第9話 “ピンキーリング”

「シャイさん?ありさ、おなか空いてきた~☆★☆」
「ぼちぼち戻ろうか」
「夕食はホテルで?☆★☆」
「うん、予約してる」
「さすが!手回しがいいね~。どんなお店?☆★☆」
「地中海料理なんだ」
「わ~い、楽しみだな~♪☆★☆」

 ホテルに戻る頃は夜の帳が降り、ネオンや街灯が異国情緒を漂わせていた。
 日没直後のブルーモーメントに染まった空は息を飲むほどに美しく、幻想的な藍色の空を眺めていたくなる。

◇◇◇

 レストランへは予約時間の午後七時よりも二十分早く到着した。

「いらしゃいませ。お待ちしておりました」

 ウェイターの案内で店内へと入っていく。
 店は海底をイメージしているようで、壁には魚群が描かれ、所々に海草が揺らめくようなモニュメントが置いてある。
 簡単に言うなら海底庭園と言った風情だ。

「へ~、まるで海の底みたいだね」
「海藻がゆらゆら揺れてる~☆★☆」

 二人が案内されたのはディズニーシーの園内が見渡せるテラス席だった。

「この場所からだと八時からファンタズミックがご覧になれます」
「わっ!ここからファンタズミックが見れるのね!ラッキー~~~♪☆★☆」
「ファンタズミックって確かディズニーのショーだね?」
「うん、世界中のディズニーパークで公演されているショーだよ☆★☆沢山のディズニーキャラクターが出演するし、レーザー光線や花火がすごいの☆★☆あぁん、シャイさん、気の利いたレストランに連れてきてくれてありがとう~♪☆★☆」
「いいえ、どういたしまして」

◇◇◇

 食事が進みメインディッシュの皿を下げに来たウェイターが、シャイに目配せをしたがありさは気付いていない。

「ではご用意しますね」
「うん、頼むよ」
「……?☆★☆」

 ウェイターが手にしているのはポラロイドカメラであった。
 そして横にはウェイトレスが運んできたワゴンにはケーキとフォトフレームが乗っている。
 ケーキは二枚のチョコレートがミッキーの耳のようにトッピングされているアニバーサリーケーキである。

「きゃぁ~~~、ミッキーだ~!かわいい~~~~~♪☆★☆」

 一枚のチョコレートには「Happy Birthday」と描かれ、もう一枚には「ARISA」と描かれている。
 ウェイターとウェイトレスが「Happy Birthday」を歌い出した。
 ありさは満面の笑みを浮かべ一本のローソクを吹き消した。

「おめでとうございます!」
「ありさちゃん、おめでとう~!」

 別のテーブルの人々までがありさに拍手を送り「おめでとう」の温かい言葉をかけてくれる。

「皆さん、ありがとうございます~♪☆★☆」

 周囲にお辞儀をした後、ミッキーケーキに入刀するありさ。
 ポラロイドカメラのフラッシュが光る。
 ありさが両手でハートポーズをするのを見たシャイは、真似をして下手なハートを描く。

「あははははは~~~!今日は最高だよ~~~!☆★☆」
「実はまだいいものがあるんだよ」
「えっ?なに?☆★☆」

 シャイはギフトボックスをありさに手渡した。

「開けてみて」
「ええっ!?なんだろう……ワクワクする~……☆★☆」

 ありさはリボンを解き箱を開けた。

「きゃっ!ノノスのピンキーリングじゃない!すごくかわいい~~~。ありがとう、シャイさん♪☆★☆」
「直感で四号を買ったんだけどサイズいけるかな?付けてみて」
「え~~~っ!?ありさ、小指は四号だよ~。でもなんでサイズが分かったの?☆★☆」
「だって前回会ったとき、手を握ったじゃないか」
「手を握っただけ指輪のサイズを当てるなんて☆★☆」
「感触でだいたい分かるんだ」
「すごいな~、シャイさん、女子の肉体博士だね~☆★☆」
「それってまるで僕がエロおやじみたいじゃん……」
「あれれ?違った?☆★☆」
「酷いな~ありさちゃんは。ははははは~~~」
「あははははは~~~☆★☆あぁ、でも嬉しいな~~~♪☆★☆」

 爽やかなシャンパンと美味な料理に舌つづみを打ち、苺クリームたっぷりのミッキーケーキにとろけ、まもなく開演する幻想ショーに酔いしれ、そして大好きな人が楽しい会話を交わす。
 ありさはしばし至福の一時に浸りながら、心の中で「この幸せがいつまでも続きますように」とそっと星に祈った。

 メディテレーニアンハーバーで壮大で華やかに繰り広げられる水と光のショー・ファンタズミックは息もつかせぬテンポで展開されあっと言う間に終了し、気がつくと時計の針は八時二十分を指していた。
 まるで違う次元に飛ばされてしまったような錯覚に陥ったありさはしばらく呆然としていた。

「すごい迫力だったね。あれ?どうしたの?ぼ~っとして」
「まだ興奮が醒めないの。身体がジンジンしてる感じ……☆★☆」
「残念だけど、そのジンジンは今夜ずっと治らないよ」
「このジンジン、今夜ずっと続くの?きゃぁ~~~やっぱりエロおやじ~~~☆★☆」
「その言葉は僕にとって賞賛の言葉かも」
「何か都合のいいようにとるね~。うふっ、でもワクワクしてきた~~~☆★☆」
「でも風呂から上がったらバタンキューかも」
「それは絶対にダメ~~~!☆★☆」
「おお、こわっ!」

 食事とショーを見終えたありさたちは上機嫌でレストランを後にした。
 他の客たちも一斉に席を立ちレジーへと急ぐ。多くの人がファンタズミック観賞を目的として入店したのだろう。

 エントランスホールでエレベーターを待つ間、指を見つめ満足の笑みを浮かべるありさ。
 小指にはシャイからプレゼントされたピンキーリングが輝いている。
 シャイに指輪を見せて無邪気はしゃぐ姿が実に微笑ましい。

「シャイさん。ありさ嬉しいよ~☆★☆」
「リングだいじょうぶ?大き過ぎない?ちゃんと填まってる?」
「うん、ぴったり填まってるよ~☆★☆は・ま・る……?いやぁ~~~ん、エッチ~~~☆★☆」
「おいおい、自分から言っておいておいてよく言うよ。それにしても、ありさちゃんは想像が豊かだね」
「あははは~、ただしあっち方面の想像だけね☆★☆」
「はいはい、まいりました。ははははは~、さあ、エレベーターが来たよ。乗るよ」
「は~い☆★☆」


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