しずか 遅い朝4926

Shyrock作





 朝食の時間と言うより、すでにブランチの時間になってしまっていた。
 日曜日のせいか空気が澄みきっているようだ。
 広い窓からは高層ビル群や、この街のシンボルとも言える城の天守閣を望むことができる。

 しずかは化粧台の前に座ってメイクに余念がない。
 淡いピンク色の短いキャミソールから、同じ色のフルバックショーツが覗いている。
 その光景はとてもエロティックだ。
 すらりと伸びた色白の脚をぴったりと揃えて鏡を覗き込んでいる。
 先に着替えてしまった僕は、しずかのそんな動作をいとおしく感じそっと見守っていた。
 見られていることに気づいたしずかは、はにかみながらこっちを向いてささやいた。

「見ないで……恥ずかしいから……」

(恥ずかしいって?)

 僕は心の中でつぶやいた。
 昨夜あんなに激しく乱れたくせに……朝方だってあんな声を出したくせに……今はすまし顔をしている。
 女と言うものはシチュエーションによってこんなに表情が変わるのか。
 そんなことを考えながら、しずかをしげしげと見つめた。

「そんなに見つめてどうしたの?」
「いや、その……」
「時間が経つのって早いね」
「そうだね。楽しい時間ってすぐに過ぎてしまうね」
「また会ってくれるよね?」
「もちろんだよ」
「嬉しい!気分よくなったし今から水族館に行こうかな?」
「水族館に寄ってたら電車に間に合わないよ。水族館回ってると最低でも2時間は掛かるよ」
「そうなんだ……残念だね。でも次来た時は絶対連れてってね」
「うん、約束するよ」

「あの……」
「なに?」
「今穿いているショーツあげるよ」
「えっ!?本当に?」
「いらない?」
「い、いや、欲しいよ。でもいいの?高いんだろう?」
「高くないよ。私たくさん持っているし」
「ありがとう。じゃあもらっておくね。でも女の子から穿いているショーツもらうのって照れるなあ」
「このショーツを見て、私を思い出してね」
「うん、思い出すとも」
「でも変なことしないでね。あはは」
「いいや、するかもよ」
「あははははは~、かぶるとか?」
「それじゃまるで変態じゃないか」
「私にだけなら変態になってもいいよ」
「うひょ~!」

 しずかは穿いているショーツをさらりと脱いで僕の手のひらに乗せた。
 その後バッグから紺色のショーツを取り出しそそくさと穿いた。

 しずかの化粧と着替えが終った。
 しずかは白い半袖のセーターに、スカートは豹柄のミニ・タイトであった。
 アニマル柄の似合う女だ。
 その上からレザーコートを羽織った。
 その間僕は部屋を見回り忘れ物がないかチェックした。
 チェックが終わると最後に部屋の鍵を持った。
 鍵には『4926』」と部屋番号が刻印されている。
 晩秋の一夜を優しく見守ってくれたこの部屋に心の中で感謝を述べた。

(この部屋で過ごしたこと、いつまでも忘れないからね)

 もう一度49階の窓辺で熱いくちづけを交し、真っ青に晴れ渡った空を見つめた。






















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