午前0時、仕事帰りの私。
(今日は明りがついているかしら……)
8階建てのマンションの最上階の東南の角。
そこに明りがあれば良魔が来ている証拠。
二人が出会ったのは2年前、私が少しだけ疲れて、ふらっと出かけた海で。
突然降り出した雨に困って雨宿りしていた私を良魔は自分のワンボックスに乗せて街まで送ってくれた。
その後、偶然出会った仕事先での良魔は、その時とは違ってとてもクールな人間だった。
仕事に対して妥協と言うものを知らない人だった。
その同一人物とは思えない彼から電話があったときは驚いたものだった。
でもやっぱり良魔は優しかった。
私にだけ?さあ、どうかしら。
廊下を抜け部屋にはいる。
良魔がいる。
「未来、お帰り」
すぐにフラッシュ。
もう一度、フラッシュ。
「良魔、そんなに私を撮ってどうするの?」
「とりあえず、36枚撮ったら現像に出すさ」
「そして」
「写真集にしてとっておく」
「私には見せてくれないの?」
「気がむいたらな」
良魔はカメラからレンズを外すと寝転がって覗いてる。
私はクローゼットの前で背中のジッパーを外し下着だけになる。
「でも……。良魔は私の写真を何枚撮ってくれるのかしら」
良魔は一つあくびをするとカメラをサイドテーブルに置き目をつむった。
私もあらためて聞くほどでもなく、Tシャツとジーンズに着がえると、きっとお腹をすかせている良魔のためにキッチンに向かった。
完
(デジカメ・スマホ写真・ガラケー写真がまだなく、カメラで撮った写真を写真屋さんへ現像に出していた頃のお話です)