プロローグ
ここ数年日本ポップス界の頂点を極めてきたイヴリン(26才)も、最近は若手歌手やグループの台頭が目立ちはじめ、CDの売上げが伸び悩むなどやや翳りが見え始めていた。そんなさなか起死回生の一発を図るうまい話が持ち掛けられたのだが……
第1話
「社長!約束が違うじゃないですか!」
イヴリンは血相を変えて、社長に抗議した。
遠山社長(57才)はイヴリンの抗議に臆すること無く、葉巻に火を点しながら悠然と答えた。
「うん、あの歌番組の司会は確かに君に仕切ってもらおうと思ってたさ。番組を企画し始めた頃はね。」
「じゃあ、どうして…?」
「いやあ、私からは言いにくいことだけど…考えてもごらんよ。昨年は確かに君はベスト10の常連だった。出す曲、出す曲、すべて大ヒットだった。だけど今はどうだ?たまにベスト20に入ればいいところじゃないか。特にKKB84や、KIRA等にことごとく後塵を拝しているではないか?」
「うっ……」
イヴリンは遠山社長の言葉に、返す言葉が見つからなかった。
確かに彼の言うとおり、イヴリンは2008年から2010年に掛けてミリオンセラーのラッシュが続いた。
ところがある日、ある男性との噂を某ゴシップ誌にすっぱ抜かれてしまった。
彼女がある男性が住むマンションに深夜訪問する場面をシャッターされてしまったのだった。
芸能関係の話題が乏しい時期であったため、格好のネタとなり、マスコミはこぞって彼女を追い掛けた。
彼らにとっては、売れに売れている女性歌手の私生活を暴くことは、ドル箱を得たも同然であった。
心無いファンからの嫌がらせの手紙や悪戯も相次ぎ、イヴリンはノイローゼになってしまった。
しばらく休養をしたいと事務所に申し出、事務所側も事情から考えてやむを得ないと判断した。
その頃、芸能界では新勢力が台頭していた。
その筆頭にはBKB84がいた。
イヴリンのCD売上は大幅に下降した。
新曲も暫く出なかった。
マスコミも新しいゴシップに眼を向け始めた頃、イヴリンはようやく立ち直った。
(こんなことしてちゃいけないわ。がんばらなくっちゃ。)
彼女のオリジナルによる新曲が発売されたものの、売上は今ひとつ伸び悩んだ。
また新しい歌番組の企画があり、イヴリンと某有名タレントをMCとして抜擢する予定であった。
ところが騒ぎにより出演は取り止めとなった。
しかしイヴリンは夢を捨て切れなかった。
歌手という立場はタレントとは違って基本的にレギュラー番組と言うものは無いのが普通。
何とか掴み掛けたレギュラーの座を射止めたいと思った。
そして単身、遠山プロダクションの社長のもとへ向ったのであった。
遠山社長の眼鏡の奥がキラリと光った。
57才とは言っても実業家、眼孔は鋭く鷹のような眼をしている。
口元に何か淫靡な笑みを浮かべながらイヴリンに小声で言った。
「君がどうしても出たいというなら条件がある。」
「え?条件って何ですか?」
「ふっふっふ…簡単なことだ。一晩だけでいいんだ。君を好きなようにさせてもらいたい。」
「何ですって!?」
遠山社長はイヴリンの魅惑的なボディを舐めまわすような目つきで眺めた。
(ゴクリ…)
静かな部屋に遠山の唾液を飲み込む不快な音が聞こえた。
イヴリンは鳥肌が立つ思いがしたものの、自分の考えだけはしっかりと語った。
「社長…そんなぁ…そんな無理なことを言わないでください。私が抱かれたいのは愛する人だけです。」
イヴリンの言葉に対し、遠山はすぐに反応した。
「それは奇麗事だ。世の中、奇麗事だけでは通らないのは君も分かっているだろう?私が聞きたいのは、君が今夜、例の番組に出演するために私に賭けるか、賭けないか…それだけだ。ずっと付合ってくれなどとは言わない。一晩だけの契約でいいんだよ。」
イヴリンは遠山の言葉が途切れた頃、意を決したように強い口調で語った。
「社長、そんな契約はお断わりします。番組は諦めます…。」
言葉は穏やかであったが、イヴリンの眼差しは真っ直ぐに遠山を見つめていた。
「なに!?断ると?う~ん…そうか。それは残念だね。君が再起を計るためには良いチャンスだと思うんだけどね。惜しいけど嫌ならば仕方が無いね、他を探すか…。」
「期待に沿えなくてすみません。社長、それじゃ失礼します。」
女王の座を奪回するためには、人気番組の司会兼レギュラーは最大の武器であることも分かっていた。
だからといって、好きでもない男に磨きを掛けた肌を蝕まれることなどとても耐えられなかった。
ここは‘断念’の言葉しかないと判断したのだった。
イヴリンは遠山に軽く一礼し、すぐさまドアの方へ向った。
(ドカドカドカッ!)
その直後、イヴリンの背後に突然魔の手が伸びた。
「きゃ~~~っ!」
「なあ、まあそう硬いことを言わなくてもいいじゃないか。せっかくのチャンスなんだから。悪いようにはしないから、なあ、いいじゃないか~。」
遠山はイヴリンを後から羽交い締めにしながら、耳元に湿った息を吹きかけた。
生暖かく気味悪い吐息がイヴリンのか細い首筋を襲った。
第2話
イヴリンは好きでもない男性からのおぞましい行為に鳥肌が立つ思いがした。
絡み付いてきた腕を振り解こうと必死にもがいてみせるイヴ。
逃すまいと年齢には似つかわしくない意外な怪力で圧してくる遠山。
遠山の手はイヴリンの黒いレザーパンツのジッパーに掛かった。
「なあ、いいじゃないか、なあ!」
「や、やめてください!社長、嫌です!」
イヴリンの抵抗も空しく、ジッパーが降ろされて、レースの黒いパンティがチラリと覗いた。
「グヒヒヒヒ~、さあさあ、この奥を見せなさい。大人しくして。」
「いやっ、嫌です!やめて~っ!」
(バシンッ!)
(ウワ~~~ッ!)
次の瞬間、遠山の巨体が床に仰向けになって倒れ込んだ。
細い華奢な女性が2倍ほどもある男を突き飛ばしてしまったのだ。
実はイヴリンは学生時代、小林寺拳法を学び段位まで獲得するほどの腕前で持っていた。
武道とは久しく離れていたものの、そこは有段者と言うこともあって無意識のうちに自然に身体が反応したのであった。
遠山がいかに巨体とは言っても、鍛えていない身体であれば所詮はただの独活(うど)の大木。
腰周りが胸囲以上もある無様な体形の男は、動きも鈍く意外と非力なものである。
細腕とは言え、有段者の技にはなす術も無かった。
「いてててて…くそ~…よくも私を…」
「社長が私に手を出そうとしたからです。もう二度とこんなことはやめてください。」
「く、くそ…今までの恩を忘れたのかぁ~…」
「いいえ、今までの恩は決して忘れておりません…では、失礼します。」
床にうずくまる遠山をキッと睨んで、イヴリンは事務所を後にした。
事務所を出てタクシーに乗り込もうとしたイヴリンであったが、思い返して夕暮れの街を歩くことにした。
急に俊介(28才)の顔が見たくなったのだ。
(あ~あ、これでもう私の芸能生活も終りかな~…)
夕方になって一段と寒さがが増していた。
イヴリンは肩をすくめ、速足で俊介のマンションへと向った。
人気女性歌手が彼氏の元に堂々と行く。
一見無謀な行動のように思われたが、イヴリンはすでに開き直っていた。
(だって、あれだけ散々雑誌に叩かれたんだから、もう恐いものなんかないわ。)
イヴリン専属の記者たちも、おそらく他の餌を漁っていることだろう。
サングラスを一度は出してはみたが、再びバッグに仕舞い込んだ。
イヴリンは切れ長の瞳と鼻筋の通った美形で、紅く染めたボブヘアがよく似合っていた。
それに加え、黒の革ジャンと黒のレザーパンツ、それにショートブーツが彼女の定番だ。
道をすれ違う人たちは、彼女のあまりの堂々とした態度に、
(あれ?あの子、歌手のイヴリンにすごく似てるな~、本物みたいだ~。)
等と思ったことだろう。
俊介の5階建てのマンションが間近に見えて来た。築後20年位は経っているだろうか。外壁がどんよりとくすみ、お世辞にも立派なマンションとは言い難い。バックバンドとしての下積みが長い俊介にとっては仕方の無いことであった。
イヴリンと俊介の出会いはやはり音楽からであった。とある公演以来、俊介の所属するバンド‘ノエル・ファイヴ’がイヴリンのバックを務めることになった。公演が終了した後、酒の好きなイヴリンは彼らとともに夜の巷に繰り出すことがしばしばあった。
そのメンバーのひとりが俊介であった。彼は5人の中でも無口で地味な存在であったが、彼の奏でるベースの音色はイヴを陶酔させるほど素晴らしいものであった。どこか陰の漂うニヒルさを持つ男であったが、イヴリンはそんな俊介に次第に惹かれて行った。
「ねえ、俊介。ベースだけを伴奏に歌えるかな?」
「うん、できないことはないよ。」
「じゃあ、後で私のマンションで合わせてみない?」
切っ掛けはそんな些細なことから始まった。
その夜、俊介のベースに合わせて、イヴリンは歌った。酒の勢いもありテンションはどんどんと上がった。挙句にはイヴリンの持ち歌以外もポンポンと飛び出した。
深夜とは言っても、防音ボックス(広さは2㎡ほどで、遮音性、制振性に優れた物置のようなもの。)の中なので、音が外部に漏れる恐れは無く近隣への配慮も万全と言えた。
明け方まで歌い続け疲れ果てた2人は、ボックスの中で折り重なるように熟睡してしまった。
そんな奇妙な夜を過ごした2人が、急接近するのに多くの時間を要しなかった。
2人が結ばれたのも、それから僅か1週間後のことであった。
社長からの理不尽な誘いを断ったイヴリンだったが、俊介にはその事については一切語ろうとしなかった。彼に話したとしても心配を掛けるだけだろうから。
ただ、心がどんよりと重い雲に覆われているようで、無性に彼に甘えたかった。
しかし俊介はいつもと違うイヴリンの態度が気になった。
「どうしたの?イヴリン。何だかいつもの君と違うみたいだよ。」
「え?そう?そうかな~…いつもとちっとも変わんないよ。ちょっと疲れているからかも…」
第3話
「困ったことは何でも僕に話してね。大した力にはなってあげられないかも知れないけど。」
「うん、ありがとう。嬉しいわ、そう言ってくれるだけでも。」
「イヴリン、こちらにおいで。」
慎ましやかな1DKの部屋には、楽器とアンプそれに防音ボックス、パソコン、そしてベッド。それだけで部屋は飽和状態になっていた。ベッドに腰を掛ける俊介の横にイヴリンは並んで座った。
俊介の手がイヴリンの髪に触れた。
優しくいとおしむように髪を撫でて…
そして、軽く髪にキスをした。
俊介の指はイヴリンの顎を軽く摘まんで、自分の方に寄せた。
見つめ合って唇を重ね合う。
とても長いキス。
俊介の舌がイヴリンの口内に入って来た。
とろけるような感覚。
イヴリンの鼓動の高鳴りが、俊介には手に取るように分かった。
俊介が耳元で囁いた。
「イヴリン、君とひとつになりたいな…」
俊介の唇が、イヴリンの唇から首筋へと移行した。
「あ…待って俊介、シャワー浴びてくるから、それから…ね。」
「いいじゃん。シャワーを浴びる前に…ね?」
そういうなり俊介の手はイヴリンの乳房に触れた。
(ピリッ!)
イヴリンは全身に電流が駆け抜けるような気がした。
「イヴリン、君が大好きだ。」
「私も…」
横に腰を掛けたイヴリンを俊介はゆっくりと押し倒した。
俊介はベットに横たわったイヴリンの唇を再び奪った。
キスをしながらレザーパンツのジッパーに手を掛けた。
「レザーパンツ、脱いじゃおうか」
「……」
拒否しないことを知っていても一応尋ねてみる。
ジッパーが下ろされ、黒い下着が現れた。
俊介はイヴリンの透き通るような白い肌と黒い下着の、妖艶なコントラストにうっとりしながらイヴリンに囁いた。
「色白の女性に黒い下着ってよく似合うね。」
イヴリンは俊介の言葉ににっこりと微笑んだ。
「そう?嬉しいわ。私、黒いランジェリーが好きなの。」
少しきつ目の顔立ちも手伝ってか、綺麗けれど冷たそうとか、近寄りにくい等とよく評されるイヴリンだったが、俊介の前では甘えたで愛らしい女であった。
まもなく、細い腿にフィットしたレザーパンツがするりと床に落ちた。
「これも取っちゃおうか?」
「うん…」
黒いキャミソールが衣擦れの音とともに、先に落ちたレザーパンツの上に重なって落ちた。
さらにその上に、乳房を覆っていた黒いブラジャーも続いた。
俊介は再びイヴリンの唇を求めた。
手は乳房に伸びそのふくよかさを楽しむかのように蠢いている。
イヴリンの胸は決して大きくはないが、その形状は美しいお椀形を呈していた。
「ああぁ…」
ときおりすでに硬くなっている乳首を悪戯ぽく摘み上げる。
「あぁ…俊介…」
身悶えるイヴリンの太股に、俊介の興奮し硬く変化したモノが当たった。
イヴリンは俊介のそれを、ズボンの上からゆっくりと弄った。
「ねぇ、俊介も、脱いで…」
やがて、イヴリンは裸になった俊介の首筋にキスをしながらそっと囁いた。
「今度は私の番よ…」
イヴリンは俊介の首筋から肩、胸板と、ゆっくりと唇を這わせた。
上半身への愛撫を一通り済ませると、まもなく怒張して熱くなったコックを口に含んだ。
(チュパッ…)
「ああ…イヴリン、すごくいいよ…」
熱いコックははち切れんばかりに大きくなっていたため、イヴリンの小さな口に収めるにはかなり辛かった。
それでもイヴリンは精一杯頬張って懸命に愛した。
「ああ…とっても気持ちいいよ…そんなに舐めたらオレすぐにイっちゃうよ…」
「いいの、いつでもイって…」
「ああ、オレ、もうダメ…うはっ!イ、イきそう…」
俊介のそれはイヴリンの口内で一段と硬くなり、ビクンビクンと波打ったと思ったら、次の瞬間熱いものがほとばしった。
その熱いものをしっかりと口内に受け止めたイヴリンは、そのままゴクリと飲み込んでしまった。
「うう…あれ?飲んじゃったの?不味かったろう…出せばいいのに…」
「うん、飲んじゃったぁ。美味しかったよ。俊介のものは捨てたくないからね。」
「ばーか、そんなこといってぇ。」
俊介は微笑みながら、イヴリンのおでこを指でツンと小突いた。
「次はイヴリンがいい気持ちになる番だよ…」
俊介はそういってイヴリンを抱きしめた。
俊介の手はイヴリンの乳房を優しく揉みしだき、やがて下半身へと移動した。
珠のようなすべすべとした肌触りは、触れているだけで男を酔わせてしまう。
イヴリンの唇からかすれた声が微かに漏れた。
「あぁぁ…だめぇ~…」
黒いパンティの重要な部分を俊介の指が這う。
外からは見えなくても、指はイヴリンの敏感な箇所を的確に探り当てる。
薄い布に食込む愛する男の指。
執拗なまでのクロッチへの愛撫にイヴリンは早くも身悶えし、身体の奥底から沸沸と湧き上がる熱いものを感じずにはいられなかった。
「イヴリン、ほらもうこんなに濡らしちゃって…」
「いや…恥ずかしいことは言わないで…」
俊介の手がすっとパンティの中に滑り込み、淡い繁みを通り越して潤いをたたえ始めた秘唇の中へ埋まっていった。
第4話
「はぁ~…俊介ぇ…だ、だめぇ…」
イヴリンは困惑したような表情を俊介に向けた。
だけどそれは決して拒んでいる訳ではない。
いや、むしろそれを待ち望んでいたのかも知れない。
指は秘唇に小刻みな刺激を加え続ける。
可憐なそれは微妙な刺激にも敏感に反応する。
その狭い隙間からはすでにおびただしい蜜液が溢れていた。
まもなく俊介は膣口とクリトリスの中間にあたる部分を刺激し始めた。
「え?や、やだぁ…そこってもしかして…」
「ふふふ…そう、そのもしかだよ。ここから何が出るか分かるよね?」
「いやぁん、いじわるぅ、そんな恥ずかしいこと聞かないで…」
俊介が突然いじくったのは尿道口であった。
膣付近の中では決して性感帯とは言えない場所だったが、イヴリンは奇妙な快感に襲われた。
性感は乏しくとも、女性の羞恥心を煽るには充分過ぎる箇所と言えた。
まもなく指はクリトリスを撫で回した後、ゆっくりと膣内へ沈んでいった。
AVの映像で時折見るような激しいそれではなく、ねっちりとした緩やかな動作であった。
俊介の弦楽器で鍛えた繊細な指は、女性のデリケートな肉の狭間でも同様に細やかな動きを披露した。
肉の狭間は指の動きに敏感に反応しキュッキュッと指を締めつけた。
中指を入れて第二関節を曲げた周辺にコリコリと硬い場所があり俊介はそこを擦り始めた。
「あ~あぁ~あぁぁぁ~~~…はぁ…あぁ~そこ、感じるぅ~…はぁぁぁ~…」
イヴリンはたちまち激しく反応した。
両手を俊介の肩に絡ませ、強く息を弾ませた。
俊介の指は間断なく巧妙な動きを見せる。
その動きは、時にはゆるやかに、そして時には激しく…
「俊介ぇ…あん…もうダメぇ…入れて…欲しい…」
「何を?何を入れて欲しいの?」
「あん…いじわるぅ…分かっているくせに…」
「さあ?何だろう?分からないよ…」
「ああ、早くぅ…お願いだから…」
せがむイヴリンだが俊介はどこまでも焦らす。
焦らせば焦らすほど、挿入したときの快感が大きいことを彼は知っていた。
俊介はパンティに挿し込んだ指を一旦抜き、黒いパンティをゆっくりと脱がせ始めた。
脱がせたパンティは裏向きのまま放置しておくのではなく、さりげなく表替えしておく。
そんな細やかでさりげない心遣いが、イヴリンにとってはとても心地よかった。
俊介はイヴリンのパンティを脱がせた後、彼女の最も敏感な箇所にキスをした。
舌を転がすように…
唇で挟むように…
そしてまた舌で円周を描くように…
あらゆる動作が、イヴリンの気分をひときわ高揚させていく。
「あぁ…もうダメ…お願い…入れて…」
イヴリンの消え入りそうな弱々しい声に、俊介はようやく身体を重ねて来た。
それでもまだ挿入には至らない。
イヴリンの額に掛かった髪をかき上げたり、唇を重ねてみたり…。
そんな動作のなか、俊介はイヴリンの脚の間に自らの脚を割り込ませ確実にイヴリンの脚を開かせていく。
決して両手で強引にこじ開けるのではなく、あくまで自然に開かれていく。
その直後、俊介の肉体の一部がイヴリンの草むらに触れた。
肉体の一部は熱を帯びてしかも怒張していた。
怒張したものは草むらの下方を目指した。
一直線に縦に走った麗しき亀裂、その隙間からはおびただしい量の蜜が溢れている。
蜜の根源を探るように怒張したものは突き進んでいった。
(ズニュ…グジュ…ズズズン…)
イヴリンの唇から思わず吐息が漏れた。
更には眼を閉じ結合の喜びに酔いしれていた。
俊介はイヴリンを正常位で組み敷き真っ向から攻め続ける。
グチョグチョという隠微な水音が室内に響き渡った。
「イヴリン、水音がしてるね。いったい何の音だろう?」
「いやぁん…そんなこと聞いちゃだめぇ…」
正攻法で攻めてくる俊介は性に関してはいたって平凡な男といえる。
平凡な男ではあるが常に相手の気持ちを察して攻めてくる点は実に非凡だ。
イヴリンはとろけるような性の歓びに身体の芯まで痺れるような感覚に陥っていた。
「あぁ、イヴリン、すごくいいよ…キュッと締まってくる感じ、最高だよ…」
「あぁ、俊介、私もよ…はあ~ん、すごくいい~…」
ふたりは心と身体の深い結合により、快楽の渦に巻き込まれていった。
「ねえ俊介…今度、私が上に乗ってもいいかなぁ…」
「うん、乗って。」
仰向けになった俊介の上にイヴリンは跨った。
イヴリンはすぐさま激しく腰をグラインドさせた。
膣が強く締まり俊介のモノが締め付けられる。
「うっ…」
突然イヴリンの身体にも強い電流が突き抜けた。
「あぁ、す、すごい…」
「ああ…イヴリン…す、すごくいい…」
「あっ、私もすごくいいわ…ああっ…あっ…」
第5話
イヴリンは俊介の上で腰を激しく上下動させ、ついには絶頂を極めた後、身体を前屈させ俊介に唇を求めた。
(チュッ…)
「イッたみたいだね」
「うん、すごくよかったわ…あ、でも…」
「ん、なに?」
「でもね、体位を変えてもう1回したいの。俊介に正常位で抱きしめられて…もう1回イキたいの…」
「そうなんだ。よし、もう一度イかせてあげよう」
「俊介だってまだイッてないし」
「うん、オレもついでにイこうかな」
俊介はそうつぶやくと、おもむろに体勢を入替えイヴリンの上に乗り、怒張したものをイヴリンの狭い隙間に突き立てた。
イヴリンは身体を開き俊介のものを迎える。
イヴリンの口元から甘い吐息が漏れる。
俊介の腰のピッチが次第に加速していく。
ふたつの肉体が1つに融合していくような、そんな錯覚をイヴリンは覚えた。
先のセックスで既に熟していた実が落ちるのに多くの時間を要しなかった。
「いやぁ~~!俊介~、あっあっあっ!もうダメ!わたしイッちゃう~~!」
シーツを鷲づかみにしていたイヴリンは、さらには俊介の頭に手を宛がい彼の髪を掻きむしった。
「あぁ、オレもうイクかも…ううっ…」
「イッて、イッて、イッてぇ~、ああぁ~ん、わたしもイッちゃう~~~!」
「オレもうガマンできない!イッちゃうよ…ああ…あああ…」
俊介が果てる頃、イヴリンは突然ジェットコースターが急降下するような心持になっていた。
いっしょに極める歓び…それは愛し合うふたりだけが手にすることのできる快楽特急の乗車券といえるだろう。
イヴリンは俊介に抱かれたまま身動きひとつしなかった。
眼を閉じて、今し方通り過ぎて行った悦楽の風にまどろんでいるようだった。
俊介はイヴリンの頬にくちづけをした。
閉じた窓の外ではすでに夜のとばりが降りていた。
止まっていた時間が再び動き出したような気がした。
「イヴリン、明日はクリスマスイヴだね。プレゼントを持って君の家に行ってもいいかな?」
そんな俊介の言葉にイヴリンはにっこり笑って肯いた。
「ありがとう、俊介、すごく嬉しいわ。待ってるわ。」
「でも明日のスケジュールはだいじょうぶ?午前中は仕事でいっしょだけど。」
「そうね。午前中はCD収録のリハーサルだね。昼からはCMの撮影。夜の8時には帰れると思うの。」
「うん、じゃあ、夜行くね。」
イヴリンはニッコリと笑って肯いた。
昨年はクリスマス・ライヴがあったから、ふたりで祝えなかった。
今年は俊介と初めて、クリスマス・イヴを過ごせる。
イヴリンは帰り道まるで少女のように心がときめくのを覚えた。
俊介はイヴリンのマンションに向かう途中、駅前のデパートで買物をした。
まだまだギャラが多いとは言えない俊介だったが、せめてクリスマスぐらいはと、なけなしの金をはたいてプチダイヤのピアスとクリスマスケーキを買った。
(イヴリン、こんなもので喜んでくれるかな…)
ウィンドウを覗く俊介に微かな不安がよぎる。
(いや、金額なんかじゃない、ハートが大事なんだ。心のこもった贈物ならきっと喜んでくれるはずだ。)
デパートの店員は相手の女性の年齢や好みをしきりに尋ねてくる。
俊介はそれには答えず、飾りケースの端っこにあるスウィングタイプのピアスを選んだ。
クリスマスらしい赤と金のラッピングが嫌でもムードを盛り上げる。
(きっと喜んでくれるだろう。)
俊介は店員が手馴れた手つきでラッピングする光景を満足そうに見つめていた。
デパートを出たところに1軒の花屋があった。
(あ、そうだ!イヴリンに似合いそうな花を買っていこう…)
店頭にはすでにセットされたブーケがいくつか並んでいる。
ウィンドウを眺める俊介の目が一瞬止まった。
(あの花はなんて言うんだろう。きれいだなあ、まるでイヴリンみたいだ。)
「あのぉ…あの花は何という名前なの?」
エプロンをした花屋の娘が笑顔で答えた。
頬にこさえたニキビとあどけない仕草が実に初々しい。
「いらっしゃいませ。あれはクリスマス・ローズっていうんです。今の季節にピッタリですよ~。」
「うん、すごく可憐な花だね。」
「根にアルカロイド性物質を持っているところから、中世ヨーロッパでは、万病の薬や悪魔除けとして利用されていたんですよ。」
「へえ~、そうなんだ。縁起がいいんだね。じゃあ、それ貰うよ。」
「ありがとうございます!」
俊介はクリスマス・ローズとプレゼントを抱えてマンションへ急いだ。
時間は約束の午後8時だ。
だけどイヴリンはまだ帰ってなかった。
ドアの外でしばらく帰りを待ってみたが、一向に帰ってくる気配がなかった。
部屋の鍵は彼女から1本預かっていたので、入室することは可能であった。
しかし、いくら預かっているからと言っても、恋人の留守中に黙って入室することは躊躇われた。
そうは言っても他人の目もある。これ以上変な噂で雑誌に載るのも考えものだ。
(ここは入って待つのが最善の方法かも…)
そう考えた俊介は鍵穴に子鍵を挿し込んだ。
(ガチャリ…)
重い金属のドアが開いた。
当然だが部屋の中は真っ暗だ。
壁際にある電気のスイッチを入れた。
部屋は淡いピンク色を基調とした優しい色使いで統一されている。
俊介は靴を脱いで玄関の端に寄せた。
第6話へ