第14話「傷心癒える日まで」

「ううっ……!」
「誰だね、君は!? 現行犯で逮捕するぞ!」
「君は警察に通報をくれた慎二君だね!? 容疑者に手を出してはいけないよ! ちゃんと法の裁きを受けるのだから、手を出しちゃいかん!」
「こいつっ! もえもえに何をしたあ~~~! 許さんぞぉ~!!」

 頭に血が昇った俊介に加えて慎二までが現場に飛び込んできた。
 懸命に阻止しなだめようとする警官。
 慎二にいたっては警官の制止を振り切ってなおも源蔵に殴りかかろうとする。

 その時、山本係長の一喝する声が轟いた。

「やめろっ! これ以上容疑者に手を出すと、公務執行妨害と暴行罪で逮捕するぞ!!」

 両脇から警官に押さえられようやく慎二が思いとどまった。

 手錠をかけられた源蔵は警官に背中を押されながら木こり小屋の外へと連れ出された。
 山本係長がつい先程までの厳しい表情から一変させ、俊介たちにいたわりの言葉をかける。

「大変でしたね。怪我の具合はいかがですか? 救急車が到着しているのですぐに乗ってください」
「ありがとうございます。僕よりも彼女たちを早く診てやってください。身体だけじゃなく心にも深い傷を負ったと思いますので……」
「分かりました。すぐに病院にお連れします」

 イヴともえもえは外傷こそ少なかったが、俊介が懸念したとおり心の痛手は相当大きいものがあった。
 また、のちのことになるが、診察の結果二人とも妊娠していなかったことがせめてもの救いであった。

⛰⛰⛰

 白壁の病室のベッドにイヴが横たわっていた。
 点滴の液がチューブを伝い血管の中に落ちていく。
 そばには俊介の姿がある。

「ねえ、俊介……目の前で犯された私のこと、もう嫌いになったでしょう?」
「何を言ってるんだ。嫌いになんかなるものか。あれは事故だったんだ。もう気にしないで」
「ありがとう。そういってくれて嬉しいわ……」
「当然じゃないか」
「ねえ、もえもえちゃんの具合はどう?」
「もえもえちゃんの怪我も幸い大したことがなかったようだ。それよりも慎二君が戻って来たことが、彼女にとっては怪我の功名だよ」
「まあ、慎二君が戻ってきたの? それは良かった! もえもえちゃんも今回のことはかなりショックだったと思うけど、彼が戻ってくれば心の傷も早く癒えるわ」
「そのとおりだよ」
「良かったぁ……」
「僕はこれからイヴのリハビリ担当医だ」
「あら、俊介はたしか法学部じゃなかった?」
「イヴのハートを治すのに学部や資格は関係ないよ」
「なるほどね」
「イヴの心の傷は僕が必ず癒すから」
「嬉しい……」

 イヴの瞼にキラリと光るものがあった。
 俊介はイヴを抱きよせて唇を重ねた。

「ねえ、俊介」
「なに?」
「もえもえちゃんと……」
「うん?」
「エッチして気持ち良かった?」
「うん、抜群に良かったよ~!」
「もう! 俊介たら大っ嫌い~~~!」

 イヴは頬を膨らませ俊介の額を指で軽く小突いた。

「ごめん、ごめん!」
「もう口をきいてあげないんだから」

 二人が窓の外を眺めると秋を思わせる水色の高い空が広がり、そこにはいわし雲がかかっていた。
 ちょうど同じ頃、隣の病室ではもえもえと慎二が唇を重ねていることを、俊介とイヴは知るよしもなかった。






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