Shyrock作






 惠(27才)は学生時代からの親友景子と真昼間から携帯で際どい話をしていた。
 たまに会った時などであれば、お茶をしながら、艶っぽいヒソヒソ話に花を咲かせることも希にはあるが、携帯ではとても珍しい。

「ねえ、景子、ズバリ聞くけどイッタことってある?」
「クスッ、藪から棒に何よ。もしかして惠はまだイッタことがないの?」
「う~ん……よく判らないの……たぶん、まだだと思うの」
「でも、どうして急にそんなことを……」
「うん、毎月購読している女性雑誌に特集があったの」
「うふふ、『セックスをもっと楽しむために』とか何とかの特集じゃないの?」
「景子、もしかして同じ雑誌を買ったの?」
「違うわよ~。そんな特集って女性雑誌だったら多かれ少なかれどこでも取り上げてるわ」

 景子は結婚をしてから以前よりもとても明るくそして何事にも積極的になった。
 よほど結婚生活が充実しているのだろう。

 惠はそんな景子がちょっと羨ましくもあったが、惠が別に不幸というわけじゃない。
 惠だって夫は優しいし、現在の結婚生活には充分満足していた。

 ただ景子の話を聞いていると性生活はかなりの開きがあるように思われた。
 惠27才、夫32才。景子27才、夫31才。
 年齢的にはほとんど変わりがない。
 惠の場合、夫の帰宅時間の遅さなどもあって、週に1~2度セックスをすればいい方だった。
 比較して、景子の場合、毎日セックスに勤しんでいるという。
 そしてセックスをするたびに、何度も絶頂を味わって最高とまでいう。
 そういえば景子は結婚して以来、とても美しくなった。
 セックスで美しくなるというのはどうも本当らしい。

 惠は景子と会話を交していて、『イク』ってことが、どうしても理解しにくい不思議な概念であった。
 夫に愛されて気持ちいいとは思うが、ビデオや小説で聞くような変化が身体に起こらない。

 失神をしたことがない。
 痙攣もしない。
 こういうことについては景子の方がきっと詳しいはずだ。
 そう思ったので思い切って聞いてみたかったのだ。

「う~ん、そうなんだ。大体分かったわ。どうも惠はまだイッたことがないみたいだね」

 景子は惠に答えた。
 景子は思った。
 惠の説明だと、ご主人に悪いからってイッてる振りをしているだけのような気がする。
 イクまでにご主人が満足して先にイッちゃってるのも大きな原因かも……。

「でも大丈夫。きっとそのうちイケるわよ。だけど最初はコツがいるわ」

 景子は惠に言った。
 イクコツを一度掴むと夫とのセックスがとても待ち遠しくなる。
 一度イケると堰を切ったように何度でもイケるようになる。
「体力が持たないよ~」とか言って、一回主義の夫が気を遣ってバイブレーターを買ってきてくれたこともある。
 その頃からさらに快感が増したような気がする。

 もう病みつきになっちゃった。
 これはさすがに親友の惠にも言えないけど。

「ねえ、惠。あなたにひとつだけ言っとくわ。イク振りだけは絶対にしちゃダメ。だって旦那さんが『僕は惠を充分に満足させているんだ』なんてとんでもない思い違いをするでしょう?」

 景子は惠に忠告した。

「そうなの」

 惠は少し後悔していた。
 恥ずかしいがア行の声を出すと、夫は気持ちよさそうに果てる。
 その姿がかわいくて、結婚以来口に出せないでいた。
 そんな夫の姿に十分濡れるし、とても満足していた。
 こんなものかとずっと思っていた。
 今さら「イッタことないの」なんて言えるはずもない。

 女性雑誌の「女の喜びを知らない人生」に進みつつあるように思えて悲しかった。
 子供ができたらもっと疎遠になってしまうだろう。
 景子に「もっとクリを上手に触ってもらいなさいよ」とズバッといわれたものの、どう夫に伝えていいものか、ため息が出た。










 









自作小説トップ

トップページ







inserted by FC2 system