ファンタジー官能小説『セクスカリバー』

Shyrock 作



<第9章「黒煙の城」目次>

第9章「黒煙の城」 第1話
第9章「黒煙の城」 第2話
第9章「黒煙の城」 第3話
第9章「黒煙の城」 第4話
第9章「黒煙の城」 第5話
第9章「黒煙の城」 第6話



<シャムたちの現在の体力&魔力データ>

シャム 勇者 HP 280/280 MP 0/0
イヴ 神官 HP 220/220 MP 220/220
モエモエ 魔導師 HP 170/170 MP 250/250
エリカ ウンディーネ女王 HP190/190 MP 260/260
ヒトミ 踊り子 HP 250/250 MP 0/0
スンダーラ ゴブリン族長 HP240/240 MP 70/70

⚔⚔⚔



第9章「黒煙の城」 第1話

 ロマンチーノの城を出てから早や1か月、勇者トロスの血を引くシャムはようやくその目的地であるムーンサルト城に到着することができた。
 当初は旅に出ることさえ渋っていたシャムであったが、途中多くの仲間と出会いともに行動しているうちに次第に旅の楽しさを知ることとなった。
 戦いに明け暮れる過酷な毎日ではあるが、シャムが今日まで充実した日々を送れたのも、旅を共にする美女たちの存在によるところが大きかった。
 つまり彼1人では勇者としての能力発揮はむずかしく、仲間の美女あっての勇者シャムといっても過言ではなかった。

 さて、ついに訪れたムーンサルト城。
 シャムの父であるマルコ国王の話によると、ムーンサルト城はメデューサ率いる魔物の軍団に滅ぼされたという。
 実際のところメドゥーサは大昔ペルセウスに滅ぼされており、ムーンサルト城を陥落させたのはその娘メドゥサオールであることがのちに明らかとなっている。
 はたして幼馴染のユマ姫は無事なのだろうか。
 そしてムーンサルト城の人々に生存者はいるのだろうか。

 シャムたちは焦土と化した城を臨み呆然と立ち尽くしていた。
 ところどころに黒煙があがっている。
 唇をかみしめるシャムとイヴ。

「うわぁ……これは想像した以上にやられているな……」
「なんとひどいことを……」
 
 スンダーラは怒りをあらわにし、エリカは涙ぐんでいる。

「あの蛇女め! 絶対に許さんぞ!」
「まるで地獄を見ているような光景です……」

 城門に近づくと突然モエモエの足が止まった。

「きゃっ! 門番が槍を持ったまま死んでいる……」

 城門入口では2人の兵士が無残な姿で息絶えていた。
 1人は槍を持ったままうつ伏せに倒れ、もう1人は槍を構えた状態で壁にもたれ絶命している。
 おそらく2人とも抵抗をする暇もなく、一撃で倒されたものと思われる。
 
 イヴは静かに目を閉じ十字を切った。
 黙祷をささげるシャムたち。

 シャムたちは警戒をしながら城の中に入っていった。
 城内もあちこちで煙が立ち昇り、焦げくさい匂いが鼻を突く。
 突然の敵の襲撃に備えて、隊列は戦闘隊形を保ちながら進むことにした。
 先頭はシャムとスンダーラに任せ、二列目にはヒトミとイヴがつづく。
 そして後方はエリカとモエモエが守った。
 戦闘力に優れた戦士が前方を進み、僧侶や魔導師が後方につづく、それが隊列を組んで旅をする場合の基本形であった。

 メドゥサオールたち魔物の猛攻を受け、たちまちムーンサルト城は、逃げる者と追う者、戦う者や抗う者による阿鼻叫喚の巷と化したのだろう。
 焦土となった状況から当時の悲惨な様子を容易にうかがい知ることができた。
 建物は原型を留めないほど損壊し、1か月以上経過した今もなおところどころに黒煙が立ち昇っていた。
 鼻を突くような焦げ臭い匂いが、城内を探索するシャムたちを苦しめた。

「うへ~、くせえな~、おいらの鼻がひん曲がってしまいそうだ」
「シャム殿、これは想像以上に酷いですなあ」
「ううっ、喉がいたい。みんな、口に布をあてたほうがいいわ」

 至るところに遺体が横たわり目を覆いたくなる光景がつづく。
 中には石化してしまっている遺体もあって、メドゥサオールの恐ろしさをまざまざと見せつけられるようであった。
 そんな中シャムは叫んだ。

「ユマ姫~! おいらはシャムだ~! 助けに来たぞ~!」
「カーラ国のモエモエだよ~、出てきて~♪」
「ユマ姫様! ロマンチーノ国の神官イヴです! どこにいるのですか~? ねえシャム、姫様の間はどこかしら、場所は覚えてる?」
「うん、確か、あの正面の建物を入って右に曲がった所だったと思うんだけどなあ」
「長い間会ってなくても、お医者さまごっこをした間柄ならきっと確かだわ」
「むむ、何か一言多いような……」

 朽ち果てた建物に入ろうとしたそのとき、どこからともなく物悲しげな笛の音色が聞こえてきた。
 
「あれ? 笛の音だ……」
「シャム殿、あれは横笛の音色ですな。こんな場所で一体誰が吹いているのでしょうね?」

 そのときエリカが右の方向を指し示した。

「ほら見て。向こうに女の子がいるわ。あの子が吹いているみたい。行ってみましょう」

 シャムたちは笛を吹く少女に近づいた。
 イヴがそっと尋ねた。

「ねえ、どうしてそこで笛を吹いているの?」

 少女はシャムたちにまだ気がついていないようだ。
 突然イヴに声をかけられ、驚く仕草をみせた。

「ごめんね。恐がらなくてもいいのよ。私たちは悪い者ではないので」

 イヴの柔和な表情に少女は少し安堵の色を浮かべたが、依然警戒の姿勢を崩していない。
 スンダーラがにっこりと微笑み語りかけた。

「おじさんたちは君の味方だよ。安心してね」

 スンダーラがやさしく語りかけても、少女の脅えた表情は一向に変わらなかった。
 少女はポツリとつぶやいた。

「こわい……」
「おじさんが恐いの?」
「その子が恐がる気持ち、ヒトミ的には分かる気がするな~。だって族長は良い人なんだけど、顔が恐いもの~」
「なんと! 私の顔が恐いですって? ゴブリン族の中では私は美男子で通っているのですぞ!(プンプン)」

 エリカがなだめるにかかる。

「まあまあ、器が大きいと評判のスンダーラ族長がそんなことでお怒りになるなんて似合いませんわ」
「え? いや、私としたことが。ははははは~」



第9章「黒煙の城」 第2話

 エリカが少女にそっと聞いてみた。

「笛が上手ですね。誰かに聴いてもらいたくて吹いているのですか?」
「うん、お兄ちゃんに聴いてもらいたくて吹いているの」
「お兄様はどこにいるのですか?」

 エリカは辺りを見回した。
 風の音が聞こえてくるだけで、周囲に人の気配はなかった。

「お兄ちゃんは……お兄ちゃんは……wわ~~~ん!」
「あぁ、ごめんなさいね! もしかしてお兄様は亡くなられたのですか……?」
「wえ~~~ん! そうなの。お兄ちゃんは魔物と戦って死んだらしいの」

 シャムがやさしく声をかけた。

「それでお兄ちゃんの魂を慰めるために、笛を吹いていたの?」
「グスン……そうなの」
「お兄ちゃんの遺体はどこにあるの?」
「何度も来て探してみたんだけど見つからないの……」
「そうだったんだ。でもまだ死んだと決まったわけじゃない。きっとどこかで生きているよ。だから元気を出して!」

 少女は流れる涙を拭いながら小さくうなづいた。
 イヴが少女にたずねてみた。

「ねえ、お名前は何ていうの?」
「私はチルチル~♫」
「え? チルチルっていうの? もしかしたらチル女神様の親戚筋かなあ?」
「それってだぁれ?」
「どうも親戚じゃないみたいね。チルチルちゃんはいくつ?」
「15才♫」

 モエモエとエリカが会話に加わってきた。

「きゃあ、若い~♪」
「モエモエさんだって若いじゃないですか」
「でも、私の方がお姉さんだもんね♪」

 ヒトミが神妙な顔でチルチルを見つめている。

「チルチルちゃんのお兄さんはここの兵士だったの?」
「うん、そうなの♫」
「私とよく似た境遇なのね……」

 ヒトミは今回の戦闘で無念の死を遂げた恋人を思い出し思わず涙ぐむのであった。

「だいじょうぶ?♫」
「うん、ごめんね。励ますつもりなのに私が泣いちゃって……」
「ムーンサルトをこんな酷い目にあわせるなんて酷すぎるよ♫」
「そのとおりだよ。絶対に許せない」

 チルチルはヒトミと会話をしているうちに、また悲しくなってきたようで頬に一筋の涙が伝った。
 すぐさまイヴが慰める。

「チルチルちゃん、元気を出して」
「うん♫」
「お兄さんのことも気になると思うけど、早くおうちに帰らないとお父さんやお母さんが心配するわ」
「いないもん……」
「え? いないってお兄さんと二人暮しだったの?」
「そうなの♫」
「ひとりぼっちになってしまったのね……可哀そうに……」

 ヒトミが驚くべき提案をした。

「ヒトミ的には、私たちといっしょに旅をするというのはどうかしら?」

 ヒトミの提案に難色を示すシャム。

「よい提案だと思うけど、おいらたちは毎日魔物との戦いだし危険すぎるんじゃないか。チルチルちゃんはまだ15だろう? 敵と戦うのもきついし」

 ヒトミが意気消沈する。

「うん、確かにシャムのいうとおりかもね」

 チルチルは同行することを望んでいるようだ。

「チルチルだって戦えるもん~♫」

 エリカが尋ねてみた。

「チルチルさんはどんな武器で戦うのですか?」
「え? 武器? そんなの持ってないよ~♫」
「もしかしたら魔法が使えるのですか?」
「魔法? ぜ~んぜん♫」

 落胆の色を隠せないエリカ。
 旅に連れていくための理由を一つでも見つけたいようだが何も見つからない。

「シャムさん、残念ですがこの子は戦いにはちょっと向いていないようですね」
「そうかあ、仕方ないなあ。じゃあこうしよう。おいらたちがチルチルの住んでいる街まで送っていってあげるよ。それでいいだろう?」
「やだ。チルチルもいっしょに旅をしたい♫」
「こりゃまいった」
「困りましたね」

 イヴがずばりと提言した。

「答えは出たようね。ここでチルチルちゃんが現れたのも何かの縁だと思うの。連れていってあげようよ」
「よし、決まった! みんな、いいな?」
「wわ~い! うれし~ピョン♫」
「よかったですね、チルチルさん」
「モエモエだよ、よろしくね~♪」
「私はヒトミ、仲良くしてね!」
「顔は恐いがすこぶる性格のよいズンダーラですぞ。よろしくな」

<チルチルが仲間に加わった!>

 チルチル 街少女 HP 120/120 MP 0/0

 もしかしたらチルチルがユマ姫のことを知っているかもしれない。

「チルチル、ちょっと聞きたいんだけど、ユマ姫の行方を知らないか?」
「ユマ姫様? すごくきれいなお姫様だよ~。でもムーンサルト城が魔物に攻められて以降のことは知らないわ」
「そうか、残念……」
「でもきっとどこかで生きてらっしゃるわ! そんな気がするの~♫」
「そうだな! ところでチルチル、ユマ姫って現在そんなにきれいになっているのか?」
「はにゃ……? ユマ姫様の顔も知らないのに探してるの? 変なの~♫」
「実は幼馴染なんだ。もう5年ほど会ってないけどな」
「もしかしてシャムさんって国王の親戚なの?♫」

 イヴが話に割って入った。

「親戚じゃなくて、実はシャムはね……」
「イヴ、そのことはいいって……。チルチル、おいらは魔物の大ボスを倒すために旅をしているんだ~」
「ふ~ん、すごいんだね! 私も強くなっていっしょに倒したい♫」
「こりゃ頼もしいな~、だけど無理すんなよ~」

 エリカがムーンサルト城のことで提案をした。

「チルチルさんはユマ姫様の消息を知らないようですし、もしよかったらユマ姫様が暮らしていたお部屋に行ってみませんか?」



第9章「黒煙の城」 第3話

シャム 勇者 HP 280/280 MP 0/0
イヴ 神官 HP 220/220 MP 220/220
モエモエ 魔導師 HP 170/170 MP 250/250
エリカ ウンディーネ女王 HP190/190 MP 260/260
ヒトミ 踊り子 HP 250/250 MP 0/0
スンダーラ ゴブリン族長 HP240/240 MP 70/70
チルチル 街少女 HP 120/120 MP 0/0

「うん、おいらもそれがよいと思う、すぐに行こう!」
「ヒトミ的に行くことは賛成なんだけど、城内がかなり焼け焦げているようだけど、お姫様の部屋が分かるかしら?」
「シャムの5年前の記憶に頼るしかないね♪」
「ざっくりだけど憶えているから、何とか行けるだろう」

 スンダーラが剣のグリップを握りしめた。

「万が一敵が現れたら、私が叩き切りますからご安心を。イヴ殿は私の後方で守りを固めてください」
「族長は頼もしいわね」
「いいえ、それほどでも。えへへへ」

 シャムたちは廃墟と化した建物の中に足を踏み入れた。
 中は薄暗く湿り気を帯びて陰鬱とした空気で満ちている。
 あちこちの柱や壁、天井部分が崩れ落ちており、戦禍の激しさを物語っている。
 また至るところに力尽き倒れていった兵士たちの骸が転がっていた。
 先頭を行くシャム、ズンダーラが思わず声をあげた。

「うわ~、これは思った以上にひどいなあ」
「むむっ、これはむごい。きっと寝込みに不意打ちを食らったのでしょうね。鎧を着けていない寝間着姿の兵士が多いようです」
「かわいそうに……悔しかっただろうな」
「さぞや無念だったことでしょう」

 イヴがチルチルを気遣う。

「チルチルちゃん、だいじょうぶ? 怖くない?」
「うん、だいじょうぶだよ~♫」
「一人でお兄さんを探していたくらいだから、チルチルちゃんって強い子なのね」

 回廊を進むとまだ昼間だというのに外からの明かりが途絶え、内部はかなり暗く感じられた。

「ユマ姫の部屋はもう少し行ったところにあったと思う。この辺は光が入らなくて暗いなあ、足元がぼんやりとしか見えないや」
「誰か松明を持っていませんか?」

 エリカが尋ねるとヒトミが答えた。

「松明持っているよ~。すぐに灯すね」

 松明が灯され、辺りが急に明るくなった。
 しかし皮肉にも明るくなったことで城内の惨状が余計に際立つ結果となってしまった。

「ユマ姫~どこにいるんだ! いるなら返事をしてくれ!」
「ユマ姫様~!」「ユマさ~ん!」

 ユマ姫の名前を呼びながら姫の部屋に近づくシャムたち。
 城内の悲惨な状況に鑑みると、かんばしくないことばかりが浮かんでくる。
 シャムたちは廊下から大広間を通り抜け、正面にある部屋の前に立った。

「ここがユマ姫の部屋だったと思う。ユマ姫いるのか~~~! おいらだ! シャムだ~~~!」
「ユマ姫様、ご無事ですか!?」「ユマさん!」

 シャムは扉を激しく叩いた。
 だけど中からは物音ひとつしない。
 扉には鍵がかかっていて開かない。

「くそ!鍵がかかっている!」

 シャムは扉のノブを廻すが開かない。
 モエモエが魔法を唱えた。

「ケラヒヨアド、ケラヒヨアド! ファイアボール!」

 モエモエの手のひらから火の玉が発射された。
 扉の取っ手付近をファイアボールが貫通し鍵が壊れてしまった。

「さすがモエモエ、すごいぞ!」
「てへっ、できるだけ小さく穴を開けたからね♪」

 シャムを先頭に室内に入る仲間たち。
 室内に人影はなく不気味なほど静まり返っている。
 
「ユマ姫はどこに行ったのだ……」
「ユマ姫様……」「誰もいないわ……」

 室内は争った形跡はなく物色された様子もない。
 わずかに机に飾られた花が萎れていただけで、ユマ姫が愛用していたであろう鏡台や化粧道具も整然とした状態で残されていた。
 壁には美しい女性の肖像画が1枚飾られていて、何かを訴え掛けるような表情でシャムたちを見つめている。

 呆然と立ち尽くすシャムたち。
 涙ぐむモエモエにエリカがそっと肩に手を差し伸べた。

「どこに行ったの? ユマ姫……」
「だいじょうぶ、きっとどこかへ避難していると思いますよ」

 ヒトミは顎に手を当て、イヴは首をかしげて何やら考えている。

「ヒトミ的には悪いヤツラに連れ去られたのではないかと思うの……イヴさんはどう思う?」
「う~ん、もしそうだとしたら、どうしてユマ姫を連れ去る必要があったのかしら」
「すごく可愛かったからじゃないのかな?」
「それだけの理由で連れて行くかしら? 城には可愛い子がほかにもいると思うし」
「それもそうね。何か深い訳がありそう」

 ズンダーラが城内の捜索を提案した。

「もう少し城の中を探してみませんか。もしかしたら他の部屋に閉じ込められている可能性もあると思うので」
「そうね。他の部屋も探さなくては」

 イヴを先頭に部屋を出ようとしたそのとき、バタンッと音を立てて扉が閉じてしまった。

「きゃっ! どうして閉まったの……!?」

 動揺の色が隠しきれないイヴ。
 先ほど入室時、モエモエの魔法で鍵を壊したはずではないか。
 鍵以外の何か強い力が扉を封鎖していることになる。
 イヴは青ざめた。

「どうしたんだ、イヴ?」
「扉が勝手に閉じてしまったの。鍵を壊したはずなのに扉が開かないの」
「扉の向こう側で誰かが押さえているんじゃないのか?」
「壊れたところから覗いてみたけど誰もいないの」

 エリカの表情が険しくなった。

「もしかしたら何か魔力が働いているかもしれません。皆さん、注意してください!」
「おいらに任せろ」

 シャムはイヴをしりぞけて扉を押してみた。
 やはり扉は開かない。

「どういうわけだ……!?」

 次の瞬間、突然松明の灯かりが消え、部屋が真っ暗になってしまった。

「きゃあ! 真っ暗になったわ!」

 モエモエが叫ぶと同時にスンダーラが剣を構えた。

「むっ? 何か妖気が漂っておりますぞ! 皆さん、気をつけてください!」
「もしかして魔物のしわざですね?」

 エリカはそう言い放つと、呪文を唱える体勢を整えた。
 すると壁の向こうから女性の弱々しく悲しそうな声が聞こえてきた。

『どうか……ユマ姫様を助けてください……』



第9章「黒煙の城」 第4話

 シャムが咄嗟に身構えた。

「誰だ!?」
『私はユマ姫様の侍女をしているソニアと申します……』

 暗闇の中でどこからともなく聞こえてくる声に、チルチルやモエモエも戦々恐々としている。

「うぇ~ん、こわいよぉ……」
「声はどこから聞こえてくるのかしら?♪
「絵が飾ってあった辺りから聞こえてくる気がするの♫」
「絵画がしゃべっているっていうの? そんなこと考えられない♪」

 シャムが声の主にたずねた。

「おいらはユマ姫の幼馴染でシャムという。ユマ姫を探しに来た。ユマ姫は今どこにいるんだ?」
『どうか、どうかユマ姫様を助けてください。ユマ姫様は呪われし女メドゥサオールに連れ去られました。その後の消息は残念ながら私にも分かりません。しかし必ずや生きておられると信じています……』
「どうして生きていると言えるのだ?」
『はい、ユマ姫様には凄まじい魔力があり、この世でたった一人『天空魔法』が使えることはご存知でしょうか?』
「いや、知らない」

 突然エリカが驚嘆の声をあげた。

「なんですって!?『天空魔法』と言えば神をも倒すといわれている幻の魔法ではありませんか?」

「なんだって? ユマ姫にはそんなすごいパワーがあったとは……」
『メドゥサオールは最初、地獄の支配者となることを目指しました。ところが地獄では魔王ルシファーがすでに君臨しており絶大な力を誇っています。そこでメドゥサオールは魔王ルシファーと争うよりも、絶対的君主がいない地上を制覇することを考えました。ところが地上を攻めれば必ず神が人々に味方するだろうと予測ができます。すなわちメドゥサオールにとっては神は最大の宿敵であり、必ず倒さなければ地上征服は叶わないのです。しかしメドゥサオールがいかに強くても簡単に神を倒すことはできません。そこで考えたのが『天空魔法』の使い手であるユマ姫を味方にすることだったわけです』
「私は神官のイヴといいます。メドゥサオールの目的は理解できました。つまりユマ姫を誘拐するためにムーンサルト城を攻撃したということですね」

 涙ぐむチルチルをイヴとヒトミが激励する。

「wうっ……ひどい……そのためにムーンサルト城で罪もない人をたくさん殺すなんて酷すぎるよ……」
「本当に酷いよ。絶対に許せないわ」
「チルチルちゃん、元気を出して。命をかけて戦ったお兄さんや私の恋人のためにも、ユマ姫様は絶対に助けなくてはいけないよ」

 声の主ソニアがシャムたちに謝意を示した。

『皆さん、ありがとうございます。私の願いを聞いてくださってとても嬉しかったです……』

 皆が一番知りたかったことを、シャムがズバッと尋ねる。

「ところでソニアさん、どうしておいらたちに姿を見せないの?」
『実体がないからお見せできないのです。私はユマ姫様を助けようとして敵に殺されたのです……』

 スンダーラが目を丸くしている。

「なんですと! ということはもしかしたらあなたは幽霊ですか!?」
『はい、そういうことになります』

 ヒトミが絶叫しチルチルがそれを宥める、というまるで正反対の光景が見られた。

「ぎゃあああ~~~~~! 私は人間や怪物は怖くないんだけど、幽霊は苦手なの……(ブルブル)」
「ヒトミさん、大丈夫だよ、私がついてるから♫」
「むっ、3つ年下のあなたに言われたくないもん!」
「wえ~ん! ヒトミちゃんにきつく言われた~」

 シャムが割って入った。

「ヒトミ、年下のチルチルを泣かせちゃダメだろ~」
「そんなことを言っても怖いものは怖いんだから」

 エリカがヒトミをじゅんじゅんと諭す。

「でもね、ヒトミさん、幽霊といってもソニアさんは立派な方ですよ。ユマ姫様を守るために身を挺して殉じられたのですから」
「私が間違ってたよ。ごめんなさい、ソニアさん」
『いいえ、謝るのは私の方です。皆様を驚かせてごめんなさいね。姿のない私は壁にかかった絵画を媒体として喋っているのです』

 シャムが壁の絵画に興味を示した。

「壁の絵はいったい誰なの?」
『ムーンサルト家の祖先で、ユマ姫様の6代前の王妃様です』
「そうだったのか。ソニアさん、心配しなくていいよ。おいらたちが必ずユマ姫を助け出して見せるから」
『うううっ……そう言ってもらえるととても嬉しいです。どうぞよろしくお願いします』

 イヴがソニアを慰める。

「きっと助け出すわ。ソニアさん、だから安心して天国に行ってね」
「う、う、う……ありがとうございます。では私はこれにて消えます。天国から皆様のご活躍をお祈りしています……では……」

 その言葉を最後に、謎の声は途絶えてしまった。
 さらに薄暗くなっていた室内がパッと明るくなった。
 一同が壁の肖像画に視線を移すと、女性の目から一筋の涙がこぼれているのが分かった。



第9章「黒煙の城」 第5話

 たとえ幽霊の姿になってもユマ姫の救出を哀願するソニアの心情を想い、モエモエとイヴの目頭は熱くなった。

「ソニアさんの執念ってすごいね。自分が死んでも私たちにユマ姫を助けてほしいと頼んでくるなんて……♪」
「そうね。ソニアさんのためにもユマ姫を絶対に助け出さなくてはね」

 ユマ姫はメドゥサオールに連れ去られたことが明らかになった。
 いったいどこに連れ去られたのだろうか。
 いずれにしてもムーンサルト城にいないことは確かだ。

「よし、みんな、じゃあ戻るぞ~!」
「次に目指すのは港町ジャノバですな、シャムどの」

 そのときチルチルが何かに気づいた。

「あれ? 肖像画の下になにか落ちている♫」
「あっ、これって地図ではありませんか?」

 落ちていたものをイヴが拾いあげる。

「まあ、ペルセ島の地図じゃないの。これは助かるわ」
「次はペルセ島に行きなさいという暗示かもしれないね♪」
「そうね。きっとソニアさんが私たちに道しるべを残してくれたんだわ。ソニアさん、ありがとう、地図をもらっていくね」

 シャムたちは『ペルセ島の地図』を手に入れた!

「さあ、港町ジャノバに行って、いよいよペルセ島に渡るぞ~!」
「わ~い! 皆といっしょに旅ができる~ピョン!」
「おいおい、遊びに行くんじゃないんだぞ」
「シャムさん、いいじゃないですか。一人ぼっちのチルチルちゃんに元気が戻ったのですから」
「うん、そうだな。でも早いうちにどこかで防備を揃えてやらないといけないな」
「港町ジャノバならきっと売ってますわ」

 グ~……

「今のは何の音?♪」
「wわっ、聞こえた? 私のおなかの音だよん~♫」
「チルチルちゃん、おなかが空いているのね?♪」
「うん、昨日から何も食べてないの……」

 チルチルは眩暈がするほどの空腹に耐えていたようで足元がふらついている。
 ヒトミがポシェットからパンを取り出した。

「こんな物しか残っていないんだけど、食べる?」
「wわ~い! パンだ! 食べてもいいの?♫」
「いいよ~、これを食べて元気を出してね」
「ありがとう~! いただきます~♫」

 モグモグ、モグモグ……

「かわいそうに、おなかが空いていたのね」

 イヴがチルチルに語りかけると、ヒトミがポツリとつぶやいた。

「飢餓って本当につらいよ。あまりおなかが空きすぎると、おなかの皮が背中へひっついてしまっているように感じるものね」
「ヒトミちゃんも今まで苦労してきたのね」
「うん、旅芸人も楽じゃないのよね。旅の途中ずっと街がない場合もあるし」

 シャムがみんなに声をかけた。

「ジャノバ港までかなり距離があるからちょっとだけ休憩していこう!」

 スンダーラはみんなから少し離れた場所に移動し、パイプを取り出し煙草に火を点けた。
 紫煙が一筋の糸のように流れていく。

⚔⚔⚔

 しばしの休息をとったシャムたちは、一路港町ジャノバへと向かった。
 ジャノバの周辺には肥沃でなだらかな丘陵に大穀倉地帯が広がり、冬でも暖かい気候と大海に臨んだ地理の強みを生かし、昔から海上貿易の要所として栄えてきた。
 そのためロマンチーノ大陸では王都ロマンチーノに次いで行商人の往来が激しい場所であった。
 丘陵を越えたシャムたちは日が暮れるまでにジャノバに到着していた。
 途中何度か魔物たちに遭遇したが、大した被害もなく切り抜けることができた。

「やっと着いたぞ~、おいらのはらはペコペコだ~」
「少し疲れました。酒でもいっぱいやりたいところですなあ」
「水筒の水がなくなったので喉がカラカラ。冷たいドリンクが飲みたいわ」
「ヒトミ的には美味しいお肉が食べたいな~」

 街に着くや否や、それぞれ好きなことを口走る仲間たちにエリカはちょっと困り顔。

「ふうむ、お酒が飲みたい人は酒場、ソフトドリンクが欲しい人はカフェ、ご飯が食べたい人はレストラン……う~ん、みんなの希望がバラバラじゃないですか。これは困りましたね」
「おいらたちの部隊は食事の話となると、どうも統一性がないなあ」

 モエモエが良い案が浮かんだようで、ポンと手を叩いた。

「簡単なこと。カフェバーに行けば全部あるよ~♪ ジェノバは大きな街だからたくさんのカフェバーがあるはず♪」
「ヒトミ的にそれは名案だわ」
「wわ~い、私、お酒を飲んでみたいでピョン♫」
「だめだめ、チルチルはまだ15才だろう? 18のおいらだってまだ飲めないんだから」
「つまんないなあ……」

 がっくりと肩を落とすチルチルをイヴが励ます。

「チルチルちゃんには美味しいケーキをご馳走してあげるよ」
「wわ~い♫」

 冷ややかな言葉をつぶやくヒトミ。

「まだ子供……」
「wん? ヒトミちゃん、何か言った?」
「別に……」

 シャムたちはまずは腹ごしらえをすることになった。
 ジャノバ港には多くの船が停泊しており、船乗りや商人たちが多く行き交い街が活気にあふれている。
 目抜き通りには、食料品店、宿屋、武器屋、防具屋、魔法屋、道具屋、洋服屋、酒場、レストラン、カフェ、カフェバーなどありとあらゆる店が軒を連ねていた。



第9章「黒煙の城」 第6話

 魔物たちは喧噪を嫌う。そのため繁栄している街に魔物が現れることは滅多にない。
 日頃戦いに明け暮れているシャムたちにとっても、隊列を組む必要もなく気軽に街を闊歩できる憩いのひとときだ。
 彼らの先頭にはヒトミが歩いていた。踊り子として各地を回っているのでジャノバにも詳しいようだ。

 ヒトミたちは大通りの左側にある武器屋と防具屋の間にある狭い路地を入っていった。
 花屋と雑貨屋を過ぎたあたりでヒトミがある看板を指し示した。

「あのお店なの、『Café Bar』って書いてあるでしょう? お酒も飲めるしお茶もできるの」

 イヴが看板を見つめている。

「店名がカフェバー『スターアックス』? どこかで聞いたことがあるような名前だわ」
「もしかしたら『スターダックス』のこと?♪」
「そうそう、それだわ」
「おいらは『スターセックス』がいいな~」
「もう、エロいことばかり考えて!」

 イヴが目を吊り上げると、モエモエがさらりととりなした。

「今日は雑魚魔物ばかりだったので、シャムがチンヒールを使う場面がなかったからね。それで欲求が溜まっているのよ、きっと♪」
「モエモエ、助け船をありがとう! 後でお礼にチンヒール注射を打ってあげるよ」
「調子に乗るな♪」

 チンヒールという単語がチルチルにとっては聞きなれない言葉だったので、それとなくモエモエにたずねてみた。

「チンヒールってなに?♫」
「え? うまく説明できないわ……イヴさん、説明よろしく♪」
「そ、そんな役目を私に押し付けるなんて」

 エリカが柔和な表情でささやく。

「私が説明しましょう。チルチルちゃん、チンヒールというのはね、戦闘でケガをした人の治療方法なんです。簡単にいうと魔法に似てるかな? でもそれを使えるのは世界でたった一人、シャムさんだけなのです」
「wへ~? チンヒールって治療なんだ! シャムってすごいんだね~♫」
「う、うん……まあな?」
「私が今度ケガをしたらかけてみてピョン♫」
「いやぁ……それはちょっと難しいなあ……」
「どうして?♫」

 口ごもるシャムにを見かねて、今度はイヴが毅然とした態度で語りだした。

「チルチルちゃんはまだ15才だから無理なの」
「いじわる~! 私を子供扱いしないでよ。私はもう大人だピョン!♫」
「大丈夫ですよ、チルチルちゃん。あなたがもしケガをしたらシャムさんはきっとかけてくれますよ」
「wわ~い! チンヒール、チンヒール~♫」
「エリカ、そんなことを言うと困るじゃないか」
「だってチンヒールはあくまで治療でしょう、シャムさん?」
「それはそうなんだけど、ヤバイんじゃない?」
「命あっての物種ですよ。私たちにとって体力保持が最優先ですよ~」
「分かったよ。エリカが言うとどこか説得力があるなあ」

 イヴとモエモエがご機嫌斜めである。

「ふん、どうせ私たちは説得力がないもんね」
「まあまあまあ」

 ズンダーラが仲裁する。

⚔⚔⚔

『Café Bar スターアックス』は煉瓦造りの年季が入った建物で、瀟洒な雰囲気を醸し出している。
 ぴったりと扉は閉じているが中に明かりが灯り、賑わっているのが一目で分かった。
 シャムたちが眺めていると1組、2組と客が店内に吸い込まれていく。
 シャムたちも誘われるように店内へと入っていくと、喧騒と酒の匂いがシャムたちを出迎えてくれる。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 出迎えてくれたのは店員はシャムたちと同年代らしき少女であった。
 笑顔が愛くるしい。
 ヒトミがたずねた。

「7人なんだけど、空いてる?」
「はい、円卓が空いております。どうぞご案内します」

 シャムたちが案内されたのは10人掛けの大きなテーブルであった。
 シャムたちは重い荷物を置きそれぞれが席に着く。
 イヴはすでにオーダーが決まっているようだ。

「私はキャラメルフラペチーノ。コーヒーフラペチーノにホイップクリームを乗せてキャラメルソースをたっぷりとかけたのが大好きなの。すごく甘いけど美味しいよ」
「ヒトミ的にはメイプルオートナッツスコーンを食べたい気分。飲み物はホワイトチョコモカかな」
「私は温かいラテにしようかな♪」
「おいらはカプチーノ。シナモンスティックでかき回すぞ~」
「シャムが言うと何故かいやらしい……♪」
「ん? そうか?」
「エリカさんは何を頼むの?」
「私はエスプレッソにします。それと小腹が空いたのでオレンジマフィンを1個注文します」
「私はバーボンウィスキーが飲みたいです。ナッツをおつまみにしようかな」

 チルチルは目を皿のようにしてメニューを覗いている。
 
「wわ~い、甘い物がいっぱいある~♫」
「チルチルちゃんはずっと壊れたムーンサルト城にいたから、まともなものを食べていないですからね。好きな物を好きなだけ食べてくださいね」
「うん! チルチルはティラミスが食べたい~♫ ドリンクはホワイトチョコだピョン♫」




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街少女チルチル


神官イヴ











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