ゆま 祇園桜散りそめて



Shyrock作




フィクション



<主な登場人物>

夢岡 ゆま 十七歳、祇園舞妓
峰山 勝治 五十五歳、首相秘書官
畑 巳之吉 六十二歳、大阪道修町薬品卸問屋組合理事長
柳本 せつ 五十八歳、京都宮川町置屋女将
山村 長次 四十八歳 料亭『紅屋』板長





第一話「権力者の獣欲」
第二話「舟盛り器へ」
第三話「舞妓女体盛り」
第四話「十五膳の箸に囲まれて」
第五話「キュウリの使い道」
第六話「刺身につける蜜」
第七話「キュウリは直径一寸と細身だが」
第八話「水揚げの夜」





第一話「権力者の獣欲」

 昭和が明けた頃、舞台は京都の祇園、十七才になったばかりの舞妓“ゆま”は座敷に上がり先輩の芸妓たちとともに舞を舞っていた。
 まだ幼さが残るものの、そのつややかな姿を瞬きもしないでじっと見つめている一人の男がいた。
 男は黒縁のメガネと両端がはね上がった八の字形のカイゼル髭が印象的で、首相秘書官をしており名前を峰山勝治といった。
 日頃首相の懐刀と呼ばれているだけあってかなりの切れ者であったが、かねてから女癖の悪さには定評があった。
 今夜は大阪の薬品卸問屋組合の接待に招かれていた。

「理事長、私は明日東京に帰る予定だったが、一日伸ばすことにした」
「ほほう、それはまたどないしはったんでっか? 私どもは毎晩でもお付き合いさせてもらいまっせ」

 峰山は正面で舞うゆまに熱い視線を送り、にやりと笑った。

「あの舞妓がとても気に入った」

 会話は短いが、峰山の口から漏れた一言には深い意味が含まれていた。
 つまりその言葉の裏には「あの舞妓を自分のものにしたいので、段取りをするように」という意味が隠されていた。
 峰山の要望を察した理事長は、「承知しました」とばかりにニコニコと愛想笑いを浮かべながら揉み手で応対した。

「さすが峰山先生、お目が高いわ。あの舞妓は祇園でも三本の指に入るほどの人気者で“ゆま”て言いまんねん」
「ゆまか。ふうむ。しかしすでに旦那が付いておるのではないのか?」

 理事長は自信満々に手を横に振った。

「いいえ、それがそれが、水揚げはまだ済ましておりまへんのや」
「ほほう。つまり何か?まだ処女と言うことか?」
「はい、正真正銘の処女でおます。ほな、すぐに用意させまっさかいに」
「いや、明晩にしてくれ」
「何で今晩んやったら、あきまへんのや?」
「ふふふ、理事長は美味い物は後で、とは思わないかな?」

 峰山は意味ありげな微笑を浮かべた。

「言わはることは分かりまっけど、わてやったら直ぐに食べてしまいますわ~。わははははは~」
「いや、ふつうに抱くだけでは面白くない。一工夫凝らして欲しい」
「ぶっちゃけて言うと、どう言うことでっか?」
「芸者遊びの一つで『女体盛り』という遊興がある。だが私はいまだかつて一度も経験がない。今夜すぐにと言う無茶はいわない。明日なら何とかなるのではないかな?」

 いくら祇園で顔の利く理事長と言っても、置屋の女将の承諾もなく、舞妓に『女体盛り』をさせるわけにはいかない。それに調理人等諸々の準備もある。
 理事長は峰山が一日猶予をもって『明日』と言ってきた意図をくみとった。
 明日であれば段取りができる。
 理事長は峰山の要望を受けて、早速置屋やお茶屋の女将に準備を依頼した。
 それぞれの女将たちは上得意先である理事長からの頼みとあって快く引き受けた。

 本来ならば、本人であるゆまの意向を聞いてやらなければならないところであるが、当時の花街のしきたりでは女将の言いつけは絶対であった。
 舞妓は地元京都の出身の女性は意外にも少なく、中学校卒業と同時に親元を離れて置屋に身を委ねる地方出身の女性が圧倒的に多かった。ゆまもまたその一人であった。
 置屋での衣食住、具体的に言うならば、食事代、下宿代、着物代、三味線、舞踊、唄などの稽古代、その他諸々の費用は全て女将が負担し、さらにはわずかとは言え小遣いまで与えていた。
 つまり母親代わりと言うより、母親以上の存在であったわけだ。
 そんな女将に対して、ゆまはいくら売れっ子の舞妓とは言え逆らえるはずもなかったのだ。
 宴会もたけなわの頃、理事長が突然起立し挨拶を始めた。

「皆さん、たいそう盛り上がってはるとこ悪いんでっけど、峰山先生をお迎えしての宴席、今夜はぼちぼちお開きとさせてもらいまっさ」

 酔いも廻り、気分が高揚していた出席者たちから当然不満の声が漏れた。

「えっ?もう終わりなの?」
「理事長はん、えらい早いやおまへんか。こんなはよお開きてどう言うことでっか?」

 理事長は意味ありげな微笑を浮かべて騒ぎ立てる衆を手で制した。

「まあまあ、最後まで聞きなはれ。今夜は終わりやけど、実は続きがおまんねん」
「続きだって?」
「峰山先生は明日早朝から京都と大阪で府庁で会議がおましてな。ほんで、今晩と明晩宿泊されて、明後日東京へ帰りはる段取りなんですわ」
「それは分かりました。それで?」
「実は明晩もう一回、先生にご足労いただくことになりました。そんなわけで都合のつく方は明晩ここに来てもらえまっか?、腰を抜かすほどすごい余興もありまっさかいに」
「腰を抜かすほどすごい余興って何なの?」
「残念やけど、それは今言えまへん。明晩のお楽しみちゅうことで勘弁願えまっか」
「えらいもったいつけまんなあ。なんやよう分からへんけど、峰山先生きはるんやったら、わしは来まっせ」
「うん、私も明日来るよ」
「すまんがわては明日あかんわ……」
「私はちょっと遅れるけど必ず来るよ」

 組合員たちはわいわいがやがやと自分たちの都合をつぶやき合った。
 理事長の勧めで、峰山が締めの挨拶をした。

「私のためにこんな盛大な宴席を設けてくださったこと、心より感謝いたします。私は明後日東京に帰りますが、明晩も一席設けてくださると理事長からお聞きしました。重ね重ねの皆様のご厚情に厚く御礼申し上げます。理事長が素晴らしい余興を用意してくださってるようですので、ぜひ皆様といっしょに楽しみましょう」

 峰山の挨拶が終わると、大きな拍手が巻き起こった。

◇◇◇

 翌朝、ゆまは置屋の女将せつのもとに呼ばれた。


第二話「舟盛り器へ」

「昨夜につづいて今夜も峰山先生がきやはるよってに、夕方四時に料亭『紅屋』に上がってくれるかぁ?」
「へえ、上がらせてもらいますぅ」
「せやけどなぁ、今夜はちょっと気がしんどいかも知れへんのや」
「気がしんどいてどう言うことどすか?」

 ゆまは怪訝な表情でせつにたずねた。

「男はんらの前で裸にならなあかんのや……」
「ええっ! 裸に!? そんな……」

 ゆまは驚きのあまり言葉を失ってしまった。
 まだ性経験がないばかりか、男性の前で肌を晒したことなど一度もなかった。
 先輩芸妓や舞妓から『水揚げ』のことは多少は聞かされていたので、花街のならわしをある程度は知っていたが、まさか大勢の男性の前で裸にならなければならないとは……。
 どうしてそんな破廉恥なことをしなければならないのだろうか。
 ゆまはたとえ女将の言いつけであっても納得できなかった。
 だがこの頃、舞妓の分際で女将の言いつけに逆らうことなど許されるはずがなかった。
 女将の意向は絶対であり、舞妓の希望など一切斟酌されない世界であった。
 それが祇園の仕来りであり、決まりごとなのだ。
 ゆまは喉元まででかけた言葉をぐっと堪えて静かにうなずいた。

「どんなこと、するんどすか?」
「ええか、よぉ聞きや。『女体盛り』言うてな、着物を脱いで寝転んだら、板場が数種類のお造りを身体に盛りつけてきますんや。そのお造りを旦那衆がお召し上がりになるわけや」
「えっ! ほんまどすか!? そんなことするんどすか……」

 ゆまは女将から今夜行なう内容を聞かされ愕然とした。

「旦那衆が見たはる前で裸になんのは恥かしいやろけど、これも旦那衆の遊びの一つなんや。まだ舞妓や言うても祇園で生きる女やねんから、それぐらいのこと、覚悟せなあきまへんでぇ」
「はぁ、よぉ分かりました……」

◇◇◇

 午後四時、料亭『紅屋』に着いたゆまはすぐさま板長から『女体盛り』の手順について説明を受けた。
 ゆまは気が重かった。
 だけど引き返すことはできない。
 ゆまは板長の指示に従い一階の調理場の隣の小部屋で帯を解いた。
 身体の震えが止まらない。

「ガチガチやなあ。あんまり緊張しなや」

 板長が衝立の向こうから声をかけた。

「おおきに」
「着物脱いだら、その舟盛器に入って仰向けに寝転んでくれはる? 舟はこんまいけど、大舟に乗ったつもりできばってや」
「へえ……おおきに……」

 ゆまの緊張をほぐそうと、板長が掛けてくれた言葉がじんわりと心に沁みた。
 横には人の背丈ほどの大きさで舟の形をした造り盛り付け用の器が配備されていた。
 船底には舞妓への配慮からか薄い布団が敷かれ、ゆまの髪型『割れしのぶ』でもうまく収まりそうな枕までが置かれている。
 ゆまは躊躇いながらも舟盛器の中で仰向けに寝ると、あらかじめ用意されていた白いさらし布を自身で掛けた。
 のちにめくられることは分かっているが「少しでも長い時間隠したい」と言うのが女心と言うものだ。
 まさしく『まな板の上の鯉』の心境で、ゆまは目を閉じてじっと待った。
 
 まもなく先ほどの板長が数人の板場を伴って小部屋に入って来た。

「ほな、すんまへん。入らしてもらいますわ」

 板長の声にゆまは目を開けた。
 視線の先には五十手前の板長と若い板場二人が立っていた。
 さすがに板長は物怖じしないどっしりとした態度であったが、若い板場は目のやり場に困っている様子であった。
 若い板場にすれば、若鮎のように美しい舞妓の裸体はあまりにも眩しすぎた。
 板長が落ち着いた口調でゆまに語りかけた。

「ほな、布を除けさせてもらうで。かんにんしてなぁ」

 まもなくゆまの身体に掛けられていた白いさらしの布は、板長の手でいとも簡単に取り除かれた。
 舞妓の裸体を目の当たりにしても、眉ひとつ動かさない。
 それは祇園に生きる一流の板場の誇りと職業意識の強さであろう。
 それに比べて、若い板場は顔を強張らせ、板長の指示にもぎこちない動きであった。
 
「ハマチ」
「へえ……」
「タイ」
「へえ……」
「ヒラメ」
「へえ……」

 板長は魚の名称を小声で告げていく。
 そのたびに若い板場は、それらの刺身を盛った皿を告げられた順に板長の前に置いていく。
 板長は器用に長い料理箸を駆使し、ゆまの身体に速いピッチで盛り付けて行く。

 女性の肉体は美しい曲線で構成されている。
 肉体のどこにも直線がない。
 つまり刺身を置くにはいささか不安定なのだ。
 板長が機械的に置いているように見えるが、これが意外と難しい技なのである。

「つま」
「へぇ……」
「けん」
「へぇ……」


第三話「舞妓女体盛り」

 胸部の谷間に刺身が盛られていく。
 つまとけんが先に敷かれるのは、体温によって刺身が温もるのを緩和するためだ。

「アワビ……」

 けんの上にアワビが乗せられた。
 くすぐったかったのか、ゆまがわずかに身体をぷるっと震わせる。

「動かんといてやあ」
「あっ、すんまへん……」
「しんどいやろけど、ちょっとのま、我慢してやぁ。すまんことやなぁ」
「いいえ、うちこそ動いてしもてすんまへん」

 ゆまは板長のやさしい言葉に癒される思いがした。
 再び板長の持つ菜箸がせわしく走る。

「イカ……」

 菜箸は胸部から臍のあたりに移動した。
 腹部は乳房周辺よりは盛り付けがしやすい。
 板長はけんをうすめに敷くと、そっとイカを盛った。

「大トロ……」

 刺身の中で最も高価なものは大トロである。
 大トロは頭に近い腹部から取れ、トロと呼べる部位の五分の一程度しかない希少部位である。
 濃厚な脂の旨味と、とろけるような食感があり、赤身よりも栄養価の高い食材である。
 
 陰核の真上にけんを乗せ、その上に大トロが盛り付けていく。
 盛り付けられた瞬間、ゆまの身体が小さく反応した。
 先程まで氷で冷やされていたせいか、大トロがやけに冷たい。
 局部は神経が密集している箇所なので冷たさが際立つ。

「冷たいやろけど、すぐに慣れるさかいに」
「はぁ……おおきに……あのぅ……」
「なんどすか?」
「あのぅ、変なこと聞きまっけど、足は閉じててもよろしおすんか?」
「ははははは、ゆまはんはよう気がつく舞妓はんやなあ。足は閉じてたらよろしおすんや」
「あぁ、よかったわ」

 安堵の溜息を漏らすゆまであった。
 板長が尋ねた。

「ふつう足を開いてた方が男はんが喜ぶと思うやろ?」
「そんな恥ずかしいこと、うちには分かりまへん……」

 ゆまはポッと頬を染めた。

「そらそうやな。ゆまはんはまだおぼこやさかいに、そんなこと分かるはずあらしまへんわな。しょうもないこと聞いて、かんにんやで」
「……」

 板長とゆまとの会話は、否が応でも横にいる若い板場の耳に入ってくる。
 若い女性の裸体を間近にして、板長の手伝いを行なうわけであるから、緊張が途切れることはなかった。
 板長がゆまに語りかける。

「そもそも遊び慣れた男はんは、おなごの身体を知り尽くしたはる。せやから初めから足を開いてるより、足をぴったり閉じ合わせたおなごの方を好むんや」
「……」
「理由分かるか」
「分かりまへん」
「それは足を閉じたおなごの方が開かせる愉しみがあるからや。こっちが言うから足を開いたおなごには愉しみがあらへんやろ?」
「そんなもんどすか……男はんの気持ち、うちにはよう分かりまへん……」
「かめへんかめへん。分からんでええんや。ここに来はる男はんの場合はたいがいは遊び慣れたはるわな。せやさかいにピッチリと足を閉じといた方が初々しさがあって、ええちゅうことや」
「はぁ、よう勉強になりました」
「ゆまはんもそのうち舞妓はんから芸妓はんになるんやから、憶えといて損はあれへんで」
「へぇ、おおきに」

 板長は大トロのあと、伊勢エビの盛り付けに移った。
 ちらりと見えた甲殻類の厳つい姿にギョッとした。
 自身が食するなら驚きもしないが、全裸である身体の上に置かれたわけだからいささか勝手が違う。
 ましてや活け造りと言うこともあって まだピクピクと動いている。

「そんな恐がらんでもええで。ゆまはんの身体に悪さはせえへんよってに」
「はぁ……」

 恥丘にはすでに大トロが乗っている。
 さらにその下の大陰唇部分に伊勢エビが配備された。
 大根を微塵に切り刻んだけんが敷かれていなければ、硬い甲羅の感触が直接秘所に触れていただろう。
 ときおり伊勢エビが動くため不快感を拭うことはできなかった。

 続いて大腿部にも各種のネタが盛り付けられた。
 イクラ、シャケ、コイワシ、タコ……

「よっしゃ、でけましたで」

 ついに女体盛りが完成した。
 盛り付けに要した時間は約九分であったが、その間、微動だにせず待つ身のゆまにとっては恐ろしく長い時間に感じられた。

「それにしても若こうて純真な娘はんの“女体盛り”っちゅうんは、はんまにきれいもんやなぁ」

 美しい舞妓に芸術的な盛り付けを行うことで、食感だけでなく、目でも味わえるご馳走とも言えるのが女体盛りである。
 板長は自身がこしらえた女体盛りを目を細めながら眺めた。
 若い板場も感動したようで、女体盛りに魅入ってる。

「ほんま、きれいどすなあ」
「最高やわ」
「さあ、お客はんが待ったはるで。はよ運ばなあかん」

 舟底にさらしの布を敷き詰めて、その上に仰向けになった舞妓ゆま。
 そしてその白く透き通った柔肌に盛りつけられた色とりどりの刺身。
 舟盛り器の下には木の台座があり四隅には小さな車輪がついている。

 若い板場が舟盛り器を押し始めた。
 不安そうに天井を見上げるゆまに、板長はそっとささやいた。
 まるで父親が我が娘を励ますかのように。

「辛いやろけど、辛抱するんやで」
「へぇ……おおきに……」

 まもなく酒の肴にされるゆまが不憫でならなかったのだろう。
 それに答えるゆまの声はまるで蚊が鳴くようにか細く頼りなげであった。


第四話「十五膳の箸に囲まれて」

 若い板場が舟盛り器を押し始めると、四隅に付いている木の車輪のきしむ音がした。
 どこか切なげなその音に、ゆまの目頭が思わず熱くなり一筋の涙がこぼれ落ちた。
 
 旦那衆が待つ座敷への長い廊下をゆまを乗せた舟盛り器が進む。
 舟を押す若い板場はときおりゆまの方を見た。
 若い板場にとっては、おそらく自分と同世代であろう舞妓の肌の白さが眩しかった。そして痛々しく感じられた。
 彼は花野一平といい正確にはまだ板場見習いの身であった。
 そんな彼の口から言葉が漏れた。

「ゆまはん、がんばりや……」

 まさか一番若い板場の口から励ましの言葉が漏れるとは……
 思いがけない一言に、ゆまは寂しげな微笑みを浮かべた。

「励ましてくれはっておおきに。うち嬉しおすえ……」

 ゆまには若い板場の瞳に涙が光っているように思えた。
 自分の恋人でもないのに心配してくれる、そんな彼のやさしい気持ちがとても嬉しかった。

 だけどゆまがそんな感傷にひたってられるのもほんの一瞬だった。
 まもなく木の車輪が止まった。
 ついに座敷に到着したのだ。
 大勢の旦那衆が待ち構えている座敷は襖の向こうなのだ。
 ゆまに緊張が走る。
 まさにまな板の上の鯉の境地といえる。
 板長が低い声で指示をした。

「さあ着いたで。わてが襖を開けるよってに一平は真っ直ぐ進むんや。健三は刺身が揺れて落ちひんか見張っとき。よろしいな、ほな、いくで」
「へい、承知しました」
「へい、よろしおす」

 板長が襖を開けて舟盛り料理の到着を告げたが、日頃、ご馳走を食べ慣れている旦那衆の反応はいたってとぼしい。

「おまっとうさんどす。舟盛り料理を持って参じました」

 宴会を仕切っている理事長がニコニコしながら板長に奥へ進むよう促した。

「おお、これは見事なできやなあ。別嬪舞妓の女体盛り見たら、先生や旦那衆が腰を抜かすで。がはははは~。さぁ、はよ運んで」

 理事長は首相秘書官峰山の前に早速運ぶよう促した。
 板長は若い板場たちに目配せをし、ゆまを乗せた舟盛りは座敷の中央へと運ばれていく。
 峰山は座敷奥の床の間の前に着座している。
 板長たちは舟盛りを押していく。
 そのさなか、舟盛りの中に裸女がいることに気づいた旦那衆が素っ頓狂な声をあげた。
 やがて複数の声が重なり歓声へと変わっていく。
 まもなく峰山の前に舟盛り料理が配膳され、理事長が一礼する。

「峰山先生、ゆまの舟盛りでございます。どうぞご賞味ください」
「おおっ……これは見事だ……!」
「ゆまは舞う姿もきれいやけど、素肌も申し分おまへんなあ。やっぱり峰山先生は見る目が違いますわ」
「たしかに美しい。濡れた絹のような肌をしておる」

 峰山は目を爛々と輝かせて舟に横たわったゆまを見つめていた。

 ゆまは羞恥心のあまり峰山や畑理事長を正視することができず、ずっと目を伏せたままであった。

「峰山先生、別嬪はんの裸をずっと眺めてたいお気持ちは分かりますけど、刺身が傷んだらあきまへんので、ぼちぼちお召し上がりください」
「ははははは~、そうだな。では戴くとするか。美人舞妓の肌に盛った刺身を、皆さんもいっしょにいただきましょう~」

 峰山の一声で、手ぐすねを引いて待っていた旦那衆が一斉に箸と小皿を手に、ゆまが乗った舟盛り器の周囲を取り囲んだ。
 
「これはすごいご馳走やで!」
「えらい別嬪さんやおまへんか」
「こんな色っぽいお造り食べるのん初めてやで」
「舞妓の女体盛りなんて一生食べられへんわ」

 旦那衆は口々に言葉を発しながら、飢えた狼が獲物のまわりを取り巻くように集まった。

「峰山先生、先ずは先生から箸をつけてください」
「では遠慮なく戴くとするか」

 峰山はニヤニヤと笑みを浮かべながら、乳房の谷間に盛られたタイに箸を伸ばした。

「うんうん、これは美味い」

 峰山が賞賛の言葉を発すると、周囲から拍手が巻き起こった。
 理事長が旦那衆も箸を付けるよう促す。

「ほんなら皆さん、いただきまひょか」

 ゆまに盛られている刺身に向かって一斉に箸が伸びた。
 旦那衆がこぞって刺身を食する姿を楽しそうに見ている峰山に、理事長が酌をする。

「理事長、今日はご苦労だったね」
「何をおっしゃいますやら。峰山先生が喜んでくれはったら、わてらは嬉しおますねん」
「さあ一杯飲んでくれ」

 峰山はさされた酒をグイと飲み干し返盃する。

「それにしてもゆまはまだおぼこいけど、ええ身体をしてまんなあ。さすが峰山先生やお目が高いわ」
「ふふふ、私はあの舞妓を一目見たときに惚れ込んでしまったよ。それにしても早速このような場を設けてくれて、理事長にはすごく感謝してるよ」
「いえいえ、滅相もおまへん」
「ところで、私に何か頼みごとがあるんだろう?」
「ははは、さすが峰山先生には全部お見通しやなあ。せやけど、それはまた後日ちゅうことにしまっさ。今夜は仕事のことは忘れて、ゆまとしっぽりと過ごしてください」
「理事長は気が利く人だね。そうさせてもらうよ。ふふふふふ」


第五話「キュウリの使い道」

 旦那衆の席にはそれぞれ膳が用意されている。
 しかしほとんどの旦那衆は膳には箸を着けず、ゆまに盛られた刺身をむさぼり合っている。
 ゆまに盛り付けた刺身が減ると、板場たちがまめまめしく動き回りすぐに補充する。
 ところが不思議なことに、むさぼり合っている旦那衆だが秘所に盛り付けられた大トロと伊勢エビには手を付けない。
 やはり峰山への配慮であろうか。
 そんな折、禿げあがった一人の旦那が峰山に対し秘所に盛られた刺身を食するよう促した。

「峰山先生、特等席に盛られたお造りをどうぞお召し上がりください」
「舞妓のアソコは特等席か?これはおもしろい!では特等席の刺身をいただくとするか」

 峰山は満面の笑みを浮かべながら伊勢エビをつまんだ。

「私は伊勢エビをいただくから、よかったら大トロは理事長が食べてくれ。さきほどから司会をして全然食べてないじゃないか」
「お気遣いすんまへん。ほんならお言葉に甘えて大トロをいただきましょか」

 理事長は峰山の勧めで大トロに箸を伸ばした。
 どこからともなく喝采が起こり、他の者もつられるように拍手をし始めた。

「峰山先生、どんな味でっか?ご感想を」
「舞妓はんのおつい飲んでエビが酔うてまっせ~」
「そんなアホなことあるかいな~」
「わははははは~」

 旦那衆が好き勝手なことをつぶやき囃し立てる。
 座敷の喧噪をよそに、ゆまは羞恥にまみれ顔を真っ赤にしている。
 置屋の女将から予め「どんなことをされても絶対我慢」と言いつけられていたから、ただ耐えるしかなかった。

「うん、美味い。美人舞妓の秘所に盛られた伊勢エビは格別に美味いよ」
「おお、これはうらやましい!」
「先生が喜んでくれはったら、わてらも嬉しおますわ!」

 峰山は伊勢エビに舌鼓をうちながら満足そうに盃を傾けた。
 横についている芸妓が空かさず酌をする。

 いつのまにか多くの旦那衆がゆまの周囲を取り巻き、一斉に箸を差し出してくる。
 板場たちが盛り付けても、すぐに箸が伸びてきてすぐに刺身が消えていく。
 女体盛り大忙しである。

「そばで見たら、えらい別嬪さんやなあ、刺身が美味いはずやで」
「舞妓はん、なんちゅう名前なんや?」
「へえ、ゆまどす……」
「素っ裸で刺身盛られて、どんな気分や?」
「恥ずかしおす……あぁ、消えてしまいたい……」
「ほんまきれいな舞妓はんやこと。ほんま不思議やなあ、美人やったら刺身までうもう感じるわ」
「べらんめえ、俺なんざ東京深川の芸者で女体盛りをしたことがあったぜ。でもよお、あんときよりこっちの方が断然うめえぜ!」

 峰山はみんなが談笑しながら、ゆまに盛られた刺身をつまむ様子を楽しそうに眺めていた。
 板長が秘所に刺身を盛り付けようとしたとき、峰山が「そこに乗せるのはちょっと待ってくれ」と盛り付けを制止した。

「え?ここは盛らんでもよろしおすんか?」
「うん、盛らなくていい。その代りにすまないがキュウリを一本持ってきてくれないか」
「キュウリどすか?」

 峰山の要望は不可解であったが、板長としては断るわけにもいかず、すぐに若い板場にキュウリを持ってくるよう伝えた。

 まもなく板場見習いの一平がキュウリを乗せた竹籠を運んできた。
 峰山はにんまりと笑みを浮かべ一本のキュウリを取り出した。

「今夜、美しい舞妓ゆまに盛られた刺身はすごく美味しいです。しかしこの美味しい刺身をもっと美味しくする方法があります」
「え?どういうこっちゃ?山村板長はんはこの界隈ではかなり名の通った板場どすえ。峰山先生はそれより美味いもんを造れるちゅうんどすか?」

 地元京都の一人の旦那が峰山の提言に疑問を唱えた。

「私は料理に関してはまったくの素人です。でもこの一本のキュウリが大幅に味を変えてくれます」

 旦那衆からどよめきが起こった。

「刺身にキュウリ添えて食べても別に味は変わらんで」
「キュウリなんか調味料になれへんのになあ」

 一同が首を傾げる中、峰山はゆまの恥丘に指を這わせ、ゆっくりと陰核を擦りだした。
 突然敏感な個所を触られたゆまは驚きのあまり声を荒げた。

「いやどすぅ……!ようけの人の見てはる前でこんな恥ずかしいこと、堪忍しておくれやす……!」
「騒ぐんじゃない。じっとしてなさい」

 峰山はゆまを一喝すると、円を描くように陰核を擦り続けた。
 ゆまはシクシクと泣きじゃってはいるが、女将の言いつけを守って懸命に堪えている。
 この間、旦那衆は微動だにせず呆然と見ているだけであった。

「ぼちぼち頃合いかな……」

 峰山は独り言をつぶやくとキュウリと取り上げ、そっとゆまの割れ目にあてがった。

「皆さん、今からこのキュウリを舞妓に挿しこみます」
「挿しこむて……もしやアソコかいな。どひゃ~~~!」
「舞妓のキュウリ挿入なんて滅多に見られへんで。楽しみやな~」

 旦那衆の輪は一段とせばまり、目を爛々と輝かせゆまの秘所と峰山の手元に熱い視線を送った。


第六話「刺身につける蜜」

 キュウリを一気に挿入するものと、固唾を呑んで様子を見守っていた旦那衆であったが、峰山は膣口手前の膣前庭や陰核をキュウリで撫でるだけで一向に挿しこむ気配がない。
 それでも敏感な箇所をキュウリで撫でられたことによってゆまは変化を見せた。

「あっ……っ……あぁっ……」

 太腿をピタリと閉じて下半身をびくつかせている。

「足を閉じてはいけないよ。さあ開いて」

 峰山はやさしく諭す。
 それにしても峰山はどうしてキュウリを奥まで挿しこまないのであろうか。
 怪訝に思った旦那の一人が峰山に挿入をためらっている理由を尋ねた。
 峰山は笑って答えた。

「この舞妓は未通女だよ」

 峰山の一言で宴会場が一瞬静まり返った。
 未通女(おぼこ)とは、処女のことである。
 今夜峰山には一つの思惑があった。
 それは宴会終了後、ゆまを自室に連れ込み処女を奪う目論みだったのだ。
 そのため最初の進入者をキュウリに譲りたくなかったわけだ。

 まもなく旦那衆からざわめきが起こり一同はゆまの舟盛りを覗き込んだ。

「さすが、峰山先生。国のお仕事だけやのうて、おなごはんのことにもたいそう長けたはるわ」
「確かに水揚げ前の舞妓やったらたいがいは生娘やろけど、一目で見抜くとはすごいわ」
「それにしてもこの舞妓はん、きれいなオソソしてるわ」
「使い込んでるうちの嫁はんとえらいちゃうわ」
「わはははははは~」
「がははは~、但馬屋さん、おもろいこと言うな~」

 旦那衆が騒いでいる最中も峰山は黙々とキュウリを駆使して愛撫をつづけてる。
 処女膜を避けその周辺を触れていると、指先を震わせ、ゆまは甘い声を漏らし始めた。

「あ、ああ…あっ、あ……っ……」

 いつしかゆまの秘裂からじわりと蜜が溢れ出している。
 峰山はキュウリの動きを止めた。

「このぐらいでいいかな……」
「マグロをもらおうか」
 
 峰山は板長に刺身を要求した。
 板長は別の容器からマグロの刺身を一切れ皿に乗せ、峰山に差し出した。

「ありがとう」

 峰山は刺身を箸で挟むと、醤油小皿には目もくれず、箸先をゆまの股間に近づけた。
 一同が呆然とする中、峰山は秘裂から溢れ出した蜜を醤油代わりにつけると、口をあんぐりと開け刺身を放り込んでしまった。
 もぐもぐと食べると、あまりの美味しさに感嘆の声を上げた。

「おおっ!旨い!」

 呆然と見つめていた旦那衆がいっせいに手を叩いた。

「舞妓ゆまの蜜をつけるとこれほど刺身が旨くなるとは!さあ、皆さんも試してください!」

 旦那衆がこぞってゆまの周囲を取り囲み、刺身を挟んだ箸を伸ばした。
 数人が愛液をすくうと、すぐに乾いてしまう。
 乾けば峰山が陰核を擦りほどなく蜜が滲んでくる。
 ゆまの白い肌はあまりの恥ずかしさに赤みを帯び、これまでの人生で味わったことのない強烈な恥辱に、とめどもなく涙が溢れた。

 ゆまがべそをかこうが、峰山はそれを黙殺しキュウリで『実擦り(さねこすり)』に興じてる。
 そのうえ理事長に応援を求めた。

「理事長、ゆまの乳を揉んでやってくれるか?」
「え?よろしおまんのか?えへへっ、ほんな、お言葉に甘えて揉ませてもらいまひょか~。板長、すまんけど、乳に乗ってる刺身をどけてくれへんか」

 理事長は峰山から乳揉みを頼まれて上機嫌である。
 乳揉みを始めると、その手さばきはさすがに堂に入ったもので、伊達に年を取っていないことが分かる。
 峰山の『実擦り』と理事長の『乳揉み』の二か所責めをされたゆまは、たちまち気を入れ始めつややかな声を奏でた。
 ふたたび谷間が濡れだすと、旦那衆はこぞって刺身の箸を運んだ。

「峰山先生、こんなおぼこ娘でも、急所を責められると面白いほど濡れるもんでんなあ。ええ勉強になりましたわ」
「理事長のような熟練者が勉強だなどとよく言うよ。女は年増でも生娘でも感じるのは同じ。男に腕さえあればいくらでも濡らせるものだよ。はっはっは~」

 べそをかいていたゆまが、ついにシクシクと泣き出した。

「あっ……あぅっ……もういやや……もう堪忍しておくれやすぅ……」

 先程までは女将の言い付けどおり、峰山たちの淫らな行為に対しても精一杯耐えていたが、すでに限界に達していた。
 ゆまは今夜座敷で初めて拒絶の態度を示したのだった。
 理事長が目を吊り上げてなじった。

「ゆま、今『いやや』ちゅうたな?」
「す、すんまへん……つい……」
「ゆま、舞妓ちゅうもんはお座敷に上がったら、お客はんを大事にすんのが勤めとちゃうんか?」
「はぁ、いわはるとおりどすぅ……」

 ゆまは泣きながら謝罪した。

「このこと女将に言おか!」
「かんにんしておくれやす……」

 峰山が二人の会話の間に入った。

「まあまあ、理事長、そんなに目くじらをを立てなくてもいいじゃないか」
「せやけど」
「ここは私に免じて許してやってくれないか」
「峰山先生がそないに言わはるんやったら、仕方おまへんな。ゆま、今後気ぃつけるんやで」
「はぁ、すんまへん、今後気ぃつけます……」


第七話「キュウリは直径一寸と細身だが」

 峰山のキュウリによる実いじりと、理事長の乳揉みは再開され、幼いながらもその美しい女体はとろとろに蕩けそうになっていた。
 肉裂から溢れた蜜は太腿を伝い船底へと流れ落ちる。
 峰山が旦那衆にうながす。

「舞妓の蜜を流してしまってはもったいない。しっかりと蜜を着けてやってください」

 旦那衆がニコニコ顔で箸を差し出す。
 旦那衆の中には、わざと箸の先端で実をつつき、ゆまの反応を楽しむ者もいる。

「おお、実をちょっといじっただけで、顔を赤らめて腰をピクピクさせよるやないか。おぼこはほんまに可愛いなあ」
「実だけやない。おめこもふっくらとして、ごっつう美味そうやで。こんな上等な舞妓を水揚げするのはどこの誰やろなあ。羨ましいわ。ははははは」

 一人の旦那がそうつぶやくと、ちらりと峰山の方を見た。
 峰山はニヤリと微笑を浮かべた。

「皆さん、蜜液の刺身のお味はいかがでしたか? さて、皆さんも知ってのとおり、舞妓はいずこかのパトロンに水揚げされるまでは生娘です。ここにいる舞妓も同様で正真正銘の生娘です。で、包み隠さず白状しますが、今宵、私めが舞妓ゆまを水揚げさせていただくこととなりました」

 峰山の語りかけに静まり返っていた宴会場に拍手と大きな歓声があがった。

「拍手までいただくとちょっと照れますな」

 宴会場がどっと沸いた。

「しかし私だけが良い目をするわけには行きません。皆さんにも十分楽しんでもらわねばなりません。その方法とは……」
「ほう、なんやろか?」
「ここに直径一寸(3センチ)のキュウリがあります。これを舞妓の性器に挿しこみます」
「な、なんと!」
「待ってました!」
「よだれが出そうや~」
「一寸というのは男の物よりいささか細いですが、生娘ならこの太さでも十分効果があるはずです。すぐに挿しこむと痛がる思いますので、もう一度愛撫をほどこし濡れたのを見計らって、グイっとねじこみたいと思います」
「ええぞ!峰山先生!」
「舞妓の一輪挿し、これはおもろいで~」

 男たちの会話を聞いていたゆまは、恐怖と屈辱感で身体が小刻みに震えた。
 大勢の男たちの前で全裸になるだけでも恥ずかしいのに、まさかそれ以上の辱めを受けるとは……

 峰山が実と花弁への愛撫を始めると、理事長は自分の役目とばかりに乳房への愛撫を開始した。

「あぁ……っ……あぁぁっ……」

 峰山の右手が実を撫で、右手は陰唇の内外をこねまわすと、ゆまの口から生娘には似つかわしくない艶めかしい声が漏れた。
 右手の指が実を覆っている包皮を剥く。
 包皮を剥かれ覆うものをなくした桃色の雪洞は抗うすべもなく男の餌食となっていく。
 ゆまは性に目覚め以降、自身の指でそっと慰めたことはあったが、男に女性器を触れられるのは今夜が初めての経験であった。
 見知らぬ男と褥を共にするのもつらいことだが、好奇に満ちた野獣たちに囲まれて秘肉を晒しなぶられるのはそれ以上に耐えがたいものがあった。
 どうしてこのような屈辱を受けなければならないのか。
 唄や踊りや三味が一人前になればいいのではないのか。
 旦那様を持つことが芸妓や舞妓のさだめとは分かっていても、こんな酷い仕打ちを受けなくてはならないとは……
 ゆまは己の境遇を恨めしくさえ思った。
 できるなら、今この場から逃げ出したい。
 だけどそれは無理なこと。
 もしもこの場から逃げ出せば、置屋の女将から受けた厚い恩を仇で返すことになる。
 そんなことは絶対にできない。

「っあ……ひゃ……もう……あかんっ……」

 花弁が蕩けそうなほど熱くなってきた頃、もう頃合いとみた峰山が理事長に一つの提案をした。

「かなり濡れてきたな、もういいだろう。理事長、すまないが割れ目を広げてくれないか」
「お安い御用で」
「いやや……堪忍して……」

 理事長は待ってましたとばかり、ゆまの陰裂をなぞり、色素の薄い秘唇を広げた。
 ぱっくりと口を開けた秘唇の奥にはさらに赤みのある肉襞が覗いた。
 ねっとりとした液体が陰裂からあふれ花弁全体を濡らしていた。

 峰山は淫靡な笑みを浮かべながらゆまに尋ねた。

「ゆま、理事長におまんこを広げられた気分はどうだね? どれどれ、中はどうなっておるかな?」
「恥ずかしい……もう死にとおす……」
「この程度で死にたいなどと言ってたら、いくつ命があっても足りないぞ。ははは」
「あぁ……」
「せっかくだから旦那衆にもしっかりと見てもらいなさい。皆さん、もっとそばで見てやってください」
 
 四方八方からから旦那衆がにじり寄り、舟の中を覗きこんでは、口々に卑猥な言葉を浴びせかけた。

「ではただいまから、舞妓のキュウリ入れを始めたいと思います。どれだけ入るかお楽しみに~!」
「待ってました!」
「三寸ぐらいは入るんちゃうか?」
「まだ処女やし三寸は無理やろ。せいぜい二寸程度やな」

 峰山はキュウリを握って構えた。
 その光景をその場にいる全員が息を潜めて見守っている。


第八話「水揚げの夜」

 理事長がキュウリを眺めてニヤニヤと笑っている。

「峰山先生、聖護院のキュウリは立派ですなあ。この黒いイボが何ともいやらしくてたまりまへんわ。こんなイボで擦られたら、どんなおなごでもすぐに昇天してしまいまっせ」
「しかし、よく考えてみたまえ。ゆまはまだ生娘だよ。この程度のイボでも辛いかも知れないぞ。それに中で折れたら大変なので、このサックを着けてやろうと思うんだ」

 峰山はサック(後年でいうところのコンドーム)を公開した。

「さすが峰山先生! おなごにはやさしい人やわ」
「おいおい、女性だけじゃないよ。誰にでもやさしいつもりだがね」
「これはえらいすんまへん」

 峰山はキュウリにサックを装着した。

「理事長、すまないがもう一度割れ目を広げてくれないか」
「えへへへ、喜んで」

 理事長は峰山の指示に従い小陰唇を左右に広げた。
 さきほどの愛撫で花弁はまだ十分潤っている。

「いやや!堪忍しとくれやす……」

 薄桃色の肉襞が男たちの好奇の目にさらされた。

「ゆま、今からキュウリを食べさせてやる。ただし下の口にな。ふふふふふ。しっかりと味わって食すのだぞ」
「そんなん無理どす……堪忍や……」
「無理ではないことを証明してやろう」

 峰山はサックを装着したキュウリをゆっくりと花弁の中心へと沈めていく。
 ゆまの顔がゆがみ、かすかに身体を震わせている。

「ううっ……ううう……っっ……」
「どうだ?イボイボが気持ちいいだろう?」
「い、いたい!」

 どうしても快感より痛みが先行してしまう。
 それでも峰山はためらうことなく、キュウリを前後させた。

「ぐふふ、出し入れしていると、しだいに滑らかになって来たではないか」
「うううっ……」

 ゆまは相変わらず顔をしかめている。
 旦那衆は至近距離から、挿入箇所とゆまの表情を交互に覗き込んでいる。
 
「おおっ……血が滲んできたやないか」

 一人の旦那が血相を変えている。

「ぐふふ、キュウリを挿しこまれた気分はどうだね?」

 ゆまはしくしくと泣いている。
 それでも容赦なくキュウリの抽送はつづき、峰山はまもなく奥まで突き立てた。
 激しい破瓜の痛みに、ゆまの意識が一気に覚醒した。

「い、いたいっ!」
「ぐふふふ、おまえの初めての男はこのキュウリだ」
「ううう……ううっ……」

 奥まで押し込まれ、すさまじい激痛が走る。
 ゆまは今までになく泣き叫んだ。

「い、い、いたいっ!」
「さあ、抜いてやろう。これ以上ゆまを泣かせると、皆さんから峰山は酷い奴だと誹りを受けるからな」

 峰山がキュウリを抜き取ると、理事長が徳利をかかげ甲斐甲斐しく酒を勧めてきた。
 盃をグイっと明けると、すぐに酌をする理事長。

「峰山先生、どないでしたか?」
「なかなかすばらしい宴会で、存分に楽しませてもらったよ。ありがとう、理事長」
「めっそうもありまへん。峰山先生が楽しんでくれはったら、何も言うことはおまへん」

 峰山が盃を理事長に手渡すと、理事長は「お流れをいただきます」と言葉を添えて両手で峰山の献酒を受けた。
 理事長は「おおきに」と述べ、左手を添えながら右手で返杯した。
 そして何やら峰山に耳打ちをすると、峰山はにこりと微笑んでうなずいた。

 まもなく理事長はすくっと立ち上がり揉み手をしながら重々しい声で語り始めた。

「さて、皆さん。宴もたけなわですが、残念ながらお開きの時間となりました。このあと峰山先生は隣の部屋でお休みになり、明日東京に帰らはります。そんな先生に盛大な拍手をお願いいたします」

 宴会場は大きな拍手に包まれた。

「皆様、本日はこのような立派な宴会を開催していただき、まことにありがとうございました。今後の皆様のご繁栄を心より祈念しております。本日はありがとうございました」

 さらに大きな拍手喝采が宴会場に鳴り響いた。
 理事長が最後に一言付け加えた。

「皆さん、今から舞妓のゆまは隣の部屋にまいります」
「えっ? どういうこっちゃ? つまりその隣の部屋で峰山先生とええことするっちゅうことかいな?」
「襖は開けたままにしておきます。ただし衝立は置かせてもらいますので残念ながら見えません。つまり声だけ聞くことができます」
「つまり、峰山先生と舞妓ゆまの濡れ場は見られへんけど、つやっぽい声だけは聞けると言うわけか。なんと!」
「これは面白いやないか」
「聞かんと帰るわけにはいきまへんな~」

◇◇◇

 隣室との襖が開けられた。
 隣は十二畳ほどの和室になっていて、中央には豪華な布団が敷かれている。
 枕元には朱塗りの箱が置かれているが、何が入っているのか興味深い。

 宴会場にすでに峰山の姿はなかった。用足しか風呂にでも向かったのだろう。
 ゆまは仲居に襦袢を着せてもらい仲居とともに隣室へと入っていった。
 ゆまが隣室に入ったあと、衝立を置かれたので隣の様子が見えなくなってしまった。
 おそらくゆまが仲居に手伝ってもらい寝屋の準備をしているのだろう。

 宴会場の旦那衆は誰一人帰ろうとしない。
 全員が固唾を呑んで隣室の気配をうかがっている。

 次の瞬間、宴会場の静けさをかき消すような、悲痛な叫び声が隣室から聞こえてきた。

「ああっ……堪忍どすぅ……いやや……いやや……ああっ、ああっ……あああああああっ……!」

 ちょうどその頃、祇園の夜風に吹かれて鴨川の桜がひらりひらりと散っていた。



















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