静 個撮

Shyrock作



第13話「静はいずこに」

「うん、静は私たちと遊ぶときも、いつもシドのことを気にかけていて、早く帰ることが多いの」
「ってことは、早く帰るつもりだったけど、突然帰れない事情ができたってことになるな……」
「そういうことになるね……」
「よし、分かった。オレは管理人を呼んでくるから、アキコはここで待っててくれ」
「分かったわ」

 アキコにそう告げると、ケンジは直ぐに部屋を出ていった。

◇◇◇

 まもなくケンジが管理人を伴って部屋に戻ってきた。
 管理人は少し髪が薄くなった初老の男性であった。

「部屋の鍵を開けてくれないか」

 管理人はマスターカードを差込んだ。
 ホテル業界では先んじて採用されているカードシステムだが、このマンションではすでに取り入れられているようだ。

 ガチャッ……

 ワンワン! ワンワンワン!
 ドアが開くと、けたたましい鳴き声とともにシーズー犬が足元にまとわりついてきた。

「シド! 静は? 静はどこに行ったの!?」
「そんなことシドに聞いたって答えてくれないよ。それより静ちゃんの行先の手掛かりを探そう」

 管理人が玄関口に突っ立ったまま遠慮気味にケンジに尋ねた。

「あのぉ……私は……もうよろしいでしょうか?」
「ああ、ごくろうさま。調べが終わったら施錠してほしいので後から連絡します」
「分かりました。では失礼します」

「アキコ、犬に餌をやってくれないか。まとわりついて、これじゃ調べられないから」
「うん、分かった」

 水はまだ十分残っていたが、餌用のペットボウルには少量の餌を残すのみとなっていた。

 ケンジはリビングルームから調べはじめた。
 だが手掛かりになりそうなものは見つからない。

「あ、そうだ。アキコ、静ちゃんってパソコンをよく使ってるだろう?」
「うん、ネットでは超有名なガールズサイトを運営しているわ。それが何か?」
「アキコ、パソコンを起動させて」
「うん!」

 ケンジは部屋の隅々に目を配りながら、アキコにパソコンの起動を頼んだ。
 まもなくパソコンが起動しスタート画面が現われた。
 起動時のパスワード設定はされていない。

「ラッキ~」

 ケンジはパソコンに向かった。
 デスクトップにあるメールアイコンをクリックした。
 メール受信画面が開いた。
 直近のものから数日前のものまで遡ってつぶさに受信履歴を調べた。

「へえ~、静ちゃんってすごい人気なんだね!」
「そうよ、静は芸能界から何度も誘われるほど人気者だし、ファンもすごい大勢いるの。でも、人気ってなんで分かるの?」
「この受信メールの数を見てみろよ。毎日びっくりするほどすごい数だよ~」

 メールは人気のバロメーターといえる。
 人気者には毎日多くの熱いファンからメールが届く。

 ケンジはメールをつぶさに調べた。
 アキコもケンジの横で画面をチェックしている。

「どう? 何かヒントになるようなことがありそう?」
「いや、今のところ、なしだ……」

 普段なら気にもならないマウスの操作音があわただしく感じられる。
 シドは餌をもらって空腹を満たしたせいか大人しくなっている。

「あっ! これだ!」
「ええっ!? 何か分かったの!?」
「うん、これだ! 間違いない! 個人撮影の誘いが何通かあるんだけど、静ちゃんが返信しているのはこの三好という人間に対してだけなんだ」
「会社は?」
「週刊誌ウィークリー・マル」
「それだわ! 間違いないわ! 静が私に言ってた雑誌は確かこれだったわ!」
「よし! 早速この三好という男を調べよう!」
「調べるってどんな風に調べるの? メールアドレスから調べるの?」
「いや、メールはフリーメールだからあてにならない。それにこの時間だからプロバイダーへの連絡が難しいだろう」
「じゃあ、どうやって……」
「静ちゃんは1月10日午前9時最寄り駅Aで、ウィークリー・マルの山根という女性カメラマンと待ち合わせをしている」
「でもそれだけで静の居場所が分かるの?」
「わからん」
「な~んだ。名刑事が聞いて呆れるよ~」
「まあ、そういうな。いくらオレでもそれだけじゃ静ちゃんの居所は突き止められないよ」
「じゃあ、どうするの?」
「先ずはウィークリー・マルに電話して、そういう名前の社員がいるかどうか調べよう」
「きっと嘘じゃないの?」
「たぶん嘘だろうな」

 ケンジはウィークリー・マルの電話番号を調べ早速連絡をした。
 警察であることを告げると、担当者は容易に語り始めた。

「当社には三好という社員も山根という社員もおりませんね」
「そうですか。分かりました。ありがとうございました」

「そういう名前の社員はいないそうだ」
「やっぱり」
「アキコ、静ちゃんって携帯、どこを使ってる?」
「確かdacamaだったわ」
「よし!直ぐにdacamaに行こう!」
「分かったわ!」

 二人は管理人に礼をいうと、タクシーを飛ばしdacamaへと向かった。
 幸いdacamaには残業している社員の中に技術系の部長がいたので面会を申しでた。
 ケンジは自身が刑事であることを明かし、手短に事情を述べた。




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