郊外の農学部の農場は桜が美しいという噂だった。
数百本の桜が山に向かって植えてあるらしい。
遠くから見ると桜色の絨毯を敷き詰めたようだと友人から聞いた。
僕は買ったばかりの中型バイクを走らせて見に行った。
僕にとって十代最後の春、人が誰もいない場所でただ純粋に桜が見たい。
一時間後、僕は桜の林の中に入り込んでいた。
噂どおり誰もいない。
奧に入っていくと桜の世界に入り込んだ。
満開の桜がかすかな春風に静かに散っていく風景に囲まれた。
都会の喧騒を離れ、ピンク色の花びらが幻想的に舞うように散っていく。

桜色の風景の奧に僕は人影を二つ見た。
木に寄り掛かるようにして抱擁している二人。
男は女を木に押しつけるようにして抱いていた。
二人の顔がよく見えないが若い。
二人はじっと抱き合ってただキスを重ねていた。
時間が止まったように動かない。
男は長身で、女は髪が長い。
黒っぽい男の服が桜の木の幹のように見え、女の白っぽい服が桜の花びらの色とよく似ていた。
春の明るい光の中で、全ての桜が二人のためにだけ咲いているようだ。
桜の花が時間の止まった二人の上にはらはらと散っていく。
観客は僕と桜と春の光だけだ。

僕は桜の太い幹に隠れるようにもう一度その二人を見た。
女の顔がちらりと見えた。
一瞬息が止まりそうになった。
それは恋人のありさに似ていたからだ。
彼女でないことを願いながら、もう一度目を凝らした。
間違いなく女はありさであった。
僕は呆然と立ち尽くしていた。

どれだけの時間が過ぎたろうか、いつのまにかありさの膝丈スカートを男がめくっていた。
ありさは大して抵抗する素振りも見せず身を任せている。
ありさの太股が少しずつあらわになっていくのが分かる。
桜の幹に隠れて良く見えないが、スカートの青色と比べて、太股の白さ、なまめかしさに僕は目を奪われた。
桜のピンクと青いスカートと白い肌がよく調和していると思った。
ありさの美しさを傍観者として見ている自分がひどく悲しかった。

男の手が腰の辺りまで入り込んだのだろうか、男がひざまずく。
何かを脱がす。
そしてスカートの陰に隠れながら、何かが下に降りてくる。
途中まで来るとありさが自分からそれを脱ぐ。
しゃがむようにして靴を片方ずつ脱いで脚を上げる。
それを取り去る。
ありさがそれを桜の花びらの海に軽く投げる。
一瞬大きな白い花びらのように見えた。
真っ白い下着。
白は薄いピンクの風景の中で、一段と純粋さを示す色だ。

ありさは桜の太い幹を背にしたまま男とじっと見つめあった。
スカートが自然と下がり、最初のようになった。
でもありさは下着をつけていない。
僕は知っている。
男はありさのスカートを今度は前からめくった。
ありさの手が軽く制するが形だけの抵抗だ。
よくは見えないが、スカートを上までたくし上げられると、人に見せない太股の奧の方とありさの白い下腹部のなまめかしい白色が一瞬僕の目に焼き付いた。
木漏れ日が作る影なのか、スカートの影なのか、女の陰なのか、下腹部が色濃くなっている。
スカートをたくし上げたまま、男がひざまづいた。
ただそこをじっと見る。
春の明るい光がありさの陰をくっきりと見せているはずだが僕の場所からは見えない。
ありさの下腹部に男は顔を近づける。
ありさがいやがるように手で前を隠す。
その匂いをかがれたり舐められるのは、僕の時のように恥ずかしいのだろうか。 
男はそんなことはお構いなく、ありさの手をどけると脚をすこし開かせた。
顔を近づけた。
でも僕にはもう見えない。
青いスカートが降りてきて男の顔を隠してしまったから。
しゃがんだ男はスカートの中に顔と手を入れている。
青いスカートが二人だけの秘密のことを周りに教えようとしない。
男の頭の動きなのかスカートが膨らむように動く。
男はスカートの中で動いているが、想像の域を出ない。
ありさが倒れそうになり、我慢できないように、太い桜の幹に背を押しつけ、もたれ掛かる。
青いスカートの裾の揺れと男の頭の膨らみが激しくなる。
ありさがあごを上げて首を振る。
ありさの長い髪が揺れる。
ありさの腰が自然と桜の幹に押しつけられて、何かに耐えているようだ。

急に男が立ち上がった。
ありさを桜の太い幹に押しつけながら、横向きに再び抱く。
長い髪をかき分けながら、男がありさの横顔にキスをしている。
右手がスカートの奧に入っている。
スカートがその部分だけめくれているが、男の右手で良く見えない。
青いスカートの中で男の右手がありさを愛していることは間違いない。
愛が深まっていき気持ちが解け合うようにして二人の身体が重なり、桜の花びらの海に倒れていく。
満開の桜の花が二人の愛を祝福するようにずっとずっと降り続けている。










ありさ







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