第1話

 車内は立派な個室である。
 自動車教習所の教官、『免許取得』を熱望する者に対しては絶対的な力を誇っている。
 中には女子生徒に牙を剥く卑劣な教官もいる。
 万が一女子生徒が性的な被害を受けたとすれば、学校側に訴えれば良い。
 しかし、訴えてその教官を処罰に追い込んだとしても、免許が早く取得できるわけではない。
 むしろトラブルが発生した分、免許取得は遅れることになるだろう。
 ましてやトラブルが発生して教習所を途中辞めれば損をするのは自分自身。
 そんなこともあるから、つい我慢してしまう女子生徒も中にはいる。
 つまり泣き寝入りする女子生徒がいることが、結果的に猥褻教官の温床を作ってしまうのだ。

 今年24歳になる車山俊太は若手とはいえ、ベテラン教官に混じっても遜色が無いほど優れた運転技術を持っていた。
 教官としては申し分ないのだが、女癖が悪いのが彼の欠点と言えた。
 若いがゆえに脂ぎった年配の教官とは異なり、常に爽やかな雰囲気を醸し出していた。
 甘いマスクと相まってそれが彼の武器であり、女性生徒に絶対的な人気を誇っていた。
 彼が少々下ネタを交えても、女性生徒はセクハラとは取らずジョークと受け取りさらりと聞き流すのであった。
 そればかりか、俊太にのぼせてしまい、プレゼントをしたり自発的に誘惑する女性もいた。

◇◇◇

 ある日、俊介の教習車に、松坂メルモという今年19歳になったばかりの女子大生が乗ってきた。
 メルモには付き合っている彼氏がいたが、助手席に同乗するだけでは物足りず、自らハンドルを握りたいと常々思っていた。

 清楚で上品な服装と淑やかな佇まいが、育ちの良さを忍ばせる。
 おそらくどこか良家のお嬢様であろう。
 良家のお嬢様のファッションはコンサバでいたって地味、流行にのった格好をしないので、若い車山でもすぐに分かる。

「松坂メルモさんだね?じゃあ、教習始めようか」
「先生、よろしくお願いします」

 予想どおり礼儀正しい。
 俊太の生徒として初めて乗車したメルモは丁寧に頭を下げた。
 俊太も軽く会釈を返し「気楽にやろう」と笑顔を投げ掛けた。
 メルモは俊太の指示どおり運転席に座った。

「運転の経験はあるの?」
「いいえ、初めてです」

 メルモは緊張のせいか少し顔をこわばらせながら返事をした。
 そんなメルモを見ていて、俊太は心の中に早くも疼きが湧き立つのを感じた。

(ふふふ、大人しそうだし、なかなかのいい女じゃないか。よし……)

「あははは、野暮な質問をしたね。当たり前だよね、免許持ってないのに運転経験あったら問題だよね。でもね、たまに『運転したことあります』って正直に白状しちゃう生徒さんもいるんだよね」
「え、そうなんですか……」

 メルモの表情からかすかながら笑みがこぼれた。
 教官の目的は、運転免許を取ろうとする者に道路交通法などの法令や運転技術を教えて習得させることである。
 運転する際に生徒の緊張をほぐしてやることも重要な任務のひとつなのだが、最近はそれができない教官もいて、生徒は緊張のまま運転して失敗をしてしまうというケースも結構多いようだ。
 俊太はまだ若いが、生徒の緊張をほぐすことには長けていた。

 俊太の持つ親しみやすいさから、メルモはにすぐに緊張の殻を破ることができた。
 緊張がほぐれると案外スムーズに手足が動くものだ。
 俊太はメルモに操作の手順を指示しながら、手元の書類に目を通していた。
 名前は『松坂メルモ』、S大2年生で歳は19歳。
 俊太の視線は手元の書類からメルモの横顔へと移行した。
 大きな瞳と端麗な横顔、その表情は照り輝いているように美しく一瞬まぶしさすら感じる。
 それにどこか形容しがたい高雅さに満ち溢れている。

 俊太の視線がメルモの顔から胸元へと移動した。
 
(かなり大きめだなあ。Eカップぐらいかな?)

 着衣の内側を憶測する俊太の眼がきらりと光った。
 春ともなれば女性の衣服も薄くなる。
 衣服が薄くなればボディラインが浮き出やすい。
 それに腰もくびれがとても美しい。
 腰がほどよく引締まった女はそれだけで十分に蠱惑的だ。
 それほどミニでなくても、シートに座ると思ったよりも太ももが露出してしまう。
 運転席に腰を掛けた女性の脚は色っぽいものだ。
 透き通るように白い肌、若さゆえのスベスベ肌であれば、なおさらだ。
 俊太にとってメルモは完璧なストライクゾーンの女性であった。

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