Shyrock作 |
<登場人物>
野々宮ありさ
20歳、女子大生でありながら六本木のクラブに勤務、天真爛漫で裏表のない性格
原口ダイチ
28歳、父親が経営する原口物産の営業部長、若いが如才なくやりて、ありさと交際中、極度の潔癖症
車谷俊介
32歳、フリーのコピーライター、謎の多い男
第1話「六本木の夜は更けて」
ありさ、20歳。大学に通うかたわら、夜は六本木のクラブに勤務している。
クラブはスナックとは違い、客の隣に座って接待をしなければならない。
料金もスナックより高いため、当然のように富裕層セレブリティが多く訪れる。
ひとくちに富裕層といっても大企業の社長や重役をはじめ、経営者、プロスポーツ選手、政治家など、各分野にさまざまな客がいる。
彼らの飲み方は一般的にスマートであり、紳士的に振る舞い夜のひとときを過ごす。
そんなありさには恋人がいた。
彼の名前はダイチで年齢は28歳。
きっかけは得意先の接待のためダイチが店を訪れた時にさかのぼる。
ダイチはありさの美貌と天真爛漫な性格に一目惚れしたのだった。
その後、頻繁に通うようになり、つねに『ありさ』を指名した。
ちなみに銀座、六本木、北新地などの高級クラブの場合、キャバクラとは違い基本的に誰かの紹介がなければ入店できないシステムとなっており、さらには指名制度がまったく違っていた。
高級クラブではすべて『永久指名制度』となっている。つまり、キャバクラやニュークラブのように、その都度、客の意思でホステスを変えることができるシステムではなく、客が一度指名したホステスは永久に「係り」となるのだ。
熱心に通い続けるダイチ。
酒席での立ち居振る舞いがよく、酒を飲むときの品性『酒品』もよい。しかもありさに好感を持っていることはひしひしと伝わってくる。
父親の会社原口物産の営業部長を担っており、ときおり接待のため得意先を連れてくることもある。仕事っぷりからして、歳は若いが並々ならぬ手腕がうかがえる。
ありさはダイチの自分への熱心さと真面目な性格に次第に惹かれていった。
そんなダイチからデートに誘われて嫌なわけがない。
だけど忙しい二人はなかなか時間が噛み合わない。
特にありさの場合、昼間は大学に通い、夜はクラブ勤務ということもあり平日に会うことはかなり難しい。
そんなありさに対してダイチはしばしば「毎月小遣いをあげるからクラブを辞めてほしい」と懇願してきた。
だけどありさとしては実家がそれほど裕福でないこともあり、親を頼らず自活しようとがんばってきたこともあり、ダイチの申し出を断っていた。
またデートはダイチの愛車でドライブと決まっており、高級なレストランばかりであった。
ぜいたくな悩みかもしれないが、たまには電車を利用して遠出してみたり、庶民的な居酒屋デートをしてみたりと、ふつうの遊び方をしたいと思っていた。
またダイチのありさとのセックスは判で押したようにワンパターンであった。
ほかの男性だと、ホテルの部屋に入るや否や突然キスしたり、シャワーを浴びる前に女性を押し倒したりする男性も多いものだが、ダイチは絶対にしなかった。
常に紳士的であった。
手洗い、うがいをしてからキス、シャワーを浴びてからセックスが定番となっていた。
意外な場所でのセックスという選択肢はなく、場所は必ずベッドであり、手順もパターンが決まっていた。
胸を少し愛撫してからショーツを脱がせ、秘所を軽く愛撫する。
その後は正常位で数分腰を動かし、わずかな時間で高揚し、射精する前に、「ありさちゃん、いいよ、僕イっちゃうよ~」とつぶやくとあっけなく果ててしまう。
そのくせ「良かったかい?」とすぐに尋ねてくる。
ありさも気を遣って「よかったわ」と答えるしかない。
その夜のセックスはピロートークを交わすこともなく、またぼんやりとまどろむこともなく終了する。
わずか数分のセックスで女性が満足するはずもないし、ましてや絶頂に昇りつめることも困難であろう。
つまりダイチのセックスはあきらかに自己中心的なものであった。
またダイチは絶対にクンニリングスをして来なかった。
ありさは思い悩んだ。
(私のアソコってもしかして匂いがするのかな? いつもよく洗って清潔にしてるんだけどなあ……)
ありさは思い切って自分で触れて匂いを嗅いでみた。
「全然匂わないじゃん……」
またダイチはクンニリングスばかりか、絶対にフェラチオをさせなかった。
つい最近もセックス中にありさの気持ちが高揚し、「オチンチン舐めてあげるよ」とささやいてみたが、ダイチは「いいって、そんなことしなくたって。汚いからいいよ」と素っ気なく返されてあえなく提案を却下。
ありさは薄々感じていた。ダイチは性格もいいし、よく気の利く気配りのできる男だが、どこかよそよそしいところがある。
誕生日や各種イベントには欠かさずプレゼントを贈ってくれる段取りのよさ。
どこに行ってもありさに財布を絶対に出させない心遣い。
ありさの友達にいわせれば、「申し分のない彼氏じゃないの、すぐに結婚したら?」という。
彼と結婚すればおそらく経済的には問題ないだろう。
そこそこ立派な家に住めて、欲しい物は買えて、何不自由なく過ごせるだろう。
だけど……
だけど何かが足りない……
実はダイチは極度の潔癖症をかかえていたのだが、そんなことなど露ほども知らないありさは彼との交際の中にどこか虚しさを感じていた。
ありさはクラブの中でも人気者だったため、ダイチ以外の客から誘われることも度々あった。
食事くらいは付合った方が今後の仕事にプラスなのだろうが、ダイチの気持ちを思い図って誘いは丁重に断り続けていた。
そんな頑ななありさだったが、ある男性の出現によって彼女の運命は大きく変わろうとしていた。
いつも一人でやって来て、ありさを指名する車谷と言う男がいた。
どこかミステリアスで陰を感じる部分があって、でもありさの話をしっかりと聞いてくれた。
そんな彼にありさは少しづつだが心を開いていった。
ダイチにはできないような話題であっても、いつしか打解けて車谷には話せるようになっていた。
彼はしっかりと受け止め真摯に向き合ってくれた。
彼の包容力に次第に惹かれていく自分を止めることができなかった。
歳は30代半ばくらいで、仕事はフリーのコピーライターだという。
六月下旬のことだった。
その夜も車谷が店に訪れて、ありさは上機嫌であった。
好意を持つ人の来店は、自然と気分が高揚し話が盛り上がる。
「ありさちゃん、確か明日が誕生日だったね。こんな物だけど良かったら受取ってくれないかな? 気に入るかどうか分からないんだけど」
ありさは思いがけないプレゼントに驚きを隠せず、早速リボンを解いてみた。
丁寧に包装した箱の中から現われたのは、キラキラと輝く金のネックレスだった。
「えっ!? こんな立派なものをいただいていいんですか? すっごく嬉しい~。車谷さんからのデートのお誘いを、いつも断ってばかりいるのに」
第2話「シャクヤクのブーケ」
「ささやかだけど受け取ってくれたら嬉しいよ。そりゃあ一度はデートをしたいけど、ありさちゃんにはたしか彼氏がいたよね?、彼氏のいる子を無理やり誘ったりすると彼氏に悪いしね。この店に来て、ありさちゃんの横に座って、こうして楽しく話ができたら、それだけで十分だよ」
車谷はそうつぶやくと、残り少なくなったブランデーグラスをグイッと開けた。
ありさは、空になったグラスにブランデーを三分の一ほど注ぎ、トングで氷をはさむと四個いれ、車谷の前に差し出した。
セピア色の輝きが、今夜は何故だかまぶしく感じられた。
「明日の誕生日は彼氏にお祝いしてもらうんだろう? 楽しみだね」
「はい……おそらくそうなると思いますが……」
事実、ダイチはありさのために二つ星のフランス料理店に予約を入れていた。
だけど、ありさはあまり気が乗らなかった。
恋人が誕生日を祝ってくれると言うのに……
「どうしたの? 何か浮かない顔をしているじゃないか?」
「そ、そうですか? そんな表情に見えたのなら、ごめんなさい。ところで、車谷さんは最近お仕事は忙しいですの?」
「ぼちぼちでんな~」
「えっ?ぼちぼちって……たしか……?」
「うん、大阪の商人言葉だよ。『そこそこ』という意味だね」
「車谷さん、大阪ご出身なんですか?」
「子供の頃、両親が大阪で商売をしていたので、ずっと耳に残っててね」
「いつ頃東京に来られたのですか?」
「高校まで大阪にいて、その後大学と就職は東京で。ありさちゃん、生まれは?」
「私はお隣の横浜です。生まれも育ちも横浜なんですよ」
「ハマっ子なんだ。横浜の女性ってプライドは高いけど協調性と社交性を持ち合わせている人が多いように思うんだけど、どうかな?」
「結構当たってると思いますよ」
「ありさちゃんもそう?」
「うふふ、そうかも」
「はははははは」
その後、趣味のことからグルメまで話題に事欠くことはなく、会話は大いに盛り上がった。
「ありさちゃん、それじゃぼちぼち帰るよ。少し酔ったみたいだし」
「うわっ、もうこんな時間ですね。気の合う人と話をしてるとすぐに時間が経っちゃいますね」
「気が合うって言ってくれるの? さすがプロ、ありさちゃんって口が上手いね。ははははは~」
「お世辞じゃないですよ。本音ですよ」
「そうなんだ。ごめんごめん。それじゃ、また来るね。明日は素敵な誕生日を過ごしてね」
車谷がジャケットを着ようとしたとき、ありさは車谷の後方に回って着るのを手伝った。
そのわずかな瞬間、ありさは車谷の耳元でそっとささやいた。
「車谷さん、私、今夜はもう上がりなんです。帰りにお茶するんですけど、付き合ってくれませんか?」
「うん、いいよ……」
思いがけない誘いに車谷は少し戸惑いを見せたが、小さくうなずいた。
「ここから真っ直ぐ北に行って六本木通りに出ると『ファンタジー・ブーケ』という花屋さんがあるので、すみませんがその前で待っててくれませんか? 着替えが済んだらすぐに行きますので」
「うん、分かった。先に行ってるよ」
(今までデートに誘ってもずっと断ったのに、急にどうして……?)
そんなありさが今夜はどういう風の吹きまわしなのか、自分から誘って来た。
車谷はクラブを出ると六本木通りへと向かった。
花屋『ファンタジー・ブーケ』は六本木通りに出るとすぐに見つかった。
夜が更けても花屋の店先は煌々と明かりがともってる。
眠らない街六本木の横顔に、一種の感動をおぼえる車谷であった。
花屋の前で待っていると、ついその花の美しさに目がいってしまう。
車谷の目に止まったのは白いシャクヤクであった。
「この花、もらえますか」
「プレゼントですか?」
車谷はシャクヤクの小さなブーケを買った。
(ありさちゃん、喜んでくれるかな)
ブーケを持った男が夜更けの六本木の街角で佇んでいる姿は何とも奇妙であり滑稽である。
それから待つこと十分。
「お待たせしました!」
ありさが現れた。
少し息を切らしながら、こちらへと小走りでやって来る。
「そんなに走らなくてもいいのに」
「でも人を待たせるのって嫌なんですよ」
「とてもいい心掛けだね。そんなよい心掛けの子には、はい、ご褒美」
「まあ、すてき!さっき金のネックレスをいただいたばかりなのに、こんなきれいな花束までいただけるんですか?」
「うん、荷物になるけど、よかったら受け取って」
「ありがとうございます! すごく嬉しいです!」
「ところで、お茶にする? それともお酒の方がいいかな?こんな時間だからそんなに開いてないかも知れないけど。軽く食事もできるカフェにしようか?」
時計の針はちょうど夜中の0時を差している。
すると先程までにこやかだったありさの表情から笑みが消え、突然真剣な表情になった。
「車谷さん……」
「どうしたの?」
「私を抱いてくれませんか?」
「ええっ! な、なんだって……!?どうしたの?急に……」
「理由(わけ)は聞かないでください……それとも私を抱くのは嫌ですか?」
第3話「花言葉は『はじらい』」
「嫌なわけがないじゃないか。だって僕は君のことが好きだもの」
「まあ、嬉しい! じゃあ、いいんですね?」
「うん、いいけど……もしかしたら今夢を見てるのかな? こんな素敵なことが現実に起きているなんて、にわかに信じられなくて」
ありさの願い出があまりにも唐突であり、突拍子もないので、車谷は夢を見てるいるのではないかと自身を疑った。
「夢じゃないですよ。何なら頬っぺをつねりましょうか」
「うん、つねってみて」
ありさは車谷の頬を軽くつねった。
「いかがですか?」
「痛くないよ。やっぱり夢なんだ」
「夢じゃないのに。じゃあ、これでどうですか?」
ありさはさきほどよりも少し強めにつねった。
「いたっ!」
「ほら、やっぱり夢じゃないでしょう?」
「いててて……ありさちゃん、ちょっと力の入れ過ぎだよ。マジで痛かったよ」
「そうですか。これで私のお誘いが現実だということを信じてもらえますか?」
「うん、信じるよ」
『棚から牡丹餅』という諺があるが、今の車谷にはぴったりの心境であった。
あれほどデートに誘っても応じなかったありさが、まさか自分から抱いて欲しいと願い出てくるは。
ありさに会うためにクラブへと足繁く通ったことが、甲斐あって彼女の心を掴んだのだろうか。
それとも彼氏のいるありさだが、密かに車谷へ想いを寄せていたのだろうか。
理由は分からないが、絶好の機会が訪れたことは紛れもない事実であった。
まもなく幕が切って落とされるであろうありさとの蜜のような花絵巻が車谷の脳裏をよぎった。
車谷はスマホを取り出しホテル検索を始めた。
「ホテル予約ですか?」
「ここから一番近いグランドハイアットの空き状況を調べてるんだけど、あいにく満室だなあ。別のホテルを調べてみるね」
「ラブホじゃダメなんですか?」
「ラブホでもいいの?」
「車谷さんといっしょに過ごせるなら、場所はどこでも構いませんよ」
「言ってくれるね」
「はい、言わせていただきます」
「ははははは~、ラブホでよければ六本木駅から少し北に行ったところにあるよ。ここから近いし歩こうか?」
「はい、歩きましょう」
ふたりは六本木駅の北側にあるラブホテル目指して夜更けの街を歩き始めた。
「いっしょに歩くのは初めてですね」
「本当だね。よく話をしているのにね」
「ごめんなさい。いつも誘ってもらっているのに全然ごいっしょできなくて」
「そんなの気にしなくていいよ」
ありさはブーケに顔を寄せ香りを嗅いだ。
「シャクヤクっていい香りしますね」
「外見はボタンに似ているけど、香りはどちらかというとホワイトローズのようだね」
「こういう香りって『きれいな香り』というのかしら」
「『きれいな香り』ってうまい表現だね。そんな表現ができるのはありさちゃんが感性豊かな証拠だね」
「褒めてもらえてすごく光栄です。ところで、シャクヤクの花言葉って知ってますか?」
「いや、知らないね。教えて?」
「シャクヤクの花言葉は『はじらい』なんですよ」
「じゃあ、ありさちゃんにピッタリじゃないか」
「私、恥じらいがあるのかなあ……自分ではよく分からないんですよ」
「あるよ。ありさちゃんって、褒められたときや、何か間違えてしまったとき、それに僕と目が合ったときに照れ笑いをするよね?」
「まあ! すごい観察力!」
「そんな何気ない仕草の中に、自然に滲み出るものなんだよ、恥じらいって」
「へえ、そういうものなんですか」
「出過ぎることなく態度が少し控えめ点も、ありさちゃんが持ってる恥じらいの一つだと思うよ」
「驚きました。車谷さん、すごく私のことを観てるんですね。でも、自分のことって、言われてみるまでは案外分からないものですね。とても勉強になりました」
六本木はヒルズをはじめ美術館やショッピングなどが集まる格好のデートスポットだが、案外ラブホテルが少ない。
行き当たりばったりにラブホテルを探しても、意外と苦労してしまうのが六本木エリアだが、その点車谷は抜かりがない。
日比谷線六本木駅2番出口辺りを通り過ぎ、少し北に歩くと、ラブホテルらしくないネオンがふたりの目に止まった。
著名な建築デザイナーが設計したのだろうか、少し無機的だがクールでしゃれた建物だ。
ありさはじっと建物を見上げてる。
緊張のせいか、さきほどよりも口数が少なくなっていた。
「ありさちゃん……」
「はい?」
「これから、どのように恥じらうありさちゃんを見せてくれるのかな?」
「そ、そんなぁ……そんな恥ずかしいこと言わないでくださいよぉ……」
「楽しみだよ」
「いやですわ……」
ありさは恥かしそうに顔を赤らめた。
だけどありさの緊張をほぐすには十分な一言であった。
都会の真ん中で特別なひとときを求めて、ふたりは洗練された光の空間の中へ消えていった。
第4話「六本木のラブホ」
ホテルの中はいぶかしげな雰囲気はなく、都会の喧噪の中にいささか無機的ではあるがガラスと打ち放しのコンクリートの隠れ家に佇んでいるという形容が相応しいスタイリッシュなホテルであった。
車谷はさりげなくパネルをタッチする。
エレベーターに乗り込むと、五階のボタンを押す車谷。
二人に緊張感が走り、交わす言葉が途切れる。
なぜか五階までが長く感じる。
まもなくエレベーターのドアが開き廊下に出ると、点滅している誘導灯が二人の棲み処へと案内してくれる。
ありさが先に部屋に足を踏み入れると、後ろから車谷がギュッと抱きしめてきて耳元で、
「ありさちゃん、キスしていい?」
「う、うん……」
ありさの唇にそっと触れる車谷。唇を通してありさの体温を感じる。
そのまま、押し当てるとやわらかい感触を感じる。
初めてのキス……
「ありさちゃんの唇……やわらかいなあ……」
ありさは呼吸を止めたまま、身体を動かないで、今この瞬間を感じる。
息が苦しくなる前に、そっと唇を離した。
「………………………ちゅっ」
唇を離した瞬間、水気を帯びた音を立てたのが、ありさはちょっと恥かしかった。
「ファーストキス……」
「……うん」
「しちゃったね……」
「……うん」
ありさの顔が、ほんのり紅潮している。
「ねえ、車谷さん……もう一回……チューして……」
子供のように甘え声を出すありさ。
突然発せられたありさの幼い言葉に、くすっと笑う車谷。
「笑っちゃダメ。真剣なんだから。ねえチューして……」
目を薄く開け、車谷を求めるありさの顔。
ありさを抱きしめる腕に力がこもる。
「ありさちゃん……好きだよ」
「あ、あっ……車谷さん……」
ありさのショルダーバッグが床にずり落ちた。
舌を絡め合う濃密なキス。
衣服の上から、車谷の手がありさの胸を撫でた。
乳房をギュっと握り締めてしまう。
「あぁん、やぁ~ん……」
ありさの前ではふだん紳士的な車谷にしては、意外にも荒々しく性急であった。
この一瞬をそれほどに待ち焦がれていたのかと、ありさは彼の一途な情熱が嬉しかった。
キスをしながら乳房に触れられるだけで、つい声が漏れてしまう。
ありさの声に刺激されたのか、車谷はそのままありさをソファにやさしく押し倒す。
ソファでいささか無防備になったありさのミニスカートから白いショーツがちらりと覗く。
ワンピースを脱がす車谷。
「ああっ……車谷さぁん……」
首筋、肩、鎖骨、とキスがだんだん下ってくる。
車谷の気持ちが伝わってくるような、丁寧なキス。
「はぁ……っ」
たまらなくなって、吐息を漏らすありさ。
そして、まるで崩れやすいお菓子を扱うような優しい手つきでバストを揉みしだく。
乳房がお菓子だとしたら、その上にちょこんと乗っている乳首はチェリーかもしれない。
車谷の手つきや唇を見ていると、そんな錯覚に陥ってしまう。
舌で軽く転がしたり、キュッと吸いついたり、おいしそう。
「あっ……ん!」
たまらなくなって車谷をぎゅっと抱くありさ。
いとおしい気持ちが広がってたまらくなってしまう。
車谷は身体を伸ばし、もう一度キス。
愛撫のいろいろなタイミングでキスをしかける。
ありさの唇がかなり気持ちいいのだろう。
「舌、出して」
言われるがままに舌を出すありさ。
チューっと音を立てて吸われたので、精一杯舌をのばすと、その付け根を車谷の舌先が突いてきた。
「はぁ……」
車谷の舌先に自分の舌全体を絡めるようとしたとき、突然車谷は下着越しではあるが指でありさの秘所に触れた。
花びらがすっかり湿っているのが、ショーツの上からでも分かってしまう。
濡れた粘膜が淫靡な音を奏でた。
「あ、ふ……っ」
声を出したいけれど、キスで口を塞がれていてうまく出せない。
蜜がじゅっと溢れ出して、大変なことになっている。
ありさがかなり昂ぶって来た頃、車谷はさきほどよりも強く指を食い込ませた。
「ああっ……!」
まるで感電したかのように、腰をビクンと跳ね上がらせ熱い吐息が漏れる。
「ありさちゃんの大事なところはこの辺りかな?」
「あぁん、恥ずかしい……」
ショーツの上からでもちゃんと分かっているくせに、わざと聞いてくる意地悪な車谷。
だがそれが花言葉のとおり『恥じらい』となってありさを羞恥の色に染める。
身体の奥からなおも生暖かいものが込み上げてくる。
車谷はショーツの窪んだ部分に指を擦りつけながら、ふたたび恥ずかしいことを尋ねる。
「ありさちゃんのこの中ってどうなっているのかな?」
「あぁ、いやぁ……知らない……」
車谷は羞恥で紅く染めたありさの表情を楽しむかのように、ショーツをゆっくりとずらして行く。
ショーツが肌から離れてしまった。
「恥ずかしい……」
色白の下腹部の中に、薄っすらとしたかげりが車谷の目に飛び込んできた。
陰毛はかなり少なめで小さなトライアングル状に生えている。
車谷は早速ありさの秘所に口を思いきり押しつけた。
「えっ!?あんっ!そんなっ!」
第5話「シャワー前の君が欲しくて」
ありさはかなり狼狽している。
「どうしてそんなに驚いているの? もしかしてクンニされるのが嫌なの?」
「そうじゃなくて、まだシャワーを浴びてないのに、あそこにキスされてびっくりしたんです……」
「シャワーなんて浴びなくていいよ」
「汚いって思わないんですか?」
「大好きな女の子の大事な場所を汚いなんて思うはずないじゃないか。しっかりと味わいたいくらいだよ」
「味わうだなんて……恥ずかしいです……」
「それとも一週間くらいお風呂に入ってないの?」
「そ、そんなっ!毎日入ってます!今日も家を出る前にお風呂に入って来ました!」
「ははははは~、そんなむきにならなくても」
明るく笑い飛ばす車谷に、ありさはただ赤面するばかりだった。
小高い丘の裾野にはわずかばかりの草むらが繁り、その中央を縦断する小川が美しい。
小川の上流には数ミリのあいらしい実が生り、恥ずかしそうにその姿を覗いている。
車谷は舌先で突起を包皮の上から、ちゅるちゅると舐め始めた。
「ひゃぁぁぁっ……! 車谷さん、そこはっ……そこはぁ……!」
逃げようにも、いつのまにかがっちりと太腿を押さえられてて、逃げるに逃げられない。
「暴れちゃダメ、舐めづらいから」
さらに包皮を唇で器用に剥きあげ、現れたピンクの突起を美味しそうに口に含んだ。
(ちゅるるる……レロレロレロレロ……)
唾液をいっぱい絡ませて、舌を巻きつけてくる。
完全に剥かれてしまった突起の芯を、とがらせた舌先でチロチロと攻められては堪らない。
「あっ……ぁぁ……ぁぁぁ……っ……」
(レロレロっ、べろべろ……っ)
キャンディのようにしゃぶり尽くされるありさの突起は、ピクピクと震えてる。
「美味しい……ありさちゃんのココ、すごく美味しい……」
「……」
美味しいとささやかれて、戸惑いを見せるありさ。
突起をしゃぶりながら、車谷の指は花びらを丁寧に広げはじめる。
突起と花びら二か所をいじられ、さらに高ぶるありさ。
(ちゅぱっちゅぱっ、ちゃぷぅ……っ)
卑猥な水音を響かせながら、車谷はありさの突起と花びらを舐めまくる。
広げた襞の隙間も丁寧に舌でなぞることを怠らない。
濡れそぼった秘孔に指を二本突き挿してヌポヌポと出し入れ。
「ああっ……ぁっ……あっ……あぁ……っ!」
太い二本の指で秘孔を衝かれ、思わず声がうわずってしまう。
(じゅぽ!じゅぽ!じゅぽ!じゅぽっ!)
指が秘孔を擦るたびありさの蜜がしたたり落ちる。
「はぁ、はぁ、あぁ……もう、もうダメ……」
「じゃあ、入れていい?」
車谷の股間は大きく盛り上がっている。
「私にも舐めさせて……」
濡れた瞳でありさが渇望する。
「ダメだよ。シャワーを浴びてないから」
「私にはシャワー浴びなくていいと言ったくせに」
「ダメ。女の子が舐めるとき、男は清潔でなきゃ」
「そんなのずるい。男も女も同じよ」
ありさが不満そうにささやくと、車谷は黙ってズボンとパンツを下ろしはじめる。
すでにガチガチに硬くなった肉柱が露出した。
勃起した男性器はかなり大きくて勢いよく反り返っている。
ありさはそっと車谷の先端に口をつけて、そのまま張り出したカリからくびれの部分までを丹念に舐め尽くし、同時に肉柱を手で擦った。
口の中いっぱいにむわりと雄の味が広がって、興奮でありさの花弁はさらに潤いを増す。
「うっ……ありさちゃん、気持ちいいよ……」
艶かしいうめき声を上げながら、車谷はありさの髪を撫でた。
髪を撫でられてひときわ高揚し、うっとりとした心地で車谷のペニスを堪能する。
睾丸をもう片方の手で弄ぶと、解放を求める精子がずっしりと溜まった重みを感じるありさ。
「も、もう限界だよ……ありさちゃん……」
車谷が限界を訴えたので、ありさはやむを得ず咥えていた口を離す。
「ありさちゃんの口の中すごく気持ちいいから、イッちゃいそうだよ」
「あは、まだイッちゃダメですよ」
車谷はありさをベッドへと誘導し、横たわるとすぐに唇を奪った。
「ありさちゃん、大好きだ」
そうささやくと車谷はありさの両脚を大きく開き、股間に顔を埋めた。
「いやぁ……恥ずかしいよぉ……」
ありさの言葉が聞こえないかのように、車谷はありさの肉裂を舐め上げる。
「やんっ……!」
強い刺激に思わず叫んでしまう。
車谷はその声も飲み込んでしまうかのように、舌をうごめかす。
肉裂をただ無造作に舐めていただけの動きから、ありさの深い秘孔をえぐるような動きに変わった。
「ああん……ダメぇ……恥かしいっ……いやぁ……」
「ダメといってもダメだよ。ありさちゃん、今夜は僕のものなんだから。僕を刻み込んで、彼氏のことなんか目に入らないようにしてあげる」
車谷はすっかり濡れてしまった秘孔に、ずぷりと指を挿し入れた。
「ああ……ぁぁぁっ……」
秘孔の中で指をくにくにと曲げ伸ばしされて、Gスポットに届くか届かないかという焦らしを受ける。
気持ちがいいのに、もっと気持ちよくなりたくて、ありさは腰を振ってしまう。
「ありさちゃん、色っぽくてすごくかわいい」
車谷がありさにやさしいキスをしながら、硬くいきりたったモノをありさの股間に近づけた。
第6話「分水嶺」
「いくよ、ありさちゃん」
ぬるりと車谷のモノがありさの中に入った。
亀頭だけを入れて、前後にゆるゆると動かす。
「もう少し中に入ってくれたら、すごくいい場所に当たるのに」とありさは思う。
車谷はくちゅくちゅと音を立てながら、いつまでもありさの入り口を擦り続けてる。
「あぁん……、車谷さん、もっと、中に……」
「なに、ありさちゃん。よく聞こえないよ」
車谷が意地悪な顔で笑う。
その笑顔が男っぽくて、ドキッとする。
「もっと、もっと奥まで突いて」
「いいの?ありさちゃん、僕のこと、男だと思ってる?」
「思ってるよぉ。こんな意地悪なことしたら、車谷さんのこと嫌いになっちゃいますよ~」
車谷は慌てた様子で、ありさにキスをする。
「ありさちゃん、いっぱい気持ちよくなって」
そう言うと、車谷の硬く反り返ったイチブツは、ズンと深いところまで突いてきた。
「はああっん!」
その一突きだけでありさは軽くイってしまう。
「ありさちゃん……、ありさちゃん……」
車谷はうわごとみたいにありさの名前を呼び続けながら腰をゆっくりと、うねるように大きく動かす。
ありさ中のすべてを擦りあげて、何度も気持ちよさを届ける。
ぐちゅ……ぐちゅ……と、ゆっくりとした動きにあわせて、淫らな水音が響く。
「ん……、あっ……はん、あぁ」
「ありさちゃん、声かわいい。感じてるんだね」
「やん、言わないで、恥ずかしい……」
車谷は優しく微笑むと、またありさにキスをした。
唇を合わせたまま、優しい抽送は続く。
けれどなんだかムズムズして物足りなくなってきて、自然に腰を動かしてしまうありさ。
「エッチだね、ありさちゃん。ねえ、なんで腰を揺らしてるの?」
「やだ、聞かないで」
「教えてよ。ねえ」
意地悪に笑う車谷の動きが、ますますゆっくりになる。
ありさは我慢しきれなくなって、大きな声で答えてしまった。
「もう、意地悪しないで、もっとして! ぐちゅぐちゅ掻き回してえ!」
そうつぶやいた途端、車谷が激しく動き始めた。
ぐちゅっぐちゅっと激しい水音が耳を刺激する。
ありさの股間は、もう洪水状態だ。
「ありさちゃん!いくよ!」
「うん、来て、車谷さん!」
車谷のギアがセカンドから一気にトップへと切り替わった。
怒張したモノが猛スピードでありさを攻め立てる。
(グッチョングッチョングッチョン!グッチャングッチョングッチョン!)
車谷の腰のリズムに合わせ、ありさの腰がなまめかしく揺れる。
「あ……あ……っ……あぁぁぁ~……すごい……!」
ありさは自身の蜜壺が、強靭な肉柱を受け入れ、喜んでいるのが分かった。
喜んで、彼にまとわりついている。
きゅっと吸いついて、離れようとしない。
「ありさちゃんの中、気持ちいい……」
「私も……私も気持ちいいっ……」
車谷をギュっと抱きしめて、ありさからもキスを求める。
唇をみっちりと重ねながら、車谷は腰を前後させる。
感度がどんどん高くなっていく。
車谷の膨らんだ亀頭の形まで伝わり、それがGスポットをえぐる。
「あぁ、そこ……そこ……すごくいい……いい~……」
そこがありさの性感帯のひとつだと知ってしまったのか、車谷は繰り返しそこを攻める。
うっとりしていたありさの唇に、再びキスが降ってきた。
反射的に身を硬くする。
「だめ……」
こんなに感じているときにキスされたらすぐにイってしまう、とありさは思った。
「あ……あんっ、ま、待って……ぇ」
だけど、車谷は止まらない。
舌の動きはさらに激しくなる。
唇の端から垂れた唾液も、車谷が舐め啜った。
下半身では滑らかな亀頭が奥深くまで達していた。
快楽を放出するドアを、容赦なくぐりぐりと何度もノックする。
感じるところを一気に攻められて、ありさはおかしくなりそうだった。
車谷を抱く腕に、無意識に力がこもる。
「ぁん……っあ、は……ぁ」
ありさの中がきゅんっと締まる。
もう、限界。
「……イキそう?いっしょに、イこうか」
車谷の腰の動きが早くなる。
「……ん、っふ、あ……あんっ!!」
あぁ、トロけそうなのに、高まっていく。
ありさの視界が白い光に包まれた。
「あ…………っ」
車谷はぶるりと震えると、ありさの奥深くに熱い液体を放った。
その刺激でありさの膣がキュっと締まる。
「うっ、ありさちゃん、そんなに締めつけないで。そんなことされたら……」
車谷の口から次の言葉は出てこなかった。
その代わりに、車谷は無言でまた激しく動き出した。
ずちゅずちゅと、ふたりの結合部分から、しぶきが上がっている。
「あん、ああん、もう無理、ダメぇ……」
「ダメだよ、ありさちゃん、もっとイって、もっと気持ちよくなって」
ビクビクと膣がまるで生き物のように脈を打つ。
そのたびに車谷の硬いものの形状をはっきり感じてしまうありさ。
「イク、またイっちゃう!」
腰から爪先までびりびりと電気が走ったみたいで、ありさの足がぴんと伸びる。
車谷がまた熱いものをありさの奥に流し込む。
「ありさちゃん、君が好きだ」
ぎゅっと抱きしめてキスをする車谷が愛おしくて、ありさもぎゅっと抱きしめた。
「ありさちゃん、かわいい人……」
「車谷さん、大好き」
ふたりはきつく抱きしめあった。
キスを交わして、幸せな気分で目を瞑る。
◇◇◇
ありさは車谷に抱きしめられながら、ぼんやりと天井を眺めていた。
(違う……ダイチとは全然違う。シャワーも浴びてないのにアソコを舐めてくるなんて……でもこんな気持ちになったのは生まれて初めてかもしれない……)
泣き出したいほどの感動に包まれて、しばらくは震えが止まらなかった。
シャワーを浴びてからでも、クンニしてくれなかったダイチ。シャワーを浴びてないのに、クンニしてくれた車谷。
いつも判を押したようなダイチとのセックス。猛烈なパワーと情熱にあふれた車谷とのセックス。
(たったそれだけの違いなのに……)
ありさは心に強い衝撃を受けた。
その衝撃がありさの次の行動へと導いた。
ありさは抱きしめてくれてる車谷の腕を振りほどき、彼の下半身に顔をうずめた。
(パクリ)
彼の萎えたモノを突然頬張った。
「わっ! ちょっと、ちょっと、ありさちゃん! いくら何でもすぐには無理だよ~。ちょっと休ませてよ~」
ありさはお構いなしにちゅうちゅうと音を立てて車谷の肉柱を吸った。
慈しむかのように根元から先端に向かって舐めまくった。
すぐには無理だと叫んでいた車谷だったが、にわかに気分が高揚し、ゆっくりと硬さを取り戻した。
「ああ、困ったなあ。ありさちゃん、また大きくなっちゃったじゃないか?」
車谷のモノは大きく硬く変貌を遂げたのであった。
◇◇◇
それから一週間後、ありさはダイチに別れを告げた。
事情の分からないダイチは戸惑うばかリ。
「どうしてなの?ありさちゃん。何が不満なの?行きたい所もいっぱい連れてってあげてるし、欲しいものだって何でも買ってあげてる。それにエッチだって下手じゃないだろう?」
「ごめんね、ダイチ。あなたとはやっぱり合わないみたい……」
詳しくは語らなかったが、ありさは一言そう語るとケータイを切った。
ダイチの男としてのメンツもある。
彼も彼なりに一生懸命ありさに尽くしてくれた。
ありさが何を求めているのか……それを察知することができなかっただけだ。
ダイチの尊厳に掛けても、彼に対してエッチが下手で単調だなんて言えない。
言ってはならない。
ありさは言わないことも優しさだと考えた。
その後、ありさのケータイにダイチから何度も連絡が入った。
でも出ようとしなかった。
(ダイチ……ごめんね……)
ありさは初夏の夕風に髪をなびかせながら遠い空を見上げていた。
(私が一番欲しいものが何か、今、やっと分かったわ……)
その時季節はずれの蝶が飛んできて、ありさの周囲を二、三回まわると、どこへともなく飛んでいった。
完