静 個撮

Shyrock作



第1話「週刊誌からの撮影依頼」

 静は個人撮影等のモデル依頼はかたくなに断り続けている。
 それは自らのホームページのトップにも「個撮モデル等のお仕事は一切お受けしておりません」とはっきりと明記していることからも明らかであった。

 卓越した美貌とプロポーションを誇り、明るい性格と人当たりも良さ、そして、サイト運営や掲示板などファンへの対応も熱心であるところから、2004年には有名なネットアイドルとしてネット界に一躍名を轟かせることとなった。
 そうなれば必然的にマスコミからの取材、広告用モデルとしての依頼、素人カメラマンからの撮影依頼も増加した。

『私はアマチュアカメラマンのAといいます。このたびサイトを拝見し、静さんの美しさ・可愛さに魅せられました。もしよろしければ、静さんを撮らせてもらえませんか。ささやかですが謝礼はさせていただきますので』
『写真サイトを運営しているB社と申します。地元まで出向いても構いませんので、ぜひ静さんを撮らせてくれませんか』
『一目見て静さんのファンになりました! オレ、カメラやってるんです! ぜひ静さんを撮らせてください!』

 静の元にこのような撮影依頼のメールが頻繁に届いていた。
 自身を高く評価してくれることには感謝していたが、反面、撮影には危険性が潜むことも十分理解していた。
 かつて、実直なカメラマンを装い女性を騙し、ホテルに連れ込まれて暴行を加えられた、という事件も記憶に新しい。
 また、静の友人も普段から『写真は私が撮ってあげるから、撮影の依頼は軽く受けちゃだめよ』とも言ってくれている。
 静は性格的に大胆な一面も持ち合わせていたが、撮影に関しては極めて慎重に対応した。

 年も明けた2005年早々、静の受信ボックスへ1通のメールが届いた。

「また撮影の誘いかぁ……ん……?」

『はじめまして。私は週刊誌ウィークリー・マルの三好と申します。1月31日号に【今年イチオシのネットアイドル!】と題しまして特集を組む予定です。つきましては、静さんにそのトップページを飾っていただきたくてメールをさせていただきました。
 静さんのホームページトップには『個撮等お仕事は受けません』と書いておられることは重々承知のうえでお願いするのですが、何とかご協力いただけないでしょうか。手前ミソな話になって大変恐縮ですが、当誌は週刊誌としては国内ナンバー1の発行部数を誇っております。静さんのまばゆいほどの美しさと溢れんばかりの魅力をもっともっと広く世間に知ってもらうためのひとつの機会ではないかと思います。
 お忙しいこととは存じますが、どうかご検討のほどよろしくお願いいたします。静さんからの良きご返事をお待ちしています。』

「ウィークリー・マルと言えば名前はよく聞くけどぉ……でも読んだことはないなぁ。う~ん、う~ん……でもやっぱりやめとこうかな。だってこのメールだけじゃ本物かどうか分からないし、それにどんな人なのかも知らないからやっぱり不安だぁ。自撮りが一番安心だよぉ~」

 静はメールを読み終わった後、開いていたブラウザを閉じパソコンの電源を落とした。

「今日はクルマの講習だぁ。あぁ、面倒くさいなぁ。でも早く免許欲しいからがんばらなくちゃ。さぁ、着替えて出かけよっと」

 自動車教習所での2時間の講習を終えた静は、帰宅を急いだ。
 マンションは1人暮らしだが、可愛いペットが静の帰りを首を長くして待っている。
 そう考えると外での時間はできるだけ無駄に費やしたくなかった。

「あ、そうだ。コンビニに寄らなくては」

 静はふだんからそれほど買い溜めする方ではなかったので、スーパーやコンビにはまめに足を運んでいた。
 幸いマンションの近くにコンビニが2軒あるので不便はない。

「晩ご飯は何にしようかなぁ。あ、それからお菓子も少し買おうかなぁ~」

 静は弁当と予備のインスタント食品やヨーグルトなどを買ってレジーに向かった。
 レジーへ向かう途中、ふと、ブックスタンドが目に入った。
 今売れ筋の雑誌がずらりと並んでいる。
 滅多に雑誌を買わない静であったが、今日来たメールがふと頭に浮かんだ。

「え~と、週刊ウィークリー・マルだったかなぁ? どれだろう」

 静はブックスタンドを端から順に目で追った。

「ウィークリー・マルってトレンド誌ではなさそうだし、もしかして男性誌? 静ぅ、よく知らないもん~」

 まもなく静はブックスタンドの右から3列目の最上段に目的のものを見つけた。

「あっ、あった。これだぁ」

 表紙は今売れている若いタレントの写真で彩られていた。
 表紙の見出しには芸能人のゴシップ等が、大きな文字で書かれている。

「芸能雑誌かな? どんなのかなぁ?」

 静はページをさらさらとめくった。
 はじめのページは見開きで有名な芸能人の写真や政治家らし人物の写真も載っている。

「ふ~ん、結構ふつうの週刊誌なんだねぇ。そうかぁ、これに載せたいって言ってるんだぁ」

 静はしばらくの間、しげしげと眺めていたが、まもなくページを閉じ週刊誌をスタンドに戻してレジーへと向かっていった。




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