以前の渋谷マルイ



仕事の都合でたまに東京へ出張することがある。
わずか数年でも暮らした街には愛着がある。

打ち合わせを終えてから、親しい友人と渋谷で待ち合わせをした。
相変わらずパワーが漲るすごい街だ。
昔も今も若者文化の発信地であり、美術館、ライブハウス、クラブの集まる芸術・音楽の街だ。
その一方、花街として発展した歴史を持ち今でも高級料亭が建ち並んでおり、古い日本の面影を残す古風な一面も兼ね備えている。

友人と食事をするため、渋谷マルイ(今はMODIに変わってる)の東側の坂道を登って行った。
友人が美味しいパスタの店に連れて行きたいらしい。

そして入った店は……
何と!
僕が東京で暮らしてたときに、何度か訪れた店だった。
薄い生地のピッツァの味と食感と実によくとても印象的な店だ。
店内はカンツォーネが流れ、陽気で明るい雰囲気のなか存分にイタリア気分を堪能できる。
それにしても何と言う偶然だろうか。
こんな大きな街の無数にある飲食店の中で、友人が「ここ、すごく美味しいよ!」と案内してくれた店が、まさか当時付合ってた女性とよく行った店とは。
こんなことってあるんだなあ……と思わず感慨に耽ってしまった。

僕の異常なほどの感動を察したのか、友人は「ん?もしかしてこの店来たことあるの?」
僕は「うん、来たことがあるかもね……」とさらりと答えた。
「ねえ、誰と来たの?大阪のあなたが知ってるなんて驚きなんだけど」
とツッコミを入れられたが、あまり話したくなかったので何とか話題を逸らしごまかした。

友人の目の前で悪いのだが(今頃どうしているのだろう……)と、考えてしまった。
この日は最終の新幹線で帰ることにしていたので、友人とは渋谷で別れ、ひとり東京駅に向かった。

帰りの新幹線の車窓から外の夜景を眺めながら、当時のことを思い出していた。
もう結婚したかも知れないなあ。
幸せになってるかなあ。
恋心などとっくに消え失せ未練はないが、やはりその後の消息は気になるものだ。
たとえ過去のことであっても自分が一度でも愛した女性はやはり幸せになって欲しいものだ。

車窓の風景の中で微笑む彼女の顔が浮かんでは消えていった。
ぼんやりしていたら、まもなく途中の名古屋駅到着のアナウンスがあった。





















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