『惠といる時間』

Shyrock作




 俊彦は、職場の若い惠とラブホテルの風呂場にいた。
 いわゆる不倫だ。

「いい色だなあ」

 俊彦は湯船の中で足を伸ばしながら、浴室の壁を見ていた。
 藍色と紺色を混ぜたような色の焼き物の壁は品がある。
 下から上に微妙に変化がある。
 下が暗く上が明るい。
 浴室の壁には金が掛かっているようだ。

「えっ、何?」

 惠はさっきから洗い場でずっと身体を洗っていた。
 自分の石鹸とシャンプーを持ってきているのだ。
 中腰で少し脚を開きながら、スポンジであそこを洗っている。
 石鹸がヘアに泡立つ。
 惠の色白の肌は紺色の壁に映える。
 湯気と石鹸が彩りを添える。
 小ぶりのバストの乳首の先端が身体を洗う度に揺れる。
 見慣れていても見とれてしまう。

「きれいだなってってことだよ」

 俊彦が繰り返した。

「私のこと?」

 惠は手を止めない。
 下を見ながらスポンジで太股をこすっている。

「いや、壁の色がいいってことさ」

 俊彦は足を広い湯船に一層伸ばした。
 心地よい。
 石鹸まみれのまま、惠が俊彦の方を見た。

「ふーん。私より壁の方がいいんだ」

 冗談のように惠が言う。

 そう、こういう時間が大切なんだ。
 俊彦は思った。
 妻との時間ではこうは行かない。
 妻と来た時はせっかちに風呂に入り、決まったようにベットで身体を重ねた。
 まるで義務みたいで落ち着かない。
 今の夫婦生活もそうだ。
 いつも追いまくられる。
 惠といるときはゆったりとした時間が流れる。
 世間とは違う時間の流れ。
 惠も身体と髪を丁寧に洗うと、気持ちよさそうに身体を湯船で伸ばす。
 マンションの狭い風呂では落ち着かないのだろう。

 風呂を出れば俊彦の上等なインスタントコーヒーを二人で飲む。
 夕方まで話をする。
 惠の仕事の愚痴を聞き、時事や趣味や流行についていろんな話をする。
 惠はしっかり自分の考えを持っているから、年が離れていても俊彦には好ましい。
 昼寝をしたければ、お互いに全裸で昼寝をする。
 たまにはセックスをするときもある。
 不思議と同じことを考えていて、気を使ったことがない。
 ゆったりとくつろぐ惠を見ていると、二人だけの時間と空間が、俊彦には本当に大切なことに思えるのだ。
 不倫ってもっと重くないといけないのだろうか?









 


















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