官能舞妓物語






長屋


第五章 路地裏の愛

 そして日曜日。ありさは浴衣姿に薄化粧と言う言わば普段着で蛸薬師へ向った。
 俊介に会える。好きな人に会える。ありさはそう思うだけで、胸が張り裂けそうなほどときめいた。
 路地を曲がると子供たちが楽しそうに石けりをしている。
 順番を待っている男の子に下宿の『百楽荘』がどこかと尋ねると、すぐに指を差し教えてくれた。
 2~3軒向うにある木造二階建の建物らしい。

「ありささ~ん、こっちだよ~!」

 待ち侘びていたのであろう。二階の窓から俊介が手招きをしていた。

「あ、本村はん、こんにちわぁ~、お待ちどしたか?」
「ああ、待ちくたびれたよ~」
「まあ」
「ちょっと待って。すぐに下に降りるから」

 まもなく、ありさの目の前に愛しい男の顔が現れた。

「よく来てくれたね。かなり探したんじゃないですか?」
「いいえ~、すぐに分かりましたぇ~」

 俊介に誘われて下宿に入ろうとした時、ありさは子供たちの遊ぶ姿を眺めながらにっこり笑って呟いた。

「懐かしいわぁ~、うち最後にケンパやったん、いつやったやろか・・・」
「ケンパ?」
「あれ?本村はん、ケンパ知りまへんのんかぁ?」
「石けりじゃないの?」
「うちとこ(私のところ)では、ケンパゆ~んどすぇ。何でかゆ~と、片足でケンケンして、両足でパッとつくから『ケンパ』ゆ~んどすぅ~」
「はっはっは~、なるほど。動作が語源になったんだね~」

「さあ、狭いけどどうぞ。ここが僕の下宿だよ」  
「おじゃまさんどす~、ほな、上がらせてもらいますぇ」

 俊介の部屋は6畳ほどあるのだろうが、驚くほど書物が多いため4畳半くらいにしか見えなかった。
 だが、ありさの訪問に気を遣って片付けたのか、整理整頓はよく行き届いていた。

「お茶を入れるから座っててね」
「やあ~、ごっつい本の数やわぁ~、本村はん、ほんまに勉強家なんやなぁ~」
「そんなことないよ。それはそうとその『本村はん』て苗字で呼ぶのやめてくれないかな?俊介でいいよ」
「お名前で呼んでもよろしおすんかぁ?」
「うん、僕だってありささんって呼んでるだろう?」
「あのぅ・・・」
「なんだい?」
「あのぅ、俊介はん・・・」
「どうしたの?」
「うちのこと、『ありさ』て呼び捨てに呼んでくれはらしまへん?」
「うん、いいよ・・・。ありさ・・・」
「やぁ~、嬉しおすわぁ~」

「ありさ・・・、君のこと好きだよ・・・」
「・・・・・」

 俊介に好きと打明けられて、ありさは胸に嬉しさが込み上げて言葉に詰まってしまった。

「君が大好きだ・・・」

 俊介は同じ言葉の前に『大』の字をつけてもう一度囁いた。
 そして優しく抱き寄せた。

「うちも・・・、うちも俊介はんが大好きおすぇ・・・」
「ありさ・・・」

 俊介はありさを抱きしめながら唇を求めた。
 俊介の求めにありさはそっと瞳を閉じて応えた。
 ありさにとって初めて心を許した人に捧げる唇・・・それは甘く切ない味がした。

「ありさ、君がいとおしい・・・」
「あぁ・・・嬉しい・・・、うちも好きどすぇ・・・」

 唇を重ねているうちに、ありさの頬に一筋の涙が流れた。
 その涙は俊介の頬までも濡らした。

「ん?ありさ、どうしたの?」
「ううん・・・何でもおへん。ただ嬉しいだけどす・・・」
「何か辛いことでもあるんじゃないの?僕に話してごらん」
「おおきにぃ・・・うっうっ・・・うううっ・・・」

 ありさは俊介にしがみ付き号泣してしまった。
 俊介は無言で抱きしめながら、ありさの額に頬擦りをした。

「辛いことがあるのなら僕に言ってごらん。話せば少しは楽になるかも知れないよ」
「す、すまんことどすぅ・・・取り乱してしもうて・・・」
「いいんだよ。僕にならいくら甘えたって・・・」

 ありさは涙目で俊介にそっと告げた。

「うち・・・舞妓やめたいんどす・・・、もう毎日が辛うて・・・」
「舞妓さんってほんと大変そうだね。どうしても合わないと思ったら、辞めてしまって別の職を探してみればどうなの?」
「それが無理なんどす・・・」
「どうして?これからの時代は女性も社会に進出していくことになっていくと思う。何も嫌な職業にしがみ付いていることはないと思うんだ」
「ところがそうはいかへんのどす。とゆ~のも、うちが十六で舞妓になってからとゆ~もの、屋形が衣食住からお稽古代、それにお小遣いまで、ごっついお金をうちに出してくれたはるんどす。せやよって、屋形に恩返しせんとあかんのどす・・・それが祇園のしきたりなんどすぅ・・・」
「で、稽古が厳しくて嫌なの?それともお客に酌をしたりするのが嫌なの?」
「いいえ、そうやおへん。お稽古もお客はんへのお酌も別に辛ろうおへん・・・」
「じゃあ、何が辛いの?もし良かったら言って?」
「いいにくいけど・・・」
「・・・」

「俊介はんは、『水揚げ』てご存知やおへんか?」
「言葉は聞いたことがあるけど、具体的にどんなことなのかは・・・」
「『水揚げ』ゆ~たら、芸妓や舞妓が旦那はんをとることなんどす。もっとはっきりゆ~たら、好かんお方であっても、ごっついお金を払ろてくれたはったら、その旦那はんと夜を共にせなあかんのどすぅ・・・」

 俊介はありさの話を聞いて愕然とした。

「『水揚げ』ってそういうことだったんだ。で、現在、ある人に好かれてしまっているんだね?」
「そうなんどす・・・、何でも会社をようけ持った会長はんらしいんやけど、うち、その旦那はん、嫌で嫌でしょうおへんのどす・・・、顔見るたびに辛ろうて、辛ろうて・・・」
「そうだったんだ・・・」
「あ、堪忍しておくれやすな。うち、しょうもない話してもうたわ・・・」
「もしもね?」
「はあ・・・?」
「もしも、舞妓の君を身請けするんだったらどのくらいのお金がいるの?」
「え?身請け!?どのくらいかは知らへんけど、おとろしい(恐ろしい)ほどのお金がいると思いますぅ・・・、せやけどそんなん無理や・・・、俊介はんのその気持ちだけで、うちほんまに嬉しおすぇ~」
「ありさ・・・」
「しゅ、俊介はん・・・」

 俊介はありさを抱き寄せ、そのまま畳に押し倒してしまった。
交す熱いくちづけに、ありさは心が溶けてどこかに流れて行きそうに思った。
 いや、溶ければいい。
 溶けてどこかに行ってしまいたいと・・・。

「ありさ、君を遠くに連れて行きたい・・・」
「嬉しおすぅ~、俊介はんがそう思てくれはるだけでも嬉しおすぇ~」
「ありさ・・・、君を愛してる・・・例えられないほどに君が好きだ・・・」
「俊介は~ん・・・」

 俊介はありさの浴衣の紐を解くと、染みひとつない珠のような白い肌が現れた。
 美しいふたつの隆起・・・俊介はそっと指を滑らせた。

「あぁ・・・俊介はん・・・」

 俊介は隆起を丘の下から上へと優しく撫で上げ、頂きにある桜色のぼんぼりを指で摘まんでみた。
 ビクリと敏感に反応するありさ。
 俊介の唇は細い肩先、白いうなじ、ふくよかな乳房、そして脇腹へと這い回る。
 ありさの肌はほんのりと赤みが差し始めている。
 ありさは瞳を閉じて、愛される歓びをそっと噛み締めた。

 俊介は再び唇を重ねた。
 舌がつるりと滑り込みありさの舌と絡み合う。
 求め合う唇と唇、求め合う身体と身体、求め合う心と心・・・。
 俊介の指先は浴衣の裾を割って、太股を撫で上げる。

「あぁ・・・俊介はん・・・」

 指は太股から脚の付根附近まで伸びる。

「あああぁ・・・」

 ありさの消え入りそうな切ない声が、俊介の昂ぶりに一層拍車を掛ける。
 付根附近を撫でていた指が、一気に丘に駆け上がる。
 小高い丘には薄い目の若草が繁り、拓哉の指がゆっくりと旋回する。
 指は数度旋回して、丘の裾野へ進んで行く。

「ああっ!」

 裾野には小川が流れ、水嵩がすでに増していた。
(クチュ・・・)

「あああ・・・俊介はん・・・嬉しおすぅ・・・」
「ありさ、君が愛しい・・・」
「ああん・・・俊介はんにそこいろてもうて嬉しおすぅ・・・」
「ありさ・・・」

 川の土手から水流の真ん中に指は埋没してしまった。
 そして川の流れに沿って擦りあげる。

(クニュクニュクニュ・・・)

「あんあん~、ああん、ああっ、た、俊介はん、気持ちようおすえ~」
「ああ、ありさ・・・、僕は、僕は君が欲しい・・・」

 俊介はそう言いながら、浴衣の裾を大きく開いて、ありさの脚を折り曲げた。
 そして間髪入れず一突き!

(ズニュ~!)

「あああっ!」

 俊介はありさの脚をしっかりと抱えあげ、海老のような格好にさせて激しく突き上げた。
 ありさの清流にはすでにおびただしいほどの水が満ち溢れ、俊介の怒張したものを容易に奥まで受入れた。

(グッチョグッチョグッチョ・・・)

 下宿の昼下がり、子供たちもどこかに行ったようで恐ろしいほどに静まり返っていた。
 そんな中で聞こえる音と言えば、ふたりの愛が重なり合う時に発する水音だけであった。

「うふふ、ありさ、すごくいい音が聞こえて来るね」
「ああん・・・そんなこと言わはったら、うち恥ずかしおすぇ・・・」
(グッチョングッチョングッチョン・・・)

 俊介は往復運動をいったん止めて、ありさを起こした。
 ありさは俊介との結合をそのままにして、両手を引かれゆっくりと起き上がる。
 俊介はありさを膝の上に乗せたまま、ありさの首筋に手を廻し、そっとくちづけを交した。
 そして俊介の手はありさの臀部をしっかりと抱えて、腰を激しく突き上げた。

「いやぁ~ん、あんあん~、俊介はんがふこう入って来はるっ~」

 この時、俊介はかなりの昂ぶりをみせていたため、天井を向いてそそり立つほどに硬く、そして大きく膨らんでいた。
 そんな俊介の興奮がありさにも肌を通して伝わったのだろう、ありさは堪らなくなって泣き叫んでいた。

(ズッコンズッコンズッコン・・・)

 俊介の強靭な腰は疲れることを知らなかったが、かなり限界に近づいていた。
 ありさも同様に絶頂が訪れようとしていた。

 水揚げ以降数度に渡る丸岩との契りでは、味わえなかった真の女の歓び・・・
 ありさは俊介と巡り合って、ついに知り初めたのであった。

「あっ、あっ、あっ、俊介はん、何か変や~、何か変や~、身体が、身体がぁ~、あああっ!いやあ~~~!!」
「うっ、うぐっ!うぉ~~~~~!!」

 ありさは俊介に抱かれて、初めて愛すること愛されることを知り、感激のあまりむせび泣き濡れた。
 ふたりはともに果てた後も離れることもなくずっと抱合っていた。

「俊介はん、また会うてくれはるんどすかぁ・・・」
「もちろんだよ」
「嬉しおすぅ~、ほな次の日曜日にまた・・・」
「うん、いいよ。次の日曜日、どこかに遊びに行こう。じゃあ、また連絡をするから」





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