第14話

 その後、まりあは月2回程度のペースで光一とコースを周回した。
 コース周回の合間には足しげく練習場へも通った。
 そのため光一と顔を合わせる機会もかなり増えた。
 コース周回の帰りには必ずと言って良いほど『19番ホール』を楽しんだ。
 練習の帰りにも光一と過ごすことができたが、人の目もあり、街中で会うことは控えた。
 そのため、まりあはコース周回の日がとても待ち遠しかった。
 やっと逢瀬を果たせた『19番ホール』でのまりあは激しく燃えた。

 光一と初めて結ばれた日から3ヵ月経った日の夕方。
 その日もまりあは光一とコース周回と『19番ホール』を愉しんだあと帰ってみると、驚いたことに夫が早々と帰宅していた。

「お帰り、まりあ」
「あら、あなた早いじゃないの?どうかなさったの?」
「いや、急に明朝、大阪で緊急会議が開催されることになったので、今夜の新幹線で大阪に行かなきゃならなくなったんだよ。その準備で早めに帰ってきたんだよ」
「そうなの。それは大変だわね」

 静雄はまりあの服装を見てすぐにゴルフ帰りと分かった。

「ゴルフに行ってたんだね?」
「ええ」
「最近はかなり熱が入っているようだね。だいぶ上達したのでは?」
「少しだけね」
「もしかしたら私よりも上手くなったんじゃないか?ははははは~」
「そんなことないわ」
「ゴルフの上達はコーチ次第だと言うからね。コーチはどうだい?親切に教えてくれるか?」

 まさかコーチの話まで登場するとは思っていなかったまりあは、一瞬たじろぎ顔がこわばってしまった。

「ええ、丁寧に教えてくださるわ」
「あ、そうそう。一度まりあが通ってるゴルフ練習場に私を連れて行ってくれないか?」

 追い打ちをかけるように、静雄は驚くべき要望をまりあに告げた。

「えっ……どうして?」
「実はね、先月の人事異動で就任した部長が大のゴルフ好きでね、たまにはお付き合いをしなければならないので、僕も少しぐらいは腕を上げておかないとね。そんな訳だから頼んだよ」
「ええ、わかったわ……」

 断ってもよかったのだが、変に断って疑われるのも嫌だったので、まりあは仕方なく首を縦に振った。
 しかしどこか不自然なまりあの表情から狼狽の色は隠し切れなかった。

(どうして夫は、私の通っているゴルフ練習場に連れて行ってくれと言うのかしら。ゴルフ練習場なんていくらでもあるじゃないの。
それにゴルフの練習って仲間で行くより一人黙々とやる方が上達すると言われているし。もしかしたら何か勘づかれたのかしら。でもまさか……。夫に対してはいつもごくふつうに接しているし、彼とのこん跡なんて残っていないはずだわ……)

 まりあの心をどす黒い雲が覆い始めていた。
 日陰に咲いた小さな花にまもなくどしゃぶりの雨が降り注ぐのだろうか。
 そしてその可憐な花びらは濁流に呑み込まれてしまうのだろうか。
 
 まりあはロフトにゴルフバッグを片付けながら心の中でそっとつぶやいた。

「光一さん……私はあなたが好き……あなたを愛してる……」





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