第5話「枕営業」
塩原主任と中路の調教を受けながら池浦に気持ちが揺れ動くありさ。
先日の池浦の告白に、前途にかすかな光明を見いだした思いはしたが、相も変わらず奴隷調教を受け続けていた。
過去3人の性経験しかなかったありさだったが、塩原主任、中路、池浦と一気に6人に増えていた。
塩原主任や中路たちはありさに対して恋愛感情はなかったものの、ありさの魅力的な肉体にどっぽりと填まっている様子であった。
車野部長とは彼が業務多忙と言うこともあり1か月に1回ぐらいと逢瀬も減り、塩原主任と中路による調教は週3回ぐらいの頻度で行われていた。
その後、ありさは塩原主任と中路の呼び出しに応えず、池浦と数回会った。
映画館の一件は少々異常な出来事であったが、それ以降池浦のデート時の対応はいたって紳士的なものであった。
強引にセックスを求めてくることもなく、ほっとするような安堵の情が胸を浸した。
ある日、勤務時間中に塩原主任から呼び出しの連絡があった。
「今日、取引先の大事な接待があるから野々宮さんも来なさい。大事な接待だからな……分かってるな」
と強い口調で念を押してきた。
いつも奴隷扱いされているありさは、塩原主任の意図がすぐに読みとれた。
(たぶん私を枕営業に利用しようとしているんだわ……)
塩原主任に同行してWホテルのロビーに向かった。
ありさとしてはいつも電話での対応しかなく今回初対面となる取引先の担当者二人が待っていた。
一人は七ツ森課長48才で、もう一人が山岡係長35才といった。
事前に予約をしていた会席料理店で商談が始まった。
話の主旨は、不景気により相手方の経営状況が悪化しており、そのため黒岡物流との取引を縮小したいという厳しいものであった。
塩原主任何度も頭を下げ現状維持を懇願したが、担当者は首を縦に振ることはなく話し合いは一向に進展がみられなかった。
「次回はもう一度上司からお願いをさせていただきますが、本日は私からのささやかな気持ちということで、どうぞお楽しみください……」
と言うと、いきなり背後から抱きかかえスカートをまくりあげた。
「分かっているよな……?」
耳元でささやくとありさに冷ややかな視線を送る。
黙ってうなづくしかないありさ。
会社のことなので車野部長にも影響すると考えたありさは、いつもとは違った想いで塩原主任に従った。
塩原主任からありさにWホテルの部屋の鍵をそっと渡される。
まるでバトンを受け取った陸上走者のように、ありさはゴールに向けて走るよりほかはなかった。
担当者に酒をすすめながら熱心に営業をかける。
「どうかお願いします。取引を続けさせてもらえませんか……」
担当者の二人は興味深げにありさを見つめている。
そしておもむろに語りかけてきた。
「そこまでおっしゃるのであれば、場所を変えて話がしたいですね」
塩原主任が静かにうなずく。
ありさから返事をしなさいという無言の合図だ。
「部屋をとってあるんです。そこでお話をさせていただけませんか?」
ありさが鍵をちらりと見せながら担当者に切り出した。
「はい、分かりました」
塩原主任は申し訳なさそうにありさに小声で詫びた。
「ごめんな。こんなことを頼めるのは野々宮さんしかいないんだ。うまくいったら解放するからがんばってくれ……」
解放されるなら……という言葉に一縷の望みを託すありさであった。
◇◇◇
ありさが二人の担当者を部屋に案内すると、二人はすぐにベッドに誘い両サイドから抱きしめてきた。
そして性急に脱がしにかかる。
早く抱きたくて仕方がないのだろう。
「あっ、すみません。ちょっとだけ待ってください」
ベッドの前に立ってちゃんと挨拶をするありさ。
「いつも電話でしかお話をしたことがありませんけど、今夜初めてお目にかかります。私にできることは何でもしますから、取引の件、よろしくお願いします……」
ありさの几帳面さに二人は驚きの色を示した。
「あの野々宮さんがこんなことまでするとは……。君はうちの会社でかなりの評判だよ、すごく感じのよい女性だと。まさかこんなにきれいな人だとはびっくりしたよ」
「ほかの野々宮さんファンにばれたら羨ましがられるよ。もちろん言わないけど」
少し会話をしたあと、ありさがシャワーを浴びたいと告げたが、二人はそれを拒んだ。
二人の前でブラウスを脱ぎ始めるありさ。
食い入るように見つめている。
ありさの耳にごくりと生唾を飲みこむ音が聞こえてきた。