もえもえ おいしい話(改)

Shyrock作


<登場人物>

草木もえもえ 二十歳。大学二年生。博多っ子。153センチと小柄だがスタイル抜群。大きな瞳と甘くハスキーな声が特徴。

中村湊     四十五歳。芸能プロダクション『ビューロー企画』代表取締役。恰幅がよい。

細田壮太   ニ十六歳。芸能プロダクション『ビューロー企画』チームリーダー。眼鏡が似合うインテリ男子。

横山伸治   ニ十四歳。芸能プロダクション『ビューロー企画』主任。茶髪ロン毛。 

車山俊介   三十六歳。謎の医師。





第1話「スカウト」
第2話「芸能プロダクション」
第3話「意外な面接」
第4話「車山医師」
第5話「スリーサイズ測定、そして」
第6話「羞恥の測定」
第7話「膣鏡と潤滑油」
第8話「目隠しの正面だあれ?」
第9話「これって膣測定ですか!?」
第10話「肉裂から溢れるしずく」
第11話「三所攻め~そして絶頂へ」
第12話「駅前の夢」




第1話「スカウト」

「もうすぐ夏休みだ! 今年こそ海外旅行に行くぞ~! しっかりバイトしてお金ば貯めな。なんバイトばしようかな?」

 もえもえは大学の帰りに書店に寄ってバイト情報誌を買うことにした。

「う~ん、よかバイトなかね? どこも給料がイマイチばい。家に帰ってからゆっくり見ろ~っと」

 情報誌を買って、駅前に差掛かった時、チラシを配っているスーツ姿の若い男性とすれ違った。
 もえもえがそのまま通り過ぎようとすると、何気に男性が呼び止めてきた。

「あの、すみません」

(げっ? 外見からしてもやけどホスト? 用がなかや……)

 男性の外見から推測して自分には用がないと感じたもえもえは、無視してそのまま通り過ぎようとした。

「すみません!ちょっとだけでいいんです。話を聞いていただけませんか?」

 男性はかなりもえもえに執着しているようだ。
 駅前でもあり人通りが多く、若い女性なら他にもいっぱい通行していると言うのに。

(なして? なしてうちにこだわると? こん人……)

「私、忙しいんですけど……」
「お急ぎのところ申し訳ありません。そんなに時間を取らせませんので」

 もえもえは振り返って男性を見つめた。
 どこの駅前にもよくいるような、茶髪でロン毛、人工的な日焼け、ダークスーツと濃い色のシャツ。
 顔はそれなりに美形であり外見から察してホストと思われる。

(ホスト? うちには全然、用がなかっちゃけど……)

 もえもえは訝しげに思いながらも、すぐに立ち去るのも愛想がないと思い、一応話だけは聞くことにした。
 男性は名刺入れから名刺を取り出しもえもえに渡した。

「あのぅ、僕はこういう者なんです」

 名刺には次のように書かれていた。

『株式会社ビューロー企画 主任 横山伸治』

「で、私にどんな用ですか?」
「はい、実はあなたが女優の『加藤山あい』さんと大変似ておられるので、声を掛けさせてもらったんです」
「ええっ? 私が? 女優の『加藤山あい』と似てるって? そんなこと言われたのは初めてだなあ」
「はい、よく見ると部分部分は少し違うようですが、全体的な雰囲気がかなり似ておられるように思います」
「そうかなぁ……。それで似てたらどうって言うの?」
「はい、実は我々はVシネマのプロモートを担当しておりまして、今度、有名女優さんのそっくりさんばかりを集めて作品を作ろうと考えているんです」
「へえ、そっくりさんばかりをね~」
「はい。で、このように街頭に立ってそっくりさんを探しているという訳なんです。そこへあなたが通りかかった」
「でも私なんかにできるのかなあ……。以前、放送部やってたから少しくらいはお喋りは自信あるけど、と言っても素人だしなぁ」
「いえいえ、そんな心配はご無用です。こんなこと言っちゃなんですが、最初ですからセリフはほんのわずかですし、撮影前に何度か練習もやっていただきますので。それから出演料ですが、できる限り沢山お支払いしたいと思ってます」
「え~!? 出演料をたくさん? わあ、魅力的な話だな~」
「今は具体的に金額は言えませんが、期待に応えられるようがんばりたいと思ってます」
「ふむふむ、ちょっと考えてみようかなあ」

 男性は更にもえもえの心をときめかせるような言葉を続けた。

「今回出演していただいたあと、ディレクターなどスタッフの評価が高ければ、二作目以降もご出演できるよう手はずを整えますし、本格的な女優業へのステップになるかも知れませんね。まあ、その辺はその人の今後の努力次第と言えるでしょうけど」
「ふ~ん、そうなんだぁ、女優かあ。すごくいいお話だけどやっぱり私にはちょっと荷が重いんじゃないかなあ……」
「いえいえ、荷が重いなんてことは決してないと思いますよ。僕もプロですから人を見抜く目は持ってるつもりです。あなたならきっとやってくれる、それだけの素養を持った人だ、と僕は直感的に感じたんです。また、それだけの優れた容姿をお持ちなんですから、最大限にご自分を活かさなければ損だと思うんです。夢に向かってチャレンジするのも悪くはないと思いますよ」
「優れた容姿? そうかなあ、でもそう言ってもらえると嬉しいなあ。夢に向かってチャレンジか……。まあ、ちょっと考えさせてください」
「ええ、結構ですよ。でも今月末で締切りしますので、できるだけ早めにご返事くださいね。事務所は天神の……」

◇◇◇

 もえもえは就寝前、バイト情報誌をめくりながら、ふと駅前で勧誘をしてきた男性の言葉を思い出していた。

「う~ん、平凡にコツコツ稼ぐんも悪うはなかばってん、Vシネマに出るんも魅力的だなあ。大学卒業後、企業とかに就職したらもうこぎゃんチャンスは巡って来なかやろうし、在学中ん今やけん思い切ったことにチャレンジするんもよかかも。よし、明日電話しよう」




第2話「芸能プロダクション」

「はい……ええ……はい……分かりました。では、午後一時にお伺いします」

 ビューロー企画に電話をしたもえもえは、心をときめかせながら浴室でシャワーを浴びた。

「なんかドキドキするなあ。面接ってどぎゃんことばするんやろう? 学校んこととか趣味んことかいな? どう答えようかいなあ? やっぱりありんままがよかかいな?」

 浴室から出たもえもえはドレッサーに向かいながら、髪と顔の手入れを始めた。

「なん着ていこうかな? 硬か会社関係やなかけんちょこっと派手な方がよかかも。キャミはちょこっと早かしにゃあ、え~と、チューブトップん上に薄かカーディガンば羽織って、……おおっと、やっぱ博多弁は使うちゃやばかかにゃ? 標準語~標準語~」

 もえもえは鏡を覗きこみ、カールビューラーを使ってすでに十分長い睫毛をなお一層引き立たせた。

「うん、これでよし! そしたら行こうかなあ」

 もえもえは梅雨が明けて本格的な夏の到来を感じさせる陽射しの下、颯爽と街に繰り出した。
 水色のタンクトップの上には白いカーディガン。
 スカートは白のミニタイト。
 履物は大好きなかかと高めのサンダル。

「う~ん、暑かねぇ。日傘ば持ってくればよかったなあ」

◇◇◇

 目指す事務所は繁華街から少し外れた雑居ビルにあった。

「あった! こんビルだあ」

 エレベーターホールの案内パネルで目的の『ビューロー企画』を探してみた。

「う~む、たくさん会社が入っとるんばい。え~と……あっ、あったあったとばい。ビューロー企画と書いてある」

 事務所はビルの最上階のようだ。
 もえもえはエレベーターに乗ると、十四階のボタンを押した。
 階層を示す点滅ランプが十四階へと近づいていく。
 ビルに入るまでは悠然と構えていたもえもえであったが、会社が近づくにつれ何やら妙な胸騒ぎがする。

「う~ん、やっぱりやめておこうかなあ? いやいや、ここまで来よるんやけん、勇気ば出して行ってみようとよ。何事も経験が大事だもんね」

◇◇◇

 オフィスのドアには『ビューロー企画』と社名プレートが貼ってある。
 メタルのドアなのでオフィス内が見えない。
 もえもえは大きく息を吸うと、三回ノックをした。

「こんにちは。昨日電話をしました草木もえもえです」

 するとドアの向こうから男性の声がした。

「どうぞ、入ってください。お待ちしてましたよ」

(ほほう。私を待ってくれてたんだ)

「失礼します!」

 もえもえは悪びれることなく、ドアを開け中に入り、すぐにお辞儀をした。
 頭を上げると、正面の椅子に恰幅のよい中年の男性が腰をかけ、その横にはおそらく二十代とみられるスリムな男性が立って、もえもえをじっと見つめていた。

「草木もえもえです。どうぞよろしくお願いします」
「私が社長の中村です。今日はよく来てくれましたね。おおっ、確かに似てるじゃないか!」
「似てるって……『加藤山あい』にですか?」
「うん、『加藤山あい』にそっくりだよ!さすがスカウトマンとしての横山君の目は確かだね!」
「私、そんなに似てますか? 自分ではそれほど似てるとは思わないんですけど」
「自分で自分のことってなかなか分からないものですよ。でも瓜二つです。はい、内定!!」
「ええ!? もう内定なんですか?」
「はい、今回は有名女優のそっくりさんを探していましたから、即内定です」
「じゃあ、Vシネマに出れるんですか?」
「はい、あなたならおそらく出演できると思いますよ。ただ、今から簡単な面接と適性検査は受けていただかないといけないですけど」
「面接と、適性検査ですか?」
「はい、すぐに済みますのであまり緊張しないようにしてくださいね」
「はい、分かりました」
「あ、そうそう、ギャラのことを先に説明しておきましょう」
「はい! お願いします!」

 この夏休みには絶対行きたい海外旅行。
 そのためにはバイトでしっかり稼がなくては、と思っていた矢先に突然飛び込んで来たおいしい話。
 中村社長がギャランティーの話を持ち出したとき、芸能界の出演料に関してまったく無知なもえもえは、爛々と目を輝かせて熱心に聞き入った。

「そうだね。今回は初出演なので三十万円と安いけどよろしいですかね?」
「えっ! 30万円も……ですか!? うわ~、すごく嬉しいですぅ!」

 もえもえは嬉しくて喜びを隠し切れない。

「それは良かった。そう言ってくださるとこちらとしても助かります」

 中村社長は安堵のため息を漏らした後、にっこりと微笑んだ。

「それじゃあ、今から面接をしますが、その前に、この書類に印鑑を押していただけますか? 印鑑はお持ちですね?」
「はい、こんなのでいいですか?」
「はい、結構ですよ。じゃあ、ここに押していただけますか?」

 中村社長は小さな文字がぎっしりと埋め尽くされた書類を差し出した。
 もえもえの目に書類の一番上に記されたタイトルが飛び込んで来た。

『誓約書』

(ふ~ん? なんかろう? ギャラとか書かれた契約書みたいなものかいな。あんまりあれこれと聞いて気分ば害してもいけんし……まあ、いいか……)

 もえもえはしっかりと朱肉を付けて、中村社長が示す個所に押印した。




第3話「意外な面接」

「書類はこれで結構です。では今から、いくつかの質問をしますので、できるだけ正直に答えてくださいね」
「正直に? はい、分かりました」
「細田君、記録の用意を」
「はい、社長、準備はできています」

 ほっそりとした体型の男性は名前も細田と言うらしい。
 眼鏡を掛けて少し神経質そうな印象である。
 細田はパソコンの前に座り、入力の準備をしている。
 中村社長が質問を開始した。

「では、草木もえもえさん、いくつか質問しますね」
「はい」
「あなたの初体験は何歳でしたか?」
「えっ!? 初体験って……あのぉ……もしかしてアレ……のことですか……?」
「はい、アレです」

 中村社長の思いがけない質問に、もえもえは驚いた。

「やっぱり答えないと……いけませんか?」

(もう、なしてそげん質問ばすると?)

「強制はしませんが、今後出演いただく役柄などのためにも、できるだけご自分をアピールしておいてくださる方が何かと有利だと思いますよ。まあ、嫌なら無理にお答えいただかなくても構いませんが」

(そうなんや。自分ばアピールする方がよか役が廻って来そうばい。ここは思い切って答えた方が良さそうばい)
「16歳です……」

 社長はニッコリと笑って質問を続けた。

「なるほど、16歳ですか。それで、そのとき痛かったですか? それとも気持ち良かったですか?」
「気持ち良いという感覚はなかったです……痛かったです……」
「分かりました。では話題を変えて」

(ほっ、良かったばい……もうエッチな質問は嫌だもん……)

「最近いつセックスをしましたか?」
「えっ!? まだ、そう言う質問ですか……?」
「はい、質問はこれでおしまいです。答えなくても構わないんですよ」
「いいえ、言います……。3か月前です……」
「ほほう、結構間隔が開いてますね? 長い期間セックスをしないと身体が欲したりしませんか?」
「そ、そんなことは全然ありません!」

 もえもえは毅然と答えた。

「ほほう、欲したりしないのですね? それは失礼しました。では面接を終わります」
「え? もう終わったんですか? ほっ……」
「はい、終わりました。あなたの経歴は提出された履歴書を見れば分かりますので、重ねてお聞きするつもりはありません。さて、では今から適性検査を行いますので、奥の会議室へ移動しましょう」

 もえもえは中村社長たちとともに会議室へと移動した。

◇◇◇

 四人掛けのテーブルに案内されたもえもえは、細田からA4サイズの1枚のペーパーを受け取った。

「これは練習用の台本です。これをできるだけ感情をこめて読んでみてください」
「はい、分かりました……」

 台詞は台本に書いてある文字を間違えないように話すということではない。台詞を覚えて自分の言葉にすることが大事なのだ。
 もえもえが受け取った台本の登場人物は、若い女性で、元気で、そして少しおっちょこちょいなようだ。
 もえもえは登場人物のイメージを思い描いた。

「いかがですか? 準備はできましたか? はい、では始めてください」

『せんぱーい! おはようございます! あの、今日なんですけど、もし良かったらいっしょにお昼にランチいきませんかー!? あれ、何を笑ってるんですか? お昼にランチ? お昼にランチ…… あー! いっけない! ご、ごはんいきましょー!』

「はい、オーケー!」

 中村社長が手を叩いた。

「なかなかのものじゃないですか。演劇部にいたの?」
「いいえ、放送部にいました」
「適正検査も合格です。では、最後に身体検査をしますので、上着を脱いでくれますか?」
「えっ!? 身体検査があるんですか?」

(本当に大丈夫かなぁ。身体検査って一体どげんことばするんやろう?)

「ご心配には及びません。学校で行なう身体検査のようなものですから。すぐに済みますので」
「そうですか……」

 身長と体重は履歴書に書いてあるし、大病も患ったことがなく健康面もまったく問題がない。
 いったい何の検査をすると言うのだろうか。
 もえもえは一抹の不安を覚えながらも、心象を損ねてはいけないと思い、ゆっくりとカーディガンを脱いだ。

「車山先生。ではお願いします」

(え……?先生って……?)

「はい」

 隣の部屋からドアを開けて白衣を着た男性が現れた。歳は30代半ばぐらいだろうか。
 風体は確かに医者風なのだが、髪がショートレイヤーベースのベリーショートで、サイドと襟足はすっきりと刈り上げ、トップ部分は長さを残しナチュラルパーマの仕上げ。どう考えても医者には不相応なヘアスタイルであった。

「車山先生、ご紹介いたします。こちらの女性は本日オーディションを受けに来られた草木もえもえさんです。草木さん、こちらは我がプロダクション顧問医の車山先生です」

 もえもえは車山の方を向いて、ぴょこんとお辞儀をした。

「草木もえもえです。よろしくお願いします」
「車山です。どうぞよろしく」

 車山は言葉少なに挨拶をかえし、もえもえの顔を穏やかな表情で見つめた。
 先ほどまではどぎまぎとしていたもえもえであったが、車山に挨拶をしたあとは少し気持ちがほぐれたように感じた。

(ふうん、結構よか感じん先生やなか、ばり優しそうやし。うちんタイプかも)




第4話「車山医師」

 もえもえは同年代の男性よりも、年上の男性が好みである。
 以前、同世代の男性と交際したことがあったが、自己中心で、ここ一番と言う時に頼りにならなかったり、こちらが甘えたいときに逆に甘えてくるなど、よい記憶が一つもなかった。
 それ以来いつしか、包容力のある大人の男性との出逢いを求めるようになっていた。
 包容力のある大人の男性……それは女子大に通うもえもえにとって、なかなか出逢うことのかなわない別世界の男性といえた。

 中村社長と細田に対して抱いていた警戒心が、車山の出現によってわずかだが薄らいだような気がした。
 もちろん車山に関してはまったく未知の男性なのだが。
 ただし警戒心が多少薄らいだとはいっても、まもなく三人の男性前で身体検査をされるわけだから、もえもえの心は決して穏やかではなかった。
 心が不安定になっているもえもえに、車山からさらなる指示があった。

「じゃあ、検査を始めましょうか? え~と、そのタンクトップとスカートは脱いでもらえますか?」
「えっ? タンクトップの下はブラジャーしか着けてないんですけど……それとスカートも脱ぐのですか……?」
「はい、両方脱いでください」

 車山の口調は穏やかではあったが、医者ならではの威厳のようなものが漂っている。
 もえもえはためらいがちにタンクトップを脱ぎ始めた。
 まもなく男たちの前に、タンプトップと同じ水色のブラジャーが現れ、よく引締まった腹部と細いウェストがさらされた。
 細身だがバストは意外に大きく、優にEカップはあろうかと思われた。
 タンクトップを脱ぎ終えたもえもえは、はにかみながらポツリとつぶやいた。

「あのぅ……すみません……。車山先生以外の皆様も、ずっとここにいらっしゃるんですか?」

 医者である車山は仕方がないが、はたして中村社長や細田までが身体検査に同席する必要があるのだろうか。
 もえもえはさりげなく医者以外の退席を申し出たのであった。
 しかし中村社長はもえもえの希望を軽くいなした。

「私たちも同席させてもらいます。私たちの仕事は次世代をになう女優を発掘し、そして育てることにあります。そのためには、先ず女優志願者の適性を見つけることから始めなければなりません。体格や性格を知ったうえで、その人にふさわしい役柄を決めます。その人のチャームポイントはどこか? そしてアピールすべき点はどこか……。そのためには、面接だけではなく身体検査も同席する必要があるのです。ご理解いただけましたか?」

 中村社長のまことしやかな説明に、もえもえとしては頷かざるをえなかった。

「はい、よく分かりました。どうも失礼しました」
「分かってくださってよかったです。審査されるというのは誰でも不安なものです。どうか気を楽にしてください。では、先生、よろしくお願いします」
「はい。それじゃ、ブラジャーも外してくれますか。それと、ついでにスカートも脱ぎましょうか」
「えっ?ブラジャーとスカートも……ですか?」
「はい、そうです」

 上着だけではないのか。どうしてブラジャーまで外さなければならないのだろうか。
 もえもえの表情は曇った。

(これも審査の一つだよね……)

 不安を隠し切れなかったが、今の状況から指示に従う以外になかった。

「……分かりました」

 しばらくためらっていたもえもえであったが、ようやく決心がついたようで、背中に手を廻し、ブラジャーのホックを外しにかかった。
 しかし、指先が震えてうまく外れない。
 まもなくブラジャーのホックが外れ、支えをうしなったカップがずり落ちそうになったが、危うく手で押さえることができた。

「さあ、ブラジャーを取ってください」
「はい……」

 胸を隠しても無駄だ、とばかりに車山が急いてくる。
 車山の催促に反応するように、もえもえは、ブラジャーから手を離し肩紐も外した。
 ブラジャーが手から放れると、すぐに露出した乳房を隠そうとしたが、つづけてスカートを脱ぐよう指示され、泣く泣くスカート横のジッパーを下ろし始めた。
 肌が羞恥で桜色に染まっている。
 スカートがするりと床に落ちた。
 男たちの突き刺すような視線がもえもえの下半身に注がれている。
 下穿きはブラジャーと同じ水色のフルバックショーツである。
 ショーツ1枚になったもえもえは、車山の前に置かれている丸椅子に座った。
 恥かしさで小刻みに震え、車山の顔をまともに見られない。

 車山がメジャーを手にした。

「それじゃちょっと立ってください」

 指示どおりすぐに立ち上がったもえもえであったが、つい反射的に両手で乳房を隠そうとしてしまう。

「手は退けてくださいね。今からサイズを計りますので」
「は、はい……」
「両腋をちょっとだけ上げてください」

 車山は慣れた手つきでメジャーを背中側から回し、腋の下を通し、端を前面に持ってきた。
 布製なのか、肌触りがやわらかい。

「緊張しないでね。気楽に」
「はい……」

 前に廻したメジャーの両端を、乳房の膨らみの一番下方で合わせて車山は覗きこんだ。

「アンダー……65」
「はい、アンダーバストが65ですね」

 メガネの細田が記録しをしているようだ。

「では、トップ……」




第5話「スリーサイズ測定、そして」

 乳首にメジャーが当たり、少しくすぐったい。
 豊かな乳房の頂上に両端の金具がピッタリと張りついた。

「トップ……86」

 細田が反応する。

「トップバストが86ですね。かなりでかいですね。カップは『E』ってとこですか」
「細田くん、余計なことは言わなくていいです」

 トップバストとアンダーバストの差を即座に計算し、嬉々としている細田に対して、中村社長が注意をした。

 メジャーがバストから腹部へと移行した。

「う~ん、ウェストは56。かなり細いですね」
「……」
「次はヒップ」

 計測がヒップへと移った。
 ヒップサイズは、尻が一番突き出している部分、一番高い部分を測る。

「ヒップ84。よく引き締まったよいお尻をしているね」

 車山医師がもえもえの肉体を褒めたたえた。

「どうもありがとうございます。あ、先生、測定はもう終わりですか?」
「うん、スリーサイズは終わったけど、まだ計らなければならない場所があるんだ……」
「え?まだ計る場所があるのですか?」
「うん……」

 もえもえの質問に対して、車山医師は口ごもった。
 何やら妙な空気が流れる中、中村社長が重い口を開いた。

「え~とね……ちょっと辛いかも知れませんが、女優になるためにはこれもひとつの通過点だと思って我慢して欲しいのです。あなたははきっと大成する人だと思うので。できますね? いいですね?」

 結局、中村社長も遠回しにしか言わない。

「えっ? え……? どういうことですか? 我慢するって……一体どこを測るのですか?」

 身長と体重はすでに履歴書に記入済みだし、スリーサイズだってたったいま計測したばかりだ。
 測定場所がまったく想像できず、もえもえは困惑するばかりであった。

 まもなく中村社長がアイコンタクトを送り、車山医師が真顔で語り始めた。

「はい、では今から陰部を測定しますので、パンツを脱いでソファに仰向けに寝てください」
「えええ~~~!? うそ~~~っ! そんなぁ~~~! 陰部って……もしかして『アソコ』のことですか?」
「はい、そうです」

 車山の落ち着き払ったような態度に、もえもえは腹立たしく思えた。

(いやばい……なんでアソコば計らないかんとか……)

「どうしてですか? どうして女優になるためにアソコのサイズを測らなくてはならないのですか?」
「それはですね……」
「車山先生、それはプロダクションの責任者として私から草木さんにご説明しましょう。草木さん、よく聞いてくださいね。さきほども言いましたとおり、私どものプロダクションでは所属する女優さんの魅力を最大限に発揮していただきたいと常々考えています。そのためにはその女優さんの詳細なデータを管理しておく必要があるのです。なお、情報を外部に漏らすようなことは絶対にありませんのでどうかご安心ください。
 いかがですか? ご協力いただけますか? どうしても嫌だとおっしゃるなら仕方がありませんが……強制はできませんので。ただしその場合は、今回の出演の件は見合わせていただきますので、あしからずご了承ください」

 もえもえは困惑した。

(困ったなあ……。あげん恥かしい場所ば測らる~なんて嫌ばい。ばってんギャラが魅力的やし、ばり女優になる~かも知れんし……どうしようかなぁ……)

 決断に迷っているもえもえに、車山はやさしく語りかけた。

「草木さん、恥かしくてためらう気持ちは十分に理解できます。でもこれら一連の検査はこちらの事務所の方針ですし、それに他の女優さんだってみんな同じ道を辿って来たのですよ。決してあなただけじゃないのです。測定は今回1回限りのことですし、勇気を振りしぼってみませんか? せっかくのチャンスを棒に振ることはないと思いますよ。どうですか?草木さん……」

(そうか、ほかん女優さんも同じような検査ばしと~ったい。それに計るんは今回だけやし。やさしそうな車山先生もそう言いよ~しね。よし、では思い切るとするか!)

 なかなか決心がつかないもえもえであったが、ようやく決断した。

「では……測ってください。私、やっぱり映画に出たいです」

 きびしい表情をしていた中村社長であったが、一瞬にして穏やかになった。

「おお、了解してくれますか? それはよかった。じゃあ、車山先生引続きよろしくお願いします」
「はい、分かりました。では草木さん、パンツを脱いでそこのソファに仰向けに寝てください」
「はい……でも恥かしいなぁ……」

 もじもじしてなかなか脱がないもえもえに中村社長が促した。

「草木さん、車山先生はこの後、医師会の会議に出席される予定なんです。急かせて悪いけど、少し迅速にしてくれませんか?」
「あっ、はい! 分かりました!」

 もえもえはついに覚悟を決めて水色のショーツに手をかけ膝下まで一気にずり下げた。
 男たちの視線は一斉に薄めの黒い翳りに注がれた。
 恥丘がなだらかに膨らんでおり、実に美しい曲線を描いている。
 陰毛の面積が少なめなので、縦に走る筋がはっきりと窺える。




第6話「羞恥の測定」

 片方ずつ足を抜き小さく丸まったショーツを先程脱いだ衣服の下に潜り込ませる。
 その仕草を舐めるように見つめる男たち。
 もえもえは体温が一気に上昇したような錯覚を覚え、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆った。
 中村社長がポツリとつぶやく。

「そんなに恥ずかしがることはないよ。とてもきれいで魅力的な身体をしているじゃないか」
「……あ、ありがとうございます……」

 全裸になったもえもえは恥かしそうに男たちの前に立っている。
 まもなく中村社長からソファに横になるよう促された。
 もえもえは不安な表情を隠し切れないまま、無言でソファにゆっくりと仰向けになる。
 車山医師が細田に指示をした。

「細田くん、そのアイマスクを草木さんに着けてくれますか?」

 車山医師の言葉にもえもえは驚いた。

「先生、どうしてアイマスクなんか着けるのですか? なくても大丈夫なんですけど」
「見えるとドキドキして血圧が上がりやすくなります。精神を安定させるため着けるだけなので、安心してください」
「そうですか……」

 もえもえとしてはアイマスクを着ける方がむしろ不安であったが、これ以上の発言を自重した。
 現時点で出演のチャンスはかなり濃厚といってよいだろう。
 余分な発言から中村社長らの心証を害することになって、機会を逃しては元も子もないではないか。
 もえもえは言われるがままに従おうと思った。

「ではアイマスクを着けますよ」

 細田がもえもえに声を掛けると、パッケージから取り出したアイマスクでもえもえの視界を覆った。
 ふだんからアイマスクなどしないもえもえにとっては、暗闇にはすぐに慣れない。
 馴染みのない男たちの目前で全裸になり、ソファに寝かされ、視覚まで遮られ、平然としていられる女性などまずいないだろう。
 心臓が激しく鼓動する。

「はい、それでは脚を広げてください」

 車山が事もなげにいう。
 医師にとってはふつうの言葉。もえもえにとっては過酷な言葉。

(うわあ、いやばい……ばってん開かおらんと測れんもんね)

 ためらいがちにわずかに太腿を広げるもえもえ。
 すらりと伸びた美しい脚が、緊張のせいでかすかに震えている。

「う~ん、それじゃ測れませんね。もっと広げてくれないと……」

 落ち着いた声で淡々と語りかける車山医師。
 
(え~?もっと開かないかんと?いやばい……)

 もえもえはようやく観念してもう少し脚を開いた。

「う~ん、もう少しかな? もう少し開けますか? そうそう、もう少し、もう少し……」

 車山医師はもえもえの両膝に手を当てて、少しずつ脚を割開いていく。

「いいですよ。そのまま動かないでくださいね」

 さきほどまではわずかにしか見えなかった女の河川は、脚を広げたことによって完全にその姿を現した。
 川を支える左右の土手はこんもりと隆起しており、いわゆる『ドテ高』と呼ばれる名器の形状を呈していた。
 もえもえからは見えないことを良いことに、男たちは股間に顔を近づけ食い入るように覗き込んだ。
 細田や横山にいたっては、今にもよだれを垂らしそうな表情で目を爛々と輝かせている。

 そんな中、車山医師が事務的に告げた。

「では、今から陰部のサイズを測定します」
「……」

 もえもえの緊張が高まり、口の中がカラカラになっている。
 さらには、身体がこわばり無意識のうちに手はソファをつかんでいた。

 やがて股間に冷たい器具が触れた。
 もえもえからはまったく見えないので、不安ばかりが募る。
 測定には医療用ノギスが使われた。
 肉貝の亀裂に沿ってノギスがあてられ、車山医師が真剣なまなざしで陰裂の長さを測定している。
 金属器具の冷ややかな感触が、もえもえの敏感な個所に伝わってくる。
 測定のためとはいえ、ときおり微妙な部分に指が触れ、もえもえはその都度びくりとした。

 車山医師がサイズを読み上げる。

「陰裂 78ミリ……」

(ふへ~、割れ目ん長さってそげんあるったい! あぁ、早く終わんなかかにゃあ……)

「はい、陰裂78ミリですね」

 性器のサイズを声に出して発表され、もえもえは恥ずかしくて消え入りたい思いであった。
 測定は続く。

(あぁん……くすぐったか。あんまり触れなかで欲しいなあ)

「陰唇幅左辺24ミリ。陰唇幅右辺、23ミリ。ほう~、なかなかふくよかな良い大陰唇をしていますね」

 車山医師が性器について所見を述べた。

(確かにうちん大陰唇はふっくらとした感じだばってん、それってよかね?)

「陰唇高12ミリ。ふむふむ、因みに成人女性の平均が8ミリくらいなので、かなり高い方ですね」
「……」

 そこへ中村社長が口をはさんできた。

「先生、つまりは『モリマン』ってことですか? 男性間では名器ともてはやされておりますが」
「はい、そのとおりです。ただし医学上は『モリマン』とは言いませんがね。ははははは」

「はい、では陰核の大きさを調べます」

(ひぇっ! 陰核って、もしかしたらクリトリスんことやなかと!? やばか~!)

「そんなところまで測るんですか!?」
「はい、測ります」

 車山医師は人差し指と中指をV字にして、そのままの形で、クリトリスの周りの皮をはさみ、そのまま左右の包皮を広げる。
 その瞬間、思わずもえもえは声をあげてしまった。
 車山医師の態度は相変わらずクールだ。




第7話「膣鏡と潤滑油」

 包皮がめくられクリトリスが剥き出しにされると、ゆるやかな空気の動きが粘膜に伝わって来た。
 女性にとってクリトリスは、微風が吹いても分かるほど鋭敏なもの。
 そんなクリトリスにノギスが触れそっと挟まれた。

(ひゃあ~~~! そげんところ、挟んだらダメ~~~!)

「はい、陰核4ミリ……」
「陰核が4ミリですね」

(ふ~、やっと終わりかな?)

「検査はまだありますよ」
(そげん! なんで心が読まる~と!?)

「会唇 35ミリ……」
「陰部から肛門までの長さですね。35ミリと……」

(会唇!? ひぃ~!)

 病院や保健室でもいまだかつて測ったことのない箇所の計測に、もえもえは震撼した。
 それだけではない。
 性器だけで終わると思ったら、さらに恥ずかしい穴まで測りたいという。

「腰をくの字に折り曲げてもらえますか」

 仰向けに寝て腰をくの字に折り曲げると、性体位で言うところの『屈曲位』のような姿勢になってしまう。
 陰裂も完全に露出してしまうだろう。
 耐えがたい姿勢だが、ここまで来て断るわけにはいかない。
 もえもえは懸命に屈辱に耐えながら、腰を丸めてくの字にした。
 目隠しをしていても男たちの強い視線を禁じ得ない。
 肛門に熱がこもりヒクヒクと収縮する。
 ノギスがあてられた。

「肛門 12ミリ……」

(いやだぁ……肛門サイズまで測る必要あると……?)

「肛門 12ミリ」

 測定結果を細田が熱心に入力していく。

「では肛門の皺の数を測ります。草木さん、少しくすぐったいかもしれませんが、じっとしててくださいね」

(げっ! 肛門ん皺ん数ば測るって!? 冗談やろう!?)

 車山医師は器具をあてて皺の数を数えているようだ。
 もえもえは愕然とした。

「肛門の皺 16本……」
「肛門の皺 16本」

 車山医師も記録係の細田も事務的であるところから、検査は極めて真摯に行なわれているようだ。

「疲れたでしょう? 次が最後ですよ」

(ふぅ~、やっと終わりだ~。最後ん検査って何やろう?)

 ホッとしたのもつかの間、もえもえは驚愕の通告を受けた。

「では最後の検査項目は『膣長測定』です」
「ええ~っ?まさか! アソコの深さも測るんですか?」
「もちろんですよ。じゃあ、今から膣鏡を挿し込みますので、しばらく動かないでくださいね。少しだけ痛いかも知れませんが」
「は、はい……」

 膣鏡の素材はポリサルフォン樹脂でできており、直径が約15ミリ、長さが100ミリの計測器であった。
 目盛りはミリ単位で刻み込んであり、膣検診に使用されるクスコとは異なる。
 もしも、もえもえがアイマスクを着けていなければ、器具挿入を拒んでいたかもしれない。

「では、入れます」

 車山医師は亀裂の左右に指をあてがうと少し広げて、膣鏡を構えた。
 もえもえは緊張に包まれ、身体がコチコチに硬くなっている。
 膣鏡が膣口に触れた。

(ググッ……)

「あっ、ちょっと痛いです……」

 いくら男性のシンボルより細いと言っても、潤滑油がないと女性にとっては辛いもの。

「う~ん、かなり狭いですね。性交渉は3か月ほどしてないと言ってましたね?」
「はい……」
「女性はセックスから少し遠ざかり、男性器以外であっても久しぶりに挿入されると痛い場合があります。でもご心配なく、少しだけでも潤滑油を滲ませるとスムーズに入りますので」
「潤滑油を滲ませるって? もしかして……」
「はい、潤滑油を滲ませるために、少しだけ器具を使いますが、危険性はありませんので安心してくださいね」
「器具って何を使うんですか? 変なことしないでくださいね」
「ええ、大丈夫ですよ。それじゃ最初に軽くマッサージをしますのでね」
「マッサージって……どこを……」
「ここです」
「……」

 車山が触れたのは恥骨であった。
 茂みの上を円を描くようにクルクルと撫でる。
 もえもえは愛撫と言っても過言ではないような車山医師の指さばきに息を潜めた。
 もう一方の手が加わり大陰唇に触れた。

「あっ……」
「心配しないでくださいね。マッサージをするだけですから」
「はい……」

 車山医師は肉厚な大陰唇をギュッギュッとつまみあげ指圧を始めた。
 同時に恥丘に乗った指にも力が加わった。

(やだあ~、アソコばマッサージされるのって初めて~。なんか変な気分だな~)

(キュッキュッキュッ……)

(あぁん……ちょこっと感じて来よるかも……や~ん……)

 もえもえは身体の奥の方からかすかに熱いものが滲み出てくるのを感じた。

「草木さん、『もみまん』と言う言葉を知ってますか?」

 突然車山医師がもえもえに尋ねてきた。

「え……もみまん?『紅葉饅頭』のことですか?」
「違いますよ。今、やってる指圧を俗にそう呼ぶんです。女性はこの大陰唇を揉まれると、血流がよくなり疲労が取れるんですよ」
「え? あぁ……そうなんですか……」

(クイックイックイッ……)

 恥骨に加わっていた圧力がゆっくりと下方に向かう。
 同時に、大陰唇を触れていた指が上方へと向かう。
 二方向からの指圧がもえもえの身体の最もデリケートな箇所で合流した。

(うそ! そこはいけんばい!)

 そろりと陰核包皮が拡げられ、クリトリスが剥き出しにされてしまった。
 車山医師が二本の指でやさしく摘まむ。
 突然の刺激に身体をビクンとさせるもえもえ。

「先生、そこは弄っちゃダメですぅ……あ~、こまりますぅ……」




第8話「目隠しの正面だあれ?」

 車山医師は指圧の手を休めることなく、もえもえに答えた。

「大丈夫、大丈夫。潤滑油を出すためにはこれが一番なんです。暫くの間、辛抱してくださいね」
「あ……はい……あのぅ……?」
「なんですか?」
「そこを揉むと疲労が取れるんですか? 逆に疲れるような気がするんですけど」
「ええ、ここには膨大な数の細かな神経が集中していて、揉むと疲労回復するばかりか、性感アップにつながるんです。つまり一石二鳥というわけですね。ははははは」
「あぁ……そうなんですか……はあぁ……はぁ~……」

 その後もクリトリスへの指圧がつづき、ついに耐えきれなくなったもえもえから拒絶の言葉が漏れた。

「あっ、あっ、せ、先生……そこをいじられると、私、変になりそうですぅ……あっ、あっ……やっぱりダメですぅ……もうやめてくだ……あぁん、ああ~っ……」

 もえもえは腰をよじって、車山の『クリもみ』から逃れようとした。

「う~ん、困るんですよね。あんまり動かれると指圧ができないんだなあ……。そうだ、細田君、ちょっと手伝ってくれないかね」
「はい、どのようにすれば?」
「草木さんが動かないように、そうですね、おっぱい辺りをしっかりとつかんでてください」
「はい、承知しました」

(うそ! あん細田とゆう人にオッパイば握らせようとしとる! 車山先生はお医者さんやけん仕方がなかけど、他の人に触られるのは嫌ばい!)

「あの、先生! 私、動きませんから先生お一人でも大丈夫です……」
「まあまあ、そう言わずに。検査を早く終わらせるために細田君にも手伝ってもらいましょう」
「はい……」

 男性の、おそらく細田らしき手が、もえもえの乳房をギュッとつかんだ。

「あっ……」

 ときおりその感触を確かめるかのように、指を小刻みに動かしてくる。

(あぁん、そんな触り方ばしたら感じちゃうよ~。こん人、わざと目立たなかように指ば動かしとるの?)

 うら若き美女の豊かな胸を任されたことで興奮しているのか、それとも、姑息にも意図的に愛撫を加えようとしているのか。
 どちらなのかは判断がつかなかった。
 ただし、胸部愛撫よりも秘所愛撫の方がより感じやすい。
 直接クリトリスを揉みほぐされているのだから、平静を保つことなど所詮無理な注文であった。

 クリュンクリュンとクリトリスが揉みほぐされていく。

「ふぁあ……はふぅ……あぁん……」

 初めのうちは懸命に声を堪えていたもえもえであったが、『クリもみ』をされているうちに、我慢できなくなってついに悩ましげな声を発してしまった。
 それと同時に秘裂からはトロリとした半透明の液体が溢れている。

 しばらくすると、車山医師の低い声が聞こえて来た。

「膣がかなり柔らかくなったと思うので、そろそろ器具を入れても痛くないはずです。では今から器具を挿入しますので、もうちょっと脚を開いてくれますか?」
「えっ? まだ開かないといけなんですか?」

 いくら検査だと分かっていても、やはり開脚することには抵抗がある。
 これ以上開くと、もしかしたら肉襞まで覗かれてしまうかも知れない。
 外性器を見られるだけでも恥ずかしいのに、内部まで見せるなんて耐えがたい。
 そんな暗澹たる気持ちのもえもえであった。
 だけど、ここまで来て検査を中断すれば、せっかくのがんばりがすべて水泡に帰してしまうだろう。
 もえもえは歯を食いしばってこらえながら、大きく脚を開いた。

「細田君、草木さんの脚をちょっと押さえておいてくれますか?」
「はい、先生」

(なして脚ば閉じんごと、押さえてなかといけんと? 私は一体なんばされると?)

 そのとき、突然、ねっとりとした生温かい粘膜状のものが敏感な突起に付着した。

「えっ……っ? そんなっ……!」

(なに? この感触!? もしかして……うそっ!)

 目隠しされてはいるものの、この感触は紛れもなく男性の舌だと、もえもえは確信した。
 たまりかねてもえもえは車山医師に訴えた。

「先生、もしかして……し、舌じゃないでしょうね!?」
「ごほん。心配しなくても大丈夫ですよ。ちゃんと潤滑油を出すための器具を使っていますので」

 もえもえの問いかけに車山医師はすぐに返答した。
 もしも車山医師がクンニリングスをしているのであれば、すぐに返答ができないはずだ。
 と言うことは、やはり思い過ごしだったのか……?

 車山医師との会話中クリトリスへの触感は止まり、会話が終わると同時に硬くなった突起を今度は飴玉を転がすような感触がもえもえを襲った。

(あぁん、やだぁ、やっぱりこん感触は人間ん舌ばい。え? まさか! もしかして!?)

 もしかしたらクリトリスを舐めているのは、車山医師ではなく、中村社長かもしれない。
 直感的にそう思った。

(そ、そげんな……こりゃ大変や! 私はやっぱり騙されと~んかもしれんばい!)

「あのぅ、すみません……」
「どうしたのですか?」

 車山医師が返事をした。

「オーディションをやめて帰りたいんですけど……」
「ここまで来て何を言ってるんですか。出演はもうすぐですよ。がんばりましょう」

 今度は細田が答えた。
 やはり股間に顔をうずめているのは中村に間違いない。
 そのとき、ふと幼い日に聴いたわらべ歌がもえもえの脳裏をよぎった。

『かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀と滑った 目隠しの正面だあれ?』

 べちょべちょと音まで聞こえるほど舐め方が激しくなってきた。

(あぁん……! そげんねぶりちゃいやだ~、ああぁ~、あああ~ん……ああ、だめぇ~)

「あっ、あっ! ダメです! や、やっぱり……帰り……ます! ああっ、あああ~っ……」




第9話「これって膣測定ですか!?」

「帰るなんてもったいない、もうすぐ終わりだからがんばりましょうよ。そろそろ測定用の器具が入りそうですよ? では車山先生、最終検査を頼みます」

 声の主は中村社長であった。
 すでにクリトリスへの触感がなくなっている。
 やはりクンニリングスをしていたのは中村社長だったのだ、ともえもえは思った。

「それじゃ膣鏡を挿し込みますので、大きく息を吸ってくださいね……」

 膣鏡というのは真っ赤な嘘で、もえもえの秘所にあてがわれたのは漆黒の無音バイブレーターであった。

(え……?)

 目隠しをされて何も見えないもえもえは不安そうにたずねる。

「これって膣鏡なんですか……?」

 車山医師は男根の形を模したバイブレーターをもえもえの股間にやさしく擦りつけながら、愛液をクチョクチョと絡め取った。

「はい、膣鏡ですよ」

 たっぷりと愛液をまとったバイブレーターが、もえもえの狭い秘孔に押し込まれていく。
 無音機能を装備しているので、もえもえにはまったく音が聞こえない。
 伝わってくるのは子宮に共鳴する振動だけだ。

「う……あっ……ぁ……」

 ゆっくりと肉壁を広げながら押し込まれていく太い異物に違和感を覚えるもえもえ。
 膣鏡と聞かされてはいるが、あきらかに膣鏡とは違うことを、もえもえは看破していた。

(これは間違いのうバイブや……大変ばい……)

「もう少し奥まで入れるので、少しの間、我慢してくださいね」

 車山医師は強引に捩じりながらバイブレーターを突っ込む。

(ずっ ずぶぶぶぶぶぶっ)

「ひぁっやぁ~~~!」

 もえもえの中に太いバイブレーターが一気に沈め込まれた。

「今、測定中なので、しばらく動かないでくださいね」

 車山医師はそうささやきながら、もえもえの中を激しくかきまわす。

(ぐっちゅぐっちゅぐっちゅぐっちゅ)

「ふぁっ……あん! きゃぅっぅ……んくぅっ……!」

(動かんでって……そげなと無理ばい……! 気持ちよすぎて……あぁん、もうっっ……)

「んぁあっっあん! いゃぁっ! い……いっちゃ……」

 もえもえが絶頂を迎えようとしたその時だった。

「おっと」

(ズルン……)

「っえ……!?……?……く……ふぅ…っ」

 車山医師はバイブレーターを抜いてしまった。

「あ、ごめんなさい。膣鏡が抜けちゃったので、もう一度入れるね」

 再度挿入すると告げられたとき、もえもえはバイブレーターとは異なる気配を感じた。

「ええっ? そ、それって何ですか~!?」

 車山医師はバイブレーターを抜くと、入れ替わりに自身の怒張した肉柱を挿入したのだった。
 秘所に温かな肉感を感じたもえもえは、あわてて拒もうとした。
 しかし細田にがっちりと身体を押さえられていて起き上がることができない。
 たっぷりと愛撫を施されたせいで花弁は潤い、硬くて太い肉柱の進入を容易に許してしまった。
 肉柱はもえもえの深部へと食い込んでいく。

「そんなっ……せ、先生……それって膣鏡と違うでしょう!?」
「いえいえ、これは膣鏡ですよ」

 車山医師が返事をした。
 心なしか息遣いが荒くなっている。

「あっ……あぁっ……で、でも……器具……温かいですね……はぁ……」
「はぁはぁ……最近の測定器は……性能がいいんですよ……膣が冷えないように……温め機能があるので……」

(グッチョ、グッチョ、グッチョ……)

「あぁん……あっ、で、でも……すっごく太いような気がするんですけど……」
「はぁはぁはぁ……おかしいですねえ……直径は……15ミリ程度……なんですけどね」
「なにかもっと太いような……気がするんですけど……あぁ……」
「膣を検査されて……気持ちが昂っているから……そう思うだけですよ……もうすぐ終わるので……しばらく我慢してくださいね……」
「ああっん……は、はい……」

 しかし、挿しこまれた物体は激しく出し入れを繰り返すばかりでいっこうに終わらない。
 測定するのにどうしてこんなに時間がかかるのだろうか、ともえもえは不審に思った。

(やっぱり変ばい……今、入りよ~んな膣鏡などやなか。こりゃ……やだあ~! わたし、エッチされと~ったい~!)

「あっ、あのぅ、先生、今入っているのは……もしかして……」
「はぁはぁはぁ、はぁ……なんでしょうか? 今、測定で忙しいんですけどね……はぁはぁはぁ……」

 どういうわけか車山の呼吸がかなり荒くなっている。

「あっ、ああっ……あのぅ……もしかして私に……はぁはぁはぁ……エッチなことしてませんか?」
「ええっ?……ま、まさか……そんなことするはず……ないじゃないですか」
「あっあっ……そうですよね……」

(あぁ、わたしってなしてここでツッコミば入れんのやろうか? とぼけと~のが分かっと~んに~)

 ほどなく、身体のいたるところに、複数の手や唇らしきものが触れてきた。

「きゃぁ~~~!!そんなぁ~!そんなことされたら、私、困ります~!」
「この際、私たちにすべてを任せて、思い切り感じちゃったらどうですか? どうせ測定が終わるまでなんだから」
「いやぁ~ん! 測定はもう終わりじゃないのですか?」
「もう少しです。ここは感じますか?」
「あぁぁ……」

 生温かい息が耳にかかったと思ったら、何者かが突然耳たぶをペロペロと舐めてきた。

「あぁん……くすぐったい……そこは、そこはダメぇ~~~……」

 耳はもえもえの弱点である。
 耳を舐められ首をすくめていると、今度は手の指に生温かい感触がもえもえを襲った。
 何者かが指を一本ずつしゃぶり始めたではないか。

(ペチョペチョペチョ)

「あぁぁぁぁ……やだぁ~……」

(指ばねぶらる~と何か変な気分になってくるぅ~……)




第10話「肉裂から溢れるしずく」

「ほほう、身体中が性感帯の塊のようですね。じゃあここはどうですか?」

 今度は乳房をギュッと握って乳首をペロペロと舐めて来た。

「ふぁあ~、そこはダメェ~~」

(ペチャペチャペチャ)

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 ピストン運動と性感帯への愛撫は間断なく続き、もえもえの心に燻っていた官能の炎は完全に点火されてしまった。
 抑えようとしても抑えきれない感情は、あえぎ声となって密閉された会議室という空間の中に響き渡った。

 屈曲位で散々攻められたもえもえは、仰向けからうつ伏せに変えるよう指示された。

「はぁはぁはぁ、まだ測定は終わらないのですか……?」
「もう少しだからね。はい、お尻を上げて」
「え? お尻ですか?」

 もえもえは仕方なく肘をソファにつけたまま臀部を少し上げた。

「もっと後に突き出して」
「え? もっと……ですか?」

 バックスタイルで尻を高く突き出す。
 この体勢は女性にとってかなり屈辱的であり、通常は愛する恋人にしか見せることのない姿といってよいだろう。

(クチュッ……)

「ああっ、いやっ……」

 高々と上げた尻の中央を走る肉裂に指が1本挿し込まれた。
 挿し込まれた指は、内壁を擦るような激しいうごめきを見せた。

「くはあ~……あああ~……」

 指は確実にGスポットをとらえ、集中的に攻めてきた。
 Gスポットは女性にとって、クリトリスやPスポットと並ぶ性感帯3スポットと言われている箇所である。
 たちまち尻をブルブルと痙攣させあえぎにあえぐ姿をさらしてしまった。

(クリュンクリュンクリュン)

 慣れた指さばきが性感帯を攻めつづける。

「ああっ! そこはダメェ~! そんなにこすっちゃダメェ~!」

(クリュンクリュンクリュン)

「はふぅ~……、あぁん~……、ううっ、あふ~ん……あ、ああっ、ふぁあ~~~!」

 ぱっくりと縦に割れた肉裂からおびただしく溢れる官能のしずく。
 ソファにぽたりぽたりとしたたり落ちる。
 あえぐもえもえの身体に、さらに男たちの指の数が増えた。
 先程からの愛撫で学んだ指は、いたる箇所の性感帯を攻めつづける。

「はあ~、うう……くふぁ~、ひゃあ~、うう……くう~、ああっ……ああっ……あああ~!……イクぅ! ああ、イッちゃう~~~! くはぁ~~~!」

 取り囲む男たちの手は、ついにもえもえを絶頂へと導いてしまった。

「あああ~~~……イ、イクぅ~~~~~……!」
「じゃあ、そろそろ仕上げといこうかな?」
「……!?」

 何者かがもえもえの臀部をしっかりと掴み、肉の注射針を挿し込んできた。
 肉の注射針は恐ろしいほど硬くなっており、さっそく肉襞を刺激する。

(パンパンパンパンパン!)

 すさまじい速さで律動を繰り返し、激しい空気音がこだました。
 音は膣排気音といわれる女性器から発せられる空気音で、不可抗力の生理現象といえる。

「ああぁっ……す、すごい~……あああ~……ダメェ~……」
「草木さん、ちょっと口を開けてくれないかな?」
「……?」

 言われるがままに、開いたもえもえの口内に、重量感のある肉の物体が押し込まれてきた。

(んぐっ……!んぐぐっ……!)

「これをしゃぶって」
「うぐっ……おえっ……そ、そんなぁ……ごっほごっほ……ううぐっ……」

 拒絶をするいとまはなかった。
 もえもえは苦悶の表情を浮かべながら、口内の侵入物をしゃぶり始めた。

(じゅぱじゅぱじゅぱ……)
(パンパンパン……!パンパンパン……!)

 前方から細田の声がした。

「くうっ、かなり上手いじゃないの! できればもう少し舌を使って欲しいな~」

 要求が次第に図々しくなっていく。
 後方からも声がした。

「ふうふうふう~、その調子、その調子! その調子でもっと腰を振ってみようか?」

 後方にいるのは車山医師のようだ。
 もえもえと交わっている人物がこれで特定された。

(カシャッ、カシャッ……)

 何やら操作音がする。
 おそらくビデオカメラを、消音設定しないで撮影しているのだろう。
 もえもえは急に不安になりたずねてみた。

「はぁはぁはぁ……あのぅ……動画を撮ってるんですか?」
「いい勘だね。そのとおりだよ」

 中村社長の声だ。

「君は今、悲劇のヒロインを演じている」
「ええ~!? もしかしてこれってストーリーの一部なんですか!?」
「そうだよ。女優を志願する若い女性が悪徳プロダクションとは知らずに訪れ、騙されて犯されるというストーリーなんだ。これで君は初出演即ヒロインになれるんだよ」
「そ、そんなっ! それじゃまるでAVじゃないですか!?」
「まるでじゃなくて正真正銘のAVだよ」
「駅前で私を勧誘した人がVシネマだって言ってましたよ! そ、それじゃあまるで詐欺じゃないですか!?」
「詐欺だなんて人聞きの悪いことを言ってもらっては困るね。駅前で君を誘った男性はそんなことは言ってないはずだよ。君の聞き間違いじゃないのかね? それに君は契約書に印鑑も押したじゃないか。あれは出演を了解しましたと言うことだよ。だから、しっかりと演技をしてもらわないと困るんだよな~」
「そ、そんなあ~!ひどい~!」




第11話「三所攻め~そして絶頂へ」

 中村社長と会話を続ける横合いから車山医師が割り込んできた。

「社長との問答はそのぐらいにして、もっと演技に身を入れてくれないかな~?」
「そんなこと急に言われても困ります! それよりお医者さんが私にこんなことをしてもいいのですか?」
「はっはっは~! 僕は医者なんかじゃなくAV男優だよ。マジでそんなこと信じてたの~?はっはっは~!」
「ひ、ひどい……私を騙したのね……」
「そんな泣きべそをかいてないで、もっとよがって欲しいな~。でなけりゃもう1回撮り直しすることになるよ。いいのかな?」
「わ、分かりました。やりますからもう撮り直しは許してください」
「じゃあ、しっかりがんばるんだな。それじゃ今度は膝の上に座ってもらおうかな?」

 四つん這いになっているもえもえの腰をかかえ強引に引き寄せる。
 膝を閉じた車山は、もえもえの脚を開かせM字開脚にして座らせた。
 椅子型背面座位のはじまりだ。
 車山は怒張したものを背後からしっかりと挿し込み、更に片手でもえもえの乳房を揉み始めた。

「あぁぁぁ……はぁ~……」

 空いている方の手でクリトリスを転がせる。
 バギナ、クリトリス、乳房を同時に攻める。
 すなわち俗にいうところの『三所攻め(みところぜめ)』だ。

「ああっ、そ、そんなことしたら……ううっ……ふわぁ~……あぁ~……あぁ~……!」

 ソファに背面座りしての挿入なので、さほど深くは入らないが、もえもえとしてはちょうどGスポットが程よく擦れて心地よい。
 しかも乳房を揉みしだかれ、クリトリスを擦られては、燃え上がらないはずがない。

「ああ~っ、ダメェ~、くはぁ~……、あああ~……」
「いいねえ、その表情。横山君、ビデオカメラの方は順調かな?」
「はい、しっかりと撮ってますよ~。特に結合はドアップでね」

(横山って……駅前でうちば勧誘してきた男や。彼もここさぃおるったい……ああ、騙されたぁ……)

 そもそもこのようになったのも、横山という男の甘い誘惑のせいだ。
 しかし今さら彼に怒りをぶつけても、何も始まらない。。
 それならいっそ、かつて味わったことのないこの快楽地獄をじっくりと巡るのも悪くはないかもしれない。

(私のこん淫らな姿ば、ビデオカメラで撮られとるんだわ……そしてAVとして販売されるとよ。同じ撮られるなら、ちーとでも上手に演じてやるわ)

「あぁ、あぁ、あのぅ……あの、セリフは……いいんですか?はぁはぁはぁ……」

 車山は語った。

「はぁはぁはぁ……、君にセリフなんていらないよ。君の唇の隙間から漏れるその熱い吐息だけで十分だよ。AVでたくさんセリフを喋るのは魅力に欠ける女優がそれを補うためにやることさ。だから君には必要ない」
「はぁはぁはぁ、でも、演技とかしなくていいんですか?」
「演技なんていらないよ。君が僕とエッチして感じるままに動いてくれればそれで良いんだ。自分の感覚に素直になって、それを君の身体いっぱいで表現してくれれば、ファンは満足する」
「は、はい、分かりました……あぁ……あぁん~……」

 力強く下から突き上げる車山は、もえもえに語りかけながら、両手の動きを止めることもなく器用にもえもえを攻め続けた。

「くは~っ、うはぁ~、あぁ~、あぁ~ん、ふはぁ~……」
「ほらっ、すでに君の気持ちとはうらはらに、すでに身体が反応しているじゃないか。身体は素直だね」

(ズニュズニュズニュ……クリュンクリュンクリュン……)

「あああ~、もう、もう……もうダメェ~、あっ、どうしよう……イきそう……あっ……ああっ……」
 
 もえもえは絶頂を極めようとしていた。
 それを察知した車山は、乳房を荒々しく揉みしだき、クリトリスを強くこねまわし、そして下から激しく突き上げた。

「ふぁあ~~~っ! あうっ、ああっ、もうダメェ! くはっ~、うはぁ~、イッちゃう~~~! あああ~~~っ!」

 三所を同時に攻められて桃源郷の世界へと昇り詰めたもえもえは、つややかな嬌声を奏で、身体をピクピクと痙攣させた。
 車山は後方から抱きかかえたまま、もえもえのうなじに優しくくちづけをして、乳房を愛おしむように撫でた。
 達成感と脱力感がもえもえの身体を支配し、グッタリと車山にもたれかかった。

 アイマスクがそっと外された。
 突然外されたため、眩しそうに目をすがめるもえもえ。

「うう……眩しい……もうこれで終わったんですね……?」
「うん、終わったよ。おつかれさま」

 振り返って尋ねるもえもえに、車山は優しく微笑みながら答えた。
 正面から細田がバスタオルを手渡した。

「すごい汗だよ。これで拭いて」
「ありがとうございます……」

 身体の汗を拭うもえもえに、中村社長が笑みを浮かべた。

「ご苦労さんだったね。これで君は晴れてAV女優としてデビューだ。加藤山あいそっくりの現役女子大生として売り出そう」
「はい……」
「どうしたの?あまり嬉しそうじゃないね」
「ちょっと複雑なもので……」
「まあ、君の気持ちは分からないではないけれど」

 後方から車山がもえもえの肩を軽く叩いた。

「取り合えずシャワーを浴びてきたらどう? すごい汗だし」
「はい、ありがとうございます。じゃあ、ちょっと浴びて来ます」




第12話「駅前の夢」

 まさか事務所内にシャワーまで設置されているとは。
 もえもえは苦笑した。

(シャワーば浴びないかんようなこつば、他でもしと~ちゅうこつか……)

 今日この会社の体質を垣間見たような気がした。

 シャワーの湯が心地よい。
 湯を浴びているうちに頭の中のもやもやが晴れていくような気がする。
 シャワーから出て衣服を着たもえもえに、中村社長が少し厚みのある封筒を差し出した。

「草木さん、ご苦労さまでした。取り合えず出演料の三十万円です」

 もえもえは受理をためらった。
 ギャラを受け取れば、動画配信されても一切文句は言えないだろう。
 はたしてそれでよいのだろうか。
 受理を渋るもえもえに中村社長が語りかけた。

「三十万円では不足ですか? 今後のビデオの売上次第では臨時ボーナスを弾みますよ。だから今回はこれで了解してもらえませんか?」

 中村社長は、もえもえが金額に不満をいだいていると思っているようだ。

「いいえ、そうじゃないんです」
「と言うと?」
「そのお金、受け取れません」
「な、なんだって!? そんな、いまさら……」
「お金は要りません。だから動画は配信しないでください。お願いします」

 もえもえは中村社長に深々と頭を下げて詫びた。

「そんなあ……せっかくあれほど大胆に演技をしてくれたのに……惜しいとは思わないのかね?」
「いいんです。私にとってとても良い経験をさせていただきましたし」
「そこまで言うならやむを得ないけど。当社もこの業界では名前の通った会社だから、契約を盾にごり押しをしたりはしないけど……あなたほどの人なので、とにかく惜しいよ」
「本当にすみません」
「仕方ないよ。でももし気が変わったら連絡をしてきてね。収録した動画は当分当社で大事に保管しておきます。あなたの了解がなければ配信しないので安心してね」
「ありがとうございます。お騒がせしてすみませんでした。それじゃ失礼します」

 頭を下げて事務所を後にしようとしたもえもえを、一人の男性が追いかけてきた。

「草木さ~ん!」

 振り返ってみると、男優の車山であった。

「何ですか? 私にまだ何か用ですか?」
「いや、用と言うか何と言うか……」
「はあ?」
「いや、僕は男優として今、君とエッチをした訳なんだけどね」
「……」
「君とすごく相性が良かったんだ」
「え? 相性って身体の?」
「うん、そうだよ」
「ふうん……」
「それとね、君のことを好きになってしまったんだ」
「え? 私を好きになったの?」
「うん、一目惚れしたんだ」
「そうなんですか……それで何か……?」
「うん、ズバリ言うけど、仕事を離れて僕と付合ってくれないかなあ?」
「ええ!? 車山さんと? 付合う?」
「うん、AVの男優じゃダメかな?」
「そんなこと急に言われても……」
「どうだろう、ダメ?」
「正直言って車山さんはかなりタイプです」
「え~!? そうなの? そりゃ嬉しいね~、ありがとう! それじゃ」
「ちょっと待って。でも」
「でも?」
「でも、あなたがAVの男優さんである以上はやっぱり嫌です」
「あぁ、やっぱりそうか……」

 車山はガックリと肩を落とした。

「ごめんなさいね。でもね、いくら仕事といってもいろいろな女性とエッチするのは、私、やっぱり耐えられないです」
「うん、分かります……まあ、仕方ないか。ははは~、それじゃもう会うこともないだろうけど、元気でね」
「ありがとう。車山さんもがんばってね」
「ありがとう。じゃあね~」

 もえもえは再び大通りに向かって歩き始めた。

「三十万円かあ。ちょっと惜しかったな~。ばってんうまか話ってやっぱり絶対なにかあるよね~」

 この先の人生で二度と体験することはおそらくないだろう、さきほどの数時間の出来事。
 淫らな情景がもえもえの脳裏を駆けめぐった。

「あぁん、ばってんあん車山って人、上手かったなぁ。あは、思い出すと濡れて来そうばい~」

 駅前にたどり着いたもえもえに、派手な茶髪の男性がノベルティのティッシュペーパーを差し出した。

「あのぅ、すみませんが」

 もえもえはティッシュペーパーを受け取らず男性の顔も見ないまま、駅の構内へと向かっていった。














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