中編/イヴ 嵐山窓の月(2)







第6話


女は男の長さよりも、「太さ」で感じ方が変わるという。
寿司みたいだが「細巻き」よりも「太巻き」の方が当然いい訳だ。
そして柔らかいより硬い方が膣道が一層擦られる訳だから、どちらが良いかは論ずるまでもないだろう。
硬く、太く・・・
俊介のそれは女にとって理想の状態となった。
イヴは雲の波間を浮遊しているような錯覚に陥った。
そして無意識のうちに激しい喘ぎ声を発していた。

「ひぃ~、あぁ、そこいい、そこいい、ああぁ、すごい、あはぁ、すごい!すごい!俊介、すごい!」

俊介はイヴの腰をしっかりと抱え込み、更に強靭な竿をねじ込んだ。

「あああぁ!うはぁ~!奥に~すごく奥に~、ああっ、すごく奥に来てるぅ~、ああぁ!もうだめ!ああっ!もうダメぇ~!」

俊介は手を伸ばして枕を取り、イヴの腰の下に敷いた。
イヴの恥骨が突き出たような格好になった。
何とも艶めかしい姿だろうか。

俊介は再び始動した。
枕を腰に敷いたことで挿入角度が少し変わった。
下から上に突き上げるような角度になったのだ。
先程と擦れる場所が変わったことで、イヴはひときわ高らかな喘ぎ声を奏でた。
竿はイヴのGスポットが擦れるように照準が合わされていたので、感じない方が不思議だった。
女の身体を知り尽くした男の技巧に、イヴはたちまち燃え上がりメロメロな状態になってしまった。
シーツに爪を立て、無意識のうちに引っ張っていた。

「あん、あん、あん、ひぁゃ~、もう、もう、もうダメ~、イク、イク、イク、いっちゃう~!」

俊介はイヴを強く抱きかかえ腰のピッチを速めた。

「ふわぁ~~~~~~!はあぁ~~~~~~~!!」
「おおっ、僕ももうダメだ・・・うっ・・・うううっ!」

イヴは頂へ向かう坂を駆け足で登って行った。
俊介もまた怒涛が押し寄せ、肉体の堤防がぷっつりと切れるのを感じた。
官能の渦はふたりを包み込み、とてつもない深海へと導いていった。


イヴは終わった後、甘美な余韻に酔いしれていた。
俊介はそんなイヴを優しく抱きしめ髪を撫でてやった。
ふたりが抱合う姿を窓から覗く月がそっと見つめていた。

「イヴ・・・もう明日の夕方帰ってしまうんだね・・・」
「時間が経つのって早いものね・・・せめて明日の夜までずっとこうして抱合っていたいなぁ・・・」
「うん、そうだね。僕だって同じ想いだよ。イヴを離したくないもの」
「私だって、ずっと俊介とこうしていたい・・・」

それからふたりは幾度か愛し合い、やがて疲れ果て深い眠りへと落ちていった。

川のせせらぎの音で、イヴは目を覚ました。
俊介はまだぐっすりと眠っている。

(昨夜の3回戦がちょっと堪えたのかな?)

イヴはくすっと笑った。
俊介を起こさないように布団からそっと出たイヴは、冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターを取り出した。
グイグイとペットボトルを傾け、喉の渇きを癒した。

再び布団に入り込み、俊介の厚い胸に頬を寄せて、俊介の髪を撫でた。

(俊介・・・愛してるわ・・・)

その時、襖の外から仲居の甲高い声が聞こえた。

「おはようさんどすぅ~、もうお目覚めですやろか?朝食をお持ちしてもよろしどすかぁ?」

イヴは突然の仲居の来訪に慌て、言葉に労した。

「えっ?朝ご飯ですか?まだちょっと早いので、もう少し後にしてくれませんか?」
「すんまへんな~、もう9時どすさかい、あと30分ぐらいで運ばせてもらえませんか~」

時計を見るともう9時を差している。
かなり寝過ごしてしまったようだ。
イヴは焦りながら仲居に答えた。

「あ、はい、判りました。30分だけ待ってくださいね」

2人の会話で俊介が目を覚ましたようだ。
眠そうに目を擦っている。

「俊介、おはよう。もうすぐ、朝ご飯が来るよ」
「ふわ~、ああ、そうか、ここはホテルじゃないから部屋に持ってくるんだったなぁ。さあ、着替えなくっちゃ」





第7話(最終回)


2人の前に朝の膳が並べられた。
さすが京都らしく、朝食であっても器や盛り付けには凝っている。
だがいくら探してもイヴの大好物の納豆がついていない。

(あ、そうか。関西で納豆を食べる習慣ってなかったんだ)

京都嵐山の朝・・・風情はまさに『わび・さび』の世界だ。
そして愛する俊介が目の前にいる。
朝食をいっしょにできることの幸せ。
女にとって、大好きな人と朝食をともにできることは、夕食をともにできること以上に嬉しいことなのだ。
こんな日が早く来て欲しかった。
そしてこれからもこんな幸せな日々が続けばいいのに・・・
とイヴは思った。
イヴは大好きな卵料理に箸を運んだ。

ふたりは旅館を出た後、嵐山の土産物を物色した。
京友禅、油取り紙、扇子など京都独特の店が軒を連ねている。
それに加えて、芸能人が経営するみやげ物店もちらほらと点在する。
通りを歩いていると昨日の人力車の男がやって来た。
ふたりの姿を見て、にっこりとお辞儀をしてきた。
昨日のふたりを憶えているようだ。
「次は紅葉を見に来てくださいよ!」
と言い残しふたりの横を通り過ぎていった。
俊介はそれに答えるかのように、「また乗せてもらうよ!」と言った。
イヴはその光景がとても嬉しかった。

ところが俊介には少し意地悪なことを囁いた。

「ねえ、俊介、また乗せてって、今度も私と乗ってくれるの?別の子とかじゃないの?」
「もちろんだよ。イヴ以外いっしょに乗る子なんていないさ。もちろん、人力車だけじゃなくてイヴにも乗るけどね。ははははは~!」
「シ~!声が大きいよぅ~」

一瞬イヴの顔が赤らんだ。
俊介はイヴの照れるしぐさがやけに可愛いと思った。

その後、寺社を観て廻り、昼食には湯豆腐を食べ、夕方京都駅に到着した。
新幹線のホームは熱気でむせ返っている。
イヴは俊介に藍染めの扇子を出して扇ぎ始めた。
初めて会った時に、俊介が二年坂で買ってくれたものだ。
イヴは自分には扇がず、俊介に風を送ってやった。

「ありがとう、イヴ。いいよ、君も暑いだろう?」
「うん、だいじょうぶよ。それより・・・」
「ん?」
「もうお別れだね・・・」
「そうだね。また会おうね。次に会う日を今は約束できないけど」
「寂しい・・・」
「そんなに寂しそうな顔をしないで。僕まで悲しくなるじゃないか」
「うん、ごめんね」

新幹線が無情にも定刻どおり、ホームに滑り込んで来た。
新幹線は在来線より発車が早い。
行列の最後尾にふたりは並び、徐々に列車に近づいて行った。
ふたり以外の乗客がすべて乗り終ったのを見計らって、俊介はイヴを抱きしめてくちづけを交わした。

ふたりの行動を観て呆気にとられ呆然と眺めている乗客もいる。
だがふたりはお構いなしだ。

遠く離れて暮らすふたりにとって、逢う瀬は貴重な時間だ。
次会えるのがいつになるか・・・約束のできない恋は辛いものだ。
そんな切ない想いが、ふたりに大胆な行動をとらせたのだ。
発車時間が気掛かりだったので、キスは短めだった。
一瞬だけのキスであったが、熱い熱いキスだった。

ふたりはその感触を残したまま、列車とホームに離れていった。
イヴは席には向かわず、デッキに立って俊介を見つめている。
俊介はあえて明るい表情をつくろった。
微笑みながら手を振った。

「さよならは言わないよ、また会うんだから」

俊介がそうつぶやいた瞬間、新幹線のドアが閉まった。
イヴはドアの向うで涙を浮かべて手を振っている。
一生懸命手を振っている。

ついに列車は動き出した。
イヴはデッキでバッグを抱えたまま泣き崩れてしまった。

新幹線が京都駅から消えた後も、俊介はホームで呆然とイヴの去った方向を見つめていた。
イヴのデッキで涙ぐむ顔が浮かんできた。

俊介は次の新幹線が到着するまで、ずっと軌跡を見つめていた。












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