主人「ほう、まさかペルセ島にお姫様が囚われているだなんて……そんな話は聞かないですね」
シシ「聞かないか。それはそうとこのリンゴは甘くて美味しいね」
シシの口元から甘酸っぱい香りが漂っている。
果物屋の主人「あ、そうだ。お姫様のことは知りませんが、ペルセ島には面白い話があるんですよ」
シシ「どんな話かな?」
果物屋の主人「私自身会った訳ではないのですが、ペルセ島のある洞窟には魔女が住んでいるという噂があるんですよ」
シシ「魔女だって?」
エリカ「すみませんが、もっと詳しく教えてくれませんか?」
果物屋の主人「何でもその魔女というのはかなりの気難し屋の婆さんらしいのですが、リンゴが大好物でして、リンゴを持って行くとこちらの聞きたいことを教えてくれるって話なんです。まあ、あくまで噂ですけどね」
シシ「うふっ、うまいことを言ってリンゴを沢山買わせようと思っているでしょう!? あんた」
果物屋の主人「滅相もない。そんなつもりはまったくありませんよ」」
エリカ「シシさん、こちらのご主人、商売で言ってるんじゃなさそうですわ。リンゴは食料にもなるので何個か買っておきませんか?」
シシ「魔女に出会えなかったら、私たちが食べればいいことだものね。主食というよりデザートだけどね」
シシとエリカはリンゴを5個買って果物屋を後にした。
⚔⚔⚔
夕闇迫る頃、革命軍の秘密のアジトではニセ国王打倒に向けて綿密な軍議が行なわれていた。
シャルル「なるほど、ニセ国王レッドシェイドの側近として2人の護衛がいると言うことだね」
騎兵隊長アントニー「そのとおりです。彼らはかなり腕が立ちます。我々も心して掛からなければなりません」
ジュリアーノ「敵はわずか3人で、我々が300人。勝ったも同然ですね」
シャルル「いや、油断は禁物だ。彼らは例え3人と言っても生身の人間ではなく魔物であることを忘れてはならない。どんな魔法や幻術を操るのか見当がつかない」
そのとき、1人の若者が意見を述べた。
ペペ「我々の中にも魔法が使えるものが多くいます。私も魔法道を志す1人です。魔法には魔法で対抗するのも一つの方策ではないかと思うのです」
騎兵隊長アントニー「おお、ペペか。確かにおまえの言うことは理に適っている。相手の正体を読めない今、もしも剣が通じない相手ならば魔法が有効となるだろう。そうそう、シャルル殿にまだペペを紹介しておりませんでしたね」
シャルルはアントニーが紹介するペペという魔導師に視線を向けた。
ペペ「ご紹介に預かり大変光栄です。私は駆け出しの魔導師のペペと申します。以後お見知りおき願います」
騎兵隊長アントニー「ペペの魔法の威力には凄まじいものがあります。当国では一、二を争う魔力を持っております。特に彼のブリザードという魔法の威力は絶大です」
ペペ「騎兵隊長、ちょっと褒め過ぎですよ。私はまだまだ未熟者ですから」
2人の会話を聞いていたシャルルはにこりと笑みを浮かべた。
シャルル「見てのとおり、俺は剣しか使えない無骨な男だ。ペペというのか、頼りにしているぞ」
ペペ「はい! ありがとうございます! きっとお役に立って見せます!」
騎兵隊長アントニー「さて、次はニセ国王の位置ですが、玉座付近はこのようになっておりまして……」
騎兵隊長は図面を広げ、ニセ国王レッドシェイドの普段鎮座している位置を示した。
正面と裏側の2箇所から挟み撃ちにする計画だ。
シャルル「では俺が先陣を切り正面を突破する。騎兵隊長とその部隊は俺を援護してくれ。それからジュリアーノは別働隊を指揮してくれ」
ジュリアーノ「はい! 承知しました!」
シャルル「ジュリアーノの部隊とペペたち魔法隊は裏口から侵入し、レッドシェイドの後方から攻撃してくれ」
シャルルを中心とした軍議は夜更けまで延々とつづき、あらゆる状況下でも臨機応変に対応できるよう秘策が練られた。
決行は翌朝の7時。
護衛2人が別室で朝食を摂っている時間でもある。
つまりレッドシェイドが孤立する時間帯なのだ。
シャルルたちは夜明けとともに切って落とされる戦いの火蓋に熱い闘志を漲らせていた。
⚔⚔⚔
一方シャムたちは、シャルルとジュリアーノがメンバーから外れたこともあって、その夜は残り全員で泊まることになった。
諜報活動はそこそこに、早めに宿屋に戻り、翌朝の準備にとりかかった。
今回は革命軍の戦いであって、シャムたちの出番はないが、もしシャルルたちが不幸にも破れた場合は、彼らに代ってレッドシェイドと対決する覚悟であった。
シャムたちは武器防具の手入れを行なった後、昼間収集した情報をお互いに交換することになった。
中でも、ユマ姫に関する情報が最も注目を集めた。
少し整理してみると……
① ペルセ島のどこかにユマ姫が囚われているらしい。
② ペペロンチーネ伯爵という男が懸賞をつけてユマ姫を捜索している。
③ ペルセ山頂に行くには3つの関門があるらしい。一番最初の関門にはサイクロプスというモンスターが待ち構えているらしい。
④ ペルセ島に物知りな魔女が住んでいるらしい。魔女はリンゴが大好物なので手土産にリンゴを持参すると色々な情報を話してくれるらしい。
シャム「まさかユマ姫がペルセ島に囚われていたとは……。早く助け出さないと……」
モエモエ「でも絶対に島にいるという確証はないよ。ただの噂かも知れないし♪」
イヴ「噂であったとしても行くべきだわ。仮に見つからなくても何か手懸りが掴めるかも知れないものね」
シシ「私も行くべきかと。『火の無い所に煙は立たず』とか言うものね。きっと何か発見があると思う」
シャム「ところで、そのペペロンチーネとかいうパスタみたいな名前のやつは何者だ?」
エリカ「莫大な財産を所有することで有名な大富豪です。とてもずる賢くて超がつくほどのスケベーな男だと聞いたことがあります。善人ぶってユマ姫を助け出した後、恩着せがましく迫ってユマ姫を我が物にしようと企んでいるように思えてなりません。この男に先を越されたら厄介なことになると思います。一刻も早く私たちの手でユマ姫を助け出さなくてはなりません」
チルチル「ジュリアーノも同じような事を言ってたでピョン♫ すごくエロいやつだと」
アリサ「ペペロンチーノだか、ペペロンチーネだか知らないけど、見つけ出したらこの爪で引っ掻いてやるうううう!」
シシたちが買ってきたリンゴをかじりながらアリサが息巻いている。
チルチル「リンゴ美味しそう♫ 私も食べたい~♫ カプッ!」
エリカ「あらら、チルチルさんまでリンゴを齧ってしまいましたね。それは魔法使いのおばあさんに持っていくつもりだったのですがね」
シシ「いいじゃないの、また買えば」
7人全員が大部屋で休むことになったことで、さすがに今夜のシャムは大人しかった。
ただし寝静まった頃、シャムが“夜這い”を実行したかどうかは定かではなかった。
⚔⚔⚔
そして革命軍が蜂起する朝がやってきた。
はたしてジャノバの地に平和と自由が訪れるのだろうか。
魔界の将軍レッドシェイドを倒し奪われた玉座を無事に奪回できるか、それとも不運にも敗北を喫し屍の山を築くのか……
シャルルをはじめとする300人のつわものたちはピリピリとした緊張の中で城の裏口の外で整列をしていた。
内応している兵士たちと合流してレッドシェイドを攻める段取りになっている。
裏口は彼らが内側から開けてくれるはずだ。
定刻に裏口は開かれた。
内応している番兵が無言でシャルルたちに合図を送ってきた。
シャルルたちが城内へと足音を忍ばせなだれ込む。
革命軍は300人だが、内応している城内部の兵士100人と合流することになっている。
総勢400人に膨れあがるが、城内には1,000人超える兵士がいるため、真っ向から衝突した場合、士気に勝る革命軍とはいっても所詮は多勢に無勢、数の力で苦戦は避けられないだろう。
兵力ではあきらかに劣勢の革命軍だが、彼らには練りに練った秘策があった。
城内の兵士たちと革命軍が真っ向からぶつからないで、レッドシェイドの元に侵入する方法はないものだろうか……
あった。
兵士たちの朝食時が盲点だ。
兵士たちは毎朝6時から8時の間に朝食をとることになっている。
つまりこの時間帯が最も手薄になる時間といえる。
シャルルたちはこの時間帯を狙って一気に仕掛けることになっていた。
仮に番兵などから反撃を受けたとしても、微々たるもの。
容易に躱すことができるだろう。
シャルルたちは食堂のコックたち全員をあらかじめ説得し、すでに仲間に引き込んでいた。
兵士たちの朝食の中に眠り草を細かく切り刻んで混入する作戦を採用した。
眠り草を口にした兵士はまもなく眠気を催し、20分後には完全に眠りに落ちた。
食後20分後であれば食事を済ませた兵士はすでに食堂を退出しているため、後から食堂に入ってくる兵士に気づかれる心配はない。
作戦は見事に成功した。
食事を終えた兵士たちは持ち場に着く前に一旦宿舎に戻り準備を整えることになるが、ほとんどの者はそのまま宿舎内で深い眠りに落ちて行った。
その間隙を突きシャルルたちは迅速に行動を開始した。
すでに内応している城内の兵士たちもシャルルたちの隊列に加わり、総勢400名に膨らんでいた。
シャルルたちは城内の兵士と同じ制服に着替えていたため、容易に見破られることはないだろう。
シャルルたちがニセ国王の玉座まで進軍する途中、攻撃を受けることはほとんどなかった。
兵士の多くは革命には参画しなくても、胸中では革命軍を指示していたのだ。
進軍の途中、執事や書記官などの文官とすれ違うことはあったが、革命軍の覇気に恐れ慄きどこかにに立ち去ってしまった。
幸いにも革命軍はほとんど無傷のまま玉座のある国王の部屋にたどり着いた。
400人の猛者(もさ)たちのほとんどが男性であったが、男性の中にあって紅一点凛々しい少女がいた。
その少女は黄金色の髪を三つ編みに結わえ、頭には羽根帽子を冠っていた。
少女の名前はワルキューレ・キュー。
革命軍の一翼を担う将軍チャンドラーの孫娘、それがキューであった。
キューはシャムたちの元を去った後、腕を磨きワルキューレ部隊の一員として魔獣打倒に奔走していたが、祖父チャンドラーの一大事を知って急遽掛けつけて来たのであった。
元々キューはジャノバ出身でワルキューレ部隊に入隊するまではこの街で暮らしていた。
つまりジャノバはキューの故郷なのである。
政府に反旗を翻した将軍チャンドラーではあったが、孫娘の革命軍参加には難色を示した。
しかしキューもまたワルキューレ部隊へ戻るよう諭す祖父チャンドラーの意見に耳を貸そうとしない。
チャンドラー「キュー、おまえの意志は硬いようだな。しかし無茶はするなよ。まだ死なせたくはないからな」
キュー「にゅう、分かってくれて嬉しいよ! 安心して、無茶はしないから。おじいちゃんも絶対に死なないで!」
シャルルたち革命軍は息を殺して王の間の気配をうかがった。
ここまで敵と大きな衝突もなく無傷で来れたのは成功といえるだろう。
だが問題はここからだ。
はたしてレッドシェイドと2人の護衛官はどれほどの力を備えているのだろうか。
シャルルたちに緊張が走る。
チャンドラーが扉をノックをした。
チャンドラー「王様、将軍のチャンドラーです。取り急ぎご報告があってまいりました」
低くよく通る声が返って来た。
国王(偽)「入れ」
重い扉を開けチャンドラーが王の間に足を踏み入れた。
ほかの者たちは扉の外で息をひそめ臨戦態勢を整えている。
王の衣装を身に纏い頭上には王冠をいただいてはいるが、生気がなく青白い顔をした男が鎮座している。
真の国王はすでに殺害されており、魔物がその亡骸を支配しているからであろう。
言わば国王は動く屍といえた。
さらに国王の左右には大柄な2人の騎士が警護している。
全身を鎧冑で覆っているが、彼らもまた国王同様に“生”の気配が感じられない。
チャンドラーは心の中でつぶやいた。
(ああ、おいたわしや……確かに外見は王様のお姿だが生気が感じられない)
国王(偽)「どうしたのじゃ?」
チャンドラーに尋ねる国王。
チャンドラー「はい、実は……」
国王(偽)「どうした? 早く述べよ」
チャンドラー「はい、謹んで申上げます。実は王様のお身体には悪魔が宿っております」
国王(偽)「な、なんだと!? 私の身体に悪魔が宿っているだと!?」
チャンドラー「私は王様に潜んでいる悪魔を退治するために参りました」
国王(偽)「チャ、チャンドラー将軍! 貴様、狂ったか!?」
チャンドラーはさっと剣を抜いた。
国王は慌てふためき警護する騎士たちに命じた。
「チャンドラー将軍を切れ! この血迷った愚か者を切り捨てろ!」
警護の騎士たちは槍と剣でチャンドラーに襲い掛かってきた。
ちょうどそのとき、扉の外で待機していたシャルルたちが一気になだれ込む。
剣技にすぐれたチャンドラーは右の騎士の槍をかわし、左の騎士と剣を弾き返した。
国王に成りすましているレッドシェイドが間隙を縫って両手をかざし呪文を唱える。
レッドシェイド「この裏切り者め! 死ぬがよいわ!」
突然、真紅の霧状のつむじ風が巻き起こりチャンドラーを取り巻く。
チャンドラーは騎士とつばぜり合いの真っ最中であったため、真紅の霧をかわすのが遅れてしまった。
チャンドラー「ぐわ~っ!!」
真紅の霧が包み込み、たちまち床に伏せてしまったチャンドラー。
シャルル「あっ、将軍! 大丈夫か!? おのれ!!」
倒れ込んだチャンドラーにさらに追い打ちをかけようとした騎士の剣をシャルルが払い除ける。
王室内は革命軍の兵士が押し寄せて、敵も味方も入り乱れての激しい攻防戦となった。
偽国王ことレッドシェイドは次々と霧魔法を放ち革命軍の戦士達を苦しめる。
シャルル「将軍、しっかりしろ!」
チャンドラーは口から血を流して倒れている。
チャンドラー「ううっ……シャルル殿……わ、私はもう無理です……私のことは構わず、早く……やつを仕留めてください……お願いします……ううっ……」
シャルル「将軍、しっかりしろ! やつは必ず仕留めてみせるから安心しろ!」
跪いてチャンドラーを励ますシャルル。
そこへ兵士たちをかき分けるようにしてキューが駆けつけた。
キュー「おじいちゃん!」
チャンドラーはキューの存在に気がついたが、その目に力はなく虚ろに瞬くだけであった。
チャンドラー「おお、キューか……」
キュー「おじいちゃん、しっかりして!」
チャンドラー「私はもうダメじゃ。キュー、おまえは逞しく成長した。私はもう思い残すことがない。私が死んでも泣くでないぞ。この世の平和のために全力を尽くすのじゃ……よいな……」
キュー「おじいちゃん、分かったよ! 私、がんばるよ!」
キューは溢れる涙を拭おうともしないで、チャンドラーに縋りつき平和のために戦うことを誓うのであった。
チャンドラー「キュー、昨夜、神のお告げがあった……」
キュー「神のお告げって?」
チャンドラー「この世界にメシア(救世主)が現われた。おまえはメシアを探しだし彼とともに戦うのじゃ。決してメシアから離れてはならぬぞ。メシアとともに進むことがおまえの正しき道じゃ……よいな……?」
キュー「メ、メシアって誰? 名前は何というの?」
チャンドラー「神は告げられた……メシアの名は……ううっ……シャム・ロマンチーノ……うぐぐっ……」
キュー「えっ~~~! シャムが……? シャムがメシアなの!? シャムは私が魔物に襲われていたとき助けてくれた人なの。今は離れているけど、一時魔物を倒す旅をしていたの。私、おじいちゃんに約束する~。シャムといっしょに戦うよ! 平和が訪れるまで」
チャンドラー「そうだったのか、やはりおまえは普通の子ではないと思っておったぞ。頼んだぞ、キュー……、最後にこの剣をおまえに授けよう……。きっとおまえの力になってくれるはずじゃ。ではさらばじゃ……元気でな……」
チャンドラーはそれだけを言い残し静かに息を引きとった。
その表情は実に穏やかであった。
キュー「おじいちゃん! 死なないでぇ~~~!!」
シャルル「チャンドラー将軍! しっかりしろ!!」
キュー「わあ~~~ん!!」
シャルル「く、くそっ! よくも将軍を! レッドシェイドめ! 絶対に許さん!!」
キュー「必ずレッドシェイドを倒すわ!!」
赤い気炎を揚げるキュー。祖父の復讐を心に誓った。
キューは『チャンドラーの剣』を手に入れた! キューは『チャンドラーの剣』を装備した!
シャルル「キュー、行くぞ!」
キュー「はいっ!」
チャンドラー将軍の死を悲しむいとまもなく、再び戦闘の火蓋は切られた。
赤い霧の魔法の使い手レッドシェイドにも手こずったが、それ以上に革命軍を震撼させたがレッドシェイドを警護する2人の騎士であった。
その神がかった強さの前に革命軍の兵士はなすすべもなく次から次へと倒されていった。
奇妙なことに2人の騎士は少々刃を浴びてもまったく動じることがなかった。
革命軍は鎧の隙間を狙って攻撃を試みたが効果はなかった。
革命軍の兵士「くそっ、あの騎士たちは一体何者だ!? まるで不死身のようではないか……」
それでも入れ代わり立ち代わり立ち向かっていく勇猛な兵士たち。
レッドシェイド「はっはっは~! 貴様たちが束になってかかってきても我々を倒せぬわ!」
シャルル「くっ、言わせておけばいい気になりやがって。よし、別働隊、今だ! 攻撃開始っ!!」
ジュリアーノ「了解っ! 一気に攻めかかれ~~~!!」
攻める機会をうかがっていたジュリアーノ率いる別働隊は合図がかかると、レッドシェイドたちの背後から討って出た。
幸いにも敵騎士がシャルルたち本隊と火花を散らしているため、背後からの攻撃に対応する余裕がない。
ジュリアーノのそばにいた兵士が騎士の背後から切り込んだ。
革命軍の兵士A「死ね~~~っ!」
手ごたえがあった。
うまく騎士の鎧の隙間を貫いたようだ。
ところが騎士に痛手の気配もなく、前面の兵士を負かすとほどなく後ろを振り返った。
革命軍の兵士A「なんだと!? 間違いなく刺したはずなのに……!?」
血の気が失せて、顔が紙のように青ざめている兵士。
騎士が剣を振り下ろした。
革命軍の兵士A「ぎゃあ~~~!」
兵士は血飛沫を上げて床に倒れ込んだ。
ジュリアーノ「むむっ、何というやつだ! 今度は僕が相手だ! この剣を受けてみろ! とりゃ~~~!!」
ジュリアーノの剣を騎士は何の苦もなく受け止めた。
ジュリアーノ「むむむ……何だ、こいつ。まるで生の気配がないではないか……」
騎士はジュリアーノの剣を払いのけると、今度はジュリアーノ目掛けて突き込んでいた。
ジュリアーノ「なんの! ではこれを受けてみろ! 必殺ラマ・ロベンテ(焦熱の刃)!!」
炎のごとく真っ赤になったジュリアーノの剣は騎士の首元を襲った。
騎士「……!」
次の瞬間、騎士の首が胴体から分断された。
騎士は床に倒れ込む。
ジュリアーノ「よし! 騎士の1人を倒したぞ!」
ところが首を失ったにもかかわらずまだ胴体が動いているではないか。
まもなくのっこりと起き上がると金属音を響かせジュリアーノの方に向かって歩き出した。
ジュリアーノ「なんだ、こいつ! 首を切ったのにまだ動いているぞ!」
ジュリアーノは顔色を失い呆然としている。
今度は首を失った騎士が剣を構えジュリアーノに襲いかかろうとしている。
ペペ「ジュリアーノさん、気をつけて! そいつはデュラハーンというアンデッドですよ! 剣で倒すのは困難です! 神よ、悪しき者どもを凍らせ給え~! ブリザ~ド!!」
ペペが呪文を唱えると、樹氷の塊が一気に首を失った騎士を襲った。
氷点下の突風がデュラハーンを包み込み凍らせていく。
首を失った騎士は次第に動きが鈍り崩れるように床に伏せてしまった。
休むことなくペペは残る騎士にもブリザードの魔法を放った。
残る騎士もまともに魔法を浴び凍てついてしまった。
レッドシェイド「デュラハーンたちを倒すとはなかなかの腕前だな~。だがおまえはこれで終わりだ」
レッドシェイドの胸元から1本の触手がシュルシュルと伸びる。
目にも止まらぬ速さで床を這いペペの首に巻きついた。
ペペ「うぐっ、く、苦しい……」
レッドシェイド「おまえたち人間の最大の弱点は呼吸なんだよ。呼吸を止められると一溜りもないからな~。がっはっはっは~! それ! もっと締め上げてやるぞ!」
ペペ「ううう……」
ペペが口から泡を吹きもがき苦しんでいる。
ジュリアーノが触手を切り落とそうと試みるが、今まで遭遇した触手と異なり、まるで真綿のように柔らかくて切断ができない。
ジュリアーノ「柔らかくて切れない! まずいぞ、このままだとペペが窒息してしまう! 早く何とかしないと……」
ジュリアーノが困惑していると、突然剣が煌めき、レッドシェイドの呻き声が聞こえてきた。
レッドシェイド「うぐっ!……触手が……!」
ペペの首に巻きついていた触手は見事に一刀両断されている。
突如現れたのは羽根帽子を冠ったワルキューレ・キューであった。
レッドシェイド「何者だ!?」
キュー「にゅ~、私の名前は戦乙女ワルキューレ・キュー! さきほどあなたに殺されたチャンドラー将軍の孫娘だよ! チャンドラーの剣の切れ味はどうだった? 触手だけではなく今度はあなたのその心臓を突き刺してあげるから覚悟しておいてね!」
レッドシェイド「なに? あの老いぼれ将軍の孫娘だと? ふふ、これは面白い。じっくりとなぶってくれるわ! ぐふふふふ」
睨み合う2人の間に火花が散る。
キューは剣を構えた。
まもなくレッドシェイドの身体がぶるぶると震え始めた。
キュー「私が恐くて震えているの? 降参するなら今のうちだよ~」
シャルル「気をつけろ! やつの身体は震えながら次第に大きくなっているぞ!」
キュー「えっ、まさか……!?」
レッドシェイドの身体が振動するたびに元の国王の姿が失われていき、まるでマロンクリームを絞り出してこしらえたケーキのような形状に変化していった。
キュー「まるでモンブランみたい!?」
元々1.8メートル程度だったレッドシェイドの身長がいつの間にか約3メートルに巨大化し、4メートルある天井にも閊えそうなくらいに変身していた。
レッドシェイド「くくく、これが私の正体だ。どうだ、恐いか?」
キュー「わ~い、美味しそう! 食べた~い!」
レッドシェイド「食べたいだと? ふん、食べるのは私の方だ!」
言うが速いかマロンクリームを絞り袋から絞り出したような触手が一斉にキューに襲いかかった。
キュー「きゃあ~~~!!」
レッドシェイド「がっはっはっは~! 私は女蜜を吸うとHPが増えていく体質なのじゃ。ゆえに貴様の身体が干からびるまで蜜を吸ってやるから覚悟しろ~~~!」
キュー「そんなの嫌だよ~! きゃっ! 両足にモンブランが絡みついて来た!」
シャルル「助けてやるから待ってろ!」
触手を払いのけようとするシャルルに、先ほど倒したはずのデュラハーンがむっくりと生き返り、シャルル目掛けて襲い掛かってきた。
シャルル「うわ~! こいつまだ生きていたのか!?」
ペペ「デュラハーンはゾンビと違い凍てついても一定時間が過ぎると回復するのです! もう一度僕がブリザード魔法をかけるので、シャルルさんは退いてください! 神よ、悪しき者どもを凍らせ給え~! ブリザ~ド!!」
ペペのブリザードを浴びたディラハーンは再び床に伏してしまった。
もう1体もいつ起き上がってくるか油断ができない。
一方触手の群れはキューの両足を捕えて吊り上げた。
逆さになったキューの上半身は重力に沿ってまくれ上がったスカートに覆われショーツが丸見えになっている。
キュー「やあ~ん! パンツが丸見えちゃうよ~」
レッドシェイド「もうすでに見えてるんだけど」
キュー「エロ触手~~~!」
レッドシェイド「元来触手とはエロイものだ」
キュー「開き直るな。ちなみに今日は白じゃなくて、ゼブラ柄のTバックなので恥かしいの~」
レッドシェイド「白なら恥かしくないのか?」
キュー「バカッ! いちいち人の上げ足を取るな!」
レッドシェイド「すみません。ん? なんで私が敵の貴様に謝らなければならないのだ! ムッ、これでも食らえ~! ぐふふふ」
ペニス型をした1本の太い触手がショーツの隙間から中に忍び込んでいく。
キュー「やあ~ん! そんなデリケートなところを触らないでよ~!」
レッドシェイド「ふふふ、ここが貴様の真珠か? コリコリとしてなかなかよい感触ではないか。ここをしっかりと擦るとどうなるかな?」
スリスリと敏感な箇所に刺激を与えるレッドシェイド。
キュー「あっ……あっ……そこ、だめ……いやん……そこ、やんっ……ああっ、そこだめなの~……!」
シャルル「まずい! 蜜を吸われるとますます倒しにくくなるぞ! みんな、やつの触手を切り落としてしまうのだ!」
革命軍の兵士たちは一斉にレッドシェイドに戦いを挑んだ。
レッドシェイドは彼らの攻撃に気にする様子もなく、依然キューの吸蜜に夢中になっている。
兵士たちの剣がレッドシェイドを捉えた。何度も何度も突き刺した。
しかしまる軟体動物のように柔らかな触手は剣を受け付けない。
グニュッと凹みはするが切断ができないのだ。
革命軍の兵士「なぜだ……? 切れない……」
剣の攻撃がわずらわしいと言わんばかりに、触手が鞭のようにしなり兵士たちを叩きつけた。
革命軍の兵士「うわっ!」
革命軍の兵士「ひぃ~っ!」
もんどりうって倒れる兵士たち。
ジュリアーノも切りかかったが結果は全く同じだった。
また、ペペや他の魔導師たちも数種類の魔法を放ってみたが大した効果が得られなかった。
シャルル「なぜ触手が切れないのだ? 腕利きのジュリアーノや兵士たちの剣が全く歯が立たないとは……」
キュー「ああっ……だめぇ……もう、擦るのはやめてぇ……剣を握る手に力が入らない……ああっ、もどかしい……」
逆さ吊りにされたうえ女壺を責め苛まれて、戦闘不能となったキューはただ悶え苦しむばかりであった。
ショーツ内にうごめく無数の触手は女蜜の生成を促し、それを享受しようと太い触手が間近で待ち構えている。
シャルル「まずい! このままレッドシェイドに愛液を吸い続けられるとキューの体力が持たないぞ! キューの体力が1ポイント減るたびにレッドシェイドの体力がその分増えていく!」
ジュリアーノ「何とか助けないと! でもどうして!? キューちゃんは剣で触手を見事に切り落としたのに、どうして僕たちにそれができないのだろうか?」
シャルル「剣の違いか?」
ジュリアーノ「違うと思います」
先程キューが切断した赤い触手の断片が床に転がっている。
ジュリアーノは切断面を調べてみた。
ジュリアーノ「あっ! シャルルさん、分かりましたよ! 関節です!」
シャルル「関節がどうした?」
ジュリアーノ「関節を狙ってください!」
シャルル「なに!? 触手に関節があるのか?」
ジュリアーノ「少し分かりにくいけどあります! 触手に少し太くなった部分があるでしょう? そこに関節があるのです!」
シャルル「なるほど、よく分かった! じゃあ、関節を狙って切りまくろう!」
ジュリアーノ「キューちゃん、すぐに助けるから待ってろよ~!」
シャルル「みんな! 触手の太くなった部分を狙うんだ~~~!」
革命軍の兵士「お~!!」
革命軍の兵士「了解しました~!」
革命軍の兵士は一斉にレッドシェイドに襲いかかった。
ジュリアーノの読みは見事に的中し、無数の触手が次々とレッドシェイドの身体から切断されていく。
レッドシェイド「ぎゃぁ~~~!」
しかしレッドシェイドも負けてはいない。
チャンドラー将軍を葬った例の霧の魔法を唱える。
不運にも真紅の霧を浴びた兵士の1人が苦悶の表情を浮かべながら床に伏せた。
真紅の霧には毒が含まれているため、早く解毒しなければ死に至る恐ろしい魔法なのである。
ただし1度唱えると次に唱えるまで一定時間を要するのが、この魔法の欠点といえるだろう。
さすがに触手の被害を受けたレッドシェイドのダメージは大きかったようで息がかなり荒くなっていた。
ジュリアーノの閃きにより触手から解放されたキューは薬草を口にしながら回復を図ろうとしている。
シャルル「キュー! 大丈夫か!?」
キュー「みんな、ありがとう、助かったわ。今度は私の番だよね? レッドシェイド」
レッドシェイド「ふんっ、あまりいい気にならないほうがいいぞ。触手を切られても私にとってはかすり傷程度にすぎないからな」
シャルル「さすがレッドシェイド、恐るべき体力だな。みんな油断するなよ!」
レッドシェイド「貴様たちを少し見くびっておったようだ。さて、そろそろ本領発揮と行くか? 最初に、先ほどの続きでそこのワルキューレ娘から片付けてやるとするか」
レッドシェイドが指示した先にはキューが床に伏せている。
先程床に落とされたとき脚を傷めたらしい。
薬草を食べたが傷が十分完治していなかった。
キュー「ううっ……くそ、足を挫いたらしい……これじゃ避けられないわ。うまく行くかどうか分からないけどあの方法で……」
キューはうずくまったまま、チャンドラーの剣を床に突き刺し、床にアルファベットの『G』の文字を描きつつ祈りを捧げた。
レッドシェイドはキューの奇妙な行動を訝しく思ったが、死を観念して瞑想を始めたものと考えた。
レッドシェイド「がっはっはっは~! 勝つ自信がなく私と戦うのを諦めたか? 潔さは褒めてやるぞ。では貴様の希望どおり地獄に送ってやろう」
ジュリアーノ「そうはさせるか~! とりゃあ~~~!」
レッドシェイド「邪魔をするか!」
ジュリアーノの剣を杖でいとも簡単に振り払うレッドシェイド。
そればかりかジュリアーノに杖で一撃を与える。
ジュリアーノ「うぐっ!」
シャルル「ジュリアーノ、大丈夫か!? おのれ、レッドシェイドめ、許さんぞ~っ! どりゃあ~!」
レッドシェイド「貴様ごときが私を倒せるものか!」
シャルル「うわ~~~っ!」
杖とはいえ激しい突きを浴びて、シャルルとジュリアーノは苦痛に顔をゆがめている。
革命軍の大将格でも歯が立たないことに、兵士たちの動揺は隠しきれない。
そんな中でも1人気炎を揚げているのはペペであった。
ペペ「こうなったら僕の全魔力を投じて攻撃だ! 神よ、忌まわしき者を天の矢で凍らせ給え~! フリーズアロー~~~!」
ペペが呪文を唱えると頭上に鋭い氷の矢が現われすごい速さで放たれた。
レッドシェド「な、なんだ!? うぎゃあ~~~~~!」
ペペの放った氷の矢は見事にレッドシェイドの身体を貫通した。
緑色の血飛沫が飛ぶ。
レッドシェイド「ぐぐ……お、おのれ、よくも私を……。ではお返しだ~~~!」
レッドシェイドの杖の先から発せられた赤い吹き矢が、ペペの身体に突き刺さった。
魔導師の場合、戦士のような頑丈な防具を身につけているわけではないので、吹き矢の攻撃にはひとたまりもなかった。
ペペ「ぐわあ~~~っ!!」
今回の戦闘の目的が革命にあるため、シャムたちは参加しないことになっていたが、もしシャルルたちが敗北を喫した場合、あるいは彼らが危機に陥った場合にはシャムたちが彼らに代ってレッドシェイドを征伐することになっていた。
そんな中、宿屋で待機中のシャムは烈しい胸騒ぎを感じた。
シャム「シャルルたちが心配だ。何か不吉な予感がするんだ」
アリサ「実は私も嫌な予感がするのおおおお」
モエモエ「私たちの助けを待っているのかも……」
イヴ「心配だわ。城へ急ぎましょう!」
シャムたちは宿屋を出ると、シャルルたちが戦っている城内に向かった。
兵力で勝る革命軍とはいっても宿敵レッドシェイドを相手に苦戦が予想される。
不幸にもシャムの予想が的中し、革命軍は背後からも正規軍の攻撃を受けかなりの打撃を受けていた。
⚔⚔⚔
シャルルとジュリアーノはよく善戦したが、無類の体力を誇るレッドシェイドにじりじりと追い詰められていた。
ペペにおいては深手を負い戦うこともままならず、わずかな薬草でようやく命を繋いでいた。
レッドシェイド「ふっふっふ、口ほどにもないやつらばかりだ。貴様たちももうすぐあの世に送ってやるからな。どれ、そこのワルキューレ娘よ、死のお祈りはもう終わったかな?」
レッドシェイドがささやく侮言などキューの耳には入っていない。
キュー瞳を閉じてひたすら瞑想に集中していた。
レッドシェイド「ではさらばじゃ!」
レッドシェイドは両手を掲げ呪文を唱える。
あのチャンドラーを倒した忌まわしい真紅の霧で、再び孫娘のキューまでも倒そうというのか。
掌を返した瞬間つむじ風が巻き起こりキューに襲いかかった。
体力も衰え避けることもできない絶体絶命のキュー。
キュー「むっ……無念……」
ところが次の瞬間、信じられないようなことが起こった。
王の間の木製床がバキバキと音を立てて盛り上がると、得体の知れない岩の巨人が現われキューの前に立ちはだかった。
その光景は突然壁がそびえ立ったと表現するのが適切だろう。
レッドシェイドの放った赤い霧の魔法は、岩の巨人に当たるとあっさりと跳ね返されてしまった。
レッドシェイド「な、なんだっ!? 貴様は何者だ!?」
キュー「も、もしかして、あなたがゴーレムなの!?」
岩の巨人は地響きするような低い声でキューの問いに答えた。
身長は4メートル近くあり天井にも届きそうな背丈だ。
ゴーレム「ハイ、ゴ主人サマ。ワタシガ地霊ゴーレムデス。地上ニオ招キクダサリアリガトウゴザイマス……」
キュー「えっ、やっぱりそうなの!? 召還術が成功したのね? にゃっ、やった~~~!」
レッドシェイド「なにっ、ゴーレムだと!? どうして地霊が現われたのだ!? くそっ、貴様なんかに私が倒せるものか! 食らえ!」
再生した30本ほどの触手がゴーレムに襲いかかった。
目にも止まらぬ速さでゴーレムの胴体、足、腕などに巻きついていく。
レッドシェイドはゴーレムの巨体を拘束して、新たなる魔法を唱える体勢に入った。
ところが……
レッドシェイド「ぎゃあ~~~~~!!」
ゴーレムが腕と膝に力をこめると絡みついた触手がまるで糸でも切るように簡単に切断されてしまった。
飛び散る触手の断面から噴出した緑色の返り血を浴びるゴーレム。
ゴーレム「攻撃ハモウ終ワリカ? 今度ハ私ノ番ダ」
レッドシェイド「うぐぐ……くそ……粘り強い私の触手をいとも簡単にぶち切ってしまうとは。この期に及んではなりふり構っていられない。地獄の魔法の恐ろしさを見せてやる……魔王様、どうかお力を私に与えたま……」
レッドシェイドが新たな呪文を唱え始めたとき、それよりも速く巨体のゴーレムが恐ろしい速さで玉座目がけて突進した。
床がまるで地震でも起きたかのように激しく揺れる。
ダダダダダダッ!!
ズシーンッ!!
レッドシェイド「ぎゃあああああ~~~~~っ!!」
キューたちを崖っぷちまで追い詰めたことで、勝利を信じて疑わなかったレッドシェイには油断があった。
慢心はときとして防御を緩めてしまう。
巨大岩のような腕から放たれたラリアートをまともに食らったレッドシェイドは、地獄の果てまで響くほどの絶叫を轟かせた。
口から緑色の血を流している。
レッドシェイド「うぐぐ……この私が倒されるとは……」
レッドシェイドは眼孔を開いたまま絶命してしまった。
キュー「ついにやったんだねえ……ゴーレム、現れてくれてありがとう!」
ゴーレム「ドウイタシマシテ。ゴ主人サマノ役ニ立テテウレシイデス」
シャルル「うううっ……キュー、やったなあ……でかしたぞ……。でもその巨人をどのようにして呼び出したのだ?」
シャルルは床に座ったままキューに尋ねた。
キュー「にゃっ、これはね召還術なの。今回初めて使ったんだけどこの場面で成功して良かった……うう、いたたたた……」
傷を負ったキュー、シャルル、ジュリアーノ、そしてペペも、ほとんどの者がなかなか立ち上がることができなかった。
残った薬草を革命軍の兵士たちとともに口にする。
戦闘中にかなり使用したので十分な数はなく傷の完治はむずかしい状況だ。
今回の戦闘の激しさを物語っている。
ジュリアーノ「あっ、ゴーレムの姿がだんだん薄くなっていくぞ!」
キュー「にゅう、そうなの。召還術のパワーが上がれば上がるほど、ゴーレムを長く地上に引き止めることができるの。でもまだ私が未熟だからもう消えてしまうの」
シャルル「未熟じゃないよ。すごいよ、キューは。ううっ……」
その時、迫りくる親衛隊残党を駆逐したシャムたちがようやく王の間にたどり着いた。
シャム「しまった、遅かったか! 酷くやられたな!? すぐに治療を!」
シャルル「おお、シャムか、よく来てくれた。ニセの国王は何とか倒したが、俺たちはこの有様だよ……やつ少し甘く見ていたようだよ。ううっ……」
シャルルは数カ所の傷を負い体力もかなり消耗しているようだ。
おそらく気力だけで持ち堪えているのだろうが、シャムたちの姿を見て安堵したようだ。
シャム「シャルル、話はあとだ。先ずは治療だ。イヴ、エリカ、シャルルやできるだけ多くの負傷者に治療をしてやってくれ。それから、モエモエとチルチルは負傷した兵士に薬草を配ってくれ!」
イヴ「うわ~っ、みんな、かなり酷くやられてるね。すぐに治療魔法をかけるからね!」
エリカ「シャルルさんや皆さん、大丈夫ですか? すぐに治療魔法をかけてあげますからね」
イヴとエリカはシャルルやジュリアーノさらには深手を負った兵士たちに次々とヒール魔法をかけていく。
アリサ、モエモエ、シシ、チルチルの4人は手持ちの薬草を傷ついた兵士たちに手渡す。
また重篤だったペペもイヴのヒール魔法のおかげで瞬く間に元気になっていった。
シャム「あれ? キューじゃないか!? どうしておまえがここにいるんだ?」
キュー「にゃっ、シャム~、久しぶりに会えて嬉しいよ~」
キューは革命軍に参加することとなった経緯をかいつまんで話した。
シャム「そうだったのか、おじいちゃんは残念だったなあ。それにしてもレッドシェイドを倒すとは強くなったな~! きっとおじいちゃんも天国でキューの活躍を喜んでいるよ」
キュー「うん、うん……」
涙ぐむキューと彼女を励ます革命軍の兵士たち。
シャルル「チャンドラーは勇気溢れる立派な将軍だった。ジャノバを救った将軍としていつまでも語り継がれるだろう」
キュー「うん……それならきっとおじいちゃんも浮かばれるね」
そんな中、兵士たちへの治療と薬草配りを終えたイヴたちがキューの元に飛んできた。
イヴ「キューちゃん、久しぶり~!」
アリサ「わ~い! キューちゃんだあ、会いたかったよおおおお」
モエモエ「すごい活躍だったんだってね~~~♪ 見たかったな~♪」
エリカ「キューちゃん、ついに召還術を習得したのですね。おめでとうございます!」
シシ「初めまして。私はシシ。よろしくね」
チルチル「キューさん、初めまして♫ シャムから聞いてるでピョン♪ 強くて可愛い羽根兜のお姉さんだって~ よろしくピョン~♫」
キュー「にゅう、久しぶりの人や初めての人、シャムの仲間が増えているね、皆さん、よろしくね~!」
キューはかつての仲間や新しい仲間たちと和やかに言葉を交わし、次第に笑顔を取り戻しつつあった。
キュー「ところで、シャム?」
シャム「なんだ?」
キュー「チンヒールはまだ?」
シャム「おおっと、忘れてた~! じゃあ今から掛けてやるからパンツ脱いで」
エリカ「シャムさん、キューさんには私がヒールをかけたのでもう大丈夫ですよ。法力草も食されたので魔力も完璧です」
シャム「そうなんだ……それはよかった……そうだってキュー……」
キュー「そういえば先程エリカさんにかけてもらったような。朦朧としていたので……」
明らかに落胆の色を浮かべるキュー。
久しぶりにシャムの雄姿を見て、身体に刻まれたあの頃の感覚が脳裏をよぎったのだろう。
エリカ「この先、まだまだ厳しい戦いが続きそうなので、チンヒールを掛けてもらう機会はきっとありますわ。それまで楽しみをとっておきましょうね、キューさん」
キュー「楽しみというか、何というか……は~い、分かりました~。エリカお姉さま~」
エリカ「相変わらず素直ないいお子ですね。おほほほ」
キュー「子ども扱いするな~! プンプン」
モエモエは薬草で元気を取り戻したジュリーアノのそばに駆け寄った。
モエモエ「ジュリアーノ、おつかれさま~。よくがんばったね♪」
ジュリアーノ「いやあ散々だったよ」
モエモエ「でも結局勝ったじゃない♪」
ジュリアーノ「あそこにいるキューという子のお陰だよ。あの子がいなければ僕やシャルルは今頃……」
モエモエ「そうなんだ。でも生きててよかったよ♪」
ジュリアーノ「もっともっと腕を磨かないとね」
モエモエ「私も同じだよ、いっしょにがんばろうね♪」
アリサとシシが王の間を探索し、玉座の背後にある小部屋から宝箱を見つけた!
金貨が2000G入っていた! シャムたちは2000Gを手に入れた!
『レッドブレイカーソード』を見つけた! シャムが装備した! シャムの攻撃力が10アップした!
『クレイモアソード』を見つけた! ジュリアーノが装備した! ジュリアーノの攻撃力が10アップした!
『風車の剣』を見つけた! イヴが装備した! 攻撃力が5アップした!
『理力の杖』を見つけた! エリカが装備した! 攻撃力が3、知力が3アップした!
『眠りの杖』を見つけた! ペペが装備した!攻撃力が2アップした! スリープ魔法『ゆりかごの歌』を覚えた!
『くれないのローブ』を見つけた! モエモエが装備した! モエモエの守備力が5アップした!
『バトルキャミ』を見つけた! アリサが装備した! アリサの守備力が5アップした!
『赤いリボン』を見つけた! チルチルが装備した! 守備力が5アップした!
『赤いリング』を10個見つけた! 女性全員が装備した! 守備力が2アップした!
『真紅のTバック』を10枚見つけた! 女性全員が装備してみた! 防御力が10上がったが穿き替え用として各々が保有した!
『青キノコ』を20本見つけた! 魔法系戦士に分配した!
『法力草』を50本見つけた! 魔法系戦士に分配した!
シャルルたち革命戦士の傷も癒えた頃、前国王の実弟リッカルド・ジャノバを新国王として迎え入れ、国民に布告する運びとなった。
革命軍本部は指導力をいかんなく発揮し革命を成功に導いたシャルルを国王参謀に任命し 国民への演説を彼に委ねようとしたが、シャルルは「自分は参謀の器ではない。ジュリアーノが適任だ。それに国民への説明についても口下手な自分が行なうよりも饒舌なジュリアーノが相応しい」と語り本部からの要請を固辞した。
一方ジュリアーノは参謀職の大任を「自分のような未熟者でも構わないのであればぜひ引き受けたい」とシャルルからの推薦を快く受諾した。
ジュリアーノの立ち振る舞いは常に威風堂々としており、公布日当日も大観衆を前にして理路整然とした演説を行ない、国民からも大きな支持を得られた。
国民はニセ国王を倒し悪政を立ち切った革命軍を大いに称え、参謀職に就いたジュリアーノにも惜しみない拍手が送られた。
新国王は参謀ジュリアーノと各大臣に命じジャノバ再建に取り掛かることになった。
再建を行なうにはよき人材が必要となる。
彼らは革命軍の中から有能な人物を選出した。
当然シャルルに対しても将軍職を率いてほしいという依頼があったが、シャルルは今回も申し出を辞退した。
シャルル「俺は世界の平和のために魔物の親玉を倒す。だからシャムたちとともに旅を続けたい」
そんな中、モエモエからシャムに思いがけない申し出があった。
モエモエ「実は父が病の床に臥せ父に代わって兄がカーラ国王に即位することになったの。それでしばらく国に帰らなければならなくなったの。ごめんなさい」
モエモエの申し出をシャムは快く了承した。
シャム「お父さん心配だな。早くよくなってほしいな。お兄さんにはかなり会ってないけどよろしく伝えておいてくれ」
モエモエがシャム一行から抜けて魔導師がいなくなったので、シャルルはペペにその後継を託した。
ペペ自身もシャムたちとの旅を望んでいたので、すんなりと交代劇は行われた。
ペペ「モエモエさんの実力には全然及ばないけど、がんばりますのでよろしくお願いします!」
ペペはシャムたちから好意を持って迎えられた。
モエモエ「みんな、当分私は仲間から外れることになるけどごめんね。でも必ず帰ってくるからね♪」
シャム「モエモエの力が必要になるときが必ず来ると思うので、そのときは頼むぞ!」
モエモエ「うん、約束する♪」
シャムはモエモエをそっと抱きしめた。
モエモエ「シャム、みんな、今までありがとう♪ 必ず戻ってくるので私を忘れないでね。みんな、身体には気をつけてね♪」
シャム「モエモエも元気でな~!」
モエモエが仲間から外れた!
ジュリアーノが仲間から外れた!
ペペが仲間に加わった!
キューが再び仲間に加わった!
⚔⚔⚔
数日後、ジュリアーノは国王から参謀職の称号を授かった。
シャムたちも新国王と参謀ジュリアーノの門出を祝して栄えある儀式に参列した。
シャム「こういう正装って窮屈だな~。肩が凝るよ~。やっぱり普段着がいいや」
イヴ「ロマンチーノ王子様がよくいうよ」
アリサ「にゃんにゃん~、ご馳走がいっぱい並んでるうううう。早く食べたいなああああ」
チルチル「チルチルもお腹が空いたでピョン♫ デザートはムースがいいな~♫」
シシ「ジュリアーノの軍服姿が凛々しくていいわ~。惚れてしまいそう」
エリカ「もう手遅れですわ。だってもう遠い存在になってしまったのですから」
キュー「ペペの魔法は威力抜群だね。まだ18才なのに天才肌だわ」
ペペ「とんでもないです。僕はまだまだ駆け出しですよ。キューさんこそ剣は鋭いし、召喚魔法まで使えるのだから憧れますよ」
シャルルたちの活躍により魔界の刺客レッドシェイドは倒され、ジャノバ国に新しい夜明けが訪れようとしていた。