Shyrock作
私は俊介が来るのを待っていた。
週末の夜、残業を終えた彼が私の部屋にやって来る。
掃除も食事の用意もできた。
初めて部屋に来る彼はたぶん「そのつもり」で来る。
私は誰が使ったか分からないホテルは嫌だと彼に言ったことがある。
部屋の食事に誘ったことは、俊介との初めてを迎えたいという暗黙のサインなの。
私は今までのベットのシーツを外す。
買ったばかりの新品のシーツを広げる。
ほのかに薄いピンク色のシーツが、部屋のカーテンによく似合う。
パリッと糊の効いたシーツから真新しい衣類のような香りが漂って来る。
私は彼に対してはバージン。
この真新しいシーツのような気持ち。
自室のベットとはいえ、俊介との初めての夜はやはり緊張する。
私はシーツを両手で引っ張ってピンと伸ばす。
薄いピンク色の海がベットに広がる。
そう、このピンクの狭い海で彼とふたりで泳ぐの。
朝までくっついたまま泳ぐの。
そしてピンクの海の中で、生まれたままの姿の私と彼がお互いを求めて愛し合う。
それだけで幸せ。
彼に全てを委ねたい。
彼の熱い求愛の波を受け入れたい。
きっと素敵な波。
二十二歳の私にはその波が予測できた。
ふたりで作り出す波の素晴らしさを……
愛しい彼だから余計に期待で心が高鳴る。
もちろん愛している人とならどんな波でも良かったけれど。
私はシーツの1ヵ所を右手でぎゅっと握った。
しわがそこだけ寄る。
私はあの瞬間そうする癖を知っている。
ぐ~っと持ち上げられるような大きな波が押し寄せる時にそうして耐えるのだ。
後から恥ずかしくなるくらい声を上げてしまう癖も知っている。
きっと俊介に対してもそうしてしまうだろう。
そんな予感がした。
最初の夜から淫らだけれど、もう想像の中では何度も俊介に抱かれてきた。
さっき取り外したベットシーツはその姿を何度も見てきたのだ。
シーツにしわを寄せながら夢の中の俊介が私の身体をまさぐった。
それは最近毎晩のこと……
いけないと思いつつも、俊介のことを思うとそうしないと落ち着かないの。
だから彼とそのシーツの上で泳ぐというのはとても恥ずかしかった。
だから外した。
私はもう一度ピンと両手でシーツを広げて伸ばす。
新品の衣類のようないい香りがする。
明日の朝、シーツにはふたりが様々に泳いだ結果として、大きなしわがくしゃくしゃと残っているだろう。
私はそんな光景を思い描いて、ひとり頬をほんのりと赤く染めた。
完
野々宮ありさ
自作小説トップ
トップページ