静 個撮

Shyrock作



第14話「携帯会社の協力を得て」

「ご事情はよく分かりました。では早速静さんの携帯の位置を調べましょう」

 担当部長はしっかりとした口調で、事も無げにさらりと答えた。
 今のところ静の行先に手掛かりがなく、捜索は厳しいものになるかも知れないと踏んでいたケンジは、担当部長の返答に顔をほころばせた。

「え?本当に携帯の場所が直ぐに分かるのですか!?」
「はい、以前はその携帯が一度でもその場所から発信しない限り位置を確かめることはできませんでしたが、現在の技術では発信しなくても調べることが可能になっています」
「そうですか? じゃあ、直ぐに調べてもらえますか」
「はい、直ぐに調べます。ただし」
「ただし?」
「ただし、犯人が静さんの携帯をどこか別の場所で処分したとしたら、その場所から先は分かりません」
「あ……そうですか……。分かりました。とにかく至急調査をお願いします!」
「承知しました。植田君、ちょっと来てくれ」
「はい、部長」

 ケンジたちの前に現れたのは、背が高くスリムな若手の社員だった。
 担当部長は静の電話番号を伝え、直ぐにその位置を調べるよう指示をした。

 その後、ケンジたちは応接室に案内され、調査の結果を待つことにした。
 アキコは静の安否を気遣い沈痛な表情を浮かべている。
 そんなアキコをケンジが励ました。

「だいじょうだよ。静ちゃんはきっと元気だよ~」
「よくそんなことが言えるわね、静がどこにいるかも分からないのに」
「そりゃそうだけど」
「……」
「……」

 まもなく応接室のドアが開いて、担当部長が入って来た。

「分かりましたよ! 殿山町です! ビルの中です! 場所は」

 担当部長は一枚の住宅地図を広げてイラストマーカーで赤い丸を描いた。

「ここです。この通りを一つ入ったところで角から二軒目のビルです」
「分かりました。この地図をいただいてもいいですか」
「どうぞお持ちください」
「ありがとうございます。ついでと言っては何ですが電話をお借りできますか?」
「どうぞお使いください」

 ケンジは応接室にある固定電話を借りることにした。
 持参の携帯はのちに県警とのやりとりや証拠撮影で頻繁に使用する可能性がある。
 肝心なときに充電が切れることは避けたい。

「もしもし、刑事部長をお願いします」
「私だ」
「あ、部長、すみません。捜査二課の長谷部ですが」
「おお、長谷部君か。どうしたんだね?」
「部長、すみませんが直ぐに捜査令状を発行してもらえませんか」
「な、な、なんだと~~~!?」
「21才の美人ネットアイドルが誘拐されて、監禁されているようなので、ボクは今から現場に急行します。で、署から現場の方サイレンを鳴らさずパトランプのみでパトカーを差し向けて欲しいんです。捜査令状を持って」
「おいおい! な、な、なんだよ急に!? 事情がさっぱり掴めんぞ! もっとちゃんと説明しろ!」
「すみませんが今は詳しい説明をしている暇はないのです。とにかくその女性の命が危ないのです!」
「君のいうことはいつもそうだ。中途半端でよく分からん!」
「そういうお叱りは署に帰ってからちゃんとお受けします。今はとにかく急いで欲しいのです」
「うん、分かった。で、場所はどこだ」

 ふつうはしっかりとした確証がなければ、裁判所は警察に対して捜査令状を発行しないことになっている。
 誤った捜査を行なって失態を演じれば、警察の信用にもかかわる。
 それでなくてもマスコミの目は厳しい。
 ところが過去ケンジが黒と述べて、白であったことは一度もなかった。
 事前にきっちりと上司に説明をしない点が難点といえるが、住民の命を守ることが警察の使命であり最優先すべき事項である。
 彼には多くの事件を解決してきた実績がある。
 刑事部長はケンジを実績を高く評価している。
 それは一日や二日で築けるものではなく、十年に及ぶ在職経験の中で培ってきた信頼と言ってよかった。
 刑事部長はケンジから場所を確認し、パトカーを現場に急行させた。
 もちろんケンジから要望のあった捜査令状を携えて。

「部長、感謝します! それではボクも現場に向かいますので、よかったら部長も来てください!」
「ばかもの! 何を寝言を言っとるんじゃ! 詳しい説明も聞いていないのに私が現場に行けると思うか!? とにかく気をつけて行動してくれ! それから必ず連絡をくれ!」
「分かりました。必ず連絡します。では」
「長谷部君」
「はあ?」
「ドジを踏むなよ」
「もう~部長ったら~。ギャハハ~! もっとボクを信用してくださいよ~」
「何がギャハハだ。笑いごとじゃないぞ。とにかくがんばってくれ」
「分かりました、部長。では」

 ケンジは受話器を切った後、世話になったdacamaに礼を述べて立ち去ろうとしたとき、担当部長が尋ねた。

「足はあるのですか?」
「表通りへ出てタクシーを拾いますので」
「もしよかったら当社のクルマを使ってください。運転手付きという訳には行きませんが。クルマは明日返してくださったら結構ですので」
「とてもありがたいです! ではお言葉に甘えてお借りします!」

 ケンジとアキコは一階の駐車場から借用したライトバンに乗り込みエンジンをふかせた。

「アキコ。お前危ないから、この近くの駅まで送ってやるよ。途中で降りろ」
「ええ~? 私も行くよ。静の命が掛かってるだから。それにケンジもしかして静の顔を知らないのではなかった?」
「あっ、そうか。そういえば知らなかったな。アキコがいないとどの子が静やら……。ギャハハ~」
「のんきな人ね……。マジで刑事なの?」
「むっ、失礼な。よし、それじゃ、アキコ行くぞ~!」
「オーライ!」




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