第2話
ボックス内は清掃がよく行き届いていて、臭気もなくとても清潔だ。
それに彼女たちが怯えるようなものは、何も見当たらない。
ありさのボックスの前で、美枝は2個のカバンを大事そうに抱えながら、何やらそわそわと落ち着きがない様子であった。
ボックス内にありさがいることは分かってはいるのだが、一人残されたような気がして不安にさいなまれた。
(ありさ、大丈夫かな……?)
ありさはスカートをまくりあげパンティを下ろし、和式便器に屈み込んだ。
新築棟の便器は全て洋式化されたが、ありさたちのいる旧棟の便所は従来のまま和式便器であった。
かなり我慢していたようだ。
膀胱に貯まっていたものが一気に噴出する。
待っている時間というものはすごく長く感じる。
美枝は居たたまれなくなって ボックス内にいるありさに声をかけた。
「ねえ、ありさ、まだぁ?」
「もう~、そんなに急がさないでよ~。おしっここぼしちゃうじゃん」
「ごめんね。でも何か心配で……」
「大丈夫、大丈夫、な~んにも出てこないよ~」
「それならいいんだけど……」
「あんなの噂だって」
「そうだよねえ」
ふつう用便中に声を掛けられるのは気分の悪いものだが、この場合は逆だった。
と言うのも、一見気丈夫そうに振舞っているありさだったが、内心はドキドキで恐怖に包まれ震えおののいていた。
ありさは美枝の声が聞こえてきた時、一瞬安堵のため息をついていた。
貯まっていた液体がすっかり放出され、ありさはトイレットペーパーのロールに手を伸ばした。
(カシャカシャカシャ……)
数回回転させ少し長めに紙を巻き取る。
(あ~あ、おなかが空いたな~。帰りに美枝と肉まんでも食べて帰ろうかな?)
空腹を感じたありさは、帰りの寄り道先を考えていた。
つかんでいたトイレットペーパーを股間に持って行き拭こうとした瞬間、ふと股間に違和感を感じた。
「えっ……!?」
今排泄を完了したばかりの尿道口を、柔らかな『紙の感触』が襲ったのだ。
ありさが自身がホルダーから巻き取ったトイレットペーパーは、手の中に収まったままでまだ使っていない。
『紙の感触』は亀裂の中心線をゆっくりと前後に往復した。
「う、うそ……私はまだ拭いてないのに……だ、だれなの…?私の大事な所を拭いているのは一体だれ……?」
背筋が凍りつくほどの恐怖感がありさを襲った。
やっぱりあの噂は作り話ではなかったのか。
(あわわわ………………)
ありさはありったけの声を張り上げ、ドアの向こう側にいる美枝を呼ぼうとした。
(きゃあああああ~~~~~~~~~!!)
声を出そうとしても、声が出ないのだ。
(うそっ!どうして!?どうして声が出ないの!?)
とにかく気味の悪い『紙の感触』から離れなくては、と思ったありさは直ぐに立ち上がろうとした。
ところが膝が痺れてしまったのか感覚がなく、まるで金縛りに遭った時のように身体が動かないのだ。
(えっ…そんなぁ……どうして…!?どうして身体が動かないの?なぜ!?)
誰かが股間に紙を忍ばせ拭いてくれている。
冗談じゃない!
ありさはしゃがみ込んだまま、股間のおぞましい感触から逃れようと、身を逸らそうとするが動かない、そして叫んでみるが声が出ない。
(美枝!美枝!助けて~~~~~!!)
◇ ◇ ◇
ドアの外では美枝が、用を済ませたありさが出てくるのを今か今かと待ち侘びていた。
「ありさ、遅いなあ。おしっこだけで何でこんなに時間がかかるんだろう。あっ、もしかして、ついでに大もしてるのかな?」
外から頻繁に声を掛けるのも悪いと思った美枝は、我慢をして待っていた。
◇ ◇ ◇
(ひぃ~~~っ!!お願い、もう拭くのはやめてよ~~~!!気持ち悪いよぉ~~~!!)
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