静 個撮

Shyrock作



第3話「不吉な暗示」

 静は撮影を承諾した。
 しかし承諾した後も静はいたって慎重である。

『こんにちわぁ~静ですぅ。撮影をお受けするにあたりまして、二つだけ条件があります。え~と、撮影の場所はウィークリーマルのスタジオでお願いします。それと、服装ですけどぉ、ミニなどのちょっとセクシー程度までならOKですが、下着とか水着はお断りします。そんな条件でよろしければ、お受けさせていただきたいと思っています』

『ウィークリーマルの三好です。お世話になります。二つの条件、いずれも承知いたしました。当社といたしましては、静さんのような有名ネットアイドルさんにご出演いただくだけで、十分効果があると考えております。どうぞよろしくお願いします。
 つきましては撮影日ですが、急なお話で申し訳ありませんが、来週1月10日月曜日のご都合はいかがでしょうか。できれば午前10時に当社にお越し願えないでしょうか。もしもご都合が悪いようでしたらご連絡ください。編集の事情でかなり押しているため、大変無理を申し上げます。なお、連絡はメール以外にお電話でも結構です。営業という立場上会社に不在の場合が多いので、携帯番号を書いておきますね。では今後ともよろしくお願いいたします』

 今日は1月6日。撮影日の1月10日は4日後に迫っている。
 話の流れから了解はしたものの、静としては一抹の不安を隠しきれなかった。
 静は友人のアキコに電話をした。

「アキコ? 雑誌の撮影OKしたよ」
「そうなの!? 私、慎重な静のことだし、断るんじゃないかな、って思ってたんだけど、よく思い切ったね。がんばってね!」
「うん、がんばるぅ」
「静さあ、もし、不安だったら、私、着いてってあげようか?」
「ええっ!? アキコが着いてきてくれるのぉ? 嬉しいけど、1月10日は平日だし仕事があるじゃないの。やっぱりいいよぉ。だいじょうぶだから。心配しなくていいよぉ」
「そう? だいじょうぶ? 今の仕事、軌道に乗ったばかりだし、やっぱりちょっと休みにくいし、静、1人で行ける?」
「だいじょうぶだよ、アキコ。静だいじょうぶだから。しっかりした事務所みたいだし、場所も佐加江にあるんだって。それにカメラマンも女性だと言ってた」
「佐加江にあるんだ。女性カメラマンだったら静も安心だね」
「うん。でも女性というのは安心だけど、ちょっとだけ残念かもぉ」
「あははは、それは言えてるね。同じならカッコいい男性カメラマンだったらよかったのにね」
「アハ、そんな贅沢いえないよぉ。第一、静のために、女性カメラマンを準備させるみたいだし」
「そうなんだ。かなり静に気を遣ってるみたいだね。じゃあ、がんばってね。でも、どうしても着いて来て欲しかったら言ってね。何とかするから」
「うん、ありがとう。でもだいじょうぶだからぁ。じゃあね、アキコ」

 初めてのモデル体験を控えて、かすかによぎる不安。
 静としてはアキコの好意に甘えたい気持ちはあったが、アキコに有給休暇を取らせてまで付き合わせるべきではないと思った。
 撮影はわずか2、3時間だというし、すぐに終わるだろうと静は考えた。

◇◇◇

 1月9日、撮影日の前日の夜、三好からメールが届いた。

『ウィークリーマルの三好です。お世話になっております。明日はどうぞよろしくお願いいたします。
明日の静さんの交通手段のことですが、当社からお車でお迎えに上がらせていただくことにしました。当社にとっては大変大事なモデルさんですし、せめてそれぐらいのことはさせていただくのが筋かと思いまして。
お迎えに上がりますのは、山根という女性カメラマンですので、どうぞご安心ください。ただしご自宅までと言うことになりますと、正確なご住所をお聞きしなければなりませんし、プライバシーの問題もあろうかと思いますので、待合わせ場所は以前静さんからお聞きしておりました最寄り駅Aにさせていただきます。待ち合わせ時間は午前9時と言うことにさせていただきます。もしご質問等がございましたら、何なりと私の方へご連絡ください。
では明日よろしくお願いいたします。』

「ふ~ん……A駅までクルマで迎えにねぇ……女性カメラマンがぁ……う~ん……まぁ、いいかぁ、大変大事なモデルさんなんて言ってるし、アハ。明日なにを着て行こうなぁ~」

 静はウォークインクローゼットに入り、明日着る服装に頭を悩ませた。

「上は黒のニットにしようかなぁ、うぅん……どうしよぉ……、う~んう~ん……喉が渇いてきたぁ、お茶にしよぉ」

 静はキッチンに行き冷蔵庫を開ける。
 アイスコーヒーのボトルを出しテーブルに置いた。
 そしてカップボードから透明のグラスを取ろうとした時、手にしたコップにひびが入っていることに気づいた。

「うわっ、やばっ……コップが割れてるぅ。でも洗いものしたとき割れてなかったのに……何かやな感じ……」

 静は首をかしげながら、別のコっプを取り出しテーブルに置いた。
 トクトクとアイスコーヒーを注ぎ込む。
 静はホットコーヒーも飲むが、どちらかといえばアイスコーヒーを好む。
 琥珀色の液体に濃縮されたミルクを注ぎ、ストローで混ぜる。
 今しがた起きたちょっぴり不吉な出来事が心をかすめたが、さほど気にすることもなく、静は喉を潤しながら、明日の撮影風景を思い描いていた。




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