もえもえ 発火点

Shyrock作



第20話「悪夢」

(変だ、もえもえはきっと嘘をついている。どうして嘘をつかなければならないのか……? やはり今日出かけた相手は男だったのか。しかもこんなに遅い時間まで……)

 これまでのもえもえの誠実さから考えて、俊介としては疑いたくはなかった。
 だけどあまりにも話が不自然なので疑わざるを得ないではないか。
 もし男だとすれば相手はいったい誰なのか。
 二人が付合い始めた頃、もえもえは異性として意識しないボーイフレンドがいると言っていた。
 しかしそのボーイフレンドと今になって進展したとは考えにくい。

(相手はボーイフレンドではないはずだ。だとすれば元彼か? いや、元彼のことは結構詳しく聞かされていたが、もえもえの様子から元彼に対して未練が残っているとは思えない。行きつくところ、もえもえが『気になる人』と言ってた例の男ということか……)

 就職して以降、巡り合う可能性が高いのは、当然会社の男性ということになる。
 あれこれと思いを巡らせているうちに、俊介はいつしか深い眠りに落ちていた。

◇◇◇

9月9日(月)

 夜明け頃、俊介はとても嫌な夢を見た。
 それはもえもえが見知らぬ男に抱かれている夢であった。

 もえもえは川原で花火大会に参加していた。花火大会が終わると、もえもえは仲間たちとともに酒を交わし、酔いつぶれてそのまま狭い部屋で雑魚寝をしていた。ぐっすりと眠るもえもえの肩を誰かがトントンと叩いた。もえもえが目を覚ますとそこには“気になる男”一平の姿があった。彼は酔い冷ましに川原を散歩しないかと彼女を誘った。もえもえはうなずくとすっと立ち上がり、一平とともに川原に出ていった。
 場面は変わり、二人は木陰で抱き合いキスをしていた。どういう訳か俊介自身も川原にいて、彼らに向かって「やめろ~!」と叫んだ。しかし大声で叫んでいるのに二人の耳には届かなかった。一平はもえもえのTシャツの上から乳房をまさぐり、やがてその手はTシャツの中へと入り乳房を揉んでいた。
 さらに一平は大胆にももえもえのスカートの中に指を滑り込ませた。スカートの前方がまるで小動物でも潜り込んだかのように膨らみうごめいている。
 堪えようとはしているがもえもえの口から甘く切ない声を漏れてくる。やがて一平の指示に従いもえもえは大木に両手をつき尻を突き出した。一平はスカートをまくりあげるとショーツをスルリとずり下げた。「もえもえ、やめろ!やめるんだ!」俊介がいくら叫んでも二人には聞こえない。いや、聞こえない振りをしているだけかも知れない。もえもえのぷりぷりとした弾力性のある臀部が飛び出すと、一平がすぐに背後から巨大化した肉柱をグイッと押し込む。「ああ~っ!」先程までの押し殺したような声とはうって変わって、大きな声で叫ぶもえもえ。一平は盛りのついた犬のように激しく腰を動かしている。もえもえの歓喜の声は暗闇にとどろき渡った。

 夢はそこで途切れた。
 あまりにも生々しく臨場感にあふれていたため、俊介は夢から覚めたあともしばらく呆然としていた。
 びっしょりと寝汗をかいている。

「あぁ、夢でよかった……。それにしてもすごく嫌な夢だった……」

 俊介は寝覚めは悪かったが、それが夢であったことを安堵した。

◇◇◇

 午後6時、仕事を早く終えた俊介はもえもえに電話した。

「もう仕事はもう終わった?」
「うん、今、帰る途中なの」
「まっすぐ帰るの?」
「うん、まっすぐだよ」
「僕も出先での仕事が終わって、今から直帰するところなんだ」
「そうなんだ、お疲れさま」
「ねえ、もえもえ?」
「なに?」
「今朝ね、すごく変な夢を見たんだ」
「どんな?」
「うん、実はね、もえもえが先輩の家に遊びに行ったとき、たしか花火に行ったろう? あの場面だったんだけどね」
「うん……で、どんな?」
「もえもえが何とある男性と川原でエッチをしてたんだ」
「えっ……!?」

 夢の出来事を語る俊介に対して、もえもえは虚を突かれたかのような驚きを示した。

「僕は『やめろ!』って叫んだんだけど、もえもえもその男性も全然僕を無視して黙々とエッチに励んでるんだよ。はっはっは~、おかしな夢だろう? でも気にしないでね、夢の中の話なので」
「……」
「もうすぐ駅なので電話を切るね。また帰ってから電話するよ」
「うん……じゃあ……」

◇◇◇

 午後8時、もえもえから俊介に運命の分かれ目となる1本の電話が入った。

「俊介、あのぉ……言いにくいんだけど……ちょっと嫌な話をしなければならないの……」

 もえもえの声はいつもの甘えるような声とは程遠く、毅然とした態度でかなり真剣味を帯びている。
 いつもとはまったく違う気配のもえもえに、俊介はただならぬものを感じた。
 そしてそっともえもえに尋ねてみた。




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