ラブホテルの壁の薄さに驚かされた出来事。
壁の厚さって建築基準法施行令で決まっているはずなんだけど、ラブホテルの場合、マンションや商業ビルよりも一般的に壁が薄いところが多いように思う。
ラブホの建物が鉄筋コンクリート造より鉄骨造が多いところから、遮音性に劣るのかも知れない。(そうじゃないラブホさん、ごめんなさい)
目に見えないところに金をかけるより、外観や内装などの衣裳に金をかける方が、商いという観点からすれば良いのだろう。
ある日、当時の彼女奈々子とラブホに入ったときのこと。
二人ともシャワーを浴びベッドにすべり込み、さてこれからという時に、女性の引きつるような声が聞こえて来た。
でもアクメに達した時の声とはどうも違う感じがする。はて……?
奈々子はポツリとつぶやいた。
「ねえ、隣の部屋のことなんか気にしないでよ」
僕も隣のことを気にするよりも、奈々子とのひとときに集中するべきだと頭では分かっていたが、どうも気になる。
さらに追い打ちをかけるように……
(アアア~~出る!出るよ~!)
「んっ!?出るって?男が出すなら分かるけど、女はいったい何を出すのだ……?」
奈々子は即答した。
「女の子が出すものって人によるけど『潮』か、浣腸されたときのアレぐらいかな?」
と神妙に答え、興味が湧いてきたのか壁に耳を当てた。
「うん……絶対まちがいないわ。あれはふつうのエッチの声じゃないよ。ってことは……きゃ~!やだ~!」
奈々子は壁の向こう側の状況を一人想像し一人興奮している。
しかし元々勘の鋭い子なので、勝手な妄想とは言い切れない。
僕も我慢しきれなくなって壁に耳を当ててみた。
声は結構鮮明に聞こえてくる。
奈々子が言う二つのうちの後者だ。間違いない。
女性が浣腸されたあと我慢を強いられているようで、耐えられなくなった女性が泣き叫んでいる様子がうかがえた。
その声は実に悲痛なものだった。
奈々子と一戦を交えるつもりだったが、何だか気が削がれてしまったというか、少しだけ気持ちが萎えてしまった。
奈々子も同様かと思ったが、意外なことを言い出した。
「浣腸って気持ちいいのかな?以前入院したとき一度されたことがあるけど、プレイでしたことは全然ないよ。でも一度やってみたいかも」
僕は唖然とした。
元々奈々子にマゾっ気はなく、手首を縛ることですら抵抗を示す女性だったからである。
強いてアブノーマルなプレイの経験と言えば目隠しプレイくらいのものであった。
そんな彼女がどういう風の吹き回しか、意外なことを口走ったのだ。
隣室のカップルの生々しいプレイが、奈々子のうちに秘められた未知の欲望を目覚めさせたのだろうか。
その日は浣腸プレイのアイテムなど持ち合わせていなかったので、チャレンジすることはなかったが機会はまもなくやってきた。
その次のデート時に、ドラッグストアに寄ってイチジク浣腸を2個購入し早速試すことになった。
しかし僕自身浣腸プレイの愛好者でもなく彼女も同様だったため、わずか1回だけのチャレンジで終わってしまった。
ラブホの壁の向こうから声が丸聞こえと言うことは、こちらの声も聴かれていると言うことになる。
よその女性のよがり声は聞いても、自分の彼女のよがり声を他人に聞かせたくない、僕は何という身勝手な男だろうか。
些細なことではあるが、他人のプライバシーを覗き見したような、ちょっと興味をそそられたそんなラブホでの出来事だった。
終
エッセイ集
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