第13話「怒りの鉄拳」

「僕もいっしょに突入してはダメですか? これでも一応空手3段だし格闘技には自信があるんですが」
「ありゃ、君、まだここにいたのかね? ダメダメ、危ないから早くここから離れなさい!」
「でも、つい先日まで彼女だったもえもえが捕らわれているので放っておけなくて。すごく心配なんです」
「心配なのは分かるけど、市民を巻き込むわけにはいかないんだよ。ここは警察に任せなさい。さあ、早く向こうに行ってください!」
「はい、分かりました……」

 特殊犯捜査係の山本係長のそばへ、中野警部補が足音を忍ばせてやって来た。

「彼が通報してくれたんですか?」
「うん、中に捕らわれている女の子の元彼らしい。我々といっしょに突入したいと言って聞かないんだよ」
「そんな無茶な……」
「全く無謀だよね。でもさ、最近、あのような男気のある若者が少なくなったね」
「全くですね。恋人のために身体を張る男性はそんなにいないんじゃないでしょうか」
「時代の流れかな……? おっ、1時まであと5分だ。準備はいいかな」
「はい、準備OKです」
「中の様子は変わりないか?」
「はい、特に変わりはありません。ホシは今ぐっすりと眠っています。それから人質の男女3人は柱等に縛られたまま眠っているようです」
「よし! では予定どおり二手に分かれて突入するぞ。玄関側からと窓側から同時刻に突き破るのだ。いいか、タイミングを間違ったら人質が危ないので十分気をつけろ。よし、すぐに持ち場に戻ってくれ」
「はい、了解しました!」

 中野警部補は急ぎ足で持ち場である窓側附近に戻って行った。

 あと1分……。
 緊張の面持ちで防刃帽、銃器、あるいは刺又を装備した警官隊が号令を待つ。
 山本隊長と警官隊は足音を忍ばせて、木こり小屋の扉付近を取り囲んだ。
 扉を一気にぶち破る作戦らしい。
 前面には堂々たる体格の警官が破城槌を持ち構えている。

 一方、別働隊は窓から突入するようで窓ガラスにフィルムを貼る等のガラス飛散対策に余念がない。
 源蔵の居場所に近い窓側からの突入が先に突入を果たすことになるだろう。
 それぞれの警察隊員に緊張が漂う。

 突入の時間が刻一刻と迫ってくる。
 2か所が同時に活動を開始した。

 窓ガラスが割れる音とともに、警察隊員が一人目が素早く突入を果たした。
 時を同じくして、玄関扉が轟音とともに壊され、玄関からも警察隊員がなだれ込んだ。

「な、何だ……!?」

 あらん限りの精を放出して爆睡していた源蔵は、突然の騒動に事情が分からず慌てふためいている。
 俊介たちもただらならない事態にただ驚くばかりであった。

「おおっ、警察が来てくれたのか!?」

 一時的に猿轡を解かれていた俊介は驚嘆の声をあげた。
 イヴともえもえは状況をすぐに動くことができず唖然としている。

 源蔵はむくっと起きあがると、枕元に置いていた斧を握った。
 間一髪、警察隊員の刺又が源蔵の胸板に圧迫した。

「ううっ……!」

 ひっくり返った源蔵を二人の警察隊員が取り押さえにかかった。

「おい、君たち、大丈夫か!?」

 警察隊員の一人が俊介たちの縄を解き、怪我の有無をたずねる。

「僕は大丈夫です。僕のことより女性たちに着る物を貸してやってください」
「取り合えず毛布をどうぞ! すぐに救急隊もくるので安心してください!」

 俊介は隊員に礼を述べると、ふらつきながらも立ち上がり、取り押さえられている源蔵に掴みかかった。

「よくも僕たちを酷い目にあわせてくれたな~! このっ!」

 警官の阻止を振り切って源蔵の頬にパンチを見舞った。

「うぐっ……」
「おい、君! いくら容疑者でも暴力はいかんよ、暴力は!」

 警官が俊介の行動を制した。

「容疑者ですって!? こいつは正真正銘犯人じゃないですか!」

 長時間監禁され三人が受けた恥辱の数々に 俊介の怒りは治まりそうもなかった。
 警察隊員の阻止を振切って再び源蔵に挑もうとしている。

 ちょうどそこへ一人の若者が飛込んで来て、警察隊員をかき分け、すでにとり押さえられている源蔵のこめかみに拳骨を浴びせた。



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