Hトークフレンド泰子

Shyrock作





たまに会ってお茶をしたり、お酒を飲んだり、話は過激なHトーク。
そんな女友達を僕は『Hトークフレンド』と呼んでいる。
間違ってもHフレンドではない。

泰子、通称ヤッチャンという女性がいる。
眼光鋭く、シャープな顔立ち、髪はショートで十代の頃はヤンキーだったらしい。
服は原色が好みでちょっと派手目のお姉さんって感じ。
一昔前の相川七瀬さんにちょっと似ている。

もう昨年の初夏以来会っていない。
そんな彼女から久しぶりに電話があった。
彼氏とはうまく行っているらしい。とてもいいことだ。
彼女とはスレスレのところまで行ったことはあるが、それでも断じて一線は越えていない。
とても話が合うので、話していて肩が凝らない。
あるバーのカウンターで、かなり過激な話に発展した時、向かい側にいた若いバーテンさんが聞き耳を立てていたようで、他のバーテンさんから声を掛けられても上の空だった。
話はこんな調子だった。

「……という訳で僕はその時、まるで野獣のように後ろから襲い掛かったんだ。ん?ヤッチャン、もしかしてもう濡れて来たんじゃない?」
「どうして知ってるの!?もうビッショリ!」
「じゃあ確認してあげようか?」
「いいよ、遠慮しとくよ。後でトイレで確認しておくわ」

と、こんな調子。
こんな話をする男女なら、誰が聞いたって「デキテイル」カップルと観るだろう。
聞き耳を立てているバーテンさんも例外でなく。
でも彼女とは仕事関連で出会って以降、7年間お茶も食事もするがそれ以上には全く進展しない。
っていうか進展させようという気持ちが二人ともないのだ。
それは互いを尊重し、あくまで友達の域を超えないと言う暗黙の了解があるからこそ、さっぱりとした付合いが続けられるのだと思う。
彼女は彼氏とのHシーンを赤裸々に平気で語る。
僕もそれを茶化すことなく真面目に聞く。
Hの技術論から精神論に至るまで話は発展する。
僕は意見があれば率直に述べる。
よく男女で友達はないと言う人がいるが、それは違う。
僕は男女の友達を実践している。
今後も互いに恋人としては選ばないだろう。自信をもって言い切れる。
男女でもそんな関係があってもいいんじゃないだろうか。

深夜の1時を廻っても二人の話は尽きない。
もっぱら恋人同士であれば、もっと早い時間にホテルに直行しているだろう。
夜明け前4時頃、バーテンが閉店を告げる。
店内に客はいない。僕たちだけだ。
泰子と夜明け前の冷たい空気を吸いながら、ゆっくりと路地を歩く。
早朝の通勤客からはホテル朝帰りのカップルと映ったかも知れない。

ふたりは交差点で別れた。
次に会う約束を交わすこともなく。






















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