静 個撮

Shyrock作



第2話「ネットアイドルの思惑」

 それから1日が経過し、撮影依頼のことは静の脳裏からすっかりと消えていた。
 夕食の後、パソコンを開いてみると、またもや昨日と同じ雑誌社からメールが届いていた。

「あら、また同じ会社からメールが来てるぅ。もう、しつこいんだからぁ……」

 静はすぐにゴミ箱に捨てようとしたが、一応目だけは通してみることにした。

『静さん、こんばんわ。週刊誌ウィークリー・マルの三好です。度々メールをお送りして申し訳ございません。今日も静さんのサイトを拝見させていただいて、【当誌特集のトップは、やっぱりこの人しかいない!】とさらに意を強くしました。どうか掲載に際しまして、撮影のご協力をお願いできないでしょうか。時間的にもそんなにご迷惑はお掛けしないようにします。それから静さんにご安心いただくため、撮影は当誌中部支店のスタジオで行ないたいと思います。カメラマンは当誌きっての腕利きをスタンバイさせますので、静さんの美しさを最大限に出せるものと信じています。それから、ひとつだけ言いにくいことなのですが、謝礼は交通費にちょっとプラスした程度なんです。無理なお願いをしておきながら、大変申し訳ないのですが。では、静さんからのよきご返事をお待ちしております。
週刊誌ウィークリー・マル 製作部三好』

 静はメールを読み終わった後、大きくため息をついた。

「静のサイトをしっかりと見てくれたんだぁ。それにしてもすごく熱心な人だなぁ。でも静ぅ、プロのモデルじゃないのに。他の人じゃダメなのかなぁ……」

 静はメールを閉じた後、ホームページの更新作業に取り掛かった。
 キーボードを叩き作業を始めてはみたが、またしても先ほどのメールが浮かんできて作業が思うように捗らない。
 受けるつもりはない。
 断ろうと思っている。
 だが興味が全くないわけではない。
 いまだかつてプロのカメラマンに撮ってもらったことなどないから、興味があってもおかしくはないだろう。

 静はふと携帯に手を伸ばした。

「静ぅ。ねぇ、今いい? ちょっと聞いたいんだけどぉ?」

 静が電話した相手は高校時代からの親友のアキコだった。

「実はさぁ、ある有名な雑誌から撮影したいって依頼が来たのぉ、で、静は断ろうと思ってるんだけどぉ、アキコならどうする? やっぱり受けないよねぇ? メールを送って来たんだけど相手は全然知らない人だし、ちょっと恐いかなぁって思ってるんだけどぉ……。うん……うん……うん、撮影はなんかその会社のスタジオでするとか書いてあったよぉ。うん……うん、そう……うん……うん……そうなのよぉ……うん……」

 静にはびっくりするような大胆な一面もあるが、ふだんはいたって慎重な女性である。
 重要なことだと思えば、友人に意見を求めることもある。
 アキコから返って来た答えは、意外にも前向きなものであった。

「せっかくのチャンスなんだし、その誘い思い切って受けてみれば~? 週刊ウィークリー・マルって、めちゃ有名な雑誌じゃないの~。そんなチャンス滅多にないよ~。私なんて三流雑誌すら声掛けてもらったことないもの。静はチョー可愛いんだから~、色々とチャレンジすればいいと思うの~。若いうちって無限の可能性があると思うのよ~。それに何よりも一流雑誌に載れば一生の想い出になるよ~」

 静は現在、ネット界に名を轟かせている有名ネットアイドルではあるが、将来、有名タレントや女優になりたいという気持ちは全くなかった。
 だからアキコのいう【無限の可能性】と言う言葉に、大して心ときめくものはなかった。
 しかし、アキコの言葉に静の心を動かしたものが一つだけあった。
 それは【一生の想い出】という言葉だった。
 静は常々、想い出は大切にすべきものと考えていた。
 想い出はその人の掛け替えのない財産なのだから。

 静は週刊ウィークリー・マルの三好に返事を書いた。

『はじめましてぇ。静ですぅ。この度は雑誌掲載のお誘いをいただきましてありがとうございますぅ。前向きで検討したいと思いますので、もしお願いすることになれば、どうぞよろしくお願いしますぅ』

 三好から直ぐに返事のメールが返って来た。

『静さん、こんにちわ! 週刊ウィークリー・マルの三好です。検討していただけるんですか? すごく嬉しいです! 光栄の至りです!』

 メールの書き出しには、三好の喜ぶ様子が溢れていた。

『まだお受けいただけるかどうか決まっていないうちから、申しあげるのもなんですが、当社のスタジオは市の中心・佐加江にあります。とても賑やかな所ですが、静さんはもちろんご存知ですよね? 撮影についてですが、静さんのプロポーションの良さを生かすため、できればミニスカートでお願いしますと思っています。それから、カメラマンですが、静さんに安心していただくため、女性のカメラマンをスタンバイさせます。お時間は2時間以内で終わるようにしたいと思っています。では、十分にご検討いただきまして、できることなら、良きご返事をくださるよう首を長くして待っておりますので、どうぞよろしくお願いします。』

「首を長く? アハハハハハハ~、まるでキリンさんみたい。なんか面白そうな人ぉ。あ、でも、カメラマンは女性なんだぁ、ちゃんとした会社みたいだし、別に男でも構わないのにぃ~。アハ」

 心の中で、まるで雲のように広がったり縮んだりしていたものが、ゆっくりと一つの形になっていった。

(今回だけ受けることにしよう……)




前頁/次頁












表紙
自作小説バックナンバー
トップページ




inserted by FC2 system