第30話  “ゴンドラ・キス”

 ローターは停止したが、一度昇りつめた肉体の昂りはたやすくは冷めないもの。
 女性の絶頂からの下降線には二種類あり、緩やかなカーブを描きゆっくりと下降していく女性と、小さな波を何度も繰り返しながら冷めていく女性に大別できる。
 ありさの場合あきらかに後者であった。
 ただし今回はセックスは行わずローターによるクリトリス攻めだけなので、オーガズム自体昨夜のような強烈さはなかった。
 とは言え園内という特殊性もあり、ベッドとは一味違った独特の余韻がありさを支配していた。

「ありさちゃん、だいじょうぶ?」
「うん、だいじょうぶ……でもまだ身体がジンジンしてるぅ☆★☆」
「ビショビショになったのでは?」
「えへへ、パンツ穿き替えなくちゃ。それはそうとどうして午前中だけでローターを三回使っちゃったの?☆★☆」
「一日掛けて三回をうまく分散した方がスリルがあっていいかも知れないけど、考えてみればせっかくのたまのデートなのにローターばかり気になってゆっくりと楽しめないと言うのもどうかと思ってね。それならばいっそローターを早く終わっちゃえと思ったわけ」
「う~ん、深い!っていうかシャイさんの愛を感じるな~☆★☆」
「でもローターサプライズが無くなったから少し物足らないのでは?」
「うん、正直少し気が抜けた感はあるけど、エッチモードは夜に取っておいて、昼間は純粋にシー本来の楽しみ方で過ごすのもいいよね♪☆★☆」
「ははは~、そう言ってくれてホッとしたよ。でもその代わり夜はありさちゃんが『もうダメ』と言うまで徹底的にいじめてあげるからね」

 ありさは右手を広げ左右に振った。

「ノンノンノン~♪今夜はありさがシャイさんに『ギブアップ』って言わせてあげるから覚悟おいてね~☆★☆」
「おお、強気っ!そう言っておきながら夕飯食べ終わったらグーグー寝ちゃったりして?」
「久しぶりのお泊りデートなのにそんなもったいないこと絶対にしないよ~☆★☆」
「じゃあ僕もがんばるぞ」
「でも一つだけ希望を言うと、ローター無しでずっとシャイさんの口がいいな~♪☆★☆」
「オーケー!それにしてもディズニーでこんなエロ話をしながら歩いているカップルってほかにあまりいないだろうね」
「それは甘いかも。エッチ話してるカップル結構多いらしいよ~。特に女子はエッチ話好きな子多いし☆★☆」
「ありさちゃんがいい見本だよね」
「これでもありさは真面目な方だよ。シャイさんがエッチだから話を合わせているだけで☆★☆」
「全然真実味がないなあ」
「もう~何よ~!プンプン!☆★☆」

◇◇◇

 その後四つのアトラクションをこなし、メディテレーニアンハーバーに着いた頃は陽が西に傾いていた。
 今回シーでありさが最も楽しみにしていたアトラクション『ヴェネツィアン・ゴンドラ』を一番最後にとっておいたのだ。
『ヴェネツィアン・ゴンドラ』は、五つの橋を通りながら、イタリアの街並みをゴンドラで巡るボートタイプのアトラクションで、ゴンドラは船首と船尾にいるゴンドリエが人力で漕いでくれる。所要時間は十二分で十六人乗りとこじんまりした乗り物だ。

「Buona sera!(ボナセーラ)」

 乗船時女性のゴンドリエがありさたちに挨拶を交わしてきた。

「Buona sera! Signorina!(ボナセーラ・スィニョリーナ)」

 シャイが笑顔で答える。

「ありさにもイタリア語教えてよ☆★☆」
「じゃあ Ciao!(チャオ)と Grazie(グラッツェ)」
「『チャオ』ってCMでも聞くけどどんな意味?☆★☆」
「軽い挨拶で『やあ』と言う感じ。会った時にも別れる時にも使えて便利だよ。Grazieは『ありがとう』」
「へ~、チャオ、チャオ~♪☆★☆」
「うん、発音いいよ」

 水面にネオンが映りロマンチックな雰囲気の中でゴンドラは静かに進んでいく。
 アトラクションが終盤に差し掛かった頃、ゴンドリエがバースデーソングを歌い出した。
 メロディはおなじみの『Happy Birthday to You』だが歌詞はイタリア語だ。

『Tanti auguri a te (タンティ アウグーリ アッテ)
 Tanti auguri a te (タンティ アウグーリ アッテ)
 Tanti auguri a te Arisa(タンティ アウグーリ ア アリサ)
 Tanti auguri a te (タンティ アウグーリ アッテ)』

「えっ!?『アリサ』ってもしかしてわたし??☆★☆」
「もちろんありさちゃんだよ」
「きゃっ……!嬉しい~~~♪☆★☆」

 乗船しているゲストたちもいっしょに手拍子で祝ってくれている。

「皆さん……ありがとうございます……☆★☆」

 ありさが知らないうちに、シャイがゴンドリエにありさが誕生日であることを伝えていたのだろう。
 ありさは感激のあまり瞳を潤ませた。
 そして目立たないように小指に光るノノスのリングを見つめた。

(シャイさん……ありがとう……こんなに嬉しい誕生日は初めてだよ……☆★☆)

 拍手喝采が巻き起こる。
 ありさはもう一度ゲストたちに向かって深々とお辞儀をした。

 歌がリフレインして終わると、ゴンドリエがまもなく差し掛かる橋について説明を始めた。
 五つ目の橋『ポンテ・デイ・ベンヴェヌーティー』を通過するとき、願い事をすると叶うと言われている。

 ありさは両手の指を組み合わせ祈りを捧げた。

「ありさちゃん、何を祈ってるの?」
「うふふ、ナイショ……☆★☆」
「ありさちゃん、こっちを向いて」
「えっ……?もしかして……キス……!?☆★☆」

 ありさはシャイに言われたとおりにした。

(ゴンドラでこんなことをしてもいいのだろうか?ディズニーと言ってもここは日本じゃない!?☆★☆)

 ありさは恐る恐る周囲の様子をうかがった。
 ゴンドリエは自然な表情で見守っている。
 ゲストたちも微笑ましく二人を見つめてる。

(きゃっ……何だろうこの感覚、胸の奥がワクワクする!☆★☆)

 沢山の人に見つめられる中、シャイはありさにキスをした。
 数秒後、ゴンドラは大きな喝采に包まれた。

「皆さん、ありがとうございます!」
「感激です!皆さんの温かさは一生忘れません。ありがとうございます♪☆★☆」

 ありさはぴょこんと一礼した。

「シャイさん、ありがとう……☆★☆」

 かくしてディズニーシー最終日の夜は、しあわせ色に染まりながら静かに更けていった。






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