Shyrock作 |
第1話 何度も新幹線に乗っていると、時には意外な幸運に遭遇することもある。 それは、東京に出張した帰りの新幹線での出来事であった。 夕方5時頃、東京駅の新幹線ホームで、ドアが閉まる直前ギリギリに飛び乗った。 指定席は二人掛けの通路側、前から10列目だ。 8列目・・・9列目・・・ ここだ。 「!」 隣の窓際の席にはスーツ姿の女性が先に座っていた。 僕はその女性に軽く会釈をし、腰を掛けた。 女性は一見クールそうな印象があったが、意外にも笑顔で返してくれた。 その瞬間、かっと熱く燃えるような衝撃が身体を駆け抜けた。 後から考えると、その瞬間僕は恋に落ちていたように思う。 シャープな顔立ち、くっきりとした切れ長の涼しげな瞳、 大き過ぎる眼が嫌いな僕には、最も理想的な目元といえた。 髪は栗色でシャギーの入ったセミロング、歳は25才から27才と言ったところだろうか。 クリーム色のスーツに白のブラウス。 一見ビジネス風だ。 僕はサッカーの専門誌を広げはしたが、形良くそろえられた太腿がミニスカートから惜しげもなく露となった光景に目は釘付けになっていた。 形だけページはめくっていたが、心ここに在らずといったところだ。 新幹線が新横浜に滑り込んだ。 その頃、彼女は『25ans(ヴァンサンカン)』と言う女性雑誌を読んでいた。 雑誌名は以前付き合ってた女性から聞いたことがあるが、女性向けファッション雑誌であるということ以外 読んだことは一度もない。 (話がしたい・・・何の話題がいいだろうか?) 僕はとっさに思いついたことを、すぐに言葉にした。 「今から帰られるのですか?それともお仕事?」 彼女は雑誌から目を逸らし、こちらを見つめた。 まるで僕が話しかけるのを待っていたかのように思われた。 いや、単に退屈していただけかも知れないし、営業で培ってきた礼儀正しさかも知れない。 いずれにしても彼女はきっちりとこちらを向いて、気さくに言葉を返してきた。 「仕事なんです。明日は早朝から準備に掛からないといけないので、今夜は大阪に泊まるんです」 「そうなんですか。それは大変ですね」 「明日、新企画のファッションショーがあるんです」 「え?じゃあモデルさんなんですか?」 「いいえ~、滅相もありません。そんなこと言うとモデルさんに叱られますわ。私は広告関係の仕事をしているんです」 「へ~、そうなんだぁ。いやぁ、モデルさんだと言っても十分に通用しますよ」 「そんなぁ、ご冗談を。お上手ですのね、あは」 モデルみたいだ、と言われて怒る女性は先ずいない。 初め見たときは少しクールな印象であったが、にっこりと笑った表情がとても愛くるしくて人懐っこく感じられた。 通路の向うから売り子がやって来た。 「コーヒー飲みませんか?」 と彼女に尋ねた。 「ええ、いただきますわ」 僕は売り子からコーヒーを2つ買って、1つを彼女に渡した。 彼女はすぐさま鞄から小銭入れを出したが、「お茶ぐらいは」と言って彼女が支払うのを制した。 僕は簡単に自己紹介をしながら名刺を差し出すと、意外なことに彼女も同様に名刺を返してきた。 まるで仕事のようだが、積極的に自らの身分を明かすことは相手方に信頼感を与える。 第2話 慎重な女性、警戒心の強い女性を口説くためには、名刺を渡すことも1つの手段だ。 もちろん自分の身分を明らかにすることによるリスクもないではないが。 もらった名刺を見ると『株式会社○○広告社企画部 片桐絵梨佳』と記されていた。 ふたりは時が経つのを忘れるほどに話が弾み、大いに盛り上がった。 名古屋駅のホームを発車した頃、彼女から意外な言葉が飛び出した。 「大阪に着いたら食事をしようと思っているんですけど、もしよろしかったらごいっしょしていただけませんか?」 (なんと、頃を見計らってこちらから誘うと思っていたのに、彼女から誘ってきたではないか。『渡りに舟』とはまさにこのことだ) 新幹線が新大阪駅のホームに滑り込んだのは、ちょうど午後8時だった。 ふたりは直ぐにタクシーに乗込み、僕は運転手に行先を告げた。 「梅田へ向かってくれ」 店はどこにしようか。 やはり雰囲気のいい店を選ぶべきだろう。 フレンチだと少し畏まり過ぎの感があるし、いきなり居酒屋というのも考えものだ。 ここはホテルのラウンジあたりで食事というのが無難だろう。 夜景のきれいな超高層ホテルのラウンジであれば、女性を口説くためのシチュエーションとしては申し分ないだろう。 女性は雰囲気に弱いのだから。 ただし、女性を酔わせて落とすというやり方は下策である。 紳士はあくまで正攻法で攻める。 酒ではなく雰囲気に酔わせてしまえば、確率は断然アップする。 僕が嫌なら、向こうから食事を誘ってくるはずがない。 ベッドまでうまく誘えるかどうかはこちらの腕次第ということになる。 こんなチャンスは滅多に巡って来るものではない。 しかし焦りは禁物だ。下心を見せてしまうと、彼女のような気位の高い女性だとかわされてしまうこともある。 夜景を眺めながらカクテルグラスをゆっくりと傾ける。 気障な台詞、臭い台詞も、時と場合によれば効果を発揮する。 「今日のふたりの出会いに乾杯。こんなきれいな人が偶然にも新幹線の隣の席になるなんて・・・僕はなんて幸運なんだろう」 話題は彼女が明日取り仕切るファッションショーのことや広告業界のことが中心となった。 1つの話題にとどまらず、どんどんと話を展開させていく。 やがて趣味の話題へと移っていった。 絵梨佳は最近茶道に凝っているという。 僕もかなり前になるが『裏千家』を嗜んだこともあったため、大いに話が弾んだ。 当時京都で茶会を行なった話を持ち出すと、興味深げに聞いていた。 かなり打解けて来た頃、思い切って恋愛について尋ねてみた。 「実はわたし・・・つい最近ふられちゃったんです」 絵梨佳は最近失恋したことを漏らした。 つまり傷心がまだ癒えていない状態での出張というわけであった。 (こりゃ話題が拙かったかなぁ・・・) 絵梨佳の気持ちを察して話を変えようとしたが、逆に彼女は恋愛について熱く語り始めた。 第3話 絵梨佳は僕に尋ねた。 「男が女と別れたいと思った時って、はっきりと別れを告げるものですか?それとも一切連絡もしないで自然消滅に任せてしまおうとしますか?」 「それはその男性次第だね。僕ならはっきりとさよならを告げるよ。中途半端にするのって嫌だもの。でもはっきりと言えない男性もきっといるだろうね」 僕は自分の考えを絵梨佳に述べた。 絵梨佳はうなづいて更に僕に尋ねた。 「失恋の後、未練たらしいのは男ですか?それとも女ですか?」 「男は過去を振り返る生き物で、女は未来に目を転じることのできる生き物だね。失恋の後、いつまでもじめじめと尾を引くのは男の方だよ。女性は失恋しても意外と早く気持ちの切り替えができるものなんだよ」 「やっぱりそうなんですね。私、彼と別れたけど、いつまでもくよくよしていないで次の恋を探さなくっちゃって思っているんです。過ぎ去ったことを悲しんでいても何も始まらないですからね」 「確かにそのとおりだね。それでいいと思うよ。でもね、男の場合はそう簡単に頭の切り替えができないものなんだよね」 「そうなんですか・・・」 絵梨佳はいつのまにかカクテルを数杯空けて、ほのかに頬に紅が差していた。 でもかなり強いのだろう。 呂律もはっきりしてて全く酔っていない様子だ。 熱のこもった会話もようやく一区切りした頃、絵梨佳はぽつりとつぶやいた。 「あっ、車山さん、もうこんな時間ですわ。帰りの電車だいじょうぶですか?」 「うん、大丈夫だよ。君のような美しい人といると帰りたくなくなってしまうよ。 帰っても冷たいベッドが待っているだけだし。もしよかったら君と朝まで飲みたいな?あ、でも君は明日朝早いものね」 「うふふ、私もホテルに戻っても退屈なだけだし・・・。もし良かったら、部屋に帰って飲み直しませんか?」 「いいの?」 「ええ。あ、でも狭いから広い部屋に変更してもらおうかな」 絵梨佳は悪戯っぽい目で微笑みを投げかけた。 予約していた部屋はシングルだったので、フロントに電話をしてツインに変更を申し出た。 幸い空室があったので容易に変更ができた。 エレベーターが動き出した。 絵梨佳の肩をやさしく寄せて、唇を求めた。 絵梨佳は拒まなかった。 彼女の身体から柑橘系のフレグランスの香りが漂っていた。 エレベーターは14階で停止した。 ルームキーを廻す瞬間、微かな緊張が漂った。 部屋を空けた瞬間、正面の窓から美しい夜景が目に飛び込んできた。 「まあ、広い部屋ね。夜景もすごくきれいだし」 僕は絵梨佳を抱き寄せてエレベーターの中よりも濃厚なキスをした。 絵梨佳は全く抵抗しない。 しばらくすると、驚いたことに絵梨佳は突然しくしくと泣き出した。 第4話 「どうしたの?」 「私、私、寂しいんです・・・今夜だけでいいから私を愛してくれませんか。あなたのことはあえて聞かない、恋人がいるのとか、いないとかは・・・でも、今夜だけ、今夜だけでいいから私を恋人にしてください・・・お願いします・・・」 僕は絵梨佳の憂いに満ちた瞳を見つめ、黙って肯いた。 ふたりはその後ソファに崩れるように倒れこんだ。 どちらからともなく舌を絡め合っていた。 絵梨佳の首筋にキスの雨を降らせた。 それにしてもきれいな肌の女だ。 僕は肌のきれいな女には滅法弱い。 もし「肌フェチ」という言葉があるならば、ずばり僕はそれに当てはまるだろう。 それほど僕は女性の肌への意識が高かった。 無意識のうちにブラウスのボタンに手が掛かっていた。 ボタンをふたつ外したとき、ゴージャスな白いレースの布地が見えた。 ブラジャーのホックは外さず、着けたまま乳房に指を忍ばせた。 胸は大きくもなく小さくもなく適度な大きさといえた。 ストラップを肩から外し、カップから溢れ出た乳房を優しく揉みほぐした。 ゴムマリのような弾力感が指に伝わってきた。 「あ・・・」 絵梨佳の口元からかすかな吐息が漏れた。 乳首を軽く吸ってみた。 舌先で転がしてみると、絵梨佳はビクンと大きな反応を示した。 短めのタイトスカートはすでに少しまくれ上がり太股があらわになっている。 スカートの中にゆっくりと手を差し込んだ。 覗き込むとほの白い太股の奥に純白のショーツがチラリと見えた。 パンストを少しずらして、純白の生地の上をいとおしむように満遍なく撫でてみた。 でも決して花園へは急がない。 美味しいご馳走は後からゆっくりといただく。 その方が食される側の女性も燃え上がるものなのだ。 腹部や尻を丹念に撫で、脚の付け根辺りをゆっくりとまさぐる。 恥丘の辺りへと指を移し、次なる期待をいだかせる。 でもまだまだ花園に迫ってはいけない。 できるだけ焦らす方が効果的なのだ。 本丸に迫りそうでなかなか迫ってこない。 女性は次第に焦れてくる。焦れこそが最高の性感を生み出すものなのだ。 絵梨佳のクロッチにかすかだが染みが浮かんできた。 かなり感じているようだ。 息遣いも次第に荒くなってきた。 恥丘を充分に撫で終えた指は、花園の上辺へと向かう。 クロッチの湿った箇所よりわずか上の方を羽根がかするように撫でてみる。 この薄い布の向うにはとても敏感な木の実が潜んでいる。 まもなく絵梨佳はまるで火が点いたかのように腰をくねらせ始めた。 「あっ、あっ、そこはぁ・・・そこはぁ・・・」 「ん?ここがどうしたの?ここがどうしたの?」 「い、いじわるぅ・・・」 第5話 絵梨佳が感じると訴える部分を少し強めに押してみた。 「あぁ・・・」 布地の奥の方に丸くてこりこりしたが潜んでいる。 丸くてこりこりしたものを中心に、小さな円を描くように愛撫してみた。 「ああ・・ああっ・・・そこは・・・そこはぁ・・・あぁぁぁ・・・」 次第に声が切ないものへと変化していく。 かなり感じているようだ。 クリトリスへの愛撫をそそくさと切り上げて、指をスリットに忍ばせた。 「ああん、ああん、いやぁ~ん・・・そこはだめぇ・・・」 女性とベッドを共にしたときにつぶやく「いや」という言葉ほど曖昧な言葉はない。 いやむしろ真に拒否を示すことの方が少ない。 ショーツをゆっくりと下ろした。 女性特有の甘ったるい香りが漂って来た。 うっすらと茂った草むらの向うに亀裂が走り、すでに蜜はたっぷりと湛えている。 亀裂にそっと舌先を当ててみた。 チロチロと舐めてみる。 決して強くはなく、やさしくそして滑らかに。 「そんなぁ~・・・いやん、いやん、もう、だめ、だめぇ~・・・」 舌先は亀裂の上辺に生った敏感な木の実を集中的に攻め立てた。 絵梨佳は苦しそうな声にならない声で喘いだ。 舌先のピッチをどんどんと速まっていく。 (ペチョペチョペチョ、ペチョペチョペチョ・・・) 舌先は指とは比べ物にならないくらい速くて繊細な動きを見せる。 蜜はふんだんに溢れ、微妙な箇所は軟体動物のように柔らかくなっている。 僕は絵梨佳の大腿部に手を副え左右に拡げた。 絵梨佳の頬は恥じらいのせいか紅色に染まっている。 いきり立ったものを亀裂にあてがい、腰を前面に押し出した。 (ズニュッ・・・) 絵梨佳の口から艶やかな吐息が漏れた。 僕の首に細い腕を巻きつけてきた。 亀裂を捉えた肉棒は容赦なく深く抉る。 一番奥に先端が当たる。 (グリグリグリ・・・) 「あうっ!あああ~~!いい~、それ、いい~~~!」 散々正常位で攻めた後、頃を見計らって、絵梨佳を起こし座位の態勢で突き上げた時、彼女は泣き叫ぶような声を漏らした。 やがて僕が仰向けになり、絵梨佳は馬上の踊り子となった。 ブリッジを効かし彼女を高く持ち上げては腹の力を抜き急に落下させる、僕の得意技ともいえる『スクリューエレベーター』で激しく絵梨佳を攻め立てる。 突然見舞われた奇抜な体位に絵梨佳は驚きを見せ、すでにメロメロ状態になっている。 それでも攻撃の手は緩めない。 高々と突き上げた秘裂に猛然と串刺しを見舞ったが、自身の発射が近いことを悟った僕は思わずピッチを速めた。 その頃万よく絵梨佳も絶頂を迎えようとしていた。 「もう、もうダメぇ~!イク!イク!イク!イクぅ~~~~~~~~!!」 すまし顔で雑誌を読んでいた絵梨佳の表情からは想像もできないほどの乱れようだ。 いかに淑女であってもベッドでは淫らに変わるもの。 よい女ほどその落差が大きいように思う。 いや、女は昼の顔と夜の顔、二つを併せ持つ生き物なのかも知れない。 とは言っても真の絵梨佳の姿を知っている訳ではないのだが、少なくとも新幹線での彼女の礼儀正しさから、ついそんなことを考えてしまった。 絵梨佳はシーツに包まってぼんやりと天井を眺めていた。 僕はポツリとつぶやいた。 「すごく良かったよ・・・」 第6話 絵梨佳も喜悦の表情で、 「私も・・・すごくよかったわ・・・」 とつぶやいたまでは良かったが、すぐに、 「うふ、でも何人の女性にその台詞を言ったのかな?」 「え?」 「な~んてことを、終わったあと直ぐに囁くような女って可愛くないわね、うふふ」 そう言いながら悪戯っぽく微笑んだ。 「そうかもね。女は無邪気・・・いや、無邪気に見せるという演技って時には必要かもね」 「無邪気?そうねぇ、私にとってはもう忘れかけていた言葉かも知れないわ」 「満更そうでもないのでは?」 「ねえねえ、男ってやっぱり賢い女が好き?それともそうでない女の方が可愛い?」 「そりゃあ賢いに越したことはないよ。でもね、『私は利口な女よ』って賢さを表に出す女よりも、賢さを内に秘めた女の方がより一層魅力的じゃないかなあ」 「あ、そういうものなんだ。それなら私はどちらでもない!」 「どうして?」 「だって、お馬鹿だもの」 「はっはっはっはっはっはっは~!本当に馬鹿なら自分のことを馬鹿とは言わないものさ。君は利口なのさ。新幹線の中であれだけ話をすればそれくらいは僕にだって分かるさ。ところで、何か飲むかい?」 「うん、もうお酒は要らないわ。それよりも・・・」 そういって絵梨佳は僕の大人しくなったモノにそっと触れて来た。 「おっとっと!まだ、無理だよ。いくら何でもそんなすぐにレンチャンなんて。無理無理!もうちょっと待ってよ~」 「うふふ・・・そうでもないわ。ほら、触っていたらもうこんなになって来たじゃないの」 絵梨佳の言葉どおり僕のモノは絵梨佳の手のひらの中で早くも硬くなり始めていた。 僕は再び絵梨佳を抱きしめた。 (この女とは一夜限りになるのかなぁ・・・一夜限りにはしたくない女だなぁ・・・) まもなく僕は絵梨佳を攻めようとしたが、絵梨佳は先程のマグロ女ぶりと打って変わって、反対に積極的に挑んできた。 絵梨佳の口の使い方も見事なもので、危うくの彼女の口内で果てそうになった。 30代ともなれば、20代の時のように、振ればいくらでも出る【うちでの小槌】というような訳にはいかない。 無理すれば一晩5回程度は可能であろうが、心底楽しめるのはせいぜい3回くらいだろう。 毎日会える彼女ならば、乱打戦のようなセックスも悪くはないのだが、今は違う。 行きずりで出会った女。 当然ながらフィニッシュは絵梨佳の中で果てたい。 もちろん余計なものを装着しなければならないのは若干煩わしくはあるが。 しかし、お互いに最悪の結果だけは招いてはならない。 真剣な恋であっても、一夜限りの火遊びであっても、女性に傷をつけることだけは絶対に避けなければならない。 第7話 第2ラウンドが終了した頃、激しい睡魔が襲って来た。 絵梨佳もかなり疲れているようだ。 わずか2ラウンドと言っても、時間をたっぷりと掛け濃密なセックスを行った後だから疲れ果てて当然である。 ふたりはいつしか深い眠りについていた。 突然、けたたましい目覚まし時計の音に、夢間から現実に呼び戻された。 横で眠っていた絵梨佳も同時に飛び起きた。 できればもう1ラウンドこなしたいところだが、絵梨佳が仕事なのでそういう訳にもいかない。 後ろ髪を引かれる思いで絵梨佳が洗面所に向かうの姿を眺めていた。 絵梨佳はシャワーを浴び、身支度を整えている。 僕も仕方なく着替えを済ませ、絵梨佳とともに朝食バイキングへと向かった。 2人は窓際の席に腰を掛けた。 絵梨佳は意味深な笑みを投げかけた。 「ありがとう、楽しかったわ」 「僕こそ」 「お陰で今日は1日がんばれそうよ」 「ははは、それは良かった。でもかなり寝不足では?」 「まあね。でも心地よい余韻が残っててとてもいい感じ」 「へえ、男よりも長持ちするんだなあ」 「そりゃそうよ、女はすぐにトーンダウンしちゃう男と身体の造りが違うもの」 「そりゃそうだろうけど、それにしてもまだ余韻が残っているとは」 「あは、あなたのリードが良かったからよ」 「そうなの?ははははは~」 絵梨佳は皿のクロワッサンにバターを塗っている。 「でも今日は僕だけ休みで悪いね。君は仕事なのに」 「土曜日だしね。ねえ、ねえ」 「ん?」 「私たちのようなこんな出会いを一期一会って言うのよね?」 「そうだね」 「人と人との出会いは生涯でたった一度限りの大切なもの、と言う意味だって聞いたことがあるわ」 「うん、元は茶会から生まれた言葉らしいね。それにしても行きずりでこんな素敵な人と出会えたなんて、僕は何て幸運なんだろう」 「あは、そんなお世辞を」 「お世辞じゃないよ」 「ねえ?」 「ん?なに」 「また会う?」 絵梨佳は真剣な眼差しで僕を見つめた。 「いや、もう会うのはよそう。これっきりがいいのさ」 「ふ~ん、待っている人がいるとか?」 「いないよ」 「そうなの?いいわ・・・詮索はしないから」 絵梨佳は笑いながらクロワッサンを頬ばった。 恋は突然訪れることもあるし、突然去ることもある。 人の出会いと言うものはまことに不思議なものだ。 僕は冬の冷気の中で大きく息をして、ひとり落葉の御堂筋を歩いていた。 土曜日ということもあり普段と違って人通りは少なくいっそう寒く感じられた。 黒い手提げ鞄を持ちビジネス街を歩く姿は、誰が見ても今から仕事に就くサラリーマンにしか見えないだろう。 そんな時ふと柑橘系のフレグランスの残り香が漂った。 完 <参照> ヴァンサンカンとは? vingt-cinq ans = 25ans - フランス語で「25歳」の意味 |