Shyrock作







第7話

 恥かしい箇所の診察を入念に受けたありさは、恐る恐る女医に尋ねた。

「先生、どうですか?」
「大丈夫ですよ。妊娠してませんよ」
「妊娠してないって……あのぅ、つまり中に精液が残っていると言うことですか?」
「はい、残っていましたよ」
「え~~~っ!?」
「どうしてそんなに驚くのですか?避妊しないで性交渉を行なえば膣内に精液が残っていても不思議ではありません。それともちゃんと避妊したのにとでも言うことですか?」
「いいえ……あのぅ……先生…私、男性と……そんなことしていないんです……」
「どういうこと!?私をからかっているのですか。性交渉を行なっていなければ妊娠するはずがないじゃないですか。精液が残っているのに、性交渉していないだなんて冗談はよしてください!」

 つい先程まで柔和な態度でありさに接していた女医であったが、突如顔を強張らせ言葉を荒げた。
 医師の立場からすれば当然であろう。人工授精は例外として、まるで聖母マリアの処女受胎のように、性交もしていないのに妊娠するなんてことは医学的な見地からは考えられなかった。
 ありさは真剣な表情で女医に訴えた。

「信じてもらえないかも知れませんが、間違いなく男性には手すら握られていないんです。と言うか相手は人間じゃないんです……」
「ふざけるのもいい加減にしてください。人間ではなく動物とでも性交渉をしたと言うのですか?」
「いいえ、違います…幽霊なんです……」
「ゆ、幽霊!?そんなことって……!!」

 女医は言葉を失ってしまった。
 顔面蒼白となり唇がこわばっている。
 目前の女子高生が真顔で幽霊と交わったと言うのだから、驚くのも無理はなかった。
 女医はやがて冷静さを取り戻し、しっかりとした口調でありさに語りかけた。

「野々宮ありささん、よく聞いてください。精液は紛れもなく人間のものです。ただ……」
「ただ……?」
「精液の主成分はタンパク質でできているのですが、不思議なことにあなたの体内から検出されたものはタンパク質がほとんど破壊されていました……」
「えっ?タンパク質が破壊ってどう言うことですか?」

 ありさの付き添いで訪れていた美枝が女医に尋ねた。

「大変言いにくいことなのですが……端的に言ってまるで亡くなった男性の精液を検出した時のようなんです」
「ええ~~~っ!!」

 ありさと美枝は女医の言葉に思わず絶句してしまった。

「死者の精液ですか……」
「はい、調べた限りではそう言うことになりますね」
「ってことはやっぱり……」
「うん……」

 ありさと美枝は顔を見合わせて小さくうなずいた。
 女医は言葉を続けた。

「医師としては科学的根拠のないものは否定せざるを得ない立場にあるのですが、かと言ってあなた達のおっしゃることが作り話とは思えません。もう少し詳しく話を聞かせてもらえますか?」

 ありさは女医に昨日学校で起こった恐怖の出来事を詳しく語った。

「そんな目に遭われたのですか…あぁ、何と恐ろしい……聞いていて身の毛がよだちました。力になれるかどうか分かりませんが、相談があればいつでも来てくださいね」
「先生、どうもありがとうございました」

 ◇ ◇ ◇

 その2日後、ありさは母親と美枝とともにある祈祷師を訪れていた。
 その人物は凄いパワーを持つ正統派霊能者として有名で、しばしばマスコミにも取り上げられていた。

 除霊には2時間ほど要したが、無事に終了した。

「野々宮ありささん、もう大丈夫ですよ。あなたの背中に大変性質の悪い悪霊が憑いていましたが、完全に追い払いました。もう心配いりませんよ」
「どうもありがとうございました」
「ありさ、今回のことは悪い夢を見たと思って早く忘れてね」
「はい、お母さん、そうするわ」

 帰り道ありさたちは安堵の表情を浮かべていた。
 やがて交差点に差し掛かり、美枝はありさ母子に手を振った。

「じゃあ、ありさ、また明日ね~。おばさん、それじゃ失礼します~」
「美枝ちゃん、今日は私たちに付き合ってくれてありがとう。また家に遊びに来てね」
「ありがとうございます。近いうちおじゃましますね~」
「美枝、それじゃバイバイ!色々とありがとう~」
「じゃあね」

 ありさたちと別れた後、美枝自身もホッとしたのか、大きな息を吐き家路へと急いだ。

「お母さん、ただいま~」
「お帰り、美枝」
「う~~~っ!トイレ!トイレ!もう限界だわ!ずっと我慢してたから、もうちびりそう~~~!」
「まあ、帰るなり何よ。全く行儀の悪い子なんだから」
「急げ!急げ!ちびる!ちびる!」

 美枝は脱いだ靴を揃えることもせずに、猛ダッシュで廊下を駆けトイレに飛び込んだ。

(ジョワ~~~……)

「ふう~…溜まってたぁ~……。ほっ…なんか私までありさみたいにトイレを我慢する癖がついてしまってたよ。でも、ありさ、良かったな~。もうこれで安心だな~」

 そんなことをつぶやきながら用を済ませた美枝は、トイレットペーパーホルダーに手を伸ばした。
 その瞬間、美枝は股間に異様な気配を感じた。

(うそっ?だれ…?だれなの!?私のお尻を拭いているのは……きゃぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!)





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