弁護士秘書絵梨佳 熱い夜



Shyrock作








<主な登場人物>

稲垣 絵梨佳 25歳 森田弁護士事務所秘書

車井山 俊介 34歳 フジヤマ建設法務課長

森田 光樹  34歳 森田弁護士事務所経営

宇野多 直美 24歳 森田弁護士事務所秘書





第1話「邂逅」
第2話「パッヘルベルのカノン」
第3話「新宿41階」
第4話「パノラマ夜景につつまれて」
第5話「蛸の壺」
第6話「秘技・蜜壷うらえぐり」





第1話「邂逅」

 学生時代からの友人で森田という男がいる。
 彼とは今でもたまに会って酒を酌み交わすなどの旧交を暖め合ってる。
 彼は弁護士を目指し、現在は独立して小さいながらも虎ノ門に弁護士事務所を構えている。
 同じ大学で同じ法曹を学んだ間柄だが、今は「月とスッポン」と言っても良いだろう。
 彼は弁護士。僕は平凡なサラリーマン。
 そんな二人だが、一度語り合い始めると時間を忘れて話に没頭する。

 そんな森田から久しぶりに飲もうと言う誘いがあった。
 久しぶりに話がしたいらしい。
 事務所を構えてから慌しい毎日が続いていたようだが、ようやく落ち着いたのだろう。

 待ち合わせは某ホテル一階の喫茶室であった。
 僕が到着したときすでに森田の姿があった。
 彼と約束をして遅刻してきたことは一度たりともなかった。
 時間ばかりか約束はすべてにおいて絶対順守のきっちり屋なので、弁護士は天職なのかもしれない。

 そんな森田なのだが、今日に限っては一つだけ約束と違っていた。
 彼の隣には二人の同伴の女性がいた。
 女性を連れてくるとは聞いていない。

(一体どう言うつもりだろう?積もる話をゆっくりと二人で語るんじゃなかったのか?それにしても連れの女性たちは誰なんだ?二人ともすごい美人じゃないか……)

 会釈をして席に着くと、すぐに二人の女性は深々と頭を下げた。
 森田の話では、二人は弁護士事務所に勤務する秘書だと言う。

(なるほど、そういうことか)

「二人は事務所を開設したときから秘書をやってるんだ。二人ともすごく優秀でね。それにかなりの美人だろう?」

 向かって左の女性はうつむきながら微笑み、右の女性は僕と目が合うとはにかんだ笑顔を見せた。

「いやあ、羨ましいよ。こんなきれいな人たちと毎日仕事ができるなんて。仕事の方もうまく軌道に乗ったようで良かったね」
「まだまだ依頼人は少ないけど、何とかやっていける目途がついたよ。あ、そうそう、先ずは二人を紹介しよう」

 森田は仕事の話題を中断し、二人の女性を詳しく紹介してくれた。
 二人の女性の共通点は、理知的なことと清楚なこと。
 気品もあって申し分がない。

 向かって左の女性は直美と言った。
 歳は二十三、四あたりか。
 身体の線が細く、小顔、色白、切れ長の瞳、髪はボブショート、一口にいうなら癒し系美人と言ったところか。
 服装はネイビー系のモダンな配色で洗練された印象である。

 向かって右の女性は絵梨佳と言った。
 歳は二十五、六ぐらいか。
 彫りが深くちょっとハーフ掛かった顔立ちで、くっきりとした瞳、きれいな鼻筋、髪はセミロング、情熱的な雰囲気の漂う美人であった。
 服装はブラウンを基調にこなれた雰囲気を醸し出している。

 どちらの女性も魅力的だが、強いて言うなら絵梨佳がタイプだ。
 二人は丁寧な言葉遣いで挨拶をして来た。

 最初の話題は事務所発足時の苦労話であった。
 だけど森田という男は昔からその場の雰囲気を大切にする男。
 仕事の話を早めに切り上げ、恋愛、ファッション、グルメ、遊び、等、女性が好む話題へと移行した。
 その辺の気配りは昔も今も変わっていない。
『女性が好む話題を提供する=場の雰囲気が盛上がる』
 この方程式はコンパ時には当然心得ておくべきだし、デート時ならセオリーと言っても過言ではないだろう。

 後の食事は女性たちの希望もあって、北新地のイタリア料理店を予約していた。
 パスタは大きく分けると、ロングパスタとショートパスタに分かれる。
 ロングパスタの代表格はやはりスパゲッティ、つづいて細手のスパゲッティーニ、さらには髪の毛ほどの細さのカッペリーニ等が有名だ。
 ショートパスタには、ペンネ、フッジリ、それにファルファッレなどの種類がある。
 この店の自慢はショートパスタだ。
 特にここのフッジリは絶品で、ぐるぐるとねじれた形がユニークで、溝にしっかりソースがからみ、歯ごたえがとてもよい。
 美味な料理に舌づつみを打てば、話の方も盛上がるから不思議だ。
 絵梨佳がフォークを皿に静かに置いてたずねてきた。

「ところでパスタって、いつ頃日本に入って来たのでしょうか?」

 森田はちょっと自信なさげに言った。

「昭和になってからじゃないの?」
「いや、もっと昔ですよ」

 僕は偶然、先日読んだ雑誌の記事を憶えていたものでスラスラと答えた。

「え?もっと古いのですか?」

 絵梨佳は少し首を傾げて、興味深そうに聞いてきた。

「うん、日本にパスタが伝わったのはもっと昔で明治二十八年なんだ。新橋のレストランのコックさんがイタリアから持ち帰ったのが最初といわれてるんだ。その後、昭和初期から少しづつ国産化が始められたけどまだまだ珍しいもので、ホテルや一流のレストランでしか口にすることができなかったらしい」
「へえ、そうなんですか。で、庶民に広まったのはいつ頃なんですか?」
「一般化したのはね、イタリアから全自動式パスタ製造機が輸入されるようになった昭和三十年代以降のことなんだって。その頃の国産パスタは日本人の味覚や食感の好みに合わせて、複数の小麦粉をブレンドして作られていたんだって。やがて、海外旅行に出かける人が増えたり、イタリアンレストランのブームなどで日本人のパスタの好みも変わり、昭和六十一年頃からデュラム・セモリナ百%の国産パスタが家庭でも使われるようになったんだ。そしていまやパスタは僕たち日本人の家庭料理としても楽しまれ愛される食材となったってわけなんだ」

「へえ~、よくご存知ですね。もしかしてシェフされてるんですか?」
「違うよ。僕は普通のサラリーマンだよ。先日読んだ雑誌に書いてあったのを偶然記憶していただけだよ。だから全部雑誌の受け売り!」
「まあ、すごい記憶力ですね! さすが森田先生のお友達だわ」

森田がクスクス笑っている。


第2話「パッヘルベルのカノン」

「いやいや、僕は彼ほど記憶力が良くないよ。法律だけは仕事柄しっかりと憶えているけどね。雑学は彼の方が上なんだよ」
「はっはっは~、それって喜んでいいのかどうか、何か複雑だな」
「当然褒め言葉だよ」
「そうなのか?」
「そうだよ」
「あはは」

 森田と僕につられて絵梨佳たち女性陣も笑い出した。
 会話が弾み食事も終わりに近づいた頃、森田が二次会に行きたいと言い出した。
 絵梨佳たちも行きたいらしい。
 
 二次会にはホテル1階のメインバーに行くことになった。
 照明はほの暗く、女性のピアノ奏者がジャズを奏でている。
 テーブルの向かい側には森田と直美が座り、僕の右には絵梨佳が座った。

 男性はバーボンを、女性はカクテルを注文した。
 お互い慣れもあって会話は大いに盛り上がり 時が過ぎるのを忘れた。
 曲間に直美がポーチを手にして席を立った。
 おそらく手洗いに行ったのだろう。
 その直後森田がスーツの胸ポケットからケータイを取り出した。
 着信があったようだ。

「ごめん、電話しないといけないので、ちょっと席を外すね」

 森田は速足でロビーへ出て行った。

 絵梨佳と二人きりになった。
 この機会を逃してはいけない。
 間髪入れず絵梨佳を誘った。

「ねえ、先ほどバロック音楽が好きだって言ってたね?」
「はい、言いましたが?」
「実は今月末にコンサートがあって予約しようと思ってるんだけど、よかったらいっしょに行かない?」
「まあ、いいですね。どこであるんですか?」
「渋谷公会堂なんだ」
「近いですね。私でよろしければ、ぜひ連れてってください」
「それじゃチケットが取れたら連絡するので連絡先を交換しない?」
「いいですよ」

 絵梨佳はこころよく応じてくれた。
 赤外線ボードを合わせオーケーをタップした。

 問題はお目当てのバロックコンサートのチケットが取れるかどうかだ。
 運悪く満席だったとしても、ほかにも管弦楽コンサートをやっているはずだ。
 予約さえできれば、あとは絵梨佳に連絡すればよいだけだ。

 ついている。
 お目当てのバロックコンサートを予約することができた。
 絵梨佳に連絡しなければ。
 無性に絵梨佳の声が聴きたくなった。
 メールやラインではなく電話をかけることにした。
 絵梨佳が電話に出た。

「車井山です。昨日はありがとう。とても楽しかったです。また機会があれば食事に行こうね」
「こちらこそどうもありがとうございました。本当にすごく楽しかったです。また誘ってくださいね」
「ところでバッロクのコンサートのことだけど、オルフェウス室内交響楽のチケットが取れたよ」
「えっ?オルフェウス室内交響楽が聴けるのですか?すごく嬉しい!」
「パッヘルベルのカノンを演奏するらしい」
「まあ!大好きな曲なんです!すごく楽しみ!」
「2月2日午後6時開演なんだけどだいじょうぶ?」
「はい、私はだいじょうぶですけど……」
「ん?どうしたの?」
「私なんかを連れて行ってもいいんですか?」
「もちろんだとも。どうしてそんなこと聞くの?」
「どなたか他に連れて行かれる方がいらっしゃるじゃないかと……」
「そんな人はいないよ。僕は絵梨佳さんと行きたいんだ。いいよね?」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあまた連絡するね」

 絵梨佳は喜びを隠し切れなかった。
 それは大好きなバロック音楽を聴きに行く楽しみのせいか?それとも心ときめく男性から誘いを受けたことの歓びか。

◇◇◇

 演奏中、ときおり僕は絵梨佳の横顔をチラリと見た。
 鼻筋から顎にかけてのEラインが美しく、どこかエキゾティックな雰囲気を醸し出している。
 見られていることに気づいた絵梨佳は照れ笑いを浮かべた。

 心地よい管弦楽を聴きながら、僕の心はいつしかコンサートの終了後に飛んでいた。
 食事は何にしようか?彼女の好みをまだ聞いていない。
 和食、洋食、イタリアン、フレンチ、中華、インド料理……
 頭の中をいくつかの飲食店が浮かんだ。
 彼女からのリクエストがある場合は例外として、デートのシナリオを考えるのは男の役目だ。

 僕は再び絵梨佳の横顔を眺めた。
 端整な横顔を見ていると、不埒な心がムクムクと芽生えてくる。

(今夜誘うか……それとも1~2回置いてからがいいか?成り行きに任そうか……)

 コンサートが終った後、食事は意外にも渋く割烹料理店に行くことにした。
 絵梨佳に希望を尋ねると「和食が食べたい」と率直に言ってくれたからだ。
「何がいい?」と尋ねると「何でもいい」と答える女性が多いものだが、この「何でも」は便利なようで意外と困る。
 やはり食べたいものを素直に答えてくれるのが一番ありがたい。
 
「車井山さんは学生時代、森田先生とどんな遊びをされてたのですか?先生は車井山さんのことを悪友だとおっしゃってましたけど」
「はっはっは~、彼はそんな風に言ってるんだ。なるほど、悪友か。いや、そうかも知れないね。当時は好奇心も旺盛だったし色々な遊びをしたよ。ちょっぴりいけないこともね。ははははは~」
「たとえば?」


第3話「新宿41階」

「言いにくいなあ。でも過ぎたことだから、いいかなあ……」
「はい、ぜひ聞きたいです」
「でもそんなに注目されたら、少ししゃべりにくいなあ」
「あ、ごめんなさい」

 絵梨佳は目が合ってしばらくすると、少し照れながら意識的に視線を外した。
 可愛く照れる仕草がかわいいと思った。

「たとえば、彼と二人でね」
「はい」
「イケテル女の子がよくくるバーに行き誘ってみたら……」
「早い話がナンパ……ってことですか?」
「まあ、そうともいうかな?」
「そうとも……ですか。それってナンパ以外なにものでもないような気がするのですが」
「そういうことになるか。はっはっはっはっは」

 話は思わぬ展開へと進み余計なことまでしゃべる羽目になってしまったが 包みかくさず話すことで絵梨佳から好感を得られたようだ。
 やがて話題は絵梨佳のことへと移った。
 出身地のこと、学生時代のこと、趣味について、そして恋愛のこと。
 話が進むに連れておたがいの酒のピッチが次第に速くなっていった。
 楽しく語り合っているうちに、かなり遅くなってしまったようだ。

「あ、大変だ。もうこんな時間になってしまってる。楽しい時間はすぐに過ぎてしまうね」
「本当に楽しかったです。今日はありがとうございました」
「それじゃぼちぼち帰ろうか?それとも遅くなりついでにもう一軒行く?」

 半分冗談のつもりで誘ってみた。
 絵梨佳は時計をのぞいている。
 家は目黒区で家族といっしょに暮らしているらしい。
 時間はすでに10時00分を回っていた。
 帰りはタクシーで送るつもりであった。

 絵梨佳はしばらく考えたあと、にっこりと微笑んで思いがけない言葉を口にした。

「じゃあ、もう一軒連れてってもらおうかな?素敵な音楽を聴くことができたし今夜はすごく気分がいいんです。それに車井山さんとお話してるのが楽しいし」
「えっ?いいの?分かった。それじゃもう1軒行こうか」
「その前にちょっと家に連絡していいですか?」
「うん、どうぞ」

 絵梨佳は僕の方から視線を逸らしてスマホをタップした。

◇◇◇

 二人が向かったのは新宿の夜景を一望できるバーであった。
 ホテルのエレベーターで41階まで上がり、足を踏み入れた瞬間に目に入るショーケースばりの夜景は別世界だ。
 西新宿の摩天楼を間近に望みつつ、東京の夜の万華鏡を満喫する。
 たまにはそんな贅沢も悪くない。

 平日の夜でも店内はかなり混み合っていた。
 人気のあるバーは遅くなればなるほど混み合うという。
 ボーイが直ぐに準備ができると告げた。
 運よく窓際のカウンター席が空いたようだ。
 僕たちは並んで腰を掛け、近い距離で話すことができた。

「東京の夜景をゆっくり見たことがなかったけど、こんなに美しかったのですね」
「本当にきれいだね。僕もこんなにゆっくりと夜景を眺めるって久しぶりだよ」

 絵梨佳はカクテルグラスを傾けながら、函館へ旅したときのことを語り始めた。
 函館は夜景が美しいことで有名な街である。
 酒の酔いも手伝ってか、かなりテンションが上がってる。

 僕は心の中で呟いた。

(よし、今夜、決めよう……)

 僕は話題を転じることにした。

「ところで絵梨佳さんは今彼氏はいるの?」
「いない歴は今、半年です。あはは、分かりますか?いないって」
「ははははは、いない割りにはやけに明るいね」
「それが私のモットーなんです。いないからと言ってしょんぼりしたくないんです」
「いい心掛けだね。笑顔はきっと幸運を呼ぶ」
「いつかきっとすてきな人が私を誘ってくれるはずだ、って思っていると自然と明るくなれるんです」
「そのうちきっとすてきな人が現れるよ。だって君ほど魅力的な人を放って置く方がおかしいよ」
「まあ、お上手なこと。でも、嬉しいなあ。そう言ってもらえて」

 このタイミングだと思った僕は思い切って切り出した。

「絵梨佳さん、もしよければ、今夜、恋人同士にならない?」

 その瞬間、絵梨佳は無言になってしまった。

(こりゃ、ヤバかったかな?怒って帰ってしまうかもしれない……)

 でも失敗をおそれていたらよい恋愛はできない。
 ときには失敗をおそれず攻めてみる勇気が必要だ。

 沈黙はどのくらい続いただろうか。
 まるで時間が止まってしまったかのようだ。

 まもなく絵梨佳が静かに告げた。

「いいわ。今夜恋人にして……」

 絵梨佳の思いがけない返答に、一瞬舞い上がりそうになったが懸命に平静をよそおった。

「いいんだね?ありがとう……じゃあ、行こうか……」

◇◇◇

 バーを出てそのまま41階を歩く。
 まるで天空の美術館ともいえるようなライブラリーがあって長い廊下がつづく。
 ライブラリーを通り過ぎると一番奥にホテルのフロントが見えてきた。
 
「え?同じフロアにフロントがあるんですか?」
「うん、そうだよ」

 さきほどバーで手洗いで席を外したときに、こっそりホテルに予約を入れてある。
 すべての客室が42階以上にあり、豪華な空間が広がっており、どの部屋の窓からも、代々木公園や新宿御苑などの緑あふれる東京の街並みを眼下に楽しむことができる。
 二人はチェックインを済ませ部屋へと向かった。


第4話「パノラマ夜景につつまれて」

 部屋の広さ、天井高ともにゆったりした造りの角部屋で、二方向の眺望を望めるのが魅力だ。
 正面に国立競技場や東京スカイツリーが望める。
 落ち着いたインテリアと素晴らしい眺望につつまれ、絵梨佳と優雅なひとときを過ごすことができそうだ。

「すてきなお部屋ね。それにこうして見ると東京の夜景ってきれいですね」

 絵梨佳は大きな窓に広がるパノラマ夜景を眺めて歓喜の声をあげた。

「まるで宝石箱のようだね。毎日忙しいと、こんな景色をゆっくりと眺められることって滅多にないものね」
「そのとおりですね。でも本当にきれいだわ」
「でも絵梨佳さんの美しさには負けるよ」
「まあ、お上手ですね」

 小さく返事をして、微笑む絵梨佳。
 二人の目が合った。
 絵梨佳に顔を近づける。
 唇と唇が触れる。

「今夜は絵梨佳さんを離さないよ」
「ええ、私も離れたくない」

 そうささやくと絵梨佳は照れくさそうに視線を逸らせる。
 そんな絵梨佳をグッとひきよせ足を絡めて、今度は長いキスをした。

「んっ……」

 そっと目を閉じキスに応える絵梨佳。
 柑橘系のオードトアレだろうかほのかな甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐる。
 セミロングの髪を指で掻き分けて、首筋に唇を這わせた。
 かすかな声がこぼれた。
 強く抱きしめると熱い鼓動が伝わって来た。
 緊張のせいか、それとも昂ぶりのせいか。
 絵梨佳の服の中にそっと指を入れると、キャミソールの上からやさしく乳首をつまんだ。

「あ…んっ」

 とろけそうなキスと愛撫に、身体が反応する。
 僕の手は次第に下へと向かっていき、絵梨佳の熱くなっているショーツの中をクチュクチュと触った。
 乳首をいじりながら、少し指を挿しこんでみた。

「だ……めぇ……」
「そんなこと言って……すごく濡れてるよ」

 僕は指を中まで入れて絵梨佳の中を掻き回した。

「あぁっんっ」

 僕は絵梨佳の手を自身の硬くなったモノへと持っていくと、

「僕のも」

 と押し付けてみた。
 自身のソレはかなり大きく硬くなっている。

「はぁ……ん……あっ」

 お互いに触れ合いながら、キスを続けた。

「車井山さん……」
「絵梨佳さん、いい?」
「ベッドに連れてってくれる……?」
「ああ、そうだね。ごめんね、気が利かなくて」

 絵梨佳をお姫様だっこで担ぎ上げベッドに運んで行った。
 ベッドに横たわった絵梨佳の衣服を脱がせて、キャミソールにすると胸元にキスをする。
 肩紐を落としブラジャーとショーツだけになった絵梨佳の見事な肢体に思わず見惚れてしまった。
 唖然としている僕に、

「どうしたのですか?」

 とつぶやきニッコリと微笑む絵梨佳。

「外からも美しいけど、脱ぐと一段と美しくて、つい見惚れてしまったよ。目の保養になる人だね」
「まあ、冗談でも嬉しいです」
「冗談じゃないよ、僕は本音しか言わないよ」

 まるで彫刻のような美しい姿態に僕の心が高鳴った。
 女性経験は人並みにあるつもりだが、これほどときめいたことは過去何度あっただろうか。
 
 絵梨佳の姿態を眺めているうちに、ショーツの上からだがふと恥丘に眼が止まった。
 それもそのはず、絵梨佳の恥丘は一般的な女性のそれよりもかなり隆起しているのだ。

(おっ……これはしめた!)

 と思わず心の中で手を打った。
 絵梨佳はいわゆる土手高(どてだか)だったのだ。
 昔から恥丘がこんもりと盛り上がっている女性は「感度よく 名器多し」と伝えられている。
 女性に長けた男性であれば、その素晴らしさを知っているだろう。
 とにかく女性自身の感度がよく、騎乗位で行なった場合恥骨が強烈に肉棒を刺激し、男性としても極めて良好なのだ。
 僕はすぐに絵梨佳の恥丘を愛撫したい衝動に駆られたが、何事にも手順と言うものがある。
 逸る心を抑えて、マニュアルどおり急所から遠い箇所から順番に愛することにした。

 抱き寄せて濃厚なキスをすると、ブラジャーの上から胸を優しく撫でて、まもなくブラジャーのホックを外した。
 ブラジャーが外れ豊かな乳房が現れた。
 ゆっくりと乳房を揉みしだき、唇を這わせた。

「あぁ……」

 唇は乳房の裾野からゆっくりと頂上へと移行する。
 乳房、首筋、鎖骨、脇腹に愛撫を重ねていくうちに絵梨佳の表情に赤みが差してきた。
 ショーツ附近に近づいても、すぐに脱がしたりはしない。
 太腿や鼠蹊部をいじるがそれでもまだ脱がさない。
 女性器への愛撫をイメージさせておいて、少しだけ焦らす。
 絵梨佳は焦らされるもどかしさに、はしたなく腰を揺らめかせる。

 でも今夜は初めてだから、焦らすのは短めがよいだろう。
 いよいよ絵梨佳のショーツを剥いで、花弁に顔を近づける。
 湿気がこもった花弁が外気にさらされた瞬間、淫猥な香りがむわりと広がった。

「うわぁ……絵梨佳さんのココ、エロくていい匂いがする……」
「嫌です……匂いかがないでください……は、恥ずかしい……」
「恥ずかしいと言ってるけど、クリがもう硬くなってるんだけど?」
「もう、車井山さんのいじわる……」


第5話「蛸の壷」

 そう指摘しながら、陰唇に隠された秘所を暴き、固く立ち上がった陰核の包皮を剥く。
 むき出しになった女性の一番敏感な場所を指でコリコリと弄ると、絵梨佳は嬌声を上げた。

「ああっ……あっ……いやぁ……んっ……ああぁぁっ……」
「クリ気持ちいい?じゃあもっと気持ちよくしてあげるよ」
「そ、そんなっ……っ!……ふあっ、あっ、な、舐めちゃやだぁ……」

 絵梨佳が拒んでも、構うことなく陰核を舐め始めたのだ。
 何度も何度も舌で左右に弾き、じゅるじゅると音を立てながら唇で吸うと、絵梨佳は声を潜めてしまった。
 おっと無呼吸状態!?

「……だめっ……もうイきそう……」

 大きな吐息を漏らしながら絵梨佳があえぐ。

「車井山さんっ、イく、イっちゃうっ……」

 絵梨佳が絶頂への階段を登り始めたその瞬間、僕は口を離してクンニリングスを中断してしまった。

「えっ……? なぜ……?」
「まだダメだよ。イく時は……二人で一緒にイこう」

 ガチガチに怒張した僕の肉柱をスウェット越しに触らせると、絵梨佳はふっと思わず息をのむ。

「ねぇ、車井山さん……もう待てないっ……い、入れて……」

 絵梨佳が潤んだ瞳で僕を見つめる。
 僕はそそくさと枕元に準備していたコンドームを装着する。

「早く入れてほしい……」
「気持ちを正直に言えて、いい子だね……」

 十分に潤った蜜壺に、肉柱をずぶりと勢いよく挿しこんだ。

「あぁ……んっ……」

 あまりに気持ちがよかったのか、絵梨佳は大きくのけ反った。
 僕は腰を動かし奥まで突いた。
 そして手では、ツンとなった乳首をつまむ。

「あん……車井山さんっ……んっ……」
「気持ちいいの? もっと声聞かせて……」
「あぁ……っ、だめぇ……んぁっ……んっ」
「っ……はあっ……絵梨佳さんの中、熱くてきついっ……」

 僕は思わずうめき声を漏らしてしまった。
 うめき声に気をよくしたのか、絵梨佳は膣道をギュッと締めつけてしまう。

「絵梨佳さんのいじわる。そんなに締め付けて僕が早くイッてもしらないよ」
「あは、そうね」

 絵梨佳は笑いながら僕にキスをしてきた。
 締め付けがきつかったので挿入を少し浅めにしていたが、もう一度ゆっくりと押し込む。

「あぁ……」

 数センチ入った辺りにGスポットがあるはず、そこを激しく擦ってみた。

「あぁぁぁぁっ……いい……!」

 グチョグチョと淫靡な水音が鳴り響く。

「あっ、あっ……そこ、すごくいい……たまらないわ……あぅ……あぁっ……」
「絵梨佳さんってかなり感度がいいね。ここ、そんなにいいの?」

 わざと知らないふりをして、腰を前後させながら絵梨佳の反応を確かめてみた。

「あぁん……いいわ……そ、そんなに擦っちゃダメぇ……」

 僕は律動を止めず更に肉道を押し進めた。

「ぃやぁ……あぁぁっ……」

 夢中でシーツを掻きむしる絵梨佳。
 女性が感極まってシーツを引っ掻く姿を見るのは楽しいものだ。
 この仕草を見る歓びはおそらく男しか知りえないだろう。

「あぁ……いやぁぁあああ……」

「ん……? ほう」

 僕は挿入しているうちに、絵梨佳がかなりの名器の持ち主であることに気づいた。
 いわゆる『蛸の壷』と呼ばれる七万人に一人しかいないと言われている幻の絶品なのだ。
 その名のとおり、まるでタコつぼのように奥が深く、中に吸い上げるような動きをする女性器であり、希少価値と言える。
 肉柱を挿入すると、先からギュッと締め付けられるので、男は抜きにくく早々と昇天してしまうのだ。

(こりゃ、すごい名器に遭遇したものだ。早くイかないようにがんばらなければ)

 僕が漏らした「ん?」という反応を、絵梨佳は見逃さなかった。

「どうしたの?」
「いや、君ってすごい名器の持ち主だね。まいったよ」
「えっ!? 本当に? 知らなかったわ。他の人と比べてどう違うの?」

 僕はセックス真っ最中だったので『蛸の壷』の意味を簡単に説明した。
 もちろん律動を止めることなく、超ゆっくりの律動で。
 絵梨佳はときおりあえぎ声を漏らしながらではあったが、真剣に聞き入っている。
 
「自分では分からないけど、すごく嬉しい」と素直に喜ぶ絵梨佳であった。

◇◇◇

 その後、僕はあぐらになり、絵梨佳と向かい合って愛し合うことにした。
 座った状態での下からの突き上げに、絵梨佳の美しい肉体は、上下に、左右に、揺れ揺られ……
 豊満な乳房と僕の胸と触れ合う、それもまた快感。
 絵梨佳は僕の背中に腕をからめ、僕の手は絵梨佳の双臀に宛がう。
 ヌチュヌチュといやらしい水音がさらなる快感の高みへといざなう。
 我慢しきれないかのような性急な律動がつづく。
 僕が腰を揺するたびに、熱と硬度を保った肉柱が絵梨佳の中を何度もえぐる。
 どこまでも深く沈んでいく快楽に、絵梨佳は恥ずかしさも忘れて声を上げていた。

「あっ、ああぁっ、んっ……車井山さん、車井山さんっ……!あっ、ひぁっ、気持ちいいよぉっ……!」
「はあっ、はあっ……僕も、もう、やばいかもっ……!」


第6話「秘技・蜜壷うらえぐり」

 絵梨佳の強烈な締めつけに、早々と果ててしまうことをおそれた僕は一度抜くことにした。
 わずかな間隔を設けて次の体位に移行すれば、持続させる効果が期待できる。
 とは言っても、射精がそう遠くないと感じていたので、フィニッシュ体位を選択した。
 フィニッシュは『秘技・蜜壷うらえぐり』だ。
 名前もすごいが中身もすごい。
 経験豊富な女性であったとしても未知の快感を与えることのできるといわれている体位である。
 ましてや若い絵梨佳を絶頂へいざなうことなど容易いことだろう。
 バックの要領で、男性が女性の片足を自分の太ももの上に乗せる。
 一見難解なようだが、実はこの状態から女性の足は簡単に持ち上げることができ、女性の身体に負担がかからないのだ。

「え?なに?これって……?こんなの初めて……」

 初めて経験する体位に戸惑いを見せる絵梨佳。
 体位特有の不安定さからくる新鮮な刺激、宙に浮いたような浮遊感覚が絵梨佳を襲う。
 挿入し、ピストンと回転技を駆使すると、たちまち絵梨佳は火が着いたようにあえぎはじめた。

「ああんっ……! いや……ん!」

 次第に腰の動きを速めていく。

「あ、ああ……あっ、あ~~っ、熱いっ、あつ、いぃっ、しゃい、やまさ、ぁん……」

 突き挿された蜜壺で生まれた声が、背骨をなでて走り、口から漏れる。
 絵梨佳は僕に突き抜かれるたび、身体の細胞がひとつずつ剥ぎ落されていくようで、身をよじっている。
 腰を支える僕の手が、そのうずきに蓋をする。
 すると、剥ぎ落とされそうになった細胞はその場でとろりと溶ける。
 ジュッ、と一瞬焦げた音を発しながら、とろりと溶けてゆく。
 身体のあちこちで、うずく細胞が焦げ、そして、溶ける。
 熱い……
 溶けると同時に身体に還ってゆく細胞たちは、絵梨佳の体温をいっそう上げて、またうずきを生み出す。
 温度計の中の水銀がスルスルと伸びるように、体温が上がっていく。

「はぅ……ん、くふ……」
「絵梨佳さん、すごくいいよ」
「ひん……ふ……はふ……ぅ……わ、私もいいよぉ……」

 蜜壺を突き回し、かき回し、これでもかというほどに湿った音を立てる怒張した肉柱。

「い、いいよぅ……ぅ、ぅ、イ、イっちゃ……う……」

 絵梨佳は何度も何度も奥まで突かれ、もう限界だった。

「はぁ……ん……わたし……もう……だめ……イッちゃう」
「いいよ……イッて」

 僕の熱くて大きくなったモノが絵梨佳の中いっぱいにやさしく突き上げる。

「あっ……あっ…イク…イクぅぅ……」

 そうつぶやきながら絵梨佳は腰を激しく動かした。

「あっ……んっ……あぁぁん、っ!!」

 絵梨佳ははげしいあえぎ声をあげ、まもなく達した。
 僕はそっと背中にキスをして、背後から絵梨佳を抱きしめた。
 その直後、我慢の限界を超えた僕は絵梨佳を追いかけるように果ててしまった。

「ううっ、っ……!」

 愛し合った後は軽くハグをしながら、おでこや頬に軽くキスを愉しんだ。
 絵梨佳の笑顔がかわいくて、耳元でそっと「よかったよ」とささやく。
 腕枕に頭を乗せた絵梨佳は甘えて僕の胸に頭を移動してきた。
 
 絵梨佳の髪を撫でながら、夜景を眺めてまどろんでいたら、ふと彼女がささやいた。

「今度二人で会うときは、絵梨佳って呼び捨てにしてくださいね、俊介さん」


















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