第3話「邪悪な送別会」
ついこの前までなら、ありさに一喝されただけですぐに意気消沈していた男が、今は逆に凄みのある声でありさに威嚇してくる。
男が掴まれたむなぐらを振り払うと同時に、背後から別の男がありさを羽交い絞めにしてしまった。
しかし、ありさはかかとで男の足を踏みつけ、注意をひきつけると、首の後ろで組んでいる男の両手の親指を掴んだ。
右手で相手の右親指、左手で相手の左親指を掴むと、外に捻った。
「いててててっ!」
さらにありさが全体重をかけながら引くと、親指の関節が極まって男は手を離さざるを得なくなった。
男の手が離れると、ありさはそのまま身体をひねり、肘を相手の頭部に叩き込んだ。
「ひぃ~~~!」
今度は3人の男が一気に襲いかかりありさの動きを封じてしまった。
男3人に押さえつけられては、体重の軽いありさとしては動きが取れなくなってしまった。
これでは得意の拳法も使えない。
「放せ~! 放さないと承知しないよ~!」
ありさが男たちを睨みつける。
「ふん、威張るんじゃねえよ、このアマが~!」
その時、突然衣を引き裂く音がした。
ありさを押さえつけていた男とは別の男が隙を突いて、ありさがその日着ていた紺色のカットソーの裾からナイフをこじ入れ上に向かって切り裂いてしまったのだ。
「きゃぁ~~~!」
カットソーは見るも無残に切り裂かれ、裂けめからふくよかな乳房がポロンと飛び出した。
それはまるでたわわに実った二つの果実が弾けるように。
その瞬間、男たちの野卑な歓声が飛び交う。
「おおっ! ありさ様のオッパイって意外にもでっけえじゃねえか!」
「こりゃたまらねえ! 早く揉ませてくれよ~!」
「何なら俺が吸ってやってもいいんだぜ」
男たちは思い思いにあらん限りのゲスな台詞を並べ立てる。
ありさはリーダーを睨みつけ激しく抗議した。
「リーダー、いったい私をどうするつもりなの? こんなつまらない送別会なら遠慮しとくわ!」
「ふふ、まあそう言うなって。いくらおまえでも、まさかすんなりと『ブルースネイク』を脱会できるなんて思ってねえだろう? バイトを辞めるのとは訳が違うんだぜ。もちろんおまえが今まで組織に尽くしてきた功績を考えて、あまり酷いことをする気はねえけどよ。でもさ、会には会の掟ってものがあるんだよ。ただで帰したんじゃ皆に示しがつかないんだよな~」
リーダーは言葉をつづけた。
「で、考えたんだが、ここはリンチなしの穏やかな方法で送別会をしてやろうと思ったってわけだ。ありさ、おまえ自身も感づいていると思うが、男たちの中には『ありさ命』ってぐらいおまえにぞっこん惚れているヤツも結構いるんだよなあ。そんな男たちにせめて最後ぐらいはいい思いをさせてやってくれないかな~? ふふふ……おつむの良いおまえなら、どうすりゃよいかすぐに分かると思うんだけどな~。どうだい? ありさ様よ」
「くっ、ゲス野郎が……」
「ふふふ、どうするかはおまえ次第だ。ただし俺の穏便な提案を断った場合は、それなりに落とし前をつけさせてもらうことになるので覚悟をしろよ。その白桃のような形の良いオッパイをナイフで切り裂かれても一切文句は言うなよ。いいな……」
ありさは恨みのこもった目でリーダーを見据え、言葉を吐き捨てた。
「ふん、見損なったよ! このエロリーダーが!!」
周囲にいたサブリーダーがすぐに反応する。
「ありさ!! てめえ、リーダーに向かって何て口の利き方をしやがる!!」
ありさに殴りかかろうとするサブリーダーを、リーダーが無言で制した。