NOA 兄の彼女









第1話


俺は能島章(23才)。みんなは俺のことを苗字と名前の頭をとって『NOA』と呼んでいる。
近々、俺の兄が結婚することになった。
だけど、俺は兄にたった1つだけ秘密にしていることがある。
もうかなり前のことになるが、今でも兄への後ろめたさが残っている。

それは8年前の出来事で、俺が高1だった頃にさかのぼる。
兄は俺より2つ上で、その時、高3だった。
そしてその頃、俺はまだ彼女もおらず童貞だった。

兄には中学の時から付き合っている同い年の彼女がいた。
彼女はこずえさんという名前で、兄にはもったいないくらいの可愛い人だった。
兄は休日にこずえさんを家に連れてきて、よくエッチをしていた。
俺の部屋は隣だったので、可愛らしい喘ぎ声がよく聞こえてきた。
その声を聞いてムラムラした俺は、よくオナニーに耽っていた。

ある日、こずえさんが突然遊びに来た。
その日はたまたま兄が出かけている日だったので、それを伝えた。
当時はまだ携帯が普及していなかったので、兄とうまく連絡がとれなかったのかも知れない。
こずえさんは少し残念そうな顔をしていたが、気を取り直したように「じゃあ、今日は弟のNOA君とおしゃべりしようかな?」とつぶやいた。
俺は驚いたけど、何だか嬉しくなってこずえさんを家に上げ、俺の部屋に案内した。

こずえさんとは今まで挨拶をする程度で、会話を交わしたことは一度もなかった。
おそらく、照れくささもあって、あえて避けていたのだと思う。

こずえさんを部屋に通したものの、何を話せばいいのか分からなくてどぎまぎしていると、彼女の方から「NOA君の部屋に入るの初めてね。何かドキドキしちゃう~」とか「NOA君ってすごくかわいいね!」などと微笑みながら言った。

前日スーパーで買ったチョコレートがあったので、それを出すと「嬉しい~、これ大好きなの~。ありがとう。」とニコニコ顔になった。 その時の笑顔がやけに愛くるしくて、兄のことがうらやましく思えた。

しばらくしゃべっているうちに硬さもほぐれ、俺はつい調子に乗ってとんでもないことを口走ってしまった。

「そういえば、いつも隣からこずえさんの声が聞こえるんですよ。」

こずえさんは急に顔を真っ赤に染めて、

「うそ~!恥ずかしいなあ。バレてたのかあ~。」

と照れてみせた。

その後、話が弾み、だんだんエッチな話になっていった。
こずえさんは「あたし、胸が小さいんだあ」とつぶやいた。
兄は胸の大きな女性が好きだったことから、悩んでいるように思えた。

俺が偶然少し小さめの胸が好みだったことから、


「俺、どっちかというと、あまり大きいよりそのくらいの胸の方が好きなんです。」

と言った。
するとこずえさんはパッと笑顔に変わり、

「ほんと?じゃあ、ちょっとだけ見てみる?」

と言ってくれた。

こずえさんは着ていたタンクトップを脱ぎ、ブラジャーだけになった。俺の方を向いて、恥ずかしそうに「ちっちゃいでしょ?」と言った。
肌が吸い込まれそうになるぐらい白くてきれいで、俺は思わずつばを飲みこんだ。
そしてつい調子に乗ってしまい、
「ブラがあるとよく分かりません。」
と言ってしまった。こずえさんは少し困惑気味になりながらも、ブラジャーを少しだけずらしてくれた。


第2話


ミルク色のすごくきれいな胸が下半分だけ現れた。
想像どおり小ぶりで、形がよくて、それにすべらかな感じがした。
俺はこずえさんの胸だけに視線をそそいだ。
あまりにも美しいものを見せつけられて、強い衝撃が走った。
それは感動と表現してもいいだろう。

俺の感動がこずえさんに伝わったからか、こずえさんは少しはにかみながら、無言でブラジャーを完全に取り払ってしまった。

ミルク色の中に、きれいなピンク色が現れた。
若い女性の乳房を間近で見るのが初めてだった俺は、こずえさんを見て驚いてしまった。
今考えると無知な自分が恥ずかしいが、兄にさんざん舐められてもっと黒ずんでいるものだと思っていた。

俺は感じたとおり素直に、「すごくきれいです。」とつぶやいた。
こずえさんはにっこり笑って「ありがとう。」と言ってくれた。
無性に触りたくなって、思わず手を伸ばし、こずえさんの胸にそっと触れてみた。
まるで高価なガラス細工に触れるように・・・。

「NOA君、好きな子はいるの?」

こずえさんは俺に聞いてきた。

「いません。」

俺はそう答えるつもりだった。
でも、つい本心が出てしまって、

「こずえさんが好きです。」

と言ってしまった。

こずえさんは嬉しそうな表情になり、小声で、

「揉んでもいいよ。」

ポツンとそうささやいた。

俺はこずえさんを見つめた。
こずえさんも俺を見ている。

俺はこずえさんの胸を揉んだ。
柔らかい感触が伝わってきた。
胸に宛がった指がプルプルと震えている。

こずえさんは俺が揉んでいる間、ずっとやさしく微笑んでいた。

時々、

「あっ・・・」

と、かすかだが切ない声を漏らした。
それはたまらなく可愛らしく艶やかな声だった。

次の瞬間、僕は我慢できなくなって、ピンク色の乳首にしゃぶりついていた。
こずえさんはほとんど抵抗しなかった。

全身から石鹸とバラが入り混じったような、甘い香りが漂っていた。
来る前にシャンプーをしてきたのかも知れない。
リンスの香り?それとも化粧水の香り?
あるいは、生まれもって持つ女の香り?
俺にはその香りの源が何なのかまったく分からなかった。

俺のモノははちきれそうになるくらい、激しくいきり立っていた。

こずえさんは俺の下半身に目を移した。
そして少し遠慮がちに俺のモノに触れ、ジーパンのファスナーを開けた。
窮屈なスページに隠蔽されていた俺のモノは、こずえさんの指によって広い空間に躍り出た。

「エッチは出来ないけど・・・」

とつぶやいたこずえさんは、躍り出たモノをパックリと咥えてしまった。

次の瞬間、信じられないような快感が俺を襲った。
それは、いまだかつて経験したことのないほど強烈で、脳天が痺れてしまいそうになった。


俺は我慢できなくて、あっという間に射精してしまった。
こずえさんはそれをきれいに舐めとり、飲んでくれた。

「NOA君のお兄ちゃんのは、飲んだことないのよ。」

と、少しおどけながら言った。
その時の嬉しかったこと。


自分だけ気持ちよくなって悪いと思った俺は、図々しくも、

「俺にもさせてください。」

といい、スカートをまくりあげた。

拒まれるかとも思ったが、こずえさんは意外にも、

「やさしくしてね。」

とつぶやき、少し恥ずかしそうな表情を見せた。


第3話


こずえさんは水色のパンティを穿いていた。
俺の心臓がシンバルのように鳴り響いた。

パンティを脱がせると、薄いめの草むらが現れ、その奥に愛らしい割れ目が覗いていた。
割れ目は濃いピンク色をしていて、すでに少し濡れているようであった。

俺は濃いピンク色のそこに唇を寄せ、夢中で舐めた。
それは初めて味わう味覚だった。
ちょっぴりしょっぱく、それでいて、どこか甘美さがあるように思えた。
いくら舐めても、いくら吸っても、蜜はとどまることを知らず溢れ続けた。
こずえさんは時々、「あっん・・・んぁ」等と切ない声を漏らし、身をよじっていた。

割れ目の少し上に丸い実のようなものがあり、直感で、それがクリトリスだと分かった。
クリトリスは舐めていくうちに、だんだんと大きく、そしてコリコリと固さを増して行った。
割れ目を舐めるよりも反応が大きかったので、俺はつい調子に乗ってクリトリスを激しく舐めた。
こずえさんはまるで子犬のような喘ぎ声を出して、喘ぎに喘いだ。
そのあまりの反応の強さに俺は驚くばかりであった。

その後、互いに身体を触りあったりしていた。
俺としては、本当は入れたくて堪らなかったけど、懸命に我慢した。
こずえさんを強引に犯すようなことだけはしたくなかった。

その日は最後に1度だけそっとキスをしてくれて、彼女は帰っていった。
柔らかな感触ととろけるような甘さが俺の唇に残された。


その後、俺はその時のことを思い出して、度々オナニーに耽った。
また、いつしか、兄のいない日にこずえさんが来ることを願うようになっていた。
だけどそれからと言うもの、こずえさんがやってきたのは、いつも兄のいる日ばかりだった。
当然といえば当然なのだが。
そして、相変らず兄の部屋からはこずえさんの可愛い声が漏れてきて、想像をかきたてられ、俺は悶々とするばかりだった。
以前なら、兄に愛されて漏らすこずえさんの声を聞き、ひとり悦に浸っていた俺だったが、今までとは違う感情が混在しはじめていた。
それはあろうことか、嫉妬という感情であった。

それから1ヵ月ほど過ぎたある土曜日、兄は突然友人からテニスに誘われたようで朝から出かけていた。
昼下がりチャイムが鳴り、玄関扉を開けてみると、そこにはこずえさんが立っていた。

「あら、テニスに出かけちゃったんだ~。」

こずえさんは残念そうな表情を見せた。

「でも、せっかく来たし、ちょっとだけ上がらせてもらおうかな~。」

この前と同じように、俺はこずえさんを家に上げ、俺の部屋に通すことにした。

「NOA君、今日は何をしてたの~?」
「うん、宿題してた。」
「外に遊びに行ったりしないの?」
「時々、行くよ。」

俺は嘘をついてしまった。
本当は、最近では休日に出かけることはめっきり少なくなっていた。
兄がいない日にもしかしたらこずえさんがやって来るかも知れない・・・という淡い期待が、いつしか俺を出不精に変えてしまったのかも知れない。

そしてついに待ち焦がれた日がやってきた。


第4話


「宿題教えたげよっか?」
「え?ほんと?」

こずえさんは優等生だと兄が言っていたが、やっぱり本当のようだ。

「この問題がどうしても解けないんだ。」

俺は数学の問題をこずえさんに見せた。

「どれどれ?」

顎が俺の肩に触れるぐらい近くに、こずえさんが接近してきた。
女の甘い香りが漂ってきた。
こずえさんが屈みこんで数式を解きはじめた。
白い紙にシャーペンが走る。
女性らしく薄い文字だ。

「椅子に座ったら?」

俺は立ち上がって、こずえさんに席を譲ろうとした。
立ち上がり様、ふとこの前のこずえさんとの出来事に触れた。

「この前は楽しかったよ。」
「え・・・?そうね。あはははは・・・」

こずえさんは照れ笑いを浮かべた。

「あれからずっと、こずえさんのことが忘れられなくて・・・」

俺は募る想いを打ち明けながら、強引にこずえさんを抱きしめた。

「ダメェ・・・」

こずえさんは拒絶の言葉を漏らしたが、俺をはねのけたりはしなかった。

「いたいわ・・・」

俺が強く抱き過ぎたせいで、こずえさんは背中の痛みを訴えた。

「ごめん。」

謝りはしたものの、次の瞬間、俺はこずえさんの唇を奪っていた。
テクニックなんて全然知らない。
無我夢中でこずえさんの唇に唇を重ねただけだった。
そんな俺の下手なキスに、こずえさんはキスがしやすいように首を傾けてくれた。
そして俺の口内にこずえさんの舌が入ってきた。
それはまるで生温かな生き物のようであった。

背中に廻した俺の手はゆっくりと下の方へと向かっていた。
よく引締まった腰を撫でいつしか尻へと到達していた。
細く見えていたが、触れてみると意外にボリュームがあるのが分かった。
スカートの上からだったが、俺は尻の割れ目に指を伸ばしてみた。

「いやっ・・・」

こずえさんは身体を揺すって、俺を拒もうとした。
一旦は手がスカートから離れたが、もう一度、尻の割れ目に指を挿し込んだ。
こずえさんは眉をひそめ、少し不快そうな表情を見せたが、俺はめげることなくさらに指を奥へと挿し込んだ。
スカートの生地越しにぷくっとした柔らかな感触が俺の指に伝わってきた。

「いやぁ~」

こずえさんは先程とは違って、今度は真剣に俺の手を払いのけてきた。

「好きなんだよ~!」

俺は怯むどころか、逆に弾みが着いてしまい、こずえさんを一気にベッドへ押し倒してしまった。

「きゃぁ~!」
「大きな声を出しちゃダメだって!」

ベッドの上で押し合い揉み合いしているうちに、こずえさんのスカートがめくれ白いパンティが見えたため、欲情の炎はさらに燃え上がってしまった。
俺は夢中で白いパンティに手をかけた。
「ダメ・・・ダメ・・・それだけはダメェ・・・」


第5話


一気にパンティを引き下ろそうとしたが、こずえさんは足をばたつかせ抵抗した。
こずえさんの足を押さえつけ、どうにか膝までパンティをずらしたが、こずえさんはまだ膝から先を蹴り上げている。

俺はこずえさんの抵抗に遭いながら、以前一度だけクンニをさせてもらった箇所に指を滑り込ませてみた。
全然濡れていない。
濡れていないと女性は痛がるものだと聞いていたので、俺はその箇所を遮二無二擦ってみることにした。
こずえさんに痛い思いはさせたくなかったから。
ところが、いくら擦っても一向に濡れてこない。
俺は膝裏を押さえつけて、クンニをすることにした。
前回クンニした時、こずえさんが濡れていたのを思い出したのだ。

当時の俺はまだ、女性がその時の感情や状況によって濡れたり濡れなかったりするデリケートな生き物であることを全く知らなかった。
もっぱら高1で知っている方がおかしいのだろうが。

割れ目をこそぐように舐めはじめると、こずえさんは辛そうなうめき声をあげはじめた。
しばらくすると、じっとりと濡れてきたが、それが俺の唾液のせいなのか、こずえさんが感じ始めたせいなのか、どちらかよく分からなかった。
でもこずえさんの足の力が抜け、抵抗しなくなったことからすれば、感じていたのかも知れない。
それに割れ目から生温かい液体が滲みだしていたので間違いないだろう。

割れ目を舐めているうちに、俺のモノはパンツが張り裂けそうなくらい突っ張りはじめていた。
我慢しきれなくなった俺は、パンツを下ろし反りかえったモノを取りだした。
その後、割れ目に宛がい挿し込もうとしたが、なかなかうまく入らない。
だけどこずえさんの抵抗が治まっていたので、どうにか押し込むことに成功した。

(ズニュ・・・)

「あぁぁ・・・!」

入った瞬間、俺の頭は真っ白になってしまった。
それは、生まれて初めて経験する結合の快感・・・
それは、憧れの女性と1つになれた満足感、そして達成感・・・
それらが混ざり合って、俺の身体は痺れてしまったような不思議な感覚に陥った。

俺は動物的本能で、自然にこずえさんを突いていた。

「あぁぁ~・・・やめてぇ・・・」

こずえさんはもう抵抗しなくなっていた。
俺はこずえさんの太股を抱えて、腰を前後にせわしく動かした。

(ズッコンズッコンズッコン!)

こずえさんを突いているさなか、ふと兄のことが脳裏をかすめ、良心がとがめた。
でも俺のモノは萎える気配はなく、むしろこずえさんの中でどんどんと大きくそして硬くなっていた。

「あぁぁ・・・だめぇ・・・NOA君、だめよぉ~・・・」
「・・・・・・」

(ズッコンズッコンズッコン!)

身体が燃えるように熱くなってきた。
身体中の血が顔に集まってきた感じ。
腰の動きも激しくなってきた。

こずえさんが目を閉じ、口を半開きにして喘ぎはじめた。

「あぁぁぁ~~・・・あっ・・・あぁっ・・・あぁぁぁ~~~」


第6話


俺は無心に腰を動かしていた。
こずえさんが兄の彼女であることなど、すっかり頭から離れてしまい、俺は1人の男として、女であるこずえさんに挑んでいた。

俺が頂に上りつめるのに、多くの時間を要しなかった。
突然身体が炎のように熱くなり、こずえさんの中に体液を放出してしまっていた。

「うううっ!!うお~~~~~~~~~っ!!!!!」
「ああっ・・・ああっ~・・・」


発射した後もそのままの態勢で、こずえさんにくっついていた。
こずえさんからも振りほどこうとはしなかった。

しばらくの間、ふたりは黙り込んでいた。
沈黙を破ったのは俺からだった。

「こずえさん、ごめんね・・・」
「NOA君ったら・・・」

こずえさんは苦笑いした。

「このこと、兄貴に言わないでね。」
「言うはずないじゃないの。」
「そうか。よかったぁ・・・」
「っていうか、もし言ったらお兄さんを悲しませるだけじゃないの。」
「・・・・・・」
「私とお兄さんとはおそらくダメになるでしょうし。」
「じゃあ、俺がこずえさんの恋人になったげる。」
「ええっ!?そんなこと絶対に無理よ。NOA君と付き合うということは、お兄さんともずっと顔を合わせることになるのよ。」
「うん・・・」
「どんな顔を下げて、このお家に出入りするのよ。」

「う~ん・・・・・・でも、こずえさんのこと大好きだ。」
「私もあなたのこと好きよ。でもね、お兄さんのこと、もっと好きなの。」

俺は断崖から突き落とされたような気がした。
こずえさんのその一言は、偽らざる彼女の気持ちであったろうし、いわば、今後も兄と共にやっていくという彼女の宣言であり、道しるべでもあった。

「そうなんだ。うん、わかったよ。」

俺はそういうと、こずえさんの身体から離れ、何気にそばにあったティッシュを手渡した。

「ありがとう。」


それからも、こずえさんは俺との間に何もなかったかのように、兄とは親しく付き合っていたし、家にも度々訪れていた。
ただこずえさんとは挨拶以外に言葉を交わすことはまったくなかった。

そして8年の歳月が流れた。
兄は長い付き合いのすえ、ついにこずえさんと結婚することになった。

兄がこずえさんと結婚することになって、正直、俺は嬉しかった。
10代の頃、俺の中に渦巻いていた嫉妬は、いつしかどこかへ吹き飛んでしまっていた。
こずえさんのことを意識しなくなったといえば嘘になるが、それよりも、素敵な女性のこずえさんと兄がいっしょになることを、心から祝福できるようになっていた。

結婚式の2週間前、俺の携帯にこずえさんから電話があった。

「NOA君、ひさしぶり~。ちょっとお願いがあって電話しちゃった。結婚式の後の2次会のことなんだけど。」

俺は2次会当日の司会を務めることになっていた。

「うん、なに?」
「2次会に出席予定の友達でバンドやってる子たちがいてね、演奏したいっていうのよ。」
「へえ~。それは大歓迎だね。音楽はどんなジャンルなの?」


第7話


「アコースティック系なの。ギターとウッドベースを持参するって言ってたわ。」
「ほう~、本格的だね。楽しみにだなあ。」
「彼女たちだけでやってくれたらいいんだけど、私にもぜひピアノを弾かせたいらしくて。で、1曲だけセッションを組むことになったの。」
「すごい!こずえさんのピアノ聴けるんだ!楽しみにしているよ!」
「ただ問題はお店にピアノが置いてあるかどうかなのよ。」
「ピアノねえ。店の隅に置いてあったのを憶えているけど、普段使ってるかどうかだね。」
「そうねえ。長い間使ってなければ、事前に調律しないといけないと思うわ。ねえ、NOA君、悪いけど明日仕事終わってからそのお店まで付き合ってくれない?」
「こずえさんのためなら火の中でも、水の中でもいくよ~!」
「うふふ、そんなこといってぇ。じゃあ、明日いいの?」
「うん、いいよ。」
「それじゃ夜7時にお店で、いうことでいかが?」
「オーケー。」
「じゃあ、お願いね。」
「は~い。」


次の日、約束の時間に行くと、こずえさんはすでに待ってくれていた。
思い起こせば、こずえさんと知り合ってかなりになるが、彼女と待合わせをしたのは初めてのことだった。
俺はこずえさんと待ち合わせできたことが正直嬉しかった。
でも、これが初めてでありしかも最後になるだろうと思った。

「かなり待った?」
「私も少し前に着いたばかりよ。」

早速店にピアノ演奏のことを話した。
すると幸いにも、たまにピアノ演奏があるようで調律をしなくてもよいことが分かった。
せっかく店を訪れたので食事をして帰ることになった。
俺は思いがけずこずえさんとちょっぴりデート気分を味わえることとなったわけだ。
もっぱら話題は2次会の打合せのようなものであったが、お互い酒を交わし楽しく語らうことができた。

「NOA君には2次会の司会までお願いしてしまってごめんね。」
「いいって。俺ああ言うの嫌いじゃないし。」
「2次会のプログラムはNOA君が作ったの?」
「そうだよ。何かリクエストある?」
「いいえ、全然。抜群のプログラム、というか完璧だと思うわ。」
「そんなに褒めてくれたら照れるなあ。でもどの辺が気に入ってくれたの?」
「そうね。イベントに走り過ぎないで、大人っぽく、お洒落な雰囲気にまとめてくれたところかな?」
「ははははは~、そういえばゲームとか無いものね。」
「挨拶、ケーキカット、乾杯と来て、その後、歓談と写真撮影タイム中にバンド演奏を挟んでくれた感じもいい感じ。」
「で、友達の挨拶リレーがあって、出し物も楽しみだね。そしてフィナーレは兄貴とこずえさんのキスで締めくくる。」
「いやだわぁ。あはははは~」

屈託なく笑うこずえさんを見て、俺は感じたとおりそのままつぶやいた。

「こずえさん。」
「なぁに?」
「すごくきれいになったね。」
「ええっ?いやだぁ~、そんなことないよぉ。もうNOA君ったらぁ。そんなこと急に言うと照れるじゃないの~。」
「だって本当にそう思ったんだもの。」
「ありがとう・・・」


第8話


結婚を間近に控えた女性はひときわ美しくなると言う。
目の前のこずえさんはまさにその通りで、以前よりも一段と洗練され、飛び切りきれいになっていたし、眩しいくらいに輝いていた。

ふたりの会話は弾み、面白い話題が次々にこずえさんの口から飛び出した。
こずえさんは酒が入るとさらにテンションが上がった。

店を出た後も上機嫌で、こずえさんからもう1軒寄っていこうという誘いがあった。
俺もかなりのっていたので当然断らなかった。

「こうしてNOA君とふたりで飲むのも、これが最初で最後かもね~。だから今夜は盛大に行きましょうよ~。」
「うん、行こうか~」

・・・これが最初で最後・・・
今夜、こずえさんと会う前に俺がふと思ったことを、こずえさんはズバリ言葉にした。

(こずえさんも同じことを考えてたんだ・・・)

もうすぐ義姉となり親等的には身近になるこずえさんだが、逆に、はるか遠く手の届かないところへ行ってしまうような寂しさがよぎった。
すでにあきらめ消えた恋と思っていたが、俺の中では、まだほのかにくすぶる何かが残っていた。

2軒目の店を出た頃、すでに終電は出てしまっていたので、俺はこずえさんを送るためタクシー乗場へ向かっていた。

「どこ行くの~?」
「どこってタクシー乗場だよ。」
「だめぇ~私、今日は帰らないの~」
「何を言ってるんだよ。さあ、もうすぐ乗場だから。」
「今日はNOA君とお泊り~」
「ええ~?冗談言ってないで。あらら、もう、ふらふらじゃんか。」

こずえさんはかなり酒が回っている様子で、足元もおぼつかなかった。
こずえさんは俺にもたれかかってきた。
深夜で人通りもまばらだったが、タクシー運転手もこっちを見ているしやっぱりばつが悪い。

精一杯抑えていたが、俺の中には激しく渦巻く欲望が潜んでいた。 こずえさんはタクシー乗場と反対方向へと俺の手を引いた。
もう、俺には気持ちを制御するものは残っていなかった。

ふたりはどちらからからともなく裏通りへと向かっていた。
そして辿り着いたのはネオンともるラブホテルだった。

ふたりは部屋にたどりつくと、直ぐに着衣のままベッドに転がった。
強く抱きしめ唇をむさぼり合った。
まるで久しぶりに会った恋人達のように・・・。

「こずえさん・・・大好きだ・・・」
「私もNOA君のこと好きよ・・・」
「でも、俺たち、こんなことしちゃいけないんだよね・・・」
「それはいわないで・・・」

こずえさんは辛そうな表情になった。

(本当は酔ってないのでは・・・?)

ふとそう思ったが、余計な言葉は控えることにした。
衣服の上からこずえさんの身体を撫でてみた。
憧れの人の柔らかな肉体・・・。
胸の隆起を撫でた時、こずえさんはぴくっと反応した。

「脱がせてぇ・・・」


第9話(最終回)


(結婚式の2週間前に、まさかこんなことになるとは。しかも兄貴の奥さんになる人と・・・。)

俺はこずえさんを脱がしながら、いけないことをしているという罪意識に苛まれた。

(だけど、こずえさんはどうして俺を?兄貴を愛しているんじゃないのか?兄貴を愛しているからこそ兄貴と結婚するのじゃないのか?)

俺はこずえさんの気持ちが計り知れなかった。
いや、女性と言うものが分からなくなっていた。

いくら御託を並べてみても、結局、俺はこずえさんを抱いた。
理性で抑える勇気もなく、俺はこずえさんに男の欲望をぶつけてしまった。
こずえさんは俺の下で、喘ぎ、悶え、そしてオーガズムを迎えた。


それから2週間が過ぎて、結婚式当日を迎えた。
こずえさんは式の準備で忙しいのか、控え室から出てくることはなかった。
俺は結婚式では撮影を担当することになっていた。

「NOAさん、すみませんけど、姉が呼んでいるので行ってやってくれませんか?何でも、挙式の撮影のことで頼みたいことがあるとか言ってまして。」
「お姉さんが?そうですか、分かりました。直ぐに行きます。」

こずえさんの3つ下の弟が、俺にそのように言伝をして去って行った。

控え室に入ると、煌びやかなウェディングドレスを身をまとったこずえさんが微笑んでいた。
あまりにも美し過ぎて目も眩むほどだった。
部屋には関係者が大勢いると思っていたのに、意外にも、こずえさんは1人、姿見の前に立っていた。

「いかが?きれい?」
「いやあ、すごくきれいだよ。俺のお嫁さんにしたいくらいだ。」
「あはは、いやだわ、NOA君ったら。」
「皆さんは?」
「私の支度が終わったので、母は先程自分の着付けに行ったわ。スタイリストさんは駐車場まで何か取りに行ったみたい。」
「そうなんだ。ところで撮影のことで頼みごとってどんなこと?」
「うそよ。」
「ええっ!うそっ!?」
「ごめんね。NOA君とキスしたかっただけなの・・・」
「キ、キス!?こんな日になんで!?それより、こずえさん、もう俺に近づいちゃだめだよ。兄貴のお嫁さんなんだから・・・」
「そうね・・・。でも最後にもう一度だけキスをして・・・お願い・・・」
「・・・・・・」

俺は花嫁姿のこずえさんに軽くキスをした。
いつ誰が入ってくるかも知れないし、口紅が取れてはいけないと言う思いが重なり、控えめになってしまった。
甘い香水の香りが漂ってきた。

(この人が俺の花嫁さんだったら・・・)

こずえさんが初めて俺の部屋にやって来た日のことを想い出していた。
そして2週間前の夜のことも・・・。

(これがこずえさんと交わす最後のキスになるのだろうなあ・・・)

俺は無性に悲しくなった。
その時、こずえさんは小さく囁いた。

「NOA君、来週、遊びに来ない?」
「来週?うん、兄貴と3人でわいわいやるのもいいね。」
「お兄さん、研修があって3日間いないの・・・」


















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