第8話「ナインボール責め」
大開脚。
それはバレリーナのように人一倍柔軟な肉体であるがゆえに可能となるポーズである。
静は脚を百八十度近く広げられた状態で、足首をしっかりとロープで固定されてしまった。
男たちの視線は当然のように、薄い布切れで覆われたその一点に集中する。
ショーツを着けているとは言っても、開脚ポーズのため恥丘が誇張され、縦に走る窪みの形状をうかがい知ることができた。
緊張のせいか、内腿の筋肉がピクピクと痙攣を起こしている。
「いい格好だなあ~! 最高~!」
「パンツがなければもっと良いのだが。ははは~」
「パンツ穿いてるけど、くっきりと割れ目の位置が分かるじゃないか」
「おお、本当だ~! すごい!」
男たちの野卑な会話が必然的に静の耳に飛びこんでくる。
現在自分がどのような状況にあるのかを容易に計り知ることができ、静はその恥辱に唇を噛み締めた。
三好が予め準備しておいた紫色のバイブレーターを固定する作業にとりかかった。
山根はデジカメを取り出して撮影の準備に余念がない。
男根そっくりに造られたバイブレーターは実に生々しく、今から行なわれる淫靡なゲームに相応しい代物であった。
バーブレーターの後方のグリップ先端にボールが当たると、バイブレーターが作動し静の花芯に直撃する仕組みになっている。
「では、皆さん、そろそろキューを持ってご準備ください。まもなく始めますので」
三好はバイブレーターの固定を終えて、淫靡なゲームの幕開けが近いことを告げた。
球を突く順番は既にくじで決めてある。
一番最初の男がニヤニヤ笑って、キューの先端に松脂(まつやに)を塗り始める。
歳は五十代だろうか。皺の寄った顔はてらてらと脂ぎっており、好色そうな眼光が瞬いている。
「こう見えても私はビリヤードには少々自信がありましてね。皆さん、悪いですが優勝はいただいたも同然ですね」
「ちぇっ、講釈はいいから早く打ちなさいよ」
好色男の鼻につく台詞に、別の男性が不快感をあらわにした。
好色男はそれを気にする様子もなく、ショットの動作に入った。
見違えるほど真剣な表情に変わりキューを構える。
球の配列はナインボール方式である。
一同は息を潜めた。
キューで白球を突く。
コーンという音が響く。
白い球は①番球を見事に捉え、中央の整列した球が弾け飛んだ。
9個の球の中で静に最も近い青の②番球が、バイブレーターを直撃するかに思われたが、わずかに逸れて静の大腿部に当たった。
山根はその瞬間を見逃すことなくシャッターを切る。
冷ややかで硬い球の衝撃に静は驚き、身体をビクリと反応させた。
「あ~、しまった……。外してしまったか……もう少しだったなあ」
好色男はプレイ前、大口を叩いていたこともあり、バツが悪そうにうつむいてその場から立ち去った。
球をつく権利を有するのは八人の会員たちである。
そのうちの一人目が失敗に終わった。
(残りの七人が全員外れたらいいのに)
まるで“まな板の上の鯉”のような静としては、心の中でそう願った。
静の願いどおり、二人目、三人目、四人目の男たちはビリヤードの経験があまりなく、中にはヘッドピンの①番球すら捉えることのできない者もいた。
ビリヤードでは白球で目的球(この場合は①番球)を捉えることが必須条件であり、もしも捉えられない場合はミスショットとなる。
そして五番目の男がキューを構えた。
小太りで鼻の下にチョビ髭を蓄えた丸顔男で、一目で好き者と分かる。
キューの構え方もかなり堂に入っている。
乾いた音が響く。
白球は①番球を捉え、青の②番球が真っ直ぐに静の股間に転がっていった。
②番球がバイブレーターのグリップ先端を捉えた。
「おおっ! 当たったぞ!」
バイブレーターのスイッチが入り、バイブレーターが「ウィ~ン」という音を立ててうなり出した。
「えっ……!?」
バイブレーターの先端が前面に押しだされ、下着にグイッと密着する。
バイブレーターがずれないように三好がテープでしっかりと固定する。
「あぁっ! いやっ……!」
まるで亀頭のような形をした先端はうねうねと旋回し、薄い布の真上を強く刺激する。
先端は窪みの少し上を捉えている。
女の最も鋭敏なものが存在する箇所と言えるだろう。
「いやぁ~~~~~!」
悲痛な叫びが狭い部屋にこだまする。
目隠しをされているため、触れているものの正体が分からない。
見えなければ一層不安が増幅する。
静は気が動転しそうになっていた。
すでに涙声に変わっている。
「いや、いや、いやぁ! やめてぇ~!」
得体の知れない物体はデリケートな部分を猛烈に責め立てる。
下着を着けていても、強い振動に対しては何の防御にもならない。
泣き叫ぶ静の姿を、固唾を呑んで見守る男たち。
中にはだらしなく涎を垂らし股間を膨らせる男の姿もあった。