ファンタジー官能小説『セクスカリバー』

Shyrock 作



<第6章「灰色の絶頂」目次>

第6章「灰色の絶頂」 第1話
第6章「灰色の絶頂」 第2話
第6章「灰色の絶頂」 第3話
第6章「灰色の絶頂」 第4話
第6章「灰色の絶頂」 第5話
第6章「灰色の絶頂」 第6話
第6章「灰色の絶頂」 第7話



<シャムたちの現在の体力&魔力データ>

シャム 勇者 HP 250/250 MP 0/0
イヴ 神官 HP 200/200 MP 200/200
モエモエ 魔導師 HP 150/150 MP 220/220
キュー ワルキューレ HP240/240 MP 40/40
エリカ ウンディーネ女王 HP70/180 MP 240/240
ヒトミ 踊り子 HP 220/220 MP 0/0

⚔⚔⚔



第6章「灰色の絶頂」 第1話

 過酷な鞭打ち拷問に耐え抜いたエリカは地下牢に投獄されていた。
 力を完全に奪われ、もはや抵抗する気力もなく手枷をはめられ、跪くような姿勢で天井から吊られている。
 身を包むものは全て剥がされ、粗末な貫頭衣のみを身に着けて、もはやウンディーネ女王として君臨した輝きは失われ生気も失せていた。
 貫頭衣から覗くほの白い太腿と鞭の痕と拷問の苛烈さを物語っていた。

 そんなエリカの囚われている地下牢に、バリキンソン男爵が数名の手下を引き連れてやってきた。
 口元には相変わらず不敵な笑みを浮かべている。

「エリカ女王様、鞭の味はいかがでしたか?」
「べつに……」
「ひょっひょっひょっ、まるでどこかの国のエリカ様の台詞のようですね。まだしゃべる気になりませんか? 早くしゃべった方が得だと思いますよ」
「ふん、誰があなたなんかに話すものですか……」
「そうですか、強情な人ですね。では仕方がありません。もっと厳しい拷問を味わっていただくことになりますがよろしいですね?」
「……」

 エリカはバリキンソンを冷ややかな目で見つめ、口を真一文字に結んだ。

(この先どんな拷問が待っていようとも、私は絶対に屈服しないわ……)

 エリカは心に誓った。
 悪魔に魂を売り渡し混沌の世界を招くような男に協力などしてなるものかと。

 まもなく二人の衛兵が長いロープの両端を持ち、そのうちの一人が壁に向かって歩き始めた。
 壁面までたどり着いた衛兵はリング状のフックにロープの端部を括りつける。
 ロープは股の高さに水平に張られていて、ところどころにこぶがある。こぶはロープの結び目のようだ。
 嫌な予感がエリカの脳裏をよぎった。
 肉体的苦痛はある程度耐えられても、女としての辱めだけは耐え難い。

 衛兵がバリキンソの前で何やら小さな壷を開けた。
 衛兵はにやりと微笑を浮かべると、壺の中に指を差しこみどろりとした白い液体をすくった。
 指先をロープのこぶの部分に付着させ丁寧に塗りだした。
 何度も指ですくっては8つほどあるこぶに塗っていった。
 液にまみれたこぶはてらてらと淫靡な光沢を示している。
 そんな衛兵の動作を不安そうな表情で見つめていたエリカがバリキンソンに尋ねた。
 張り詰めたロープの意図が理解できなかったのだ。

「男爵、私にいったい何をしようというのですか?」
「ひょっひょっひょっ、さきほど私はもっと厳しい拷問をと言いましたが、実はまったく逆なんですよ。エリカ女王様に大変喜んでいただけるものと思っております。まもなくその美しい肉体で味わっていただくことになりますがね」

 バリキンソンはそうつぶやくとにやりと何やら不気味な笑みを浮かべた。

「男爵、準備ができました!」
「よし」

 バリキンソンはエリカの顎を指で摘み上げて敢然と告げた。

「エリカ女王様、あなたのような忍耐強い女性を鞭で責めても無駄であることが分かりました。そんなわけでちょっと責め方を変えようと思うんですよ。そのお美しい肌をこれ以上傷めつけることは忍びがたいですからね。ひょっひょっひょっ……」
「それで私をどうしようと言うのですか?」
「忍耐強いあなたには、女としての本能に目覚めていただく責め方が一番だと気付きました。ひょっひょっひょっ、では早速そのこぶ付きのロープに跨って歩いてください。拷問名は『エリカ女王様の綱渡り』とでも名付けましょうかね」
「そ、そんなっ……! そんな破廉恥なことができるものですか!」
「あなたに拒否をする権限はありません。必ずやっていただきます。私や衛兵たちの見ている前でね。ひょっひょっひょっ」
「そんな酷いことを……」

 全裸の女性がロープを跨いで歩くとどうなるのか。
 その屈辱的な場面を想像するだけでもおぞましい。

「嫌です! 絶対に嫌です!」
「残念ですが『ペルセのエンブレム』の在り処を白状しない限り、この拷問を拒むことができません。では衛兵たちよ、エリカ女王様をロープにまたがらせてあげなさい!」
「ははっ!」
「いやあ~~~! やめてください~~~!」

 衛兵たちは抵抗するエリカの縄尻をつかんで担ぎ上げ、強引にロープにまたがらせてしまった。
 ロープは遠慮なく女の花園に食い込んでくる。

「ひい~~~……!」
「エリカ女王様、ルールを説明しましょう。このロープは20メートルあります。端まで歩き壁に到着するとバックで戻って来てください。途中で白状すればその時点で拷問は終了です。途中で白状しない場合は、私が終了の命令を出すまでロープ跨ぎは続きます。簡単にできそうに思うかも知れませんが、そんな生易しくはありません。途中に媚薬を塗ったこぶが8つあります。それらのこぶを越えなければなりません。こぶが割れ目に食い込むと媚薬が粘膜に付着し強烈な催淫効果が現れます。どれだけ耐えられるか楽しみにしていますよ。ひょっひょっひょっ」
「むむっ……」

「では衛兵、始めなさい!」
「はい、男爵!」
「いやぁ~~~~~!」



第6章「灰色の絶頂」 第2話

「衛兵、ちょっと待ちなさい」
「えっ?」
「ただ歩かせるだけでは能がありません。左右の足首を足枷でつなぐのです。そうすれば歩くスピードが遅くなります。せっかくの機会ですからエリカ女王様にはたっぷりと時間をかけて縄渡りを楽しんでもらいましょう」
「それは名案ですね! ではすぐに足枷を取り付けます」
「何をするのですか!? やめなさい!」

 エリカの両足首に鉄製の輪っかが取り付けられた。
 左右の足首が鎖でつながれているため、おのずと歩幅が小さくなる。

「それでいいでしょう。では歩かせなさい」

 バリキンソンの合図で衛兵がエリカの背中を小突いた。
 足首が拘束されているためうまく歩けない。
 よろけそうになったが、衛兵がエリカを支えた。

 エリカはようやく小さな一歩を踏み出した。
 恥肉にロープがグイと食い込んでくる。

「ううっ……」

 少しでもロープから逃れるため腰を浮かしてはみるが、つま先がようやく床に着く程度なので長くは続かない。
 もがけばもがくほど縄がグイグイと陰裂に食い込む。
 エリカは恥辱に震え、ようやく一つ目のこぶに差し掛かっていた。
 バリキンソンと衛兵たちは覗き込むようにして、エリカの綱渡りを見守っている。
 まもなく恥肉がこぶを呑みこむ。

「ああっ……!」

 先に進もうとするが、こぶが食い込んでいるため容易に前に進めない。
 もがいているうちに恥肉にこぶが完全に食い込んでしまった。

「あうっ……ううっ……」

 エリカの額から冷たい汗が滲んでいる。

「衛兵よ、エリカ女王様が『食込みが足りなくて物足りない』と言ってますよ。ロープを上に吊り上げなさい」
「へっへっへ、承知しました、男爵」
「あなたたち、変なことはやめなさい!」

 衛兵が下品な舌なめずりをしながら、ロープをグイッと引き上げた。
 一段と深くこぶが恥肉に食込む。

「うぐっ……うううっ……やめなさい……、もうこれ以上無理……!」
「ひょっひょっひょっ、こぶが食い込んで見えなくなりましたね。ロープを吊り上げたまま揺すってあげなさい」
「はい、男爵」

 ロープを揺する二人の衛兵。
 エリカは苦悶の表情を浮かべなにやら呻いている。
 拡げられた恥肉にロープが食い込み、こぶが木の実や蜜壺を擦り、花弁がロープを咥えこむ。

「んあぁぁ……」

 望まない快感をこぶに与えられ、エリカは哀しく声を上げる。
 爪先で床を蹴り前に進む。挟まれた肉にこぶが食い込んで、敏感な部分を抉っていく。

「うぐぐぐ……ひぃぃん……」
「ひょっひょっひょっ、おい、衛兵隊長! エリカ女王様の背後からオッパイをしっかりと揉んであげなさい!」
「はい! 喜んで!」

 ありがたい役目が回ってきて、嬉々としてエリカの乳房をつかみグイグイと揉み上げる衛兵隊長。

「ひい! いやあああ~~~!」

 グローブのような大きな手がエリカの豊満な乳房を包み込み、ギューギューと揉みほぐす。

「くうっ! ゆ、許してください、男爵! 後生ですからこんな酷いことはやめてください……」
「素直に『ペルセのエンブレム』の在り処を白状すれば、いつでもやめてあげますよ。少しは喋る気になりましたか?」
「言えません! それだけは絶対に言えません!」
「そうですか、残念ですね。こうなれば持久戦ですね。それ! もっとロープを吊り上げなさい! オッパイももっと激しく責めなさい!」

 乳房担当の衛兵隊長とロープ吊り上げ担当の両脇の衛兵は一段と派手な動作を見せた。

 ロープ綱渡り責めと乳房への責めは絶え間なく続いた。
 まもなくエリカに異変が現れた。
 蜜壺が燃えるように熱くなり、激しい疼きが襲ってきたのだ。

「ううっ……男爵……何かおかしい……ロープのこぶに塗ったあの液体は何だったのですか……?」
「ひょっひょっひょっ、やっと効き目が現れてきましたか? 教えてあげましょう。それは女性を悦ばせる媚薬なんですよ。セックスがしたくてしたくて堪らなくなるのですよ。ひょっひょっひょっ、痒ければロープをしっかりと咥えて擦れば少しは楽になりますよ。ただしこぶの部分は余計に痒くなるので要注意ですけどね。エリカ女王様がどれだけ腰を振るか、私たちが見守っててあげますよ。思う存分腰を振りなさい。ひょっひょっひょっ」
「ううう……か、痒い……、女にこんな責め方をするとは……ううう、何と卑怯な男……」
「何とでもいいなさい。言われても私は痛くも痒くもありませんからね。ひょっひょっひょっ」

 エリカの額からおびただしい汗の粒が溢れている。
 そして快感と苦痛とも判断しがたいような不思議な感覚に耐えきれず、エリカは大声でわめいた。

「お、お願いです……許してください……」
「ひょっひょっひょっ、さあ前に進みなさい。でも簡単に進めないように衛兵たちが邪魔をしますけどね」
「鬼っ! 私をこんなに辱めるなら、いっそ一思いに殺しなさい!」
「いいえ、それはできない相談ですね。あなたには『ペルセのエンブレム』の在り処を吐いてもらわなければならないのです。殺したりはしませんよ」
「ああ、熱い……あ、あっ……変、ああっ……! 身体が疼くっ! いやあ~~~……やめて! お願い、やめて! 私、おかしくなってしまいます! 許して~~!」
「男が欲しくなって来たのでしょう? でもあげませんよ。いくら疼いても我慢してもらいます。ひょっひょっひょっ」
「はあ、はあ、はあ……あぁ……もう、もう、ダメぇ~~~~……!」



第6章「灰色の絶頂」 第3話

 エリカは異常なまでの昂りを鎮めるため 夢中で腰を突き出しこぶに擦り付ける。
 だが皮肉なことにこぶに染み込んだ媚薬が一層恥肉を責め苛む結果となり、エリカは髪を振り乱し狂ったように悶えた。
 その壮絶な光景をバリキンソンや衛兵たちは固唾を飲んで見守っていた。
 男たちは股間を大きく膨らませ、目を爛々と輝かせている。

「あっ、あっ……つらい……狂ってしまいそう……あぁ……ダメ、ダメ……おかしくなる~~~!」
「さあ、歩け! 前へ進むのだ!」

 衛兵がエリカの尻を叩く。

「これこれ、乱暴はいけませんね」

 衛兵をたしなめるバリキンソン。
 やむを得ず前に進もうとするエリカだが、両足を拘束されているためまるで牛の歩みだ。
 恥肉がロープに擦れるうえ、目前にはおぞましいこぶが待ち構えている。
 目を瞑っておそるおそるこぶを渡ろうとするが、陰裂に深く食い込み快感回路が刺激され、ブルっと身体を震わせる。
 押し寄せる快感に堪えながらこぶを通過するが、かなり疲労をしており足元がおぼつかない。
 生まれて今日までこれほど長時間連続して快感を与えられたことがかつてあっただろうか。
 激しい疼きの中でエリカは歯を食いしばって懸命に耐えた。
 だが我慢には限界というものがある。
 身も心も困憊しきったエリカの意識は次第に薄れていた。

「ん? なんと情けない女王様だこと。5メートルも進まないうちに気絶してしまいましたか。もっぱら『絶頂こぶ綱渡り』を最後まで歩ききった女性などいませんがね。でもエリカ女王様にはゆっくり休んでてもらうわけにはいかないのですよ。衛兵! エリカ女王様を天井に吊るしなさい!」
「はい、男爵!」

 エリカは両手首、両足首をそれぞれ縛られ天井の滑車に吊るされた。俗にいう『たぬき縛り』だ。
 尻が剥き出しになり恥部が丸見えになるので、女性にとって最も屈辱的な縛り方といえるだろう。
 滑車がカラカラと乾いた音を響かせ、ゆっくりとエリカの身体を吊り上げていく。
 かなりきつい体勢だ。

 床から2メートルほどの高さに吊り上げられ、バリキンソンと衛兵はエリカを取り囲みあざ笑う。

「エリカ女王様、よくお似合いですね。まるで間抜けな雌タヌキですね。ひょっひょっひょっ」
「ぐぐっ……男爵め……」
「先程こぶ縄を渡っている時は挿入して欲しくて堪らなかったのでしょう?」
「な、何という下劣なことを……汚らわしい! 冗談は許しませんよ!」
「冗談ではありませんよ。その証拠に花びらから涎が垂れているではありませんか」
「むっ……」
「ひょっひょっひょっ、その怒った顔が一段と魅力的ですね。今からたっぷりと可愛がってあげますから楽しみにしていてください」

 バリキンソンの言葉に エリカは戦慄した。
 こぶ綱渡りで辱しめ、このうえまだどんな責めを加えてくるのだろうか。
 エリカは憂色を隠せなかった。

「さあ、衛兵たち! エリカ女王様をしっかりと可愛がってあげなさい!」
「それはありがたき幸せ!」
「まるで夢のような話です! では早速!」
「男爵は何と寛大な方だろうか! ご馳走になります!」
「エリカ女王様とあんなことやこんなことをできるとは……ううう、長く生きててよかった……」
「長くって、おまえはまだ25だろう?」
「いや、26」

 8人の衛兵たちが手を叩き歓喜の声をあげた。
 再び滑車が廻りエリカがゆっくりと下げられていく。
 衛兵たちの腰の高さで停止した。

「男爵、エリカ女王様の脚をもっと広げてもいいですか?」
「ひょっひょっひょっ、おまえたちの好きにしなさい」

 衛兵たちはエリカを拘束するロープを調節して大きくVの字に広げる。
 女に飢えた衛兵たちが無抵抗なエリカに牙を剥いた。
 次の瞬間、複数の野卑な手が美しい肉体に伸びた。

「きゃぁ~~~~~!!」

 乳房を揉みしだく者、恥肉の感触を愉しむ者、クリトリスを指で転がす者、尻をパンパンと打つ者、そして前方からは反りかえった男根をエリカの口に押し込む者と、周囲から一気に襲われエリカは気も狂わんばかりに喚いた。
 入れ替わり立ち代り、襲って来る野獣の群れに、エリカはただ歯を食いしばって耐えるしかなかった。
 野獣たちの荒々しい欲望は果てることがなく延々と続く陵辱の嵐。
 本来、野獣たちに対して濡れることなどあり得ないエリカであったが、おびただしい媚薬を塗り込められていたせいで、心ならずも蜜液を溢れさせていた。
 そして幾度となく絶頂を繰り返した。
 今まで味わったことのない不思議な絶頂感。
 崖から落下していくような感覚。
 呪わしき悦楽に溺れていく自己嫌悪。
 混沌と絶望感の中でエリカが見た光は、どす黒い灰色に包まれていた。



第6章「灰色の絶頂」 第4話

 エリカ女王を救出するためウンディーネの城を出発したシャム、イヴ、モエモエ、キューの4人は、すでにバリキンソンの館付近に到着し、草むらに潜み館内の様子を窺っていた。
 バリキンソンとははたしてどのような人物なのか? 館はどのような構造になっているのか? 手下はどのくらいいるのか?  すべてが謎に包まれていた。
 闇雲に突入して捕まってしまったら元も子もない。
 できる限り確かな情報が欲しかった。

「おいらたちの中で一番俊敏なのは誰だ? おいらは100だからあまり俊敏とは言えないな~ イヴはどのくらいだ?」
「私も110だからあまり変わらないわ。やっぱりキューちゃんかな? 150あるものね」
「にゃっ? 私は何をすればいいのかな?」
「うん、もう少し近くまで行って敵を偵察して来て欲しいんだ」
「にゅ~、いいよ~」
「キューちゃん、気をつけて行って来てね♪」

 その時、突然、若い女性の声が聞こえて来た。

「速さなら、あたし200あるよ~!」
「な、なにっ? いったい誰だ!?」

 シャムたちの前に現れたのはキリリとした顔立ちの大変美しい少女であった。
 いでたちからするとどうも踊り子のようである。

「あたし、怪しいものじゃないわ。ヒトミというの」
「ヒット・ミー? もしかしておまえはマゾっ子か?」
「にゃ? シャム、なによそれ。どうしてヒトミさんがマゾっ子なの?」
「だって、この子、今、『HIT ME』って言ったろう? HIT MEって『打って』ということじゃん」

 ドテンッ!
 イヴ、モエモエ、キューの3人がずっこけた。

 イヴが呆れた表情でシャムに言った。

「あのね~、この忙しい時につまらないジョークを言わないでくれる~?」

 さらにモエモエが追い討ちをかける。

「全くだよ、ちょっと冗談が過ぎない?」

 シャムがぼりぼりと頭を搔いている。

「ははは、ヒトミちゃん……って言うんだ。で、いったいどんな用かな?」
「あたしね、あなたたちといっしょに戦いたいの」
「ええ~! どうして!?」
「あたしね、あの人たちが眠り薬を飲まされて連れて行かれるところを見たの」
「あの人たちって?」
「ウンディーネのきれいなお姉さんとゴブリンのおじさんだよ」
「な、なんだって? どこで見たの!?」
「にゃっ、やっぱりエリカ女王とスンダーラ族長は捕らえられていたのね」

 モエモエがヒトミに尋ねた。

「ヒトミちゃんはどうしてそれを知っているの?」
「あたしは踊り子なの。あの館にウンディーネのお姉さんとゴブリンのおじさんが招かれているところに、余興としてあたしは踊ったの」
「ヒトミちゃんは踊り子なのね。ヒトミちゃん、二人が連れていかれた時のことを詳しく教えてくれる?」
「眠り薬で眠ってしまった二人は、バリキンソン男爵から命令を受けた手下たちがゴブリンのおじさんを牢獄に、ウンディーネのおねえさんを拷問室に連れて行ってしまったの。どちらも地下だと思うわ。館から出ても二人のことがすごく心配になって……その時あなたたちと遭遇したわけなの」
「うん、よく分かった。二人はおいらたちが必ず助ける。ヒトミちゃんも手伝ってくれるか?」
「うん、喜んで!」
「私はイヴというの。じゃあ早速だけど、私たちより俊敏なヒトミちゃんに偵察を頼んでもいいの?」
「偵察なんてしなくていいわ。実はあたし、あの館の図面をこっそりと盗んで来たの」
「わっ、すごい! それは助かるわ~」
「見せて見せて♪」

 ヒトミは古びた建物の平面図を広げて説明を始めた。

「ここが1階の大広間で……この隅に階段があって地下に続いているの。地下に牢屋と拷問室があって、たぶんここに閉じ込められていると思うの」
「これはでかしたぞ、ヒトミちゃん~! 図面があれば作戦が立てやすいぞ~!」
「これでエリカ女王やスンダーラ族長を助けられると思うわ」
「館を出るときにこっそりと盗んで来るってすごい! ヒトミちゃんって頭がいいね~♪」
「にゃっ、ヒトミちゃん、すごい~!」

 早速シャムたちは突入の打ち合わせを行なった。
 玄関は番兵が守っているため、手薄な勝手口から忍び込むことになった。
 ヒトミも案内人としてシャムたちに同行することに決まった。
 しかし戦闘になればおそらくヒトミも巻き込まれるだろう。

「ねえ、ヒトミちゃん、いっしょに戦うって言ってるけど、武器は何を持ってるの?」

 ヒトミは特にこれといった武器を持っていない様子だ。

「あたしは踊り子。武器は敵の攻撃を避けるスピードと廻し蹴りよ」
「ふうむ、いわゆる素手の格闘系戦士か。あまり無理はするなよ」
「任しといて。あとね、ナイフ投げだって上手いのよ~。シャムさん、よかったら標的になってみる?」
「いやいや遠慮しとくよ。それはそうと名前は呼び捨てでいいぞ」
「うん、分かった。それからね、あなたたち、もし怪我をしたときのために薬草は持ってる?」
「うん、多少は持ってるよ。ちなみにイヴは神官だからヒールも使えるからな」
「よろしくね、ヒトミちゃん、戦いで怪我をしても私が治してあげるから安心してね」
「ヒール魔法を使える人がいると安心だね。イヴさん、よろしくお願いします~」
「それにおいらはチンヒールという治療の特殊能力があるから安心して怪我をしろよ~」
「にゅ~! シャムったら~、怪我を推奨するなあ~!」
「推奨しているわけではないんだけど」
「チンヒールッて何? 魔法じゃないみたいだけど? 何かな?」
「それは救出後に教えてあげるよ。(シメシメ)」

 これからウンディーネたちの救出に向かうというのに、シャムの鼻の下は長く伸びていた。



第6章「灰色の絶頂」 第5話

 館の裏側に回り込み勝手口に到達したシャムたちが最初に見たものは、乳白色の骨が不気味に輝く3体のスケルトン兵であった。
 右手には剣をそして左手には盾を持ち勝手口附近を徘徊している。
 
 シャムたちは草むらに身を潜め突入の隙を窺っている。

「むっ、入口にアンデッドがいるぞ、油断するなよ」
「にゃっ、アンデッドは剣で突いてもダメージが少ないから嫌だなあ。イヴさん、何か秘策はある?」
「以前ロマンチーノの司祭からアンデッドは首を切れば倒せると聞いたわ。それから白魔法『ホーリーウィンド』も効くし、火の魔法も効果的なんだって。だから私とモエモエちゃんが後方支援するから大丈夫」
「火の魔法なら私に任せておいて♪」

 今回臨時で仲間に加わったヒトミも威勢がよい。

「あんなへぼスケルトンなんてあたしの廻し蹴りでイチコロよ」

 気合十分の仲間たちに対して、ついにシャムが号令をかけた。

「それじゃおいらが先陣を切るからな! みんなは後につづけ~!」
「は~い!」
「にゅ~♪」
「いつでもいくわ♪」
「あたしも行くよ~!」

 日頃は女性陣に強く言えなくて甘々だったり少々頼りない一面のあるシャムだが、ひとたび戦闘に突入すると冷静沈着で勇猛果敢な男子に一変する。
 そんなシャムだからこそ、いっしょにいて居心地がよいと思える一方、戦術に関しては全幅の信頼を寄せているのかも知れない。
 勇者シャムは聖者の剣を振りかざし、スケルトン兵に切りかかった。
 つづいて戦闘力にすぐれたキューとヒトミが他のスケルトン兵に攻撃をしかけた。
 突然の攻撃に慌てふためくのは3体のスケルトン兵。
 一度はシャムの剣を盾で防いだスケルトン兵だったが、再び剣がきらめくとその首が胴体から離れてしまった。
 スケルトン兵は断末魔の叫びをあげることもなく、一撃を受けた後も歯をカタカタと鳴らしているだけであった。

 キューが切り込んだスケルトン兵はキューの攻撃を躱しきれず左腕が吹っ飛ぶも、もう一方の手で剣を振りおりしてきた。
 がっちりと盾で受け止めるキュー。
 その背後でモエモエが火の魔法『ファイアストーム』の呪文を唱える。

「セクツシヤモヲクア~ヨラシハノオノホ!」

 火柱が立ち、スケルトン兵を炎が包み込んだ。

(カタカタカタカタ……!)

 スケルトン兵はもろくも崩れ落ちてしまった。

 残ったもう1体のスケルトン兵に対して、目にも止まらぬ速さでヒトミの回し蹴りが首に炸裂する。
 蹴りを食らったスケルトン兵の首があっけなく胴体から分断されてしまった。
 一瞬のことであったが、ヒトミの股間は180度以上開脚するというたぐいまれな柔軟性を見せていた。
 瞬く間に3体のスケルトン兵が倒されてしまった。
 イヴがちょっと不満そうにしている。

「あらら……私の出番がなかったよ~」

 すぐにモエモエが慰める。

「体力が温存できてむしろよかったじゃない♪ 中にはもっと強い敵がいるだろうから、イヴさんには後でたっぷりと活躍してもらわなくては~。それにしてもみんな強いね♪」
「うん、モエモエちゃんのいうとおりだね。ところでヒトミちゃんはさすが踊り子さんだね、身体がすごく柔らかくてびっくりした!」
「身体の柔軟性だけは誰にも負けないわ~」
「おしゃべりはその辺にして、先を急ぐぞ」

 シャムを先頭に隊列を組んで館の中へと入っていく。
 途中でどんな仕掛けがあるか分からないので用心しなくてはならない。
 一行が足を忍ばせて廊下を歩き始めたところ、急にシャムが鼻のむず痒さに襲われ……

「ハッ……ハッ……ハッ……」
「にゃっ! くしゃみをしてはだめぇ~!」

 シャムの一番近くを進んでいたキューが慌ててシャムの口を塞ぎにかかったが……

「は、は、はっくしょん~~~っ!」
「にゃっ、遅かったあ~!」
「シャムだめじゃないの~」

 シャムがくしゃみをしたその瞬間、シャムの股間に手を宛がっている者がいた。
 薄暗くてはっきりとは見えないがヒトミのようである。
 モエモエがふ尋ねてみた。

「ねえ、ヒトミちゃん、シャムのお股に手を当てて何をしているのかな?」
「これはくしゃみ防止のおまじないなの。あれ? みんなはこのおまじないを知らないの?」

 シャムは呆然として突っ立っている。
 いや、チンは立っていない。
 イヴ、モエモエ、キューの3人は声を揃えてヒトミに告げた。

「知らん」

 ヒトミは自分以外の女性たちに否定され、すっかり狼狽している。

「え? みんな、小さい時、このおまじないをしなかった?」
「したことがない」
「知らない」
「初めて聞いた……」
「あははは……そうなんだ……ははははは……」

 白けた空気感にヒトミはただ笑ってごまかすしかなかった。
 この時、ヒトミの額に冷たい汗がつ~っと流れるのを見たものは一人もいなかった。

 おもむろにシャムがニッコリ微笑んでつぶやいた。

「ああ~、気持ち良かった~」
「ええ? シャム~、気持ちよかったの?」
「にゃ?」
「もしかしたら女の子にチンを触られることがシャムの治療法だったりして♪」
 
 きりりと表情を引き締めシャムがささやく。

「さあ、廊下には敵がいないし、その階段から地下に下りるぞ!」

 その時イヴは悟った。仲間の緊張をほぐすため、シャムはわざとヒトミのまじないのことを誇張したのだと。

(これが真のリーダーの姿なんだわ……)

「敵は思ったより少ないみたいだね♪」
「にゃっ、いや、もしかしたら何か罠が仕掛けられているかもしれないよ」



第6章「灰色の絶頂」 第6話

 シャムたちは地下に通じる階段を、猫のように足音を忍ばせ下りていく。
 階段を下りるやいなや2体のスケルトン兵が先頭のシャムに襲いかかってきた。
 シャムの剣が一閃すると1体のスケルトンが呆気なく倒れ込んだ。
 今度は後方からイヴが白魔法『ホーリーウィンド』の呪文を唱える。
 2体目のスケルトン兵は神聖な霊力の前に霧と化してしまった。

 地下牢に通じる通路をさらに進むと、今度は3人の衛兵が現れた。
 槍を持った衛兵、剣を構えた衛兵、アックスを握った衛兵、3人が一斉に先頭のシャムに向かって襲いかかってきた。

「うへ~っ! 3人同時に攻撃してきやがった~!」

 剣で向かってきた衛兵を一刀で片付けたあと、剣で衛兵の槍をがっちりと受け止めるシャム。

「にゃっ! 2人目は私に任せておいて!」

 シャムの陰から突然踊り出たキューは槍の衛兵を一撃で倒してしまった。
 シャムたちの圧倒的な強さを見せつけられて怯む3人目の衛兵めがけて、モエモエがファイアの魔法を放つ。
 メラメラと赤い炎が衛兵を包み込んだ。

「うわっ! 熱っ! 助けてくれ~~~!」

 火が着いたまま逃げ惑う兵士。
 
 その後も襲ってくる衛兵たち次々倒し通路を進んでいくシャムたち。
 牢獄を一つ一つ確認するが、エリカ女王の姿は見えない。
 その時、廊下中程にある薄暗い牢獄の中を覗き込んだイヴは突然声をあげた。

「あっ! そこに閉じ込められているのはもしかして!?」
「誰じゃ……?」

 牢獄の中から男の声がした。
 イヴが尋ねてみた。

「そこにおられるのは、もしかしたらスンダーラ族長ではありませんか?」
「おお、そうじゃが。あなた方は?」
「私はイヴと言います。あなたとエリカ女王を助けるためにやって来ました。詳しい説明は後からしますので、先ずはここから出てください!」

 鍵は倒れた兵士から奪っていたので、牢獄の扉は容易に開けることができた。

「ありがとうございます! エリカ女王はどうなさったんじゃろう? あの方が心配じゃ」
「エリカ女王がどこに捕えられているか知りませんか?」
「おそらく一番奥の牢獄じゃろう。早く助けてあげてください!」
「分かりました! すぐに助けます!」
「待ってくれ! 私もいっしょに戦うぞ!」

 スンダーラは倒れている衛兵の剣を奪うとシャムたちの隊列に加わった。
 すでに敵の攻撃は緩んでいたので一番奥の牢獄へは容易にたどり着くことができた。

 スンダーラの予測は的中していた。
 一番奥の牢獄の中にはバリキンソン男爵と数名の衛兵が待ち構えており、その後方にはエリカ女王が吊るされていた。
 館内に配備している衛兵やスケルトン兵がシャムたちの進入を食い込めると高をくくっていたのか、あまりに早いシャムたちの襲来に唖然としている様子であった。
 哀れにもエリカ女王は一糸まとわぬ姿で、身体中に生々しい傷跡がありかなり衰弱している様子が窺えた。
そして身体中に生々しい傷跡が残っていた。
 そんなエリカ女王の姿を見て最初に怒ったのはスンダーラであった。

「おのれ、バリキンソンめ、絶対に許さぬ! 早くエリカ女王を解放しろ!」

 バリキンソンはスンダーラの憤怒を鼻でせせら笑いながら、剣をエリカ女王にかざした。

「あなたたちが噂の勇者とお仲間さんですか? お待ちしておりましたよ。ひょっひょっひょっ」
「そうとも! おいらがシャムだ! 早くエリカ女王の縄を解くんだ!」
「それは無理な注文ですね。エリカ女王様は大事な人質です。私たちに手出しをすると女王様の命はないですよ。さあ、早く剣を捨てないさい!」

「剣を捨てろと言われても、私は初めから剣を持ってないの~~~!」

 叫んだのはヒトミであった。
 あっという間に天井ギリギリまでジャンプをする。空中飛び膝蹴りを浴びせようというのか。
 ヒトミの上半身はブラジャーのみで、下半身は腰に着けた金輪上のアクセサリーから股間にかけて長い布を通し、前後に垂らしただけの衣装なので、ジャンプをすると当然前後の布はまくれあがり、内部のショーツが丸見えになってしまう。

 その一瞬をバリキンソンをはじめとする男たちは当然見逃さなかった。

「おおっ! ふんどしの中身が見えましたね!」
「パンツを穿いているぞ! 純白だった~!」
「絶景じゃ~!」
「や~ん、覗くのはルール違反だよ……」

 飛び膝蹴りを途中で取り止めたヒトミが頬を染めている。

 バリキンソンと衛兵たちの様子を見ていたキューがぼそりとつぶやいた。

「にゃ、イヴさん、モエモエちゃん? 男ってどうして白いショーツが好きなのかな?」
「そうね~、やっぱり清潔感かしら~」
「聖なるイメージがあるからじゃないのかな♪」
「にゅ~、本当は聖なるじゃなくて“性なる”女子が多いのにね~」

 女性陣の横でスンダーラが遠慮気味に口を挟んだ。

「あのぅ……せっかく盛上がってるところ申し訳ないのだが、今はそんな会話をしている場合じゃないと思うのだが。せっかくジャンプしたヒトミさんが途中で技をやめてしまったじゃないですか」

 バリキンソン男爵が高笑いしている。

「ひょっひょっひょっ、踊り子さん、あなたがいくら飛び膝蹴りの名手でも、その恥じらいがあだとなりますよ」
「そうね。あなたたちスケベ軍団に蹴り技は無理みたいね。でもね、私にはこんな技もあるのよ」

 ヒトミが右手で投げナイフを掴むと目にも止まらぬ速さで腕が振られた。
 ヒトミが投げたナイフはバリキンソンの剣を持つ腕にブスリと刺さった。

「うぎゃあああ~~~っ! うぐぐっ……まさか投げナイフの名手だったとは……」

 剣を床に落とし苦悶の表情を浮かべるバリキンソン。



第6章「灰色の絶頂」 第7話

シャム 勇者 HP 170/260 MP 0/0
イヴ 神官 HP 130/210 MP 40/210
モエモエ 魔導師 HP 100/160 MP 90/230
キュー ワルキューレ HP150/250 MP 40/40
エリカ ウンディーネ女王 HP20/180 MP 240/240
ヒトミ 踊り子 HP 130/230 MP 0/0
スンダーラ ゴブリン族長 HP150/220 MP 30/50

⚔⚔⚔

「だ、男爵!」
「男爵、大丈夫ですか!?」

 バリキンソンに歩み寄る衛兵たち。

「くそっ……あなたはヒトミといいましたね? 私をこんな目に遭わせて絶対に許しませんよ! エリカ女王を捕らえた時にいっしょに拘束しておけばよかったです。そうすれば今頃私の馬並みの巨砲であなたを撃沈していたのに。『ウマチン先に立たず』とはうまく言ったものですね」
「それも言うなら『後悔先に立たず』でしょう。バ~カ!」

 ヒトミがバリキンソンの間違いを指摘した。

「私としことが……」

 バリキンソに赤っ恥をかかせたことに衛兵たちが憤慨した。

「この小娘め! 男爵を侮辱するとは……もう許さん! おい、みんな、この小娘をやっつけてしまおう!」

 衛兵たちは一斉にヒトミに襲いかかった。

「キャ~~~~~!」

 ヒトミを攻撃しようとしている衛兵たちを見て、シャムはあきれた顔をしている。

「あの~、衛兵のおっさんたち。あんたたちの敵はその子じゃないんだけど……」
「今はこの小娘のことで忙しいんだ! おまえたちはちょっと待ってろ!」

「はい、待ちます」
「いやあ~~~~~ん!」

 ヒトミが衛兵たちに取り囲まれ衣服を剥がされている。
 見るに見かねたイヴがシャムを一喝した。

「待つな~~~っ! ヒトミちゃんがやばいじゃないの~!」
「あっ、そうか! おい、みんな! ヒトミちゃんを助けろ~~~!」
「にゃっ! その一言を待ってたわ! ワルキューレパワー全開よ~~~!」
「ファイアとサンダーどちらがお好みかな? 好きな魔法を掛けてあげるわ~!」
「バリキンソンめ! お前のような卑劣な男にはこの安物の剣で充分じゃ~~~!」

 シャムたちの猛烈な攻撃の前にバリキンソンたちは為す術がなかった。
 次々に倒れていく衛兵たち。
 残ったバリキンソンはシャムたちに取り囲まれていた。
 青ざめた表情で、震えながら剣を床に捨てるバリキンソン。
 腕に突き刺さったままの投げナイフが痛々しい。
 そして驚いたことに両手を床に着けて命乞いを始めた。衛兵たちもバリキンソンと同様に土下座をしている。

「許してください、勇者様! 私が悪うございました。もう悪事は働きませんから、どうか命だけは、どうか命だけはお助けください!」

 馬面男の情けない姿にシャムたちは呆れてしまった。

「なんだよ。見掛けほどでもないヤツだな。一度も剣を合わせていないのにもう降参するのか? 何か拍子抜けだな。みんなどうする?」
「う~ん……生かしておくとまた悪事を働くかも知れないわね」

 イヴが厳しい表情でバリキンソンを睨みつけている。
 バリキンソンはイヴに頭(こうべ)を垂れてすがりついた。

「おお! これは何と麗しい人だろうか~! まるで天界に咲くベビーピンクの薔薇のようだ~。どうか、どうかお許しください~! お願いです! もう二度と悪いことはしませんからどうかお許しを~」

 ひたすら哀願するバリキンソンにイヴの表情が和らいだ。

「うん? 天界に咲くベビーピンクの薔薇のよう? あなたってなかなか観る目があるわね~。う~ん、許しちゃおうかな~?」
「にゅ~、イヴさん、それは拙いのではないかと……」
「イヴさん、態度が急に変わったなあ♪」
「ヒトミ的に見ても、ちょっと危険な香りが漂っている~」

 ちょうどその時、すでに縄を解かれていたエリカがバリキンソンに馬乗りになり、彼の頭をボカスカと叩き始めた。

「バカ、バカ、バカッ! よくも私に酷いことをしてくれたわね~!」
「いてててて~っ! どうせ私は馬鹿ですよ~。だって私は半馬人だもの」
「くっ、つまらんギャグ言うな~っ!」

 ボカボカボカ!

「いたいいたいっ! エリカ女王さま~、どうか許してください! どうかお許しを~~~!」
「キ~~~ッ! 絶対に許さないからねっ!」

 ボカボカボカ!
 憎きバリキンソンの頭を瘤ができるまでぶって少しは気がおさまったのか、あるいは拘束されていた疲労が出たのか、エリカは突然バリキンソンの背中から転げ落ちそのまま横たわってしまった。
 驚いたイヴたちは直ぐにエリカのそばに駆け寄った。

「エリカさん、だいじょうぶ!?」
「顔色がかなり悪いよ!」
「今だっ!!」

 エリカに気を取られている隙を狙って、バリキンソンはその場から一目散に駆け出した。

「おぼえてなさいよ~! 必ずお返しをするので楽しみに待っててくださいね! では皆さん、さらばです~!」

「あっ!バリキンソンが逃げたぞ!待て~~~っ!」

 シャムやキューたちがすぐに追いかけたが、そこは脚の速さでは定評のある半馬人。
 到底シャムたちの脚では追いつくことができなかった。

「にゅ~、逃がしちゃったよ~! 悔しい~!」
「残念。早いめに捕えておけばよかったね♪」
「今度会ったら必ず私の蹴りで仕留めてやるわ!」

 一方、拷問による痛手が大きいのか、エリカがぐったりと横たわったままだ。
 真っ先にイヴがエリカの元に駆け寄った。

「エリカさん、しっかりして! ヒ~ル~~~!」

 イヴは衰弱しきった様子のエリカにヒール魔法を掛けた。
 しかしエリカのHPはわずかしか回復しない。

「あぁ……ダメだぁ、エリカさんの衰弱が酷くて、私のヒール魔法で全回復しようとするとMPが足らないわ。薬草だって残りがわずかだし……困ったなあ」
「にゅ~、シャム? いよいよあなたの出番だよ~」
「そういうキューちゃんだって傷だらけよ。HPがかなり減ってるじゃないの」
「にゃっ、本当だ! でもモエモエちゃんだってMPがほとんどないし、それにヒトミちゃんやスンダーラ族長も少しケガをしているし、これは困ったね~」
「シャムのチンヒールは、一番ダメージの大きいエリカ女王に使わなくてはいけないと思うの♪」
「困ったわ」
「にゃっ、どうしよう……」
「チンヒールってどんなことするのかな? ヒトミ的に興味津々」

 エリカ女王救出は成功したものの、バリキンソンたちとの戦闘でいつの間にかシャムたちの体力と魔力はかなり消耗していた。
 薬草は残り少なく、法力草やキノコ類も数えるほどしか残っていない。全部使っても全員の回復は望めないだろう。
 また帰り道にも敵が出没することが考えられ、わずかな薬草類でもできれば残しておきたかった。
 イヴのMPが残り少なく心細い状態だし、他にヒール魔法を使えるエリカにしても本人が重傷を負っている現状ではとても彼女に頼ることはできなかった。

 シャムたちが途方に暮れているとき、モエモエがなにか閃いたようで、突然手を打った。

「あっ! ひとついい方法があるわ♪」




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ウンディーネ・エリカ


踊り子・ヒトミ











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