ホラーミステリー官能小説

『 球 ~鏡~ 』

Shyrock 作



 
球(モデル時名 川崎優)



第1話「住まい探し」

「わぁ~、すてきなお家じゃない~! 建物は少し古いけど全然傷んでなくて、すごくきれいだし、それにゴージャス。これで二千万円なんてお買い得じゃないの~! ねえ、ワタル、この家に決めようよ~!」
「はっはっは~、球は一目惚れしたのか? でも、いくら廉いと言っても、スーパーで買物をするような訳にはいかないんだら。もう少しじっくり見てから決めようよ。それからでも遅くはないと思うんだけど」
「うん、そうだね~」

 その日、雪柳ワタルと妻の球は、モデルハウスの見学に訪れていた。
 ふたりは一年前に結婚して、都内の賃貸マンションに入居したが、上階の騒音があまりにも酷く家主に相談したが一向に解消されないため、あきらめて新たな住まいを探し始めていた。

 ワタルは上階の騒音トラブルについて、以前から彼の父親に相談していた。父親は「毎日上階を気にしながら生活するのも大変だ。話し合いがこじれて騒動になった話も聞いている。この際思い切って引っ越ししたらどうか? 新婚のうちは賃貸マンションのほうが好ましいが、現在幸いに借入金利も安いことだし、いっそのこと分譲住宅を購入してはいかが? 私が半分負担してあげるから、残りをおまえたちがローンを組んで返済してて行きなさい」とワタルたちに購入を提案した。
 ワタルたちは父親からの薦めもあって、次第に分譲購入の方向に気持ちが傾いていった。
 若いうちからローンを抱えることはいささか重荷ではあるが、二人でがんばれば乗り切れるだろう、とワタルたちは考えた。
 賃貸と違って不動産取得税、固定資産税等、都市計画税の税金や管理組合費、それに将来のための修繕費積立金も必要になるが、自分たちの財産になるのだからやむを得ないだろう。
 二人は検討を重ねた結果、分譲住宅を購入する方向で生活設計を描き始めた。

 かくして二人の住まい探しが始まった。
 毎朝、新聞の広告に目を通すようになり、不動産情報誌やインターネットで不動産情報を検索する頻度も次第に増えていた。
 そんな中、ある新聞折り込みチラシの広告が球の目に止まった。

『豪華邸宅がたったの二千万円! しかも家具付き! 中古だが傷みなし!』

 まるで夢のような話である。

「ワタル、これ見てみて~! な、何と豪華邸宅が二千万円だって~! しかも家具まで付いているんだって~!」
「まさか、冗談だろう? 建売りならあり得るけど、邸宅がそんな価格で買えるわけないだろう?」
「冗談じゃないよ~。とにかくこれを見てよ~」
「マジか~?」

 球が示すチラシを見たワタルは驚嘆の声をあげた。

「本当だ! 中古とはいえ豪華邸宅がどうしてこんな価格で売ってるんだろう?」
「もしかしたら何か訳ありかもね」
「訳があろうがなかろうが、こんな良い話、逃す手はないよ。直ぐに電話をしてみよう」
「うん、そうだね」

 渡りに舟とはまさにこのことを言うのだろう。
 突然飛び込んで来た朗報に、二人は俄然その気になってしまった。
 ただ、球としては廉価ゆえに一抹の不安を拭いきれなかったが、ワタルの嬉しそうな顔を見ていると、水を差すような発言はできなくなってしまった。

 球は早速折り込みチラシに載っていた不動産会社に電話をかけてみた。
 電話口には女性が出た。
 チラシの物件について尋ねてみると、幸いまだ予約は入っていないという。
 物件の情報を聞き取りしたあと、一旦電話を切ることにした。
 だけどこれだけの好物件だ。問合せはきっと多いだろう。
 早く手を打たないと手遅れになるかもしれない。
 善は急げという。球たちは早速モデルハウスに向かった。
 モデルハウスは、ワタルの勤務地の丸の内から一時間三十分の立地にある。近いとは言えないが一応通勤圏内だし、最寄り駅から徒歩10分というのも及第点といえるだろう。

「物件は良さそうだけど少し遠いかな。ワタル、通勤、だいじょうぶ?」
「一時間三十分で文句言ってたら東京には住めないよ」
「だよね」
「これはまたとない機会だよ。こんなビッグチャンスを逃したら一生後悔するかもしれないよ」
「そこまで言うなら、買わない手はないね。早く手を打とうよ」

 球は再度不動産会社に連絡し、購入したいことを告げ訪問の約束を取り付けた。
 最寄り駅まで迎えに来てくれて、そこからクルマで案内してくれるらしい。
 しかし球たちはあえて電車を利用することにした。
 不動産を下見する場合には、クルマを利用しないで交通機関を利用することが望ましい。
 通勤経路や正確な所要時間を体感することが大事だからだ。

◇◇◇

 球たちが約束の駅前に到着した頃、不動産会社の案内人はすでに球たちを待っていた。
 案内人は30過ぎの清楚な女性で名前を『吉野』と名乗った。
 球たちは吉野の運転するクルマに乗って目的地へと向かった。
 駅前の商業地域を抜け、2分ほど走ると新興住宅地が見えてきたが、クルマはさらに走り風景はやがて丘陵地へと変わり住宅も疎らになっていった。
 おおよそ5分ほど走ったろうか。
 クルマはまるでドラマにでも出てくるような豪華な邸宅の前に止まった。
 邸宅は重厚感のある立派な2階建てであった。
 敷地のまわりはしっかりとした塀に囲まれていて出入口は重厚な門扉で閉ざされている。
 もしかしたら中からメイドが迎えてくれるのでは、と思わせるほどの立派さだ。
 球たちはチラシの広告が決して誇大ではないと確信した。
 予想にたがわず、いや、予想以上の豪華な邸宅といえる。
 球はゴクリと唾を飲み込んだ。

「ワタル、すごいお家だね」
「うん……びっくりした……」

 二人とも唖然としている。
 案内人の吉野が球に尋ねた。

「いかがでございますか? 建物は少し古いですが、かなりのお値打ちものでしょう?」

 球はこっくりとうなずいた。



次頁














































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