第5話「ここはどこ?」
それからどれだけの時間が経過したのだろうか。
「んっ……」
静は深い眠りからゆっくりと目を覚まそうとしていた。
(ううっ……頭がぁ……)
頭の奥がズキズキと痛む。
ぼんやりと意識が戻っていく中、自分が今どのような状況に置かれているのか全く理解できない。
どんよりと湿った空気と、かび臭い匂いが漂っている。
静は眼孔を開いた。
(うそっ……! どうして!? 何も見えないじゃないの!)
眠りから覚めて目をしっかりと見開いてみても何も見えない。
愕然とする静。
しかし目元にアイマスクが装着されていることに気づくのに、多くの時間を必要としなかった。
(どうして? どうして目隠しされなきゃいけないのよぉ~!)
アイマスクを外そうと試みたが、どういうわけか両手が動かない。
しっかりと腕を拘束されているようだ。
脚も同様に大きく左右に開かれ、左右の脚が別々に拘束具のようなもので固定されていた。
目隠しをされたうえに、両手両脚を拘束されている。
これは只事ではない。
そんな静の耳元に何者かがささやいた。
「静さん、やっとお目覚めだね。皆さんがお待ちかねだよ」
「あなたは誰っ!?」
「あれ? もう忘れたの? 静さんに何度かメールをした三好だけど、もう忘れたの?」
「ええ!? み、三好って……あのウィークリー・マルの三好さんなの!? な、なんで!? なんでこんなことをするの!? ウィークリー・マルって嘘なの!?」
「ははははは~。本当に俺のことをウィークリー・マルの社員だと思ってたの? とんだお人好しだね、静さんって。わっはっはっはっは~~~!」
「だ、騙したのね!」
「俺の誘いに簡単に乗ってきたあんたが間抜けなんだよ。はっはっはっはっは~!」
「ひ、ひどい……」
静は唇をグッと噛み締めた。
(口惜しい……)
そして後悔した。
過去多くのカメラマンから撮影依頼があったが、かたくなに断り続けてきたのに。
だけど一度だけは一流のプロカメラマンに撮ってもらいたい、という夢がないわけではなかった。
そのわずかな心の隙間を衝かれてしまったのだ。
だから余計に口惜しが募る。
「それで、私をどうしようというの?」
現在完全に拘束されてしまった状態である。
つまり『まな板の上の鯉』といってもよいだろう。
迫り来る恐怖の中で、静は勇気を奮い起こし尋ねてみた。
「ふふふ、とてもよい質問だ。答えてあげよう」
三好は待ってましたとばかりにコクンとうなずいた。
「静さんは目隠しをされているから見えないだろうが、今ここには俺とアシスタントの山根、それから8人のお客様がいるんだよ」
「お、お客様って!?」
「ふふふ、聞けばおそらく静さんも知っているはずの一流企業のお偉いさんたちだよ」
「な、なんですって!? そんな人たちと私がどういう関係があるっていうの?」
「まあまあ、落ち着いて最後まで話を聞くんだ」
「……」
「ここにお集まりの皆さんはとても遊び好きな人たちでね。200万円もの年会費を支払って、毎月開催している秘密パーティーに参加してくださってるんだ。で、今日はその月例会というわけなんだよ」
「そんなの私には関係ないわ! 早くここから出してよ!」
「いや、ところが関係があるんだなあ」
「どういうこと!?」
「前回の月例会で、皆さんのリクエストが、静さん、あなただったんだよ」
「な、なんですって!? そんなぁ~!」
静は驚愕した。
日頃縁もゆかりもない見ず知らずの男たちが、まさか自分を知っていて指名までしてくるとは。
「皆さんは大変目が肥えておられる。そんじょそこらの美人じゃ満足できないんだよ。思わず振り返ってしまうようなとびきりの美人じゃないとね。前回の月例会の終了間際に、ある会員さんから『最近ネット界で最も売れっ子で超美人の静という子がいるんだが何とかならないか?』という話が出てね」
「う、うそっ……」
「嘘じゃないよ。その会員さん、今ここにいるよ。静さんの画像をコピーして持ってくるほどの熱の入れようでね。ふふふ、その画像を見た他の会員さんからも絶賛の声が上がってね、『ぜひ来てもらおう』ということになったわけなんだ」
「そんな勝手な……」
「しかしまともに誘っても来てくれないと分かっていたから、少々手荒な方法だがこのようにさせてもらったって訳だよ」
あり得ない。そんな理不尽な理由で自分は誘拐されたというのか。
三好の説明を聞き終えた静は得体の知れない不安と恐怖に打ち震えた。
「驚きのあまり声も出ないようだね。ふふふ、無理もないだろう」
静は喉の奥からしぼり出すような声で訴えた。
「私をどうしようというの!?」
訴えた後も声帯が震えている。
「それはこれからのお楽しみということで。ふっふっふ」
「酷いわ! 早くほどいてよ! 腕が痛いわ!」
「うるさい! あまり騒ぐと痛い目に遭うぞ!」
三好は感情をあらわにし静を叱りつけた。
「まあまあ、三好さん、そんなに叱らなくてもいいじゃないか。可愛いお嬢さんにはもっとやさしくしなければ」
柔和な表情の白髪交じりの男が口を挟んだ。
「エへへ、そうですね。これはどうもどうも」
三好はころっと媚びへつらった態度に変わった。
「それじゃぼちぼちとルールの説明をしてくれないかね」
白髪交じりの男が三好をうながせる。
「そうですね、これは失礼しました。皆様、大変お待たせしました。ではただ今より本日のルールをご説明します」