第2話 獣たちの姦計

 今まで俺達三人は一か月に二回のペースでコースを回っていたが、早乙女の依頼があってからは、毎週日曜日に四人でコースを廻ることになった。
 そんな俺達に早乙女はとても感謝して、頭をペコペコと下げていた。

「本当に皆さん、すみませんね。私なんかのヘボのために毎週ゴルフに付合ってくださって」
「いえいえ、礼には及びません。僕たちも好きでゴルフをやっているのですから」
「いやあ、そう言ってもらえるとすごく嬉しいですよ」
「それにしても早乙女さんはセンスがいいですね。スイングもだんだんよくなって来ましたよ」
「いやあ、そうですか。そう言ってもらえるととても励みになりますよ」

 早乙女はニコニコ笑いながら照れていた。
 実に純朴な男だと思った。

 数回コースを回った頃、帰りのクルマの中で夫は俺たちにこう言った。

「皆さん、ちょっと喉を潤して帰ってくださいよ。コーチ代も払ってないのだから、せめてご馳走くらいさせてくださいな。大したことはできませんけど」

 などと言い、俺達を自宅の夕飯に誘ってくれた。

「そんな気を遣わないでくださいよ。これから付合いにくくなりますし」

 と形ばかりの遠慮を装って、夫の誘いを内心はしめた……とほくそ笑んだ。

◇◇◇ 

 その夜、話題はゴルフのことで持ち切りになりかなり盛り上がった。

 夫には「もう二か月もするとすぐにスコアは50を切れますよ。さすが気合の入れている人は違う」

 などと持ち上げてやると、酒の勢いもあったのだろう。

「そうですか?それは嬉しいですね。元々スポーツ音痴なんですが、ゴルフは私に合っているのかも知れませんね」

 と、すっかり上機嫌になっていた。

 その後も、夫は俺達を再三、自宅の宴席に誘ってくれた。
 俺達も夫の誘いを気持ちよく受けることにした。
 しかし一方で、妻の衣葡が歓迎していないことは時折見せるしぐさで判った。
 それもそのはず。
 引越してまだ間がないのに、他人の俺達が引っ切りなしに押し掛けるのだから、たまったものではないだろう。
 食事の準備、片付け、酌、と用事が増えるばかりか、家計にも相当負担を掛けているはずだ。
 俺もいささか気を遣って、夫に対しワリカンを申し出たが、夫は頑として受付けなかった。
 ゴルフを習いに行けばもっと高くつくのだから、これぐらいは……と俺達に言った。

 いや、妻の衣葡の本音は、経済的なことよりも、せっかくの週末を夫婦水入らずで過ごせないことであろう。
 新婚二年目ならばきっとそのはず……と俺は意地悪な想像をかき立てた。
 しかし衣葡は俺等の前では、嫌な顔は見せないで、いつも愛想良く接待するように努めていた。
 衣葡はいつも身体によくフィットしたショートパンツを穿いて、まめまめしく動き回っていた。
 前屈みになった時などは、よく引締まった尻の膨らみが間近に見えて、やけに興奮をしてしまったものだ。
 布の向うはどんなだろう……と思ったのは俺だけではなかったはずだ。
 それは八百屋と薬剤師の衣葡への目の運びですぐに分かった。

◇◇◇

 三月末の日曜日、悪友三人でじっくりと練った計画を実行する日がついにやって来た。
 宴もたけなわの頃を見計って、一定量の睡眠薬を夫のビ-ルにこっそり混入することに成功した。
 すると薬剤師が言ったとおり、夫は午後九時前にはもう意識が朦朧として来たようで、

「ああ、眠い……。もうだめだ……。衣葡、皆さんのおもてなしを頼むよ……」 

 などといいながら、そのまま横になってしまった。

 衣葡は少し狼狽して、

「お客様の前で失礼じゃないですか。起きてください」

 と何度か揺すったのだが、夫は一向に起きない。
 衣葡は「申し訳ありません」
 と俺達にペコペコと謝りつつ、その場を繕うためか三人に杓をして廻った。

 薬剤師が二十四時間は目を覚まさないはず、と言ったとおり、夫は高いびきで寝入ってしまった。
 俺は、八百屋に言った。

「ご主人が風邪を引いてはいけないから、隣の部屋まで担いで行きましょうか」
「そうだな」と八百屋は肯いた。
 そう言いながら夫を担ぐ俺達に、衣葡は頭を何度も下げて、すまなさそうにしていた。
 それもすべてシナリオの一貫だった。
 俺と八百屋が運ぶ隙に、薬剤師は衣葡のコップに、夫の三分の一ぐらいの睡眠薬をこっそりと入れた。

 夫をベッドに寝かせつけて一段落した俺達は、居間に戻り再び酒を酌み交わした。
 飲めない衣葡にもかなり飲ませることに成功した。


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