第1話「二匹の悪魔」
ありさは黒岡物流第一営業部に勤務するOLである。
現在、社内の車野部長と不倫をしている。
二年前、大学を卒業後内定を取り消されて、懸命に探した就職先で当時面接担当していたのが車野部長であった。
就職してからすぐにありさの歓迎会が開催されたが、断り切れず酒にグイグイ飲んだありさは泥酔してしまい、同じ方向の車野部長がタクシーで送ることになった。
車野部長がありさを部屋まで運びこむと、送り狼よろしく勢いでそのまま覆いかぶさってしまい深い関係になってしまった。
意識朦朧とはしていたが、採用してくれた感謝の気持ちもあって、そのまま抵抗することもなく車野部長の行為を素直に受け入れてしまった。
その後も関係がつづき、良くないとは分かっていても次第に惹かれていくありさ。
誰もいない会議室で車野部長とキスをしたり、残業で二人だけが残ったときは警備員の巡回のない時間帯に性行為に至ることもあった。
会うことのできない休日も車野部長を思い浮かべ自身を慰めることもあった。
二年目の忘年会で温泉旅行に行くことになった。
宴会が終わり温泉で身体を温めてから、大胆にもこっそり車野部長の宿泊部屋に忍び込み愛を確かめ合った。
ありさは周囲を警戒しながら車野部長の部屋に入ったつもりであったが、彼女の行動をじっと観察している鋭い視線があった。
◇◇◇
年か明け、日本橋にあるすき焼き専門店で新年会をしたが、あいにく車野部長は大阪に出張中で新年会には参加できなかった。
宴もたけなわの頃、ありさの隣に塩原主任と上司の中路がやってきた。
「野々宮さん、どうだね? 飲んでるか?」
塩原主任がありさにビールをつぎながら耳元でぼそってささやいた。
「野々宮さんって大胆だよね。車野部長、奥さんいるの知ってるんでしょ?」
ありさは愕然とし思わず言葉を失ってしまった。
(この人たち、私と車野部長との関係を知っているんだ……)
「うちの会社、不倫やスキャンダルに敏感なの知ってるでしょ? 就業規則にも『社内不倫は禁止とする、違反した場合は懲戒解雇処分とする』と書いてあったと思うんだけどなあ。こんなことを社長や重役に知られたら車野部長はクビかもしれないね?」
ありさはどのように返事をすればよいのか分からなくて、ただ震えるばかりであった。
「……私、会社辞めますから……、車野部長のことは黙っててください……」
私の言葉を想定していたかのように塩原主任が切り込んできた。
「辞めても不倫していた事実は変わんないんだよね? 社長に言っちゃおうかな?」
隣に座っている中路が脅迫まがいの言葉をささやく。
「塩原主任と俺しか知らないことなんだから……、口止め料いるでしょ? 普通?」
まだ貯金がわずかしかないありさとしては途方に暮れてしまった。
「私、まだそんなに貯金貯まっていないんです……」
「新年会のあと付き合ってあげてもいいよ? っていうか断れないよね?」
と追い打ちをかける中路。
車野部長以外に過去二人しか経験のないありさであったが、彼らの思惑は容易に想像できた。
ありさとしては諦めるより方法がなかった。
「付き合いますから……、内緒にしてくれますよね……?」
塩原主任と中路はニヤリと微笑むと、
「野々宮さんが素直にそう言ってくれるなら内緒にしてもいいけど、分かっているよね?」
ありさは黙ってうなずいた。
◇◇◇
新年会が終わるとすぐに塩原主任と中路とともにありさはタクシーに乗り込んだ。
向かったのは中路のマンションであった。
エレベーターの中で意味ありげな言葉をささやく中路。
「野々宮さん、黙っててほしいんだったら、いろんなサービスしてくれるよね?」
その直後、中路がありさの背後から抱きしめると、歩調を合わせるように塩原主任がありさのスカートをまくりあげてきた。
「やめてください! いっしょに着いてきたんだから、こんなところでやめてください!」
とありさが叫ぶと、塩原主任がすごみ始めた。
「そういう態度するんだね? じゃあやめてもいいけど」
突き放すような冷ややかな言葉にありさは車野部長のことを思い出すと抵抗するのをやめるしかなかった。
エレベーターは最初7階を押していたが、すぐに最上階の10階のボタンが押された。
「野々宮さんの気持ちを確かめたいから10階まで行こうか?」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた塩原主任がスカートをまくりあげたまま10階に到着した。
エレベーターを降りると屋上へと繋がる階段が見えた。
もちろん屋上に出る扉は閉まっている。
「ちょっと野々宮さん、ここで全部脱いでよ? 俺たちに付き合う気持ちがあるか確かめたいからさ」
塩原主任がその場で全裸になるよう指示をした。
ありさが黙ってうつむいていると、「付き合う気がないならもう帰っていいよ?」と突き放すような言葉を浴びせた。
(この人たち車野部長のことを言うつもりだわ……)
ありさは観念して、ブラウス、スカート、キャミソール、ストッキング、ショーツと順番に脱いでいく。
見えないよう手で隠しながら脱いだが、二人の視線は胸と股間に集中している。
中路がありさの背後にまわって両足を抱えあげM字の格好にさせると、塩原主任が秘所に顔を近づけた。
「いや……見ないで……」
「野々宮さんってそんなに遊んでないでしょ? まだピンク色してるよね?」