もえもえ 発火点

Shyrock作



第16話「小悪魔もえもえ」

 まさか、そんなことはあり得ない。
 同じエリアに暮らしていたら、偶然どこかで見かけることがあるかも知れないが、もえもえは福博市で俊介は逢阪市だ。
 お互いの行動が分かるはずがない。
 俊介の急な問いかけにかすかな不安を禁じ得なかったが、できるだけ自然に振る舞うことにした。

「うん……好きだよ」
「そう? それならいいんだ」

 もえもえは甘えた声で俊介にささやきかけた。

「俊介……」
「なに?」
「大好きだよ……」
「どうしたの? 急に甘えて」
「寂しいの……」
「僕だって寂しいよ。でもあと1週間経ったら会えるじゃないか。もうちょっとの辛抱だよ」
「うん、そうだね……ねぇ、キスしよ……」

 いつものようにもえもえは俊介にキスをせがんだ。
 もしかしたら今日のことを、いや、最近の自分の行動を俊介はいぶかしく思っているのかもしれない。
 俊介には絶対に悟られたくない、嫌われたくない。
 自分にとって俊介はやはり大事な人だ。
 いつものように彼に甘えることで、妙な空気を和ませることができるはずだ。
 もえもえにはそう考えた。

「うん、じゃあ、今日は3箇所にキスをしようかな」
「どことどことどこ?」
「最初は唇。そして、2つめは乳首。そして最後は……アソコ」
「うん!」
「じゃあ、カウントするね。3……2……1……チュッ」
「チュッ」

 キスのタイミングは顔が見えなくても絶妙だ。
 すでに何度もリアルとエアでキスを重ねてきたから呼吸が合っている。

「じゃあ2つめ……3……2……1……チュッ」
「あぁ……」
「ラスト……3……2……1……チュッ! チュッチュッチュ~ッ!」
「あぁん、ダメぇ……あぁん……!」
「それじゃまた明日ね」
「うん、じゃあね」
「おやすみ~」
「おやすみ……」

 電話を終えた頃、すでに午前1時を過ぎていたが、もえもえはパソコンの電源を入れた。
 ホームページ更新は気分的につらいが、せめて掲示板の返信だけでもしたかった。
 平然と返信をすることで、ふだんどおりの自分であるようにカモフラージュができる。
 それは俊介を意識した一種の煙幕であった。
 同時に俊介と親しい仲間たちもあざむくことができる。
 彼らの掲示板に、あたかも家族旅行に行ってきたかのような投稿まで行なった。

『今日は家族で長距離のお出かけをして、良い気分転換になりました。
明日はおうちでゆっくり過ごすぞぉ~☆ 』

 明日ゆっくりと自宅で過ごすことをわざわざ明記したのであった。
 この時点では決して偽りではなく、真に自宅でゆっくり過ごそうと考えていたことは事実であった。
 ところがその翌日、彼女の運命を変えるほどの重大事が待ち受けていることを、もえもえはまだ知らなかった。

◇◇◇

 一方、その日のもえもえの行動を家族旅行と信じて疑わなかった俊介は、1週間後に会える喜びで胸を膨らませていた。

(この前福博市で会ったのが7月20日だったから50日以上会っていないことになるんだな。もえもえには寂しい想いをさせているけど、今度会ったらたっぷりと可愛がってやらなければいけないな~。初日が神戸で2日目が逢阪のUSJか、楽しみだな~)

 俊介は旅行のスケジュールなどを考えているうちに、福博で過ごした甘蜜のような夏の夜を想い出していた。
 初日をハイ〇ット・リージェンシー福博で過ごし、2日目はハイ〇ット・デジデンシャル・スウィート福博でめくるめく愛のひとときを過ごした。
 この頃になると二人が初めて出会った頃、ベッドでおとなしく受け身であったもえもえの姿は変貌を遂げていた。
 俊介から愛撫を受けるだけではなく、自らも積極的に俊介に愛を施せるようになっていた。
 俊介を仰向けに寝かせると、自らは彼の股間に潜り込み『彼自身』を丹念に舌で奉仕する。
 袋の部分を丁寧に舐め廻すと、幹から亀頭に掛けて何度も何度も舐めあげた。
 舐めあげるときは必ずと言ってよいほど、上目使いで俊介をじっと見つめ不敵な微笑を浮かべる。
 俊介はもえもえのそのエロティックな仕草を眺めながら、うら若き彼女が持つ異常なまでの妖艶さと淫靡性に改めて舌を巻いた。
 もえもえは自身が運営するウェブサイトで、自らを称して『小悪魔〇〇』と名乗っている。
 俊介は彼女が自身を『小悪魔』と称する由縁がようやく分かったような気がした。
 だが俊介は彼女の妖艶さと淫靡性を「自分だけに見せてくれている姿」だと良いように解釈している。
 ある意味『めでたい男』である。

 もえもえは現在22歳で俊介が4人目の彼氏である。
 それは別に珍しいことではないが、彼女の感度はかなり開発されていた。
 ただし性技は一本調子なところがあり、体位数もそれほど知らない。
 正常位、後背位、フェラチオには慣れているようであったが、座位や騎乗位の経験は比較的乏しかった。
 それは今まで交際した男性がたまたま性への探求心が乏しかっただけのことであり、むしろ俊介としては教え甲斐があった。
 もえもえは俊介の繰り出す性技『松葉くずし』にあえぎ『小娘土蔵折檻』に悶え狂った。




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