タイトルが「やぁ~」で始まるいつものご機嫌伺いのメールの最後に一言だけつけ加えた。
「P.S.どんなにごまかそうとしてもダメみたいだ。やはり、俺は君の事が好きだ」
それから、どのくらい時間がたったろう。
受信確認にチェックを入れているから、送信したメールを彼女が開いていることは間違いなかった。
それでも、彼女からの返事のメールは来なかった。
(やはり、ダメなのだろうか……)
仕事も手につかないまま、やがて終業時間が訪れた。
今日は特に忙しくない。
あまりだらだらしていると、飲みに誘ってくるいつものメンバーがいるから、そそくさとデスクトップの電源を落した。
部屋に帰るまでの間、電車の窓から外を眺めながら、(なにか、他の事を考えなければ)という同じ命題を繰り返していた。
(気晴らしに飲みに行こうか?)
バス停でそう考えていたら、いつも乗っているバスが直ぐにやって来て、いつものように乗ってしまった。
結局、部屋に帰るしかないということに落ちついた。
部屋に帰りつくと、携帯を充電器に差し込み、冷蔵庫からビールを取り出した。
カバンを置き、ネクタイを緩めながらいつものようにパソコンに電源を入れた。
WINDOWSのシステムが立ちあがる僅かな間、スーツを脱ぎ、室内着に着替える。
着替え終わるまでに、早くもデスクトップにいつもの壁紙が現れる。
俺の相棒とも言えるスカイラインをデジカメで撮った画像だ。
アウトルックが開き、受信が始まった。
契約しているプロバイダーやレンタルしているHPや掲示板の会社からメールが良く届くし、友人からメールが届いているかも知れない。
メールが次々と受信していく。
やはり、なんのことはない、通知分ばかりだ。
広告のメールも何通か来ている。
そして、最後にメールが1つ入っていた。
会社からのメールだ。
(誰からだろう……)
会社からだから仕事のことかも知れない。
でも何故か妙な期待感が心の奥底にあって胸がどきどきする。
ドメインはまぎれもなく会社のものだが、@マークの前についている半角英数だけの組み合わせには見覚えがある。
そう、そのアドレスは彼女のものだった。
俺は会社のアドレス以外を彼女に教えた記憶はないが、いつか飲み会の時に彼女から尋ねられてホームページのタイトルを酒の余勢を買って教えたことがある。
彼女はその時のタイトルをしっかりと憶えていたのだろう。
ホームページに行けば、俺の個人のアドレスに辿り着く。
どきどきしながら、メールを開く。
(返事なのだろうか……?YESなのか?それとも……)
俺は他のメールに目もくれないで、彼女からのメールを真っ先に開く。
メールのタイトルには「Re:やぁ~」とあった。
俺が出したメールに対する返信だ。
メールを開くと内容が表示された。
そこには、短く……
「私も……」
たったひとことだけのメールなのに、俺は舞い上がりそうになった。
でも、「私も……」の後の言葉をはっきりと聞きたかった。
そうだ、電話をしよう。
俺は充電中の携帯を手に取った。
携帯アドレスは教えてもらっていないが、電話番号は聞いている。
今、掛けないでいつ掛けるというのだ。
後の言葉をどうしても聞きたい。
推定はできるがはっきりとした言葉で聞きたい。
俺は携帯のアドレス帳から彼女の番号を引き出した。
そしてプッシュした。
青いデジタル画面に11桁が点滅している。
呼び出し音が鳴っている。
「もしもし」
「あっ……、NOAさん……」
「それで、続きなんだけど」
「うれしいです。わたしも……」
「なに?」
「どんな返事をしようかと考えてたんです。いろいろ考えて……きっと電話してくれると思って……」
「そっ、そうだったの?」
「ええ、でもよかった……」
恥ずかしさもあってか、消え入りそうに喋る彼女の声を、俺は聞きながらゆっくりと喜びをかみ締めていた。
完